タグ: 書評

  • 書評|「頭で考えたらモノが動く」はすぐそこにある現実|”The NeuroGeneration” by Tan Le

    書評|「頭で考えたらモノが動く」はすぐそこにある現実|”The NeuroGeneration” by Tan Le

     映画『アベンジャーズ』でロバート・ダウニー・ジュニア扮するトニー・スタークが浮かんでいる画面を手でササっと操作したり、やはり映画『ドクター・ストレンジ』でベネディクト・カンバーバッチが光の魔法陣をバッと手から出して防御したりカッコいいですよね!やってみたいですよね!残念ながら光ってフォトンが何かにぶつからないと出ないから、宙に浮かぶディスプレイや光の魔法陣は今の技術ではできそうにありません。残念!

    しかし、映画『X-MEN』のメインキャラクターの一人で史上最強のテレパスであるプロフェッサーXが使うセレブロのような脳の拡張装置はできてしまうかもしれません。ちなみに、セレブロはスペイン語で「脳」という意味です。

    今回紹介する書籍”The NeuroGeneration”では小型の脳波測定装置を開発するスタートアップEmotivの共同創業者であるタン・リーが様々な最新技術を紹介してくれています。

    タン・リーはまず最初にわかりやすい事例を紹介してくれています。両手、両足が麻痺して動かない四肢麻痺の男性が脳波でF1カーを運転できるようになった事例です。四肢欠損の乙武洋匡さんでも車が運転できるようになる可能性があるということです。論より証拠でYouTubeのビデオを見てもらった方が早いでしょう。

    この本では脳科学を応用した技術的進歩を「ニューロジェネレーション」として7つのケースを紹介しています。全てをここで紹介することはできませんが、面白いと思った一部を紹介します。

    まずは、ブレイン・コンピューター・インターフェイス。F1カーを運転するとか、まさにそうですね。コンピューターのインターフェースは文字のキャラクター・ユーザー・インターフェイス(CUI)から、マウスで操作するグラフィック・ユーザー・インターフェイス(GUI)に。そして、スマホでタッチ・インターフェイスに進化してきました。いま期待されているのはボイス・インターフェイスですが理想とされるのはインターフェイスがない「ノー・インターフェイス」です。おそらく、ノー・インターフェイスに一番近いのがブレイン・コンピューター・インターフェイスです。イーロン・マスクのニューラルリンクも同じコンセプトです。ニューラルリンクの場合は手術で脳に埋め込まないといけないので、ちょっと嫌ですけどね。できれば、プロフェッサーXセレブロのような脳波を使ったウェアラブルでお願いしたい。

    考えていることをコンピューターが理解できるって便利でもありますが、怖いことでもあります。この本でも紹介されていますが、脳波を使った事例としてキャンペーンの多変量テストがあります。タバコのキャンペーンでABCの3種類をテストしました。アンケートではAが一番いいスコアでしたが、脳波が一番反応を示したのはキャンペーンBでした。そして、実際のキャンペーン結果はBが一番良く、Aが一番悪かったそうです。グーグルとかフェイスブックなんて真っ先に飛びつきそうじゃないですか?VRゴーグルのオキュラスとかすごく相性良さそうだけど、自分の脳波がフェイスブックにだだ漏れとかちょっとヤダなあとか。

    また、インプランタブル・デバイスとかも面白そうです。たびたび例に出して恐縮なのですが、四肢欠損の乙武洋匡さんが義手や義足を(自分の手足と同じように)頭で考えて動かせればって思いません?この本で紹介されているアメリカのマーク・ポロックさんは四肢麻痺な上に盲目です。マーク・ポロックさんが使っているのはエクソ・バイオニックという可動式の補助器具です。『エイリアン2』でシガニー・ウィーバーが使ったパワースーツに近いですかね。

    肉体と機械の融合体をサイボーグと言います。例えば『攻殻機動隊』の草薙素子は脳と脊髄の一部を除く全身が人工物なのでサイボーグです。映画『ロボコップ』のロボコップもサイボーグです。脳が人間なので。ちなみに、脳も含めて全てが人工物の場合はアンドロイドやロボットです。わかりやすい例が『ターミネーター』でアーノルド・シュワルツネッガー演じるT-800です。あれはアンドロイド。アンドロイドやロボットの脳は人工知能(AI)ですね。映画『ブレードランナー』に登場するレプリカントはおそらくアンドロイドです。なぜなら原作のタイトルが『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』だからです。

    ブレイン・コンピューター・インターフェースやインプランタブル・デバイスのおかげで、サイボーグはだいぶ現実味が増してきています。そのため、サイボーグ・アーティストのニール・ハービソンとニール・リバスが共同でサイボーグ促進を目的としたサイボーグ基金(サイボーグ・ファウンデーション)を設立したりしています。

    人間の脳を活かしたサイボーグが可能なのであれば、人工知能を活かしたアンドロイドだって可能なんじゃないか?って考えちゃいますよね。タン・リーは人工知能は人間の脳と補完関係になると考えているようです。例えば、人間の脳をサイバースペースにアップロードしたり、さらにアンドロイドの人工知能にそれを埋め込んだり。アニメ『楽園追放』がそれに近い世界ですよね。実態のない電脳パーソナリティが器となる生身の体(マテリアルボディ)にダウンロードして動けるようになる。『エヴァンゲリオン』の綾波レイも同じ仕組みだと推測します。

    もちろん、このような世界はまだまだ先の話。人工知能(AI)がシンギュラリティまで到達した上で、意識とは何か解明する必要があります。

    そのほかにもかなり近いであろう分野もたくさん紹介されています。身体的ドーピングだけでなく、意識のドーピングとか。身体拡張だけでなく、脳拡張です。勉強ができるようになるスマートサプリとかです。

    ケトジェニック・ダイエットKeton-esterなどは元々DARPAと民間のHVMNが開発して民生利用されたニューロ医薬といえるサプリです。ニューロ医薬は薬だけでなく、Mindstrongのようなアプリも含まれるコンセプトでFDAの承認が必要になります。

    この本はどんな人にオススメか

    脳科学や将来のインターフェイスに興味がある人にはオススメです。ボク自身もここまで脳のインターフェイスが進んでいるとは知りませんでした。普通の人が身体拡張や脳拡張に使うのもそれほど遠い将来ではないと思いました。人工知能(AI)の研究も脳科学とのシナジーは大きそうです。

    これは本書でも軽く触れられていますが、脳科学の応用が進むにつれて、規制やモラルの問題も大きくなっていくことが予想されます。プライバシーの問題が脳波にまで及ぶのですから。そして、格差問題もより大きくなることが予想されます。だって、脳の拡張ができるような資産を持っている人は、より高度な仕事ができるようになるわけですよ。しかも、それはそれほど遠い将来ではないかもしれない。

  • 書評|数学者のYouTuberによる楽しい数学|”Humble Pi” by Matt Parker

    書評|数学者のYouTuberによる楽しい数学|”Humble Pi” by Matt Parker

    最近ではYouTuberの影響力が大きくなってきました。テレビではなくYouTubeのチャンネル、音楽だってYouTubeで聴く。YouTuberはエンターテイメントだけではなく、学術の世界にも広がっています。今回紹介する数学をエンターテイメントする”Humble Pi”の作者マット・パーカーもYouTuberです。チャンネル名はスタンドアップ・コメディーと数学者(マスマティシャン)を合わせて『スタンドアップ・マス』

    Humble Pi: A Comedy of Maths Errors

    Humble Pi: A Comedy of Maths Errors

    • 作者:Matt Parker
    • 出版社/メーカー: Allen Lane
    • 発売日: 2019/03/07
    • メディア: ハードカバー

    “Humble Pi”はそんなマット・パーカーの最初の著書となります。テーマは「人を惑わす数字」です。どんな数字に惑わされるのか?人は大きな数字に惑わされやすいのだそうです。例えば100万秒(ミリオン秒)は11日14時間です。10億万秒(ビリオン秒)は31年以上です。ミリオンからビリオンに変わっただけでかなり大きく変化します。これが1兆秒(トリリオン秒)では西暦33700年の未来まで飛んでしまいます。単位はビリオンからトリリオンに変わっただけなのに。

    それは人間は対数的(logarithmic)にモノを考えるからなのだそうです。対数的とはかけ算でモノを考えるということです。しかし、実際の数字は足し算で直線的に増えていきます。この人間の感覚と実際の数字の増え方のギャップは「中間」を測ることで理解できます。中間ってたくさんの定義があるんですよね。平均値と中央値って違いますものね。

    マット・パーカーが例としてあげているのが9の「真ん中」です。足算的に考えれば5ですよね。1234(5)6789です。ところが、3の対数的に考えると3です。3の対数とは3を掛けていくことです。1掛ける3は3です。3掛ける3は9になります。つまり、1(3)9で、3が「真ん中」になります。人間は9のような小さな数字は暗算できるので足算的に考えて5が真ん中だといえます。しかし、これが大きな数字になると暗算できないので無意識に対数的、つまりかけ算的に考えてしまうのです。

    その結果が、ペプシのハリアーキャンペーンの失敗でした。ペプシはポイントを集めれて商品をもらうポイントキャンペーンをやったのですが、そのCMで700万ペプシポイントを集めてハリアー戦闘機をもらおう!とやったのです。まさか、700万ペプシポイント(700万ドル=7000万円以上)を集める人なんていないだろうと思ったんですね。ところが、実際に計算するとハリアー戦闘機の購入価格は700万ペプシポイントより全然高い。2,300万ドルですから2億300万円以上ですね。実際に700万ペプシポイントを集めてハリアー戦闘機を請求する人が出てきて裁判になりました。

    このほかにもUNIXのシステム時間から起因する2038年問題や大きな数字を扱うのにあまり適さないExcelを使ったために大きな損害を出したJPモルガンの例など様々な事例を紹介しています。

    この本はどんな人にオススメか

    雑学が好きな人にはオススメですね。とはいえ、書籍で読むよりはYouTubeで見た方がいいような気がしないでもないです。もともとマット・パーカーはYouTubeなのでネタもYouTubeに向いてると思います。『スタンドアップ・マス』を見て「もっと詳しく!」と思ったら本書を手に取ってもいいかも。

  • 書評|ポール・クルーグマンから保守ゾンビへの宣戦布告|”Arguing with Zombies” by Paul Krugman

    書評|ポール・クルーグマンから保守ゾンビへの宣戦布告|”Arguing with Zombies” by Paul Krugman

    政治的な意味において保守(小さな政府)に対する考え方はリベラル(大きな政府)です。そして、経済的な意味においてリバタリアン(完全自由主義)に対する考え方がプログレッシブ(革新主義)です。政治的な考えは経済的な考えに結び付きます。逆に経済的な考えは政治的な考えに結び付きます。革新的な保守は考えにくいですし、リバタリアンなリベラルも考えにくいです。

    ポール・クルーグマンは政治的な色をなるべく見せない経済学者でした。1980年代の共和党レーガン政権では大統領経済諮問委員会委員など要職を務めました。しかし、その後任のブッシュ大統領には批判的な態度で、徐々に民主党よりの見方を支持するようになりました。ポール・クルーグマン曰く「自分が変わったのではなく、政治が変わった」のだそうです。

    今回の新著”Arguing with Zombies”はニューヨーク・タイムズに長年寄稿しているコラムをまとめたものになります。そして、その論調は保守主義に対して非常に辛辣です、ノーベル経済学賞を受賞した学者と思えないほど。保守主義者を「すでに終わった議論にしがみつくゾンビ」と称してバッサバッサと斬りまくります。いや、ずっと今まで(そしてこれからも)斬りまくっているのか。先週、その真逆のポール・シュワイザーの本を読んだばかりだったので、あまりの違いに思わず笑ってしまいました。この本はコラムをまとめたものですが、過去のコラムを収録することでクルーグマンの主張は全く変わっていないことがわかります。むしろ、アメリカにおける住宅バブルの崩壊など、クルーグマンが当時予見していたことが現実となった現在だからこそ説得力があります。

    Arguing with Zombies: Economics, Politics, and the Fight for a Better Future

    Arguing with Zombies: Economics, Politics, and the Fight for a Better Future

    • 作者:Paul Krugman
    • 出版社/メーカー: W W Norton & Co Inc
    • 発売日: 2020/01/28
    • メディア: ハードカバー
    ゾンビとの論争 経済学、政治、よりよい未来のための戦い

    ゾンビとの論争 経済学、政治、よりよい未来のための戦い

    • 作者:ポール クルーグマン
    • 発売日: 2020/07/16
    • メディア: Kindle版

    アメリカの経済学派は海水派と淡水派に分かれます。海水派は革新主義的(大きな政府=民主党)でカリフォルニア大学バークレー校、イェール大学やハーバード大学など海に面する州にある大学が主に属する学派です。淡水派は新自由主義的(小さな政府=共和党)でシカゴ大学、カーネギーメロン大学やコーネル大学など五大湖の近くにある大学が主に属する派閥です。

    ポール・クルーグマンが「すべての経済の議論は政治的」と言い切るのはこのような背景があります。その上でクルーグマンは賢者の四つのルールを共有します。

    1. カンタンで単純なことについて議論する
    2. カンタンな言葉で簡潔に説明する
    3. 誠実であることに誠実になる
    4. 議論の動機を明確にする

    クルーグマンは経済に関する多くの問題は(単に多くの人がそれを認めたくないだけで)答えがわかっている簡単なものだと言います。そして、誤りを認めたくない人たちはゴールポストを動かすことで誤りを認めません。つまり、誠実な議論をしているふりをしているだけで、言動はとても不誠実です。不誠実であることを認めるべきだとクルーグマンは言います。さらに一部の経済学者はその動機も隠します。彼らは右寄りの富裕層の利益のためにシンクタンクを設立してメディアネットワークを形成します。クルーグマンは自分の立場を明確にすることで、誠実に議論を進めようとします。対立軸を明確にしないのはクルーグマンにとっては不誠実なことなのです。この本のタイトルにもなっている「ゾンビ」は保守主義を盲目的に信じている人たちのことを指しています。減税信者、環境問題を認めない人、保守主義者。いまだにミルトン・フリードマンを信じて富裕層に利益誘導するためだけに緊縮財政と減税を推し進めるポール・ライアンのような人たちです。

    それでは、答えがわかっている簡単な経済の問題とは何でしょうか。まず一つは日本でも共通する年金と医療問題。アメリカの年金制度は破綻していないので民営化する必要がない。国民全員に行き渡るユニバーサルヘルスケアが経済的に最も理想的で、その原資は単一支払者制度が最も経済的に理にかなっているといいます。全員参加だから取捨選別する必要なく、運営が簡素化できるからです。民営ではなく公共で運営した場合、集まった基金の1%しか運営に必要なく、99%のベネフィットが利用者にまわります。これが民営化すると保険会社や投資運営会社の管理手数料が大幅に増えて、利用者が受け取るベネフィットが減ります。民営化されたチリでは運営コストは20倍に増え、サッチャー時代に民営化したイギリスも保険会社が受け取る運営管理費が抗仏紙続けたため、上限を定める法律を作らなければいけなくなりました。民営化して得をするのは保険会社だけだとクルーグマンは言います。

    このほかに、緊縮財政がいかに景気回復の弊害になるか、ユーロの弊害などデータを使ってわかりやすく(辛辣に)教えてくれます。例えば、(特にギリシャの金融危機の後)国の借金が増えるのは悪いとされていますが、それを論理的に説明できる人はいないと批判します。金利がGDPの成長率より低ければ、借金が金利で雪だるまのように増えることはありません。むしろ、雪だるまは溶けていきます。あと、ユーロで貨幣統一したことにより、多くの国が中央銀行を失って独自の貨幣を発行できなくなった弊害は「なるほど!」と思いました。確かに、金利をコントロールできないですものね。そう考えるとビットコインなど暗号化通貨が流通することに多くの国が危機意識を感じる理由が分かります。

    この本はどんな人にオススメか

    できれば、日本の政治家に読んでほしいですね。まあ、あと若い有権者ほど読んでほしいです。

    80年代以降に日本で多少なりとも保守と言える政党って中曽根政権時代と小泉政権時代の自民党くらいじゃないでしょうか。それはWikipediaにある日本の民営化の一覧でもわかります。それでも、大型減税ってやってないので本当に保守とも言えないですが。それでも水道のようなライフラインや年金や医療保険をまだ民営化していないのはある意味で日本人ならではのバランス感覚なのかもしれません。それか、日本人特有の「決められない性格」が功を奏したのかもしれません。

    しかし、明確な対立軸がないのは日本人にとっては不幸な気がします。だって、与党と野党の政策の違いなんて分かんないですよね?ボクが不勉強なだけなのかもしれませんが。自民党はそれほど保守じゃないですからね。民営化しても減税しないし。むしろ減税しろっていうのは野党だし。野党も与党も何をどうしたいのかよくわからないです。アメリカにおける共和党と民主党の違いやイギリスにおける保守党と労働党の違いって外国人のボクから見ても明確なのに。

    きちんとデータをもとに論理的な議論ができるクルーグマンやアビジット・バナジーのような経済学者がいる英語圏の人たちが本当にうらやましいです。おそらく、日本にも優秀な経済学者はたくさんいるでしょうから、もっとわかりやすく経済のことを解説してほしいです。そのうえで、政治家は経済的な立場をはっきりしてほしい。まさにポール・クルーグマンが「賢者の四つのルール」で言うように。そうすれば、ボクたちは投票所に行って選ぶことができるから。

  • 書評|ラガードのためのイノベーション 入門|”The Future is Faster Than You Think” by Peter Diamandis

    書評|ラガードのためのイノベーション 入門|”The Future is Faster Than You Think” by Peter Diamandis

    イノベーター理論はイノベーションがどのように波及していくか説明しています。最初にイノベーターと言われるアンテナの感度がよくって、新しいものにすぐ飛びつく人たちがいて、次にアーリーアダプターに伝播します。そして、最後に渋々受け入れるのがラガードに属する人たち。

    今回紹介する書籍”The Future Is Faster Than You Think”を書いたピーター・ディアマンディスはラガードのためのイノベーションの語り手なんだと思います。アンテナの感度が高い人はむしろ知らないんじゃないかなあ、TED Talkにも出ているにもかかわらず。

    ピーター・ディアマンディスは国際宇宙大学や東京にもチャプターがあるシンギュラリティ大学を設立したり、いろんな企業とコラボレーションして懸賞金付きのコンペを実施するXプライズ財団を運営しています。日本だとANAが一緒にやりましたね。なんか、胡散臭さを感じてしまうのはボクだけでしょうか?まあ、「○○大学」とか「××塾」とか「△△サロン」とか、日本にも売名と集金マシ(ry

    そんな彼の3冊目の書籍がこちらとなります。

    The Future Is Faster Than You Think: How Converging Technologies Are Transforming Business, Industries, and Our Lives (Exponential Technology Series)

    The Future Is Faster Than You Think: How Converging Technologies Are Transforming Business, Industries, and Our Lives (Exponential Technology Series)

    • 作者:Peter H. Diamandis,Steven Kotler
    • 出版社/メーカー: Simon & Schuster
    • 発売日: 2020/01/28
    • メディア: ペーパーバック

    この本は車の自動運転や空飛ぶ車のような移動手段から、人工臓器などなど最近のイノベーションの動向を伝えます。そこそこ感度がいい人ならすでに知ってることばかりですが。

    こういったイノベーションはどうやって生まれるのか?ピーター・ディアマンディスは「コンバージェンス(=複数の事象が一点に集中すること)」がカギだと言います。イノベーション は一つのブレイクスルーだけでなく、複数のブレイクスルーが同時期に発生して起きると言います。あれ?なんか聞いたことありますね。そうです、スティーブン・ジョンソンが言うところの「隣接可能性」ですね。『イノベーション のアイデアを生み出す七つの法則』は2010年にアメリカで出版されているので、10年前にすでに言われていたことですね。

    イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則

    イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則

    • 作者:スティーブン・ジョンソン
    • 出版社/メーカー: 日経BP
    • 発売日: 2013/08/08
    • メディア: 単行本

    第二部では、イノベーションがいかに既存の業界にインパクトを与えているかを解説します。いわゆる「ディスラプション」ですね。流通(Amazon)やエンターテイメント(Netflix)、広告(GoogleやFacebook)などなど。これも、まあ、うーん、いまさら?これがベストセラーになるのも、またアメリカなんだなあ。

    この本はどんな人にオススメか

    イノベーションとかよくわからないけど、社会人の常識程度には知っていたいなあという人にオススメです。Webメディアは普段あまり読まないけど、書籍だったら読む人とか。なんか、2020年1月はワクワクする本があまり出てこなかったなあ。

  • 書評|新自由主義批判に対する保守からの回答―大きな政府は大きな腐敗を生む?|”Profiles in Corruption” by Peter Schweizer

    書評|新自由主義批判に対する保守からの回答―大きな政府は大きな腐敗を生む?|”Profiles in Corruption” by Peter Schweizer

    ピーター・シュワイザーは調査報道記者です。そして、ルネッサンス・テクノロジーズのロバート・マーサーらとともに保守系シンクタンクの政府説明責任研究所を設立した一人です。更に、オルタナ右翼を代表するメディア『ブライトバート・ニュース・ネットワーク』の編集者です。つまり、米国極右言論の親玉の一人です。当然ながらリベラルな民主党には批判的で、クリントン政権の金の流れを批判した『クリントン・キャッシュ』が日本でも出版されています。そして、その姿勢は事実に基づかない偏向報道と批判されることもあります。

    今回紹介する”Profiles in Corruption”はその続編といえるものです。ブライトバートと聞いただけで頭の中で注意警報が鳴ってしまうボクですが、興味本位で恐るおそる読んでみました。ある意味で最近のアメリカにおける二極化(ポーラライゼーション)を代表している人ですから。彼の批判の矛先は民主党なのですが、彼の主張である「保守である共和党がトランプだからリベラルな民主党の腐敗が見逃されていい理由にはならない」には一理あります。日本でだって「安倍政権が腐敗している(と思う)」=「立憲民主党や共産党は腐敗しない(と思う)」とならないのと同じですね。

    Profiles in Corruption: Abuse of Power by America's Progressive Elite

    Profiles in Corruption: Abuse of Power by America’s Progressive Elite

    • 作者:Peter Schweizer
    • 出版社/メーカー: Harper
    • 発売日: 2020/01/21
    • メディア: ハードカバー
    クリントン・キャッシュ

    クリントン・キャッシュ

    • 作者:ピーター・シュヴァイツァー
    • 出版社/メーカー: LUFTメディアコミュニケーション
    • 発売日: 2016/02/10
    • メディア: 単行本

    まず、「リベラル」の定義をしましょう。リベラルは政治的な意味と経済的な意味で大きく異なります。全く反対の意味だったりもします。

    最近は行き過ぎた新自由主義(経済的リベラル)に批判が集まっています。経済的には自由主義がリベラリズムで、その極端な例がリバタリアニズム(政府の干渉ゼロ)です。経済学で言えば新自由主義(経済的リベラル)の代表がミルトン・フリードマンで反対する立場がトマ・ピケティです。これまで紹介してきた書籍だとマリアナ・マッツカートの”Value of Everything”アナンド・ギリダラダスの”Winners Take All”などが新自由主義(経済的リベラル)を批判する立場にあたります。

    新自由主義(経済的リベラル)は政治的には保守です。なぜなら、政治的保守は小さな政府を目指し、民間企業により大きな裁量を与える経済的リベラルだから。小さな政府を目指す保守政党は民営化を進めます。経済的リベラル=政治的保守。経済的保守=政治的リベラル。同じ「リベラル」でも政治的な意味なのか、経済的な意味なのかでその立場は変わるので注意が必要です。アメリカなら共和党、イギリスなら保守党が保守です。実をいうと、日本には真の意味での保守政党は存在しません。自民党ですら世界的に見れば政治的リベラルです。まあ、自民党は英語ではLiberal Democratic Partyで名前にリベラルって入ってますしね。だから、行き過ぎた新自由主義(経済的リベラル)への批判ってピンとこないかもしれません。金融自由化も失敗しちゃいましたし、そこまで行ってないですからね。

    閑話休題

    “Profile in Corruption”はこの最近の傾向である新自由主義の批判(=政治的保守への批判)を政治的腐敗の観点から危険だと警笛を鳴らします。政府が大きくなれば腐敗も大きくなる。ピーター・シュワイザーは政治的リベラル(保守と比べて大きな政府を目指す傾向にある)を二つに分けています。伝統的な政治的リベラルと、革新的な政治的リベラル。そして、今回の批判の矛先は革新的な政治的リベラルに向けられています。政治的な腐敗は人間の問題で、リベラルも保守も関係ないとピーター・シュワイザーも認めています。本書で革新的な政治的リベラルを「プログレッシブ・エリート」として批判の焦点にしているのは、新しい腐敗を代表するクラスだからとしています。まあ、民主党の将来の大統領候補者に焦点が当てられているのは、さすがアメリカの極右を代表するブライトバートです。「トランプへの注目により他の政治家の腐敗への目が向けられていない」という主張は至極真っ当ですが、あまりにもあからさまでしょう(苦笑)

    ピーター・シュワイザーは腐敗を五つのカテゴリーに分けています。これらの仕組みを利用して国民の税金を親族、友人、支持者へ有利に利用するのがピーター・シュワイザーの定義する「腐敗」です。

    1. 利益供与
    2. 個人的な収入の確保
    3. 法律の曲解
    4. 自分に有利な立法
    5. パブリシティ

    今回ターゲットにされているのはカマラ・ハリスジョー・バイデンコリー・ブッカーエリザベス・ウォーレンエイミー・クロブシャー、そしてバーニー・サンダース です。いずれも2020年のアメリカ大統領選候補もしくはそれ以降に大統領候補になるであろう有力者たちです。トップバッターを飾るのはカマラ・ハリスなのですがサンフランシスコ市長だったウィリアム・ブラウンと交際、その力を利用した成り上がり物語はすごいなと思いました。すでに今年の大統領戦からは撤退を表明していますが、次くらいは狙ってくるでしょうね。次がオバマ大統領時代に副大統領を務めたジョー・バイデンなのですが、この人のファミリービジネスもすごい。息子のハンター・バイデンを利用した集金マシンや中国コネクションは確かに露骨なものがあります。

    ピーター・シュワイザーの三段論法は 1) 権力があるところは腐敗するものである、 2) ゆえに、権力が集まる政府は小さいほうがいい、 3) ゆえに大きな政府を目指す共和党はより大きな腐敗を生むです。しかし、政府じゃなくて民間だったら腐敗はなくなる?という疑問も残りますし、そもそも腐敗をなくすにはどうしたらいいか考えているローレンス・レッシグの提案のほうが魅力的です、少なくともボクには。

    内容的にも「ん?これ本当?」と思うこともありますが、調査報道はやっぱり大事なんだなと思いながら読みました。完全に中立な報道ってなくて、観る角度で事実も受け取り方が変わります。極左でも極右でも報道は報道です。問題なのは報道のあり方よりも二極化(=ポラライゼーション)を生み出す仕組みなんでしょうね。リベラルな人はリベラルな情報しか見ないし、保守な人は保守な情報しか見ない。パーソナライゼーションってそういうことですから。二極化の罠から逃れるためには、自ら全く違う意見のなかに飛び込むしかありません。

    この本はどんな人にオススメか

    アメリカの政治に興味がある人はオススメです。2020年1月はアメリカ大統領選の民主党候補者選びの真っ最中。現時点ではジョー・バイデン、バーニー・サンダースとエリザベス・ウォーレンが有力とされています。日本人にはあまり馴染みのない名前ですが、世界的にも影響力のある人たちです。

    そして、「日本の政治は腐ってる!」と絶望している人にもオススメです。大丈夫です、政治が腐っているのは日本だけではありません。政治家が腐っているとか、腐っている人間が政治家になってしまうのではなく、仕組みの問題だと思うんですよね。そういう意味では、政治に絶望した人はローレンス・レッシグの”They Don’t Represent Us”も併せて読んでいただきたいところです。

     

  • 書評|ニューヨークとサンフランシスコの間の「不気味の谷」|”Uncanny Valley” by Anna Wiener

    書評|ニューヨークとサンフランシスコの間の「不気味の谷」|”Uncanny Valley” by Anna Wiener

    オンライン版の雑誌『ニューヨーカー』で記者をやっているアナ・ウェイナーの初著書である”Uncanny Valley”は日本語で「不気味の谷」です。不気味の谷は最近はロボットへの嫌悪感を表す心理現象です。ロボットっぽいロボットには特に嫌悪感は感じないのだけれど、人間に近づくと気持ち悪く感じる。これが「不気味の谷」で。この嫌悪感を超えると再び好感が持てるようになります。

    “Uncanny Valley”はアナ・ウェイナーがニューヨークからシリコンバレーに移り住み、出版業界からスタートアップに転職した際に、自信が様々な「不気味の谷」を超えた経験をまとめたものです。

    Uncanny Valley: A Memoir

    Uncanny Valley: A Memoir

    • 作者:Anna Wiener
    • 出版社/メーカー: McD
    • 発売日: 2020/01/14
    • メディア: ハードカバー

    アナ・ウェイナーはニューヨーク生まれ。大学では文学を学び、出版社に就職します。しかし、出版業界は氷河期。若い労働力は搾取されるのみ。25歳なのにまだお茶汲みやってる。出版業界で成功できるのは資産を受け継いだ人たちだけ。カネもコネもない自分にはどうしようもできない世界。自分自身で独立した大人になりたくて、これまで借金なしで生きてはきたけれど、低い給料で高い生活費。とても持続可能と思えませんでした。そこで、25歳でebookのスタートアップ(たぶん、後にグーグルに買収されたOyster)に転職を決意します。2013年のこと。この本では具体的な会社名は出てきません。フェイスブックは「みんなから嫌われているソーシャルメディア」だし、グーグルは「検索の巨人」だし、マイクロソフトは「コラボレーションツールの複合企業」です。

    この出版業界からスタートアップが最初の「不気味の谷」ですね。大学を出たばかりのスタートアップ 創業者たちからお茶汲みの自分が、出版業界の知識を持っているタレントとして求められていると感じた。新旧の出版業界を結ぶ架け橋として役割も見出しました。しかし、実際には創業者たちは本に興味はなかった。スタートアップの創業者にとって本は起業のネタでしかないですからね。ダメならピボットしないといけない。これがビジネスが成立している大企業とこれから飯の種を見つけなければいけないスタートアップ との大きな差でさり、大企業からスタートアップへ転職する人にとっての「不気味の谷」となります。

    この「不気味の谷」を渡る過程で一種のアイデンティティークライシスに陥ります。アナ・ウェイナーも「本に興味がないなら、なぜ自分を雇ったのか?」と考えてしまいます。ひとつは、女性を雇うのがトレンドでクールだったから?実際には大企業とスタートアップ のメンタリティーの違いです。大企業において仕事は与えられるものです。ちゃんと役割があって、役割をうまくこなすことが求められる。しかし、スタートアップでは仕事は自分で作るもの。そして、その仕事がスタートアップにとって必要だと周りに必要だと認めさせること実行こそが美徳、失敗こそが美徳。

    ボクがマイクロソフトに入った時も仕事ありませんでした。1995年にマイクロソフトはすでにスタートアップとは言えませんでしたが、そのメンタリティーはしっかり残っていました。最初の「仕事」はコンピューターを組み上げて(ネットワークカードってなんだ?)、ネットワークにつないで(当時のWindowsはPPPもTCP/IPをサポートしていませんでしたからね!NetBEUI覚えてる?)、必要なソフトウェア(どこにあるんだ?当時はOutlookもSharepointもないですから!メールはMicrosoft Mail。裏はXENIX – マイクロソフトのUNIXと聞いた。ブラウザすらない!)をインストールすることでした。で、その後に本当の「仕事」は自分で見つけないといけなかった。「何したらいいですか?」「ごめん、忙しいから自分で探して」「??!」。未熟であることは許されるけど、自分で考えて動けないことは許されない。実行こそが美徳、失敗こそが美徳。最近はスタートアップ だけでなく大企業でも”Self Starter”(自走できる人材)が求められますが、スタートアップ では自走できない人は生きていけません。自走できない人が集まると会社が死ぬから。

    閑話休題。

    アナ・ウェイナーはebookスタートアップから解雇されてしまいます。文化に適応できなかった。大きな出版業界でしか経験がないので、スタートアップとの”Culture Fit”が十分ではなかったんですね。では、出版業界にに戻るか?しかし、スタートアップが気に入りはじめていました。出版業界では得られない自由がそこにはありました。そこで、スタートアップのメッカであるシリコンバレーで職探しをします。そして、データアナリティクスのスタートアップ(これはどこかわからない)で働くこととなりました。アナ・ウェイナーも徐々にスタートアップ の流儀がわかってきます。言葉も理解できるようになってきた。

    もちろん、ニューヨーク出身のアナ・ウェイナーがサンフランシスコに溶け込むのはさらに時間がかかりました。センスが全然違うんですよね。良くも悪くもウッディー・アレンってニューヨークっぽさを代表していて、笑いもちょっとインテリなんですよ。ちょっとインテリで、クールな振る舞いが求められる。アナ・ウェイナーの文章もかなりニューヨークっぽいです。西海岸はもっと明るく楽観的な振る舞いが求められる。もちろん、個々の人たちはそれぞれですよ。明るいニューヨーカーもいるし、皮肉屋のサンフランシスコの人もいます。ポイントは「振る舞いが求められる」ってところです。個々は違っても、企業のような集団となれば求められる振る舞いや傾向が出てくる。これがもう一つの「不気味の谷」ですね。

    もう一つは職業の間にある「不気味の谷」。アナ・ウェイナーが「データアナリティックの会社」で得た仕事はカスタマーサポートでした。ソフトウェア企業には見えないカースト制度があります。カスタマーサポートは低い層のカーストに属しています。みんな言わないですが、暗黙の了解としてそうなっています。今でこそ「カスタマーサクセス」は(エンタープライズ向けソフトウェアであれば)重要な仕事として認識されていますが、それも最近のことです。アナ・ウェイナーもスタートアップの人たちが集まるバーで会話をするときに自分の仕事を言うのを少し躊躇してしまいます。ニューヨークとシリコンバレー。出版とテック、女性と男性。創業者と従業員。スーツとギーク。開発者とカスタマーサポート。「不気味の谷」はいろんなところに存在しています。

    この本はどんな人にオススメか

    従業員の視点からスタートアップを知りたい人にはオススメです。創業者の視点も一つのリアルですが、従業員の視点もまたリアルなんです。

    スタートアップ関連の本は創業者や出資者の視点で書かれたものが多いです。しかし、創業者と従業員では視点が全く違います。連邦軍とジオン軍くらい違う。多くのスタートアップ従業員はアムロ・レイでもキャスバル・レム・ダイクンでもないです。ビル・ゲイツでもマーク・ザッカーバーグでもないのと同じ意味で。創業者と従業員の間にも「不気味な谷」があるのです。”Uncanny Valley”は従業員の視点から書かれた本です。そう言う意味では、ジオン軍の視点からゲームができる『ジオニックフロント』に似ています。ガンダムに乗って無双するのがスタートアップじゃないんです。

    また、従業員の視点から様々な事件を眺める形になっているのも面白いです。例えばスノーデン。どこのスタートアップも「ゴッドモード」でいろんなユーザーデータを見ていました。そんなときにスノーデンの事件。「悪い奴らもいるもんだ、ボクらは正義の側」だとうそぶく社員。そして、徐々に「監視」という言葉が使われるようになる。データを扱う会社は監視会社。アナ・ウェイナーはスタートアップにおける男女差別が問題になっていた頃に「オープンソースの会社(=GitHub)」に転職します。女性従業員からみた男女差別や人種差別もなかなか面白かったです。

    GitHubの女性エンジニアがハラスメント(セクハラ、から訂正)に耐えかねて退社 ネットで改善を訴える:海外速報部ログ:オルタナティブ・ブログ

  • 書評|人間と動物の優しい共存のための豆知識|”Animalkind” by Ingrid Newkirk

    書評|人間と動物の優しい共存のための豆知識|”Animalkind” by Ingrid Newkirk

    今回はどうやって紹介したらいいのか、なかなか迷った本です。単純に「動物好きにおすすめの本!」とも言えるし、もっと社会的に「ヴィーガンや動物愛護を理解するための本!」とも言える。更に「文明発展の中における動物の位置づけ!」みたいに大きな括りで読むこともできる。まあ、最終的には読む人に委ねられることだと思いますが。

    “Animalkind”は動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA:People for the Ethical Treatment of Animals)の創立者であるイングリッド・ニューカークの初めての著書です。PETAは動物の権利を推進して動物保護活動をしています。この本は二部構成になっていて、第一部が動物について、第二部が動物と優しく共存することについて書かれています。

    Animalkind: Remarkable Discoveries About Animals and Revolutionary New Ways to Show Them Compassion (English Edition)

    Animalkind: Remarkable Discoveries About Animals and Revolutionary New Ways to Show Them Compassion (English Edition)

    • 作者:Ingrid Newkirk,Gene Stone
    • 出版社/メーカー: Simon & Schuster
    • 発売日: 2020/01/07
    • メディア: Kindle版

    第一部は動物についてわかってきたことを紹介しています。人間は賢いけれど、動物も同じかそれ以上に賢い。ただ、人間と同じ測り方はできない。いきなり地球に降り立った宇宙人とコミュニケーションを試みる映画『メッセージ』なんか観ても思うのですが、自分のモノサシが他人(ましては他の種族)に通じるわけないんだよなと。

    メッセージ (字幕版)

    メッセージ (字幕版)

    • 発売日: 2017/07/21
    • メディア: Prime Video

    人間の尺度の知能テストを動物にやっても意味がない。例えばなのですが、人間が聞き取ることができない周波数があるし、人間が到達できない距離もある。多くの動物は人間ができない能力を持ちます。脳の大きさや、全体の体積における脳の割合も人間が一番ではないそうです。

    人間のモノサシで優劣を決めるのは限界があるけれど、それでも動物ってすごいんだよとイングリッド・ニューカークは様々な豆知識を提供してくれます。例えばなのですが、犬は人間の言葉を単語で200はわかることが研究でわかってきているそうです。また、犬と人間の共生関係は数千年に及び、同じ環境に生きるため、似た病気にもかかる。犬だけでなく、多くの動物は形からシンボルを理解できそうです。例えばバナナの絵が食べ物を表すなど。牛はアイコンタクトでコミュニケーションする。豚は鳴き方でコミュニケーションする。鳴き方がパターン化できるのだそうです。鶏も30種類程度の鳴き方でコミュニケーションすることがわかっている。イルカのコミュニケーションもデニス・ハーシングのTED Talkでも紹介されていますね。

    面白いと思ったのはタコの事例です。タコは肌の色を変えてコミュニケーションするのだそうです。そして、タコは道具を使うこともできるし、迷路を脱出することもできる。ちなみにタコには触手(tentacle)は無いそうです。え?あの8本足は何なの?と思うじゃ無いですか。あれは生物学的には腕なのだそうです。この本の第一部にはこう言った「へー!」と思うような動物に関する豆知識がたくさん紹介されています。

    そして第二部が動物の倫理的扱いを求める人々の会の主張である動物の権利に近い部分となってきます。動物との優しい共存方法についてです。前回紹介したクリストファー・ライアンの”Civilized to Death”で解説されているように、人口が爆発的に増えたのは農業をはじめてからです。これほど人類が増えると、どうしてもいろんなところに歪みが出てきます。人口増加に比例して、人間のために動物を利用する機会が多くなる。その反面、動物を利用せずに人間が生きていくための科学や技術も進歩しました。

    第二部を要約すると「近年は動物に対する理解が大きく進んだ。さらに、科学の進歩で動物を搾取しない代替手段が多く生まれた。だから、文明的に優しく動物と共存しよう」です。動物が搾取されている分野は大きく4つあります。

    科学(動物実験)、ファッション(毛皮など)、エンターテイメント(見せ物としての動物や映画での殺戮)、食料(肉食)です。この四つの中で科学、ファッション、エンターテイメントは(完璧では無いにしても)進歩が見られる分野です。特にファッションとエンターテイメントはB2Cだから顧客の見る目も厳しくなってきていますしね。

    おそらく、一番ホットな議論が食料でしょう。日本でも一部のヴィーガンの過激な行動が批判の対象になっていますよね。生物学的に言えば人間は草食動物に近いそうで、ヴィーガンの方が自然には近いのだそうです。科学の進歩で人工肉も美味しくなってきたそうです(ボクは食べてないのでわかりません)。以前に紹介したBeyond MeatsやMenphis Meatsなどのスマートミートがこれにあたります。科学の進歩で人間はもっと優しく動物と共存できるようになりますかね。

    この本はどんな人にオススメか

    もちろん、動物好きにはオススメです。ナショナルジオグラフィック的な豆知識は読んでて本当に楽しいです。ヴィーガンに興味がある人もオススメです。

    ボクの場合はクリストファー・ライアンの”Civilized to Death”を読んだばかりだったので、”Animalkind”を次に読んで「文明の進歩ってなんだろうな」と改めて考えてしまいました。更にイブラム・X・ケンディの反人種主義に関する”How to Be an Antiracist”も思い起こしながら読みました。人種の違いで差別をするのが愚かなのであれば、種族の違いで差別するのも愚かなことになります。そうは言っても、生物の生命は他の生物の犠牲の上に成り立っているのも、これまた事実なのです。だって、植物にだって生命はあるわけですよ。生命の定義にもよるでしょうが。

    もちろん、いきなり全ての問題を解決できるわけではなく、身近に解決できることから少しづつ手をつけていくしかない。文明の進歩を逆戻りさせることはもうできないのですから。「一人一人ができる範囲で良い世の中にしていくしか無いんだな」とか悟ったようなことを思いながら読みました。

  • 書評|進化は野蛮で自然は優しい|”Civilized To Death” by Christopher Ryan

    書評|進化は野蛮で自然は優しい|”Civilized To Death” by Christopher Ryan

    世の中には楽観主義者と悲観主義者の両方いて、楽観的な意見と悲観的な意見を喧々諤々やっています。スティーブン・ピンカーが楽観主義者の代表だとしたら、今回紹介するクリストファー・ライアンは悲観主義者の代表かもしれません。どちらかの意見が決定的に間違ってはいません。様々な異なる意見に耳を傾けるべきでしょう。

    クリストファー・ライアンは日本では『性の進化論』がすでに翻訳されて出版されています。今回紹介する”Civilized to Death”は一般的に信じられている「進化はよいもの」に疑問を投げかけ、文化人類学や生物学など様々な観点から検証しています。

    Civilized to Death: The Price of Progress

    Civilized to Death: The Price of Progress

    • 作者:Christopher Ryan
    • 出版社/メーカー: Avid Reader Press / Simon & Schuster
    • 発売日: 2019/10/01
    • メディア: ペーパーバック
    性の進化論――女性のオルガスムは、なぜ霊長類にだけ発達したか?

    性の進化論――女性のオルガスムは、なぜ霊長類にだけ発達したか?

    • 作者:クリストファー・ライアン,カシルダ・ジェタ
    • 出版社/メーカー: 作品社
    • 発売日: 2014/07/12
    • メディア: 単行本

    進化の出発点は狩猟から農業への移行です。農業から文明が生まれます。狩猟生活は文明以前の野蛮な生活だと信じられています。クリストファー・ライアンは、まずこの一般的に信じられている進化の出発点から検証をはじめます。文明のはじまりと農業の起源に光を当てた本で有名なのはジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』とユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』ですよね。それらの研究からなんとなくわかっているのが、農業は人類が積極的に選んだわけでなく、環境の変化で仕方なく移行したことです。

    狩猟生活は環境変化に弱いのですが、環境が安定している時は労働時間も少なく、健康な生活でした。むしろ、農業生活の方が労働時間も長いし、疫病なども農業生活からです。また、クリストファー・ライアンによると文化人類学の研究成果から狩猟生活には三つの素晴らしい特徴があるとしています。

    平等主義:特定のリーダーはいない。男女間の差別もない。

    移動の自由:そのグループに馴染めなければ、別のグループに参加できる。

    自然への感謝:食物を提供してくれる自然へ感謝。農業にとって自然はコントロールしなければいけない恐怖の対象。

    文明にとって自然はコントロールしなければいけない対象になりました。クリストファー・ライアンはそれを動物園に例えます。文明とは自分たちのために動物園を作ったようなものだと。本当の自然は野蛮で過酷だが、自分たちの住む動物園はコントロールされて住みやすい。それが文明後のパラダイムとして信じられています。例えば、ホッブス、マルサス、ダーウィンやドーキンスなど(それぞれの分野で素晴らしい仕事をしていることは認めつつも)自然は敵で文明が味方という概念に閉じこもってしまっているとクリストファー・ライアンは言います。しかし、文化人類学的にそのような考え方は正しくない。

    読んでいて面白いと思ったのが思春期について。そもそも「思春期」という言葉はなく、比較的最近の現象なのだそうです。不安定な時期。不安定といえば、ADHDの症状もこどもとしては普通なのだそうです。だから、12月に生まれた子供は1月に生まれた子供より30%多くADHDと診断される。ADHDの薬は子供の周りの環境を変えず、子供の脳内物質を変える試みだとクリストファー・ライアンは言います。そういえば、マルコム・グラッドウェルの『天才(本当にこのダサいタイトルなんとかならないか?)』にも似たような話が出てきましたよね。

    この本はどんな人にオススメか

    クリストファー・ライアンは科学者というよりは文筆家なんだと思います。比べて良いものかわかりませんが、マルコム・グラッドウェルみたいな。興味のある分野を深掘りしてストーリーを作り上げる。多くの科学者が一般へのアピールが上手いわけではないので、彼らのような存在は貴重です。進歩って本当に素晴らしいの?と考えてみる機会も必要だと思います。

    ただ、その問い「進歩って本当に素晴らしいの?」に答えたがあったとして、何か具体的な解決方法があるわけでもないのですけどね。おそらく言いたいことは「アメリカ人のように必死に働かず、ヨーロッパ人のように気楽にいこうぜ」なので、同じメッセージの『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』を観た方がいいかなあ。日本人はどちらかといえば(ヨーロッパ人ではなく)アメリカ人っぽいメンタリティーですしね。

    マイケル・ムーアの世界侵略のススメ(字幕版)

    マイケル・ムーアの世界侵略のススメ(字幕版)

    • 発売日: 2016/09/28
    • メディア: Prime Video

     

  • 書評|ダークサイドを飼い慣らす|”The Power of Bad” by John Tierney, Roy F. Baumeister

    書評|ダークサイドを飼い慣らす|”The Power of Bad” by John Tierney, Roy F. Baumeister

    社会心理学者のロイ・バウマイスターとジャーナリストのジョン・ティアニーのコンビは以前にも『WILLPOWER 意志力の科学』がベストセラーになりました。その後に「意志力」系の本がたくさん出ましたが、この二人の仕事が出発点です。彼らの新しい著書”The Power of Bad”もその延長線上にあります。「悪い」は「良い」より強い。悪いことは根に持つけど、良いことを根に持つとは言わないですよね。「根に持つ」という言葉自身に悪い意味が含まれるだからですが、では、「根に持つ」の反対語ってなんでしょうか?

    映画『スターウォーズ』で力を表す「フォース」が登場します。良い力の使い方をするジェダイと悪い力の使い方をするシスが登場します。映画の中でシスはフォースの強力なダークサイドを操ります。これは実際の社会でも同じなんですね。強い「悪い」力を利用して、前に進めることはできないか?がこの本の主題です。

    The Power of Bad: How the Negativity Effect Rules Us and How We Can Rule It (English Edition)

    The Power of Bad: How the Negativity Effect Rules Us and How We Can Rule It (English Edition)

    • 作者:John Tierney,Roy F. Baumeister
    • 出版社/メーカー: Penguin Press
    • 発売日: 2019/12/31
    • メディア: Kindle版
    WILLPOWER 意志力の科学

    WILLPOWER 意志力の科学

    • 作者:ロイ・バウマイスター,ジョン・ティアニー
    • 出版社/メーカー: インターシフト
    • 発売日: 2013/04/22
    • メディア: 単行本

    ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』のおかげで認知バイアスへの理解も広がってきました。とても面白い本なので、まだ読まれていない方にオススメします。ロイ・バウマイスターとジョン・ティエリーの”Power of Bad”は認知バイアスの中でもネガティビティバイアスに焦点を当てています。良い情報より悪い情報に注意を向けやすい傾向がネガティビティバイアスです。良い噂より悪い噂が気になるとか。バイアスの力としては「良い」より「悪い」の方が強いのです。ならば、その「悪い」強い力を利用しましょうというのがロイ・バウマイスターとジョン・ティエリーのアドバイスです。

    例えば、非常に悪いことが起きると人はトラウマを抱えることがあります。心の傷ですね。しかし、実際には80%の人は恐ろしいことが起きてもトラウマを抱えないのだそうです。そして、トラウマを抱えた人も、トラウマを乗り越えることで強くなる。しかし、PTSDなどトラウマの悪い面がクローズアップされます。

    ロイ・バウマイスターとジョン・ティエリーはもう一つダークサイドを飼い慣らすために重要な認知バイアスとして楽観バイアスを挙げています。

    参考:富裕層になれない人の9割は、「楽観バイアス」人生

    多くの人はネガティブバイアスのせいで、悪いことが起きると思っています。さらに悪いことはより多くなっていると思っています。しかし、楽観バイアスのため、悪いことは自分ではなくて他人に起きると思っています。

    この本は基本的に実践書なので、「悪い」を「良い」に変えるためのアドバイスがたくさん紹介されています。例えば、教育におけるアメとムチについて。自信がある子供は学力が上がると広く信じられていますよね。確か自信と学力には相関関係がある。しかし、褒めて自信がつくから学力が上がるという因果関係は間違っていることが最近の研究でわかってきているのだそうです。学力が上がるから、褒められ、自信がつく。これってピアノを習う子は学力が上がるに似ていますよね。ピアノを習う→学力が上がるではない。ピアノを習えるほど裕福→学力が上がる。やっぱり因果関係と相関関係を間違えないって大事だなと思いました。

    No Excuses: Lessons from 21 High-Performing, High-Poverty Schools

    No Excuses: Lessons from 21 High-Performing, High-Poverty Schools

    • 作者:Samuel Casey Carter
    • 出版社/メーカー: Heritage Foundation
    • 発売日: 2000/04/01
    • メディア: ペーパーバック

    この本はどんな人にオススメか

    学術的なことを一般に紹介する書籍には二種類あります。理論的か実践的か。難しい学術的な研究を簡単に解説する本なのか、実践に落とし込んだ本なのか。今回紹介した”The Power of Bad”は後者の「実践的」な要素が強い本です。自分のネガティブな側面を気にしていて、それを飼い慣らしたいと悩んでいる人にはオススメです。きっと、一つか二つは実践できるアドバイスを見つけることができるでしょう。

    一方で理論的なバックボーンを知りたい人にとっては少し物足りないかもしれません。いろんな人の楽曲を集めたオムニバスアルバム的な側面が強いんですよね。一人のアーティストがコンセプトを持って作り上げたアルバムではない。そのため、一つ一つのアドバイスの背景にある理論的な部分が薄く感じてしまいます。

  • 書評|「使いやすさ」の歴史と未来|”User Friendly” by Cliff Kuang

    書評|「使いやすさ」の歴史と未来|”User Friendly” by Cliff Kuang

    「デザインが大事」と言うのは言葉では簡単なんですが、実際にはとても難しいです。なぜ難しいのか?それは「なぜ大事なのか」のWHYの部分をまず理解しないといけないからです。そして「何が大事なのか」のWHATの部分を理解しないといけません。おそらくほとんどの人は感覚的にはわかってるんです。それは「スマホみたいに使えること」だと。でも、それをきちんと説明できない。例えば「ユーザーフレンドリー」ってどう言うことですか?

    その答えを出す仕事に取り組んだのがWebメディアのFast CompanyのデザインをリードしてCo.Designを立ち上げたクリフ・クァンです。今回紹介するクリフ・クァンの最初の書籍である”User Friendly”は元Frog Designのロバート・ファブリカントとの会話から生まれたそうで、ファブリカントもクレジットされています。

    「ユーザーフレンドリー」全史 世界と人間を変えてきた「使いやすいモノ」の法則

    「ユーザーフレンドリー」全史 世界と人間を変えてきた「使いやすいモノ」の法則

    • 作者:クリフ・クアン,ロバート・ファブリカント
    • 発売日: 2020/09/29
    • メディア: 単行本(ソフトカバー)
    User Friendly: How the Hidden Rules of Design are Changing the Way We Live, Work & Play (English Edition)

    User Friendly: How the Hidden Rules of Design are Changing the Way We Live, Work & Play (English Edition)

    • 作者:Cliff Kuang,Robert Fabricant
    • 出版社/メーカー: Virgin Digital
    • 発売日: 2019/11/07
    • メディア: Kindle版

    クリス・クアンはまず現在の「ユーザーフレンドリー」の定義からはじめます。

    使いやすさを表す言葉として「ユーザーフレンドリー」しか持ち合わせていないにも関わらず、何が「ユーザーフレンドリー」なのか数限られた専門家にしかわかりません。そして、多くのデザイナーの間の中でも「ユーザーフレンドリー」が議論されてはいますが、そもそもの成り立ちはデザイナーの中でもあまり知られていません。ユーザーフレンドリーとは単に問題を解決するだけでなく、問題を簡単に解決することです。

    そして、現在の「ユーザーフレンドリー=使いやすい」を定義したのはアップルです。もっと具体的に言えばiPhoneです。人間にコンピューターを学ばせるのではなく、コンピューターに人間を学ばせる。スマートフォン以降、全てスマートフォンのように使いやすいことが期待されるようになりました。コンピューターと現在のユーザーフレンドリーは密接な関係があります。

    初期のコンピューターにおけるユーザーフレンドリーの代表例に1960年代にIBMがメインフレームを使いやすくするために開発したAPL(A Programming Language)がありました。IBMにはロゴをデザインしたポール・ランド、イームズと並んで数々の優れたプロダクトをデザインしたエーロ・サーリネン、ボール形状の印字部品を使ったセレクトリックタイプライターをデザインしたエリオット・ノイズなど優れたデザイナーたちが所属していました。しかし、IBMはアップルにはなれませんでした。

    なぜIBMはアップルになれなかったのか?

    クリス・クアンは次に現在の「ユーザーフレンドリー」の歴史を紐解きます。

    UXの歴史はレオナルド・ダ・ビンチまで遡ることができますが、現在のUXの歴史はアメリカの大量生産の歴史と重なります。アメリカにはドイツのバウハウスやフランスではル・コルビュジエユニテ・ダビタシオンなど理論的な思想はありませんでした。しかし、1929年の大恐慌での経済的な必要性が「ユーザーフレンドリー」に向かわせました。その代表例が1927年から1931年まで生産されて大ヒットしたフォード・モデルAです。一般的に大量生産で有名なのはフォード・モデルTですよね。大恐慌以降の新しいパラダイムが「工業生産の美しさ」です。そして、この時期に工業デザインのビッグ4が生まれます。レイモンド・ローウィノーマン・ベル・ゲデスウォルター・ドーウィン・ティーグヘンリー・ドレイファスです。特にヘンリー・ドレイファスは後のUXにとって重要な仕事をします。

    ちなみに、ボクはヘンリー・ドレイファスの”Designing for People“と後述するドン・ノーマンの”Design for Everyday Things”を読んだことがない「デザイナー」はあまり信用しません。論理的な基盤なしに感覚的にやってるってことですから。

    The Design of Everyday Things: Revised and Expanded Edition (English Edition)

    The Design of Everyday Things: Revised and Expanded Edition (English Edition)

    • 作者:Don Norman
    • 出版社/メーカー: Basic Books
    • 発売日: 2013/11/05
    • メディア: Kindle版
    Designing for People (English Edition)

    Designing for People (English Edition)

    • 作者:Henry Dreyfuss
    • 出版社/メーカー: Allworth
    • 発売日: 2012/11/30
    • メディア: Kindle版

    ヘンリー・ドレイファスは当時の日用品に満足できませんでした。そして、日用品を改良するためにはその生産プロセスを理解する必要があると考えました。単に見た目がいいだけではダメ。改善するには、その改善を適用するためのコストを把握する必要もあると考えました。ヘンリー・ドレイファスにとってデザインは見た目ではなく、どのように作られ、何が可能になるのかまで含まれています。要点としては以下の二つにまとめることができます。

    1. 見た目をモダン化する
    2. 使い方を再定義する

    バウハウスも考え方は同じなのですが、理解できるエリート向けでした。ヘンリー・ドレイファスをはじめとする当時のアメリカのデザイナーたちは実用的でありマーケット志向でした。実際に電話機とかこの頃に再定義されたデザインは現在まで生きています。

    クリス・クアンによると「使いやすさ」のデザインがさらに次の段階に進んだのが第二次世界大戦でした。実際に第一世代の工業デザイナーのレイモンド・ローウィ、ノーマン・ベル・ゲデス、ウォルター・ドーウィン・ティーグ、ヘンリー・ドレイファスたちはアメリカ政府に招聘されて軍用品のデザインをします。さらにアルフォンス・チャパニスS・S・スティーヴンスを中心に人間中心デザインが生まれます。そもそも、なぜ飛行機は墜落するのか?飛行機の操縦が難しいから。それでは、なぜ飛行機の操縦は難しいのか?人が間違うことを「ヒューマンエラー」と言います。それを否定して使いにくいことは「デザインエラー」と再定義されました。人間工学に基づくエルゴノミック・デザインの基礎はこの時期に確立されます。ヘンリー・ドレイファスは戦車のコクピットのデザインの経験を活かして人間中心のデザイン手法の一つであるペルソナの原型である“Joe”と”Josephine”を生み出しました。この辺もUXのオリジネーターであるダ・ヴィンチの影響を受けていますよね。

    そして、スリーマイル島原子力発電所事故です。アップルにデザイン文化を植え付ける決定的な仕事をしたのは先に触れた”Design for Everyday Things”の著者ドン・ノーマンです。ドン・ノーマンはアップルでUXプロフェッショナルと呼ばれる人たちを育てます。その一人がジョニー・アイブです。そして、ドン・ノーマンはスリーマイル島事故の調査チームの一員でした。ノーマンの分析によると、スリーマイル島の原子力発電所は技術的な課題を優先して、そこで働く人たちを考慮に入れなかったことだそうです。コントロールルームのデザインは後回しにされ、何か工夫をする時間も余裕もなかった。例えば、原子炉は常に「第一」と「第二」の二つペアで作られます。しかし、コントロールルームはひとつしか作られませんでした。一つ作って、その鏡面イメージをもう一つ作った方が安上がりだと考えました。エンジニアは全く逆の配置の二つのコントロールルームで仕事をしなければいけませんでした。

    1100のメーターと500以上のアラーム。コントロールパネルの色だけを見ても、「赤」が14の異なる意味を持ち、「緑」が11の異なる意味を持っていました。人間と機械が分かり合う共通言語の不足。ボタンやサインの配置にも特に意味がありませんでした。

    ここまでがこの本の前半。

    最初の疑問である「なぜIBMはアップルになれなかったのか?」ですが、答えは「アップルにはUXの歴史を踏まえた上で組織に実装してくれるドン・ノーマンがいたから」になるんだと思います。日本でも「ユーザーフレンドリー」の重要性は十分に理解されているにもかかわらず、デザインがなかなか組織に浸透しません。多分、日本にはUXの歴史を踏まえた上で組織に実装してくれるドン・ノーマンのような人がいないからなんでしょうね。ボクはせめてそうなりたいなと、いま日本企業でがんばってます。

    この本の後半は「ユーザーフレンドリー」を実現するために重要なコンセプトとともに、スマホ以後の「ユーザーフレンドリー」のユースケースを紹介しています。コンセプトはメタファー、共感力やパーソナライゼーションなどです。将来のユースケースはクルマの自動運転やボイスインターフェースやディズニーランドです。特にディズニーランドにおけるマジックバンドを使ったパーソナライゼーションの事例はとても面白かったです。

    この本はどんな人にオススメか

    デザイナーには読んで欲しいです。

    今のアプリデザインにこのような混乱が少ないのは、メニューの位置や意味、スワイプやタッチで何が起きるのかがテンプレートで標準化されているからです。いまのUXデザイナーがテンプレートなしで一からユーザーフレンドリーなデザインができるか?どうですかね。さほどスリーマイル島原子力発電所のエンジニアと変わらないのではないでしょうか。なぜなら、多くの「デザイナー」はこのような標準が出来上がってきた成り立ちを理解していないからです。

    情報設計などの「使いやすさ」の原理原則といえるものを理解している「デザイナー」って実はすごく少ないです。デザイン・システムとか流行っていますが、そのコンポーネントやアーティファクトを下支えしている(使いやすさを担保している)のは原理原則ですからね。