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  • 書評|不条理なゲーム開発の世界を垣間見る|”Blood, Sweat and Pixels” by Jason Schreier 【2018年夏休み読書週間】

    書評|不条理なゲーム開発の世界を垣間見る|”Blood, Sweat and Pixels” by Jason Schreier 【2018年夏休み読書週間】

    ゲームの開発は他のソフトウェア開発とかなり違うため、なかなか理解するのが難しい分野です。今回紹介するKotakuの編集者ジェイソン・シュライアーの書籍”Blood, Sweat and Pixels”は普段垣間見ることができなゲーム開発の世界を紹介しています。

    ここで紹介しているのはEAやMicrosoftといった大手のゲーム出版会社やBlizzard Entertainment(ディアブロなど)、BioWare(Dragon Age Inquisitionなど)など大手のゲーム開発会社における開発秘話を紹介しています。Halo Warsを巡るBungie(Haloシリーズの開発元)とEnsemble Studios(Age of Empireの開発元でHalo Warsを開発することになる)の確執などなかなか面白いです。

    この本のエピソードを全てを紹介することはできませんが、特に面白いと思った小規模スタジオのクラウドファンディングから生まれたヒットについてのエピソードを紹介します。

     

    Blood, Sweat, and Pixels: The Triumphant, Turbulent Stories Behind How Video Games Are Made

    Blood, Sweat, and Pixels: The Triumphant, Turbulent Stories Behind How Video Games Are Made

     

     

    ゲーム開発のプレーヤーとお金の流れ

    ゲームの開発は開発会社(デベロッパー)だけではできません。出版会社(パブリッシャー)が必要となります。Haloシリーズの開発会社はBungieですが、販売しているのはその親会社のMicrosoftです。これは映画でも同じですね。制作会社と配給会社は違います。例えば、映画『アヴェンジャーズ』の場合、制作はマーヴェルスタジオですが、配給はディズニーでした。

    ゲーム開発会社はゲームを作る前に資金調達をしなければいけません。主な資金調達の方法は以下の三つです。スタートアップと似てますね。自分のお金か他人のお金。

    1. 投資してくれる企業を探す
    2. 出版会社と契約する
    3. 自己資金で作る(ブートストラップ)

     そして、クラウドファンディングが新しい資金調達方法として小規模の開発会社でもユーザーから直接資金調達ができるようになりました。

    クラウドファンディングによる資金調達

    ObsidianはMicrosoftのXbox One Cloud用ゲーム“Stormlands”を開発していましたが、これがキャンセルに多くの開発者を解雇しなければいけませんでした。アメリカのゲーム開発のバーンレートは開発者一人につき月1万ドル(約110万円)です。多くの人を解雇したとしても、全てを解雇できない。新しいプロジェクトを見つけなければいけませんでした。Obsidianが注目したのがクラウドファンディングでした。すでにDouble Fine AdventureがKickstarterでの資金調達で知られていました。

    最新の技術を使ったゲームはお金がかかります。流石に最新技術を使ったゲームを開発する資金はクラウドファンディングでは調達できません。そこで、斜め視点の古き良きロールプレイングゲーム(Isometric RPG)を開発することにします。

    ゲーム開発が難しい理由

    ジェイソン・シュライアーによるとゲーム開発が他のソフトウェア開発より難しい理由が四つあります。

    1. インタラクティブな操作
    2. 常に技術革新が起きている(地震の時にビルを建設するようなもの)
    3. ツールが常に変わる
    4. 計画がほぼ不可能(プレーできるようになるまで完成を計測できない)

    ObsedianがKickstarterで資金調達をはじめた”Pillars of Eternity“も古き良きRPGではありましたが、同じ理由で苦しむことになります。例えばマップをどれくらい作ればいいのか?などプレプロダクションで決めます。スケジュールが間に合わない場合は機能を削ったりします。しかし、クラウドファンディングの場合はすでに機能を約束してしまっているため、それができません。

    また、ツールをSoftimageからMayaに変更しましたが、素晴らしい体験を生み出すまでMayaをマスターするには時間がかかります。これは大規模な開発会社でも同様で、BioWareも”Dragon Age Inquisition”開発時に親会社で出版会社のEAが開発したゲームエンジン”Frostbite“を使用しなければならず、苦労しました。

    結局、クラウドファンディングで調達した資金だけでは足りず、Obsedianは自己資金も投入する必要がありました。それでも、”Pillars of Eternity”は大ヒットし、Obsedianははじめて独自の資産(著作権など)を手に入れることができました。

    この本では同様のクラウドファンディングのケースとしてYacht Club Gamesの横スクロールのアクションゲーム『シャベルナイト』も紹介しています。

    ゲームのブートストラップ

    この本で紹介されているエピソードの中で特に面白いと思ったのがエリック・バローンがたった一人で4年半かけて開発した『スターデューバレー』です。以前にブートストラップ(自己資金)のスタートアップを紹介するシリーズを掲載しましたが、『スターデューバレー』はブートストラップ(自己資金)というだけでなく、ソロ(一人)です。

    エリック・バローンは大学卒業後にソフトウェアエンジニアとしての就職先を探しますが、見つかりませんでした。そこで、ソフトウェアエンジニアとしての経験を積むために個人でゲームを作りはじめます。『牧場物語(音が出るので注意)』が好きで彼女のアンバー・ヘイグマンと一緒にプレーしていたので、同じようなゲームを作ることにします。

    彼女とシアトルのダウンタウンのワンベットルームのアパートで暮らすことになりましたが、エリックの収入はゼロ。アンバー・ヘイグマンがアルバイトをしながら生活費を稼ぎます。これを4年半も続けるのですから、アンバー・ヘイグマンの役割は相当デカいですよね。

    PCゲームの一番大きな流通チャネルはSteamですが、審査が厳しいためエリックのような実績のない個人の開発者が流通に乗せるのは難しいものがありました。しかし、当時はSteam Greenlight(現在は終了。Steam Directへ移行)というある種のクラウドファンディングの仕組みがあり、ユーザーが自分の好きなゲームを投票する仕組みがありました。ここで多くの投票を集め、Chuclefishという小規模のゲーム出版会社と契約することができました。

    この本はどんな人にオススメか

    まず、ゲーム業界にいる人やゲーム業界に興味のある人にはオススメです。そして、洋物ゲームが好きな人にもオススメです。ここで紹介されているエピソードのほとんどはThe Witcher 3など超有名タイトルなので、プレーしていないまでも名前は聞いたことがあるゲームばかりです。

  • 書評|統計ではわからない「なぜ」の科学|”The Book of Why” by Judea Pearl【2018年夏休み読書週間】

    書評|統計ではわからない「なぜ」の科学|”The Book of Why” by Judea Pearl【2018年夏休み読書週間】

    ビジネスの現場ではデータを読み取って「なぜそうなるのか?」を考えたり、話し合ったりする場面は多くあります。知りたいのは「広告を出せば売上が伸びる」とか「この薬を飲めば風邪が治る」といった単純なことです。でも、これまでの統計学ではなかなかそこまで踏み込んだことは言えませんでした。

    また、データを理解することは人工知能やそれを実現する機械学習にとっても重要です。データの相関関係だけでなく、「なぜ?」を理解する人工知能は実現するのでしょうか。相関関係だけでなく、因果関係がわかることで、人工知能にどのような影響があるのでしょうか?

    今回紹介するジューディア・パールの”The Book of Why”は「なぜ?」の学問である因果推論(Causal Inference)を紹介する本です。

    The Book of Why: The New Science of Cause and Effect

    The Book of Why: The New Science of Cause and Effect

     

    [:contents]

     

    この本では伝統的な統計学と因果推論の歴史的な成り立ちと、どのように様々な課題を解決してきたのかを解説します。例えば因果推論の源流となる「パス解析」が伝統的な統計学から長い間無視されてきたことなど。

    統計では「相関関係と因果関係は違う」と言われます。統計では「AとBは相関関係がある」とはいえますが、十分に「Aが原因でBが起った」とは言えません。もちろん、因果関係を説明しようとする試みはありました。重回帰分析とか回帰不連続デザインとか様々な手法が統計学の延長として生まれました。そして、これらはデータ解析ソフトを使えば簡単に計算できます。相関係数(AとBがどれくらい強い関連性があるか)くらいならExcelでも出せます。しかし、この本でジューディア・パールは重回帰分析は因果推論として不十分だと言っています。

    日本で出版されている因果推論(Causal Inference)に関する書籍を読むと、因果推論は伝統的な統計学の延長線上にあるように説明されていることが多いです。「介入」や「反事実」など因果推論の用語も使っています。しかし、ジューディア・パールがこの本で紹介する因果推論は伝統的な統計学とは違うものです。日本で出版されている因果推論に関する書籍を読む時にこの点は注意したほうがいいと思います。

    伝統的な統計学でできること、できないこと

    例えばある種の都市伝説として有名なデータ分析の事例で「男性はオムツとビールを一緒に買う傾向にある」があります。しかし、「ビールを買う原因はオムツを買うこと」とは言えません。統計では「なぜビールを買う時にオムツも買うのか?」の質問には答えられません。

    比較テストをして原因を特定する方法もあります。WebでやるA/Bテストなんて代表的な例ですよね。AとBの結果を比較して、Aのほうが良ければAを採用する。このようは比較テストは聖書の時代から行われていて、新しい手法ではありません。統計ではランダム化比較試験といいます。WebのA/Bテストならデータが取れるからいいのですが、多くの場合はデータが取れませんし、バイアスの可能性も排除できません。つまり、一般的に適用するには不十分な手法です。

    喫煙が肺がんの原因と証明するのも伝統的な統計学では時間がかかりました。伝統的な統計学でのランダム化比較試験が因果推論の手法として有効ならば、喫煙と肺がんの因果関係はもっと早く認められていました。推計統計学を確立したロナルド・フィッシャー自身も喫煙と肺がんには因果関係はないと強固に主張してきました。フィッシャーの主張を要約すると以下になります。

    「喫煙と肺がんに相関関係はあるが、喫煙は肺がんの原因とは言えない。なぜなら、肺がんになる原因となる遺伝子があり、その遺伝子を持つ人はタバコを吸う衝動が生まれる可能性がある」

    因果推論が解決できること

    ジューディア・パールの提唱する因果推論は、伝統的な統計学が解決できなかった多くのことを解決することができます。ジューディア・パールの提唱する因果推論を非常に簡単に要約するとモデル(因果ダイアグラム:Causal diagram)とデータで因果関係をよりよく理解できる手法です。伝統的な統計学はデータだけで因果関係を描くモデルがありませんでした。

    この本では因果ダイアグラムを描くためのツールも紹介していて、それぞれどのような統計学的な課題を解決できるのかを説明しています。例えば「モンティ・ホール問題」という有名なパラドックスがあるのですが、これも因果ダイアグラムで説明ができます。この他にも「シンプソンのパラドックス」など因果ダイアグラムで解説しています。

    また、統計的手法に関して「オーバーコントローリングの問題」や「交絡」の問題を因果ダイアグラムの手法(バックドア、フロントドア、Do演算子、Do計算法など)がどのように解決するのかも解説しています。

    この他にも「反事実」の検証方法などが紹介されています。構造方程式モデリング(SEM)をどのようにノンパラメトリックに取り込むのかなど。この辺りは本の後半になるのですが、流石にボクもこの辺りになるとついていけなくなりました。前半も完全に理解できたかかなり怪しいものですが。

    「なぜ?」が理解できる人工知能は生まれるか?

    ジューディア・パールは人工知能においても第一人者で、機械学習の一種であるベイジアンの発展に大きく寄与してきました(機械学習の種類に関してはペドロ・ドミンゴスの”The Master Algorithm”参照)。

    www.catapultsuplex.com

    では、因果推論は人工知能にどのような影響を与えるのでしょうか?「答えはデータの中にある」と考える人は多いが、そうではないとジューディア・パールは言います。「なぜ?」に答えるにはデータだけでは足りない。答えは人間や仮説検証を繰り返す機械学習が生み出すモデルが必要になります。

    ジューディア・パールによれば因果推論を人工知能に取り入れるメリットの一つにトランスポータビリティーがあります。例えば広告の効果をニューヨーク、ロスアンゼルス、ボストン、トロントで計測したとします。そのデータでアーカンソーでの広告効果を予想できるか?という問題です。ジューディア・パールによればアーカンソーのデータがなくとも因果推論を使うことで選択バイアスを排除して因果関係を分析することが可能になるそうです。

    また、強いAI(人間の脳と同じ能力を持つ人工知能)は因果関係を理解できなければいけないそうです。現在、チューリング・テストで50%以上の確率で人間だと信じ込ませたプログラムはありません。

    どのような人にオススメか

    まず、ここまで読んで興味を持てた人にはオススメできます。特に人工知能やデータ分析に携わる人は読む価値があります。データを使ったマーケティングに携わる人も同様です。この書評では「因果推論とは?」という大きな幹の部分については触れていません。むしろ枝葉の部分だけです。この枝葉の部分の解説を読んで面白いと思った人は、是非この本の幹の部分を読んで見てください。

    この本は文系の人でもわかるように咀嚼されていますが、それでも数式やダイアグラムが多く出てきます。数字やロジックにがキライな人にはオススメできません。ある程度、統計の知識があったほうが読みやすいと思います。読んで見たいけど統計がわからない!という場合は『マンガでわかる やさしい統計学』などで基本的な統計の知識を持ってから読む方がいいと思います。

  • 書評|機械学習の考え方を理解する|The Master Algorithm by Pedro Domingos【2018年夏休み読書週間】

    書評|機械学習の考え方を理解する|The Master Algorithm by Pedro Domingos【2018年夏休み読書週間】

    人工知能(AI)とかディープラーニングとか機械学習とか、自分なりの理解のもとに色々と自分の意見や考え方を持っている方が多いかと思います。そして、正しい認識を持つには正しい理解が必要となります。機械学習でよく言われるガベージ・イン/ガベージ・アウトにならないようにしないといけない。

    今回紹介するペドロ・ドミンゴスによる”The Master Algorithm”はすでに出版されて時間が経っていますが、まだ日本語訳が出ていないようですので紹介します。

    The Master Algorithm: How the Quest for the Ultimate Learning Machine Will Remake Our World

    The Master Algorithm: How the Quest for the Ultimate Learning Machine Will Remake Our World

     

     

    この本は何についての本なのか?

    この本は機械学習の本です。この本を読むことで大まかに「機械学習とは何か」をその歴史背景を含めて理解することができます。

    これまでのプログラム(=アルゴリズム)は人間がプログラムする必要がありましたが、機械学習は自らプログラムを作成するプログラムです。人工知能(AI)を実現するにはいくつかの要素がありますが、「学習」は最も重要な要素です。人工知能の「学習」を実現するのが機械学習です。そして、ディープラーニングは機械学習の一つの分野です。つまり、人工知能という大きなカテゴリーがあって、その要素として機械学習があり、ディープラーニングはその機械学習の一つの分野ということですね。

    すでに理解している人には釈迦に説法ですが、意外とこの部分を理解している方は少ないのでここで説明しました。

    この本は何についての本ではないのか?

    人工知能が人間の脳を超えることをシンギュラリティと言います。この本は人工知能の本ではなく、人工知能を実現するための機械学習の本なので、シンギュラリティーについて詳しく触れていません。つまり、人工知能がどのような社会的な影響を与えるのかといったことはこの本では書かれていません。

    マスターアルゴリズム

    この本の主題はマスターアルゴリズムです。ペドロ・ドミンゴスは機械学習を五つの派閥に分類しています。それぞれに得意不得意があり、現時点で一つのアルゴリズムで全ての課題を解決することはできません。マスターアルゴリズムは全ての課題を解決する一つのアルゴリズムで、それが可能なのかをこの本では考察しています。

    機械学習の五つの派閥(スクール)

    1. シンボリスト(決定木など)
    2. コネクショニスト(ディープラーニングなど)
    3. エボリューショナリー(遺伝子的プログラミングなど)
    4. ベイジアン(ナイーブベイズなど)
    5. アナロジャイザー(サポートベクターマシンなど)

    それぞれの派閥の歴史や考え方が紹介されています。おそらく一番注目を集めているのはディープラーニングだとは思いますが、それ以外の派閥のアルゴリズムも実際には多く利用されています。

    同時に、機械学習が対峙する課題にも触れられています。例えば「ノーフリーランチ定理」とか。No Free Lunchってビジネス英語ではよく使われるのですが、機械学習の問題でもあるんですね。この他にも「XORの問題」や「過剰適合」など。

    これはどうやって日本語に訳したらいいのかわからないですが、”conjunctive concept”もなるほどと思いました。トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』の有名な「幸福な家族はどれも似通っているが、不幸な家族は不幸のあり方がそれぞれ異なっている」ですが、これは機械学習にも当てはまります。この場合、幸せな家族がポジティブな例で不幸な家族がネガティブな例となる。様々なあり方があるので、一つのファクターからはじめて、二つ、三つと増やしていくのだそうです。

    どんな人にオススメか?

    どちらかといえばビジネスマン向けの書籍です。これから機械学習を学ぶプログラマーにもいいですが、技術解説書ではありません。しかし、この本はどんな人にもお勧めという類の本ではありません。技術解説書ではないので技術的な知識は必要ありません。それでも定理の話はよく出てくるので、数学的な素養はあったほうがいいでしょう。必須ではありませんが。ここまでの文章を読んで、「???」とはてなマークが頭の中にたくさん出て途中でやめてしまった人にはあまりお勧めできません。完全に理解できないまでも、拒絶反応がある人には苦痛な本だと思います。でも、ここまで読み進めた人でしたら読んで見る価値があると思います。

    それなりにハードルの高い本ではあるのですが、著者のペドロ・ドミンゴスが言うように理解できないものをコントロールすることはできません。もし、ビジネスで機械学習を利用しようとするのであれば、そしてそれをコントロールしたいのであればこの本は大まかな機械学習についての知識をその歴史的背景とともに説明してくれます。

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  • 書評|クソくだらなくて意味のない仕事が増えている|Bullshit Jobs by David Graeber

    書評|クソくだらなくて意味のない仕事が増えている|Bullshit Jobs by David Graeber

    本来必要ない仕事があったら?そして、その仕事をしている人はそれに気づいていたら?これが今回紹介するデビッド・グレーバーの”Bullshit Jobs”の主題です。様々な調査によると37%から40%の人が自分の仕事がなくなっても何も世の中に影響がないと考えています。さらに、仕事自体は意味があったとしても、意味のないタスクをしていると考える人を入れれば、全体の仕事の50%以上は意味がないことになります。

    なぜそんなことになってしまったのでしょうか?

    ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論

    ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論

    • 作者:デヴィッド・グレーバー
    • 発売日: 2020/07/30
    • メディア: 単行本
    Bullshit Jobs: A Theory

    Bullshit Jobs: A Theory

     

    ケインズ経済学で有名な経済学者のジョン・メイナード・ケインズは人は1930年代に週15時間だけ働けばいいようになるだろうと予測しました。週に5日働くとしたら、一日三時間ですね。ティモシー・フェリスのベストセラー『週4時間だけ働く』のような書籍はありますが、ケインズの予想はまだ実現されていません。そして、本来なら必要ない仕事、なんの価値も持たない仕事が増えています。 デビッド・グレーバーはこのような仕事を”Bullshit Jobs”と名付けました。クソくだらなくて意味のない仕事という意味です。

    Whatever happened to the 15-hour workweek?

    「週4時間」だけ働く。

    「週4時間」だけ働く。

     

    クソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)とは?

    仕事の価値は客観的に定義できません。この本での定義はその仕事をしている本人が自分の仕事自体に意味がなく、なくなってもビジネスは問題なく回り続けると思っている仕事です。つまり、実際にその仕事に携わっている人の主観です。

    本人すら気づいてるほど無意味な仕事。仕事をしていなくても、誰も気づかない仕事。でも、公にはそうは言えない仕事。これが「クソくだらなくて意味のない仕事」の定義です。

    ここではスペインで6年間(ひょっとしたら14年間)全く出社せず、誰も気が付かなかった事例などが紹介されています。これは極端にしても、Yougovなどの調査では37%から40%の人が自分の仕事は全て丸ごと「クソくだらなくて意味のない仕事」だと考えています。

    看護婦や運転手がいなくなったら世の中は大変なことになります。いわゆるブルーカラーの仕事は意味のある仕事ですし、実際にそれに携わる人たちも社会的に意味があると考える傾向があります。自分の仕事がロビー活動家や企業弁護士がいなくなったら?クソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Job)と感じる人は付加価値サービスに携わる人たちに多いようです。

    イヤな仕事(Shit Job)とクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Job)との違い

    イヤな仕事(Shit Jobs)とクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)は違います。世の中にやりたくないイヤな仕事(Shit Jobs)は存在します。どのような職業にもそのような要素は多少なりともあります。劣悪な環境でツラい作業をしなければならなかったり、退屈な作業を繰り返しやらなければいけなかったり。

    しかし、世の中が回るためには誰かがその仕事をしなければなりません。つまり、イヤな仕事だけれど、意味がある仕事です。クソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)は誰もその仕事をしなくても世の中は問題なく回るし、誰もなくなったことにすら気が付かない仕事です。

    クソくだらなくて意味のない仕事の種類

    デビッド・グレーバーは5種類のクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)を紹介しています。これは典型的なクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)で、全てではないそうです。多くの場合はこれらの組み合わせです。

    フランキーズ(下僕: Flunkies)

    誰かの権力誇示のためにだけ存在する仕事。例えば、オフィスのドアマン。電話のアポ取りなど。クビにすると大変なので、とりあえず何か仕事を与える場合もある。他にも、会社での力が部下の数で測られると感じる上司など。

    グーンズ(用心棒:Goons)

    メキシコにとっての軍隊のようなもの。メキシコの国境はアメリカとガテマラとしか接していない。どんな強い軍隊を持っていてもアメリカには勝てないし、どんな弱い軍隊でもガテマラには勝てる。必要のない力。広告のエージェントやテレマーケティングなど必要ないものを必要だと印象操作をするような仕事。印象操作だし、場合によってはアグレッシブな印象を与える。 

    ダクト・テーパーズ(ガムテープ:Duct Tapers)

    根本的に壊れているものをガムテープで補強しながら無理やり使うためにだけに存在する仕事。例えば設計失敗したコアテクノロジーのパッチ開発など。

    ボックス・ティッキング(プロセスのためのプロセス:Box Ticking)

    プロセスを完了することだけが大事で、そのプロセス事態に全く意味がない仕事。例えば、インタビューしてそれをパソコンに入れるが、そのデータを実際に使ってクライアントを満足させることはないなど。プロセスだからやってるが、意味がないことも知ってる。他にもグループ合意をするためのミーティングなのに、誰も合意したことを覚えていないなど。

    タスク・メーカー(無駄な仕事を作る人:Task Makers)

    中間管理者など。フランキーズの仕事を作る人。

    社会的な害悪としてのクソくだらなくて意味のない仕事 (Bullshit Jobs)

    経済理論によればクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)は理想的な仕事のはずです。経済理論によれば最小の努力で最大の結果を生み出すことだから、意味のない仕事で仕事をしたふりをして給料がもらえるなんて素晴らしいことです。

    しかし、実際にはクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)に従事する人は仕事をする意欲をなくし、気持ちが落ち込みます。約5%の人はクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)を楽しんでいますが、多くの人は虚しさしか感じていません。

    クソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)の存在を信じられない人

    創業者や企業の役員はクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)が自分の会社に存在することを信じていません。効率的に組織運営をして利益を出すために働いているのですからそれは当然ですね。しかし、実際には存在しています。だって、全体の仕事の50%はクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)なんですから。少なくとも働いている人たちはそう感じている。

    実際に多くの人たちが自分の仕事を「クソくだらなくて意味がない」と考える理由の一つに不透明性があります。なぜそれが重要なのか誰も説明できない。ひょっとしたら意味のないデータ入力もどこかで使われているのかもしれない。でも、実際にそれを行っている人も、その価値がわからなければ「クソくだらなくて意味のない仕事」をやらされていると感じるでしょうね。他にもいろいろな要因がありますが、これはその一例です。

    創業者や企業の役員の人たちはその現実を認めて、クソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)をなくすためにはどうしたらいいか、ちゃんと考えたほうがいいですよね。

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  • 書評|トランプ時代に崩れ落ちる民主主義|The Death of Truth by Michiko Kakutani【2018年夏休み読書週間】

    書評|トランプ時代に崩れ落ちる民主主義|The Death of Truth by Michiko Kakutani【2018年夏休み読書週間】

    ハンナ・アーレントの1951年の著作『全体主義の起源』によれば、全体主義にとって都合のいいのはナチスや共産党の信者ではなく、事実と作り話の差がわからない人だそうです。そして、それから70年近く経った現在、フェイクニュースやケンブリッジアナリティカが活躍する世界でそのような状態がまた生まれつつあるというのがミチコ・カクタニの書籍”The Death of Truth“の主題です。

    The Death of Truth

    The Death of Truth

     
    ハンナ・アーレント『全体主義の起原』 2017年9月 (100分 de 名著)

    ハンナ・アーレント『全体主義の起原』 2017年9月 (100分 de 名著)

     

     

     

    著者のミチコ・カクタニはピューリッツァー賞の批評家部門で受賞経験もあるニューヨークタイムスでも活躍する文芸評論家です。この本で描かれているのは民主主義の危機です。以前に紹介したジェイミー・バーレットの”People v. Tech”はプラットフォーマーなど技術が民主主義を危機に陥れているという趣旨の本でしたが、ミチコ・カクタニは歴史の揺り返しとして捉えられている(気がします)。そのサインがドナルド・トランプが大統領になったこと。ここはジェイミー・バーレットと同じですね。

    民主主義の基盤としての事実の衰退(Truth Decay)

    事実は民主主義の基盤です。事実に基づいて議論をすることが前提となっている。しかし、この事実が衰退しているというのがこの書籍の主張です。例えばフェイクニュース。それだけでなく、フェイクサイエンスやフェイクヒストリーまで。ハンス・ロスリングの”Factfullness”も世界を事実に基づいて認識するための方法を提示していましたね。人間は「事実」よりも「自分にとっての事実=意見」を信じてしまうものなのです。そして、自分の意見を事実と混同してしまう。

    ランド研究所は「アメリカ合衆国の公益と安全のために、科学、教育、慈善の促進を目的として」設立された非営利組織です。ランド研究所は事実の衰退(Truth Decay)について以下のように定義しています。

    • 「事実」と「事実とデータに基づく分析的な解釈」の隔離
    • 「意見」と「事実」の境界線の曖昧化
    • 「事実」よりも「意見」や「個人的な体験」の影響の増大
    • 「事実」のソースへの信頼の低下

    論理的思考の衰退(Fall of Reason)

    「事実」と同時に「論理」も衰退しています。科学的なアプローチは「仮説」があり、「事実」に基づいて仮説を検証し、それを「理由(=論拠)」として「結論」を導き出します。

    しかし、現在の政治で行われているのは政府がまず「結論」を決め、その「結論」をサポートするために「理由」を考え、「事実」を探します。つまり、科学的なアプローチと逆のことが行われています。政治家が何か問題発言をしても、それは「解釈の問題」とされます。日本でも「誤解を与える表現だった」とよく政治家の方達は言いますよね。アメリカでも同じです。また、「事実」よりも「感情」を優先します。政治家としては選挙民の「感情」が「事実」より大事な場面が多いのです。

    メディアや情報の増加は多くのバージョンの事実が存在して、人によってそれは変わるという考えを生み出しました。そして、事実は代替可能で変質するものとなりました。例えば、どれだけ専門家がデータで証明しても、地球の温暖化を信じない人たちがいます。歴史も多くの場合はそれを書く人たちにとって都合がいいように書かれています。しかし、それでもどこかに事実はあって、その事実は科学的に発見できると考えています。

    日本はどうなのか?

    日本でも右翼と左翼の議論が「事実」ではなく「自分にとっての事実=意見」を前提にネット上で空中戦をしていますよね。共有された「事実」を元に議論して解決するのが民主主義なのですが、そもそも共有された「事実」について合意できていません。事実より感情が上回っています。

    もちろん、陰謀説もたくさんあります。ネットには陰謀説が溢れています。そういう意味では事実の衰退(Truth Decay)は日本でも起きていますよね。

    一方で、チェックアンドバランスも機能している部分もあります。(もっと議論すべき大事なことはあるだろうとは思いつつ)モリカケ問題で政府の隠蔽体質が明るみに出ました。日大もこれまでスキャンダルをのらりくらり風化させてきた歴史がありますが、アメフト問題ではその責任の所在を明らかにしようとする力が働いています。フェイクニュースを拡散していたDeNAのキューレーションメディアも閉鎖に追い込まれました。これはこれで日本では事実を知ろうとする力がまだ働いている健全なサインではないかと思います。

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  • 書評|差別するデザイン|”Technically Wrong” by Sara Wachter-Boettcher【2018年夏休み読書週間】

    書評|差別するデザイン|”Technically Wrong” by Sara Wachter-Boettcher【2018年夏休み読書週間】

    デザインは人を傷つけます。そして、場合によっては死に至らせる可能性もあります。このことについてはすでに翻訳が出ているジョナサン・シャリアートとシンシア・サヴァール・ソシエによる『悲劇的なデザイン』(デザイナー必読)でも詳しく紹介されています。

    このような悪いデザインの危険性は最近になってようやく認知する動きが出てきました。単にオシャレでキレイなだけでなく、もっと大事なものだという認識。今回紹介するサラ・ワッターーボーチャーの”Technically Wrong“もこのようなトレンドの中から生まれた書籍です。

    Technically Wrong: Sexist Apps, Biased Algorithms, and Other Threats of Toxic Tech

    Technically Wrong: Sexist Apps, Biased Algorithms, and Other Threats of Toxic Tech

     
    悲劇的なデザイン

    悲劇的なデザイン

    • 作者: ジョナサン・シャリアート,シンシア・サヴァール・ソシエ,高崎拓哉
    • 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
    • 発売日: 2017/12/27
    • メディア: 単行本
    • この商品を含むブログ (2件) を見る
     

    ここでは全てを紹介することはできませんが、特に印象に残ったチャプターを紹介します。

     

    組織の問題:テクノロジー企業の大部分を占める「若い白人男子」の文化

    FacebookやGoogleといった大企業の開発者やデザイナーの大部分は若い白人男性です。ダイバーシティーに注力していますが、開発やデザイン分野のダイバーシティーに関して実際にはほとんど改善はありません。この辺の問題提起はシリコンバレーの白人男性至上主義を描いたエミリー・チャンの”Brotopia“にも通じるものがありますね。

     

    Brotopia: Breaking Up the Boys' Club of Silicon Valley

    Brotopia: Breaking Up the Boys’ Club of Silicon Valley

     

     

    ダイバーシティーの問題に関しては多くの企業も気がついているのだけれど、それを解決できていない。企業側の言い分としてはマイノリティーに人材がいない。「パイプライン」の問題(=企業は採用する気はあるが候補者がいない)なのですが、黒人女性がキャリアフォーラムなどにいっても無視されるというのが現実だそうです。つまり、本当はパイプラインはある(候補者はいる)のに無視する。

    また、「若い白人男性」以外に門戸を開いていたとしても、最終的な採用判断には「企業文化適応性 (Culture Fit)」が求められます。既存のカルチャーは「若い白人男性」なので、そこにフィットしない人は採用されません。

    採用されたとしても、その意見が採用されるとは限りません。実際の女性向けスマートウォッチ開発プロジェクトで唯一の女性メンバーの意見は全く聞き入れてもらえなかったそうです。きちんとしたUX調査をしてそれを発表しても、「若い白人男性」のステレオタイプの女性の見方とマッチしないために、その調査も採用されなかったそうです。このように実際のニーズではなく、「若い白人男性」のステレオタイプを基準としたデザインが少なくないのが実情なのだそうです。

    デザインの問題:狭い視野と狭いデフォルト

    ユーザーの視点に立つためにたくさんのデザインツールがあります。しかし、それらのツールを使っても、デザイナーやステークホルダーの視野が狭いと有効には使えません。

    ペルソナはUX調査に基づいて代表的なユーザー像を描くことで開発者、デザイナーなど製品開発に関わる人たちがユーザーに共感するためのデザイン手法です。しかし、実際にはペルソナで描かれるユーザー像の範囲は狭く、深く共感することは難しいのが現実です。例えば、生理のトラッキングアプリGlowの開発者は男ばかりでした。ターゲットユーザーはセクシャルにアクティブな妊娠したくないティーン。そのペルソナは理解できますが、実際のユースケースは妊娠したい女性もいます。しかし、男性にはそれが理解できません。

    デザイナーの世界では想定しないユーザーをエッジケースと呼びます。しかし、想定するユーザーは「若い白人男性」が想像できる範囲内です。そして、それ以外はエッジケースとされてしまいます。例えばペルソナで会社のCEOに黒人女性の写真を使うと不採用になります。ステークホルダーにはリアルだと思えない。ニーズや動機が重要であって、見た目は重要ではないのに。ステレオタイプがデフォルトになります。例えばAmazon Alexaの声。アシスタントという言葉は「若い白人男性」には女性を想起させるようです。なぜボイスアシスタントは女性の声なのでしょうか?

    この本ではなるべく多くのユーザーのストレスを軽減するために「ストレスケース」の採用を提案しています。

    Identify “Stress Cases” and Design with Compassion: Eric Meyer

    選択の問題:ユーザーを理解できないためのガベージ・イン

    ユーザーを理解してユーザーに最適な提案をする。そのために行動データやプロフィールを集めます。正しい情報を入れれば正しい結果を得ることができますが、間違った情報を入れれば、間違った結果が返ってきます。これを「ガベージ・イン/ガベージ・アウト」と言います。

    しかし、実際に正しい情報をユーザーが提供することは難しい場合がります。例えば、アメリカのインディアンはFacebookで本当の名前を使えないことがあります。Facebookの本名のポリシーに適合しないからです。例えばChase Iron Eyes(鉄の目を追う)が本名だとしても、Facebookにとっては偽名になってしまいます。

    Facebook: Native American Names ‘Inauthentic’ | Time

    Facebook Name Police: Native American Names Aren’t ‘Authentic’ Enough – IndianCountryToday.com

    また、選択の不自由もあります。アメリカの国勢調査では人種の選択は白人/黒人/アジア人/その他です。メキシコ系アメリカ人はこの場合は「白人」なのですが、多くのメキシコ系アメリカ人は「その他」を選んでしまいます。

    多くのサービスはユーザーに性別を聞きます。これはセグメンテーションとレコメンデーションなど分析のためなのですが、選択肢は男性/女性しかありません。しかし、トランスジェンダーは?これらもエッジケースとして無視したとして、それで正しいユーザープロフィールになるのかという問題があります。

    また、英語の名前だとMrやMsなどタイトルがあります。これもユーザープロフィールの質問でよく聞かれます。これもトランスジェンダーには難しい選択肢ですよね。しかも、英語の場合はDrやSirなどあります。イギリス政府のデザイン機関であるGDSはタイトルの質問をすることをやめました。選択肢を増やすのではなく、不正確な情報しか得られないのであれば聞くのをやめるという選択肢もあるわけです。

    Names – GOV.UK Design System

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  • 書評|シリコンバレーのユートピアドリームから目を覚ませ|”People vs Tech” by Jamie Bartlett【2018年夏休み読書週間】

    書評|シリコンバレーのユートピアドリームから目を覚ませ|”People vs Tech” by Jamie Bartlett【2018年夏休み読書週間】

    これまで新しいテクノロジーで古い仕組みを壊すことはいいことだとされてきました。既得権益にあぐらをかいている古い業界を新しくする。そして、多くの場合、新しいテクノロジーを使うのは小さなスタートアップで、古い仕組みと既得権益にしがみつくのは大企業。ダビデとゴリアテ。でも、本当にそうでしょうか?

    確かに、この構図は存在していました。GoogleもFacebookもAmazonも最初はスタートアップだったのですから。しかし、UberやAirbnbのようなユニコーンですら今は日本の大企業より大きな資産価値評価です。このようなプラットフォーマーは大きすぎてすでに小さな英雄ダビデとは言えない。彼ら自身が大きなゴリアテになってきている

    今回紹介するジェイミー・バーレットの書籍”People v. Tech”の主題は技術による民主主義への攻撃です。

    The People Vs Tech: How the internet is killing democracy (and how we save it)

    The People Vs Tech: How the internet is killing democracy (and how we save it)

    操られる民主主義: デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか

    操られる民主主義: デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか

     

     

    このような論調や警笛は最近のメディアでは増えてきています。Facebookとケンブリッジアナリティカの事件でマーク・ザッカーバーグは上院の公聴会の出席を余儀なくされました『ザッカーバーグ氏が議会で証言、情報流出を謝罪 ロシアと「軍拡競争」』。また、日本ではあまり報道されていませんがUberもドライバーが最低賃金ギリギリしか収入を得られないことで批判にさらされています “Uber Better Not Be the Future of Work“。このようなプラットフォーマー寡占について書かれたスコット・ギャロウェイのベストセラー”Four“もその代表ですね。

    前提1:反面教師としての「悪の帝国」マイクロソフト

    Google、Amazon、FacebookやApple(GAFA)以前のプラットフォーマーはMicrosoftでした。そして、Microsoftは「悪の帝国 (Evel Empire)」と言われてきました。そして最終的には独禁法で訴えられるに至ります。アメリカ合衆国対Microsoft(United States v. Microsoft Corp.)の裁判です。

    Google、Amazon、FacebookやAppleは同じ道をたどりたくありません。だから、「悪の帝国」と見られないような発言を心がけます。以前のGoogleのモットーだった「悪にならない (Don’t be evil)」もその意識の表れとも言えます。「好かれる企業イメージ」はGAFAにとって非常に重要です。Uberは創業者のトラビス・カラニックを追放しましたが、そうしないとUberのイメージが悪くなる一方だったからです。 彼の行動は目に余るものがありました。Uberの運転手に暴言、元社員にセクハラ、ユーザーの利用状況を閲覧できるデータベースの不適切な利用などなど。

    「悪の帝国」時代のマイクロソフトより良い印象を与えたとしても、寡占状態のプラットフォーマーの持つ危険性は変わらないし、当時のマイクロソフト以上の危険性があります。

    前提2:サイバースペース独立宣言とテクノロジーユートピア

    サイバースペース独立宣言」はグレイトフル・デッドの作詞家であり電子フロンティア財団の共同設立者のジョン・ペリー・バーロウがインターネットとインターネット上での活動は統治できないし、されるべきではないとダボス会議の期間中にメールで宣言したものです。

    では、そのユートピア思想は民主主義よりも尊いものなのか?というのが今回紹介する”People vs Tech”が投げかけている疑問です。

    民主主義の敵としてのテクノロジー

    今回紹介するジェイミー・バーレットの書籍”People v. Tech”が面白いのは個別企業の独禁ではなく、民主主義の敵としてテクノロジーを位置付けているところです。つまり、アメリカ合衆国対グーグル(United States v. Google)のような個別企業との独禁法での争いではなく、民主主義対テクノロジー(People v. Tech)です。

    ジェイミー・バーレットによれば民主主義には6つの柱があります。

    1. 活発な市民(Active Citizens)
    2. 共有された文化(Shared Culture)
    3. 自由選挙(Free Election)
    4. ステイクホルダーの品質(Stakeholder Quality)
    5. 自由競争(Competitive Economy)
    6. 権威に対する信頼(Trust in Authority)

    これら全ての民主主義の柱に対して現在のテクノロジーは攻撃を与えているというのがこの本の趣旨です。これら全てを紹介することはできませんが、この中から代表的なものをピックアップして紹介します。ちなみに最後の「権威に対する信頼」はサイファーパンクについてでここだけプラットフォーマーじゃないんですが、これはこれで面白いなーと思いました。これはテクノロジーというより「完全自由主義」対「民主主義」ですね。本来は対立する考えではないのですが、この本ではそのように捉えられています。

    自由選挙の危機

    ドナルド・トランプが勝利した2016年アメリカ合衆国大統領選は選挙を変えたと言われています。デジタルキャンペーンが選挙の結果に大きな影響を与えることを証明しました。そしてロシアなどの外国がデジタルツールを使ってアメリカの大統領選に影響力を与えることができると証明しました。

    トランプは大統領選で徹底的にデジタルキャンペーンを行いました。それがProject Alamoです。Project Alamoでは「ダークアド」と言われるデータを徹底的に活用した手法が展開されました。個人データの不正利用で有名となったケンブリッジアナリティカも深く関わっています。テレビ広告でもサブリミナル効果の使用など問題になりますが、Project Alamoでは選挙民のWebのデータを分析して徹底的なマイクロターゲティングを行い、最適化されたメッセージを配信し続けました。トランプ本人ではなく、Project Alamoのスタッフたちがメッセージを作成、A/Bテストで最もエンゲージメントが高いメッセージに仕上げていきます。

    もし、政治家が有権者の行動データを使って投票行動まである程度操作できるのであれば、それは自由選挙に対する大いなる攻撃ですね。

    文化とアイデアの独占

    プラットフォームは寡占状態を生み出します。検索ならGoogleだし、ソーシャルネットワークならFacebook、eコマースならAmazon。競争がないわけではない(=独占状態ではない)のですが、ネットワーク効果で彼らの存在は突出(=寡占状態)します。新しい競合も生まれますが、プラットフォーマーは競合の芽が小さいうちに買収します。

    以前であれば独占や寡占の弊害は価格の操作でした。競争相手がいないから価格を高く維持できる。しかし、現代の独占や寡占の問題はパワーとデータの集中です。これにより、価格の操作よりさらに重大な「文化の操作」ができます。

    アメリカではオンライン海賊行為防止法案に反対するため、Googleはキャンペーンを仕掛けます。この法案は否決されてしまいます。問題はGoogleがその法案に反対していることではありません。いい法案なのか、悪い法案なのかでもありません。Googleがトップページでキャンペーンを行うことで、多くの人に影響を与えることができたということです。そしてそのような影響力を行使できるのはGoogleのような限られた企業だということです。寡占状態なのですから。

    他にもUberはChange.orgを使ってロンドンの規制と戦うキャンペーンを行ったり、Airbnbはホストのコミュニティー(ホームシェアリングクラブ)を作り、そのコミュニティーから地方政治にアピールするキャンペーンを行ったりしています。ロビー活動は企業に認められた権利ですし、その主義主張も間違っていないのかもしれません。問題はこのようなキャンペーンを行って影響力を行使できるのが限られたプラットフォーマーだけだということです。ソフトバンクの孫さんはたまにポジショントークをやりますが、あれを組織的にやってるようなものです。

    日本人が考えなければいけない大切なこと

    日本の場合は「ダビデとゴリアテ」というよりは「ペリーの黒船来航」に例えたほうがいいのかもしれません。変われない日本の業界を変えてくれる海外の先進企業。ただ、中国をみてもわかるように外に変えてもらうより、中から変わったほうがいいんですけどね。

    海外の先進企業を盲信するだけでなく、プラットフォーマーがどのような批判にさらされているのか、きちんと理解することも大切です。日本のゴリアテ(伝統的な業界)が海外のゴリアテ(プラットフォーマー)に変わっただけになったら意味ないですよね。利用できるところは利用する。でも、自分たち自身がいいように利用されないように細心の注意を払う。それくらいのしたたかさが必要でしょう。EUなんていい例です。

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  • 書評|チンパンジーより世界を正しく認識する方法|”Factfulness” by Hans Rosling

    書評|チンパンジーより世界を正しく認識する方法|”Factfulness” by Hans Rosling

    まずは13の質問に答えてください。この質問はGoogle Formで作成され、回答は全ての質問に答えた後に表示されます(一人一回しか回答できないためGoogleのログインが必要です)。多くの答えが間違っていても、ガッカリする必要はありません。ダボス会議の参加者を含む多くの人たちがチンパンジーより悪い成績だったのですから。

    FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

    FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

    • 作者: ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド,上杉周作,関美和
    • 出版社/メーカー: 日経BP社
    • 発売日: 2019/01/11
    • メディア: 単行本
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    Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About The World - And Why Things Are Better Than You Think

    Factfulness: Ten Reasons We’re Wrong About The World – And Why Things Are Better Than You Think

     

     

    [:contents]

     

    チンパンジーは何も考えずに答えを選ぶからほぼランダムです。つまり、三つ選択肢があれば33%の確率で正解します。なぜ多くの人がこの質問に関してチンパンジーより成績が悪いのか?というのが今回紹介する書籍『ファクトフルネス “Factfulness”』の主題です。

    なぜ人は正しい世界認識をしていないのか?

    簡単に言えば人の世界認識は70年代や80年代からアップデートされていません。昔のイメージの世界観でいまの世界を見てしまっている。これは教育やメディアが悪いわけではなく、高学歴で社会的にも大きな影響を与えているダボス会議の参加者もチンパンジーより悪いスコアだったそうです。それには様々な理由があって、多くの場合はバイアスで正しいデータを間違った見方をしてるからです。なるほど、ダボス会議に参加しているビル・ゲイツがこの本を勧めるわけです。

    そして、そのバイアスを矯正して正しい見方ができるヒントを「ファクトフルネス」として紹介しています。ここでは全てを紹介できませんが、代表的な「ファクトフルネス」を紹介します。

    世界は悪いけど良くなっている

    悪いことほど目につきやすい。そして、「世の中は悪くなっている」と考えてしまう傾向にあります。「昔はよかった」と懐かしむのはいいのですが、「昔は悪かった」ことはあまり覚えていません。

    実際にデータを見ると多くの悪いことは良くなっています。最貧国に住む人は半分に減りましたし、女性も教育が受けられるようになりました。もちろん、パーフェクトな状態ではない。「悪い」かもしれない。けど、「良く」なっている。

    世界は二つに分かれていない

    最近は発展国と発展途上国という区別をしません。富める国と貧しい国。実際に多くの人が住んでいるのはどちらでもなく、中くらいの国です。二つに分けるのはシンプルでわかりやすいですが、間違っていては意味がありません。

    多くの人は世界は二つに分かれていて、その間に大きなギャップがあると考えています。しかし、その考えは大抵間違っていて、多くの人は実は真ん中にいるのです。貧しい人と裕福な人の間にある中間所得者層が多いのです。

    国連では発展国と発展途上国という二つの区切りではなく、レベル1(徒歩)、レベル2(自転車を所有)、レベル3(バイクを所有)、レベル4(クルマを所有)という四つの区分を使っています。日本やアメリカはレベル4です。そして、レベル4から見るとレベル3以下は貧しくみえる。

    「富める国と貧しい国の二極化してその差は広がっている」という世界観は正しくない。実際はレベル1だった国はレベル2に上がり、レベル2だった国はレベル3に上がってきている。一番多いのはレベル2とレベル3の国なんですね。そして、レベル4の国も増えてきている。

    線は直線とは限らないし、曲線もいろんな形がある

    このまま人口が増え続けたら地球は人間だらけになってしまう!と心配したことありませんか?それは人口が直線的に増えると考えてしまうからです。実際には子供の数は全く増えないので、人口の伸びも徐々に鈍化していくと予想されています。

    これは前に紹介したジェフリー・ウエストの”Scale”でも指摘されていましたが、人間はどうしても直線的に考えてしまいます。線は直線とは限らず、曲線にも色々な形があります。

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  • 書評|コープのソーシャルプラットフォーム|”Ours to Hack and to Own” by Trebor Scholz and etc

    書評|コープのソーシャルプラットフォーム|”Ours to Hack and to Own” by Trebor Scholz and etc

    注目されるスタートアップの歴史を書こうと考えた時、どうしても食指が動かなかったのがUberです。そもそもビジネス自体に共感が持てない。創業者たちがどのような社会を作ろうとしているのかわからないですが、便利と搾取の等価交換な気がしてならない。社会的に新しく生まれる価値はプラマイゼロ。

    そう考える人はやっぱり多くて、今回取り上げる”Ours to Hack and to Own“もソーシャルメディアやシェアリング経済に懸念を持つ人たちがプラットフォーム・コーポラティズムという概念の元にそれぞれの考えをエッセーをまとめたものです。

     

    Ours to Hack and to Own: The Rise of Platform Cooperativism: A New Vision for the Future of Work and a Fairer Internet

    Ours to Hack and to Own: The Rise of Platform Cooperativism: A New Vision for the Future of Work and a Fairer Internet

     

     

     

    コーポラティズムとは

    企業はコーポレーションですよね。通常は株主が出資して事業をする組織。そして、労働者が出資して作る企業をコープと言います。日本だとスーパーの生協のイメージが強いですが、スーパーマーケットに限らず社員自身が出資して作る企業はコープです。コーポラティズムはこのコープからきています。

    シェアリング経済やクラウドソーシングは搾取の仕組み?

    Uber自身は何も持っていません。運転手も正社員ではないですし、クルマも運転手のもの。所有しないことにより社会保障費を払う必要がありませんし、クルマという資産に対する税金もかかりません。レビューシステムでサービスの質を担保していますが、これもある種の労働者の監視システムとも言えます。

    パフォーマンスレビュー(年次評価)が社員のやる気を起こさないことがわかってから、多くの企業は正社員に対しての年次評価を廃止しています。

    しかし、Uberの運転手やランサーズクラウドワークスのようなクラウドソーシングで働くフリーランスは正社員ではないのに常にレビューシステムにより評価されます。それでも、より多くの対価が得られればいいですが、多くの場合は正社員より低い対価で働くことになります。プラットフォーム側には都合のいい仕組みで、点数の悪いドライバーは「解雇」できる。でも、点数が良くてもドライバーにとっていいことはまったくない。アメがなくムチしかない。

    コープ方式のプラットフォーム

    だったら、フリーランスやUberの運転手が自分たちでプラットフォームを作って運営したら?というのがプラットフォーム・コーポラティズムです。タイトルのOurs to Hack and to Own (自ら作り所有する)というタイトルはここからきています。

    コープは特にヨーロッパで成功している企業が多く、スペインで7番目に大きなビジネスで10万人以上の雇用を生んでいるモンドラゴンとか有名ですよね。優良企業の事例としてよく取り上げられるので、ご存知の方も多いでしょう。

    確かにコープ方式のプラットフォームという考え方は魅力的ですよね。ただ、アイデアは実現しないと意味がない(Idea is free, execution is priceless)ので、このプラットフォーム・コーポラティズムのコミュニティーから早く何か生まれるといいですね。

    以前に紹介したFacebookのトークン化はこの考えに近いですね。

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  • 書評|バーチャルリアリティーの歴史|Dawn of the New Everything by Jaron Lanier

    書評|バーチャルリアリティーの歴史|Dawn of the New Everything by Jaron Lanier

    ジャロン・ラニアーはヴァーチャルリアリティーを商用製品としてはじめて世に送り出したVPL Researchの共同創業者で「VRの父」と呼ばれる人です。VR自体はずっと前に生み出されているので、彼自身はその称号にあまり心地よさを感じてはいないようですが、間違いなくVRのパイオニアの一人です。

    日本でも彼の著作が翻訳されていますが、ボクはこの本がはじめて。内容的にはジャロン・ラニアーの生い立ちとヴァーチャルリアリティーの解説の二つの軸が入れ替わるように進んでいきます。トマス・ピンチョンがたまに出てきますが、「ああ、こういうのが好きなんだなあ」感がひしひし伝わってきます。つまり、読みづらいけど面白い。

     

    Dawn of the New Everything: A Journey Through Virtual Reality

    Dawn of the New Everything: A Journey Through Virtual Reality

     

     

    ジャロン・ラニアーの生い立ち

    まず、ジャロン・ラニアーの生い立ちが面白い。家庭の大黒柱で彼にとっても精神的な支柱であった母親を若くして亡くしたことが彼の人生に大きな影響を与えます。母親が家計を支えていたので、父親が働くことに。母親が残してくれたお金で買った家が完成前に放火で焼失。数年間父親とテント暮らしをします。

    ジオデシック・ドームの家

    いろんなことに興味があって、オシロスコープを家に照射してハロウィーンの演出をしたりしていたそうです。テント暮らしで少しづつお金がたまり、それで徐々に家を建てました。父親はジャロンに家を設計させてくれました。そこでジオデシック・ドームを設計して二年かけて完成させます。普通の子供はオシロスコープで遊んだりジオでシック・ドームの家を作ったりしませんよね。

    権威も学位も何もないアヴァンギャルドサイケデリックヒッピー

    高校はあまりいかず、ニューメキシコ州立大学でなんとなく講義を受けます。そして、そのままニューメキシコ州立大学に入ってしまったそうです。プログラミングはここで覚えます。そのあとはニューヨークに行ってミュージシャンをしたり、恋人についてロサンジェルスまで行ったりします。基本的に無職の放浪生活。なんとなくジャック・ケルアックの『路上』を彷彿させます。ビートではなく、アヴァンギャルドサイケデリックヒッピー風ではありますが。ジョン・ケージとか出てきます。

    ふとしたきっかけで国境の川べりに沈んでいたクルマをもらい、それでシリコンバレーに行きます。スクリュードライバーでエンジンスタート。最初はミートアップのスピーカーとして呼ばれたそうです。そこでヴァーチャルリアリティーの話をしたのがシリコンバレーにきたきっかけ。ストリートミュージシャンをしながら生計を立てていたそうですが、ゲーム会社に就職してようやく社会人デビュー。アラン・ケイやスティーブ・ジョブズなどいろんな人が登場してきます。また、Suicide ClubとかSurvival Researchとか失われた当時のシリコンバレー文化についても触れられています。

    シリコンバレーでビデオゲームのプログラミング。そのお金でVRの会社を立ち上げ。ビジュアルを操作できるコンピュータはまだなかったので、最初はプログラム言語の開発。これがバーチャルリアリティーとしては初めての商用セットRB2 (reality built for two)を開発するVPL Researchとなります。でも、一番売れたのはEyePhoneとDataGloveだそうです。

    バーチャルリアリティとは

    この本では50以上のバーチャルリアリティーの定義が紹介されています。つまり、バーチャルリアリティーはいろんな意味に捉えることができる。それがこの本のタイトル”Dawn of the New Everything”の由来となっているのでしょう。バーチャルリアリティの定義の一つが「脳と感覚のシミュレーション」です。人間の脳は直接風景を見ることはできませんよね。目というセンサーを通じて見ることができる。これをジャロン・ラニアーは潜水艦と潜望鏡の関係に例えています。

    人間にはたくさんのセンサーがあります。皮膚にもたくさんのセンサーがある。熱を感じるセンサー、痛みを感じるセンサー、摩擦を感じるセンサー。パブリックイメージではゴーグルがバーチャルリアリティーですが、バーチャルリアリティーは視覚だけではないんですね。ポケモンGOもそういう意味ではバーチャルリアリティーなんです。

    バーチャルリアリティーに関する素朴な疑問への回答

    アベンジャーズみたいに画面操作できるようになる?

    ハリウッド映画とかで目の前にスクリーンが出てきてそれを操作するシーンとかありますよね。アヴェンジャーズとか。 ジャロン・ラニアーによるとあれは無理なんだそうです。フォトンが物質にあたる必要がある。そうしないと光は発生しない。でも、ナノロボットでそういう操作はできるようになるかもしれない。ナノロボットもバーチャルリアリティーを構成する要素なんです。

    ナノロボットもバーチャルリアリティー?

    例えば、ゴーグルで風景を見たとしても、実際に触れることはできない。でも、ナノロボットでバーチャルな物質を作ればそれを触れることでバーチャルに触れることができる。人間の視覚と触覚を騙すことができる。

    この人間のセンサーを騙すのがバーチャルリアリティーなんですね。少なくともその定義の一つ。

    なんで3D酔いするの?

    あまり長い間、バーチャルリアリティーの世界にいると3D酔いします。バーチャルリアリティーは人間のセンサーを騙す仕組みなので、これがうまくいかないと酔ってしまうわけです。そして視覚を騙すにはトラッキングが重要なのだそうです。このトラッキングの問題は徐々に改善されてきてはいるものの、完全に無くすことは難しいとのことです。まず、個人差が大きい。そして、人間はすぐに慣れて、騙されていることに気づいてしまうんですって。人間ってすごいですね。

    この他にも、LSDとバーチャルリアリティーの違いや明晰夢(Lucid Dream)とバーチャルリアリティーの違いなども解説してくれています。Kinect Hackなど最近のバーチャルリアリティー文化についても触れられています。

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