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  • 書評|Google CEOのラリー・ペイジからU2のボノまで、豪華な朗読陣のビジネス書|”Measure What Matters” by John Doerr

    書評|Google CEOのラリー・ペイジからU2のボノまで、豪華な朗読陣のビジネス書|”Measure What Matters” by John Doerr

    ボクは洋書は基本的にオーディオブックで聞いています。オーディオブックは著者自身が朗読することがありますが、そんなオーディオブックを聞くと何だか得した気分になります。書いている本人が直接語りかけてくれるのですから。

    ジョン・ドーアによるベストセラーのビジネス本”Measure What Matters”のオーディオブックも著者本人による朗読です。さらにすごいのがゲストたち。この本では色々な事例が取り上げられているのですが、多くの場合はその会社の人たちが朗読者として参加しています。いきなり最初がGoogleのラリー・ペイジですよ。そして最後がU2のボノです。他にもZume Pizzaの創業者を含む多くのスタートアップ創業者がそれぞれの事例を自分の声で届けています。これはスゴい。ゲストとしてもそれだけ信頼してオススメしたいということなのでしょう。

    MEASURE WHAT MATTERS (MR-EXP)

    MEASURE WHAT MATTERS (MR-EXP)

     
    Measure What Matters 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR (メジャー・ホワット・マターズ)

    Measure What Matters 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR (メジャー・ホワット・マターズ)

    • 作者: ジョン・ドーア,ラリー・ペイジ,土方奈美
    • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
    • 発売日: 2018/10/16
    • メディア: 単行本
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    新しいパフォーマンス管理手法としてのOKR

    ここで紹介されているOKR (Objective, Key Result)はジョン・ドーアが提唱する新しいパフォーマンス管理のやり方です。KPI(Key Performance Indicators)とにていますが、KPIはトップダウンなのに対して、OKRはボトムアップであり水平的に展開もできることが特徴です。また、なぜそれが大切なのか目的(Objective)を明確にすることにより、目的と行為と結果が見えやすくなります。

    目的(Objective)は「何をするのか」を示し、主な結果(Key Result)は「どうやるのか」を示します。目的はあまり変わりませんが、主な結果は変わることがあります。よくあるのは四半期ごとの運用ですが、期の途中でも変えることは可能です。

    リーンスタートアップやグロースハッキングとの違い

    Googleが初期から取り入れているということもあり、YouTubeや卒業生の企業でも幅広く取り入れられているようです。スタートアップといえばリーンスタートアップのNorth Star MetricsやグロースハッキングのOne Metric That Mattersが有名です。

    これらのパフォーマンス管理方法は事業のパフォーマンス管理ですが、OKRは組織のパフォーマンス管理という違いがあります。例えばNorth Star Metricsの改善が目的(Objective)となりの、個々人がそれを改善するためにOKRを設定する感じで運用されます。

    OKRを進めるためのCFR

    コンセプト自体は非常にシンプルで、それゆえにパワフルなOKRですが、組織に導入するのは簡単ではありません。そこで大切なのがCFR(Conversation/Feedback/Recognition)です。会話をし、フィードバックを伝え、認めることが大事なのだそうです。OKRは透明性が高くて誰でも個人のOKRを見ることができます。

    特にマネージャーは部下からフィードバックを受けることに慣れていません。プライドもありますから、なかなか素直に認められない。また、部下のやっていることに批評をしても、認めて育てることもなかなか難しい。

    この本ではいきなり全社展開することは勧めていません。まずは小さなグループで。例えば役員だけとか。上ができないことを下にやれとはいえませんからね。

    でも、やっぱり文化が大事

    OKRとCFRは素晴らしいツールなのですが、その土台となる文化ができていないと効果は限定的になるそうです。ブラック企業でいくら立派な取り組みをやったところで、その企業文化がブラックだったらOKRもブラックになってしまうし、管理ばかりが強化されて組織は疲弊してしまいます。

    じゃあ、文化ってどう変えたらいいのよ?ってのが大きな課題ですよね。

    この本は誰にオススメか

    この本の一番のターゲット層は企業の人事に携わる人なんだと思います。最近は人事評価をしない「ノーレイティング」が普及していますが、OKRもその一種と考えることができます。ゆえにOKRは給与に直接つなげないことを推奨しています。

    あと、経営者は読んだ方がいいでしょうね。経営者は組織としてどのように成果を出していくのかを考えなければいけません。ビジネスで創意工夫をしても人事評価は従来通りでは最適な組織運用はできませんよね。パフォーマンス評価を「知らない」といえないのが経営者です。

  • PayPalマフィアとユニコーンの系譜

    PayPalマフィアとユニコーンの系譜

    スタートアップの歴史を語る上で避けて通ることができないのがPayPalです。2002年のeBayによるPalPayの1億5000万ドルの買収は、創業者や社員に大きな富をもたらしました。それがPayPalマフィアと呼ばれる創業者たちになっていきます。PayPalがなければテスラはもちろんのこと、YelpもYouTubeもありませんでした。

     

    PayPalマフィア

    まず、PayPalマフィアについて。PayPalの初期メンバーはその後にさらにスタートアップで成功させています。イーロン・マスク やピーター・ティールといった創業者だけでなく、チャド・ハーリ/スティーブ・チェン/ジョード・カリム(YouTube)、ジェリミー・ストッペルマン(Yelp)、リード・ホフマン(LinkedIn)など錚々たる顔ぶれです。

    PayPalマフィアの系譜

    PayPalはインターネットが伸びるドットコムバブルの初期に設立され、ドットコムバブルが崩壊した後にeBayに買収され無事にエグジットしました。少なくとも、eBayに買収される前まではとても革新的な会社でした。グロースハックのパイオニアでしたし、アリババのビジネスモデルはPayPalのそのままパクリだったりもします(PayPalが失敗したモデルを成功させたアリババもすごい)。

    ピーター・ティール(CFO > Chairman)とマックス・レフチン(CTO)

    ピーター・ティールとマックス・レフチンはPalm Pilot向けのセキュリティーソフトを開発するConfinityを立ち上げます。しかし、これはあまりうまく行かず、Palm Pilot向けのウォレットを開発し、これがPayPalとなります。PayPalは最初はモバイルペイメントのサービスだったんですね。

    Palm Pilot

    しかし、Palm Pilotという特定のプラットフォームだけではマーケットも限られているため、Webのプラットフォームに移行しました。

    イーロン・マスク(Chairman > CEO)

    イーロン・マスクが最初に立ち上げたのは街のローカル情報を提供するZip2でした。Zip2はコンパックに買収されます。イーロン・マスクは2200万ドルを手に入れ、この資金を元手にX.comを立ち上げます。

    X.comはピーター・ティールとマックス・レフチンのConfinityが提供するPayPalに競合するサービスで、さらに銀行として営業をする認可を受けていました。少なくともアメリカでははじめてのオンライン専業銀行でした。最初は競合だったんですね。

    ConfinityとX.comのグロースハック

    eBayは当時伸び盛りのコマースサイトでした。B2CコマースのAmazonと違い、eBayはC2Cコマースなのでユーザー同士による金銭のやりとりが必要でした。そこでよく使われたペイメントプラットフォームがPayPalとX.comでした。

    当時のPayPalのグロースハックはマーケティング責任者だったリード・ホフマン(LinkedInの創業者)が詳しく解説してくれています。

    グロースハック1:インセンティブとリファーラル

    両社はeBay上で顧客獲得のために激しく競争をしました。新規顧客には10ドルを支払い、さらに他の人を紹介してくれた場合は紹介料として10ドルを支払いました。今だとCPA(新規顧客一人当たりの獲得コスト)が高すぎてなかなか取れない戦略ですが、ドットコムバブルがはじける前なのでこのようなバブリーな成長戦略が取れたんですね。

    グロースハック2:埋め込みHTML

    PayPalのようなサービスにとって最終的なコンバージョンはお金の支払いです。では、eBayでのお金の支払いのためにPayPalを使ってもらうにはどうしたらいいか?まずはeBayで目立つようにしないといけませんよね。そこで、出店者がConfinityやX.comのロゴをつけられるように埋め込み用のHTMLコードを用意しました。

    グロースハック3:クローラーと電子メールによるハック

    eBayのWebサイトで目立つだけではまだ足りません。最終的な落札の連絡は電子メールだからです。そこでConfinityはeBayのサイトをクロール(ロボットによる検索)してターゲットとなるオークションを特定し、eBayより早く落札者を特定してメールを送れるようにしました。これぞグロースハックですよね。

    ビジネスモデルの創出

    オンラインペイメントのスタートアップは同時期にたくさん生まれましたが、PayPalはビジネスを成功させることで新しいビジネスモデルを生み出しました。

    また、あまり知られていませんが、マネーリザーブファンド(余额宝)によるアリババのビジネスモデルはPayPalが最初にはじめました。PayPalはMoney Market Fundを立ち上げ、2000年には5.56%の金利を提供していました。ちなみに、アリババの余额宝の2018年の金利は3.6%です。

    しかし、PayPalのMoney Market Fundの金利は2009年には0.23%まで落ち、2011年にはサービス終了しました。リーマンショックは2008年だったので、そこでかなり損が出てしまったのでしょうか。アリババのすごいところはPayPalが失敗したこのモデルを成功させたことです。きっと、なぜPayPalが失敗したのか研究したんでしょうね。失敗を避けるのではなく、学べる組織は強い。

    eBayによる買収

    コマースサイトとオンラインペイメントは切ってもきれない関係です。eBayとしても他人に自分の庭を荒らされるより、自分でペイメントも仕切りたい。そこで、eBayはConfinityとX.comにとっての競合となるBillpointを買収します。そして、ConfinityやX.comの使っていたグロースハックの手法を無効にしたり、色々な対抗策を講じます。

    Confinityにとっての問題は顧客は多いが、キャッシュが少ないこと。X.comにとっての問題はキャッシュは多いが、顧客が少ないこと。お互いの持ってるものと持っていないものが補完関係で、Billpointという共通の敵が生まれたことでConfinityとX.comは合併することにします。これがPayPalとなります。

    お金を持っているイーロン・マスク が大株主で会長(Chairman)、ファイナンスのバックグラウンドを持つピーター・ティールがCFOとなります。ちなみに、ビル・ハリスがCEOになりますが、すぐにクビになります。

    しかし、BillpointというeBayネイティブのペイメントがあるにも関わらず、PayPalのeBayでのシェアは70%まで高まります。そして、eBayはPayPalの競合サービスを独自で展開することを諦め、PayPalを1億5000万ドルで買収することにします。

    PayPalマフィアたち

    2002年のeBayによるPayPal買収によりPayPalで活躍していた人材が自分たちでスタートアップをはじめます。また、エンジェル投資家になったり、ベンチャーキャピタルのパートナーになる人たちもいました。創業者と投資家が同時に生まれたのです。

    多くの元PayPal従業員がスタートアップで成功し、それを支援した元PayPal従業員の投資家とともに彼らはPayPalマフィアと呼ばれるようになりました。

    イーロン・マスクやピーター・ティールはすでに日本でも有名ですので、それ以外の人たちを見ていきましょう。

    リード・ホフマン(COO > LinkedIn創業者)

    PayPalに参加する前にリード・ホフマンはSocialNet.comというマッチングサイトを創業しました。PayPal当時にホフマンの上司だったピーター・ティールによると、SocialNet.comはソーシャルメディアの先駆けとなるようなサイトだったそうです。PayPalではCOOとして外部との関係すべてに責任を持ちました。

    eBayの買収後、リード・ホフマンはLinkedInを立ち上げます。そして、LinkedInは2016年にマイクロソフトに262億ドルで買収され、エグジットします。

    ジェリミー・ストッペルマン(エンジニアリング担当副社長 > Yelp創業者)

    イーロン・マスク の立ち上げたX.comに参加して、Confinityとの合併でPayPalにそのまま参加します。eBayの買収後はハーバード大学のビジネススクールに通いますが、PayPal当時にストッペルマンの上司だったマックス・レフチンに勧められMRL venturesに参加します。そこで再開したPayPalの元エンジニアだったラッセル・シモンズとYelpを立ち上げます。

    元PayPalのCTOでYelp創業者たちの上司だったマックス・レフチンはYelpに投資しました。

    チャド・ハーリー/スティーブ・チェン/ジョード・カリム(エンジニア > YouTube創業者)

    YouTubeの創業者たちもPayPalのエンジニアでした。YouTubeの創業の歴史はいろんな文献があるので各自でチェックお願いします。(そのうち書くかも)

    ルロフ・ボサはピーター・ティールの後にPayPalのCFOになり、eBay買収後はベンチャーキャピタルのSequoia Capitalに参加します。Sequoia CapitalからのYouTubeへの投資担当はルロフ・ボサでした。

    ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

    ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

     

    参考文献

    The History Of PayPal: Important Company Dates | PYMNTS.com

    The Story of PayPal – Bharath Kumar J – Medium

    Reid Hoffman on best strategies, valuable lessons, the PayPal mafia & creating early social networks – YouTube

    How Does a PayPal Money Market Fund Work? | Pocket Sense

    The YouTube Gurus – TIME

  • 書評|Amazonから学ぶ4つのビジネスの成功要素|”Be Like Amazon” by Jeffrey Eisenberg

    書評|Amazonから学ぶ4つのビジネスの成功要素|”Be Like Amazon” by Jeffrey Eisenberg

    実証されていないイノベーションやビジネスモデルはワクワクします。将来のことだから。株価も将来の期待によって上下します。顧客や従業員を中心に考える企業は投資家からみれば、利益という自分の分前を取られていると感じますし、ワクワクしないのであまりニュースにもなりません。

    ジェフリー・アイゼンバーグの”Be Like Amazon“は「もちろん、イノベーションやオペレーションの最適化は大事なのだけれど、顧客やパートナーも大事だよ」と事例を示しながら解説しています。

    本の内容

    ジェフリー・アイゼンバーグの”Be Like Amazon”はビジネス書なのだけれど、投資家である師匠と起業家である弟子が車でどこかへ向かう途中の会話という形式になっています。会話形式ですが、フレームワークははっきりしているので、要点がぶれることもなく非常にわかりやすいです。タイトルにAmazonとありますが、Amazon以外の事例を紹介しながら独自の事業フレームワークを解説しています。

    この本では以下の四つが成功の要素としています。

    1. 顧客中心主義(Customer Centricity)
    2. 継続的改善(Continuous Optimization)
    3. イノベーション文化(Culture of Innovation)
    4. 企業としての迅速さ(Corporate Agility)

    メディアで「これはイノベーションだ!すごい!」とか「こんなオペレーションよく考えた!天才!」のような記事をよく見かけます。それはこの四つの中の2. 継続的改善と 3. イノベーション文化の表れではあります。しかし、「この取り組みは顧客中心主義ですごい!」という記事はあまり見かけません。顧客中心主義はイノベーションやオペレーションに比べて記事になりにくいからでしょうが、1. 顧客中心主義がなければ「結局そのイノベーションは誰のため?」となってしまいます。

    顧客にとっては安く便利に買い物ができて、早く届けばいい。それがどんな仕組みだろうと関係ありません。Amazonが矢継ぎ早に繰り出すドローンによる配達、Amazon Dash、Amazon Goも「安く便利に買い物ができて、早く届ける」ことを実現することですよね。上記の成功要素四つが全て満たされています。

    顧客を失うと改善もイノベーションも意味がなくなる

    シアーズはジュリアス・ローゼンウォルドの時代、1906年にIPOします。シアーズはカタログ販売という当時としては革新的なビジネスモデルを成功させましたが、その成功の裏にあった理念は良いものを安く届けるです。顧客が満足しなければ返金する「満足保証」はその表れでした。

    長年シアーズがアメリカ小売りのトップでしたが、1980年代にサム・ウォルトンのウォルマートにチャンピオンの座を譲ります。シアーズはディスカバリーカードを作ってクレジットカード領域に参入したり、オペレーションの改善をしましたが、顧客中心の視点は失っていきました。

    そのイノベーションは誰のため?

    現金お断りは顧客のため?

    様々なニュースでイノベーションが取り上げられ賞賛されています。しかし、「そのイノベーションは誰のため?」と思ってしまうような事例も少なくないです。例えば、天丼てんやが現金お断りのキャッシュレス店舗をはじめるという話。

    ヨーロッパでは確かに現金を受け付けないキャッシュレススーパーマーケット(Marqt)など一部あります。アメリカではAmazon Goが代表例です。しかし、これは例外的です。ヨーロッパではデビットカードでの支払い、アメリカではクレジットカードでの支払いが一般化していて、キャッシュレスでの支払い行動が現金より多いという背景もあり、それほど困ったことにはなりません。

    企業として2. 継続的改善(Continuous Optimization)は大事ですし、イノベーション文化(Culture of Innovation)や企業としての迅速さ(Corporate Agility)は賞賛されるべきことです。しかし、1. 顧客中心主義(Customer Centricity)の視点で考えるとどうでしょうか?

    このような疑問は英国The Gurdianでも提起されています。キャッシュレスで支払えないという理由だけで顧客を拒絶するのが正しい姿勢なのでしょうかと。もちろん、テスト運用だったら理解できます。やってみないとわかりませんから。しかし、現金拒否があたかも既定路線であるかのような姿勢には、顧客中心主義の観点で大きな疑問となります。

    デリバリープロバイダは顧客のため?

    この本では大絶賛さているAmazonですが、日本ではどうでしょうか。例えばAmazon Japanのデリバリープロバイダは早くも安くもなっていないので1. 顧客中心主義の欠けた2. 継続的改善となってしまっています。なかなか日本では徹底できないのかもしれません。Amazonは小売だけではなく物流も支配するかもしれないと予想する人たちもいますが、それが顧客のためにならないのであれば支持もされないでしょう。

  • イーロン・マスクのマリファナインタビューが(内容は)素晴らしすぎる

    イーロン・マスクのマリファナインタビューが(内容は)素晴らしすぎる

    イーロン・マスク といえばテスラやスペースXが有名ですが、他にもボーリングカンパニーニューラリンクといった面白いことをやっています。そのイーロン・マスクがマリファナを吸ったということでジョー・ローガンのポッドキャストが注目を浴びましたが、内容はイーロン・マスク が様々なことについて台本なしに率直に語った素晴らしいものです。マリファナの部分だけを抜き出して批判するのはもったいない内容です。質問に対して数秒考えて、ゆっくりとリラックスしながらも真摯に答える態度はとても好感が持てます。

    しかも映画『スペースボール』のファンだなんて、ボクはイーロン・マスクが一気に大好きになってしまいました。

    このインタビューは日本の人たちにも知ってもらいたいので、英語の内容を聞き取り日本語の抄訳を用意しました。何しろ2時30分という長丁場です。全てを翻訳できませんが、重要だと思われる部分は翻訳しました。

     

     

    火炎放射器とスペースボール

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    • 誰も反対しなかった?もちろん反対したよ。悪いアイデアだ。絶対に買っちゃダメだっていった。でも止められなかったよ。火炎放射器は20000個が4日で売れた。一個500ドル。帽子は50000個作って、100万ドルくらいの売り上げになった。
    • でも、実際には火炎放射器じゃない。バーナーにエアライフルのカバーをのっけただけ。
    • どうしたらそんな時間がある?みんなボクのことをビジネスの人だと思ってる。Wikipediaにはビジネス・マグニート *1 とか書いてあるし。でも、実際に80%の時間はモノを作ってる時間。アイデアを実現するのがエンジニア。

    トンネルを掘る理由

    • トンネルを掘る理由?ロスには16年住んでるんだよね。交通渋滞はずっと問題だったわけだ。トンネル以外の解決方法がないから、トンネルを掘ってる。成功するかどうかはわからないけど。
    • ロスからはじめて世界中に広める?なんでロスかといえば、ロスに住んでるから。それだけだよ。ロスは実際にはトンネルを掘るには最悪の場所なんだ。ものすごい書類の量。地震もあるしね。
    • でも、地震の時にトンネルほど安全な場所はないんだけどね。嵐の時に潜水艦が安全なのと同じ理由で。地面が動いてもそれに合わせて動くことができる。
    • どうやってはじめた?スペースXのエンジニアに話したらやろうということになった。ロス・アンジェルスには穴を掘るって申請した。最初は穴を掘るだけだからね。
    • トンネルの良さを理解していない人は、地上の道路の問題を理解していない。地上の道路は2Dの交通システムの上に3Dの生活空間がある。生活空間が3Dなのに交通システムが2Dだから渋滞になる。交通システムが3Dになれば渋滞は解決される
    • 交通システムが3Dになるには空飛ぶ車で上に行くか、トンネルで下に行くかしかない。空を飛ぶ車に関しては技術的には実現可能でも騒音と車を持ち上げるために必要な風圧の問題がある。トンネルは100層にもできる。

    AIについてまだ心配している?

    • AIに関しては前よりは心配していないけど、そうだね。いまは運命論者のような気分だ。
    • いまは運命だから避けられないものだとあきらめている。AIは必ずしも悪いものじゃないんだ。人間がコントロールできる範疇じゃないってだけ。難しいのはAIを兵器として活用する欲望にどう抗うかだね。機械対人間ではなく、人間対人間の兵器としてね。

    • まず理解しなければいけないのは、企業は機械と人間によるサイバーネティックの集合体だということ。そして、ボクらはその大きな集合体の枝葉だということ。そして、ボクらは集合的にAIをプログラムしている。Googleの検索エンジンみたいなもの。FacebookやTwitterのようなソーシャルネットワークも同じ。

    AIと脳が繋がるニューラリンクに取り組む理由

    • AIについては人間のコントロールが効かなくなるまでそれほど時間がかからない。それが実現した世界がいいものなのか、悪いものなのかはわからない。人間がコントロールできなくなるというだけ。止めることができないなら、参加したほうがいい。そういうことでニューラリンクNeuralinkのWebサイト)をはじめた。
    • 一番いいシナリオの一つはAIが人間にとっての認識レイヤーの一つになること。現在は人間の脳とAIが直接繋がるにはバンド幅に問題がある。人間には大脳辺縁系(生命維持や本能行動、情動行動を司る)があり大脳皮質(知覚、随意運動、思考、推理、記憶など、脳の高次機能を司る)がある。大脳皮質は大脳辺縁系を幸せにしようとする。もしこれに三つ目のレイヤーとしてAIがあれば人間と共生関係になれる。そうなれば理論的には誰でもスーパーヒューマンになれる。
    • どれくらいスーパーヒューマンになれる?スマホのある自分と、スマホのない自分ではどっちがスマートかということ。実際に「スマホ有り自分」の方が「スマホ無しの自分」より相当賢いはず。スマホで人間のできることは大幅に向上した。スマホと人間の関係を考えれば、ボクたちはすでにサイボーグだと言える。スマホはすでに自分の一部なのだから。
    • しかし、スマホやパソコンと人間の間の情報伝達速度は遅い。すごく遅い。「デジタルの自分」と「生物としての自分」の間はすごく細い線でつながっている。これを太くするのがニューラリンク。インターフェースの問題を解決する。さらに進めばデジタルの自分のスナップショットを保存することも可能になり、生物の自分が死んだ後も生き残る。

    ソーシャルメディアの延長線としてのVRの将来

    • ソーシャルメディアは人を幸せにしていない。ルーズベルトの言う「比べると幸せは奪われる “Comparison Is the Thief of Joy”」と言うこと?そうだね。「現実 マイナス 期待=幸せ “Reality minus expectation equal happiness」とも言える。
    • ソーシャルメディアの問題は実際よりもよく見せること。そして、他人のいい写真を見てうらやましくなる。他人のソーシャルストリームを眺め続けることで、絶えず自分の期待値を変えている。
    • それがソーシャルメディアの現時点だとして、これからどこへ向かっていくと思う?リアリティーとシミュレーションのさがなくなって来ると思う。すでにシミュレーションの世界に住んでいるのかもしれない
    • もし、自分たちがシミュレーションの中に住んでいるとしたら、シミュレーションの外の世界は退屈だと思う。完成したハリウッド映画は素晴らしいけど、その撮影過程は退屈だ。グリーンスクリーンの前で演技したり。
    • VRの中で「今どこにいる?」という質問は意味がない。どこにいるかは意識の問題でしかない。

    テスラについて

    • みんなテスラについてわかってない。例えばバレーだって踊れる。他にも色々できる。
    • テスラはお金で買うことができる最も面白いものの一つだと思う。テスラは究極的にはクルマじゃない。楽しくすること。アタリのエミュレーターでミサイルコマンドのゲームをやったりね。トラックボールは使いづらいから、タッチスクリーンにする。
    • サンフランシスコでの居眠り運転のビデオが有名だが、最近ソフトウェアをアップデートして、ハンドルから手を離したら徐々に減速して停車し、ハザードランプを点灯。そのあとにクラクションでドライバーを起こすように変更した。
    • 電気自動車はもっと効率的にならないといけない。一回の充電でもっと遠くまでいけるようにならないと。今の技術でもできるけど、コストが高すぎる。
    • Fiskerの車がハリケーンで爆発した。バッテリーは燃えやすいけどテスラは大丈夫?テスラのバッテリーは防水だから大丈夫だよ。
    • 電気自動車はガソリン車より反応が早いし、精密な動きができる。それがエンジンとモーターの違い。プリンターや医療機器にガソリンエンジンではなく電気モーターを使うのはそのため。雪道でスリップしてもちゃんとコントロールができる。スリップする前にコントロールするけど。

    持続可能なエネルギーについて

    • トンネルの他にも垂直離着陸機(VTOL)についても新しいアイデアがある。でも、電気飛行機は電気自動車と比べて優先順位が低い。持続可能なエネルギーはとても優先順位が高く、だからこそ電気自動車が必要になる。
    • 地上から炭素を掘り出して空中に放出するのは歴史上最も馬鹿げた実験だ。あまりにも多くの産業があまりにも多くの化石燃料に依存している。全ての自動車を電気自動車に置き換えるのに25年はかかる。
    • テスラが作っているソーラータイル?これまでのソーラーパネルと違って屋根と同化してるんだ。一般的な家庭に必要な少なくとも1/2の電力を賄うことができる。電力を使うのはエアコン。だから、エアコンの使い方に依存する。
    • エアコンは作らないのか?ふふふ、将来のことについては言えないね。うーん、いいアイデアかも。

    イーロン・マスクにとって難しいこと

    • 会社を経営するのは難しい。特にテスラは。クルマ会社を経営するのは難しい。アメリカのクルマ会社で破産しなかったのはフォードとテスラだけ。
    • 例えばテスラの初期はロータスエリーゼを電気自動車に改造すれば大丈夫と考えてた。でも、それは間違っていた。結局、既存の自動車部品で使えたのは7%以下。あとは全て作り直さなければいけなかった。

     

     

    *1:X-Menの登場人物

  • 書評|ハリネズミとキツネの大戦略|”On Grand Strategy” by John Lewis Gaddis

    書評|ハリネズミとキツネの大戦略|”On Grand Strategy” by John Lewis Gaddis

    「戦略」という言葉はビジネスでも使われますが、元々は軍事用語です。第二次世界大戦以降は武力を使った大きな戦争は以前と比べて少なくなりましたが、戦略の重要性は低くなるどころか益々高まっています。

    今回紹介する”On Grand Strategy”はアメリカの歴史学者であるジョン・ルイス・ギャディスがイェール大学で教えていた戦略に関する講義をまとめたものです。歴史から戦略を学ぶのって大事ですよね。日本だと『失敗の本質』という良書がありますが、この本の意図もそれに近いものがあります。

     

    On Grand Strategy

    On Grand Strategy

     
    失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

    失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

    • 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
    • 出版社/メーカー: 中央公論社
    • 発売日: 1991/08/01
    • メディア: 文庫
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    ハリネズミとキツネ

    ギャディスの戦略とは先を見通す理想主義と周りを見渡す現実主義の間を行き来するものです。トルストイの『戦争と平和』を題材にしたアイザイア・バーリンの『ハリネズミと狐』を引き合いに出して説明を進めます。大きな理想を追い求めるハリネズミと、たくさんの知恵で現実と折り合いをなす狐。

    戦争と平和〈1〉 (新潮文庫)

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    ハリネズミと狐――『戦争と平和』の歴史哲学 (岩波文庫)

    ハリネズミと狐――『戦争と平和』の歴史哲学 (岩波文庫)

     

    ゴールと手段の合致

    英語で”Means to an end”は目的を達成する手段のことです。Meansは手段、Endsは目的です。戦略上、重要なのは目的は無限で手段は有限だという認識です。目的と手段は合わさっていないといけない。多くの歴史上の偉人たちが最後に失敗したのは、手段が有限だということに気づかなかったことが原因でした。有限の手段で無限のゴールを追いかけてもどこかで破綻します。

    なぜ偉業を達成した偉人でもそのような間違えを犯すのか?ギャディスはその理由として酸素を比喩にして説明しています。後から振り返れば自明のことでも、その時は気がつかない。常識は酸素のようなもので、上に登るほど薄くなる。そうならないようにするにはグランドストラテジー(大きな戦略)が必要になります。上に登るにはビジョンも必要だが、周りを見渡す周到さも必要となります。

    グランドストラテジーができていた例としてリンカーンを挙げています。リンカーンは崇高なビジョンを掲げながら、かなり泥臭い政治的な駆け引きもやっています。スピルバーグの映画はドラマ化されて誇張化されていますが、それでもリンカーンの現実主義者の面を垣間見ることができます。

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    戦略に必要な三つの要素

    ギャディスはグランドストラテジーには以下の三つの要素を考慮しなければいけないと説明しています。

    • 時間
    • スペース
    • スケール

    これが常識が酸素と同じだという理屈にもつながります。時間軸が長くなり、扱うスペースが大きくなり、スケールの速度が速いほどに細部に目が届かなくなってきます。

    時にはキツネのように状況判断をして波に乗る(Steering)ことが必要ですが、時にはハリネズミのように、波に抗い前に進む(Leading)必要があります。

    この本はどんな人にオススメか?

    まず歴史が好きな人にはオススメです。ペルシャ戦争からはじまり、様々な戦争を上記の戦略という観点から考察しています。また、西洋の考え方に興味がある人にもオススメです。この本では孫子の兵法なども紹介していますが、基本的にはアウグスティヌスマキアヴェリのような西洋の思想家の引用が多いです。

    特に昔の思想家はキリスト教が根本にあるので、なかなか日本人には馴染みがないのですが、西洋的な考えがどこから来ているのかを知るにはいいきっかけになるのではないでしょうか。特にアメリカの学校ではリベラルアーツの一環としてこの辺の知識は授業で習うので、カレッジレベルでは一般常識の部類に入ります。

     

    アウグスティヌス――「心」の哲学者 (岩波新書)

    アウグスティヌス――「心」の哲学者 (岩波新書)

     
    君主論 - 新版 (中公文庫)

    君主論 – 新版 (中公文庫)

     

     

  • 徹底比較 SuicaとAlipay|日本のモバイルペイメント普及のカギ

    徹底比較 SuicaとAlipay|日本のモバイルペイメント普及のカギ

    中国はモバイルペイメントが普及している先進事例です。インターフェースがQRコードで一番目立つため、QRコードが大きく注目されています。しかし、インターフェースは(重要だけれども)一つのコンポーネントでしかありません。

    今回は中国の支付宝(Alipay)と日本のSuicaを比較して、何が足りないのかを検証します。そして、日本で中国より進んだ電子マネーを普及させるには何が必要なのかを考えてみます。

     

    支付宝(Alipay)と蚂蚁金服(Ant Financial)

    モバイルペイメントのジーフーバオ(支付宝|Alipay)を運営するのはアリババの関連会社であるアントファイナンシャル(蚂蚁金服|Ant Financial)です。アントファイナンシャルは非上場企業としては最大の価値評価(約16.7兆円)をされているユニコーン企業です。

    以前の中国モバイルペイメントの分析でも紹介した通り、アントファイナンシャルは決済を含む三つの主要サービスを展開しています。この三つが合わさって一つのビジネスモデルとなり、モバイルペイメントだけを真似ても意味がないことがわかります。

    アントファイナンシャルの主要サービスは以下の三つ。

    1. 決済機能(QRコード)
    2. マネーリザーブファンド
    3. 金融機能(クレジット)

    決済機能

    Suicaをはじめとした日本の電子マネーは1. 決済機能はありますが、2. マネーリザーブファンドと3. 金融機能がありません。日本の電子マネーの1. 決済機能はQRコードではなくICチップなのでむしろ中国より利便性は高いと言えます。QRコードは導入コストが低いために中国で裾野を広げるには有効でした。また、ライバルのUnionPayがICチップの決済インフラを抑えていたのも大きいと思います。

    インターフェースの違いよりも大きいのが手数料です。Alipayの手数料は0.1%ですが、Suicaの手数料は3%から5%とクレジットカードと同程度です。QRコードにして導入コストを抑えたとしても、運用コストが大きいのが中国と日本の大きな違いと言えます。中国のモバイルペイメントの手数料が低い理由はビジネスモデルが根本的に違うからだと考えられます。その違いは次に説明するマネーリザーブファンドと金融機能です。

    マネーリザーブファンド

    電子マネーはチャージする必要があり、そのチャージしたお金を貯めておく必要があります。日本の電子マネーもまずはチャージしますよね。中国の場合はこのチャージしているお金に銀行より高い利息(銀行は0.35%、余额宝は3.6%)がつきます。これが日本の電子マネーにないサービスの一つです。

    この仕組みはマネーリザーブファンドといい、アントファイナンシャルはユエバオ(余额宝)というサービス名で展開しています。マネーリザーブファンドは金融商品の一種で、ユーザーはユエバオに「投資」することによってリターン(金利)を受け取ります。

    また、日本の電子マネーとAlipayの大きな違いの一つがチャージの方法です。Alipayは直接銀行口座からチャージができますが、日本の場合は一部を除いて銀行口座から直接チャージができません。2018年9月現在ではMizuho Suicaくらいなものでしょうか。それ以外ではクレジットカードが必要になります。デビットカードのモバイル化は重要な普及要素の一つです。

    この仕組みを電子マネーのアプリ内(Alipay)で提供しているところがアントファイナンシャルの強みの一つです。Mizuho Suicaのやり方だと銀行によってそれぞれ別のSuicaが必要になります。

    金融機能

    金融機関は顧客から預かったお金(マネーリザーブファンド)を運用して利益を出します。別の金融商品に投資したり、貸し出して金利をとるなどです。

    Alipayはクレジットカード機能も提供しています。アントファイナンシャルの独自ブランドのため、代理店が支払う手数料はVisaやMastercardなどの国際ブランドと比べて安く抑えられています(国際ブランドの手数料は1%から5%、Alipayは0.1%)。アントファイナンシャルのキャッシングサービスがジエベイ(借呗)でクレジットサービスがフアベイ(花呗)です。これもAlipayのアプリ内で利用できます。

    金融機関の儲けは決済よりも金融機能の方が大きいのが通説です。Alipayの場合も決済手数料は低く抑えられているため、利益の源泉はマネーリザーブファンドの運用とこの金融機能になります。

    この機能も日本の電子マネーにはありません。日本の電子マネーのビジネスモデルは手数料で利益を出すビジネスモデルですが、Alipayのビジネスモデルは金融機能で利益を出すビジネスモデル。QRコードのような表面的なことだけではなく、そもそものビジネスモデルが違います。

    支付宝(Alipay)のサービススコープ

    アントファイナンシャルはアリババの関連会社ですが、アリババのコアビジネスはコマースサイトです。eBayのようなC2Cコマースがタオバオ(淘宝网)、AmazonのようなB2CコマースがTmall(天猫)です。Alipayはこのアリババのコアビジネスであるコマースサイトの決済機能から生まれました。これはSuicaがJR東日本のコアビジネスである電車代の決済機能から生まれたのと同じです。

    アントファイナンシャルとアリババはAlipayをアリババ以外でも普及させるためにエコシステムの形成を図ります。タクシーサービスやシェアバイクに投資するのはこのAlipayのエコシステム形成のためです。

    利用者が増えることで交通機関、公共サービス、その他の店舗などがAlipayの決済サービスを導入するインセンティブが増えます。

    JR東日本のSuicaも自社サービスの決済機能から店舗まで広がりましたが、積極的にスタートアップに投資はしていません。また、コマースサイトなどオンライン/モバイルショッピングでのSuica利用へスコープは広がっていません。オンライン決済に関してはAmazonも日本でAmazonペイの展開を進めているため、この分野に関しては早く手を打った方がいいと思います。

    支付宝(Alipay)とSuicaの違い

    中国のAlipayと日本のSuicaの違いは以下にまとめることができます。

    1. Alipayのビジネスモデルは決済だけでなく金融機能を含み、全ての金融サービスを一つのアプリ内で完結できる。日本のSuicaは決済手数料のビジネスモデルのため、決済以外の機能がない。
    2. Alipayは手数料で利益を出すモデルではないため、手数料が低い。日本のSuicaは手数料で利益を出すモデルなので、手数料が高い。
    3. Alipayの母体のアントファイナンシャルはサービス普及のためにスタートアップに投資しているが、JR東日本をはじめとした電子マネーの母体会社にそのような動きはない。
    4. Alipayはクレジットカードが前提のサービスではない。銀行口座と直接つながることが出来る。日本のSuicaはクレジットカードが前提。銀行口座と直接つながることができない。クレジットカード前提のために手数料が高くなる。
    5. Alipayはオンラインとオフラインを同じサービスで利用できる。日本のSuicaではオンラインサービスの決済はできない。

    こうやってみると、QRコードかICチップかの違いはそれほど大きな要素ではないことが理解できると思います。

    日本で中国を超える電子マネーを普及させるために

    QRコードは一番真似しやすい部分ですが、中国での電子マネー普及の本質ではありません。一部だけ真似しても同じ結果は得られません。それはインターフェースはサービスの視点で考えると一要素でしかないからです。サービスのスコープを俯瞰する必要があります。

    Suicaをはじめとした交通系電子マネーはかなり普及しています。サービスのスコープが中国より狭いので同じ利便性を得られていないだけです。Suicaはエキナカからマチナカまでは広がりましたが、オンラインやモバイルサービスまでは広がっていません。水道、ガス、電気料金を含む公共料金の支払いもSuicaではできません。

    しかし、スコープを広げて利便性を高めれば中国以上の電子マネーを実現するポテンシャルがあると考えます。では、Suicaのスコープを広げるにはどうしたらいいのでしょうか?

    独立金融機関としてのSuicaの可能性

    Alipayは「コマースに付随する決算サービス」でした。アリババはアントファイナンシャルを設立することで、Alipayを「決算サービスに付随する金融サービス」に変革しました。

    現在、Suica事業はJR東日本が行なっています。アリババがアントファイナンスを設立して本業から金融を分離したように、JR東日本も鉄道業と分離した金融機関を設立する必要があります。これは銀行業をやるという意味ではありません。アントファイナンスも銀行業はやっていません。Suicaを「鉄道業に付随する決算サービス」から「決算サービスに付随する金融サービス」へと変革しなければいけません。これによりビジネスモデルの転換ができます。

    Suicaがさらに広く使われるようになるためにはまだまだ多くのことをやらなければいけません。決算以外の金融サービスから利益をえるには独立した母体が必要となります。

    もちろん、JR北海道(Kitaka)、JR東日本(Suica)、JR東海(Toica)、JR西日本(Icoca)、JR四国、JR九州(Sugoca)は独立した企業でJR四国を除きそれぞれ独自の交通カードを発行しています。これらを統合するという考え方もありますが、それには時間がかかります。最大のユーザー数を誇るSuicaがシェアを取り、デファクト化をした方が合理的だと考えられます。そういう意味でJR東日本からSuica事業を独立させるのが一番早い方法ではないでしょうか。

    お金の流通の最適化

    現在のSuicaを利用したお金の流れは以下になります。

    1. 銀行口座
    2. クレジットカードまたは現金
    3. Suica(チャージ)
    4. 店舗で支払い

    アプリの場合、現金でチャージできないため、基本的にはクレジットカードからのチャージになります。この際にサービス提供業者にはクレジット手数料が発生していると考えられます。つまり、コストがかかっています。

    Alipayの流れは以下になります。

    1. 銀行口座
    2. Alipay(チャージ)
    3. 店舗で支払い

    一つステップが少ないのがわかります。これは銀行口座とAlipayが直接つながっているからです。銀行の手数料はかかると思いますが、クレジット手数料はかかりません。コストが安くすみます。

    日本の場合は他の国よりクレジット手数料が高いので、これを削減できる効果は非常に大きいです。

    大きなお金をアプリにチャージするインセンティブの設計

    たびたびチャージするのは面倒ですよね。でも、Suicaにたくさんのお金をチャージしておくメリットは少ない。Alipayはマネーリザーブファンドでこの課題を解決しています。

    Alipayではアプリにチャージしたお金をマネーリザーブファンドのユエバオ(余额宝)に移すことができます。ユエバオは銀行より金利が高いため、ユエバオの口座にお金をためておくのはユーザーのメリットとなります。運用会社のアントファイナンシャルはそのお金を運用して利ざやを稼ぐことができます。

    このようにアプリ内で資金を運用できるようになれば、アプリに大きなお金を預けるメリットが出てきます。

    クレジット機能を持たせる

    現金でなく、クレジットカードを利用して買い物をする人は多いと思います。Suicaにはクレジットカード機能はありませんが、Alipayにはクレジットカード機能あります。フアベイ(花呗)がクレジットで、ジエベイ(借呗)がキャッシングです。

    このクレジット機能はVisaやMastercardなど大手ブランドではなく、アントファイナンシャル独自ブランドのため、中間業者のマージンが必要ありません。

    クレジットカードには三つの業務があります。1) ブランド 2) イシュアー 3) アクワイアラーです。ブランドはVisa、MastercardやJCBです。日本の場合、イシュアーとアクワイアラーは同じことが多くて、銀行の三井住友カードとかイオンカードとか楽天カードとかです。日本の場合は唯一JCBがこの3つすべて行う総合カード会社となっています。国際ブランドに頼らないAlipayは中国のJCBみたいなものです。SuicaもJCBに続く第二の総合カード会社になればいいのです。JR東日本が事業母体だとこれはできません。

    モバイルペイメントを実現する

    Suicaはオフラインのペイメントには強いのですが、オンラインペイメントには対応していません。たとえば、コマースサイトで買い物をしてもSuicaで支払いできません。Alipayならできます。その他にも映画のチケットなどオンラインで買えるサービスはたくさんあります。

    考えられるユースケースとして、スマホのSuicaアプリで映画のチケットを買って、Suicaアプリにチケット情報がそのまま保存され、Suicaアプリで映画館に入場できるなどです。レストランの予約も可能ですよね。ペイメントと連携しているからドタキャンも少ないでしょう。これらすべて中国では実現されています。カギはQRコードではなく、オンラインとオフラインのシームレスな連携であり、中間業者の排除です。

  • 書評|Twitter創業者たちのエゴと魅力『ツイッター創業物語』|”Hatching Twitter” by Nick Bilton【2018年夏休み読書週間】

    書評|Twitter創業者たちのエゴと魅力『ツイッター創業物語』|”Hatching Twitter” by Nick Bilton【2018年夏休み読書週間】

    いろいろなスタートアップの成り立ちを調べてブログで書いていると、企業や人となりには(当然ながら)裏と表があると気がつきます。完璧なんてない。どれだけ素晴らしい業績を残した起業家も成人君主ではなく普通の人間です。

    いわゆる会社公認の「創業史」には人間的なドロドロした部分を拭き取って、磨いてピカピカになったものです。しかし、この『ツイッター創業物語』はニック・ビルトンが創業者たちだけでなく、当時の関係者に徹底的に聞き取り調査をした結果、非常に人間らしいツイッターの生い立ちを伝えています。

    Hatching Twitter (English Edition)

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    ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り

    ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り

     

     

     

    成功者は聖人君主じゃない

    Appleのスティーブ・ジョブズやFacebookのマーク・ザッカーバーグの成し遂げたことはスゴイです。日本だと松下幸之助や本田宗一郎は伝説ですよね。彼らの人となりが理解できるほど近しい人は限られていて、多くの人は想像するしかありません。そして想像する彼らは素晴らしいリーダー。想像の産物です。リーダーは人格者であってほしいという潜在的な期待もあるでしょう。でも、実際には完璧な人間なんていません。

    『ツイッター創業物語』に登場するエヴァン・ウィリアムズ、ジャック・ドーシー、ビズ・ストーン、ノア・グラスの四人(公式には三人)の創業者たちも完璧とは程遠い人間らしい人たちとして描かれています。マーク・ザッカーバーグも登場しますが、彼も(当然ながら)慈善事業としてFacebookを運営しているわけではないので、ライバルであるTwitterをしたたかに追い詰めようとします。でも、それが人間ですよね。

    三人いれば「社内政治」が生まれる

    スタートアップは大企業と違って社内政治がないというイメージがあると思います。これは実際とは随分違うかなと思います。欧米のビジネスの世界では「三人いれば社内政治が生まれる」と言われています。ボクが手伝っていたスタートアップが海外支社を作った時、その国は三人ではじめました。三人なんだから密接に連携してやると思いますよね?そんなことないんです。人間にはエゴがありプライドがあり、相性があります。英語では人間の相性を化学反応(Chemistry)と言います。Wikipediaにもあるくらい頻繁に使われるビジネス用語です。

    エヴァン・ウィリアムズ、ジャック・ドーシー、ビズ・ストーン、ノア・グラスの四人は簡単に言えばChemistryが合わなかったのかなと。完璧な聖人君主がいないように、完璧な悪魔もいません。人と人との化学反応がよく作用することもあれば、悪く作用することもある。それだけです。この本では創業者同士の化学反応がどのように起きたのかを追うことができます。

    ジャーナリズムの凄さ

    インターネットのおかげで創業者が会社の成り立ちをPRというフィルター無しで見ることができるようになりました。ボクのようなブロガーはそのようなネット上のインタビューを整理整頓して記事にすることができます。創業初期にはPRエージェンシーは付いていないので、創業者の率直な考えや出来事を知ることができます。PRエージェンシーがキレイにした会社公認の「創業史」よりは少し人間っぽさが出ているかと思います。それでも、そこが限界です。

    報道には会社からの「発表報道」と記者の「調査報道」があります。セラノスを追求したジョン・カレイロウの”Bad Blood”もそうですが、ニック・ビルトンによるこの『ツイッター創業物語』を読んでいるとやっぱりジャーナリズムってスゴイと思います。

    不満点

    Twitterの発展には日本のユーザーがかなり貢献しているのですが、その点については全く触れられていません。Pride ParadeやSXSW、大統領選などのイベントについては触れられているのですが、「バルス」については触れられていません。この本は関係者へのインタビューをもとに書かれているので、ひょっとしたらTwitterの関係者は何が日本で起きていたのか、実はあまり理解できていなかったのかもしれません。

    Twitter’s Top 5 Accounts Are All in Japan — Here’s Why

  • 書評|超えてはいけない一線を超えたスタートアップ史上最大のスキャンダル|”Bad Blood” by John Carreyrou【2018年夏休み読書週間】

    書評|超えてはいけない一線を超えたスタートアップ史上最大のスキャンダル|”Bad Blood” by John Carreyrou【2018年夏休み読書週間】

    スタートアップ史上最大のスキャンダルのひとつとして数えられるであろうセラノスの事件をその発端から現在に至るまで詳細に追いかけた一冊。

    なぜこれほど多くの実績あるベテラン投資家や政府高官、企業役員たちがセラノスの不正を見抜けなかったのか。シリコンバレーに大きな教訓を残した事件であり、今回紹介するジョン・カレイロウの”Bad Blood”はそれを学ぶのに重要な一冊だと言えます。

    BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相 (集英社学芸単行本)

    BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相 (集英社学芸単行本)

    • 作者:ジョン・キャリールー
    • 発売日: 2021/02/26
    • メディア: Kindle版
    Bad Blood: Secrets and Lies in a Silicon Valley Startup

    Bad Blood: Secrets and Lies in a Silicon Valley Startup

     

     

    信じたいことだけを信じるカルチャー

    この本の最初の何章か読んで(オーディオブックなので正しくは「聞いて」ですが)いてまず思ったのが「ああ、これって企業の中ではあるあるだよね」でした。「正しい」ことと「望まれる」ことは違う。往々にして正しさは主観的なので、人の数だけ「正しい」答えがあることがあります。そして、その「正しい」のギャップは話し合いで解決をしたり、トップの人の「正しさ」がその会社にとっての「正しさ」になることもある。この差をどう解決するかは企業文化に依存します。

    いずれにせよ、会社の「正しさ」を信じてチームプレイに徹することが求められます。会社が「正しい」と思えず、変えることができなければそこを離れるしかない。これはセラノスに限らずどこに企業でも同じです。

    セラノスの「正しさ」は共同創業者のエリザベス・ホームズが定義していました。スタートアップは創業者チームの考えを具現化したものですから、これもスタートアップにはよくあることです。ここで描かれるセラノスは超ブラック企業ですが、残念ながらこれも多くの企業でよくあることです。後半は病的なまでに従業員、元従業員や関係者を攻撃するのですが、こういう会社も少ないながらあります。セクハラやパワハラはありますし、パートナー企業を徹底的に追い詰める企業も存在します。必ずしも組織や人事が従業員を守ってくれるとは限りません、残念ながら。「そんなことない」と言える人はラッキーです。では、そこまでありふれたことなのであれば、セラノスの場合はどうしてここまで大きな事件になったのか?

    セラノスが事件となった理由

    これが純粋にテクノロジーのスタートアップだったらあまり問題になりません。創業者が間違っていたとしても、会社が潰れるだけですから。大企業の場合は正常に機能していればそのような因子を排除するように動くのですが、これには時間がかかります。自浄作用が働かなくても噂は止められません。

    ところが、人の命に関わる分野はそうはいきません。間違ったことが起きないように規制やルールがあります。どれだけ起業家が「正しい」と主張しようと、法律以上に「正しい」ことはありません。スタートアップの主観的な「正しさ」は法律の客観的な「正しさ」を上書きできません。

    もちろん、グレーゾーンはたくさんありますし、グレーゾーンにこそチャンスがあります。Fintechスタートアップなら金融に関する規制、Uberのようなシェアエコノミーなら道路交通法など準拠しなければいけない法律があります。グレーゾーンとは黒ではない、誰も試したことがないことですね。その境界線をどこまで押せるのか。どこまで黒で、どこからが白なのか、これを試しながら進んで行くのがスタートアップです。

    しかし、いつかは黒と白の線引きをしなければいけません。人の命に関わることならなおさらです。人の命はビジネスより大切です。電通社員の自殺事件でもそれはわかりますよね。セラノスはこの境界線の明らかに黒い部分を超えていました。

    歴戦の企業家や投資家がなぜ出し抜かれたのか

    セラノスを投資家として、ビジネスパートナーとして支えてきた人たちは素晴らしい経歴の持ち主達です。大手ドラッグストアチェーンのWalgreensやスーパーマーケットチェーンのSafewayのCEOは店舗にミニラボを設立する契約をしました。現トランプ政権の国防長官であるジェームズ・マティスは軍司令時代に海兵隊でセラノスのシステムを使う口利きをし、現職を受ける前にセラノスの取締役会に席をおきました。

    マイクロソフトの独禁法裁判で司法省を代表して一躍有名になったデビッド・ボイスもセラノスの弁護士としてその腕を(悪い意味で)ふるいました。元国務長官のジョージ・シュルツもセラノスで働いていた孫が不正を訴えても聞く耳を持ちませんでした。

    なんで?って思いますよね。

    スタートアップを測るモノサシ

    以前に紹介したエリック・リーズの『スタートアップ・ウェイ』にも書いてありますが、伝統的な経営とスタートアップの経営は異なります。予実管理や会計手法は伝統的な経営に適しています。予測できるビジネスには最適です。しかし、スタートアップは予測できないビジネスです。

    起業家が投資家にホッケースティックのような売り上げや利益の予測をピッチしますが、それを本気で信じて投資する人はほとんどいません。そもそも、そのアイデア自体が最終的なプロダクトになるとも限りません。ピボットはスタートアップには日常です。投資判断をする上で、プロダクトよりビジネスプランより大きいのはチームだと言われています。まあ、人に投資するわけです。

    セラノスを支えた素晴らしい経歴の持ち主たちはスタートアップを測るモノサシを持っていませんでした。エリザベス・ホームズという人を測るしかなかった。そして、見誤った。美人ですしね。

    セラノス事件の教訓

    セラノスの経営陣、特にエリザベス・ホームズとラメシュ・サニー・バルワ二がいつ自分たちが犯罪を犯しているのか気づいたのかはわかりません。しかし、いつかの時点で気が付いていたはずです。この二人がセラノス社内でモラルハザードになっていたとしたとしたら、弁護士のデビッド・ボイスとその法律事務所はセラノス社外で猛威を振るいました。彼も境界線を見誤った一人でしょう。デビッド・ボイスはこの件で晩節を汚した一人ですね。

    スタートアップは予想できないビジネスの上に成り立つモデルですが、白と黒の境界線は決めなければいけません。おそらくこの部分に関しては法のメスが入るのではないでしょうか。ベンチャーキャピタルも医療テックへの投資はもっと慎重になるかもしれません。しかし法に対するコンプライアンスは医療に限らず様々な分野に及びます。今回の事件でスタートアップのコンプライアンスがどこまで広がるかは注目に値します。

  • 書評|グロースハック本の決定版|”Hacking Growth” by Sean Ellis【2018年夏休み読書週間】

    書評|グロースハック本の決定版|”Hacking Growth” by Sean Ellis【2018年夏休み読書週間】

    エリック・リースはリーン・スタートアップを書籍の形で世に出しましたが、グロースハックという言葉を2010年に生み出したショーン・エリスこれまでグロースハックの本を書いてきませんでした。グロースハックはショーンがコンセプトを発表した後に、アンドリュー・チャン(a16zのパートナー)がブログで紹介してスタートアップ界隈で広がりはじめました。そして、ショーン・エリスはGrowthHackersというグロースハックのコミュニティーの運営を始め、そこでノウハウの共有をします。

    今回紹介する”Hacking Growth”はグロースハックの生みの親であるショーン・エリスがはじめて出すグロースハック本です。GrowthHackersのコミュニティーで集まった知見を体系立てて整理しています。ボクも国内外のグロースハック本を何冊か読みましたが、さすが本家本元。決定版と呼ぶに相応しい内容になっています。

    Hacking Growth グロースハック完全読本

    Hacking Growth グロースハック完全読本

    • 作者:ショーン・エリス,モーガン・ブラウン
    • 発売日: 2018/10/02
    • メディア: Kindle版
    Hacking Growth: How Today's Fastest-Growing Companies Drive Breakout Success

    Hacking Growth: How Today’s Fastest-Growing Companies Drive Breakout Success

    グロースハックのフレームワーク

    プロダクトには二つのステージがあります。プロダクトマーケットフィット(PMF)のステージと成長のステージです。

    プロダクトマーケットフィットのステージ

    プロダクトマーケットフィットは「顧客が愛してくれる製品」ということです。製品(プロダクト)と顧客(マーケット)がフィットする。Gmailを生み出したポール・ブックハイトの「ディープアピール」と同じ。この本では”Product Must-Have”と定義しています。これがなければ成長のステージにいけません。どんなグロースハックも意味がない。

    このステージはどちらかといえばリーン・スタートアップが得意とするステージです。多くのグロースハック本もJavelin Boardなどリーン・スタートアップの手法を紹介しているケースが多いです。この”Hacking Growth”でもいくつか紹介されていますが、特に印象深かったのが”Product Must Have Score”です。

    製品の価値を検証せずに開発してしまった製品ってたくさんあります。グロースチームとしてそのような製品を担当した場合どうしたらいいのか?ユーザーに「この製品がなくなったら?」と聞いてみるんです。「ガッカリ」するが40%を超えていたらかなりポテンシャルが高い。20%以下だとかなりヤバイ。フレームワークと合わせて具体的な手法をたくさん紹介しているのもこの本の魅力といえます。

    成長のステージ

    プロダクトマーケットフィットで製品がユーザーに愛されるものだと検証したとに成長ステージがはじまります。ここがグロースハックの真骨頂ですね。この本はパート1で全体的なフレームワークやそれを支える役割や組織を説明した後に、パート2でプレイブックとしてたっぷりと体系立てて考え方や手法を紹介しています。

    そして成長ステージには「言葉とマーケットのフィット(Language Market Fit)」の検証と「チャネルとプロダクトのフィット(Channel Product Fit)」の検証があります。「愛される製品」をちゃんとユーザーに説明できることが「言葉とマーケットのフィット」です。伝わらなければ意味がない。「チャネルとプロダクトのフィット」はそれを実際に届けるチャネルは機能するかということです。届かなければ意味がない。

    このように体系立てて何が大事なのか、どのような順番で進めればいいのか指針をクリアにしているのがこの本のいいところだと思います。

    グロースハックのプレイブック

    後半のパート2では以下の順序に沿って具体的な手法を紹介しています。

    1. 顧客獲得(Acquisition)
    2. 顧客活性化(Activation)
    3. 顧客維持(Retention)

    一番有名なグロースハックのフレームワークであるパイレーツメトリックスのAARRRの最初の三つですね。それぞれの段階でこのように整理整頓してくれているので、わかりやすいです。例えば顧客維持(Retention)でもイニシャル、ミディアム、ロングの三段階で説明しています。

    実技編と言えるこのパート2では実際に使える手法やツールだけでなく、Kファクターなどの測定方法も紹介しています。

    どのような人にオススメか?

    新規事業に関わる人、マーケティングに携わる人、グロースハックに携わる人には読んで欲しいです。ここで紹介されている手法をすでに実践している人も多いと思いますし、考え方も理解しているかもしれません。しかし、改めて整理された形で提示されると多くの気づきがあります。

    経営者にも読んで欲しいです。世の中には「愛される製品」だと検証される前に発売されているプロダクトやサービスがたくさんあります。むしろ大多数の製品は市場調査だけで「ニーズがある」と判断されます。「ニーズ」を仮説としてプロダクトマーケットフィットまで検証したケースなど少ないでしょう。必要とされないものを作るのは無駄です。検証する方法があるのだから、きちんと検証しましょう。

  • 書評|大人ためのリーンスタートアップ『スタートアップ・ウェイ』|”The Startup Way” by Eric Ries【2018年夏休み読書週間】

    書評|大人ためのリーンスタートアップ『スタートアップ・ウェイ』|”The Startup Way” by Eric Ries【2018年夏休み読書週間】

    イノベーションの実現を助ける手法としてリーン・スタートアップは有名です。用語としてMVPとかピボットとか聞いたことがある人もいるでしょう。『スタートアップ・ウェイ』は『リーン・スタートアップ』を書いて世の中にリーン・スタートアップを広めたエリック・リースの新著です。

    リーン・スタートアップはスタートアップだけではなく、どのような規模でも業態でも活用できる考え方ですが、今回のスタートアップ・ウェイではGEやアメリカ政府などの事例を紹介しながら大規模な組織や伝統的な業態での適応の仕方を紹介しています。今回は英語の原書を読んでの書評なので最近出版された翻訳版と少し用語が違うかもしれません。読むんだったらもちろん翻訳版を読んだほうがいいです。

     

    リーン・スタートアップ

    リーン・スタートアップ

    • 作者: エリック・リース,伊藤穣一(MITメディアラボ所長),井口耕二
    • 出版社/メーカー: 日経BP社
    • 発売日: 2012/04/12
    • メディア: 単行本
    • 購入: 24人 クリック: 360回
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    スタートアップ・ウェイ 予測不可能な世界で成長し続けるマネジメント

    スタートアップ・ウェイ 予測不可能な世界で成長し続けるマネジメント

    前提としての二つの経営

    経営には二つあるとエリック・リースは言います。一つは伝統的な経営(General Management)でもう一つは起業家の経営(Entrepreneurial Management)です。これまでのビジネスだけでなく、新しいイノベーションを起こす持続可能な経営のためにはこの二つの両方が必要だとエリック・リースは主張しています。

    伝統的な経営

    伝統的な経営は予測できる世界の中で有効です。予実管理とかパイプライン管理はビジネスは先が見通せることを前提にできている考え方です。それを支える会計ツールやSCM、CRMなど全て予実管理のツールです。

    このような伝統的な経営は市場が求める計画と予測を提供するために必要です。

    起業家の経営

    すでに確立したビジネスのある企業と違い、スタートアップは予測することができません。スタートアップが3年生き残る確率は10%未満です。ドットコムバブルやリーマンショックでも多くのスタートアップが潰れました。それでも生き残った企業はイノベーションを起こして伝統的な企業より大きな市場価値を生み出しました。

    予測ができないことを前提で様々な手法が生まれました。リーン・スタートアップはその一つですし、グロースハッキングやデザイン思考、ジョブ理論などたくさんの考え方が起業家の経営を支えています。

    スタートアップとイノベーションのジレンマ

    ボク自身の経験を振り返ってみれば、伝統的な企業とスタートアップでは求めているものが確かに異なっていました。

    伝統的な企業はよりスタートアップ的な考え方を取り入れたい。リーン・スタートアップやアジャイルなどを活用したイノベーションのやり方を知りたい。

    スタートアップはより伝統的な手法を取り入れたい。売上予測の立て方やそれを管理するためのパイプライン管理手法などを知りたい。GoogleやFacebookを見ればわかりますが、スタートアップはいずれ大企業になります。その成長の過程で伝統的な市場のニーズに応える方法を身につけなければいけません。しかし、その過程で起業家の経営は失われていきます。

    伝統的な企業で起業家経営をする

    スタートアップ・ウェイはどのように伝統的な経営と起業家の経営という二つの経営の考え方をどのように組織に定着させて持続可能なイノベーションを生み出す企業に変革できるかを説明しています。

    すでに多くの企業はイノベーション・ハブの考え方を取り入れています。このカタパルトスープレックスで紹介しているアメリカ政府の18Fやイギリス政府のGDSもイノベーションハブですし、以前に紹介したバークレイズ銀行のデザイン部門もイノベーション・ハブです。ボク個人も多くの国内外のイノベーション・ハブに関わってきました。

    スタートアップ・ウェイはその発展系とも言えます。ちなみにイノベーション・ハブというのはボクが勝手に作った造語ではなく、欧米では割と頻繁に使われている言葉です。イノベーション・ラボとも言います。

    スタートアップ・ウェイに必要なこと

    イノベーション・ハブは伝統的な企業がスタートアップ的な手法を取り入れる時に有効です。しかし、経営レベルでは伝統的な経営に留まります。スタートアップ・ウェイの新しいところはリーンスタートアップという手法を取り入れるだけでなく、経営レベルで持続可能なモデルを提案しているところでしょう。

    単に手法だけを知りたければ前著の『リーン・スタートアップ』で十分です。これをボトムアップで経営レベルまで持っていくにはどうしたらいいのかというのが『スタートアップ・ウェイ』の主題となっています。これを読めばどのような組織を作り、どのように管理をすればいいのかがおおまかに理解できます。

    どんな人にオススメか

    経営者の人には読んで欲しいですね。あと、開発や新規事業を担当する役員やマネージャー。エリック・リースの特徴はとても奥深い考察に基づくフレームワークの提供です。実際の手法となると実は以外と提示されていない。だからこそ、『リーンスタートアップ』の後も様々な関連書籍が発売されたのです。

    例えばリーン・スタートアップでは「挑戦の要となる仮説(Leap of Faith Assumption)」という考え方が紹介されていますが、具体的にどんな仮説を立てればいいのか悩む人は多いかと思います。仮説には顧客/プロダクトの軸とアイデア/実証の軸があって、この四象限で考えないといけない。そこまで細かいことはエリック・リースの本には書いてありません。具体的な手法が知りたい人はこの後に発売されるであろう関連書籍をお勧めします。もちろん、ボクもお手伝いできます(お問い合わせはTwitterまでDMで)。

    Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

    Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

    • 作者: アッシュ・マウリャ,渡辺千賀,エリック・リース,角征典
    • 出版社/メーカー: オライリージャパン
    • 発売日: 2012/12/21
    • メディア: 単行本(ソフトカバー)
    • 購入: 3人 クリック: 14回
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    Lean Analytics ―スタートアップのためのデータ解析と活用法 (THE LEAN SERIES)

    Lean Analytics ―スタートアップのためのデータ解析と活用法 (THE LEAN SERIES)

    • 作者: アリステア・クロール,ベンジャミン・ヨスコビッツ,林千晶,エリック・リース,角征典
    • 出版社/メーカー: オライリージャパン
    • 発売日: 2015/01/24
    • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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    id:i2key さんがとても詳細な『スタートアップ・ウェイ』の紹介をされているので、興味がある人はまずこちらを読んでみるのもいいかもしれません。