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  • 書評|ルービック・キューブ考案者が語る創造性とデザイン|”Cubed” by Ernő Rubik

    書評|ルービック・キューブ考案者が語る創造性とデザイン|”Cubed” by Ernő Rubik

    ルービック・キューブの考案者エルノ・ルービックの初書籍が今回紹介する”Cubed”です。ルービック・キューブが世に出てから40年以上経過しています。これまでに自伝とか出ていそうなものですが、この本がエルノ・ルービックが初めて書くの書籍。自分とその発明品であるルービック・キューブについて語ります。内容はUXデザイン、成功と失敗、プロフェッショナルとアマチュアなど非常に多岐にわたります。単純な「自伝」ではなく、とても知的好奇心を刺激してくれる良書でした(オーディオブックはScribedにあります)。

    Cubed: The Puzzle of Us All

    Cubed: The Puzzle of Us All

    • 作者:Rubik, Erno
    • 発売日: 2020/09/15
    • メディア: ハードカバー

    本書の構成は「自伝的な部分」と「考察的な部分」に分かれます。時系列的に「自伝的な部分」が全体の骨格を作るのですが、その間に「考察的な部分」が挿入されます。その時点で自分が考えたこと、その時点と現代のつながり。

    エルノ・ルービックは子供の頃からパズルが好きだったのだそうです。タングラム15パズルペントミノに夢中になったそうです。立体的なパズルとの最初の出会いは立体型のペントミノだったと振り返っています。また、ルービック・キューブ以前に立方体のパズルとしてはソーマキューブがあったそうです。内向的な性格だったのでパズルのような一人遊びが合っていたそうです。チェスもやったそうですが、誰かと対戦するゲームより、ナイト・ツアーのような一人遊びの方が好きだったそうです。勝ち負けとか興味がない。

    自分は全てにおいてアマチュアだとエルノ・ルービックは振り返っています。職業としてはずっと教師ですが、発明家として、建築家として、デザイナーとしてそれぞれにおいてアマチュアだと言います。プロフェッショナルはお金や評価など「外的動機づけ」が必要だけど、アマチュアは自分のやりたいことをやりたい「内的動機づけ」が重要になるとエルノ・ルービックは言います。ただ、アマチュアとプロフェッショナルの区切りも実は曖昧でスティーブ・ジョブズのような人はお金に興味はなく「内的動機づけ」に突き動かされたプロフェッショナルなんだろうと。白黒はっきり分かれるようなものではないだろうと言います。

    教師として専門にしていたのは図法幾何学で、ルービック・キューブのアイデアもここから発展していったそうです。エルノ・ルービックがすごいのは想像力だけが創造性ではないと理解しているところです。ちゃんと作れないといけない。ルービック・キューブのプロトタイプは木で作り、輪ゴムや釣り糸で試したそうです。最終的に私たちがしるあの構造までたどり着きます。ルービック・キューブを分解したことがある人ならわかると思いますが、あの構造はすごいですよね。よく一人で考えた。

    そして、アルノ・ルービックは根っこはデザイナーなんでしょうね。お父さんがグライダーを専門にした航空デザイナーだったのと同じで。あの形、あの重さ、あの大きさに至るまで試行錯誤します。スムースに動くことも重要。UXデザイナーでもありインタラクション・デザイナーでもあるんですよ。本書でもUXデザインの重要性について言及しています。

    さらに、このパズルがちゃんと自分で解けるのかも実証します。すごく難しかったそうです、作った本人にとっても。最初は1ヶ月かかったそうです。「すごく根を詰めて必死にパズルを解いた」といろんなところで書かれているそうなのですが、実際には仕事の合間に楽しみながら取り組んだそうです。ルービック・キューブを解くアプローチとして直感派とアルゴリズム派がいるそうなのですが、アルノ・ルービックは直感的なアプローチと論理的思考で解いたそうです。さらに商用化に向けた特許申請や製造、素材をどうするかなどなど。海外で販売するときの登録商標の問題など紹介されています。 

    アルノ・ルービックはお金も地位も名誉も興味がないそうです。だから今まで本も書かなかったんでしょうね。古い車をずっと乗っている。高級な食事や衣服にも興味がない。建築家でもあるので、自分の家を作るのが好きなんだそうです。それができるだけのお金があれば十分。そして、自分の好奇心を満たすことができればいい。だから、いろんなことに興味があるんですね。本書でもルービック・キューブを軸としてAIやシステム思考について思考を巡らしています。

    自伝というよりは、様々な考えをルービック・キューブを中心に語ったエッセーのような本です。ルービック・キューブの発明者が存命で、現代の技術や考え方と関わり合いを持ち続けていることが(大変失礼ながら)単純に驚きでしたし、その考察もとてもユニークだと感じました。なぜユニークなのかと言えば、それが借り物じゃないからなんですよね。エルノ・ルービックはとてもユニークなルービック・キューブを一人で作り上げた人なんですから。

  • 書評|「頭で考えたらモノが動く」はすぐそこにある現実|”The NeuroGeneration” by Tan Le

    書評|「頭で考えたらモノが動く」はすぐそこにある現実|”The NeuroGeneration” by Tan Le

     映画『アベンジャーズ』でロバート・ダウニー・ジュニア扮するトニー・スタークが浮かんでいる画面を手でササっと操作したり、やはり映画『ドクター・ストレンジ』でベネディクト・カンバーバッチが光の魔法陣をバッと手から出して防御したりカッコいいですよね!やってみたいですよね!残念ながら光ってフォトンが何かにぶつからないと出ないから、宙に浮かぶディスプレイや光の魔法陣は今の技術ではできそうにありません。残念!

    しかし、映画『X-MEN』のメインキャラクターの一人で史上最強のテレパスであるプロフェッサーXが使うセレブロのような脳の拡張装置はできてしまうかもしれません。ちなみに、セレブロはスペイン語で「脳」という意味です。

    今回紹介する書籍”The NeuroGeneration”では小型の脳波測定装置を開発するスタートアップEmotivの共同創業者であるタン・リーが様々な最新技術を紹介してくれています。

    タン・リーはまず最初にわかりやすい事例を紹介してくれています。両手、両足が麻痺して動かない四肢麻痺の男性が脳波でF1カーを運転できるようになった事例です。四肢欠損の乙武洋匡さんでも車が運転できるようになる可能性があるということです。論より証拠でYouTubeのビデオを見てもらった方が早いでしょう。

    この本では脳科学を応用した技術的進歩を「ニューロジェネレーション」として7つのケースを紹介しています。全てをここで紹介することはできませんが、面白いと思った一部を紹介します。

    まずは、ブレイン・コンピューター・インターフェイス。F1カーを運転するとか、まさにそうですね。コンピューターのインターフェースは文字のキャラクター・ユーザー・インターフェイス(CUI)から、マウスで操作するグラフィック・ユーザー・インターフェイス(GUI)に。そして、スマホでタッチ・インターフェイスに進化してきました。いま期待されているのはボイス・インターフェイスですが理想とされるのはインターフェイスがない「ノー・インターフェイス」です。おそらく、ノー・インターフェイスに一番近いのがブレイン・コンピューター・インターフェイスです。イーロン・マスクのニューラルリンクも同じコンセプトです。ニューラルリンクの場合は手術で脳に埋め込まないといけないので、ちょっと嫌ですけどね。できれば、プロフェッサーXセレブロのような脳波を使ったウェアラブルでお願いしたい。

    考えていることをコンピューターが理解できるって便利でもありますが、怖いことでもあります。この本でも紹介されていますが、脳波を使った事例としてキャンペーンの多変量テストがあります。タバコのキャンペーンでABCの3種類をテストしました。アンケートではAが一番いいスコアでしたが、脳波が一番反応を示したのはキャンペーンBでした。そして、実際のキャンペーン結果はBが一番良く、Aが一番悪かったそうです。グーグルとかフェイスブックなんて真っ先に飛びつきそうじゃないですか?VRゴーグルのオキュラスとかすごく相性良さそうだけど、自分の脳波がフェイスブックにだだ漏れとかちょっとヤダなあとか。

    また、インプランタブル・デバイスとかも面白そうです。たびたび例に出して恐縮なのですが、四肢欠損の乙武洋匡さんが義手や義足を(自分の手足と同じように)頭で考えて動かせればって思いません?この本で紹介されているアメリカのマーク・ポロックさんは四肢麻痺な上に盲目です。マーク・ポロックさんが使っているのはエクソ・バイオニックという可動式の補助器具です。『エイリアン2』でシガニー・ウィーバーが使ったパワースーツに近いですかね。

    肉体と機械の融合体をサイボーグと言います。例えば『攻殻機動隊』の草薙素子は脳と脊髄の一部を除く全身が人工物なのでサイボーグです。映画『ロボコップ』のロボコップもサイボーグです。脳が人間なので。ちなみに、脳も含めて全てが人工物の場合はアンドロイドやロボットです。わかりやすい例が『ターミネーター』でアーノルド・シュワルツネッガー演じるT-800です。あれはアンドロイド。アンドロイドやロボットの脳は人工知能(AI)ですね。映画『ブレードランナー』に登場するレプリカントはおそらくアンドロイドです。なぜなら原作のタイトルが『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』だからです。

    ブレイン・コンピューター・インターフェースやインプランタブル・デバイスのおかげで、サイボーグはだいぶ現実味が増してきています。そのため、サイボーグ・アーティストのニール・ハービソンとニール・リバスが共同でサイボーグ促進を目的としたサイボーグ基金(サイボーグ・ファウンデーション)を設立したりしています。

    人間の脳を活かしたサイボーグが可能なのであれば、人工知能を活かしたアンドロイドだって可能なんじゃないか?って考えちゃいますよね。タン・リーは人工知能は人間の脳と補完関係になると考えているようです。例えば、人間の脳をサイバースペースにアップロードしたり、さらにアンドロイドの人工知能にそれを埋め込んだり。アニメ『楽園追放』がそれに近い世界ですよね。実態のない電脳パーソナリティが器となる生身の体(マテリアルボディ)にダウンロードして動けるようになる。『エヴァンゲリオン』の綾波レイも同じ仕組みだと推測します。

    もちろん、このような世界はまだまだ先の話。人工知能(AI)がシンギュラリティまで到達した上で、意識とは何か解明する必要があります。

    そのほかにもかなり近いであろう分野もたくさん紹介されています。身体的ドーピングだけでなく、意識のドーピングとか。身体拡張だけでなく、脳拡張です。勉強ができるようになるスマートサプリとかです。

    ケトジェニック・ダイエットKeton-esterなどは元々DARPAと民間のHVMNが開発して民生利用されたニューロ医薬といえるサプリです。ニューロ医薬は薬だけでなく、Mindstrongのようなアプリも含まれるコンセプトでFDAの承認が必要になります。

    この本はどんな人にオススメか

    脳科学や将来のインターフェイスに興味がある人にはオススメです。ボク自身もここまで脳のインターフェイスが進んでいるとは知りませんでした。普通の人が身体拡張や脳拡張に使うのもそれほど遠い将来ではないと思いました。人工知能(AI)の研究も脳科学とのシナジーは大きそうです。

    これは本書でも軽く触れられていますが、脳科学の応用が進むにつれて、規制やモラルの問題も大きくなっていくことが予想されます。プライバシーの問題が脳波にまで及ぶのですから。そして、格差問題もより大きくなることが予想されます。だって、脳の拡張ができるような資産を持っている人は、より高度な仕事ができるようになるわけですよ。しかも、それはそれほど遠い将来ではないかもしれない。

  • 書評|ラガードのためのイノベーション 入門|”The Future is Faster Than You Think” by Peter Diamandis

    書評|ラガードのためのイノベーション 入門|”The Future is Faster Than You Think” by Peter Diamandis

    イノベーター理論はイノベーションがどのように波及していくか説明しています。最初にイノベーターと言われるアンテナの感度がよくって、新しいものにすぐ飛びつく人たちがいて、次にアーリーアダプターに伝播します。そして、最後に渋々受け入れるのがラガードに属する人たち。

    今回紹介する書籍”The Future Is Faster Than You Think”を書いたピーター・ディアマンディスはラガードのためのイノベーションの語り手なんだと思います。アンテナの感度が高い人はむしろ知らないんじゃないかなあ、TED Talkにも出ているにもかかわらず。

    ピーター・ディアマンディスは国際宇宙大学や東京にもチャプターがあるシンギュラリティ大学を設立したり、いろんな企業とコラボレーションして懸賞金付きのコンペを実施するXプライズ財団を運営しています。日本だとANAが一緒にやりましたね。なんか、胡散臭さを感じてしまうのはボクだけでしょうか?まあ、「○○大学」とか「××塾」とか「△△サロン」とか、日本にも売名と集金マシ(ry

    そんな彼の3冊目の書籍がこちらとなります。

    The Future Is Faster Than You Think: How Converging Technologies Are Transforming Business, Industries, and Our Lives (Exponential Technology Series)

    The Future Is Faster Than You Think: How Converging Technologies Are Transforming Business, Industries, and Our Lives (Exponential Technology Series)

    • 作者:Peter H. Diamandis,Steven Kotler
    • 出版社/メーカー: Simon & Schuster
    • 発売日: 2020/01/28
    • メディア: ペーパーバック

    この本は車の自動運転や空飛ぶ車のような移動手段から、人工臓器などなど最近のイノベーションの動向を伝えます。そこそこ感度がいい人ならすでに知ってることばかりですが。

    こういったイノベーションはどうやって生まれるのか?ピーター・ディアマンディスは「コンバージェンス(=複数の事象が一点に集中すること)」がカギだと言います。イノベーション は一つのブレイクスルーだけでなく、複数のブレイクスルーが同時期に発生して起きると言います。あれ?なんか聞いたことありますね。そうです、スティーブン・ジョンソンが言うところの「隣接可能性」ですね。『イノベーション のアイデアを生み出す七つの法則』は2010年にアメリカで出版されているので、10年前にすでに言われていたことですね。

    イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則

    イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則

    • 作者:スティーブン・ジョンソン
    • 出版社/メーカー: 日経BP
    • 発売日: 2013/08/08
    • メディア: 単行本

    第二部では、イノベーションがいかに既存の業界にインパクトを与えているかを解説します。いわゆる「ディスラプション」ですね。流通(Amazon)やエンターテイメント(Netflix)、広告(GoogleやFacebook)などなど。これも、まあ、うーん、いまさら?これがベストセラーになるのも、またアメリカなんだなあ。

    この本はどんな人にオススメか

    イノベーションとかよくわからないけど、社会人の常識程度には知っていたいなあという人にオススメです。Webメディアは普段あまり読まないけど、書籍だったら読む人とか。なんか、2020年1月はワクワクする本があまり出てこなかったなあ。

  • 『Framing John DeLorean』映画レビュー|「80年代のイーロン・マスク」を描くメタなドキュメンタリー

    『Framing John DeLorean』映画レビュー|「80年代のイーロン・マスク」を描くメタなドキュメンタリー

    デロリアンといえば映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』に登場するタイムマシンに改造されたスポーツカーですね。実際のモデル名はDMC-12です。作った会社はデロリアン・モーター・カンパニー(DeLorean Motor Company)で、その創業者がジョン・デロリアン。今回紹介する映画”Framing John DeLorean”の主人公です。まだ日本では公開予定はないっぽいですね(2019年12月7日公開予定の『ジョン・デロリアン』は”Driven”という別の映画)。

    “Framing John DeLorean”は再現シーンを役者が演じつつ、関係者のインタビューを交えたドキュメンタリーです。再現シーンの撮影風景や、役者がジョン・デロリアンや当時の妻のクリスティーナの心境がどうであったか想像したりしています。以前に紹介した『ローリング・サンダー・レヴュー:マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説』もそうでしたが、最近のドキュメンタリーって現実と虚構を織り交ぜたりするのが流行ってるんですかね。

    この映画ではジョン・デロリアンの様々な側面を描き出そうとしています。ジョン・デロリアンはとても派手で目立つ人だったので、まずはパブリックイメージをそのまま切りとります。そして、会社の設立と逮捕。そして、破綻。様々なイベントを通じてジョン・デロリアンの様々な側面を描き出します。ヒーローなのかヴィランなのか?

    当時の世界最大の自動車会社であるGMの異端児。ポンティアック部門の責任者として大きなエンジンをついたセクシーなポンティアックGTOを1964年に世に送り出したのがジョン・デロリアンでした。映画『ワイルドスピード』シリーズで主人公のドミニクが乗っているダッジ・チャージャー(1966年)や映画『グラン・トリノ』に出てくる1972年式のフォード・トリノのようなマッスルカーブームの先駆けでした。

    初期のマッスルカー市場を牽引していたのがビッグ3の中でも若いクライスラー。今でもある300レターシリーズです。ヘミエンジンを開発してパワー競争を仕掛けます。イケイケでロックンロールな1950年代。それに比べるとGMはおとなしいイメージでした。それまでGMは350インチ以上のエンジンを中型車に搭載することを禁じていましたが、既存のテンペストのオプション装備だとして役員の承認プロセスを回避してGTOには389インチのV8エンジンを搭載させました。これがマッスルカーブームの一般への広がりのきっかけとなりました。日産のスカイラインGT-R(1969年)や前身であるスカイラインGT-B(1965年)もその影響がありましたよね。

    自分のやりたいことのための抜け道を見つけるのがジョン・デロリアン。「無理を通して道理を蹴っ飛ばす」グレンラガンの口上を地で行った人。さらに時代の流れを読んで、適切なプロダクトをリリース。ポンティアックのほか、同じGMグループのシボレーでも実績を出しました。時代はデロリアンに味方していた。

    テスラのイーロン・マスクも派手な人ですが、ジョン・デロリアンも負けず劣らず派手でした。週末をカリフォルニアで過ごし、もみあげを伸ばし、顔の輪郭を男らしくするために整形手術をしました。いろんな女性と浮世を流し、当時19歳のブロンドと再婚しました(すぐに離婚して、トップモデルのクリスティーナと再婚)。テレビのインタビューではセックスは自分のドライブだと公言していました。ロックスターですね。

    若くして実績を出し続け、GMの社内でも出世していきました。しかし、極彩色のデロリアンは無色が好まれるGMのエグゼクティブには疎まれる存在でした。GM社内で浮きまくっていた。デロリアンを押さえつけようとする他のエグゼクティブ達と確執が生まれました。デロリアンはそれをメディアにリークしてしまいます。GMの品質について痛烈に批判。役員の責任を追求。その結果、ジョン・デロリアンは1973年にGMを追放されます。

    GMを追放されたジョン・デロリアンはフェラーリやランボルギーニではない大衆のためのスポーツカーを世に送り出すためにデロリアン・モーター・カンパニー(DMC)を創業します。パートナーはエンジニアのビル・コリンズ。DMC以前、最後の自動車スタートアップは1920年代のクライスラーでした。石油もデータセンターもスタートアップには向きませんが、自動車会社もスタートアップには向きません。それなりにテスラを軌道に乗せているイーロン・マスクってすごいんですよ。クライスラーも幾度と倒産を乗り越えてきましたし、DMCも最終的には破綻してしまいます。そして、この破綻はジョン・デロリアンにとっても家族にとっても決定的なものでした。

    デロリアンは政府の補助金を期待して紛争真っ只中の北アイルランドに工場を建設を決めます。U2も『ブラディ・サンデー』歌いましたよね。当時はDMC-12のプロトタイプしかない状態。北アイルランドには自動車工場のインフラもなく、経験のない労働者しかいない。しかも、2年で大量生産を開始しないといけない。そこで、コーリン・チャップマン率いるロータスとパートナーシップを組むことにします。 テスラのプロトタイプもロータス・エリーゼでしたが、自動車スタートアップにとってロータスって組みやすいんですかね?ロータスとのパートナーシップに伴いビル・コリンズをはじめ、アメリカのエンジニアチームは解散。しかし、このパートナーシップが最終的にはデロリアンの破滅につながります。

    なんとか5000台を出荷することに成功しますが、最初のロットは品質問題だらけでした。経済状況も悪かった。新自由主義を標榜するマーガレット・サッチャーが首相になったことで政局も変わった。政府からの補助金は期待できなくなった。デロリアンは資金がショートする寸前まで追い詰められます。そして、ロナルド・レーガンが大統領になって麻薬との戦争をはじめます。

    レーガンのために実績を上げたいFBIは内通者を使って資金調達に躍起になっていたジョン・デロリアンをコカイン取引による資金調達スキームにハメます。おとり捜査どころかFBIが事件化するためにデロリアンを様々な手を使って誘導していきました。そして、ジョン・デロリアンは逮捕されてしまいます。これで資金調達のめどが立たなくなったデロリアン・モーター・カンパニー(DeLorean Motor Company)は破産します。ジョン・デロリアンはFBIの手法があまりにもひどいので、無罪を勝ち取るのですが、時すでに遅し。無罪だったのに、会社を失い、家族も失います。でも、本当に無罪だった?

    これで終わりません。コーリン・チャップマンとのパートナーシップで不正が発覚します。投資を受けた中から1700万ドルを二人で着服していたことが発覚します。盟友ビル・コリンズを会社から追い出したのも、ビル・コリンズがこのスキームに気づいたからでした。自動車業界のスーパースターとしての顔、父親としての顔、夫としての顔、お金のためなら友人も裏切る顔。これらすべてがジョン・デロリアンでした。

    こんな感じで、映画の内容としてはすでにWikipediaでも書かれていることです。特に新しい事実はありません。ジョン・デロリアンは彼と関わった今を生きる人たちにも影響を与え続けているんですよね。元従業員や関係者、子供達へのインタビューでデロリアンが亡くなった後も影響を与え続けていることがわかります。離婚していち早く自分の道を見つけることができたクリスティーナは強い人だったんだなあ。それにしても、ジョン・デロリアンのような強烈な個性と行動力を持った人でも、時代には抗えない。小型化と省エネと新自由主義の時代についていけなかった。新しいセクシーなスポーツカーの時代。イーロン・マスクは時代に愛され続けますかね?

  • 書評|次の経営バズワード「フライホイール」|Turning the Flywheel by Jim Collins

    書評|次の経営バズワード「フライホイール」|Turning the Flywheel by Jim Collins

    おそらく、次の経営のバズワードとなるのが「フライホイール」です。アマゾンの成功の秘訣として有名になりつつあります。簡単に言えば、成功の循環サイクルです。フライホイールの名付けの親がアマゾンの戦略コンサルタントを務めていたジム・コリンズです。ジム・コリンズは『ビジョナリーカンパニー』シリーズで有名ですね。

    そのジム・コリンズが自らフライホイールを詳しく説明したのが”Turning the Flywheel”です。

    Turning the Flywheel: A Monograph to Accompany Good to Great (English Edition)

    Turning the Flywheel: A Monograph to Accompany Good to Great (English Edition)

    ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

    ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

    フライホイール自体はとても単純なコンセプトなので、非常にページ数が少ないです。パンフレットのようです。有名なアマゾンの他、インテルや自転車のヘルメットで有名なGIROが事例として紹介されています。インテルのようにメモリーからCPUへ商品が変わっても、フライホイールが変わっていない事例はなかなか興味深かったです。

    正直言えば『ビジョナリー・カンパニー』自体があまり好みではなく、斜に構えて読んでいた(聴いていた)のは否めません。あんな生存バイアスだらけの本を書いた人が、二匹目のドジョウを狙ったんでしょ?と。実際にそうだと思うんですけどね。ただ、まあ、サクッと読めるし、日本でも翻訳されて話題になるでしょうから、今から読んでおいてもいいかもしれません。

    この本は誰にオススメか

    経営企画の人にはオススメです。自社の強みを整理するのには便利なフレームワークだと思います。翻訳版がいつ出るかにもよりますが、半年後くらいには日本でも話題になってると思うので、今から読んで自慢してもいいかもしれません。でも、まあ、それくらいかなあ。

  • 書籍|炎上する若者と批判する大人、早咲きの棋士と遅咲きのハリポタ|”Late Bloomers” by Rich Karlgaard

    書籍|炎上する若者と批判する大人、早咲きの棋士と遅咲きのハリポタ|”Late Bloomers” by Rich Karlgaard

    2019年に9歳で最年少棋士となった仲邑菫さんなど若くして才能を開花する人たちがいます。一方で、インスタグラムやツイッターでのバイトテロなど浅はかな行為で炎上してしまう人たちもいます。最近だとレペゼン地球ジャスミンゆまのパワハラやらせによる炎上商法なんかそうですね。

    「レペゼン地球」ドーム公演中止へ パワハラやらせ余波か、ネットは「完全に自業自得」「悲しすぎる」 : J-CASTニュース

    才能と人間的な成熟のギャップ。この差はなんなのでしょうか?天才はずっと天才で、浅はかな人たちはずっと浅はかなのか。今回紹介する書籍”Late Bloomers”を書いたリック・カールガードはそうではないと言います。

    Late Bloomers: The Power of Patience in a World Obsessed with Early Achievement

    Late Bloomers: The Power of Patience in a World Obsessed with Early Achievement

    遅れてきた天才たち

    以前に紹介したデビッド・エプスタインの”Range”でも言われていることですが、遅れてきた天才たちはたくさんいます。不幸な結婚生活の後、生活保護の貧困生活から、ようやく30歳で才能が認められた『ハリー・ポッター』シリーズのJ・K・ローリング。43歳でシーベル・システムズを起業したトム・シーベル(その後、57歳でIoTに特化したAI企業のC3を起業して現在に至ります)。52歳でガーミンを創業したゲリー・バレル、61歳でIBMを創業したチャールズ・フリントに、65歳でワークデイを創業したデイブ・ダフィールド(46歳のときにPeopleSoftを創業)。

    リック・カールガードによれば、早咲きの天才もいれば、遅咲きの天才もいます。人生の中で何回も花を開かせる人もいます。今でこそベストセラーを出し、フォーブスの出版人も勤めたことがあるリック・カールガードですが、本人も25歳から出版業界で芽がではじめた遅咲きです。

    脳のピーク年齢と才能が花開く仕組み

    子供は大人になる前に14歳くらいまでに思春期を迎え、徐々に心も体も成長していきます。日本では20歳に成人になります。成人とは心身ともに十分に成熟し、親などの扶養者なしで法律行為が行える年齢です。海外も多少前後はありますが、20歳までに成人とされます。

    しかし、脳は20歳を超えても成長していきます。脳は後ろから前に発達していきます。最初に発達するのが感情に関係する大脳辺縁系で脳の奥側にあります。知性に大きく関係する前頭前皮質は一番前方にあって、25歳から30歳まで成長します。前頭前皮質が十分発達していないと、感情が先走り、合理的な判断ができないことが多くあります。多くの18から25歳(ヤングアダルト層)はこのような状態にあるそうです。

    では、人間の脳のピークはいつなのか?脳の部位の成長カーブはそれぞれ違うので、いつがピークだと言えないそうです。情報の処理能力は18から19歳、ショートタイムメモリーは25歳まで成長して10年徐々に減少。人の感情など複雑なパターンを理解するのは40から50歳で結晶性知能は60から70歳でピークを迎えます。これが、人は人生で何回も才能を花開かせる可能性がある理由です。若くして才能を開花させることもあるし、遅れて才能が発見されることもある。

    教育とキャリア形成が成長にあってない

    日本は小学校や中学生から受験で子供の教育がとても厳しいと言われています。これはアメリカでも同様で、スタンフォードなど有名大学に入るためにはプレップスクールという進学校に行く必要がありますし(もちろん、そうじゃない人もいます)、私学なのでとてもお金がかかります。いわゆる受験勉強はありませんが、SATという大学進学適性試験で高得点が求められます。シンガポールも教育熱心な国でPSLEという小学校卒業試験で大学までの進路がある程度決まってしまいます。知性に大きく関係する前頭前皮質が十分に発達していないのに、成人する前にキャリアに深く関係する教育の振り分けがされてしまいます。

    日本の受験、アメリカのSATやシンガポールのPSLEは標準的な試験のおかげで、昔のような世襲制度ではなく、能力次第で高等教育が受けれるようになりました。古くは中国の科挙の制度ですよね。ただ、あまりにも高等教育の競争が激しくなり、若いうちに教育に投資ができる家庭が有利になってしまいました。これも科挙と同じですね。そして、子供は小さな頃から脳が十分発達しきっていないのに教育と試験のプレッシャーを受けることになります。

    アメリカでは若い人たちの自殺が増えていて、10歳から34歳の死因の二番目が自殺です。大恐慌や戦争の頃より現在の方が自殺で死ぬ割合が多い。一概に教育のプレッシャーに原因があるとは言えませんが、教育の激化と自殺の増加は他の要因より関連性が高そうです。

    イノベーションは頭の柔らかい若い人たちほど起こしやすいと一般的には考えられていますが、これも一概には言えません。50歳以降に起業して成功した人たちはたくさんいます。マーク・ザッカーバーグやビル・ゲイツ、ラリー・ペイジのように目立っていないだけです。スティーブ・ジョブズもアップルを起業したのは21歳ですが、一度追放されて戻ってきてiPodやiPhoneを作ったのは40代です。人は何回も才能の花を咲かせます。

    しかし、一般的なバイアスは「若い人ほど頭が柔らかくて柔軟性がある」なので、年齢だけで仕事の能力を判断されてしまうことが多くなります。リック・カールガードは遅咲きの大人の強みとして以下をあげています。逆に言えば、以下がない大人は要注意ってことですね。

    • 好奇心
    • 思いやり
    • レジリエンス(立ち直る力)
    • エクイニミティ(落ち着き)
    • インサイト

    この本はどんな人にオススメか

    まず、炎上する若者を許せない人にはオススメです。二十歳も過ぎて前後の見境もつかないのか?と嘆くこともあるかもしれません。でも、きっとボクらもそうでしたよ。悪いことは悪いと言ってあげればよろしいかと。反省するまで許さん!と感情的になる気持ちもわかりますが、それ以上に責めてもしかたありません。人間が成熟するには時間がかかるのです。「過ぎたるは及ばざるが如し」なので、必要以上に責めるとミイラ取りがミイラになってしまいますよ。

    ツイッターでの中傷投稿への法的対応事例-ネット中傷対策 – warbler’s diary

    まだまだ「自分探し」をしている人にはオススメです。「自分探し」ってネガティブな意味で捉えられることも多いかもしれません。しかし、自分のやりたいことや得意なことが見つかってないのは仕方のないことです。バカにされても、探し続けましょう。

    「大人はイノベーションを起こせない」も、もったいない考え方です。50歳を超えてもイノベーションは起こせます。年齢など気にせずに、どんどん挑戦したほうがいいです。だから「老害」を気にしている人にもオススメです。老害のイメージって旧来の考えに囚われて、それを若い世代に押し付ける人たちですよね。好奇心を失ったら、本当にそうなってしまいますよ。

  • 書評|Oculusの歴史「ラッキー・パーマーの章」 “The History of the Future” by Blake J. Harris

    書評|Oculusの歴史「ラッキー・パーマーの章」 “The History of the Future” by Blake J. Harris

    スマホの伸びが鈍化していて「スマホの次のプラットフォーム」が期待されています。「スマホの次」に期待がかかるのはAmazon Echoに代表されるボイスと、Oculusに代表されるVRですね。今回紹介する書籍”The History of the Future”はOculusの創業からFacebookに買収、ラッキー・パーマーの追放までを追ったドキュメンタリーです。

    タイトルを日本語にすると「未来の歴史」。VRが未来のプラットフォームだと信じる人たちの歴史です。

    The History of the Future: Oculus, Facebook, and the Revolution That Swept Virtual Reality

    The History of the Future: Oculus, Facebook, and the Revolution That Swept Virtual Reality

    Oculusの創業の歴史については以前にも記事に書きました。簡単に書くとこうなってしまうのですが、実に簡単ではなかったことがこの本を読むとわかります。とても情報量が豊かで、この本を読んでVRに関するボクの思い込みは随分と解消されました。

    ゲームプラットフォームとしてのVR

    まず、ボク自身の思い込みが晴れたことの一つがOculusは新しいゲームプラットフォームとして開発されたことです。Oculusはスマホのような汎用性の高い一般的なプラットフォームではなく、先ずはプレステやファミコンのようなゲームプラットフォームなんだと。著者のブレイク・ハリス(写真)は”Console Wars”といったゲーム業界の本を他にも出していますが、なるほど、その流れでOculusなんですね。まあ、あとはDMMですかね。

    Console Wars: Sega, Nintendo, and the Battle that Defined a Generation

    Console Wars: Sega, Nintendo, and the Battle that Defined a Generation

    クラウドファンディングはチームプレイ

    二つ目はOculusのような大規模なクラウドファンディングは個人では太刀打ちできるレベルではなくなってるという事実。クラウドファンディングってお金のない起業家がサクッとお金を集めるプラットフォームのイメージがありますが、とんでもない。

    ラッキー・パーマーは最初は小さなキャンペーンを考えていました。起業についてもそれほど乗り気ではありませんでした。しかし、ブレンダン・イリーベがラッキー・パーマーを説得してOculusを設立、マイケル・アントノフとネイト・ミッシェルが参加して巨大なキャンペーンに仕立て上げました。

    Kickstarterのキャンペーンをはじめる前に、ゲームエンジンのUnityやUnreal Engineに対応してもらうように奔走したり、チャネルとしてSteamと連携できるように交渉したり。こういうビジネス面でリードを取るのはブレンダン・イリーベ。そりゃそうだよなあ。いくらラッキー・パーマーがVRのハードウェア開発では天才でも、ビジネスは経験が全くないからわからないものね。

    ラッキー・パーマー追放の真相

    Oculusは最終的にはFacebookに買収されてめでたしめでたしなんですが、創業者のラッキー・パーマーは追放されてしまいます。もう、いろんなスキャンダルがありすぎました。実際には読んでいただいた方がいいと思いますが、一言で言えば「あんた、脇が甘すぎるよ!」ですね。でも、まあ、若いんだからしょうがない。

    この本はどんな人にオススメか

    VR関連をフォローしている人は当然ながら読んだ方がいいです。GOROmanさんとか日本でも有名なゲームやVR関連の人たちがたくさん出てきます。新しいゲーム業界の構造を理解することもできるので、ゲーム業界に興味がある人にもオススメです。

    これからOculus Questを買おうと考えている人は悩ましいですよね。この本を読んで思うのは、もともとOculusが考えていた世界はOculus Questが一つの到達点なのかもと。それでも、Oculus Questが「スマホの次」と言い切れない。それは、もともとOculusがスマホのような汎用的なプラットフォームではないから。Facebookは一般的なプラットフォームになる可能性まで含めてOculusを買収したんでしょうね。だから、本書のタイトルである”the History of the Future”となるのはまだまだ先かなと。その答えは本書にもありません。

    本書はOculusの歴史「ラッキー・パーマーの章」であり、ゲームプラットフォームとしてのOculusの歴史なので、「スマホの次」を知りたい人はラッキー・パーマー以降のOculusの歴史が出るのを待つ必要があります。

  • 書評|プログラマーという人たち|”Coders” by Clive Thompson

    書評|プログラマーという人たち|”Coders” by Clive Thompson

    職業には特定のイメージが付きまといます。弁護士は硬いイメージ、ホストはチャラいイメージ。今回紹介するクリーヴ・トンプソンの”Coders”はプログラマーに焦点を当てて、どんな人たちなのかを描いていきます。プログラマーも内向的でコミュニケーションが苦手なオタクっぽいイメージがありますよね。当然ながらそういう人たちは多いのですが、そうでない人たちだってたくさんいます。

    Coders: The Making of a New Tribe and the Remaking of the World (English Edition)

    Coders: The Making of a New Tribe and the Remaking of the World (English Edition)

    プログラミングとジェンダー

    このご時世、職業としてのプログラマーを掘り下げていくと避けて通れないのがジェンダー論です。”Coders”でも一章をジェンダー論に費やしています。その章以外でも女性とプログラマーのトピックにはかなり神経を使って触れています。エミリー・チャンの”Brotopia”でも紹介されていますが、プログラマーはもともと女性の職業でした。

    コンピューターはハードウェアで、ソフトウェアはその付随的な役割くらいにしか考えられていなかったこともあります。そして、弁護士や医師のような「セクシー」な職業と違って、お金が儲かる職業ではなかったのもその理由の一つです。プログラマーはコミュ障のオタクの白人男性である必要はないのです。

    プログラマーは整理整頓が大好き?

    プログラミングやアルゴリズムは論理そのものなので、論理的思考が必要となります。”Coders”でもプログラマーは論理的思考をする人たちだと紹介されています。ただ、どうなんでしょうね。「プログラミングは論理的な思考が必要」=「プログラマーは論理的思考ができる」なんですかね。プログラミングにも習熟が必要で、習熟者が書くコードは初心者が書くコードより無駄がないですよね。

    この本にもリファクタリングの話が出てきます。ボク個人も開発プロジェクトをリードする立場にありましたが、あまり経験のないプログラマーの書くコードは耐えられないくらいぐちゃぐちゃでした。動けばいいのですが、ぐちゃぐちゃなコードは技術的負債としてどんどん積もっていきます。

    そういう意味ではプログラミングという行為を通じて論理的思考が強化されていくんだと思います。論理的思考ができる人はプログラミングに向いているとは思いますが。

    ハッカーとクラッカー

    プログラマーはリバタリアンのイメージもあります。自由の戦士。でも、実際にアンケート調査をすると、かなりリベラルだったりするそうです。政府による企業への干渉には反対だけど、それ以外はリベラル。まあ、スタートアップの多いサンフランシスコやニューヨークはそもそもリベラルな街ですからね。

    この前ついに逮捕されてしまったジュリアン・アサンジのWikileaksやサイファーパンク、ハッカー集団のアノニマスはリバタリアンのイメージが強いですよね。

    ハッカーはプログラミングに精通している人、クラッカーはその技術や知識を悪用する人です。ハッカーとクラッカーはコインの裏表の関係にあります。何をハックするか。善悪の区別があまりつかない若いプログラマーだと特にそうです。

    この本はどんな人にオススメか

    なんとなくオススメしにくい本です。著者であるクリーヴ・トンプソンはプログラマーのステレオタイプとは違うイメージから抜け出そうとしています。そのためにいろんなプログラマーを紹介しているのですが、たくさん紹介しているが故に一人一人はあまり掘り下げられていません。つまり、深みがありません。このブログでも紹介しているCode for AmericaやInstagramや他のスタートアップのプログラマーたちも紹介されています。自分がいろいろ調べて書いたこともあって、その浅さが気になってしまうんですよね。

    ただ、「プログラマーすげーぜ!世界変えるぜ!」みたいな軽薄な書籍ではありません。いろいろと多角的な見方をしています。そういう意味では広く浅くプログラマーという職業を知りたい人にはオススメです。

  • 書評|イノベーションは文化でなく仕組みで作る|”Loonshots” by  Safi Bahcall

    書評|イノベーションは文化でなく仕組みで作る|”Loonshots” by Safi Bahcall

    イノベーション推進の取り組みを行っている企業はたくさんあると思います。組織の外から取り込むこともあります。スタートアップを買収したり。また、組織の内側から変える取り組みもあります。アジャイルやリーンスタートアップに取り組んだGEなんて代表例ですよね。日本だと新規事業を専任でやる組織を作る場合もあります。このような取り組みは成功することもあるし、失敗することもあります。

    大企業とスタートアップを比較して、企業文化がイノベーションを推進する原動力になっているという考え方もあります。しかし、今回紹介する”Loonshots”の著者であるサフィ・バーコールは「企業文化」はイノベーションには関係ないといいます。実際に、多くのイノベーションを生み出した携帯電話のノキア、医薬品のメルク、そしてディズニーもイノベーションを生み出したにも関わらず、同じ企業文化で同じ人材がその後に失敗したりしています。

    タイトルとなっているルーンショットは一般的に言われる「ムーンショット(月に行くような難しいこと)」にかけて「いっけん馬鹿げた(Loon)クレイジーなアイデア」という意味です。

    LOONSHOTS<ルーンショット> クレイジーを最高のイノベーションにする

    LOONSHOTS<ルーンショット> クレイジーを最高のイノベーションにする

    • 作者:サフィ・バーコール
    • 発売日: 2020/01/23
    • メディア: 単行本
    Loonshots: How to Nurture the Crazy Ideas That Win Wars, Cure Diseases, and Transform Industries

    Loonshots: How to Nurture the Crazy Ideas That Win Wars, Cure Diseases, and Transform Industries

    液体の組織と固体の組織

    水は液体、氷は固体ですよね。組織も同じだとサフィ・バーコールは言います。この状態の変化を相転移(そうてんい)といいます。水はゼロ度で液体から固体になります。液体でいながら固体でいることはできません。組織も同様でイノベーションを生み出す液体型の組織と管理が得意な固体型の組織は両立しません。組織において「元素」にあたるのは人です。元素が液体と固体では行動が違うように、人も組織の状態によって行動が変わります。

    このような考えのルーツは第二次世界大戦で軍隊と科学を結びつけたヴァネヴァー・ブッシュなのだそうです。当時のアメリカはドイツと比べて科学的な兵器開発が遅れていました。潜水艦「Uボート」、弾道ロケット「V2ロケット」やメッサーシュミットが開発した初のジェット戦闘機「シュヴァルベ」が代表例ですね。アメリカは科学力がなかったわけでなく、固形的な当時のアメリカ軍隊が液体的な科学者のアイデアを取り入れることができなかったのです。

    固形型組織と液体型組織の化学反応

    ヴェネヴァー・ブッシュは軍隊の外に科学研究開発局(OSRD:Office of Scientific Research and Development)を設立、固形型の軍隊組織から離れた場所で液体型の科学者組織を作りました。この「兵士と芸術家を分ける」というのが成功の秘訣のひとつめ。

    ふたつ目が「技術」を管理するのではなく、「移転」を管理するということ。液体型組織が作り上げた「クレイジーなアイデア」を固体型組織に採用してもらうことですね。つなぎ役が大切。これが、イノベーションは文化でなく、組織の立て付けが大切だということです。

    イノベーションの罠

    この本ではイノベーションを妨げる様々な罠についても解説されています。その中でも興味深かったのが、ふたつのルーンショットです。P型ルーンショットは派手でわかりやすいアイデア。例えば、ネットフリックスやアマゾン。もう一つはS型ルーンショットで地味でわかりにくいアイデア。例えばウォルマートやグーグル。P型ルーンショットを続けて、S型ルーンショットに敗れ去る例がたくさん紹介されています。パンナムやポラロイドが代表例ですね。アップルを追い出されて、ネクストを創業した頃のスティーブ・ジョブスもその一人です。

    もうひとつ興味深かったのは「結果」のマインドセットと「システム」のマインドセットの違いです。何かに失敗した場合(もしくは成功した場合)、その結果の原因を分析するのが「結果」のマインドセット。例えば、競合より価格が高かったとか。「システム」のマインドセットはその結果を生んだプロセスに着目します。なぜそのような決断をしたのか?誤った決断を避けるためには何をしたらいいのか?

    この本はどのような人にオススメか

    イノベーションに興味がある人にはまずはオススメです。イノベーションのツールや文化について書かれた本は多いのですが、組織について書かれた本はあまり多くありません。

    この本では組織が液体から固体になる方程式を提示しています。実際の方程式は本で確認してください。水が液体から固体に変わるのがゼロ度であるように、組織が液体から固体になるのが150です。これは偶然にもダンバー数と同じです。

    ただ、これはまだまだ仮説として考えたほうがいいでしょうね。”Loonshots”で提示されている仮説が本当にそうなのかはまだまだ分からない。

    サフィ・バーコールは物理学の博士号を取ってるだけあって、科学者なんですよ。過去のイノベーション事例から数式を作り出したら生存バイアスを受けますからね。ジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー』なんてまさに生存バイアスの代表例で、彼の本に取り上げられた企業の多くはその後に没落しています。そういう意味では、”Loonshots”は誠実な本でもあります。

    *2020/1/23に日本語に翻訳出版されました。

  • 書評|日本ではわかりづらいRedditを理解するためのテキスト|”We Are the Nerds” by Christine Lagorio-Chafkin

    書評|日本ではわかりづらいRedditを理解するためのテキスト|”We Are the Nerds” by Christine Lagorio-Chafkin

    Redditって有名だし、英語圏でビジネスをするならチャネルとしても無視できない。2019年1月時点でのAlexaのランキングでは18位。FacebookやTwitterのような定番以外にグロースハックをやるならRedditは検討しなければいけないチャネルの一つです。Reddit hug of deathというくらい、Redditで注目されればサイトがダウンするくらいトラフィックがきます。中国語ならWeiboを理解できないといけないのと同様な意味で、英語でビジネスをするならRedditを理解できないといけない。

    今回紹介する”We Are the Nerds”は共同創業者の二人であるスティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンを中心として創業から現在までを振り返る構成となっています。正直にいえば、前半は登場人物がうまく描ききれていないし、後半はあまり面白くありません。それでも、ここまで詳しくRedditの歴史を追った本はないので、Redditを理解するテキストとして非常に有効です。

    We Are the Nerds: The Birth and Tumultuous Life of Reddit, the Internet's Culture Laboratory (English Edition)

    We Are the Nerds: The Birth and Tumultuous Life of Reddit, the Internet’s Culture Laboratory (English Edition)

    そもそもRedditってなに?

    Redditは日本語版がないので日本人にはあまり馴染みがありません。簡単にいえばコメント機能が充実したはてなブックマークです。自分が気になるリンクをRedditに投稿して、それについてユーザーがコメントする。そのリンクに投票することもできて、高い投票を獲得したリンクが上の方に表示される。Redditにはカルマポイントというポイントシステムがあって、投票などでカルマポイントが増える。これがユーザーにRedditを使ってもらうインセンティブになっているわけです。

    匿名性の高いアクティブなコミュニティーを形成しているのがRedditの特徴です。雰囲気としては日本の2ちゃんねるに近いかもしれません。2ちゃんねるで「ジャンル」と呼ばれるものはRedditではsubredditに近い気がします。そして、各ジャンルの下に「板」がたつ。それでも、Redditはユーザーのハンドル名があるし、完全に匿名とも言い切れません。また、コミュニティーマネージャーが存在して、各subredditにはユーザーによるボランティアの管理人もいます。2ちゃんねるとはやはり違います。英語で2ちゃんねるに近いのは4chan8chanですね。

    Redditのはじまり

    スティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンは後にY Combinatorを立ち上げるポール・グラハムに心酔していて、わざわざ講演を聞きにボストンまで出かけて行き、自分たちのスタートアップアイデアをピッチしました。この時はまだY Combinatorを立ち上げていなかったのですが、この出会いがきっかけでY Combinatorの最初のバッチにスティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンは補欠で選ばれます。本当は落ちていて、失意のまま電車で帰る途中だったのですが、当時、Y Combinatorを一緒に立ち上げた彼女のジェシカ・リビングストンに「え?あの子達いいじゃない!」という鶴の一声で呼び戻されました。スタートアップアイデアが認められたというよりも、二人の将来性が認められた形でした。

    RedditのアイデアはY Combinatorの期間中にポール・グラハムも関わり合いながら形成されました。当時はブックマークサービスのdel.icio.us(はてなブックマークの元ネタ。紆余曲折を経て実質的に2017年終了)や掲示板サイトのSlashdotが人気でした。ポール・グラハムのモットーは「あまりイカしていないそこそこのサービスを最高のサービスにブラッシュアップさせろ」でした。del.icio.usもSlashdotも人気はあったのですが、まだまだ改善する余地がある。そうして生まれたのがRedditのアイデアだったそうです。

    インターネットコミュニティーと企業文化

    サービスとしてのRedditと2ちゃんねるの違いより、それを運営する企業文化の違いの方が大きいと思います。両方ともプラットフォームであり、そこでユーザーが何をやらかしても自由という精神で運営されています。リバタリアン思想。「メディアではなく、プラットフォーム」という位置付けは責任回避にも都合がいいので、FacebookもTwitterも同じ姿勢を取っています。いわゆるソーシャルメディアやソーシャルニュースは「完全自由」と「完全管理」で白黒くっきり別れるわけでなく、様々な濃淡のグレースケールのどこかに位置する感じとなります。大手になるほど管理が強くなります。2ちゃんねるは完全自由に近いですよね。Redditも当初は完全自由だったのですが、大手出版社のConde Nastに緩やかにではありますがコンテンツの管理をするようになります。そういう意味ではニコニコ動画に近いんじゃないかと思います。

    Reddit(2005年6月)より半年先がけてDigg(2004年11月)がローンチして人気が出ます。RedditとDiggは非常に似ていました。着想自体はほぼ同時期なのですが、人気はDiggの方が高かったためにRedditは模倣サイトとみられることも少なくなかったそうです。Redditは2006年10月にConde Nastに買収されたのですが、Diggは2012年でした。

    結局、DiggはRedditに抜かれてしまうのですが、これも企業文化なのかなと思える部分があります。Conde NastはRedditをほぼ自由に運営させていましたが、投資もほとんどしなかった。スタッフは本当に最小限。それに比べるとDiggは2005年、2006年のシリーズAとBの後、2008年に日本円で30億円近い資金を調達しています。そして、2010年に大規模なデザインのリニューアルを行うのですが、これがユーザー離脱の原因となってしまいました。コミュニティー運営って難しいですよね。

    経営と運営の違い

    Redditが2006年にConde Nastに買収された後も、彼らが引退する2009年までスティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンを中心としたコミュニティー運営母体としての色合いが強かった印象を受けます。コミュニティー運営のための決断(主にオハニアン)や開発上の決断(主にホフマン)はしますが、経営上の決断はほとんどしていません。

    経営判断をするようになったのはPayPalマフィアの一員でFacebookでもディレクターとして機械翻訳プロジェクトなどで成功したイーシャン・ウォンがCEOになってからでしょう。ただ、経営者としてあまり有能ではなく、経営者(=経営)と現場(=運営)の乖離が大きくなってしまいました。その後任のエレン・パオもそれはあまり大差がなく。Redditの経営は全くうまくいってませんでしたが、運営はできていた。経営の役割って一体なんだろう?と考えさせられます。

    この本はどんな人にオススメか

    英語圏でビジネスをやる人は読んだ方がいいでしょう。インターネットコミュニティーが何にどのように反応するのか、Redditで実際に起きた出来事はコミュニティー運営の共有知となっています。ストライザンド効果なんて代表例ですね。

    ソーシャルニュースサイトにおけるオープンソース(Redditのコードはオープンソースとして公開されていた)の意味とか、ImgurなどRedditのコバンザメとして発展してきた外部サービスとか。まあ、実際にRedditを使ってみるのが一番ではあります。

    ただ、(個人的な感想ではありますが)著者が読者をぐいぐい引っ張っていく力量がないため、ストーリーとしてあまり面白くない。感情移入しにくいんですよね。本来ならエレン・パオがCEOになってからの彼女の戦いはスタートアップのジェンダー論争にとって重要な意味があるのですが、そこまでたどり着くまでなかなか苦痛です。エレン・パオが辞めたあとにスティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンがRedditに復帰するのですが、ぶっちゃけそこまで読めていません。