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  • Spotifyの誕生と成長|二年半の赤字から音楽市場V字回復の立役者に

    Spotifyの誕生と成長|二年半の赤字から音楽市場V字回復の立役者に

    音楽市場は2014年まで15年続けて縮小を続けていましたが、2015年から回復して今も売上を伸ばし続けています。この音楽市場のV字回復に最大限の貢献をしているのが音楽ストリーミングで、Spotifyはその最大手です。日本の音楽市場だけ、未だに回復できていませんが、Spotifyが起爆剤になってくれることに期待ですね。

    日本語でSpotifyの歴史を詳しく解説している情報がなかったので、まとめてみました。

    Spotifyをはじめる前の成功と失敗:Spotifyをはじめるきっかけ

    ダニエル・エクはスウェーデンの生まれで、14歳の時にビジネスを(偶然)はじめました。当時すでにC++でプログラミングができました。1997年当時はWebが流行りだして、Webサイトを欲しがる人たちがいました。特にやりたくはなかったそうですが、その需要に応えるうちにいつの間にかビジネスになり、20歳くらいには人を雇い、自社のサーバー環境を運営する規模になっていたそうです。

    Googleに社員として応募したけれど、断られて自分で検索エンジンを作ることに決めたそうです。これがあまりうまくいかず、会社は破産寸前まで陥って社員を解雇しなければいけなくなりました。この頃に出会ったのがドイツ人で共同創業者のマーティン・ローレンソンでした。マーティンは自分の会社を売ってやることがなく、いろんなアイデアをダニエルと話し合いました。そこで生まれたのがSpotifyでした。2005年のことでした。ダニエル・エクが23歳、マーティン・ローレンソンが37歳でした。

    なぜ音楽ビジネス?

    音楽の聴き方にはもっといいやり方があると最初に示したのはNapsterでした。ボク自身もそれなりの音楽好きですので、Napsterが登場した時は本当に衝撃的でした。すげー!でも、え?こんなこと出来ていいの?という感覚。当時は著作権上「こんなこと出来ていいの?」という不安はまさに的中してNapsterはビジネスとして成り立つことなく消え去りました。

    思春期のダニエル・エクもNapsterの登場には衝撃を受けたそうです。ダニエル・エクにとって幸運だったのはスウェーデンに住んでいたことです。スウェーデンは当時からギガバイトのインターネットのアクセスが非常に安価(2000円/月程度)で、Napsterのような音楽ファイルの共有サービスもそれほどストレスなく使えたことです。

    失敗の後、心機一転、新しいビジネスを考える時、自分の本当にやりたいことをやろうと決めたそうです。金銭的な成功では幸せになれなかった、失敗はそれをさらに悲しいものにしました。次のステップに進むとき「次の五年間に集中できることは何か」を問いかけたそうです。そして、それは音楽とテクノロジーでした。ビジョンは「iTunesに全ての音楽が詰まっている状態」だったそうです。

    Dropboxの共同創業者でCEOのドリュー・ヒューストンも言っていますが「自分のテニスボールを見つけないといけない *1」ということですね。これは起業家だけでなく、働く人すべてにとって本当に大事なことだと思います。

    それでも、なんでよりによってみんなが失敗している音楽ビジネス?

    それにしても、音楽業界は数多のスタートアップが挑戦して失敗した企業の屍が積みあがった市場です。Napster、Rhapsody、Kazaaなど様々な企業が挑戦してノックアウトされて、退場していきました。若干成功していると言えるのはPandoraでしたが、それもユーザーが好きな音楽を好きな時に聴けるサービスではありません。Last.fmもまだ存在はしますが……ダニエルの想定は「音楽サービス自体はユーザーに受け入れられているが、ビジネスモデルが壊れている」でした。つまり、ビジネスモデルさえ確立すればいい。

    そして、ビジネスモデルに関してはダニエル・エクは楽観的だったそうです。何も知らなかったから。何か本当に革新的なことをやるにはその業界にいないほうがいい。「まあ、半年くらいでサービスインできるだろう」と予想していたそうです。そして、結局は二年半かかることになります。

    ローンチまでの二年間半の音楽業界との格闘

    プロダクト面ではプライベートベータからパブリックベータまで公開していきましたが、ライセンスの交渉は難航していました。

    当時「半年くらいでローンチできるだろう」と考えていたのは必要なロイヤリティーさえ支払えば著作権管理団体がうまいことやってくれるだろうと予想していたからです。そこで、投資家のフレッド・ウィルソンの友人のフレッド・デイビスに相談したところ「いやいや、レーベルと個別に交渉しないとダメだよ。なんだったらレーベルの人を紹介するけど」と言われたそうです。

    紹介してもらえたレーベル以外も、様々な方法でコネクションを作って交渉の場を持てるようにしたそうです。例えば、レーベルの担当者の子供が通う学校の間でSpotifyを流行らせたり。直接会えなくても、周りからせめてかなり地道な努力をしたようです。そして、メジャーレーベルや大手のインディーレーベルと交渉をはじめたダニエルでしたが、最初の反応はすごく良かったそうです。ところが、話を詰めていくとどんどんペースが落ちていったそうです。そして最後にはほとんどのレーベルで「交渉はおしまい。もう来ないでね」となってしまいました。

    ダニエル・エクはニューヨークからストックホルムへの飛行機のチケットをキャンセルして粘ることにしました。「もう来ないでね」と言われたので、アポイントは取れません。そこで、レーベルのオフィスの前で寝泊りをしたそうです。ホームレスのように。

    同じ交渉をしても断られるのはわかっているので、作戦を変えました。アメリカのレーベルにとってアメリカ市場は最大の市場であって、あまり実験的なことはやりたくない。そこで、アメリカではなく実験ができる国に最初は絞ったのです。いずれにせよ海賊版の問題があるのだから、テストマーケットとしてスウェーデンは悪くない。

    そうして創業から二年半たった2008年にSpotifyを正式にローンチできました。

    でも、二年半もどうやってお金のやりくりしたの?

    それにしても不思議なのは二年半もの間、どうやってお金のやりくりをして開発者を含む従業員に給料を支払っていたのか?ということです。

    起業家の資金調達は大きく分けて二種類、自分のお金か他人のお金です。自己資金の場合はブートストラップといい、他人のお金はエンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの資金調達です。銀行からの借金も他人のお金ですね。Spotifyの場合はブートストラップ。つまり、自己資金でした。

    ダニエルとマーティンという二人の創業者は今で言うところの連続起業家で、それなりに資金を持っていたいんですね。ダニエルの場合は会社が破産したということですが、自分の資金は別に持っていたのでしょう。二人合わせて十億円ほど使ったそうです。

    Spotifyが外部から資金調達をしたのはレーベルとの契約ができた2008年が最初です(Crunchbase参照)。それまではずっと自己資金でやってたってのはすごいですね。

    裏返して言えば、このレーベルとの交渉の結果によってはSpotifyは沈没する可能性もあったわけです。レーベルとの交渉は全てダニエル・エクが行なっていて、社員に詳しい状況は知らせていなかったそうです。振り返って考えると、社員に対してもっと透明性があっても良かったと反省しているそうです。

    Spotifyの成功要因

    プロダクトをローンチできたからといって、それがすぐに成功につながるわけではありません。「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit*2)」が必要です。先行する音楽サービスはこれがありませんでした。

    先行するプロダクト/サービスと何が違ったのか?Spotifyの成功要因はよく研究されているので、ここでは要点だけ絞ってご紹介します。

    • 「音楽全部入りのiTunes」というわかりやすいコンセプト
    • オンデマンドで好きな音楽を好きな時に聴ける利便性
    • それが全て無料で利用できるフリーミアムモデル
    • Facebookとの独占的音楽サービスインテグレーション契約(2011年)

    ソース:“Forget Taylor Swift: Spotify is facing a much bigger problem”

    Spotifyは音楽の何を変えたのか?

    Napsterが可能性としてみせたオンデマンドの音楽配信をメインストリームにしたのがSpotifyの功績で、それによって音楽業界はV字回復をすることができました。しかし、Spotifyが変えたのはそれだけではありません。

    音楽の多様化

    音楽はこれまで以上にユーザーの耳に届いています。そして、これまでにない多様な音楽を聞く機会があります。例えば、韓国でSpotifyをローンチした後にアメリカ西海岸でユーザー数が増えたそうです。そしてトルコでローンチした後にドイツでユーザー数が増えたそうです。ボク自身もオランダに住んでいた時に日本の音楽をSpotifyで聴いていました。

    聴き方の多様化

    また、アルバムという単位から解放されました。特にEDMのアーティストは毎週リリースしてるんじゃないかというくらい新曲を頻繁に発表しています。そして、アルバム単位で聴きたい人もSpotifyなら気兼ねなく全て聴く事ができます。iTunesの場合は曲単位での購入なのでアルバム全部よりも好きな曲だけ購入するというパターンが多かったそうです。

    アーティストが作品を作りやすい環境

    Spotifyのようなプラットフォームができてから、アーティストはレーベルを経由せずに直接Spotifyに作品をアップロードできるようになりました。例えば、Distrokidを使えばSpotifyだけではなく、iTunesやAmazonにも作品をアップロードできます。プロモーションも自分でできます。

    まとめ

    Spotifyの共同創業者でCEOのダニエル・エクはなかなかシャイな人であまりメディアに露出する機会がありません。メディアに出る時は色々と話をしてくれるので、隠しているわけではなく、単にシャイなんでしょうね。英語でもあまり多くないのですが、Spotifyに関して日本語でまとまった情報がなかったので、まとめてみました。

    参考文献

    World’s Largest Startup Company Platform | Startups.co

    When Spotify was young: the early years | VatorNews

    Fred Davis, Rainmaker Who Sheparded Spotify, Sticking Around as IPO Talk Ramps Up | Billboard

    E580: Spotify’s Daniel Ek on state of streaming, tenacity, transparency, competition by TWiStartups | TWi Startups | Free Listening on SoundCloud

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    *1:犬はテニスボールを投げると夢中になって追いかけて遊ぶ。起業家も犬にとってのテニスボールのように夢中になれることを見つけないといけないという意味

    *2:マーク・アンドリーセンが提唱したコンセプト。プロダクトやサービスの生死を決めるもの。プロダクトがマーケットにフィットしている状態。つまり、プロダクトを求めるユーザーがいる状態

  • Dropboxを成長に導いたショーン・エリスのグロースハック

    Dropboxを成長に導いたショーン・エリスのグロースハック

    「ソースにあたれ!」って大事ですよね。何かを本質的に理解したければソースを探す。グロースハックに関しては「ソース」は間違いなくショーン・エリスです。そしてショーン・エリスをここまで有名にしたのはDropboxでの成功です。では、ショーン・エリスは具体的にDropboxで何をして、それがどのような形で今のグロースハックとなっているのでしょうか。

    初期のDropboxの成長に関してはいろんなところに事例として取り上げられています。もっとも有名なのは共同創業者でCEOのドリュー・ヒューストンがまとめたこのスライドでしょう。

    Dropboxの場合は「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit*1)」をかなり早い時期に作り上げることができたものの、成長(グロース)させるのに苦労していたことがわかります。そこでDropboxに参加したのが「グロースハック」の生みの親であるショーン・エリスです。「何が必要だったか」は色々と資料があるのですが、「では、実際にそれを解決するためにどうしたのか?」に答えてくれる資料はあまりありませんでした。

    ショーン・エリスとDropboxの出会い

    ショーン・エリスが参加した時、Dropboxはまだ10人のエンジニアチームでした。ショーン・エリスはオンラインゲームのUproarやリモートデスクトップのLogmeInなどでマーケティングの担当役員を経験しながらスタートアップに必要な成長の手法を文書化してきました。それを本格的に活かしたのがDropboxで後にグロースハックと名付けられる手法でした。

    グロースハックとマーケティングの違い

    まず、スタートアップはグロース(成長)に集中するしかないという現実が出発点となります。最も大事なのは新規ユーザー獲得、ユーザーから顧客への転換、顧客の維持の三つです。大企業と違い、リソースも少ないから伝統的なマーケティングの「認知」や「ブランディング」にリソースを費やせません。

    つまり、グロースハックというのはスタートアップに必要な成長のコアとなる部分を数値に基づいたテストで徹底的に行うことです。そして、伝統的なマーケティングとは違いカスタマージャーニー全般に関わること。成長を軸とした組織をまたがるマトリックス戦略とも言えます。

    アンドリーセン・ホロヴィッツのアンドリュー・チャンは開発との融合を強調していて、それが定義として広まってたりもしますが、ショーン・エリスのオリジナルのコンセプトでは必ずしもエンジニアとの融合は不可欠ではないそうです。

    グロースハックの最終的な目標は企業全体にグロースの文化を植え付けること

    ショーン・エリスのDropboxとの契約は暫定CMOとして6ヵ月間。契約書でゴールとして設定したのは数値に基づくテストによるグロースの文化をDropboxに定着させること。最初の2週間はDropboxの成長の仕組みを質的に量的に理解することに徹したそうです。そこでわかったのは製品への入り口がたくさんあり、ホームページから入るユーザーは思ったより少ないということ。

    使いにくい摩擦になるような箇所を取り除き、よい体験ができるように、それぞれの入り口でテストしていきました。プロダクトのテストは10人のエンジニア集団なのでやってきましたが、グロースのテストをそれまではやったことはなかったそうです。

    最初の三、四のテストはCEOのドリュー・ヒューストンと一緒にやり、コツを掴んでいきました。そして徐々にエンジニアが参加してテストをコンセプト化して実装していきました。こうしてグロースの文化が全体に波及していきました。

    Dropboxを去ってすぐ後にショーン・エリスはスタートアップのピラミッドを発表します。これは「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit)」のステージ、以降のステージ、グロースのステージの三つに分けるシンプルなものでした。

    しかし、グロースハックの最終的な目標は初期のDropboxでもわかるように組織に数値テストを基にしたグロースの文化を定着させることです。ショーン・エリスはそれを加味した上で、上記のように「成長のピラミッド」として「スタートアップのピラミッド」をアップデートしました。

    成長の原動力となる数字となる道しるべの指標(Northstar Metrics)

    アップデートしたピラミッドでもまず大事なのは「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit)」があること。「市場に受け入れられるプロダクト」とは使っているユーザーに価値を提供できるプロダクトとも言えます。

    そして、「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit)」を探す道しるべとなるのが「道しるべの指標(Northstar Metrics)*2」です。つまり、ユーザーベースにどれくらいの価値を提供しているかを示す指標です。

    ショーン・エリスの経験から言えることは、どのようなプロダクトでも最大のグロース要因は口コミだそうです。だったら短絡的に口コミを増やせばいいというわけではありません。必要なのは二つ。1)価値を提供することに集中すること、2)それを定期的に計測して確認すること。大事なのはユーザーに提供する価値とその数値化です。

    ショーン・エリスがはAirbnbとFacebookを例として説明しています。Airbnbなら道しるべの指標は「宿泊予約数」です。Airbnbにとってアプリのインストール数やユーザー数は道しるべになりません。予約をして、体験をしなければ価値は生まれないから。その体験によって口コミも生まれるし、エコシスステム全体がビジネスとして活性化します。Facebookの場合なら道しるべの指標は1日の利用者数(Daily Active User:DAU)です。アクティブなユーザーが増えれば、コンテンツが増えて価値が生まれます。

    道しるべの指標(North Star Metrics)と最重要指標(One Metrics That Matters:OMTM)の違い

    この「道しるべの指標」と似ているのが『リーン・アナリティクス』で紹介されている「最重要指標(OMTM)」です。OMTMはその時のビジネスを成長するのに何に集中したらいいのかというコンセプトですが、「道しるべの指標」はもっと長期的な本質的な価値指標となります。

    ショーン・エリスは自身のLogmeInでの経験で違いを説明しています。リモートデスクトップソリューションのLogmeInの場合はリモートコントロールセッションがユーザーの価値を生む「道しるべ指標」でした。しかし、95%の新規ユーザーはリモートコントロールセッションを行なっていませんでした。そこでマーケティングとエンジニアチームは共同でサインアップから利用までのコンバージョンを改善するために実験とテストを繰り返しました。これはLogmeInが急成長した時期と重なります。この時に注力したコンバージョン率がOMTMですが、リモートコントロールセッションの数が「道しるべ指標」であることは変わりません。OMTMはグロースの段階で変わりますが、「道しるべ指標」は変わりません。

    企業がグロースハックを取り入れるのに必要なこと

    グロースハックの最終的な目標は組織全体に数値に基づいたテストによるグロースの文化を定着させることですが、それはいうほど簡単ではありません。スプリットテストなどの手法はグロースハックの一部でしかありません。

    例えば、LogmeInの事例ではマーケティングとエンジニアチームがそれまでのすべての活動を止めて新規ユーザーのサインアップから利用までのコンバージョンに集中しました。実際に成長の妨げとなっていることを解決するには製品自体のプロセスの場合もあります。

    多くの企業ではそれぞれの部署が得意とする分野に特化した役割を持ちます。そして、それは時として縦割り組織の弊害を生みます。例えば、製品開発は長期のロードマップに沿って開発されるし、マーケティングもリードの獲得などに集中して、製品に関わるランディングページのような部分には深く関われていません。

    グロースハックを組織に根付かせるには、「道しるべの指標」をどの部門でも改善する指標として持ち、数字に基づいたテストを継続的に行う必要があります。下のYouTubeのビデオでもあるようにDropboxでは現在でもグロースハックの文化が定着しているようです。

    参考文献

    The Startup Pyramid

    The Growth Pyramid Revisited – Growth Hackers

    Sean Ellis, CEO at Growth Hackers, an episode from Intercom on Spotify

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    *1:マーク・アンドリーセンが提唱したコンセプト。プロダクトやサービスの生死を決めるもの。プロダクトがマーケットにフィットしている状態。つまり、プロダクトを求めるユーザーがいる状態

    *2:Northstarは北極星で、探検家にとって道しるべとなります。また、北は上向き成長を表します。Go southと言えば売り上げが下がってるという意味です。

  • エストニアがスタートアップ国家としてデジタル政府を推進する理由

    エストニアがスタートアップ国家としてデジタル政府を推進する理由

    これまでアメリカイギリスのデジタル政府に踏み出した背景を説明してきました。なかなか評判がいいようなのでエストニアの資料も作ってみました。全ての国家はそれぞれ歴史があり、大きさも様々です。アメリカ、イギリスや日本とエストニアを単純に比べることはできませんが、一見「弱み」に見えるエストニアの特徴を「強み」に変えるしなやかさは多くの為政者や経営者の参考になるのではないでしょうか。

    PDFのダウンロード(カタパルトスープレックスデザインのGithub)

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  • 世界にサービスデザインを広めるアダム・ローレンスのサービスデザイナーとしての原動力

    世界にサービスデザインを広めるアダム・ローレンスのサービスデザイナーとしての原動力

    アダム・ローレンス(Adam Lawrence)さんはサービスデザインの世界を牽引しているキーパーソンの一人です。エージェンシーの設立者というだけでなく、Global Service Jamという世界的なコミュニティーイベントを運営したり、サービスデザインの実用書『This is Service Design Doing』の著者の一人として幅広くサービスデザインを世界に広めています。今回はそんなアダムさんの日本語による貴重なインタビューとなります。

    カタパルトなかむら(以下なかむら):アダムさんは最近出版されたサービスデザインの書籍『This is Service Design Doing』に参加されているほか、Global Service Jamのようなグローバルなサービスデザインイベントの立ち上げもされています。いろんなことをやっていますが、主に何をされているのでしょうか。

    アダム・ローレンス(以下アダム):職業としてはヨーロッパで最も優れたビジネススクールの一つであるマドリッドのIE Business Schoolのサービスデザイン思考の助教授です。そしてもちろん、中央ヨーロッパを中心に活動しているサービスイノベーションと顧客体験のコンサルティングエージェンシーであるWorkPlayExperienceの創業者の一人でもあります。

    私たちの仕事のほとんどは組織(特に大きな組織)の中の人たちがうまく一緒に働けるお手伝いをすることです。それは彼らの顧客、スタッフを含めた社員、パートナーにどのように良い体験(エクスペリエンス)を提供するかに集中することです。それをどのように柔軟的、効果的、現実的に実行するかです。具体的には実際のプロジェクトに参加したり、スタッフのためのトレーニングや認定までの道筋を作ったり、仕事のためのツールなどを作ったりします。「サービスデザイン導入のサービスデザイン」とも言えますね。

    なかむら:最近出版された『This is Service Design Doing』に関連するのかもしれませんが、日本の組織が直面している課題の一つに「モノづくり」から「コトづくり」へのシフトがあります。おそらく日本企業の中で働いている多くの人は顧客中心であり、サービス思考であるべきだと考えてはいると思います。しかし、実際に変わるには「考える(Thinking)」だけではダメで、「行動(Doing)」が必要になります。行動に移す難しさについて何かお考えになる部分はありますか?

    This Is Service Design Doing: Applying Service Design Thinking in the Real World: A Practitioners' Handbook

    This Is Service Design Doing: Applying Service Design Thinking in the Real World: A Practitioners’ Handbook

    • 作者: Marc Stickdorn,Adam Lawrence,Markus Edgar Hormess,Jakob Schneider
    • 出版社/メーカー: Oreilly & Associates Inc
    • 発売日: 2018/01/12
    • メディア: ペーパーバック
    • この商品を含むブログを見る
     

    アダム:思考の変化は会議室やオフィスで座っているだけでは難しいです。オフィスから出て顧客と時間を過ごし、顧客と行動を共にして彼らが直面する課題に触れると見えてくるものが全く変わります。学術的なプロダクトとサービスの違いや、デジタルと非デジタルの違いは顧客にとって全く意味がないことに気がつきます。顧客は単に自分たちの課題を解決して欲しいだけなんです。生活に役立つ、できれば良い体験ができることが欲しいだけなんです。

    それらの問題はオフィスから出ないと発見できないのと同様に、会議室に立てこもっていては顧客の役に立つこともできません。私たちは顧客やステークホルダーのいる世界に出ていかなければいけません。プロトタイプを作り、実際の世界で試さなければいけません。そうすることで共創の「実行(doing)」が戦略立案会議よりよっぽど効果出来だとわかります。

    Global Service Jamでのマーカスさん(左)とアダムさん(右)。写真クレジット:@kirsty_joan

    人はとにかく話したがります。合意形成の中で安心感を得たいからです。しかし、イノベーションに必ずしも合意形成は必要ありません。プロジェクトの中では意見の多様性が必要な段階があって、複数の方向性を荒くても構わないので素早くプロトタイプを同時進行で作っていく必要があります。そうすることで、私たちはマネージャーへの報告やPowerPointではなく、顧客の近くにいること、現実を基にした実験の文化が成功への近道だと学ぶのです。

    なかむら:アダムさんが創立者の一人となっているGlobal Service Jamについて教えてください。

    アダム:私たちは変革の立ち上げや改善にジャム(Jamming)の方法を使います。また、組織で適切な人たちと協業する時です。これは「圧力鍋」の調理法で、通常は二日間、チームを作って素早い開発のイタレーションを行います。これには素早いゲリラ調査、速射砲的アイデア出し、エクスペリエンスのローファイ*1プロトタイピングを作って実世界に戻って検証や追加調査をします。これはテーマを知り、基本的なツールやサービスデザインのマインドに触れる素晴らしい方法です。

    私たちはこの方法がとても気に入っているので、世界中に共有したいと考えました。そして三つのグローバル・ジャム(Global Jam)をスタートしました。グローバル・サービス・ジャム、グローバル・ガバジャム(Global GovJam:公共サービスのためのGlobal Jam)、グローバル・サステイナビリティー・ジャムです。詳しくはGlobal JamのWebサイトで確認できます。

    なかむら:私たちも『デザイン+ジャパン』という日本の社会的課題をデザインコミュニティーで解決するイニシアティブを立ち上げたんですよ。次回のGlobal Service Jamに参加させていただくかもしれません。

    アダム:それは素晴らしい!

    なかむら:ところで、このような活動をどうしてやってるんですか?

    アダム:私はもともと心理学、マーケティング、プロダクト開発をやってたんですよ。あと、俳優や監督としても長年やってきました。だから、ビジネスの世界を舞台に見立てて探索してきました。そして「サービスデザイナー」と呼ばれる人たちのコミュニティーがあることを知りました。ビジネスパートナーであるマーカスと私はすでに顧客のエクスペリエンスの分野で舞台の手法を使っていました。だから、このコミュニティーと出会って自分たちのしていることを共有することは素晴らしいことでした。

    今やっていることは、人が本当にやりたかったことの実現を助けることができます。いわゆる「仕事」ではなく、他人にとっての価値を生み出し、自分もそれを楽しむことができること。だから、今やっていることをやり続けているんです。

    なかむら:「サービスデザイナー」は比較的新しい職種なので、様々なバックグラウンドの人がいて面白いですよね。ボク自身がサービスデザインのプロジェクトと呼べることをやったのはマイクロソフトでビジネスアナリストをしている時でした。アダムさんのおっしゃる通り、他人に対して情熱を持てることはサービスデザイナーの持つ資質のひとつだとおもいます。優れたサービスデザイナーになる条件ってなんだと思いますか?

    アダム:優れたサービスデザイナーは情熱と同時に批判的なものの見方が必要だと思います。問題の裏側にある課題の発見に情熱を注がなければいけません。そして、それに関わる人たちに情熱を持たなければいけません。そうすることによって耳を傾ける事ができます。そして調査、プロトタイピング、導入といった重要な活動に情熱を持たなければいけません。

    これらの活動を実行する上で、どのように人々が働き、技術がどのように使われているのか、組織がどのように変革するのかを理解しなければいけません。そして、謙虚でありつつも仮説、アイデア、プロトタイプに対して批判的な見方ができなければいけません。常にそれを壊してさらに良いものを作る姿勢が大事です。

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    *1:プロトタイピングにはいくつかの段階があって、ロウファイ(Low Fidelity)は見た目が荒い簡単なプロトタイプのこと。もっと製品版に千和桁見た目のいいプロトタイプはハイファイ(High Fidelity)プロトタイプという。通常、ロウファイの前にスケッチなどでアイデア出しをする。

  • Facebookのような大企業をトークン化する方法

    Facebookのような大企業をトークン化する方法

    ざっくり言うと

    • キッカケはMark Zuckerbergが2018年に暗号化通貨の可能性を探ることを示唆したFacebookでの書き込み【全文和訳掲載】マーク・ザッカーバーグ「仮想通貨は権力… | News | Cointelegraph)。実際に親和性が高そうなことから、インターネット上で大きな議論がおきた。この記事はブロックチェーン業界で有名なBigchainDBの創業者Trent McConaghyからの提案。
    • 「そんなことできない」というのは簡単、「どうすればできるか」と考えるのがイノベーション。
    • 頭の体操ではFacebookもAmazonもIBMもトークン化できる。
    • 「株主=会社の持ち主」という概念は暗号化トークン社会においては崩れる可能性がある。貢献する人が価値を得るという自律型経営の究極の形かもしれない。

    原文:”Tokenize the Enterprise” by Trent McConaghy

     トークンは新しいブロックチェーンの中でも特に新しい概念です。現在はこれまでブロックチェーンだと思っていたものでは十分ではありません。トークンはWeb 3.0のビジネスモデルだと誰もが気づきました。

     分散システムは権力を多くの人に広げます。それはトークン化されているかもしれませんし、されていないかもしれない。トークンのメリットはエコシステムの参加者の動機付けを同じ方向に向けることです。これはトークンを持つ人たちにとってポジティブサムゲームです。もちろん、トークンのローンチ時の棚ぼた効果も期待できます。

    解説

    ポジティブサムゲームはゲーム理論のひとつ。ポジティブサム、ゼロサム、ネガティブサムがある。ゼロサムゲームはゲームの総和がゼロのため、誰かが勝てば(ゼロより大きい)それ以外の人が損(ゼロより小さい)する。ポジティブサムはゲームの総和がゼロ以上になるため、誰かが勝っても(ゼロより大きい)、他の人も勝つ可能性がある。

     現時点でトークンを発行しているのはスタートアップです。しかし、大企業が発行したらどうでしょうか?Facebookをトークン化できるでしょうか?AmazonやIBMは?どうやって?どんな利点があるのでしょうか?

     手短に言えば、トークンは大企業を内側から侵食します。なぜなら投資家は投資から利益を得られ、コミュニティーが勝利するからです。企業内で起業する暗号化集団が現れるでしょう。それが多くの大企業で起こり、伝統的な証券取引は無くなります。最後にこれは新しい投資家のジレンマとなります。大企業が利益を守る傾向においてどうやって競争するのか?

     もう少し詳しく見ていきましょう。

    アプローチ

    以下が各大企業向けのレシピです。

    • トークン化:株式がトークンとなる。
    • 分散化:権力を人々に分散する。ユーザーは過去や将来の貢献に対してトークンを受け取る。
    • コミュニティーに溶け込む:時間が経過するにつれて価値と権力がさらに分散される。一つか二つの大企業がこれを実行するとき、株主のためにお金を稼ぐことができます。それを目の当たりにした他の大企業もそれに続くようになり、全ての大企業は暗号化されます。

    Facebookをトークン化する

     それでは、Facebookを例にとってこのレシピで大企業のトークン化をしてみましょう。

    ステップ0:現状維持

     Facebookの命運はユーザーとともにあります。Facebookの創業者たちと株主は多くの富を築きました。しかし、ユーザーは個人情報やコンテンツといったFacebookのコアビジネスへの貢献に対して富の分配を受けていません。これが基本的な緊張関係です。Facebookはオープン性とユーザーのプライバシーに対して偏見を持たれています。

     Facebookは数億のユーザーと高いエンゲージメントによって非常に強大になりました。しかし、それは少人数の人たちによって管理されています。これは社会にとってとても危険です。その責任を全うするような構造となっていない場合は特にそうです。

    これまでにこの状況を変えるために様々な提案がなされました。ひとつは法廷に持ち込んで独占企業として認定することで分割することです。

     もう一つのアイデアがブロックチェーン化です。Facebookのボトムアップからの支配です。分散化した何かを作り、ユーザーに参加してもらう。このようなアプローチは分散化したソーシャルメディアで多くありますが、成功したケースは多くありません。最大のチャレンジはユーザーを増やすことです。ニワトリか卵か。ユーザーは友達が参加しているからそこへ参加しているのであり、エンゲージメントの高い2億ユーザーに食い込むのは至難の技です。

     これをさらに推し進めた考え方もあります。分散化とトークン化です。これは役にたつかもしれません。初期にトークンを持っている人は友達に紹介するでしょう。友人を招待することでインセンティブが生まれるので。トークン化は口コミ効果を高めます。しかし、それでも2億ユーザーのネットワークを乗っ取ることができる保証はありません。

     これらのアイデアはゼロからスタートすることを前提として、より早く、賢く、バイラルなもので下から攻撃するものです。それはうまくいくかもしれませんが、私は別の方法があることに気がつきました。内側からのトークン化です。

    ステップ1:証券のトークン化

     このステップではFacebook株(シンボル:FB)がトークンに変換されます。

     Facebook株は約30億株あります。企業としてのFacebookがブロックチェーン上に30億トークン(シンボル:$FB)を発行します。

     そして、Facebookが30億のFacebook株を$FBトークンに変換する契約を行います。または単純に株主(株=$FB)をブロックチェーンの登録台帳とすることもできます。米国デラウェア州はこの方式の可能性を模索しています。

     どちらの方法でもブロックチェーンが$FBトークンが従来の株式を置き換えることができます。これが証券としてのトークンとなります。

    ステップ2:分散化

     この時点でトークンの管理は企業としてのFacebookの手の内にあります。そしてFB株と$FBトークンは同じで1対1です。本当の変化はステップ2で起きます。権力の分散とユーザーへのトークンのアクセスです。

     次のことが同時に起きる必要があります。

    ガバナンスの拡散

     コミュニティーがもっとコントロールできるようにガバナンスを変えます。そうすることにより$FBトークンは企業としてのFacebookのコントロールを離れます。キーとなる責任はプロトコルのアップデート(APIの変更)のルールとトークンのガバナンス(金融政策)です。多くのガバナンスモデルが考えられます。

    1. 完全にオンチェーンで自動化する(TheDAOで起きたようにこれはまだ危険)
    2. 20名以上のケアテイカーによる伝統的なノンプロフィットによるコントロール
    3. 伝統的なノンプロフィットからはじめて、徐々に自動化する(私の好きなIPDBのように)

    ブロックチェーンを公開する

     誰でも書き込み、読み込みができる。そしてサーバーで動いていない。つまり、Facebookの機能は全てオープンなプロトコルとなります。特にトークンを得た人、使った人にとって。理想的にはFacebookの全てがオープンソースとなることです。クールじゃないですか?新しい環境下においてオープンソース化は企業としてのFacebookのメリットとなるので夢物語以上のものです。ブロックチェーンにおいて価値はそのインプリメンテーションではなく究極的にはファットプロトコルにあります。

    過去の貢献に対してトークンを配布

     企業としてのFacebookが追加で30億の$FBトークンを既存のFacebookユーザーに配布します。Facebookの過去の利用に応じてユーザーはリワードされます。全ての過去のポスト、写真の共有、いいねに対して$FBトークンを受け取ることができます。または既存のビジネスモデルでも分散化されたサービスでマーケティング目的でユーザーデータを利用する代わりに$FBトークンを配布することもできます。

    将来の貢献に対してトークンを配布

     Facebookが価値を高める行動をしたユーザーに対して$FBトークンを配布するルールを設定します。例えば、写真を投稿すれば$FBトークンを獲得できる。すでにSteemitBraveBasic Attention Token(BAT)のような前例があります。さらに機能追加やパフォーマンス改善の貢献でも$FBトークンを獲得することができます。

     もしこれらが実施されればKrakenやInterledgerのような交換所が$FBトークンを追加することは明白です。ステップ1とステップ2によって株式としてのFBは伝統的な証券取引所から新しい暗号化取引所へ移行します。

     これによって企業としてのFacebookはどうなるのでしょうか?解散が一つのオプションです。$FBトークンを持つ社員はその貢献によってインセンティブが与えられるので大枠では大丈夫なはずですが、いろいろと解決いけないこともあるであろうことは理解しています。もう一つのオプションは企業としてのFacebookがパブリックの$FBブロックチェーンのサービスプロバイダーとなることです。公共の$FBブロックチェーンのサービスを改善することで従業員に代わって$FBトークンを受け取ることができるため、インセンティブが生まれます。もちろん、個人や他の組織も同様にサービスを改善することができます。

     私の例では50%の$FBトークンを既存の株主に、残りの50%をユーザーに分配しました。もちろんこの比率は変えることができます。しかし、経験則として半分というのはよい数字です。落ち着きやすい数字で、不要な議論を避けることができます。

    ステップ3:$FBをコミュニティーに溶け込ませる

     このステップは時間とともに浸透していきます。このステップの最初の頃は半数の$FBトークンは既存の株主、残りの半分をユーザーが持ちます。時間の経過とともにユーザーはFacebookの利用とともに$FBを獲得し続け、多くの人が$FBをその購入のしやすさから買い続けます。$FBトークンは広がり続けることになります。

     長い期間保有する人も出てきます。$FBトークンをHODLするようになります。Facebookのマキシマリズム。これ、ここで初めて言ったからね。

    解説

    • HODLはビットコインのスラングで「売らずにとっておく」という意味。

     そもそもなんでFacebookの株主がこのような取り組みに賛成するか疑問に思うかもしれません。主な理由はお金を稼ぐためです!それが典型的な株主の主な動機です。 これは大きな価値です。もし企業としてのFacebookがユーザーの利益に反することなく実現する方法を見つけたならば。しかもこれはユーザーにとって自然な関係というだけでなく、ユーザーは貢献によって価値というインセンティブを受け取ります。さらに長期計画の元凶とも言える四半期ごとの収益報告義務から解放され、正しいことを実行できるようになります。その代わりビジネスとコミュニティーのバランスが必要となります。これだけでも価値は二倍以上になり、コストの回収ができます。ボーナス価値としてFB株と比べて$FBを買うことは取引摩擦が低いために流動性が改善されます。最後に誰でもコードベースを改善できるために価値を追加するためのボトルネックが少なくなります。

    解説

    オリジナルの記事はもっと長くてAmazonやVisaのトークン化のやり方も提案しています。力作ですがタイムリーなネタであるFacebookのトークン化の提案だけ翻訳しました。それ以外は興味があったら読んでみてください。

    オープンソース以前でソフトウェアの開発組織が大きく変わったように、トークン化は企業全体を変える可能性があります。Facebookのような大企業がその先鞭をつけたとしたら、その波はかなり大きなうねりとなり多くの企業を巻き込むことになるでしょう。

    それにしても、こんな大きな決断ができるとしたらMark Zuckerbergは本当にすごい。Internet Tidal WaveでMicrosoftのインターネットへの転換を図ったBill Gatesを彷彿させるものがあります。

    カタパルトスープレックスなかむらかずや

  • 書評|仕事の戦略には「いい仕事戦略」と「悪い仕事戦略」がある|The Good Jobs Strategy by Zeynep Ton

    「サービスデザイン」はその名の通り「サービス」をデザインします。プロダクトデザインと大きく異なるのは人との関わり。たとえばホテル(コンシェルジュやベルキャプテン)、小売業(店員)、コールセンター(カスタマーサービス)に飲食店(ホールスタッフ)。サービス業の接点はプロダクトだけでなく、人が大きくかかわってきます。

     このブログでこれまで紹介した本はすべて組織に関することです。サービスの根幹が人であるならば、その人の集まりの組織は非常に重要だからです。いくらオペレーションのデザインが素晴らしくても、それを運営する人が幸せでなければいいサービスにはならない。ここにどこまで踏み込んでいけるかがサービスデザインプロジェクトの成否を握ってると言えます。

    「いい仕事戦略」と「わるい仕事戦略」

     今回紹介する”The Good Jobs Strategy“は日本語に訳すと「いい仕事戦略」です。ビジネス戦略には「いい仕事戦略」「わるい仕事戦略」がある。「いい仕事戦略」を実行している企業は競合より安い商品を提供し、顧客を満足させ、従業員を満足させています。そして利益がでる。たとえて言うなら「ダイエー」より安くてサービスがいい「成城石井」や「明治屋」をイメージしていただければいいかと思います。

    Thomas Perez and Zeynep Ton, 2016 (3).jpg
    (右が”The Good Jobs Strategy”著者のZeynep Ton)Photo By US Department of LaborL-16-02-12-A-053, CC BY 2.0, Link

    「いい仕事戦略」は人事戦略とオペレーション戦略に分かれます。人事戦略は驚くほどホラクラシーのような自律型経営に似ています。オペレーション戦略はトヨタのようなリーンマニュファクチャリングに近いものがあります。自律型の組織と標準化は相性が悪そうなのですが、そうではありません。

    「いい仕事戦略」の人事

    「いい仕事戦略」では人材に多くの投資をします。そして、従業員の満足度が高い。だから離職率がものすごく低い。例えば米コストコではストアマネージャークラスで年収が1000万円です。エントリーレベルのスタッフでもウォルマートなどと比べると圧倒的に高い。マズローの欲求段階ではないですが、ベーシックなニーズが満たされないと、それ以上のことに集中できない。

     トレーニングにも多くの投資をしている。たとえばレジだけではなく、精肉もできるし、在庫管理もできる。そういうクロストレーニングをすることによってピークタイムに必要なワークロードの平準化を行うことができます。

     そして自律型の組織運営に近いので、現場で起きていることを現場で対応できる。ホラクラシーやティール型の組織に考え方がすごく似ている。実際にZapposも「いい仕事戦略」の例として紹介されています。

    「いい仕事戦略」のオペレーション

     ひとは定型化された作業を嫌う傾向があります。それでもオペレーションの効率化には必要なのである種の「必要悪」とみなされます。ここで紹介されているオペレーション上の戦術はとても興味深いものです。たとえば、サービスって需要がなかなか読めません。サービスをするにはスタッフも配置しなければいけないし、スタッフには当然人件費がかかる。「いい仕事戦略」を取る企業は人に多額の通しをしているのですから、なるべく無駄なコストにはしたくない。

     一つだけ紹介すると需要に対して「フラット戦略 “Level Strategy”」と「需要追っかけ戦略 “Chase Strategy”」がある。多くの企業は無駄をなくしたいから需要予測を細かく行って「需要追っかけ戦略」をやろうとする。しかし「いい仕事戦略」を取る企業の多くは「フラット戦略」をとる。そうすると需要と供給のギャップが生じるのですが、クロストレーニングなどで弾力性を持たせることで無駄なコストにしない。こういう経営視点はサービスデザイナーも持つべきです。

    この本はおススメか?

     ここで紹介されているのは小売業なのですがサービス業であればどの産業でも当てはまります。製造業であってもこれからサービス化は避けて通れない成長戦略ですから、見習うべきところは多いと思います。経営者なら読むべきです。

     また、サービスデザイナーも読むべきです。サービスデザインプロジェクトでは多くの場合、顧客接点の後ろにあるバックステージのデザインを含みます。ここで経営視点が持てないと「絵に描いた餅」になってしまいます。人事領域にまで踏み込むにはそれなりの知識が必要となります。

    The Good Jobs Strategy: How the Smartest Companies Invest in Employees to Lower Costs and Boost Profits

    The Good Jobs Strategy: How the Smartest Companies Invest in Employees to Lower Costs and Boost Profits

     

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  • デイブ・グレイが語るソースコードとしての「線の言語」とビジュアル思考

    デイブ・グレイが語るソースコードとしての「線の言語」とビジュアル思考

     デイブ・グレイさんはアメリカで最も有名なサービスデザイナーの一人です。XPLANE創業者としてスタンフォード大学d.schoolでも使われている『共感マップ』の作成に携わったり、日本でも出版されている『ゲームストーミング』などの著者でもあります。スケッチでも有名でグラレコ本ではデイブ・グレイ風として紹介されたりもしています。

     そんなデイブさんにサービスデザインやイノベーションにおけるスケッチの役割とか聞いてみました。

    カタパルト式なかむら

     デイブさんはスケッチやドゥードゥルでも有名ですよね。共感マップもとてもビジュアルです。

    デイブ・グレイ

     私がやっているのは全てビジュアル思考(Visual Thinking)と言えるね。ビジュアル思考というのは最も基本的で普遍的な方法だと思うんだ。ビジュアルを使って探索し、実験し、考えを説明できる。ビジュアルを使うとアイデアを見える形にできる。そうすることによって他の人も理解しやすいし、共同作業もしやすくなる。

    スタンダード大学d.schoolでも使われている『共感マップ』

    「書く」ことは「描く」こと。「描く」ことも「書く」こと。作文、数学、音楽、チャート、スケッチ、ドゥードゥルといった表記は全て紙にアイデアを落とし込むという意味では同じなんだ。私はそれを「線の言語(line language)」と呼んでいる。「線の言語」はオリジナルの言語となる。表現のソースコードとも言える。それが文章でも、ドローイングでも、統計のチャートでも、インフォグラフィックや戦略の可視化やシステム思考も全てそう。


    Squiggle birds

     私は「線の言語」を全ての仕事で使う。いろんな人に「線の言語」をソースコードとして使うことを教えている。「線の言語」を使いこなすことによって複雑でぼやっとした構造化されていない問題に取り組むことができるようになる。

    カタパルト式なかむら

     日本企業はビジュアル思考があまり得意でないような気がします。

    デイブ・グレイ

     日本企業はたくさんのイノベーションツールを作り出したよ。それらはアメリカで研究され、広がっていった。例えばリーンマニュファクチャリングはリーンスタートアップになった。日本企業のA3思考(トヨタ自動車で資料を1枚のA3サイズの紙にまとめる方法)はサービスを通じた価値創造、特にクリエイティビティーやイノベーションに役立つ。まだアメリカではそれほど広がっていないけど、可能性は大きいと思う。リーダーたちがA3思考を使って創造性や革新性にフォーカスすることで実際にイノベーションが起きた現場にたくさん居合わせた経験からもそう思う。

    カタパルト式なかむら

     リーンマニュファクチャリングのカンバンもA3思考も日本企業というよりはトヨタ自動車の手法で、海外企業の方がよく研究して取り入れている気がします(笑)

    カタパルト式なかむら

     ところで、”Connected Company”が出版されてから自律的な組織が注目されるようになりました。20世紀の後半はサービスデザインでいうバックステージが注目を集めていました。例えばSCM、ERP、CRMなどです。自律的な組織もそうなのですが21世紀からはフロントステージにおける顧客体験が重視されています。

    デイブ・グレイ

     バックステージとフロントステージを考えるとき、レストランがいい例えになる。調理場がバックステージ。工場や企業の本社機能と同様にバックステージとしての調理場は効率性と生産性を上げることができる。でも、実際の創造性の問題はホールでの顧客体験がカギとなる。ホールでお客様にどのようにいい顧客体験をサービスとして提供できるか。

     バックステージはプロセスなのでリーンにできる。でも、顧客は一人ひとり違うから顧客体験といってもそのバリエーションは無限にある。パーソナライズすればするほど複雑になる。それに対応するにはフロントステージでの自律性を高めるしか方法がない。

     これはレストランに限ったことではなく、全ての産業で言えること。

    カタパルト式なかむら

     ”Connected Company”が出版された2012年と比較して企業がサービス企業”Connected Company”となる必要性は高まっていますか?

    デイブ・グレイ

     企業がConnected Companyとなる必要性は出版してから現代まで変わっていない。変わったとしたらその重要性がさらに高まったこと。企業文化は生きているんだ。私は企業文化を説明するときによく「庭」を比喩として使う。手入れが行き届いた庭は過ごしやすいし、美しい花が咲き果物が実る。行き届いた企業文化は働きやすいし、結果も出る。

    カタパルト式なかむら

     GEのような製造業もデジタルを活用したサービス化を進めています。しかし、GEは先進的な取り組みをしていますが、まだうまくいくには時間がかかりそうです。

    IoTの“手本” GEの見えない針路:日経ビジネスDigital

    デイブ・グレイ

     GEはジャック・ウェルチが経営していた頃にとても難し判断を力強く下した。彼の後の経営者はGEの企業文化をよく手入れしてこなかったんじゃないかな。ジャック・ウェルチは1990年代に「株主価値の最大化はこの世で一番間抜けなアイデアだ」と言った。彼が言わんとしたことは、株主の価値は逆算して考えるということ。顧客のニーズを優先して先に考える。企業が顧客の価値にフォーカスすれば株主の価値は自ずと高まる。顧客の価値が成長の要因であって、株主への価値はその結果でしかない。GEはどこかで道を誤って業績は停滞している。でも、正しいことを続け、顧客中心でいられれば偉大な企業に戻る。

    カタパルト式なかむら

     デイブさんは様々なプロジェクトに関わっています。最後にサービスデザインやイノベーションプロジェクトに関わる人に注意点と言いますか、「これは危険信号!」だから注意しないといけないこととかありますでしょうか。

    デイブ・グレイ

     以前のカンファレンスで話したやつだよね(笑)。次のことにいくつか当てはまるプロジェクトは要注意だ。

    • 強い抵抗勢力がいる
    • 本当にやりたいのかよくわからない
    • 実行する上での障害を取りのぞけない(インセンティブをつけたり、組織改編ができない)
    • 役員の支援がない
    • プロジェクトにかかわる人たちが十分な時間をコミットしてくれない
    • 現場や顧客と直接会話させてくれない

     イノベーションプロジェクトが成功する確率は決して高くない。だから、サービスデザイナーもプロジェクトを選んだほうがいい。これはクライアントにも言える。自社のイノベーションプロジェクトでこれが当てはまらないように準備をしたほうがいい。

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  • 書評|モノづくり企業から顧客体験企業への転換「Connected Company」Dave Gray

    書評|モノづくり企業から顧客体験企業への転換「Connected Company」Dave Gray

     これからは顧客体験を重視したサービス企業にならないと成長できないと言われています。現代のヨハネの黙示録の四騎士と言われるAFGA(Apple、Facebook、Google、Amazon)も全てサービス企業ですね。え?誰ですか?Appleが製造業だといってる人は?Fortune Future 50というリストがあります。将来的に爆発的に成長する可能性のある企業。ここにリストアップされている企業も純粋な製造業はほとんどありません。

     例えばFortune Future 50リーダーリストで第二位のTeslaも電気自動車を作っているけど、彼らのイノベーションはそれだけじゃない。顧客体験を非常に重視しているサービス企業といってもいい。販売店を経由しないでショールームで直接体験をさせる。彼らが力を入れているクルマの自動運転もサービスに直結しますよね。

    サービスデザイナーの描く新しい組織の形

     それでは「従来の効率を求めた大量生産型の組織から顧客のエクスペリエンスを重視したサービス型の組織に変わるにはどうしたらいいのか?」それが今回紹介する本”Connected Company“の主題です。この本を書いたのはXPlaneの創業者でアメリカで最も有名なサービスデザイナーの一人であるDave Gray氏。スタンフォード大学のd.schoolでも使われているEmpathy Map(共感マップ)はXPlaneがもともと作ったもので、彼の本『ゲームストーミング ―会議、チーム、プロジェクトを成功へと導く87のゲーム』でも紹介されています。

    “Connected Company”の著者、Dave Gray氏

     新しいサービス型の組織は自律型の組織になる

     2012年に出版されたこの本は、新しい組織の形としてConnected Companyという概念を提唱しています。いわゆるピラミッドの形をした階層型の組織ではなく、自律したグループ(ポッド)が集まったポデュラー型の組織になる。この本は前回紹介した“Reinventing Organization”(2014年2月出版)の二年前に出版されているのですが、かなり共通点が多い。”Reinventing Organization”が色々な歴史的事例や新しい組織の事例から時系列に整理したものに対して、”Connected Company”は顧客体験を最適化するサービス型の組織はどのような組織なのかを事例を交えて考察しています。取り上げている事例もモーニングスターなどかぶる部分が多い。

    なぜ従来のピラミッド型の組織では顧客体験を最適化できないのか?

     Connected Company(繋がっている組織)がサービス型の組織だとしたら、従来のようなピラミッド型の組織をDivided Company(分裂した組織)と定義できます。産業革命以降、効率を高めるために分業(Division of Labor)が勧められてきたので、大量生産型の組織にとってDivided Companyは最適な形だったわけです。製造は安定していて関わる人の役割も明確。

     しかし、経済は製造業よりもサービス業が成長していった。サービスは製造と比べて決まった形がない。常に変化する。例えば自動車を作ることはどのような会社でも大きく変わることはない。働く人が持っているのはタスクとプロセス。しかし、同じクルマでもUberのようなサービスカンパニーは?顧客それぞれにルートも違えばパーソナリティーも違う。Uberがもし従来の企業のような組織体系で、ドライバーはピラミッドの底辺で、持っているのはタスクとプロセスだったら?それではうまくいかない。サービス型のConnected Companyは人が持つのは顧客体験。

    この本はオススメか?

     日本の企業が「大量生産のモノづくり企業」から「サービス型のモノづくり企業」へと転換するのにとてもいいテキストだと思います。すでに出版から時間が経過しているため、いくつかの事例はすでに旧聞に属します。それでもハッとするような事例がたくさんあります。

     例えば軍隊の事例。軍隊はピラミッド型の組織で命令は絶対。”Reinventing Organization”でも軍隊はレッドのメタファーとして使われているくらい。そういうイメージがありますよね?

     しかし、実際の戦場では自律的に動く必要がある。戦況は刻一刻と変わるし、必ずしも上長の判断を仰げるわけではない。自律的な組織は「組織の目的」を重視して、その目的が行動の規範となる。戦場における軍隊もまさに同じで、「司令官の意図(Commander’s Intent)」と呼ばれる指針が各部隊が自律的に動く基準となる。軍隊も現場ではかなりアジャイルな組織なんですよ!

     ”Reinventing Organization”はどちらかというとアカデミックで理想的な印象があるのですが、”Connected Company”は現実も理解して実質的な解決策を提示している気がします。

    The Connected Company

    The Connected Company

     

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  • 書評|ポスト情報化社会の組織論「Reinventing Organization」Frederic Laloux

    書評|ポスト情報化社会の組織論「Reinventing Organization」Frederic Laloux

     大企業病で判断が遅い。組織の壁がある。イノベーションを起こせない。残業が減らない。過労死問題。これらは日頃のニュースや新聞の社説で繰り返し見かけるフレーズです。電通社員の過労自殺は未だに日本国民全員への問いを発しています。

    「で、どうするの?」

     当然ながら手をこまねいているわけではなく、様々な解決策が提示され、実行されています。ITの活用や副業の自由化。その効果があったかどうかは別として「プレミアムフライデー」もそんな試みの一つと言えます。

     これは日本だけの問題ではなく、世界であらゆる研究がされています。 そして、その解決策としてある種のコンセンサスが形成されつつあるような気がします。そして、それは以下の二つに集約されています。

    • アメとムチによる外から与えられる「やる気」より、自分の内側から生まれる「やる気」の方が大事(参考:ダニエル・ピンク「やる気に関する驚きの科学」, TED, 2009)
    • 現在の企業や組織は大量生産と効率化を重視した産業革命後のパラダイムを抱えいて、個々の顧客に対応するサービス化した現代のビジネスに対応できない

    産業革命から変わっていない組織

     この問題に組織の面から解決策として提示されているのが「自律的組織」です。組織の一員が自律的に状況に合わせて動くことを前提とした組織ですね。代表的なのがホラクラシーです。ZapposやBufferといったスタートアップ企業が実践していることで有名です。このほかにもBooking.comが進めているアジャイルチームやDave Grayが提唱しているConnected Companyなどがあります。大企業でも人事評価をやめて、チェックインを導入したりしているのはこの流れの一つです。Googleも以前にマネージャーのいない組織を試してみました。

     産業革命の後に情報革命が起きたと言われています。しかし、組織自体は情報革命では変わらなかった。ピラミッド型がマトリックス型になったり、パソコンやスマホで仕事をするようになっても基本的な組織は変わっていない。情報化社会の後の組織をいろんな企業や組織が模索しているのが現在です。

    ポスト情報化時代の組織(ティール組織)

     このような様々な取り組みを歴史的に整理して、分類したのがFrederic Laloux氏の”Reinventing Organization“です。組織は原始的なレッドからはじまって、徐々に洗練化されてきた。産業革命でオレンジの組織が誕生。今のほとんどの組織はまだオレンジの段階。日本企業はひょっとしたらまだアンバーな企業が多いのかもしれない。この色分けやそれぞれの特徴は山田裕嗣さんの「Teal Organization(ティール・オーガニゼーション)とは何なのか」に詳しいので、こちらを読んでみてください。

    • ティール(青緑)
    • グリーン
    • オレンジ
    • アンバー(琥珀)
    • レッド

    “Reinventing Organization”の著者、Frederic Laloux氏

    ティール組織は難しい問題にも応えられる

     ティール組織の特徴は自律型の組織。マネージャーはいない。本社機能は限定的で非常に少人数。いわゆる人事部門は存在しない。当然ながら今までの組織の管理に慣れている人は戸惑う。え?みんなが自由気ままにやるの?ダメな社員はどうするの?事故や事件が起きた時のリスク管理は?

     ホラクラシーの本『HOLACRACY 役職をなくし生産性を上げるまったく新しい組織マネジメント』もそうなのですが、このような問題の一部には応えている。例えば、社員が勝手気ままに仕事をするわけではない。でも、意外と大事な問題には答えていない。それはお金の問題であり、解雇の問題。この”Reinventing Organization”の優れたところは、この非常に難しい「お金」と「解雇」の問題にきちんと答えているところ。

     以前にインタビューさせていただいたダイヤモンドメディア株式会社さんはここで書かれていることをほぼ実践されている。このインタビューではあえて「ホラクラシー」という単語を使うのを避けたのですが、それはダイヤモンドメディアがホラクラシーよりもっと先を実践していると思ったからです。

    ITやリモートワークは問題を解決するか?

     ITの活用やリモートワークは「働き方改革」でよく出るトピックです。実際にこの本に出てくるビュートゾルフでは社内ポータルやタブレットを使って情報共有をしていますし、それが自律的組織運営を下支えしていることも確かでしょう。では、ITやリモートワークを活用すればティールなのかといえばそんなことはありません。ITは手段であって目的ではないからです。

     この本を読んでいて強く感じたのは「根本的な文化を変えなければ働き方改革はなし得ない」ということです。スマホやタブレットをいくら活用しても企業文化が変わらなければ、結局のところ何も変わらない。オレンジからティールには移行できない。

    この本はオススメか?

     出版されて少し時間が経ちますが、その内容は全く色褪せていません。海外ではすでに組織論のクラシックとしての地位を確立しています。時系列で組織の進化を整理していったことも非常に意義があります。

     読み手が経営者ならば自分の会社がどこに位置するのかを理解できるでしょう。そして、そのままでいるべきか、それともティールになるべきかを考える機会を与えてくれるでしょう。管理職であれば自分は本当にチームのやる気を引き出しているのか?それは正しい方法なのかを考えるきっかけを与えてくれるでしょう。それ以外の人たちもこれからの社会においてどのような組織が必要なのかを考えるきっかけとなるでしょう。

     日本語版の版権はすでにどこかの出版社がおさえているようですので、きっと日本語版が近い将来に出るはずです。その時は是非とも手にとって読んでほしい本の一つです。

    Reinventing Organizations: A Guide to Creating Organizations Inspired by the Next Stage of Human Consciousness

    Reinventing Organizations: A Guide to Creating Organizations Inspired by the Next Stage of Human Consciousness

     

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  • 欧米で頭のいい人達が自然と使っている知識の整理整頓

    欧米で頭のいい人達が自然と使っている知識の整理整頓

     ちょっと前に効率的な勉強の習慣について書きました。「入れて、調理して、出す」でしたね。「調理して」には整理整頓も含まれるのですが、今回はこの知識の整理整頓の話。知識を入れるのはインターネットで検索したり、キュレーションメディアをチェックしたりして簡単に手に入るようになりました。でも、それだけで知識って使えるわけじゃないんですよね。

     実際に頭のいい人と話をしているととても知識の整理整頓がうまいんです。特に欧米の人と話をしている時にそれを感じます。それは彼らに自然と備わった整理整頓というか分類方法があるからなんだと思います。それは「クラシック」と「モダン」で分ける整理術。これを使えば普段の生活から会社の経営まで整理して理解することができますよ!さらに「ポストモダン」まで理解して整理できれば未来の社会がどのような方向に進もうとしているかも理解できます。いまの自分はどんな状態なのか理解するのにいいのですね。

    普段のことはクラシックとモダンで整理整頓

     欧米の人たちとアジアの人たちって考え方が違うんですよね。例えばなんですが、欧米の人たちはファッションや料理、音楽をクラシックとモダンでざっくり分けて考える傾向があると思います。洋服だとクラシックは伝統的でゆったりとしたシルエット。モダンはデザイン的な主張が強くてスリムなシルエット。前にベルギービールの記事でも書きましたが、料理や飲み物でもクラシックとモダンで分けることができます。

     大事なのは整理整頓すること。「クラシック」だから古臭くて悪い、「モダン」だから新しくて良いではないんです。もっと言ってしまえばクラシックとモダンは混在しても構わない。混在しているんだと意識できるかどうかが大事。

     例えばフランスのブティックで洋服を買うとする。そうすると「このシャツはクラシックなのでネクタイはこんなクラシック柄でどうです?モダン・オン・クラシックでミスマッチを楽しむのもいいですけど」みたいな会話になる。ファッションは色や柄を合わせるだけじゃなくて、スタイルを合わせることでもあるんですね。これくらいクラシックとモダンという考え方は日常に根付いています。

     あとビートルズとかツェッペリンとかはクラシックロックとかね。レディオヘッドとかはモダンで。ヒップホップもグランドマスターフラッシュやランDMCはクラシック。ケンドリック・ラマーとかモダン。そう言えば落語なんかもクラシックな古典落語とモダンな新作落語がありますよね。ボクはクラシックもモダンも両方好きです。

    ガリレオ・ガリレイはクラシックかモダンか?

     それでは問題です。地動説を唱えたコペルニクスやガリレオ・ガリレイ。彼らは西洋的にはクラシックでしょうか、モダンでしょうか?彼らが生きていた時代は中世です。でも、彼らの考え方は非常に科学的。つまり近代的です。近代を英語で言うとモダン(Modern)です。それより前はクラシック。だからコペルニクスやガリレオ・ガリレイのいきていた時代はクラシックな時代ですが、彼らのような科学的な考え方はモダンと言えます。クラシックな時代にモダンな考えで生きるのって大変なんですよ。

     近代的なアプローチというのは科学的なアプローチのこと。ちゃんと科学的にやろうぜ!というのがモダン。冗談みたいな話ですが、アリストテレスは「女性の歯の数は男性より少ない」と言ってた(と言われている)。そして昔はみんなそう信じてたんですよ。これはとてもクラシックな考え方。そして、実際に歯の数を数えた人がいた。当たり前の話ですが男も女も歯の数は同じです。この数えるというアプローチは非常にモダンなアプローチと言えます。

     この近代化(モダン化)というのはすっごい出来事なんですよ。産業革命とか啓蒙主義とか近代的な科学のアプローチがなければありえなかったわけですから。当然インターネットだって近代化がなければありえなかったわけですよ。モダンは生活や文化をドカンと変えてしまった。それぐらいインパクトのあったことだから、欧米の人たちに自然とこの分類方法が備わっているわけです。欧米の人たちは自分たちでこれをやっちゃった。日本やアジアの人たちはそれが欧米から輸入された。この違いはすごく大きいと思います。

    モダンなニュートンやアインシュタインは現代的か?

     それではまた問題です。アイザック・ニュートンは科学的方法論の礎を作った人として有名です。まあ、モダンの権化みたいな感じです。そんなニュートンは現代的でしょうか?ザ・モダン!と言えるニュートンも現代的かと問われればちょっと違和感ありますよね。じゃあ、ニュートン力学を塗り替えたと言われるアインシュタインは?それもなんとなくしっくりこないですよね。

     じゃあ、現代的なアプローチってなに?ということになりますよね。確かに科学的なアプローチのおかげで寿命が延びて人口も増えて世の中便利になった。でも、それっていいことばかりじゃないよね?例えば地球の温暖化とか環境破壊とか。割とまずい状況になってるよね?という反省点もあったりする。あと、ワークライフバランスとか言われてるけど、仕事というのは数字だけ気にすればいいものじゃないよね、会社としても個人としても。

     近代の後は現代ですが、現代的なアプローチは「ポストモダン」と言われたりします。もともと哲学とか芸術とかでよく使われる言葉なんですが、いまは経済とか経営でも使われはじめています。そこでこの記事のタイトルに戻るんですが、欧米で頭のいい人たちが自然と使っている知識の整理整頓は「クラシック/モダン/ポストモダン」なんです。

    現代的なアプローチの代表例

     経営で具体的な例を見ていきましょう。見てもらえばわかるんですが、意外とクラシックな経営スタイルって残ってるんですよね、日本には。ただ、これも「クラシック」だから古くてダメ、「モダン」だから進歩的でよいと簡単に言えるものでもないです。

     例えば軍隊の組織運営はクラシックな方がマッチするだろうし、研究開発はモダンでなければいけないでしょう。日本酒の『獺祭』はモダンな考え方を取り入れて躍進しました。だからと言って伝統的な杜氏の勘と経験に頼る製法が全て否定されるわけでもないわけです。

    クラシックな経営

    • 勘と経験則
    • 村社会的組織や軍隊的組織

    モダンな経営

    • 財務会計と管理会計
    • KPIとPDCA
    • 論理的思考
    • 分業/専門型組織(産業革命から脈々とつづくモデル)

     とは言え、大部分の企業はモダンな経営を洗練させ大きくなってきました。悪い迷信も科学で解き明かされました。それが近代の産業革命や啓蒙主義からの流れでした。暗い場所に光を当てたわけですが、光も強すぎればより濃い影も生まれるわけです。環境破壊や過労死がその例です。さすがにそれはまずいだろうと多くの企業が新しい方向を模索しています。この動きを「ポストモダン」と言います。

    ポストモダンな経営

     欧米の企業や組織がすでにポストモダンな経営に移っているわけではないです。グーグルですらマネージャーのいない「ポストモダン」なティール型の組織を一度は試しましたが、いまは元に戻しちゃいました。アップルはスティーブ・ジョブスの頃は彼の感性に頼った「クラシック」な企業だったと思います。それがティム・クックになりイノベーションを管理する「モダン」な企業になった。マイクロソフトはビル・ゲイツの頃もスティーブ・バルマーの頃も「モダン」でしたが、サティア・ナデラになって「ポストモダン」な感じになってきましたね。

     つまり「ポストモダン」な経営は手探り状態なんです。確立された方法論があるわけでもない。いまは先進的なザッポスバッファーのような企業が現代のガリレオ・ガリレイやコペルニクスとなって現代的な方法を模索しているところです。日本ではダイヤモンドメディアなんかが代表例ですね。

    kazuyan.hatenablog.com