COVID-19を経験した読者にとって、生物戦は抽象的な軍事上の脅威ではありません。感染症の流行によって人の移動が制限され、職場の運営が変わり、供給網が滞り、社会の分断が深まる過程を、すでに現実として経験したからです。Annie Jacobsenの『Biological War: A Scenario』が描く混乱も、日常生活の延長として具体的に想像できます。
COVID-19の流行が収まった後も、科学者や公衆衛生当局への不信は残っています。十分な情報がなく、専門家を信頼できない人が多ければ、社会として対策を進めにくくなります。こうした経験があるため、本書で描かれる生物戦は、Jacobsenの前作『Nuclear War: A Scenario』で扱った核戦争よりも身近で恐ろしく感じられます。ただし、私が本書で価値を感じたのは、仮想シナリオが描く恐怖よりも、現実の研究を扱った部分でした。
マギー・ハバーマンとジョナサン・スワンの “Regime Change: Inside the Imperial Presidency of Donald Trump” は、第2次政権の最初の1年を、政権関係者への取材から描いた本です。二人はいずれも『ニューヨーク・タイムズ』のホワイトハウス担当記者で、2015年からトランプを取材してきました。ハバーマンはトランプ本人と周辺人物を長く取材し、スワンは第1次政権の終盤から政権復帰への準備を追ってきました。
アメリカのリベラルは逆風の中にあります。党内から、自分たちのやり方を見直すよう求める本が相次いで出ています。ニューヨーク・タイムズのコラムニストEzra Kleinの共著『Abundance』もその一冊です。今回紹介するBen Wiklerによる『This Is the Plan』もその流れにあります。Ezra KleinはBen Wiklerとの対談で、本書の議論が、自分が『Abundance』で書いたことと重なると述べました。
著者のBen Wiklerは、ウィスコンシン州民主党の委員長を2019年から2025年まで務めた人です。委員長は、州の党組織を運営し、資金を集め、選挙に必要な人員を整える役職です。2025年2月には民主党全国委員会の委員長選に立候補し、Ken Martinに敗れました。本書が初の単著で、2026年7月21日にW. W. Nortonから刊行されています。11月の中間選挙に向けて各党が動くさなかの刊行です。
https://docs.legis.wisconsin.gov/misc/lc/issue_briefs/2022/elections/voter_information_kbo_2022_04_07 — ウィスコンシン州議会法制局「Voter Information as Public Record」
ティム・ワイナーの『The Mission: The CIA in the 21st Century』には、匿名の情報源が一人も登場しません。ワイナーは、実名を明かし、発言を記録として残すことに同意した人だけに取材しました。応じた人は100人を超えます。元長官が6人、支局長が13人。身分を伏せて数十年働き、本書の取材を受けるまで記者に一度も話したことがなかった作戦担当官も多数含まれます。取材当時の作戦本部長Tom Sylvesterが実名で取材に応じたのは、1947年のCIA創設以来初めてだ、とワイナーは言います。
取材を断られた例もあります。長官を7年務めたGeorge Tenetは、いったん取材を承諾したものの、前夜になって断りました。ワイナーは「George TenetもGeorge W. Bushも、9月11日のあとに起きたことに取り憑かれている」と述べています。ただし、取材を断った人はごく少数だったと説明しています。
『Rad Future: The Untold Story of Nuclear Electricity and How It Will Save the World』は、2025年8月12日にThesisから刊行された272ページの本です。ThesisはPenguin Random House傘下のレーベルです。著者のイザベル・ボエメケは、原子力の研究者でも技術者でもありません。ブラジル出身で、ファッションモデルとして活動したのち、2020年頃からIsodopeという名前で原子力を擁護する動画を投稿してきました。本書が初の著書です。
その後、アイゼンハワー大統領が国連総会でAtoms for Peaceの演説を行い、原子力を平和目的に利用する動きが始まります。ウォルト・ディズニーは『Our Friend the Atom』という番組を制作しました。核分裂の説明を担当したのは、ディズニーが雇った物理学者Heinz Haberです。ディズニー・ワールドの区域を運営していた特別区には、1967年のフロリダ州法によって、核分裂による発電を行う権限まで与えられていました。この権限が実際に使われることはなく、2023年の州法改正で削除されました。
「そんなことは、みんな知っている」と私たちは言います。英語の common knowledge も、普段はその意味で使われます。「このあたりでは警察に金を渡せば話が通るのは周知の事実だ」といった使い方です。公然の秘密や、集団の中の通念を指します。
哲学、ゲーム理論、経済学では、同じ語がまったく別の状態を指します。これをコモン・ナレッジ(共有知識)と呼びます。ハーバード大学心理学部教授のスティーブン・ピンカーが2025年に出した『When Everyone Knows That Everyone Knows . . . : Common Knowledge and the Mysteries of Money, Power, and Everyday Life』(Scribner)は、この共有知識だけを一冊かけて論じた本です。
過去200年で、貧困も病気も大きく減りました。同じ200年のあいだに、世界の人口は10億人ほどから80億人あまりに増えています。『After the Spike』の著者である Dean Spears と Michael Geruso(ともにテキサス大学オースティン校の経済学者)は、人口の増加と暮らしの改善が同じ時期に起きたことを偶然とは考えません。人が増えたからこそ、暮らしが良くなった面があると論じます。
The Times の書評: https://www.thetimes.com/culture/books/article/after-spike-risks-global-depopulation-case-people-dean-spears-michael-geruso-review-6cm02b6cx
ブルース・シュナイアー(Bruce Schneier)の関心は、技術そのものから、それを取り巻く制度へと広がってきました。暗号とセキュリティの専門家として出発し、Data and Goliath(2015年)では監視によるデータの集中が人を操作する力を生むと論じ、Click Here to Kill Everybody(2018年)では、技術が社会に組み込まれることで生じる危険と規制の必要性を説いています。
その変化が明確になったのが、A Hacker’s Mind(W. W. Norton、2023年2月)です。ハッキングはコンピュータに限った話ではない。システムの規則を、設計者が意図しなかった方法で利用する行為は、広くハッキングとして捉えられる。これが前作の中心的な主張でした。
Lawfare のロイ・L・オースティン・ジュニア(Roy L. Austin Jr.)による書評(2025年12月19日)は、本書を重要な仕事だと評価する一方、AIの実際の性能を十分に検証しないまま、その能力を前提に議論していると批判します。AIへの期待が、現実の能力や利用実態を先回りしている。また、規制を実際に成立させる政治的な困難も過小評価しており、結論部で示される処方箋も弱い。本書は未来への地図というより、現在のAIに対する期待を映した鏡ではないか、という評価です。
日本の読者はまず、政府効率化省(Department of Government Efficiency、DOGE)がどのような組織だったのかを押さえておく必要があります。名前に反して、連邦政府の正式な「省」ではありません。
2025年1月20日、トランプ大統領の就任日に署名された大統領令14158によって、既存のUnited States Digital ServiceがUnited States DOGE Serviceに改称され、その内部に期限付きの臨時組織が置かれました。終了日は、設置の時点で2026年7月4日と定められていました。