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  • 書評|世界最大のヘッジファンドが提唱するAIによる「意味のある仕事と意味のある関係」|Principles by Ray Dalio

    書評|世界最大のヘッジファンドが提唱するAIによる「意味のある仕事と意味のある関係」|Principles by Ray Dalio

    今回の書評はレイ・ダリオの”Principles“です。レイ・ダリオは世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエイツの創業者です。この本はいろんな意味で注目されています。一つは多くのファンドが損出を出したリーマンショックでも利益を出したブリッジウォーターの企業としての強さの秘密を知るため。もう一つはAIによる投資判断の自動化をどのように実現したのかを知るため。そしてもう一つは新しい組織論として、人生を豊かにする「意味のある仕事、意味のある関係」を実現する方法を知るためです。

     

    Principles: Life and Work

    Principles: Life and Work

     

     

    この本はレイ・ダリオの歩み、生活のための原理原則、仕事のための原理原則の三部構成となっています。「意味のある仕事、意味のある関係」を実現する組織論としてはティール組織など自律型の組織が注目を集めていますが、レイ・ダリオの提唱する徹底的な透明性とオープンな態度による「アイデアの能力主義」という経営論もまた同じ効果があると思います。手段や形はどうあれ、実現しようとすることは同じなのですから。

    幸いにして彼のTED Talkが日本語字幕付きで公開されていますので、興味のある方はまずこちらを観てもいいでしょう。論より証拠、観たほうが早いです。

    このTED Talkでも紹介されていますが、レイ・ダリオは投資で失敗して全てを失います。ここから学んだ教訓がいくつかありました。ひとつは「自分は正しい」と考える前に「どうしたら正しいとわかるのか」を突き詰めるようになりました。

    人間の判断を客観視するためのAI

    その一つが物事の原理原則を書き留めることです。多くの出来事は繰り返し起こります。ある出来事が起き、そこから学んだことを書き留め、同じことが起きた時に対応できるようにします。これを80年代からパソコンでプログラム化してきました。今で言うところのAIによる事業判断を昔からしていたのです。これは個人でも同じです。アルゴリズムにする必要はありませんが、自分の判断を客観視するためには自分にとっての原理原則を書きとめておくのは将来役に立ちます。

    AIを補完する人間の信頼性

    また、原理原則のアルゴリズムを検証できる専門家も必要です。AさんとBさんでは専門分野が違います。例えばAさんはプログラマーでBさんはマーケティングだとしましょう。プログラミングに関する意見はBさんの意見の方が信頼性が高いですし、市場調査に関してはAさんの意見の方が信頼性が高いでしょう。この信頼性に基づく判断がアイデアの能力主義の根本の考え方の一つです。TED Talkで紹介されていた「Dot Collector」はそれを実現するツールの一つです。この他にもブリッジウォーターでは「Baseball Cards」など様々なツールを開発しています。

    オープンとは何か?

     もうひとつ必要なのはオープンさです。ブリッジウォーターではほぼ全ての会議を録画して全社員に公開しています。しかし「オープン」というのは情報のオープンという意味だけではありません。人間は理性と本能があります。理性では他人からのフィードバックが必要だと知っていても、本能的に他人の意見を批判と受け止めてしまいます。その結果、冷静な判断を阻害します。「オープン」というのは人間の態度も含まれます。他人の意見に対するオープンさです。TED Talkで紹介された新人から当時のCEOであったレイ・ダリオに対するメールはまさにそれを表しています。

    これまでいくつかのスタートアップの誕生と成長の記事をアップしてきました。その創業者の多くに共通するのは「謙虚さ」です。ボク自身も何人か個人的に成功したスタートアップ創業者の友達がいますが、彼らは全て謙虚で人の意見に耳を傾けます。成功した後ででもです。Gmailを開発したポール・ブックハイトも言っていますが「信念を持つのは頑迷なこととは違う」のです。

    これらを仕組みとして全ての社員が実行できるようにしたのがブリッジウォーターの経営方法なんですね。

    ちなみに、ブリッジウォーターの考える今後の経済はこんな感じなのですが、どうなんでしょうね!

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  • 書評|コミュニティーとソーシャルと催涙ガス?|Twitter and Tear Gas by Zeynep Tufekci

    書評|コミュニティーとソーシャルと催涙ガス?|Twitter and Tear Gas by Zeynep Tufekci

     

     インターネットとソーシャルメディアでコミュニティー活動がとてもやりやすくなりました。ボク自身も『デザイン+ジャパン』というデザインで日本の社会的問題を解決するコミュニティーをはじめましたが、インターネットがなければまともに活動できません。

     

    Twitter and Tear Gas: The Power and Fragility of Networked Protest

    Twitter and Tear Gas: The Power and Fragility of Networked Protest

     

     

    コミュニティーとインターネットとソーシャル

    コミュニティー活動自体は昔から存在していましたが、インターネットとソーシャルメディアがコミュニティーを加速度的に広げて行きました。昔だとはてなのヘビーユーザーの「はてな村」なんてありましたが(いまでもある?)、あれも一種のコミュニティーです。コミュニティーの影響力は大きく、企業でも活用しています。AWSのユーザーグループコミュニティーのJAWS-USなんて代表的な成功事例ですよね。

    目的や嗜好を共有する人たちの集まりという意味でコミュニティー活動は当然ながらインターネット以前から存在していました。例えば、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアなど公民権運動の活動家たちも人種差別をなくすという目的を共有した人たちの集まりで、モンゴメリー・バス・ボイコットやワシントンD.C.への20万人デモ行進など組織的にやらないと当然ながら実現できない。それを実現したのが当時のコミュニティーでした。

    ソーシャルと催涙ガス

    今回の本は”Twitter and Tear Gas“(Twitterと催涙ガス)という非常に物騒なタイトルで、インターネットとソーシャルがどのようにコミュニティー活動に影響を与えているか、特に政治的活動家と言われている人たちのコミュニティーに影響を与えているかを考察した本です。

    Twitter and Tear Gas: The Power and Fragility of Networked Protest

    Twitter and Tear Gas: The Power and Fragility of Networked Protest

     

    インターネットとソーシャルによって公民権運動のような活動が簡単にできるようになりました。それが表面化したのが「アラブの春」と呼ばれる一連の運動でした。海外生活が長いとはいえ、ボクも日本人なので馴染みの薄いアラブの世界はよくわからなかったです。オランダにもたくさんアラブの難民がいて、ヨーロッパ全体で難民問題は課題になっていました。

    この本を読んでわかったのですが、アラブの春って社会的にはすごいインパクトだったんですね。エジプトでの運動なんて、タハリール広場に集まった200万人の必要物資をたった四人の海外のエジプト人がロジスティックをオンラインで全て調整したんですから驚きです。オンラインと言ったって、専用ツールとかじゃなく、TwitterやGoogleスプレッドシートのような普段から使っているツールです。そして現場では座り込みを阻止するために催涙ガスで制圧しようとして軍と市民が衝突となりました。本のタイトルはここから来てるわけです。

    デジタル時代のコミュニティー維持の難しさ

    デジタル時代のコミュニティー活動はすぐに大きくなるけど継続は難しいという特徴があるようです。例えば一連のデジタルコミュニティー革命と言える事象はこれといった成果を達成していないことでもわかります。エジプトではムバラクは退陣しても軍事政権はそのままだし、アメリカでも特に貧富の差が解消されたわけではないし。

    著者は目的意識や共通認識の醸成は単純に時間がかかるというのが理由の一つとしています。「で、どうしたいの?」という合意がコミュニティー全体では生まれにくい。それはリーダーがいないというデジタル時代のコミュニティーの特徴でもある。例えば『デザイン+ジャパン』で今一番時間を使っているのは「目的と手段」の定義です。社会的課題ってなに?デザインってなに?誰が主体的なの?自分たちの役割は?こういうことを行動と並行してコミュニティー全体で考えていかないと、ツールがあっても中身がなくなってしまう。そして、その中身がコミュニティーの外からも共感が得られないようだと続かない。著者はこの辺りをシグナリング理論で説明しています。

    デジタルコミュニティーとティール組織

    この目的や行動規範の醸成という課題はティール組織やホラクラシーにも通じると思うんですよ。リーダーがいないフラットな組織という意味ではコミュニティーとティールは似ている。『デザイン+ジャパン』の組織デザインを考えた時も参考にしたのはティール組織でした。ボク自身(や数人のメンバー)がリーダーとしてなんでも決めるモデルにはしたくなかった。そして、実際にやってみるとそれはかなり難しい。「で、どうしたいの?」という共通認識がやっぱり大事です。それでも、企業の場合は「お金を儲ける」とか、「サービスを広げる」とか目先のゴールの共通認識は生まれやすいでしょう。でも、もっと大きな「で、どうしたいの?」という企業がよく掲げるミッションステートメントやビジョン、行動規範みたいなものです。コミュニティーが人の集まりであり、人それぞれ違った考えを持っている以上、こういった目的意識や行動規範の方向性を揃えるには時間がかかるのだろうと思います。

    この本ではソーシャルメディアが持ついい側面と悪い側面を活動家の立場から分析もしています。フェイクニュースやネット中立性など重要なトピックについて考えるときも、普段あまり考えたことのないアングル(政治活動家の立場)から紹介しているので理解が深まりました。

    興味のある方はTEDTalkもありますので、ご覧ください。

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  • 書評|生物、企業、都市に共通するスケールの法則|Scale by Geoffrey West

    書評|生物、企業、都市に共通するスケールの法則|Scale by Geoffrey West

    書籍の中でもきちんと科学的に検証された題材を読むのが大好きです。科学的に検証されたというのは推測ではなく事実や多くの事例に基づいて論証されているという意味です。例えば社会経済学で様々な疑問に切り込んでいる『ヤバい経済学』とか進化生物学の観点からなぜ文明がある一定の場所から発生したのかを検証した『銃・病原菌・鉄』とか。

     

    もちろん、個人的な体験をベースとしたモノローグも悪くはないですが、個人的な経験(だけ)を一般的な法則に当てはめてしまうようなアプローチは嫌いです。「好きじゃない」ではなく、はっきりと「嫌い」です。ボク個人の主観なんで、科学的じゃないから「悪い」とまでは言いませんが、「嫌い」です。

    科学的なアプローチで真っ先に思い浮かぶのが数字を使ったアプローチ。数字を使ったアプローチにおいて物理学はその最先端をいってるのではないでしょうか。物理学は素粒子物理学のような目に見えないような小さなモノからダークマターやビッグバンのような途方もなく大きなものまで扱うのにその真ん中はあまり扱ってこなかった。例えば、生物、企業や都市。

    物理学者のGeoffrey Westが生物、企業、都市に共通するスケールの法則の研究結果がこの著作”Scale: The Universal Laws of Life and Death in Organisms, Cities, and Companie”です。このような本は大好物です。

    Scale: The Universal Laws of Life and Death in Organisms, Cities and Companies

    Scale: The Universal Laws of Life and Death in Organisms, Cities and Companies

     

    スケールというのは大きくなったり小さくなったりすることですね。ここで検証されているのはネズミはスケールダウンした人間なのか?ゾウはスケールアップしたネズミなのか?どうしてネズミはゾウより寿命が短いのか?人間はスケールの法則に従えば何年まで生きられるのか?といったことです。そして、そのスケールの法則は企業や都市にも当てはまるのか?「企業のDNA」とか「都市のエコシステム」など生物や生態系に例えられるが、それは単に比喩的なものなのか、それとも何か真理を含むものなのか?

    軽くネタバレしてしまうと、共通するスケールの法則はありそうです。そのキーワードは指数的な成長。サブリニア(100%増えても75%しか増えない)の成長、リニアの成長(100%増えたら100%増える)、スーパーリニアの成長(100%増えたら125%増える)です。しかし、同じ法則が当てはまるのなら、なぜ都市は死なないのか?企業は生物に似ているのか、それとも都市と似ているのか?そういった部分にまで踏み込んでいます。

    すごく面白かったのは(これも軽くネタバレですが)企業は都市よりも生物に似ているので不死ではないということです。日本の1000年以上続いた企業についても言及されていますが、これは統計的には外れ値で、これは別に扱う必要があるとしています。企業が都市のようなネットワークモデルをどのように持つことができるのかはホラクラシーやティール組織、自然経営などありますが、数学的にはまだ解明されていない部分です。トップダウンのピラミッド型の組織である限り、変化に対応できずに死に行く運命は変えられない。

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  • 書評|仕事の戦略には「いい仕事戦略」と「悪い仕事戦略」がある|The Good Jobs Strategy by Zeynep Ton

    「サービスデザイン」はその名の通り「サービス」をデザインします。プロダクトデザインと大きく異なるのは人との関わり。たとえばホテル(コンシェルジュやベルキャプテン)、小売業(店員)、コールセンター(カスタマーサービス)に飲食店(ホールスタッフ)。サービス業の接点はプロダクトだけでなく、人が大きくかかわってきます。

     このブログでこれまで紹介した本はすべて組織に関することです。サービスの根幹が人であるならば、その人の集まりの組織は非常に重要だからです。いくらオペレーションのデザインが素晴らしくても、それを運営する人が幸せでなければいいサービスにはならない。ここにどこまで踏み込んでいけるかがサービスデザインプロジェクトの成否を握ってると言えます。

    「いい仕事戦略」と「わるい仕事戦略」

     今回紹介する”The Good Jobs Strategy“は日本語に訳すと「いい仕事戦略」です。ビジネス戦略には「いい仕事戦略」「わるい仕事戦略」がある。「いい仕事戦略」を実行している企業は競合より安い商品を提供し、顧客を満足させ、従業員を満足させています。そして利益がでる。たとえて言うなら「ダイエー」より安くてサービスがいい「成城石井」や「明治屋」をイメージしていただければいいかと思います。

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    (右が”The Good Jobs Strategy”著者のZeynep Ton)Photo By US Department of LaborL-16-02-12-A-053, CC BY 2.0, Link

    「いい仕事戦略」は人事戦略とオペレーション戦略に分かれます。人事戦略は驚くほどホラクラシーのような自律型経営に似ています。オペレーション戦略はトヨタのようなリーンマニュファクチャリングに近いものがあります。自律型の組織と標準化は相性が悪そうなのですが、そうではありません。

    「いい仕事戦略」の人事

    「いい仕事戦略」では人材に多くの投資をします。そして、従業員の満足度が高い。だから離職率がものすごく低い。例えば米コストコではストアマネージャークラスで年収が1000万円です。エントリーレベルのスタッフでもウォルマートなどと比べると圧倒的に高い。マズローの欲求段階ではないですが、ベーシックなニーズが満たされないと、それ以上のことに集中できない。

     トレーニングにも多くの投資をしている。たとえばレジだけではなく、精肉もできるし、在庫管理もできる。そういうクロストレーニングをすることによってピークタイムに必要なワークロードの平準化を行うことができます。

     そして自律型の組織運営に近いので、現場で起きていることを現場で対応できる。ホラクラシーやティール型の組織に考え方がすごく似ている。実際にZapposも「いい仕事戦略」の例として紹介されています。

    「いい仕事戦略」のオペレーション

     ひとは定型化された作業を嫌う傾向があります。それでもオペレーションの効率化には必要なのである種の「必要悪」とみなされます。ここで紹介されているオペレーション上の戦術はとても興味深いものです。たとえば、サービスって需要がなかなか読めません。サービスをするにはスタッフも配置しなければいけないし、スタッフには当然人件費がかかる。「いい仕事戦略」を取る企業は人に多額の通しをしているのですから、なるべく無駄なコストにはしたくない。

     一つだけ紹介すると需要に対して「フラット戦略 “Level Strategy”」と「需要追っかけ戦略 “Chase Strategy”」がある。多くの企業は無駄をなくしたいから需要予測を細かく行って「需要追っかけ戦略」をやろうとする。しかし「いい仕事戦略」を取る企業の多くは「フラット戦略」をとる。そうすると需要と供給のギャップが生じるのですが、クロストレーニングなどで弾力性を持たせることで無駄なコストにしない。こういう経営視点はサービスデザイナーも持つべきです。

    この本はおススメか?

     ここで紹介されているのは小売業なのですがサービス業であればどの産業でも当てはまります。製造業であってもこれからサービス化は避けて通れない成長戦略ですから、見習うべきところは多いと思います。経営者なら読むべきです。

     また、サービスデザイナーも読むべきです。サービスデザインプロジェクトでは多くの場合、顧客接点の後ろにあるバックステージのデザインを含みます。ここで経営視点が持てないと「絵に描いた餅」になってしまいます。人事領域にまで踏み込むにはそれなりの知識が必要となります。

    The Good Jobs Strategy: How the Smartest Companies Invest in Employees to Lower Costs and Boost Profits

    The Good Jobs Strategy: How the Smartest Companies Invest in Employees to Lower Costs and Boost Profits

     

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  • 書評|シェアリング経済以降の新しい地図「WTF」Tim O’Reilly

    Tim O'Reilly (3)

    “WTF”の著者、Tim O’Reilly氏

     インターネットで世の中が大きく変わり、変わり続けています。時代が変わると地図も変わります。コンピューターの時代はIBMがエコシステムの中心でした。パソコンの時代はマイクロソフトがエコシステムの中心でした。さらにオープンソースが地図を書き換え、GoogleやFacebookがさらにその地図を書き換えました。そして、今また地図が書き換えられようとしています。その地図はどんなものなのか。それがティム・オライリーの最新著書”WTF“の主題です。

     ティム・オライリーはソフトウェア開発者ならおそらく誰でも一冊は持っている本の出版会社O’Reilly Mediaの創業者で、Web 2.0という言葉を広めた人です。そう、Web 2.0もその当時の地図でした。WTFは英語で”What the fuck”の略ですが、この本では色々な意味で取れます。”What’s the future”もその一つ。WTFという時は驚きとともに色々な感情が込められます。日本語だと「なんてこった」に近いかもしれません。すごい発明を見た時に発せられる「なんてこった」とか。すごく悪いことが起きた時に発する「なんてこった」とか。

     新しい技術はいいことばかりではない。フェイクニュースや人工知能(AI)についての不安感。WTFはどちらにでもなるし、それを選ぶのは私たち自身ですよというのがこの本の言いたいことかな。

    昔の地図

     この本は昔の地図からはじまります。パターンは繰り返されるので、昔の地図の変遷を見ることでそのパターンを読み取ることができるからです。ボク自身はマイクロソフトに勤めていたので、IBMからマイクロソフトへのパソコンの主役の移り変わりやそのあとのオープンソースの流れも理解しているつもりです。

     それでもフリーソフトウェアからオープンソースへの流れって曖昧でした。Linux FoundationはLinuxだけでなく様々なオープンソースプロジェクトの支援をしていますが、その成り立ちもあまり理解していませんでした。

     この辺はあまり物語として日本で語られていない部分なんじゃないかという気がします。ジェダイとシスの戦いは面白いけど、シスが滅びて平和になった世界の話はあまり面白くない。この本ではそんな新しい希望と可能性の世界地図がどのようにできたかの物語として伝えようとしています。そこからパターンを探る。「フォースを感じるのだ」みたい。見た目もちょっとオビ=ワン・ケノービっぽい。

    新しい地図

     この本の面白いところはインターネットの技術的な話にとどまらないところです。シェアリング経済やIoTはネットと実社会の垣根を限りなく無くした。それがどういうことを意味するのか。ボクたちはどのように今の地図を読み解けばいいのか。それをティム・オライリーと一緒に考えるような形になっています。

     その範囲はかなり広く、政府や公共サービスのあり方、メディアのあり方、組織のあり方まで広がっています。特にCode for Americaとの関わりから始まる公共サービスに関しての章は非常にエキサイティングでした。少し中だるみする部分もあるのですが、全般的にわくわく感を維持しています。

    この本はおススメか?

     テクノロジー分野やインターネットに興味がある人にはおススメです。あと政府関係や自治体の人たちも読んだほうがいいかも。これから起業しようとする人、新規事業に取り組もうという会社員もここで描かれる新しい地図は参考になるでしょう。翻訳が待たれるところです。まあ、ティム・オライリーの本なんでどこかの出版社が日本語版を出してくれるでしょう。

    WTF?: What's the Future and Why It's Up to Us

    WTF?: What’s the Future and Why It’s Up to Us

     

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  • 書評|モノづくり企業から顧客体験企業への転換「Connected Company」Dave Gray

    書評|モノづくり企業から顧客体験企業への転換「Connected Company」Dave Gray

     これからは顧客体験を重視したサービス企業にならないと成長できないと言われています。現代のヨハネの黙示録の四騎士と言われるAFGA(Apple、Facebook、Google、Amazon)も全てサービス企業ですね。え?誰ですか?Appleが製造業だといってる人は?Fortune Future 50というリストがあります。将来的に爆発的に成長する可能性のある企業。ここにリストアップされている企業も純粋な製造業はほとんどありません。

     例えばFortune Future 50リーダーリストで第二位のTeslaも電気自動車を作っているけど、彼らのイノベーションはそれだけじゃない。顧客体験を非常に重視しているサービス企業といってもいい。販売店を経由しないでショールームで直接体験をさせる。彼らが力を入れているクルマの自動運転もサービスに直結しますよね。

    サービスデザイナーの描く新しい組織の形

     それでは「従来の効率を求めた大量生産型の組織から顧客のエクスペリエンスを重視したサービス型の組織に変わるにはどうしたらいいのか?」それが今回紹介する本”Connected Company“の主題です。この本を書いたのはXPlaneの創業者でアメリカで最も有名なサービスデザイナーの一人であるDave Gray氏。スタンフォード大学のd.schoolでも使われているEmpathy Map(共感マップ)はXPlaneがもともと作ったもので、彼の本『ゲームストーミング ―会議、チーム、プロジェクトを成功へと導く87のゲーム』でも紹介されています。

    “Connected Company”の著者、Dave Gray氏

     新しいサービス型の組織は自律型の組織になる

     2012年に出版されたこの本は、新しい組織の形としてConnected Companyという概念を提唱しています。いわゆるピラミッドの形をした階層型の組織ではなく、自律したグループ(ポッド)が集まったポデュラー型の組織になる。この本は前回紹介した“Reinventing Organization”(2014年2月出版)の二年前に出版されているのですが、かなり共通点が多い。”Reinventing Organization”が色々な歴史的事例や新しい組織の事例から時系列に整理したものに対して、”Connected Company”は顧客体験を最適化するサービス型の組織はどのような組織なのかを事例を交えて考察しています。取り上げている事例もモーニングスターなどかぶる部分が多い。

    なぜ従来のピラミッド型の組織では顧客体験を最適化できないのか?

     Connected Company(繋がっている組織)がサービス型の組織だとしたら、従来のようなピラミッド型の組織をDivided Company(分裂した組織)と定義できます。産業革命以降、効率を高めるために分業(Division of Labor)が勧められてきたので、大量生産型の組織にとってDivided Companyは最適な形だったわけです。製造は安定していて関わる人の役割も明確。

     しかし、経済は製造業よりもサービス業が成長していった。サービスは製造と比べて決まった形がない。常に変化する。例えば自動車を作ることはどのような会社でも大きく変わることはない。働く人が持っているのはタスクとプロセス。しかし、同じクルマでもUberのようなサービスカンパニーは?顧客それぞれにルートも違えばパーソナリティーも違う。Uberがもし従来の企業のような組織体系で、ドライバーはピラミッドの底辺で、持っているのはタスクとプロセスだったら?それではうまくいかない。サービス型のConnected Companyは人が持つのは顧客体験。

    この本はオススメか?

     日本の企業が「大量生産のモノづくり企業」から「サービス型のモノづくり企業」へと転換するのにとてもいいテキストだと思います。すでに出版から時間が経過しているため、いくつかの事例はすでに旧聞に属します。それでもハッとするような事例がたくさんあります。

     例えば軍隊の事例。軍隊はピラミッド型の組織で命令は絶対。”Reinventing Organization”でも軍隊はレッドのメタファーとして使われているくらい。そういうイメージがありますよね?

     しかし、実際の戦場では自律的に動く必要がある。戦況は刻一刻と変わるし、必ずしも上長の判断を仰げるわけではない。自律的な組織は「組織の目的」を重視して、その目的が行動の規範となる。戦場における軍隊もまさに同じで、「司令官の意図(Commander’s Intent)」と呼ばれる指針が各部隊が自律的に動く基準となる。軍隊も現場ではかなりアジャイルな組織なんですよ!

     ”Reinventing Organization”はどちらかというとアカデミックで理想的な印象があるのですが、”Connected Company”は現実も理解して実質的な解決策を提示している気がします。

    The Connected Company

    The Connected Company

     

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  • 書評|ポスト情報化社会の組織論「Reinventing Organization」Frederic Laloux

    書評|ポスト情報化社会の組織論「Reinventing Organization」Frederic Laloux

     大企業病で判断が遅い。組織の壁がある。イノベーションを起こせない。残業が減らない。過労死問題。これらは日頃のニュースや新聞の社説で繰り返し見かけるフレーズです。電通社員の過労自殺は未だに日本国民全員への問いを発しています。

    「で、どうするの?」

     当然ながら手をこまねいているわけではなく、様々な解決策が提示され、実行されています。ITの活用や副業の自由化。その効果があったかどうかは別として「プレミアムフライデー」もそんな試みの一つと言えます。

     これは日本だけの問題ではなく、世界であらゆる研究がされています。 そして、その解決策としてある種のコンセンサスが形成されつつあるような気がします。そして、それは以下の二つに集約されています。

    • アメとムチによる外から与えられる「やる気」より、自分の内側から生まれる「やる気」の方が大事(参考:ダニエル・ピンク「やる気に関する驚きの科学」, TED, 2009)
    • 現在の企業や組織は大量生産と効率化を重視した産業革命後のパラダイムを抱えいて、個々の顧客に対応するサービス化した現代のビジネスに対応できない

    産業革命から変わっていない組織

     この問題に組織の面から解決策として提示されているのが「自律的組織」です。組織の一員が自律的に状況に合わせて動くことを前提とした組織ですね。代表的なのがホラクラシーです。ZapposやBufferといったスタートアップ企業が実践していることで有名です。このほかにもBooking.comが進めているアジャイルチームやDave Grayが提唱しているConnected Companyなどがあります。大企業でも人事評価をやめて、チェックインを導入したりしているのはこの流れの一つです。Googleも以前にマネージャーのいない組織を試してみました。

     産業革命の後に情報革命が起きたと言われています。しかし、組織自体は情報革命では変わらなかった。ピラミッド型がマトリックス型になったり、パソコンやスマホで仕事をするようになっても基本的な組織は変わっていない。情報化社会の後の組織をいろんな企業や組織が模索しているのが現在です。

    ポスト情報化時代の組織(ティール組織)

     このような様々な取り組みを歴史的に整理して、分類したのがFrederic Laloux氏の”Reinventing Organization“です。組織は原始的なレッドからはじまって、徐々に洗練化されてきた。産業革命でオレンジの組織が誕生。今のほとんどの組織はまだオレンジの段階。日本企業はひょっとしたらまだアンバーな企業が多いのかもしれない。この色分けやそれぞれの特徴は山田裕嗣さんの「Teal Organization(ティール・オーガニゼーション)とは何なのか」に詳しいので、こちらを読んでみてください。

    • ティール(青緑)
    • グリーン
    • オレンジ
    • アンバー(琥珀)
    • レッド

    “Reinventing Organization”の著者、Frederic Laloux氏

    ティール組織は難しい問題にも応えられる

     ティール組織の特徴は自律型の組織。マネージャーはいない。本社機能は限定的で非常に少人数。いわゆる人事部門は存在しない。当然ながら今までの組織の管理に慣れている人は戸惑う。え?みんなが自由気ままにやるの?ダメな社員はどうするの?事故や事件が起きた時のリスク管理は?

     ホラクラシーの本『HOLACRACY 役職をなくし生産性を上げるまったく新しい組織マネジメント』もそうなのですが、このような問題の一部には応えている。例えば、社員が勝手気ままに仕事をするわけではない。でも、意外と大事な問題には答えていない。それはお金の問題であり、解雇の問題。この”Reinventing Organization”の優れたところは、この非常に難しい「お金」と「解雇」の問題にきちんと答えているところ。

     以前にインタビューさせていただいたダイヤモンドメディア株式会社さんはここで書かれていることをほぼ実践されている。このインタビューではあえて「ホラクラシー」という単語を使うのを避けたのですが、それはダイヤモンドメディアがホラクラシーよりもっと先を実践していると思ったからです。

    ITやリモートワークは問題を解決するか?

     ITの活用やリモートワークは「働き方改革」でよく出るトピックです。実際にこの本に出てくるビュートゾルフでは社内ポータルやタブレットを使って情報共有をしていますし、それが自律的組織運営を下支えしていることも確かでしょう。では、ITやリモートワークを活用すればティールなのかといえばそんなことはありません。ITは手段であって目的ではないからです。

     この本を読んでいて強く感じたのは「根本的な文化を変えなければ働き方改革はなし得ない」ということです。スマホやタブレットをいくら活用しても企業文化が変わらなければ、結局のところ何も変わらない。オレンジからティールには移行できない。

    この本はオススメか?

     出版されて少し時間が経ちますが、その内容は全く色褪せていません。海外ではすでに組織論のクラシックとしての地位を確立しています。時系列で組織の進化を整理していったことも非常に意義があります。

     読み手が経営者ならば自分の会社がどこに位置するのかを理解できるでしょう。そして、そのままでいるべきか、それともティールになるべきかを考える機会を与えてくれるでしょう。管理職であれば自分は本当にチームのやる気を引き出しているのか?それは正しい方法なのかを考えるきっかけを与えてくれるでしょう。それ以外の人たちもこれからの社会においてどのような組織が必要なのかを考えるきっかけとなるでしょう。

     日本語版の版権はすでにどこかの出版社がおさえているようですので、きっと日本語版が近い将来に出るはずです。その時は是非とも手にとって読んでほしい本の一つです。

    Reinventing Organizations: A Guide to Creating Organizations Inspired by the Next Stage of Human Consciousness

    Reinventing Organizations: A Guide to Creating Organizations Inspired by the Next Stage of Human Consciousness

     

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