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  • 書評|自分のペースで仕事をする大切さ|”It Doesn’t Have to Be Crazy at Work” by David Heinemeier Hansson and Jason Fried

    書評|自分のペースで仕事をする大切さ|”It Doesn’t Have to Be Crazy at Work” by David Heinemeier Hansson and Jason Fried

    いきなり個人的なことですが、ボクは最近になって日本企業で働いています。これまでずっと外資系企業に勤めたり、海外でスタートアップやったりしていたので、日本企業で働くのは本当に初めてのことです。で、これが驚くほどに快適なんですね。なぜかといえば、自分のペースで自分の好きな仕事を存分にできるからなんだと思います。

    自分の仕事が会社に貢献できていると感じることができる。それでいてオフィスにも基本的には定時しかいないし、そのあとは仕事とは関係のない好きなことができる。これほど幸せなことはありません。

    ひょっとしたらボクが所属する部署が特別なのかもしれない。ボク自身が特別な扱いを受けているのかもしれない。でも、大切なことは日本企業の中にも(レアかもしれないけど)そういう場所があるということです。

    今回紹介する書籍”It Doesn’t Have to Be Crazy at Work”を書いたジェイソン・フリードとデイヴィッド・ハイネマイナー・ハンソン(通称DHH)が経営しているBasecampもスタートアップ界のレアケースとも言える幸せな場所です。

    NO HARD WORK! 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方 (早川書房)

    NO HARD WORK! 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方 (早川書房)

    • 作者:ジェイソン フリード,デイヴィッド ハイネマイヤー ハンソン
    • 発売日: 2019/01/31
    • メディア: Kindle版
    It Doesn't Have to Be Crazy at Work (English Edition)

    It Doesn’t Have to Be Crazy at Work (English Edition)

     

    スロースタートアップ

    以前に「スロースタートアップ」として外部から資金調達をせずに、自己資金だけでゆっくりと成長しているスタートアップを紹介しました。MailChimpdribbbleなどです。Basecampはスロースタートアップの代表です。

    Basecampは1999年にジェイソン・フリードを含む3人の共同創業者とともに37signalsとして立ち上がりました。もう20年も事業が続いています。広く使われている開発フレームワークのRuby on RailsはBasecamp開発のためにDHHによって作られてオープンソースになったものです。開発言語としてのRubyがこれほど普及したのはRuby on Railsのおかげです。

    Basecampのようなスロースタートアップは外部から資金調達をせずにブートストラップ(自己資金だけ)で経営しています。しかし、多くのスタートアップは外部から大きな資金調達をして、大きくスケールすることを目指します。前回紹介した”Lab Rats”を書いたダン・リオンズに言わせれば、それこそが不幸の原因です。

    売上は全ての傷を癒す(Revenue heals all wounds)

    スタートアップには多くの金言があります。「売上は全ての傷を癒す”Revenue heals all wounds”」はその一つです。成果が出ないと組織内の雰囲気はどんどん悪くなります。他部署への批判が増え、モラルが低下します。しかし、どれだけ苦労しても成果が出れば報われる。雰囲気は一気に明るくなる。一般的には「時は全ての傷を癒す”Time heals all wounds”」ですが、時だけが過ぎて売上がなければ企業は死んでしまいます。結果が全てなのがスタートアップです。

    Basecampが外部から資金調達をせずに20年間事業を継続できているのはコストをカバーするための十分な売り上げがあり、利益を確保しているからです。どうやって?ユーザーから愛されるプロダクトを作る。それだけのことです。「ユーザーを理解する」、「ユーザーの声に耳を傾ける」、「それをプロダクトに反映する」です。それだけのことなのですが、それをするのが難しい。

    「売上は全ての傷を癒す」のですが、それは「ユーザーから愛されるプロダクトを作る」しかないんです。ボクが会社の中でやってることも、結局のところは顧客起点で考える習慣を作ること、そこから得た知見をもとにユーザーが求めるであろうプロダクトを科学的に検証して早くリリースすること。それしかないんですよね。

    立ち止まる大切さ

    Bootcampでは全ての人たちが自分のペースで働いています。チームで仕事をする場合、他人のスケジュールに影響されることがありますよね。Aさんがいないと自分の仕事が先に進まない。Basecampではそんな時にどうするのか?待つのです。Aさんがその仕事に取りかかれるまで待つ。

     

    Basecampは長い時間をかけて自分たちにとって最適な開発サイクルを作りました。ゴールはないが、そのサイクル期間内に実装したい機能はある。でも、実装できなかったらそれは次のサイクルで実装する。それがBasecampで自分のペースで仕事をできる秘訣です。

    日本の多くの課題は「待つ」ことで解決するんじゃないか

    トーキョーネイティブではない人から「東京の人はぶつかっても謝らないでそのまま立ち去ってしまう」って言われることがあります。自分はトーキョーネイティブですが、確かに「感じ悪いなあ」と思うことはありました。後ろから来て人の目の前を平気で横切る。何も言わずに黙ってぶつかりながら進む。ドアを後ろから来る人のために開けておくのは海外では常識なのですが、日本でそれをやる人は少ない。ボクは正直なところ、日本人は「他の国の人たちと比べると優しくない」と捉えていました。「おもてなし」も非常に表面的で、お金を払うお客さんにだけ。赤の他人にはとても冷たい。

    でも、実際は人間として「他人のことを思いやる」ことに国や人種は関係ない。日本人だけ特別に「氷のように冷たい心」を持っているわけではない。単に、他人を思いやる行動ができないだけ。どうすれば他人とぶつからないのか?道を譲ればいいんです。立ち止まればいい。それだけのことなんです。

    満員電車も無理に詰め込んで入らなくても、次の車両を「待て」ばいい。自分の進行方向に人がいて通れない場合、「すみません、ちょっと通ります」といえばいい。黙ってぶつかって押し分けて通らなくてもいい。海外ではみんな”Excuse me”って言うでしょ?英語の授業でも習いましたよね。母国語である日本語でもそうしましょう。

    日本人はスタート時間にこだわりがあって、他人が遅れると気分を害してしまいがちです(そのわりに終わる時間にはルーズなのですが)。でも、待てばいいのではないでしょうか。「待てばいいんだ」と思えばいろんなフラストレーションは消えて無くなります。

    この本はどんな人にオススメか

    いわゆる「働き方改革」のヒントがたくさん詰まっています。根本的には「ユーザーが愛するプロダクトを作る」と「必要な利益を確保する」なんですが、それをした上で、どうすれば幸せな職場環境を作れるのか。そう言う意味では、上級編なのかもしれません。小手先だけ真似してもうまくいかない。

    経営者も、従業員も、顧客も幸せにできる企業を作って維持するのって簡単じゃないと思います。Basecampはそれが20年続いている非常にレアなケースです。そこから何か少しでも学びたいと思えるなら、この本はとてもオススメです。

  • 書評|現場のiPhone開発者が見たAppleの創造力の源泉とは?|”Creative Selection” by Ken Kocienda

    書評|現場のiPhone開発者が見たAppleの創造力の源泉とは?|”Creative Selection” by Ken Kocienda

    Appleの株価は2018年8月に米国史上初の時価総額が10億ドル(1000億円)を超えました。そして、同年10月をピークにして、2019年1月にはアメリカで一位から三位まで転落してしまいました(一位はアマゾン、二位はマイクロソフト)。

    Appleの想像力の源泉と言えばスティーブ・ジョブス。Appleの洗練されたデザインを生み出したとされるのはジョナサン・アイブ。おそらく、ここくらいまではテクノロジー分野に興味がある人ならわかるでしょう。Appleについて少しは詳しい人ならiPodの生みの親のトニー・ファデルやiPhoneの生みの親のスコット・フォーストールも知ってるでしょう。そして、それを業務面で支えたのが現CEOのティム・クックでした。

    でも、実際には彼らだけでiPodやiPhoneが生み出されるわけではありません。彼らは確かにビジョンを描き、その実現のためにチームを牽引しました。iPodやiPhoneレベルのイノベーションは小さなイノベーションの集まりです。その小さなイノベーションを実現するのは世には知られることのない名もなきデザイナーでありエンジニアです。今回紹介する書籍”Creative Selection”はAppleのエンジニアとしてSafariブラウザ、iPhoneとiPadのソフトキーボードの開発をしたケン・コシエンダが自らの経験をモノローグとして語っています。

    Creative Selection: Inside Apple's Design Process During the Golden Age of Steve Jobs

    Creative Selection: Inside Apple’s Design Process During the Golden Age of Steve Jobs

    iPhoneの開発を指揮していたのはスコット・フォーストール。初代のiPhoneは「パープル」というコードネームで少数のエンジニアが一般の社員からは隔離されて開発していました。ちなみに、iPadのコードネームは「K48」でした。

    創造は取捨選択の連続となります。いきなりいいものが出来たりはしない。試行錯誤をしながら徐々にいいものに仕上がっていく。Googleに代表されるシリコンバレーの企業は科学的な手法で取捨選択をします。代表的なのはABテスト。AとBを比べて、量的に優れた方を選択する。これは人工的な取捨選択です。

    ケン・コシエンダはAppleの開発スタイルはGoogleのような人工選択ではなく、自然淘汰だと感じたそうです。タイトルとなっている”creative selection”は創造的淘汰は自然淘汰のことなんですね。そして、その創造的な自然淘汰を支えているのが以下の7つの要素。

    • 刺激(inspiration)
    • 共同作業(collaboration)
    • 技巧(craft)
    • 勤勉(dilligent)
    • 決断(decisive)
    • 趣味のよさ(taste)
    • 共感(empathy)

    Appleで成功するチームはこの要素を持ち合わせているそうです。ケン・コシエンダが担当していたソフトウェアキーボードもアイデアをのグレッグ・クリスティ(Human Interfaceチームの責任者。後にジョニー・アイヴとの対立でAppleを去る)やバス・オーディン(iPhoneのUIに大きな影響を与えたデザイナー)といった多くの人たちとのコラボレーションによって徐々に磨きがかかっていきます。Appleの開発は秘密主義で有名なので、ユーザーでテストすることはできない。必然的にGoogleのような科学的なアプローチは限られているんですね。

    エンジニア達が作り上げた動くプロトタイプを初代iPhoneの開発責任者だったスコット・フォーストールがジョブスに見せていいかどうかを見極める。そして、最終的にはジョブスの判断。全く科学的ではない。これはヒューリスティックなアプローチとアルゴリズミックなアプローチかの違いでもある。AppleはよりヒューリスティックでGoogleはよりアルゴリズミック。どちらが「いい/悪い」のような二元論ではなく。単に違う。

    ティム・クックになってAppleから創造力が失われました。AppleやGoogle、Microsoftのような大企業の場合、一人の人間ができることは限られています。それはスティーブ・ジョブスであろうと、現在のMicrosoftを引っ張っているサティヤ・ナデラであろうと同じです。企業のトップができるのはその組織に方向性を示して、人材がその力を発揮できるようにすることです。つまり、リーダーシップとタレントです。この本を読んで、優秀な人材はどこにでもいて、それを活かすも殺すもリーダー次第なんだなあと強く感じました。

    この本はどんな人にオススメか

    もちろん、Apple信者にはオススメです。あと、開発でヒューリスティックなアプローチを取り入れたいと考えている人にも参考になるかもしれません。多分、日本人にとってはGoogleのようなアルゴリズミックなアプローチより、Appleのようなヒューリスティックなアプローチに親近感を覚えると思うんですよね。どっちがいいというわけではないのですが。

  • いまさら聞けない3Dプリントってなに?|プラスチックのコマ、自動車部品、食用プリントまで

    いまさら聞けない3Dプリントってなに?|プラスチックのコマ、自動車部品、食用プリントまで

    3Dプリントで起きていることはパソコンで起きたことに似ています。

    コンピューターはIBMなどが製造する高価な産業向けコンピューターしかありませんでしたが、Appleが小さな個人向けのパソコンを作りました。Appleがコンピューターを作ったわけではありませんが、Appleがコンピューターを個人でも買えるくらい小さく、安くしました。産業用の高価なモノを個人向けにお手軽にした。これがパソコンのイノベーションでした。

    同じことが3Dプリントでもおきました。

     

     

    なぜ3Dプリントがそんなに話題に?

    3Dプリント自体は1980年代からあり、3D SystemsStratasysが産業用の3Dプリンターを販売していました。3D SystemsとStratasysは3Dプリント界のIBMと言えます。産業向けの3Dプリンターはずっと前から存在してきましたし、成熟した分野でもありました。それを変えたのが個人向けの3Dプリンターの登場でした。

    高価な産業用の3Dプリンターを低価格で個人でも使えるようにする取り組みはオープンソースからはじまりました。RepRapプロジェクトです。3Dプリンターを安く簡単に自作できる方法を開発し、多くの人に向けて公開することを目的としたオープンソースライセンスのプロジェクトです。

    RepRapプロジェクトで採用していたのがプラスチックを使った熱溶解積層法です。この特許を持っていたのがStratasysでしたが2009年に特許の保護期間が終了します。MakerBotなどが登場して個人向けの3Dプリンターを発表します。そういう意味ではMakerBotは3Dプリント界のAppleと言えます。AppleはガレージからはじめましたがMakerBotはニューヨークのハッカースペースからはじまりました。

    個人が簡単にモノを作れるようになるのってそんなにすごい?

    ソフトウェアが世界を変えたのはパソコンによる個人のプログラマの力がとても大きいです。高価な産業用のメインフレームしかなかったらスマホすら生まれなかったでしょう。オープンソースだって生まれませんでしたし、インターネットも普及しませんでした。

    個人がソフトウェアだけでなく、モノも簡単に作れるようになるとパソコンで起こったような革命が起きるのではないかと期待されています。実際に3Dプリンターで様々なものが作られています。生産を開始する前に3Dプリンターでプロトタイプを作ることで、生産コストを下げつつユーザーのニーズによりあった製品を作ることもできます。CADでデザインし、3Dプリンターでプロトタイプを作成してユーザーテストを繰り返します。そして、実際の製品は海外の工場で作ってもらうこともできます。

    ただ、これも使う人によっていいことにも使われますし、よくないことにも使われます。コーディー・ウィルソンが設計して公開した3Dプリントの銃はあまり良くない例ですね。

    3Dプリントの発展はプラスチックから金属、食用まで

    レーザーで作る精密なプラスチックモデル

    一般的に3Dプリントってプラスティックを上からウニョウニョ積み重ねていくいくイメージですよね。これが熱溶解積層法です。簡単ですぐに作れますが、それほど精密ではありません。しかし、3Dプリント自体は様々な材質を様々な方法で作ることができます。

    同じプラスチックでもレーザーで固める方法であればさらに精度の高いモデルが作れます。Formlabsはより精密なプリントができる光硬化樹脂を硬化させる光造形(SLA)方式の3Dプリンターの小型化に成功しました。

    金属の3Dプリント

    3Dプリンターはプラスチックだけではありません。金属の3Dプリンターも当然ながらあります。金属の3Dプリンターは個人が買えるような小型のものを作るのがプラスチックの3Dプリンターより難しかったのですが、Desktop Metalが金属の3Dプリンターのデスクトップモデル”Studio System”を発表しました。金属粉末射出成型法という方法で、金属の粉末とポリマーを混ぜて整形します。整形した後に熱を加えてポリマーを溶かし、金属のモデルだけが残るという方法です。

    小型化したのは素晴らしいのですが、それでも価格は12万ドル(1300万円)するので、個人向けとは言えないですね。

    他にも、MarkforgedDigital Metalといった企業が小型の金属3Dプリンターを作っています。

    食用3Dプリント

    食べることのできる食用のプリントはすでにたくさんあります。手でデコレーションをするよりも、機械で印刷をした方が精密な絵が作れますからね。家庭用のプリンターに食用インクを使います。オブラートのような食べれる紙に印刷します。

    そして、当然ながら食べれるモノを作る食用3Dプリンターもありますし、Marijn Rooversのような立体的なフードデザインを手がけるフードデザイナーも現れてきています。

    写真クレジット:Marijn Roovers

    一番安い食用プリンターはノルウェーのPancakeBotの作るパンケーキの3Dプリンターですね。300ドルなので34000円くらい。

    少し高価ですが、オランダのbyFlowなら本当に立体的な食べれるモデリングができます。3300ユーロなので43万円くらい。個人では使えませんが、レストランやお菓子屋なら悪くない投資ではないでしょうか。

  • イーロン・マスクのマリファナインタビューが(内容は)素晴らしすぎる

    イーロン・マスクのマリファナインタビューが(内容は)素晴らしすぎる

    イーロン・マスク といえばテスラやスペースXが有名ですが、他にもボーリングカンパニーニューラリンクといった面白いことをやっています。そのイーロン・マスクがマリファナを吸ったということでジョー・ローガンのポッドキャストが注目を浴びましたが、内容はイーロン・マスク が様々なことについて台本なしに率直に語った素晴らしいものです。マリファナの部分だけを抜き出して批判するのはもったいない内容です。質問に対して数秒考えて、ゆっくりとリラックスしながらも真摯に答える態度はとても好感が持てます。

    しかも映画『スペースボール』のファンだなんて、ボクはイーロン・マスクが一気に大好きになってしまいました。

    このインタビューは日本の人たちにも知ってもらいたいので、英語の内容を聞き取り日本語の抄訳を用意しました。何しろ2時30分という長丁場です。全てを翻訳できませんが、重要だと思われる部分は翻訳しました。

     

     

    火炎放射器とスペースボール

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    • 誰も反対しなかった?もちろん反対したよ。悪いアイデアだ。絶対に買っちゃダメだっていった。でも止められなかったよ。火炎放射器は20000個が4日で売れた。一個500ドル。帽子は50000個作って、100万ドルくらいの売り上げになった。
    • でも、実際には火炎放射器じゃない。バーナーにエアライフルのカバーをのっけただけ。
    • どうしたらそんな時間がある?みんなボクのことをビジネスの人だと思ってる。Wikipediaにはビジネス・マグニート *1 とか書いてあるし。でも、実際に80%の時間はモノを作ってる時間。アイデアを実現するのがエンジニア。

    トンネルを掘る理由

    • トンネルを掘る理由?ロスには16年住んでるんだよね。交通渋滞はずっと問題だったわけだ。トンネル以外の解決方法がないから、トンネルを掘ってる。成功するかどうかはわからないけど。
    • ロスからはじめて世界中に広める?なんでロスかといえば、ロスに住んでるから。それだけだよ。ロスは実際にはトンネルを掘るには最悪の場所なんだ。ものすごい書類の量。地震もあるしね。
    • でも、地震の時にトンネルほど安全な場所はないんだけどね。嵐の時に潜水艦が安全なのと同じ理由で。地面が動いてもそれに合わせて動くことができる。
    • どうやってはじめた?スペースXのエンジニアに話したらやろうということになった。ロス・アンジェルスには穴を掘るって申請した。最初は穴を掘るだけだからね。
    • トンネルの良さを理解していない人は、地上の道路の問題を理解していない。地上の道路は2Dの交通システムの上に3Dの生活空間がある。生活空間が3Dなのに交通システムが2Dだから渋滞になる。交通システムが3Dになれば渋滞は解決される
    • 交通システムが3Dになるには空飛ぶ車で上に行くか、トンネルで下に行くかしかない。空を飛ぶ車に関しては技術的には実現可能でも騒音と車を持ち上げるために必要な風圧の問題がある。トンネルは100層にもできる。

    AIについてまだ心配している?

    • AIに関しては前よりは心配していないけど、そうだね。いまは運命論者のような気分だ。
    • いまは運命だから避けられないものだとあきらめている。AIは必ずしも悪いものじゃないんだ。人間がコントロールできる範疇じゃないってだけ。難しいのはAIを兵器として活用する欲望にどう抗うかだね。機械対人間ではなく、人間対人間の兵器としてね。

    • まず理解しなければいけないのは、企業は機械と人間によるサイバーネティックの集合体だということ。そして、ボクらはその大きな集合体の枝葉だということ。そして、ボクらは集合的にAIをプログラムしている。Googleの検索エンジンみたいなもの。FacebookやTwitterのようなソーシャルネットワークも同じ。

    AIと脳が繋がるニューラリンクに取り組む理由

    • AIについては人間のコントロールが効かなくなるまでそれほど時間がかからない。それが実現した世界がいいものなのか、悪いものなのかはわからない。人間がコントロールできなくなるというだけ。止めることができないなら、参加したほうがいい。そういうことでニューラリンクNeuralinkのWebサイト)をはじめた。
    • 一番いいシナリオの一つはAIが人間にとっての認識レイヤーの一つになること。現在は人間の脳とAIが直接繋がるにはバンド幅に問題がある。人間には大脳辺縁系(生命維持や本能行動、情動行動を司る)があり大脳皮質(知覚、随意運動、思考、推理、記憶など、脳の高次機能を司る)がある。大脳皮質は大脳辺縁系を幸せにしようとする。もしこれに三つ目のレイヤーとしてAIがあれば人間と共生関係になれる。そうなれば理論的には誰でもスーパーヒューマンになれる。
    • どれくらいスーパーヒューマンになれる?スマホのある自分と、スマホのない自分ではどっちがスマートかということ。実際に「スマホ有り自分」の方が「スマホ無しの自分」より相当賢いはず。スマホで人間のできることは大幅に向上した。スマホと人間の関係を考えれば、ボクたちはすでにサイボーグだと言える。スマホはすでに自分の一部なのだから。
    • しかし、スマホやパソコンと人間の間の情報伝達速度は遅い。すごく遅い。「デジタルの自分」と「生物としての自分」の間はすごく細い線でつながっている。これを太くするのがニューラリンク。インターフェースの問題を解決する。さらに進めばデジタルの自分のスナップショットを保存することも可能になり、生物の自分が死んだ後も生き残る。

    ソーシャルメディアの延長線としてのVRの将来

    • ソーシャルメディアは人を幸せにしていない。ルーズベルトの言う「比べると幸せは奪われる “Comparison Is the Thief of Joy”」と言うこと?そうだね。「現実 マイナス 期待=幸せ “Reality minus expectation equal happiness」とも言える。
    • ソーシャルメディアの問題は実際よりもよく見せること。そして、他人のいい写真を見てうらやましくなる。他人のソーシャルストリームを眺め続けることで、絶えず自分の期待値を変えている。
    • それがソーシャルメディアの現時点だとして、これからどこへ向かっていくと思う?リアリティーとシミュレーションのさがなくなって来ると思う。すでにシミュレーションの世界に住んでいるのかもしれない
    • もし、自分たちがシミュレーションの中に住んでいるとしたら、シミュレーションの外の世界は退屈だと思う。完成したハリウッド映画は素晴らしいけど、その撮影過程は退屈だ。グリーンスクリーンの前で演技したり。
    • VRの中で「今どこにいる?」という質問は意味がない。どこにいるかは意識の問題でしかない。

    テスラについて

    • みんなテスラについてわかってない。例えばバレーだって踊れる。他にも色々できる。
    • テスラはお金で買うことができる最も面白いものの一つだと思う。テスラは究極的にはクルマじゃない。楽しくすること。アタリのエミュレーターでミサイルコマンドのゲームをやったりね。トラックボールは使いづらいから、タッチスクリーンにする。
    • サンフランシスコでの居眠り運転のビデオが有名だが、最近ソフトウェアをアップデートして、ハンドルから手を離したら徐々に減速して停車し、ハザードランプを点灯。そのあとにクラクションでドライバーを起こすように変更した。
    • 電気自動車はもっと効率的にならないといけない。一回の充電でもっと遠くまでいけるようにならないと。今の技術でもできるけど、コストが高すぎる。
    • Fiskerの車がハリケーンで爆発した。バッテリーは燃えやすいけどテスラは大丈夫?テスラのバッテリーは防水だから大丈夫だよ。
    • 電気自動車はガソリン車より反応が早いし、精密な動きができる。それがエンジンとモーターの違い。プリンターや医療機器にガソリンエンジンではなく電気モーターを使うのはそのため。雪道でスリップしてもちゃんとコントロールができる。スリップする前にコントロールするけど。

    持続可能なエネルギーについて

    • トンネルの他にも垂直離着陸機(VTOL)についても新しいアイデアがある。でも、電気飛行機は電気自動車と比べて優先順位が低い。持続可能なエネルギーはとても優先順位が高く、だからこそ電気自動車が必要になる。
    • 地上から炭素を掘り出して空中に放出するのは歴史上最も馬鹿げた実験だ。あまりにも多くの産業があまりにも多くの化石燃料に依存している。全ての自動車を電気自動車に置き換えるのに25年はかかる。
    • テスラが作っているソーラータイル?これまでのソーラーパネルと違って屋根と同化してるんだ。一般的な家庭に必要な少なくとも1/2の電力を賄うことができる。電力を使うのはエアコン。だから、エアコンの使い方に依存する。
    • エアコンは作らないのか?ふふふ、将来のことについては言えないね。うーん、いいアイデアかも。

    イーロン・マスクにとって難しいこと

    • 会社を経営するのは難しい。特にテスラは。クルマ会社を経営するのは難しい。アメリカのクルマ会社で破産しなかったのはフォードとテスラだけ。
    • 例えばテスラの初期はロータスエリーゼを電気自動車に改造すれば大丈夫と考えてた。でも、それは間違っていた。結局、既存の自動車部品で使えたのは7%以下。あとは全て作り直さなければいけなかった。

     

     

    *1:X-Menの登場人物

  • 書評|グロースハック本の決定版|”Hacking Growth” by Sean Ellis【2018年夏休み読書週間】

    書評|グロースハック本の決定版|”Hacking Growth” by Sean Ellis【2018年夏休み読書週間】

    エリック・リースはリーン・スタートアップを書籍の形で世に出しましたが、グロースハックという言葉を2010年に生み出したショーン・エリスこれまでグロースハックの本を書いてきませんでした。グロースハックはショーンがコンセプトを発表した後に、アンドリュー・チャン(a16zのパートナー)がブログで紹介してスタートアップ界隈で広がりはじめました。そして、ショーン・エリスはGrowthHackersというグロースハックのコミュニティーの運営を始め、そこでノウハウの共有をします。

    今回紹介する”Hacking Growth”はグロースハックの生みの親であるショーン・エリスがはじめて出すグロースハック本です。GrowthHackersのコミュニティーで集まった知見を体系立てて整理しています。ボクも国内外のグロースハック本を何冊か読みましたが、さすが本家本元。決定版と呼ぶに相応しい内容になっています。

    Hacking Growth グロースハック完全読本

    Hacking Growth グロースハック完全読本

    • 作者:ショーン・エリス,モーガン・ブラウン
    • 発売日: 2018/10/02
    • メディア: Kindle版
    Hacking Growth: How Today's Fastest-Growing Companies Drive Breakout Success

    Hacking Growth: How Today’s Fastest-Growing Companies Drive Breakout Success

    グロースハックのフレームワーク

    プロダクトには二つのステージがあります。プロダクトマーケットフィット(PMF)のステージと成長のステージです。

    プロダクトマーケットフィットのステージ

    プロダクトマーケットフィットは「顧客が愛してくれる製品」ということです。製品(プロダクト)と顧客(マーケット)がフィットする。Gmailを生み出したポール・ブックハイトの「ディープアピール」と同じ。この本では”Product Must-Have”と定義しています。これがなければ成長のステージにいけません。どんなグロースハックも意味がない。

    このステージはどちらかといえばリーン・スタートアップが得意とするステージです。多くのグロースハック本もJavelin Boardなどリーン・スタートアップの手法を紹介しているケースが多いです。この”Hacking Growth”でもいくつか紹介されていますが、特に印象深かったのが”Product Must Have Score”です。

    製品の価値を検証せずに開発してしまった製品ってたくさんあります。グロースチームとしてそのような製品を担当した場合どうしたらいいのか?ユーザーに「この製品がなくなったら?」と聞いてみるんです。「ガッカリ」するが40%を超えていたらかなりポテンシャルが高い。20%以下だとかなりヤバイ。フレームワークと合わせて具体的な手法をたくさん紹介しているのもこの本の魅力といえます。

    成長のステージ

    プロダクトマーケットフィットで製品がユーザーに愛されるものだと検証したとに成長ステージがはじまります。ここがグロースハックの真骨頂ですね。この本はパート1で全体的なフレームワークやそれを支える役割や組織を説明した後に、パート2でプレイブックとしてたっぷりと体系立てて考え方や手法を紹介しています。

    そして成長ステージには「言葉とマーケットのフィット(Language Market Fit)」の検証と「チャネルとプロダクトのフィット(Channel Product Fit)」の検証があります。「愛される製品」をちゃんとユーザーに説明できることが「言葉とマーケットのフィット」です。伝わらなければ意味がない。「チャネルとプロダクトのフィット」はそれを実際に届けるチャネルは機能するかということです。届かなければ意味がない。

    このように体系立てて何が大事なのか、どのような順番で進めればいいのか指針をクリアにしているのがこの本のいいところだと思います。

    グロースハックのプレイブック

    後半のパート2では以下の順序に沿って具体的な手法を紹介しています。

    1. 顧客獲得(Acquisition)
    2. 顧客活性化(Activation)
    3. 顧客維持(Retention)

    一番有名なグロースハックのフレームワークであるパイレーツメトリックスのAARRRの最初の三つですね。それぞれの段階でこのように整理整頓してくれているので、わかりやすいです。例えば顧客維持(Retention)でもイニシャル、ミディアム、ロングの三段階で説明しています。

    実技編と言えるこのパート2では実際に使える手法やツールだけでなく、Kファクターなどの測定方法も紹介しています。

    どのような人にオススメか?

    新規事業に関わる人、マーケティングに携わる人、グロースハックに携わる人には読んで欲しいです。ここで紹介されている手法をすでに実践している人も多いと思いますし、考え方も理解しているかもしれません。しかし、改めて整理された形で提示されると多くの気づきがあります。

    経営者にも読んで欲しいです。世の中には「愛される製品」だと検証される前に発売されているプロダクトやサービスがたくさんあります。むしろ大多数の製品は市場調査だけで「ニーズがある」と判断されます。「ニーズ」を仮説としてプロダクトマーケットフィットまで検証したケースなど少ないでしょう。必要とされないものを作るのは無駄です。検証する方法があるのだから、きちんと検証しましょう。

  • 書評|不条理なゲーム開発の世界を垣間見る|”Blood, Sweat and Pixels” by Jason Schreier 【2018年夏休み読書週間】

    書評|不条理なゲーム開発の世界を垣間見る|”Blood, Sweat and Pixels” by Jason Schreier 【2018年夏休み読書週間】

    ゲームの開発は他のソフトウェア開発とかなり違うため、なかなか理解するのが難しい分野です。今回紹介するKotakuの編集者ジェイソン・シュライアーの書籍”Blood, Sweat and Pixels”は普段垣間見ることができなゲーム開発の世界を紹介しています。

    ここで紹介しているのはEAやMicrosoftといった大手のゲーム出版会社やBlizzard Entertainment(ディアブロなど)、BioWare(Dragon Age Inquisitionなど)など大手のゲーム開発会社における開発秘話を紹介しています。Halo Warsを巡るBungie(Haloシリーズの開発元)とEnsemble Studios(Age of Empireの開発元でHalo Warsを開発することになる)の確執などなかなか面白いです。

    この本のエピソードを全てを紹介することはできませんが、特に面白いと思った小規模スタジオのクラウドファンディングから生まれたヒットについてのエピソードを紹介します。

     

    Blood, Sweat, and Pixels: The Triumphant, Turbulent Stories Behind How Video Games Are Made

    Blood, Sweat, and Pixels: The Triumphant, Turbulent Stories Behind How Video Games Are Made

     

     

    ゲーム開発のプレーヤーとお金の流れ

    ゲームの開発は開発会社(デベロッパー)だけではできません。出版会社(パブリッシャー)が必要となります。Haloシリーズの開発会社はBungieですが、販売しているのはその親会社のMicrosoftです。これは映画でも同じですね。制作会社と配給会社は違います。例えば、映画『アヴェンジャーズ』の場合、制作はマーヴェルスタジオですが、配給はディズニーでした。

    ゲーム開発会社はゲームを作る前に資金調達をしなければいけません。主な資金調達の方法は以下の三つです。スタートアップと似てますね。自分のお金か他人のお金。

    1. 投資してくれる企業を探す
    2. 出版会社と契約する
    3. 自己資金で作る(ブートストラップ)

     そして、クラウドファンディングが新しい資金調達方法として小規模の開発会社でもユーザーから直接資金調達ができるようになりました。

    クラウドファンディングによる資金調達

    ObsidianはMicrosoftのXbox One Cloud用ゲーム“Stormlands”を開発していましたが、これがキャンセルに多くの開発者を解雇しなければいけませんでした。アメリカのゲーム開発のバーンレートは開発者一人につき月1万ドル(約110万円)です。多くの人を解雇したとしても、全てを解雇できない。新しいプロジェクトを見つけなければいけませんでした。Obsidianが注目したのがクラウドファンディングでした。すでにDouble Fine AdventureがKickstarterでの資金調達で知られていました。

    最新の技術を使ったゲームはお金がかかります。流石に最新技術を使ったゲームを開発する資金はクラウドファンディングでは調達できません。そこで、斜め視点の古き良きロールプレイングゲーム(Isometric RPG)を開発することにします。

    ゲーム開発が難しい理由

    ジェイソン・シュライアーによるとゲーム開発が他のソフトウェア開発より難しい理由が四つあります。

    1. インタラクティブな操作
    2. 常に技術革新が起きている(地震の時にビルを建設するようなもの)
    3. ツールが常に変わる
    4. 計画がほぼ不可能(プレーできるようになるまで完成を計測できない)

    ObsedianがKickstarterで資金調達をはじめた”Pillars of Eternity“も古き良きRPGではありましたが、同じ理由で苦しむことになります。例えばマップをどれくらい作ればいいのか?などプレプロダクションで決めます。スケジュールが間に合わない場合は機能を削ったりします。しかし、クラウドファンディングの場合はすでに機能を約束してしまっているため、それができません。

    また、ツールをSoftimageからMayaに変更しましたが、素晴らしい体験を生み出すまでMayaをマスターするには時間がかかります。これは大規模な開発会社でも同様で、BioWareも”Dragon Age Inquisition”開発時に親会社で出版会社のEAが開発したゲームエンジン”Frostbite“を使用しなければならず、苦労しました。

    結局、クラウドファンディングで調達した資金だけでは足りず、Obsedianは自己資金も投入する必要がありました。それでも、”Pillars of Eternity”は大ヒットし、Obsedianははじめて独自の資産(著作権など)を手に入れることができました。

    この本では同様のクラウドファンディングのケースとしてYacht Club Gamesの横スクロールのアクションゲーム『シャベルナイト』も紹介しています。

    ゲームのブートストラップ

    この本で紹介されているエピソードの中で特に面白いと思ったのがエリック・バローンがたった一人で4年半かけて開発した『スターデューバレー』です。以前にブートストラップ(自己資金)のスタートアップを紹介するシリーズを掲載しましたが、『スターデューバレー』はブートストラップ(自己資金)というだけでなく、ソロ(一人)です。

    エリック・バローンは大学卒業後にソフトウェアエンジニアとしての就職先を探しますが、見つかりませんでした。そこで、ソフトウェアエンジニアとしての経験を積むために個人でゲームを作りはじめます。『牧場物語(音が出るので注意)』が好きで彼女のアンバー・ヘイグマンと一緒にプレーしていたので、同じようなゲームを作ることにします。

    彼女とシアトルのダウンタウンのワンベットルームのアパートで暮らすことになりましたが、エリックの収入はゼロ。アンバー・ヘイグマンがアルバイトをしながら生活費を稼ぎます。これを4年半も続けるのですから、アンバー・ヘイグマンの役割は相当デカいですよね。

    PCゲームの一番大きな流通チャネルはSteamですが、審査が厳しいためエリックのような実績のない個人の開発者が流通に乗せるのは難しいものがありました。しかし、当時はSteam Greenlight(現在は終了。Steam Directへ移行)というある種のクラウドファンディングの仕組みがあり、ユーザーが自分の好きなゲームを投票する仕組みがありました。ここで多くの投票を集め、Chuclefishという小規模のゲーム出版会社と契約することができました。

    この本はどんな人にオススメか

    まず、ゲーム業界にいる人やゲーム業界に興味のある人にはオススメです。そして、洋物ゲームが好きな人にもオススメです。ここで紹介されているエピソードのほとんどはThe Witcher 3など超有名タイトルなので、プレーしていないまでも名前は聞いたことがあるゲームばかりです。

  • なぜブロックチェーンは自由なのか|第三回:自由からも自由になったイーサリアム

    なぜブロックチェーンは自由なのか|第三回:自由からも自由になったイーサリアム

    今回の特集はブロックチェーンです。第一回目はブロックチェーンが生まれる背景となるサイファーパンク第二回目はサイファーパンクとビットコインをつないだハル・フィニーの話でした。サイファーパンクもそこから生まれたビットコインもアメリカの完全自由主義が背景にあります。ある意味、完全自由主義に縛られていた面もあるかと思います。そして、アメリカの完全自由主義からも自由になったのがロシア生まれのカナダ人であるヴィタリック・ブテリンのイーサリアムなのかもしれません。

     

     

    なぜビットコイン/ブロックチェーンは自由なのか

    サイファーパンクから生まれたビットコインは必然的に自由を求めます。

    サイファーパンクはリバタリアン(完全自由主義者)の集まりでした。 完全自由主義は権威主義の反対ですね(下のノーラン・チャート参照)。アメリカでは選挙権を持つ10%から20%が完全自由主義者と言われています。さすが自由の国アメリカ。「権力は腐敗する、絶対権力は絶対に腐敗する (Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely.) 」が彼らの信念です。

    名前がリベラルに似てるので勘違いされがちですが、リバタリアンはリベラルと全く違います。リベラルは「大きな政府」で、保守は「小さな政府」をよしとします。リバタリアンはは全く政府のない状態を理想とします。日本は与党も野党もリベラル(大きな政府と社会保障)なので、なかなか理解しづらいコンセプトだと思います。

    サイファーパンクの人たちが政府の干渉を嫌い、暗号化技術で自由を勝ち取ろうとしたのはこのような背景があります。

    ロシアから来た少年

    ヴィタリック・ブテリンはモスクワで生まれ、6歳の時の両親とカナダに移住しました。ヴィタリックがビットコインと出会うのは2011年、17歳の時です。父親のデミトリーはエンジニアでスタートアップを立ち上げていました。その父親から教えてもらいました。まだビットコインが誕生して2年しか経っていませんでした。その頃はオンラインゲームのWorld of Warcraftにハマっていて、興味は持てなかったそうですが、徐々に他の人からもビットコインについて聞くようになり興味を持ちました。

    ヴィタリックはビットコインのブログで記事一つあたり5BTCで記事を書くことになります。これでビットコインのTシャツとか買ったそうです。しかし、このブログはすぐに破綻してしまいます。当時はそれほどビットコインに関心を持つ人がいなかったからです。

    それでもビットコインの情熱を失わなかったヴィタリックは2012年に最初のビットコインメディアであるBitcoin Magazineをミハイ・アリジエと共に立ち上げます。

    イーサリアムの立ち上げ

    2013年にサンノゼで開催された暗号化通貨のイベントがヴィタリックにとって大きな転換期となります。ここで多くの人と関わり、実際のプロジェクトを体験することで暗号化通貨の可能性を確信し、次の学期に大学を中退します。大学を辞めたヴィタリックはイスラエルやアムステルダムなど世界中にいる暗号化通貨の関係者を訪れます。そして、多くの人たちがやろうとしているビットコイン2.0は上手くいかないと考えるようになります。

    ビットコインはセキュリティーの関係上、その上にアプリケーションを作りにくくなっている。ビットコインの上に何かを作るのではなく、新しいものを作らなければいけない。ヴィタリックは早速トロントに戻り、ホワイトペーパーを作成。15人の友人に送りました。これがイーサリアムになります。

    イーサリアムとリバタリアン(完全自由主義)

    ピーター・ティール

    ピーター・ティールはPayPalの創業者として有名で、イーロン・マスクを含むPayPalギャングの親分格とされています。最近ではデータ分析企業でユニコーンのパランティアの共同創業者としても有名ですよね。彼が立ち上げたベンチャーキャピタルのFounders Fundは大量のビットコインを購入して資産を大きく増やしました。そして、ピーター・ティールは生粋のリバタリアンでもあります。

    暗号化は完全自由主義者、AIは共産主義者 by ピーター・ティール *1
    “Crypto is libertarian, AI is communist”by Peter Thiel

    そして、ヴィタリック・ブテリンは2014年にピーター・ティールの立ち上げたThiel Fellowshipのフェローの一人として10万ドルを受け取り、これを元にイーサリアムの開発を本格化します。ちなみに、これを受け取れるのは学校をドロップアウト(中退)した若者だけです。

    その後、ヴィタリックと創業チームはクラウドファンディングで1800万ドルを調達し、翌年の2015年7月にイーサリアムをローンチします。

    スマートコントラクト

    イーサリアムの特徴の一つがスマートコントラクトです。ビットコインがサイファーパンクによるイノベーションの集大成だったのと同様に、イーサリアムもサイファーパンクのイノベーションを活用しています。スマートコントラクトもその一つです。

    スマートコントラクトの名付け親はサイファーパンクのニック・サボです。1996年にネットワーク上のプロトコルとしてプログラムされる「スマートコントラクト」のアイデア”Smart Contracts: Building Blocks for Digital Markets“を発表し、1998年にはそれを使った暗号化通貨Bit Goldのアイデアを発表します。このアイデアはすぐに実現しませんでしたが、暗号化通貨はビットコイン、スマートコントラクトはイーサリアムで実装されます。

    ビットコインは人間が使う暗号化通貨で、イーサリアムはマシンが使う暗号化通貨です。暗号化の思想の根幹にあるのが人間の自由なので、暗号化は人のためにあり、契約も人のものなんですね。イーサリアムはそこから一歩踏み出した形になります。

    ヴィタリック・ブテリン

    イーサリアムはあらゆる意味でリバタリアンの血を引き継いでいますが、そこから適当な距離も取ってもいます。ヴィタリック自身もリバタリアンではありません。ウラジミール・プーチンを含む多くの政治家たちと会う機会があり、概ねよい印象を持ったそうです。むしろ、暗号化通貨のコミュニティーの諍いに辟易しているようでもあります。

    ビットコインはサイファーパンクの思想を強く引き継いでいます。これはこれで良いことなのですが、しなやかさを失う部分もあります。イーサリアムはそこから一歩引いた立場にいるため、思想に縛られないところがあります。例えばThe DAOのハッキングでハードフォークをすることに決めましたが、賛否両論あるものの、このような判断ができたのも理想より現実をとるしなやかさのためだと思います。

    イーサリアムでブロックチェーンもようやく「自由」から自由になれたんですね。

    参考文献

    Bitcorati Interview Series : Vitalik Buterin – Head Writer, Bitcoin Magazine – YouTube

    The Abelard School | Toronto Private School | Canada | – ALUMNI

    The Rise of Smart Contracts : Hodl the Moon

    Who is Nick Szabo, The Mysterious Blockchain Titan – unblock.net

    Cryptocurrency Might be a Path to Authoritarianism – The Atlantic

    Here’s Why Billionaire Peter Thiel Said ‘Crypto Is Libertarian, A.I. Is Communist’ | Inc.com

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    *1:ちなみにパランティアのデータ解析はAIではなくAIと人の解析を組み合わせたIntelligence Augmentationです

  • なぜブロックチェーンは自由なのか|第二回:ハル・フィニーとビットコイン

    なぜブロックチェーンは自由なのか|第二回:ハル・フィニーとビットコイン

    ブロックチェーンやビットコインについては技術面やビジネス面の解説がたくさんされています。しかし、その背景にある「自由」や関わる人たちの情熱はあまり理解されていません。

    多くの人はブロックチェーンやビットコインにビジネスの可能性を感じて惹きつけられているのだと思います。それ自体は悪いことではありません。でも、コインチェックやマウントゴックスのような事件がある毎にブロックチェーンやビットコインの背後にある理想主義も理解していてほしいと思うんです。なによりも自由が欲しかった。

    開発者として、アマチュアアスリートとして、夫として

    ハル・フィニーは1956年にカリフォルニア州コーリンガで生まれます。1979年にカリフォルニア工科大学を卒業して、フィル・ジマーマンが立ち上げたPGPに入社します。そして、同じ年にフランと結婚します。

    ハルは2011年に引退するまでPGPに在籍します。アメリカでこれほど長く同じ会社に勤めるのはすごく珍しいことです、特にIT業界では。ずっと同じ場所で、同じことを続けました。フィル・ジマーマンはPGPの成功にハル・フィニーの献身は不可欠だったと振り返っています。

    ハル・フィニーは良き夫であり、アマチュアのアスリートでした。妻のフランと多くのマラソン大会に参加しました。ハルはどちらかといえば長距離走が得意で、フランは中距離が得意でした。一緒に走ってもハルが少し長く走ることになりました。しかし、フランの方が長く走ることになります。

    サイファーパンクとの出会い

    サイファーパンクのムーブメントは90年代から活発化します。ハル・フィニーは1991年にサイファーパンクに出会います。そして、ハル・フィニーは1992年のサイファーパンクのニュースレターに以下のように書いています。

    これは明らかなことだが、私たちはプライバシーの喪失の問題に直面している。薄気味悪いコンピュータ化、巨大なデータベースに中央集権。(DigiCashを開発した)チャウムは全く別の方向性を見せてくれた。その道は政府や企業ではなく、個人が自分自身の手で力を持てる。コンピューターは人々を自由にし、その自由を守るために使うことができる。人々をコントロールするためでなく—ハル・フィニー

    エリック・ヒューズの『サイファーパンク宣言』では「サイファーパンクはコードを書く」と書かれています。そして、それを実行したのはハル・フィニーでした。エリック・ヒューズとハル・フィニーは共同でプライバシーを守るためのメールシステムであるremailerをPerlとCで開発します。例えばスノーデンのような人がNSAの秘密をremailerを使ってパブリックに流しても、追跡して個人を特定することができなくなります。

    サイファーパンクにはビットコインでも使われるプルーフ・オブ・ワーク(PoW)を開発したニック・サボもいましたが、ハル・フィニーはそれを発展させて再利用可能なプルーフ・オブ・ワーク(RPOW)のプロトタイプを開発しています。これがビットコインのPoWの先駆けとなります。

    サトシ・ナカモトから最初のビットコインを受け取る

    2008年にサトシ・ナカモトは暗号化のメーリングリストにビットコインのアイデアとホワイトペーパーを投稿します。多くの約束が実現されなかったことでサイファーパンクの熱気は過ぎ去った時期でした。そのため、多くの人はビットコインのアイデアに懐疑的でした。

    しかし、ハル・フィニーはRPOWを開発したばかりだったので、ビットコインに興味を持ちました。サトシ・ナカモトとハル・フィニーはメールでやり取りをしながらビットコインのバグフィックスをしていきます。サトシ・ナカモトからテストでビットコインが送られてきて、ハル・フィニー自体も自分でマイニングをしてみました。

    マラソンのゴール

    ハルとフランは2009年のアナハイムで開催されたディズニーランド・ハーフマラソンに出場します。二人のタイムは1:59.27でした。そして、ハルにとってはこれが最後のレースとなります。この前月、サトシ・ナカモトから最初のビットコインを受け取ってから9ヶ月後にALSと診断されました。アイスバケツチャレンジで有名になったこの病気に現在でも有効な治療法はありません。

    私たちは30年も結婚してたんだから一緒に50周年を祝えるはずだって思ってた。ハルはきっと私より長生きすると思ってた。彼は健康だから。私がおばあちゃんになったらハルが面倒をみてくれるって思ってた—フラン・フィニー

    今でこそビットコインの価値は上がりましたが、当時はまだそれほど価値がありません。貯えももらったビットコインも治療費で消えていきます。それを支えてくれたのはビットコインのコミュニティーでした。Wiredのアンディー・グリーンバーグが寄付を呼びかけます。

     ハル・フィニーはALSと診断され、体が動かなくなってもコードを書き続けました。ハルは走れなくなりましたが、フランを応援し続けました。フランにとってはハルがたとえ走れなくても一緒にマラソンにくてくれることが大事でした。フランにとってハルは良きコーチであり、それは技術的なことではなく、精神的なことだったのです。

    参考文献

    Bitcoin and me (Hal Finney)

    Dying Outside – Less Wrong

    The cypherpunk revolution

    Meet Hal Finney, the Man Who Received the First Ever Bitcoin Transaction

    In Finney home, Fran gives care, quality of life to husband Hal — Presidio Sports

    RPOW – Reusable Proofs of Work

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  • なぜブロックチェーンは自由なのか|第一回:ビットコイン前夜のサイファーパンク

    なぜブロックチェーンは自由なのか|第一回:ビットコイン前夜のサイファーパンク

    今回の特集はブロックチェーンです。サイファーパンクからイーサリアムまでカバーする予定です。ブロックチェーンやビットコインについては技術面やビジネス面の解説がたくさんされています。しかし、その背景にある「自由」や関わる人たちの情熱はあまり理解されていません。

    金盾やGFWの例をとって「中国のインターネットを管理されてる!」と言われることが多いですが、実を言えば私たちのインターネットも管理はされてないですが、監視はバッチリされてますからね。

    暗号化と監視

    暗号化はもともと主に軍事用に使われていました。初期の暗号化はカギがひとつしかありませんでした。閉めるカギと開けるカギが同じだからです *1。カギが見つかったら全ての情報が漏れてしまう。そうならないためにはカギの受け渡しには安全に受け渡しができる仕組みが必要でした。そういうことが出来るのはCIAのような諜報機関や軍隊だけでした。

    そして、閉めるカギと開けるカギを別にする方法*2がイギリスの政府通信本部の盗聴部門によって1973年に編み出されました 。これは長らく公表されることなく、政府機関のみで利用されていました。

    Street art by Banksy(クレジット:ロイター)

    暗号化と自由

    共通鍵に関する技術はMITとRSAが特許を持っていました。これを自由化するのがフィル・ジマーマンです。PGP(Pretty Good Privacy)というソフトウェアとして1991年に実装しました。これまでの暗号化技術と違い、諜報機関や軍隊のようなパワーのない普通の人たちも使えるものでした。しかし、政府はこれを危険視してPGPのアメリカの国外輸出を禁止しました。

    せっかく自由を手に入れたエンジニアたちは黙っていません。暗号化技術のエンジニア達はPGPのソースコードを紙に印刷して書籍の形にしてヨーロッパに輸出しました。ソフトウェアと書籍は違う法律で管理されていたからです。書籍には「表現の自由」が適用されました。フィル・ジマーマンは5年間FBIに追いかけられることになります。

    暗号学者たちの望みは非常にシンプルなものでした。郵便ですでに獲得しているプライバシーと正当性を電子メールでも実現したい。紙に書いた手紙を郵便で送っても中身は検閲されません。しかし、電子メールの場合は検閲できてしまう。実際にエドワード・スノーデンの告発でNSAによる個人情報収集のシステムPRISMがバレてしまいました。基本的に、インターネットで何をやってるか見られてますからね。ちなみにスノーデンは日本オタクで、日本のことをめっちゃ心配してくれています

    サイファーパンクと自由

    PGPが開発される前、デビッド・チャウムは1983年に匿名性の高い暗号化通貨のDigiCashを作り、1985年に論文「身分のないセキュリティー:権威を必要としない取引システム “Security without Identification: Transaction Systems to Make Big Brother Obsolete”」を発表します。ビットコインより随分と前の話です。そして、これがサイファーパンクの起源とされています。サイファーパンクは暗号化による匿名性が高い技術を元にした社会的、政治的な変革を目指すムーブメントでありグループでした。

    しかし、DigiCashの問題点は中央管理されることでした。そこで、サイファーパンクたちは非中央集権的な方法を模索しはじめます。また、ハッシュやPoWなど重要な技術を発明していきます。

    エリック・ヒュー、ティモシー・メイ、ジョン・ギルモア(トップ画像の三人。1993年にサイファーパンクとしてWiredの表紙を飾った写真を編集したものです)もサイファーパンクのムーブメントの中にいました。三人は毎月ジョン・ギルモアのオフィスで集まりました。そしてサイファーパンクに関するメーリングリストをはじめます。そして三人は「サイファーパンク・マニュフェスト」を発表します。これは暗号化と自由の関係を理解するのに非常に重要です。ちなみにWiredの記者の何人かもこのグループの一員だったらしいので、このような特集が組まれたんでしょうね。

    プライバシーは秘密主義とは違う。プライベートなことというのは世間に知られたくないことで、秘密というのは誰にも知られたくないことだ。プライバシーというのは選択的に自己開示する力のことをいう。(原典:A Cypherpunk’s Manifesto 日本語訳:ビットコインに実は40年の歴史【サイファーパンク宣言を読む】全文和訳掲載

    このサイファーパンクの集まりには後のブロックチェーンやそのアプリケーションであるビットコインの開発に重要な役割を果たす人たちが参加します。

    サイファーパンクの名付けの親はサイバーパンク系の雑誌として有名だった『Mondo 2000』の編集者だったジュード・ミルホンでした。

    参考文献

    From Cypherpunk to Blockchains – YouTube

    The cypherpunk revolution

    Bitcoin History: From the Cypherpunk Movement to JPMorgan Chase – YouTube

    フィル ジマーマンのホームページ

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    *1:技術的には対称鍵(Symmetric Key)と呼ばれるものです

    *2:技術的には非対称鍵(Asymmetric Key)や共通鍵(Public Key)と呼ばれるものです

  • アップルから学ぶベンチャーキャピタルの役割

    アップルから学ぶベンチャーキャピタルの役割

    今回取り上げるのはアップルです。アップルは「資金を提供する人のメリットは何か」と「いつ外部から資金調達をするべきなのか」と「創業者が資金以外に必要なもの」を理解するのに最適な事例だからです。

    資金を提供する人のメリットは何か

    そもそもベンチャーキャピタル って何?

    スタートアップは人生でもありゲームでもあります。創業者にとっては人生ですし、投資家にとってはゲームです。創業者は自分のプロダクトを形にするためにお金が必要で、投資家は持っているお金を増やす必要があります。

    お金ってほっとくと価値が下がるんですよね。今の日本だと実感しづらいかもしれませんが、インフレで物価は上がるので、相対的に貨幣価値は下がるんです。だから投資家はお金を運用して動かさないといけない。そのために沢山の金融商品が開発されました。プライベートエクイティもその一種です。書評で紹介した”Principles”の著者のレイ・ダリオのヘッジファンドも同様です。

    プライベートエクイティは未公開株のことです。公開株はパブリックエクイティ。エクイティは株のことです。未公開株を使った投資戦略はいくつかあり、ベンチャーキャピタル はその一種です。他にもソフトバンクがボーダーフォンを買収するときに使ったレバレッジバイアウト(LBO)などがあります。

    ベンチャーキャピタルにとって顧客は機関投資家で、プロダクトはスタートアップの成長性。投資を回収して利益を機関投資家に還元します。慈善事業ではないのです。

    最初のベンチャーキャピタル

    ベンチャーキャピタルの父と言われているのはビジネススクールINSEADの設立者であるジョルジュ・ドリオです。第二次世界大戦後の帰還兵がビジネスを立ち上げるためのファンドを作るために機関投資家に働きかけたのが最初と言われています。

    彼が立ち上げたARDC (American Research and Development Corporation)が1957年に7万ドルを投資したDECが十年後の1968年に3億5500万ドルでIPOしました。ベンチャーキャピタルが機関投資家から資金を集めて、スタートアップに投資して回収するというこのモデルは基本的に今でも変わりません。

    簡単に言えば1) 大きな資金で、2) お金を大きく育てられる。この二つの条件が揃った時にベンチャーキャピタルによる資金調達は有効だし、お互いにメリットがあるということですね。そうじゃない場合、例えば、少ない資金でできる場合はブートストラップでやったほうがいいですし、大きな資金が必要だけど、事業としてはあまり育たないならやらないほうがいい。どうしてもやりたければ借金でやったほうがいい。

    いつ外部から資金調達をするべきなのか

    これまで見てきたスロースタートアップはベンチャーキャピタルから資金調達をしないで自己資金(ブートストラップ)で起業しました。

    アップルだってブートストラップではじめました。スティーブ・ジョブズはフォルクスワーゲントラックを750ドルで売って、スティーブ・ウォズニアックはHPの計算機を500ドルで売って資金を作り、それを元手にコンピューターの基盤を作りました。これがApple Iです。ガレージで作ったのは、オフィスを借りる資金なんてなかったからです。ファッションでそんなことやってたわけじゃない。

    アップルの最初の製品”Apple I”のレプリカ(クレジット:Cameron’s Closet)

    The Byte Shopを経営するポール・テレルがApple Iを50個オーダーしてくれました。しかし、ボードだけじゃなくて完成品じゃなければいけない。1個配送する毎に現金で500ドル払ってくれる。さすがに1250ドルではパソコンそのものは作れない。オーダーをうけるには1万5000ドル必要でした。銀行は貸してくれないので、手形で部品を購入します。まあ、つまり借金ですね。でも、全て売り切って利益が出た。

    アップルの場合、Apple IはMVPと言えます。これで利益が出たことでビジネスとして成立できるという仮説を立証できました。そこまではブートストラップだったんですね。

    アップルの最初の資金調達

    スティーブ・ジョブズはAtari、スティーブ・ウォズニアックはHPに勤めていました。まだ、アップルにフルタイムでコミットしていたわけではなかったんですね。そう、どんなスーパーマンでも衣食住は必要なんです。ハードウェアのスタートアップはお金がかかるので、ブートストラップでは限界があります。Apple IIを開発するには流石に外部から資金調達をする必要がありました。

    最初にアップルに投資をしたのはベンチャーキャピタルではなく、エンジェル投資家のマイク・マークラでした。最初の資金を投資してくれるのは家族、友達、エンジェルの三種類でしたよね。3F (Family, Friends, Fools) です。

    マイク・マークラが25万ドルの資金提供をしてくれ、アップルに参加することによって1977年にApple IIを作ることができ、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックもフルタイムでアップルにコミットできるようになりました。

    創業者が資金以外に必要なもの

    しかし、この出会いをお膳立てをしたのは有力ベンチャーキャピタルSequoia Capitalを立ち上げるドン・バレンタインでした。資金を提供するだけならドン・バレンタインだけでできたはずです。なぜマイク・マークラを紹介したのでしょうか?

    スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックは同じ学校に通っていましたが、仲良くなったのは卒業してからだそうです。お互いにエンジニアリングが趣味だということがわかり、仲良くなりました。ある日、ウォズニアックが小説を読んでいるとブルーボックスという、どこでも電話がかけられる機械が登場してきました。しかし、色々調べているとあながち作り話でもなさそうです。そこで、ウォズニアックとジョブズはThe Stanford Linear Accelerator Centerに夜に忍び込んで図書館で文献を漁りまくりました。そうしたらとある文献に小説に出てきた周波数が書いてある。あ、これ本物だ!ということで二人は実際にブルーボックスを使ってバチカンやホワイトハウスに無料で電話をしまくります。これが二人にとっての最初のプロダクトでした。まあ、そういう人たちだったんです。

    ジョブズ

    ドン・バレンタインは資金調達のために会いに来たスティーブ・ジョブズと話をした時に投資をするにはビジネスの経験がないとを感じました。スタートアップに必要な三つの役割はハッカー、ハスラー、ヒップスターの3H (Hacker, Hustler, Hipster)の三つでしたよね。スティーブ・ジョブズはソフトウェア開発者(ハッカー)とデザイナー(ヒップスター)の要素を持っていました。スティーブ・ウォズニアックはソフトウェアとハードウェアの開発者(ハッカー)の要素を持っていました。そう、ビジネスが分かるハスラーがいなかったのです。

    創業者に足りないのって資金だけじゃなくて経験も足りないんですよね。成長に足りないものを見抜いて補完するのもベンチャーキャピタル の仕事の一つです。マイク・マークラはエンジェルとして資金を提供するだけでなく、三人目の共同創業者としてアップルに参加することになります。Googleにおけるエリック・シュミットの役割ですね

    スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックに無かったのはビジネスの経験で、三人目の共同創業者としてマイク・マークラはハスラーとしてビジネスの経験を提供しました。そして、元々インテルでエンジニアだったため、ハッカーとしてもかなりのコードをアップルで書いたようです。

    ベンチャーキャピタルからの資金調達

    1977年に発売されたApple IIは大成功し、翌年の1978年にドン・バレンタインのSequoia Capitalもアップルに投資します。ベンチャーキャピタルは機関投資家の資金を預かり、それを投資しているのでスタートアップをエグジット *1 させて投資を回収しないといけません。アップルの場合は投資から約二年後の1980年12月に1億7900万でIPOします。

    参考文献

    17 things you didn’t know about the Apple 1 – one of the world’s most expensive computers – BT

    Apple chronology – Jan. 6, 1998

    An ‘Unknown’ Co-Founder Leaves After 20 Years of Glory and Turmoil – The New York Times

    Sequoia

    Wozniak Meets Steve Jobs: Blue Box Free Phone Calls Worldwide – YouTube

    Blue Box – Why Steve Jobs and Steve Wozniak hacked the phone network › Mac History

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    *1:IPOやM&Aなどにより投資した資金を回収すること