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  • 書評|「仕事とは何か」をビッグヒストリー的なアプローチで解き明かす|”Work” by James Suzman

    書評|「仕事とは何か」をビッグヒストリー的なアプローチで解き明かす|”Work” by James Suzman

    生産性は技術革新のおかげでかなり上がりました。しかし、それでも私たちは仕事をしています。生産性が上がって、仕事が減るどころか増えています。

    ケインズは「生産性が上がり、2030年には労働時間は週15時間になる。21世紀最大の課題は余暇になるだろう」と予測しました。経済における「約束された場所」のはずでした。2030年にはまだ少し時間がありますが、労働時間は減りそうにありません。いったい、何を間違ってしまったのでしょうか?

    日本でも『「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている』が翻訳されている人類学者ジェイムス・スーズマンの新著”Work”はこの問いに対してビッグヒストリー的なアプローチで答えようとしている意欲作です。

    Work: A Deep History, from the Stone Age to the Age of Robots (English Edition)

    Work: A Deep History, from the Stone Age to the Age of Robots (English Edition)

    • 作者:Suzman, James
    • 発売日: 2021/01/19
    • メディア: Kindle版
    「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている

    「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている

    • 作者:スーズマン,ジェイムス
    • 発売日: 2019/10/25
    • メディア: 単行本

    なぜ、ケインズの予想は間違えたのか。この問いに対しては多くの論者が解き明かす試みをしています。ルトガー・ブレグマンの『隷属なき道』も同じテーマですよね(もちろんハイエクの『隷属への道』にかけているわけです)。ジェイムス・スーズマンは既に手垢がたくさんついたテーマをビッグヒストリー的な切り口でアプローチしていきます。

    隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働 (文春e-book)

    隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働 (文春e-book)

    • 作者:ルトガー・ブレグマン
    • 発売日: 2017/05/26
    • メディア: Kindle版

    ビッグヒストリーはビッグバンから138億年の歴史を体系的にまとめる試みです。138億年間を8つの臨界点(スレッショルド)に分けています。ジェイムス・スーズマンは「仕事」に焦点を当てて、生命の誕生からサービス産業の台頭までを4つの集合点(コンバージェンス)に分けて分析しています。

    どこまで遡るのか?なんとカンブリア紀まで遡ります。世界はエントロピーに支配されている前提では、生命はとても不思議な存在です。遺伝子などもカオスにはならずに秩序を持って成長します。(実際はそうではないですが、)生物はエントロピーに抗っているように見えます。エントロピーに反して成長するにはエネルギーが必要ですし、生物として複雑なほどエネルギーが必要となります。そこで、ジェイムス・スーズマンは仕事(work)の定義を「ある目的を達成するタスクを遂行するために意図的にエネルギーを使うこと」としています。仕事(work)は作業(job)と違う。これまでの経済学者の仕事(work)の定義「経済的なニーズを満たす」だと狭すぎるし、そもそもケインズの問題を解決できない。

    なぜ、「経済的なニーズを満たす」では説明できないことがある。まだ人類が農業を始める前を説明できません。狩猟を生業としていたときは週に15時間も働いていなかったことが最近の考古学の研究でわかってきています。ケインズが予測した(そしてまだ到来していない)週15時間労働の世界は既に昔に到達していたのです。では、なぜ働くのか?経済的な問題を解決することでは説明できません。

    ジェイムス・スーズマンの仕事の定義「意図的にエネルギーを使う」は脳の役割「生存のためにエネルギーを使う」と同じなのが面白い。スーズマンは最新の脳科学についての知識もあるようです。いや、スーズマンは自身の専門の人類学だけでなく、経済学や考古学など様々な分野に精通しているようです。本書ではデヴィッド・グレーバー『負債学』『ブルシット・ジョブ』にも言及されていますし、ガルブレイス『ゆたかな社会』にも言及されています。

    ゆたかな社会: 決定版 (岩波現代文庫)

    ゆたかな社会: 決定版 (岩波現代文庫)

    • 作者:J.K. ガルブレイス
    • 発売日: 2006/10/17
    • メディア: 文庫

    ジェイムス・スーズマンはポリマスなんだと思います。ボクたちはつい先日デヴィッド・グレーバーという素晴らしいポリマスを失ったばかり。スーズマンがデヴィッド・グレーバーの後を継いでくれたらすごく嬉しいのですが。

  • 書評|スタートアップを大企業からの攻撃から守るイノベーションの鎖|”The Innovation Stack” by Jim McKelvey

    書評|スタートアップを大企業からの攻撃から守るイノベーションの鎖|”The Innovation Stack” by Jim McKelvey

    ペイメントのスタートアップとして大成功したSquareといえばジャック・ドーシーのイメージが強いと思います。ジャック・ドーシーはツイッターの共同創業者でもあり、知名度が高いので仕方のないことです。今回紹介するのはSquareのもう一人の共同創業者であるジム・マッケルビーの初書籍である”The Innovation Stack”です。

    Squareには創業からこれまで、一度だけ大きな危機がありました。アマゾンが参入してきたのです。ジム・マッケルビーは、なぜアマゾンのような大企業からの攻撃をSquareのような小さなスタートアップが退けることができたのか、そもそもSquareはなぜ成功することができたのか、これを自分に問いかけ続けました。そして、過去に似たような事例がないのか探して研究しました。その研究の成果が本書となります。

    The Innovation Stack: Building an Unbeatable Business One Crazy Idea at a Time (English Edition)

    The Innovation Stack: Building an Unbeatable Business One Crazy Idea at a Time (English Edition)

    • 作者:McKelvey, Jim
    • 発売日: 2020/03/10
    • メディア: Kindle版

    (多くの優れた書籍がそうであるように)ジム・マッケルビーは言葉の定義からはじめます。「起業家」とは何か?「イノベーション」とは何か?ジム・マッケルビーはヨーゼフ・シュンペーターまでその起源を遡ります。

    ジム・マッケルビーが本書で定義する「起業家」とは、真のリスクテイカーです。実を言えば現代のスタートアップ創業者は(例えばクリストファー・コロンブスのような真のリスクテイカーと比べて)それほどリスクを取る必要がありません。ベンチャーキャピタルから資金調達したお金は返す必要ないんですから。もちろん、資金調達できるまで持っていくには多くの労力や個人的な資産も必要かもしれませんが。ヨーゼフ・シュンペーターの頃、企業家は特別な人たちでした。クレイジーと同義語でした。

    ジム・マッケルビーが本書で定義する「イノベーション」とは、実現したいことをやるためには既存のやり方をコピーできないため、仕方なく生み出す手法です。ビジネスで成功する簡単な方法はコピーすることです。自然の法則はコピーです。コピーしてできるなら、それに越したことはありません。しかし、「起業家」は既存のルールがない未知の領域に(仕方なく)足を踏み入れるため、既存のやり方ではできないことがあります。既存のやり方とは違うやり方、それが「イノベーション」です。

    「イノベーション」の正体がわかれば、本書で紹介している「イノベーションスタック」も理解できます。文字通り日本語に訳せば「イノベーションの積み上げ」です。一つのイノベーションではなく、複数のイノベーションの積み上げ。何か新しい別のやり方には不具合がある。その不具合を解消するために別のイノベーションが必要になる。その連鎖が「イノベーションスタック」です。ただ、ボクはこの本を読んでいて「イノベーションの鎖」の方がイメージ的には近いと思いました。未知の領域に踏み込んでいくのですから、命綱が必要ですよね。その命綱をイノベーションの鎖で紡いでいき、ゴールに達成する。この方が本書で紹介する「イノベーションスタック」のイメージに近いと思います。

    本書ではSquareの具体的なイノベーションスタックの他に、四つのイノベーションスタックの事例が紹介されています。バンク・オブ・イタリー(後のバンク・オブ・アメリカ)、イケアサウスウェスト航空です。いやあ、お見事!これらの事例では確かにイノベーションがキレイに繋がっています。特にアマデオ・P・ジオニーニとバンク・オブ・イタリーは感動的です。すごい!

    まあ、すごいと言ってもわからないでしょうから、簡単にSquareのイノベーションスタックの一部を紹介します。

    解決すべき課題:これまでクレジットカードが使えなかったお店がクレジットカードを使えるようにする。そのために……

    1. 簡単にする(One Price:すべての人に同じ取引手数料)。しかし、小さな取引ではお金を損する。そのため、取引量を増やす必要あるため……
    2. サインアップを無料にする。それを維持するためにはコスト削減が必要で……
    3. ハードウェアを安くする。当時のクレジットカードリーダーは950ドルかかっていたが、Squareでは原価を0.97ドルまで抑えることに成功した。しかし、あまりにも安いので何か仕掛けがあるのではと不審に思う人たちもいた。そのため……
    4. 契約をなくした。いつはじめてもいいし、いつ止めてもいい。契約で利用者を縛ることをやめた。はじめるのにSquareと話す必要もない。しかし、それだけでは十分なコスト削減ではないので……
    5. 電話サポートをやめた。しかし、そのためには顧客が電話する必要がないようにしなければいけないので……
    6. 使いやすい美しいソフトウェアを開発した。直感的で使い易ければ電話して使い方を聞く必要はない。しかし……

    6まで紹介しましたが、実際には14まであります。一部ではありますが、一つのイノベーションがさらに次のイノベーションの必要性を生み出していることがわかると思います。後半になるほど、金融業やペイメントの規制が関わってきて、イノベーションしていくのが難しくなります。

    ボクが「イノベーションスタック」をイノベーションの鎖と訳したいか。もう一つの理由は、「イノベーションスタック」が競争から守ってくれるからです。よく、「競争優位性」といいますが、よくできた「イノベーションスタック」はそれ自体が競争優位性となります。競合がとる基本的な戦法は「コピー」です。アマゾンもSquareのビジネスモデルをコピーして攻撃を仕掛けてきました。しかし、一つのイノベーションをコピーすることができても、複数の連なったイノベーションの鎖全てをコピーするのは至難の技です、例え巨人アマゾンにしてもです。上の1から6のSquareのイノベーションスタックでも3と6だけでも大変そうじゃないですか?これが14もあるんですから。

    この本は前半がイノベーションスタックに関する事例を含めた詳しい解説になっていて、後半はジム・マッケルビーの個人的な考察というかエッセーっぽい内容になっています。コンパクトに前半だけでよかったんじゃないかなあ。ただ、後半もイノベーションスタックが崩れる条件とかも書いてあるので、それはそれで面白かったです。なぜ、バンク・オブ・アメリカやサウスウェスト航空の優位性が崩れてしまったのかとか。

  • 書評|フィルターなしのインスタグラムの歴史|”No Filter” by Sarah Frier

    書評|フィルターなしのインスタグラムの歴史|”No Filter” by Sarah Frier

    インスタグラムがフェイスブックに買収されるまでの成功物語って有名ですよね。ボクも以前にまとめたことありますし。もちろん、成功には後日談がつきものです。インスタグラムの創業者二人はフェイスブック買収後もしばらく残りましたが、二人揃って2018年にインスタグラムを「卒業」してしまいました。買収から創業者の離脱。この間になにがあったのでしょうか?それが今回紹介するサラ・フライヤーの新著”No Filter”のテーマです。

    インスタグラム:野望の果ての真実

    インスタグラム:野望の果ての真実

    • 作者:サラ・フライヤー
    • NewsPicksパブリッシング
    No Filter: The Inside Story of Instagram

    No Filter: The Inside Story of Instagram

    • 作者:Frier, Sarah
    • 発売日: 2020/04/14
    • メディア: ペーパーバック

    本書の前半はケヴィン・シストロムとマイク・クリーガーの創業者二人の成功物語です。マイク・クリーガーはブラジル人で、インスタグラム創業の時にビジネスビザを取るのが大変だったんですね。それ以外は特に新しい話はありませんでした。

    この本の目玉はフェイスブック買収から創業者の退社に至るストーリーです。Odeoでのインターンシップから個人的な友情をジャック・ドーシーと育んできたケヴィン・シストロムです。ジャック・ドーシーも数少ないエンジェル投資家としてインスタグラムを個人的に助けてきましたし、超有名なベンチャー・キャピタルのセコイア・キャピタルを紹介して500万ドルの投資ラウンドを助けました。ツイッターはずっとインスタグラムと買収の話をしてきた。ところがですよ、セコイアの投資ランドが完了した二日後にフェイスブックが1000万ドルでインスタグラムの買収を発表。ケヴィン・シストロムとマーク・ザッカーバーグは裏で話をしていたんですね。こりゃ、ジャック・ドーシーが怒るのも当然ですよ。セコイア・キャピタルも二日で投資を2倍にするという成功と言っていいのか、失敗と言っていいのかよくわからない経験をしてしまいます。

    この本ではマーク・ザッカーバーグのクソ野郎ぶりがかなり堪能できるのですが、ケヴィン・シストロムも(少なくともこの時は)かなりのクソ野郎ですね。このフェイスブックの買収で金持ちになったのはなんと創業者の二人だけ。それ以外の社員はおこぼれにほぼあり付けなかったそうです。いやいや、それはヒドイでしょ。インスタグラムみたいなスタートアップに参加するインセンティブってエグジットした時の分前なんだから。さらに後味が悪いのが、ワッツアップの買収とインスタグラムの買収が社員にとって全く違う結果だったことです。インスタグラム買収の2年後の2014年のワッツアップの買収金額は1億9000万ドルでした。なんとインスタグラムの19倍。社員にもその分前は行き渡り、創業者はフェイスブックの取締役として迎えられました。

    それでも、ケヴィン・シストロムとマイク・クリーガーは「ある程度」の自由を認められていたため、そこそこ満足はしていたようです。例えば、フェイスブックはアルゴリズムで最適化しますが、インスタグラムは人によるキュレーション(ポピュラーページや公式アカウント)でインスタグラムらしさを保っていました。

    しかし、その自由も徐々にマーク・ザッカーバーグに侵食されます。マーク・ザッカーバーグにとって重要なのは母艦のフェイスブックであり、インスタグラムもワッツアップもその周辺アプリでしかない。むしろ、インスタグラムはフェイスブックとカニバリゼーションを起こして「競合」のようにマーク・ザッカーバーグに目をつけられてしまいます。IGTVのロゴがフェイスブック・メッセンジャーのロゴに似ていると上司のクリス・コックス経由でマーク・ザッカーバーグに文句を言われるってヒドくないです?インスタグラムはすごい勢いで成長しているので、リソースも増強しないといけない。しかし、マーク・ザッカーバーグはリソースをインスタグラムに割り当てるのを渋ります。同じ時期にVRのオキュラスが600名の採用枠をもらったのに、インスタグラムがもらえた採用枠は90名。2019年にはフェイスブックの売上の30%をインスタグラムが担うとされていたのにも関わらずです。

    ここまでイジメられると、流石に創業者二人も気がつきます。あ、出て行けってことなんだって。

    それにしても、ここで描かれるマーク・ザッカーバーグはやっぱりクソ野郎なんですよ。VPNのOnavo買収とか競合分析のためですものね。スナップチャットの人気が出てきているのが、メディアが騒ぐよりずっと前にフェイスブックはVPNのトラフィック分析でわかっていた。VPNって政府の監視から逃れるために使う人が多いと思うのですが、監視される相手がフェイスブックになっただけというオチ。

    インスタグラムの成功後日談はなかなか苦い味わいですね。

  • 書評|社員の管理なしでイノベーションして成長するネットフリックスの秘密|”No Rules Rules” by Reed Hastings & Erin Meyer

    書評|社員の管理なしでイノベーションして成長するネットフリックスの秘密|”No Rules Rules” by Reed Hastings & Erin Meyer

    *異例の速さで日本語翻訳が出たのでリンクを追加しました。

    ネットフリックスは間違いなく最も成長している企業の一つです。1997年に創業し、その三年後の2000年にはレンタルビデオの巨人だったブロックバスターに身売りを提案するが断られます。しかし、ネットフリックスは成長を続け、2002年にはIPOします。でも、この頃もまだブロックバスターはネットフリックスの100倍の売り上げでした。しかし、その8年後の2010年にブロックバスターは破産してしまいます。

    何がネットフリックスとブロックバスターの明暗を分けたのか?共同創業者で本書”No Rules Rules”の著書のリード・ヘイスティングは文化だと言います。

    【Amazon.co.jp 限定】NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX(特典:著者リード・ヘイスティングスから特別メッセージPDF)

    【Amazon.co.jp 限定】NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX(特典:著者リード・ヘイスティングスから特別メッセージPDF)

    • 作者:リード・ヘイスティングス,エリン・メイヤー
    • 発売日: 2020/10/22
    • メディア: 単行本(ソフトカバー)
    No Rules Rules: Netflix and the Culture of Reinvention (English Edition)

    No Rules Rules: Netflix and the Culture of Reinvention (English Edition)

    • 作者:Hastings, Reed,Meyer, Erin
    • 発売日: 2020/09/08
    • メディア: Kindle版

    ネットフリックスには有名なNetflix Culture Deckがあります。リード・ヘイスティング本人がSlideshareにアップロードしたものです。現在のバージョンはネットフリックスの採用ページに掲載されています。Facebookのシェリル・サンドバーグなど、多くの人たちに大絶賛されて話題になりましたよね。この本はNetflix Culture Deckを事例に基づいた詳しく解説したものです。

    リード・ヘイスティングはネットフリックスの文化はすべての企業に有効なわけではないと言います。例えば、安全が求められる厳格な管理が必要な業種には向いていません。イノベーションが求められる企業にのみ有効だと言います。また、イノベーション を推進したい企業であっても、一定の条件が揃わなければネットフリックスのやり方はできないと言います。それは、自律型の人材が自由に才能を発揮できる環境です。

    自律型の人材が自由に才能を発揮できる環境を作るためにネットフリックスがやったことは以下の三つです。

    • 才能の密度を高める(talent dencity)
    • 率直なフィードバックを推奨(increase candor)
    • 管理をなくす(remove control)

    自律的に動いてもらうには、管理を無くさないといけない。考えてみれば当たり前のことなのですが、これがなかなか難しい。

    まず、「才能の密度を高める」は優秀な人材を集めるという意味です。優秀な人材であれば、あまり管理は必要がない。ルールやプロセスはあまり優秀ではない社員のために必要というロジックです。優秀な人材を引き付けるために、市場で最高値のサラリー水準です。しかも、月収(基本給)が高い。ボーナス(成果報酬)ではなく。海外企業では成果を出した人ほど収入が高くなる成果報酬型が多いのですが、リード・ヘイスティングはクリエイティブな仕事に成果報酬はそぐわないと言います。だって、成功するとは限らないですからね。成果ベースのサラリーではなく、市場ベースのサラリーはすごく珍しいと思います。

    次に、「率直なフィードバック」です。優秀な人間が集まれば、お互いのフィードバックでお互いが成長できるはず。しかし、これも難しい。単なる批判になってはいけない。そこで、ネットフリックスでは率直なフィードバックのための4Aガイドラインがあります。

    1. Aim to assist(フィードバックをする場合は、相手のためになることを)
    2. Actionable(フィードバックは相手が行動が取れることを)

    3. Appreciate(フィードバックを受けた人は感謝すること)

    4. Accept or discard(受け入れるか、受け入れないかは相手に委ねる)

    このフィードバックも「率直さ」が大事なのですが「横柄」ではいけません。嫌なやつをJerkと言いますが、Jerkはちゃんと取り除かないといけない。英語でよくWeeds outと言ったりします。雑草摘みという意味。

    ここまでやって、ようやく「管理をなくす」ことができます。ネットフリックスもいきなりすべてのルールや管理を廃止したわけではありません。まずは簡単な休暇規則から廃止しました。ネットフリックスでは休暇の制限がないので、好きなだけ休暇をとって構いません。一ヶ月休んでもいい。でも、それでちゃんと会社として大丈夫なの?って思いますよね。もちろん、大丈夫じゃなかった。

    まず、トップからちゃんと有言実行で長い休暇を取らないといけない。そして、休暇でどれだけリフレッシュできたかを多く語らないといけない。休暇が自由に取れる雰囲気を作らないといけない。休暇をみんなが取るようになると、仕事に支障をきたすケースが出てくる。そこで登場するのが本書での重要コンセプトである「コンテキスト」です。社員に「コンテキスト」を理解してもらうのが重要。会社のためを考え、他人のゴールも尊重する。その上であれば、どれだけ休んでも構わない。ルールとコンテキストは違います。ルールは明文化した明示的なルール。コンテキストはネットフリックスの求める規範に近い。

    そして、続いて経費のルールをなくし、上司の承認プロセスも無くします。自分で判断して、自分で決定しなさい。まさに会社のためとなるのであれば、自律的に動いて構いませんということです。この「会社のためとなるのであれば」がコンテキストです。経費も裏ではチェックされているし、プライベートで乱用していれば当然解雇されます。解雇された場合は、ちゃんとその理由を周りにも説明する。これが「コンテキスト」を社内に広め、定着する効果があります。

    これらルールがないことは、市場でも最も評価されているネットフリックスの「福利厚生」で、高額なサラリーに加えて優秀な人材を引き付ける要因となっているそうです。「日本企業では無理だよ」というのは簡単です。ネットフリックスだって相当苦労してここまで持ってきたんですから。難しいことを成し遂げるからこそ、数少ない成長企業になれるんですよね。みんなができる簡単なことばかりやっていたら、こうはならない。

    ネットフリックスの考え方はベースキャンプに似ていますが、本質はかなり違います。ベースキャンプも優秀な人たちだけが集まって、ルールなしで、自律的に働いています。ネットフリックスもベースキャンプも顧客価値を第一に考える企業です。違うのは成長に対する考え方ですね。ネットフリックスは急成長をよしとして、ベースキャンプは成長はそれほど重要視していない。コストがカバーできる売り上げを持続的に得られればいい。持続性重視。

    NO HARD WORK!: 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方

    NO HARD WORK!: 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方

    • 作者:ジェイソン フリード,デイヴィッド ハイネマイヤー ハンソン,Jason Fried,David Heinemeier Hansson
    • 発売日: 2019/01/22
    • メディア: 単行本(ソフトカバー)

     一方で、ネットフリックスのやり方には批判もあります。ダン・リオンズは著書”Lab Rats”でネットフリックスの成長至上主義はヒトをモノのように扱うことにつながっていると批判しています。ただ、これは株式公開している企業であれば、ある程度仕方がないことだと思うんですよね。ベースキャンプは自己資本で株式公開していないから好きなスタイルを貫くことができる。ネットフリックスはそうはいかない。

    おそらく、リード・ヘイスティングもそのような批判があるのはわかっているのでしょう。ネットフリックスではPIP(業務改善プログラム)をやっていないと本書でも解説しています。PIPはパフォーマンスが悪いヒトに改善機会を与えるとともに、企業の訴訟リスクを軽減するためにあります。そんなことは無駄なので、退職金をたっぷり出して訴えないと一筆入れさせた方がいいとリード・ヘイスティングはいいます。なんか、どことなく「面倒なことは金で解決すべし!」という感じがいろんなところで見え隠れします。多少のコストがかかっても、社員が自律的に創造的な仕事ができればそれでいい。それはそれで一貫性のある素晴らしい考え方だとも思います。それって成長してるからできるんっすよ……と思わなくもないが。

  • 書評|ラガードのためのイノベーション 入門|”The Future is Faster Than You Think” by Peter Diamandis

    書評|ラガードのためのイノベーション 入門|”The Future is Faster Than You Think” by Peter Diamandis

    イノベーター理論はイノベーションがどのように波及していくか説明しています。最初にイノベーターと言われるアンテナの感度がよくって、新しいものにすぐ飛びつく人たちがいて、次にアーリーアダプターに伝播します。そして、最後に渋々受け入れるのがラガードに属する人たち。

    今回紹介する書籍”The Future Is Faster Than You Think”を書いたピーター・ディアマンディスはラガードのためのイノベーションの語り手なんだと思います。アンテナの感度が高い人はむしろ知らないんじゃないかなあ、TED Talkにも出ているにもかかわらず。

    ピーター・ディアマンディスは国際宇宙大学や東京にもチャプターがあるシンギュラリティ大学を設立したり、いろんな企業とコラボレーションして懸賞金付きのコンペを実施するXプライズ財団を運営しています。日本だとANAが一緒にやりましたね。なんか、胡散臭さを感じてしまうのはボクだけでしょうか?まあ、「○○大学」とか「××塾」とか「△△サロン」とか、日本にも売名と集金マシ(ry

    そんな彼の3冊目の書籍がこちらとなります。

    The Future Is Faster Than You Think: How Converging Technologies Are Transforming Business, Industries, and Our Lives (Exponential Technology Series)

    The Future Is Faster Than You Think: How Converging Technologies Are Transforming Business, Industries, and Our Lives (Exponential Technology Series)

    • 作者:Peter H. Diamandis,Steven Kotler
    • 出版社/メーカー: Simon & Schuster
    • 発売日: 2020/01/28
    • メディア: ペーパーバック

    この本は車の自動運転や空飛ぶ車のような移動手段から、人工臓器などなど最近のイノベーションの動向を伝えます。そこそこ感度がいい人ならすでに知ってることばかりですが。

    こういったイノベーションはどうやって生まれるのか?ピーター・ディアマンディスは「コンバージェンス(=複数の事象が一点に集中すること)」がカギだと言います。イノベーション は一つのブレイクスルーだけでなく、複数のブレイクスルーが同時期に発生して起きると言います。あれ?なんか聞いたことありますね。そうです、スティーブン・ジョンソンが言うところの「隣接可能性」ですね。『イノベーション のアイデアを生み出す七つの法則』は2010年にアメリカで出版されているので、10年前にすでに言われていたことですね。

    イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則

    イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則

    • 作者:スティーブン・ジョンソン
    • 出版社/メーカー: 日経BP
    • 発売日: 2013/08/08
    • メディア: 単行本

    第二部では、イノベーションがいかに既存の業界にインパクトを与えているかを解説します。いわゆる「ディスラプション」ですね。流通(Amazon)やエンターテイメント(Netflix)、広告(GoogleやFacebook)などなど。これも、まあ、うーん、いまさら?これがベストセラーになるのも、またアメリカなんだなあ。

    この本はどんな人にオススメか

    イノベーションとかよくわからないけど、社会人の常識程度には知っていたいなあという人にオススメです。Webメディアは普段あまり読まないけど、書籍だったら読む人とか。なんか、2020年1月はワクワクする本があまり出てこなかったなあ。

  • 書評|ベン・ホロウィッツの期待の新著は企業文化について|”What You Do Is Who You Are” by Ben Horowitz

    書評|ベン・ホロウィッツの期待の新著は企業文化について|”What You Do Is Who You Are” by Ben Horowitz

    ベン・ホロウィッツの前著『HARD THINGS』は自らのスタートアップで出会った困難を赤裸々に描き、多くの人に絶賛されました。すごくいい本ですので、スタートアップや経営に興味がある人にはオススメします。そのベン・ホロウィッツの二作目なのですから、期待が高まってハードルが上がってしまいます。

    新著”What You Do Is Who You Are”は企業文化に関する本です。『HARD THINGS』でも企業文化について少し触れられていました。「創業者の行動が企業文化を決める」みたいな感じでしたよね。行動したこと、行動しなかったこと両方が価値観を規定する。今回はそこをさらに掘り下げています。

    HARD THINGS

    HARD THINGS

    What You Do Is Who You Are: How to Create Your Business Culture (English Edition)

    What You Do Is Who You Are: How to Create Your Business Culture (English Edition)

    ベン・ホロウィッツはとても現実主義者ですので、文化に過度の期待を抱かないよう警告します。よい文化が成功に導くわけではない。よい文化だから営業パイプラインが増えるわけではない。悪い文化でも成功することもある。よい文化はよい結果に結びつく可能性があるだけ。それでも長期的な成功を望むのであれば、よい文化を作り上げるのは大切ですよと説きます。

    本書は歴史から企業文化の作り方を学ぶ構成となっています。例外的にMITメディアラボのシャカ・センゴーが現代を代表して紹介されています。まず、歴史の紹介があって、次にそれがどのように現在の企業に当てはまるのかを解説しています。ハイチを独立へ導いた一人であるトゥーサン・ルーヴェルチュールや、日本の武士道、モンゴルのチンギス・ハーンが取り上げられています。日本の武士道は新渡戸稲造の『武士道』ではなく、「死ぬ事と見付たり」で有名な『葉隠』などオリジナルに近い文献から多く引用されているのがすごい。

    新校訂 全訳注 葉隠 (上) (講談社学術文庫)

    新校訂 全訳注 葉隠 (上) (講談社学術文庫)

     

    一番印象に残っているのはトゥーサン・ルーヴェルチュールでした。トゥーサン・ルーヴェルチュールが文化を規定する上で行ったことが7つあって、それがなかなか興味深かったです。覚えてもらうためにちょっとショッキングなルールを作るとか、ドレスコードを守るとか面白いですね。でも、確かにそうかもと思いました。

    一番納得だったのは「明示的に倫理を守る」です。これはボクがマイクロソフトにいたから特にそう思うのかもしれません。倫理なく競争に勝つことだけを求めたら、勝てるかもしれません。マイクロソフトもそうでしたし、ウーバーもそうでした。でも、倫理がなければ最終的には破滅してしまいます。マイクロソフトはそれこそ手厳しくハードに学びましたし、ウーバーも学んでいる最中でしょう。

    この本はどんな人にオススメか

    すごく歴史とヒップホップが好きなんだなーというのは伝わりました。特に武士道に関しては只者じゃないです。ボクもそんなに知らなかったですもの。いっそのこと、歴史書を書いたらいいのに!

    内容的には、うーん、期待が高かった分、肩透かしを食った感じです。語り足りなかったのかもしれませんが、『HARD THINGS』で語り尽くした感はあるんですよね。『HARD THINGS』をまだ読んでない人はまず『HARD THINGS』をオススメします。『HARD THINGS』を読んで、「まだ足りない!おかわり!」という人には”What You Do Is Who You Are”もオススメかもしれません。

  • 『Framing John DeLorean』映画レビュー|「80年代のイーロン・マスク」を描くメタなドキュメンタリー

    『Framing John DeLorean』映画レビュー|「80年代のイーロン・マスク」を描くメタなドキュメンタリー

    デロリアンといえば映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』に登場するタイムマシンに改造されたスポーツカーですね。実際のモデル名はDMC-12です。作った会社はデロリアン・モーター・カンパニー(DeLorean Motor Company)で、その創業者がジョン・デロリアン。今回紹介する映画”Framing John DeLorean”の主人公です。まだ日本では公開予定はないっぽいですね(2019年12月7日公開予定の『ジョン・デロリアン』は”Driven”という別の映画)。

    “Framing John DeLorean”は再現シーンを役者が演じつつ、関係者のインタビューを交えたドキュメンタリーです。再現シーンの撮影風景や、役者がジョン・デロリアンや当時の妻のクリスティーナの心境がどうであったか想像したりしています。以前に紹介した『ローリング・サンダー・レヴュー:マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説』もそうでしたが、最近のドキュメンタリーって現実と虚構を織り交ぜたりするのが流行ってるんですかね。

    この映画ではジョン・デロリアンの様々な側面を描き出そうとしています。ジョン・デロリアンはとても派手で目立つ人だったので、まずはパブリックイメージをそのまま切りとります。そして、会社の設立と逮捕。そして、破綻。様々なイベントを通じてジョン・デロリアンの様々な側面を描き出します。ヒーローなのかヴィランなのか?

    当時の世界最大の自動車会社であるGMの異端児。ポンティアック部門の責任者として大きなエンジンをついたセクシーなポンティアックGTOを1964年に世に送り出したのがジョン・デロリアンでした。映画『ワイルドスピード』シリーズで主人公のドミニクが乗っているダッジ・チャージャー(1966年)や映画『グラン・トリノ』に出てくる1972年式のフォード・トリノのようなマッスルカーブームの先駆けでした。

    初期のマッスルカー市場を牽引していたのがビッグ3の中でも若いクライスラー。今でもある300レターシリーズです。ヘミエンジンを開発してパワー競争を仕掛けます。イケイケでロックンロールな1950年代。それに比べるとGMはおとなしいイメージでした。それまでGMは350インチ以上のエンジンを中型車に搭載することを禁じていましたが、既存のテンペストのオプション装備だとして役員の承認プロセスを回避してGTOには389インチのV8エンジンを搭載させました。これがマッスルカーブームの一般への広がりのきっかけとなりました。日産のスカイラインGT-R(1969年)や前身であるスカイラインGT-B(1965年)もその影響がありましたよね。

    自分のやりたいことのための抜け道を見つけるのがジョン・デロリアン。「無理を通して道理を蹴っ飛ばす」グレンラガンの口上を地で行った人。さらに時代の流れを読んで、適切なプロダクトをリリース。ポンティアックのほか、同じGMグループのシボレーでも実績を出しました。時代はデロリアンに味方していた。

    テスラのイーロン・マスクも派手な人ですが、ジョン・デロリアンも負けず劣らず派手でした。週末をカリフォルニアで過ごし、もみあげを伸ばし、顔の輪郭を男らしくするために整形手術をしました。いろんな女性と浮世を流し、当時19歳のブロンドと再婚しました(すぐに離婚して、トップモデルのクリスティーナと再婚)。テレビのインタビューではセックスは自分のドライブだと公言していました。ロックスターですね。

    若くして実績を出し続け、GMの社内でも出世していきました。しかし、極彩色のデロリアンは無色が好まれるGMのエグゼクティブには疎まれる存在でした。GM社内で浮きまくっていた。デロリアンを押さえつけようとする他のエグゼクティブ達と確執が生まれました。デロリアンはそれをメディアにリークしてしまいます。GMの品質について痛烈に批判。役員の責任を追求。その結果、ジョン・デロリアンは1973年にGMを追放されます。

    GMを追放されたジョン・デロリアンはフェラーリやランボルギーニではない大衆のためのスポーツカーを世に送り出すためにデロリアン・モーター・カンパニー(DMC)を創業します。パートナーはエンジニアのビル・コリンズ。DMC以前、最後の自動車スタートアップは1920年代のクライスラーでした。石油もデータセンターもスタートアップには向きませんが、自動車会社もスタートアップには向きません。それなりにテスラを軌道に乗せているイーロン・マスクってすごいんですよ。クライスラーも幾度と倒産を乗り越えてきましたし、DMCも最終的には破綻してしまいます。そして、この破綻はジョン・デロリアンにとっても家族にとっても決定的なものでした。

    デロリアンは政府の補助金を期待して紛争真っ只中の北アイルランドに工場を建設を決めます。U2も『ブラディ・サンデー』歌いましたよね。当時はDMC-12のプロトタイプしかない状態。北アイルランドには自動車工場のインフラもなく、経験のない労働者しかいない。しかも、2年で大量生産を開始しないといけない。そこで、コーリン・チャップマン率いるロータスとパートナーシップを組むことにします。 テスラのプロトタイプもロータス・エリーゼでしたが、自動車スタートアップにとってロータスって組みやすいんですかね?ロータスとのパートナーシップに伴いビル・コリンズをはじめ、アメリカのエンジニアチームは解散。しかし、このパートナーシップが最終的にはデロリアンの破滅につながります。

    なんとか5000台を出荷することに成功しますが、最初のロットは品質問題だらけでした。経済状況も悪かった。新自由主義を標榜するマーガレット・サッチャーが首相になったことで政局も変わった。政府からの補助金は期待できなくなった。デロリアンは資金がショートする寸前まで追い詰められます。そして、ロナルド・レーガンが大統領になって麻薬との戦争をはじめます。

    レーガンのために実績を上げたいFBIは内通者を使って資金調達に躍起になっていたジョン・デロリアンをコカイン取引による資金調達スキームにハメます。おとり捜査どころかFBIが事件化するためにデロリアンを様々な手を使って誘導していきました。そして、ジョン・デロリアンは逮捕されてしまいます。これで資金調達のめどが立たなくなったデロリアン・モーター・カンパニー(DeLorean Motor Company)は破産します。ジョン・デロリアンはFBIの手法があまりにもひどいので、無罪を勝ち取るのですが、時すでに遅し。無罪だったのに、会社を失い、家族も失います。でも、本当に無罪だった?

    これで終わりません。コーリン・チャップマンとのパートナーシップで不正が発覚します。投資を受けた中から1700万ドルを二人で着服していたことが発覚します。盟友ビル・コリンズを会社から追い出したのも、ビル・コリンズがこのスキームに気づいたからでした。自動車業界のスーパースターとしての顔、父親としての顔、夫としての顔、お金のためなら友人も裏切る顔。これらすべてがジョン・デロリアンでした。

    こんな感じで、映画の内容としてはすでにWikipediaでも書かれていることです。特に新しい事実はありません。ジョン・デロリアンは彼と関わった今を生きる人たちにも影響を与え続けているんですよね。元従業員や関係者、子供達へのインタビューでデロリアンが亡くなった後も影響を与え続けていることがわかります。離婚していち早く自分の道を見つけることができたクリスティーナは強い人だったんだなあ。それにしても、ジョン・デロリアンのような強烈な個性と行動力を持った人でも、時代には抗えない。小型化と省エネと新自由主義の時代についていけなかった。新しいセクシーなスポーツカーの時代。イーロン・マスクは時代に愛され続けますかね?

  • 書評|データとプライバシーにまつわる企業と政府の関係|”Tools and Weapons” by Brad Smith

    書評|データとプライバシーにまつわる企業と政府の関係|”Tools and Weapons” by Brad Smith

    楽しみにしていたエドワード・スノーデンの自伝”Permanent Record”があまりにそのまま「自伝」で肩透かしにあってしまいました。核心部分だけ知りたい人は映画『スノーデン』を観れば十分でしょう。”Permanent Record”はスノーデン個人にとても興味ある人向け。まあ、印税が入ることで少しでも彼の生活の助けになればとは思います。

    “Permanent Record“がハックした側(政府)の告白だとすれば、ハックされた側(テック企業)が何を考えて、どのような行動をしたのかがわかるのがマイクロソフトの法務担当のプレジデントであるブラッド・スミスの著書“Tools and Weapons”です。

    Tools and Weapons: The Promise and The Peril of the Digital Age (English Edition)

    Tools and Weapons: The Promise and The Peril of the Digital Age (English Edition)

    Permanent Record

    Permanent Record

    ボク自身、司法省との裁判の頃、マイクロソフトに所属していました。ブラッド・スミスは前面に立って様々なメッセージを社内外に向けて発信していました。企業に所属する法律家で世界的に最も有名な一人ですし、大企業を代表して企業と政府の関係性を作ってきた人です。

    「データは新しい石油」だと言われます。世の中にはスタートアップに適したビジネスとそうでないビジネスがあります。石油業なんて代表的なスタートアップに適さないビジネスですね。莫大な資本が必要となります。AWS、AzureやGCPのようなクラウド業も同様にスタートアップに向きません(DigitalOceanという例外はありますが)。データセンターの構築には多額の投資が必要となるからです。どれだけベンチャーキャピタルがお金を集めても足りません。

    スノーデンの衝撃

    データセンターの運用にお金がかかるのは単にサーバーの調達費用や運用コストだけではなく、セキュリティーにも細心の注意を払わなければいけないからです。“Tools and Weapons”の序盤ではマイクロソフトがどれだけセキュリティーに注意を払っているのか解説されています。

    アメリカ政府がグーグル、フェイスブック、マイクロソフトなどのテック企業のデータを使って監視しているというスノーデンの告発は世界に衝撃を与えました。そして、その告発はデータセンターを運用している企業にとっても衝撃でした。少なくともマイクロソフトは政府にそのようなデータを提供していない。なぜそんなことが起きるのか?マイクロソフトの見解としてはデータセンターの外にある通信ケーブルをタッピングされていた可能性が高いそうです。データセンターのセキュリティーは守っていたが、データセンターの外の通信までは考慮が足りていなかった。多くのテック企業はスノーデン後に全ての通信を暗号化することに決めました。

    ブラッド・スミスは言います。

    「スノーデンがヒーローなのか裏切り者なのか、人によって見方は違う。ただ一つ言えることは、スノーデンは世界を変えた。そして、スノーデンは自分たち(テクノロジー会社)も変えた」

    データとプライバシーをめぐる政府との駆け引き

    “Tools and Weapons”では利用者データをめぐる政府との関係を詳しく解説しています。データは企業にとって確かに新しい石油であり、利益の源泉です。しかし、データはユーザーの持ち物であり、データセンター運営者はその管理者でしかない。少なくともマイクロソフトはそう考えています。ちなみに、マイクロソフトのAzureでAI関連のサービスを使ったとします。AIにとって学習データはとても重要です。Azureでは学習データは開発者が所有します。グーグルのGCPの場合、グーグルが所有します。データの所有に関する考え方はテック企業共通のコンセンサスってないので注意が必要です。

    基本的人権はアメリカ合衆国憲法を補完する権利章典(Bill of Rights)の中でを規定されています。マイクロソフトは個人データを守るのは基本的人権だと考えています。権利章典の修正第4条(Fourth Amendment)で基本的人権である個人の所有物に関する政府の捜査・押収について規定されています。

    アメリカ政府はデータセンター運用会社にデータを請求することができます。無条件にできるわけではなく、特定の用途のために特定の手続きが必要となります。それを定めている法律の一つが外国情報監視法です。外国情報活動監視裁判所(FISC:United States Foreign Intelligence Surveillance Court)の令状が必要になります。

    では、データ公開を誰に請求するのか?マイクロソフトの立場はデータはユーザーのモノです。政府はデータセンター運用会社であるマイクロソフトではなく、まずユーザーに許可を得る必要があるというのがマイクロソフトの考え方です。しかし、政府はそれをユーザーに知られたくない。そこで口外禁止令(Gag Order)を発行します。ユーザーの権利を守るためにマイクロソフトは司法省を提訴します。個人情報を守るのは基本的人権の一つで、政府は口外禁止令を乱用しすぎですよと。

    もちろん、企業の社会的責任として国家安全のために協力をしなければいけません。ウォールストリート・ジャーナル記者のダニエル・パール誘拐殺人事件では犯人がマイクロソフトのメールサービスを利用していたことからFBIの捜査に協力しました。しかし、同時に時代にあったルールも必要だとブラッド・スミスは考えています。電子データのプライバシーに関する法律の一つが電子通信プライバシー法(ECPA)ですが、ブラッド・スミスはこれも時代にあった改善が必要だと訴えています。

    国をまたがるデータ

    マイクロソフトのような巨大サービスを運営している企業にとって、ユーザーはアメリカだけでなく世界中に広がっています。データセンターもアメリカだけではなく、世界中にあります。データはアメリカの政府だけでなく、各国の政府から提供を要請されます。そのため、マイクロソフトはデータセンターをどこに置くかも慎重に検討しなければいけません。単に安いとか、運用しやすいだけが判断基準ではなく、基本的人権を守れるかどうかも重要な判断基準となります。アイルランドはデータセンター拠点として人気があります。税制のメリットが受けられますし、気候もデータセンターに適しています。それだけでなく、データの扱いに関する法律がマイクロソフトの考え方に合致していることが大きかったとブラッド・スミスは振り返ります。

    国をまたがったデータの取引協定に刑事共助条約があります。しかし、強制力があるものでもないし、完璧でもありません。シャルリー・エブド襲撃事件など迅速に政府と企業が協力体制(マイクロソフトは45分で情報提供要請に応える)を組めることもありますし、個人データの提供をめぐりブラジルでマイクロソフトの役員が逮捕されることもあります。

    この本はどのような人にオススメか

    監視資本主義の時代だと言われています。個人データは誰のものなのか?フェイスブックやグーグルなどデータを独占する企業が独禁法違反の疑いで捜査を受けています。データに関してはテック企業と政府だけでなく、ユーザーの権利も関わってくるのでなかなか複雑です。それを知る上でも”Tools and Weapons”は適切なテキストと言えます。

    いまは私たちのプライバシーを守る法律は整備されている状態ではありません。企業と政府が試行錯誤をしている状態です。当然ながら企業の間でもコンセンサスがないため、それぞれの企業の理念に基づいてバラバラに行動しています。そんな中でもアップルやマイクロソフトはプライバシーに関してはユーザー寄りに立っていると言われています。ユーザーが自衛できるのは使うテック企業を選ぶだけです。メディアリテラシーも必要ですが、いまはプライバシーリテラシーも必要な時代なんだと思います。そういう上でも、本書はとてもオススメです。

  • 書評|アメリカ新自由主義の象徴であるコーク兄弟はいかに富を築いたか?|”Kochland” by Christopher Leonard

    書評|アメリカ新自由主義の象徴であるコーク兄弟はいかに富を築いたか?|”Kochland” by Christopher Leonard

    アメリカのお金持ちといえばビル・ゲイツやウォーレン・バフェット、最近だとアマゾンのジェフ・ベゾスを思い浮かべる人が多いと思います。チャールズ・コークとデイビット・コークのコーク兄弟を思い浮かべる人は少ない(世界長者番付でそれぞれ八位と九位)ですよね。これはコーク兄弟が代表するのが石油化学などのオールドマネーで、彼らの中心企業であるコーク・インダストリーズが非上場企業だからだと思います。

    しかしながら、彼らの政治への影響力は無視できないレベルまで高まってきています。アメリカがパリ協定を脱退したり、温暖化を否定するのはコーク兄弟を中心とするアメリカのオールドマネー勢のロビー活動の力が大きく働いているからです。

    今回紹介する”Kochland”を理解するには現在のアメリカの新自由主義の台頭と政治システムを理解する必要があります。トランプ政権の誕生は衝撃的でしたが、それも現在の大きな流れから生まれた現象のひとつでしかありません。

    Kochland

    Kochland

    本書の書評に入る前に、まずは簡単にアメリカの政治に関する現状を解説します。

    管理から自由へのなだらかなシフト

    中国は共産党の一党独裁の中央集約的なシステムです。一方、アメリカは権力がバランスよく分散されて、分散的なシステムだと一般的には認識されています。具体的には政府の干渉が少ない自由市場にゆだねる「小さな政府」共和党と、政府が自由市場を尊重しつつも、政府として公平性を保つ「大きな政府」民主党がシーソーのように政権を担うことによってバランスをとっています。自由と管理のシーソーゲームです。レッセ・フェールからニューディールと時代に合わせ、公平で民主的な選挙により、アメリカが「極端な自由」や「極端な管理」に振れすぎないようになっていました。

    ニューディール以後、80年代の米レーガン・英サッチャーから時代は「自由」の方向に現在まで振れ続けます。これがシカゴ学派を代表とする新自由主義の流れです。クリントン、オバマの民主党政権の時も比較的「大きな政府」ではありましたが、市場にゆだねる自由の流れに逆らうようなことはしませんでした。それでもオバマ大統領時代は民主党が行政だけでなく、議会も民主党が過半数を制したため、オバマケアなど社会保障が充実した時期でした。しかし、この「オバマショック」で目を覚ましてしまったのがコーク兄弟をはじめとする完全自由主義者であるリバタリアン達でした。

    自由が増えると格差も増える

    自由という言葉は響きはいいのですが、すべてを市場の自由に委ねていると格差が広がります。経済は成長するのですが、格差も広がる。痛し痒しの関係です。格差問題に関してはアナンド・ギリダラダスの”Winners Take All”でも解説されていますし、ティム・ウーの”The Curse of Bigness”も格差が前提にあっての独占禁止法の無力化への批判でした。

    ビル・マッキベンの”Falter”ローレンス・レッシグの”America, Compromised”でも指摘されていますが、市場主義を政治に持ち込もうとする勢力が台頭しつつあります。政治の市場主義とは、つまり、お金の力で政治をコントロールするという意味です。払う税金の額によって投票の重み付けをすべきとか。金持ちの票が貧乏人の票より重い。

    コーク兄弟は秘密結社の親玉か?

    メディアアーティスト落合陽一さんのお父様の落合信彦さんはアメリカの軍産複合体の脅威を叫んでいましたが(あ、今でも叫んでいますね)、なんか陰謀説っぽかったですよね。人は見えないものを恐れます。しかし、実際に内情を覗いてみれば、見えない力が暗躍しているというよりは、普通の企業が企業努力として政治に影響を与えようとしているだけだったりします。単に利益追及も過ぎると犯罪になる。ただそれだけのことなのですが、その単純さがむしろ恐ろしい。

    コーク兄弟の政治干渉とその影響力の大きさに関しては、すでにジェイン・メイヤー著『ダーク・マネー』やダニエル・シュルマン著『アメリカの真の支配者 コーク一族』で詳しく解説されています。いわゆるロビー活動だけではなく、ヘリテージ財団ケイトー研究所などのシンクタンクを通じて政策に影響を与える活動をします。

    コーク兄弟のネットワークにいる富裕層の多くは「インビジブルリッチ」と呼ばれるプライベート企業のオーナーです。リバタリアンで、干渉を嫌い、株式上場しません。コーク・インダストリーズも同じですね。リバタリアンで政府の干渉を嫌うという共通点はありますが、一枚岩というわけではありませんし、万能の力を持っているわけでもありません。事実、彼らはドナルド・トランプを支持していませんでしたが、トランプは大統領選で勝ってしまいました。議会には息のかかった政治家をたくさん送り込んでいるでしょうけどね。

    ダーク・マネー

    ダーク・マネー

    アメリカの真の支配者 コーク一族

    アメリカの真の支配者 コーク一族

     

    で、ここまでが本書”Kochland”を正しく理解するための前提知識です。あー、長かった。

    そもそもなんでこんなに成功した?

    “Kochland”はいわゆる政治の黒幕としてのコーク兄弟ではなく、成功した実業家としてのコーク兄弟に光を当てています。そもそも、なんでこんなに儲かってるの?コーク・インダストリーズの年間売り上げはフェイスブック、ゴールドマンサックス、USスチールを合わせたより大きいです。チャールズとデビッドのコーク兄弟はこの80%の株式を所有していました(デビット・コークは2019年8月に亡くなったので、今はその家族)。二人合わせた資産価値は1200億ドル(約13兆円)にものぼりました。これはアマゾン創業者ジェフ・ベゾスやマイクロソフト創業者ビル・ゲイツより多い額です。破壊的なイノベーションではなく、長い時間をかけて積み上げてきた富です。この長いプロセスを理解しようというのが本書”Kochland”の趣旨です。

    まず、コーク・インダストリーズはどういう会社なのかを簡単に解説します。石油はエクソンやシェルなどのオイルメジャーが原油を採掘します。採掘された原油はそのままでは使えないので、ガソリンやプラスチックのような商品になる前に精製しなければいけません。そのために採掘場から精製場に運ばなければいけません。それがタンカーやパイプラインです。コーク・インダストリーズはこのパイプラインをおさえていました。オイルメジャーですらコーク・インダストリーズを必要としていました。

    チャールズ・コークはもともと家業を引き継ぐことに積極的ではありませんでした。しかし、説得に負けて父親の会社に入社したのが1961年。父親の急死によりコーク・インダストリーズを引き継いだのが1964年でした。時代はニューディール真っ只中。ニューディールは今の新自由主義とは真逆の政府による強い管理を前面に押し出した政策でした。そんな中でも企業は自由を求めて様々な活動をします。コーク・インダストリーズの成功を簡単にまとめると以下に集約されるでしょう。

    コーク・インダストリーズは干渉を避けるために、なるべく目立たないように企業活動を行ってきました。それゆえに一般的にはあまり知られていなかったのですが、とても革新的な企業で、いまのスタートアップ的な手法を積極的に取り入れていました。ある意味、スタートアップでもありベンチャーキャピタルでもあり、金融機関でもあります。

    デリバティブにまで手を広げながらも、2008年の世界金融危機(いわゆるリーマンショック)ではValue At Risk Limit(VAR)でリスクの上限を設定していたため、他の金融機関と比べてダメージは少なかった方ですが、2000人のリストラを実施しました。それでも利益を出したってすごいですけどね。この時の戦略がコンタンゴ・ストレージ・プレイ(またはコンタンゴ操作)でした。これはコーク・インダストリーズが現物と先物の両方の取引をやっていたからです。

    悪名という名のイノベーションとディスラプション

    成長した理由だけを取り出してみると、とてもいい企業な印象を受けます。しかしながら、コーク・インダストリーズは一般的にはあまりいい印象を持たれていません。それは、貪欲な利益追求体質が様々な問題を引き起こしたからです。例えば、コーク・インダストリーズはいち早く労働組合の無力化に取り組みました。アメリカのミドルクラスは労働組合に参加する労働者でかなりの部分が構成されていました。工場で働いていても家を持ち、子供をいい学校に通わせることができました。コーク・インダストリーズが積極的に労働組合の無力化を行わずとも、ニューディールから新自由主義への変化の流れの中で、労働組合は無力化されたのだとは思います。

    そもそも、石油は儲かる商売です。パイプラインや精製場は大きな投資が必要なため、参入障壁が非常に高いビジネスでもあります。つまり、巨額の設備投資が必要になります。さらに石油に関わる施設は廃棄物や温暖化ガスを抑えるために、環境規制に準拠した施設を備える必要があります。コーク・インダストリーズは設備投資をおさえて利益を最大化するために、この規制の抜け道を見つけて環境規制関連法案を無力化することに熱心でした。

    また、利益を優先するために環境対策を怠り、大きな環境破壊の事件を起こしました。そのため1999年から2003年にかけて4億ドル以上の罰金を支払っています。コーク・インダストリーズでは利益の原動力である生産部門が強い力を持ち、環境担当などの間接部門はアドバイスしかできず、強制力を持ちませんでした。そのため、施設に問題があって環境問題が起きていても、生産が優先されて政府で定められている有害物質の排出量が守られていなくてもあらゆる方法でそれを隠し続けていました。また、採掘場から精油場に運ぶ時に過小評価をして実際に運んだ量より少ない量を申告していました。社員のモラル低下を招いたのがマーケット・ベースド・マネージメントだと考えられました。

    政治の介入を防ぎための政治への介入

    『ダーク・マネー』や『アメリカの真の支配者』ですでに解説されていますが、チャールズ・コークが政治への介入を表舞台に立ってはじめたのは民主党のオバマ政権が生まれてからです。政治が自由市場に介入するニューディール時代に戻るのではないかと危機感を感じました。特に地球温暖化が世界で問題となり、アメリカがパリ協定京都議定書に参加することに大きな不満を感じました。

    コーク・インダストリーが政治への影響力を発揮するために作り上げた仕組みは蛸の足のように多岐にわたるためコークトパスと呼ばれています。初期の取り組みは1996年に設立された、Economic Education Trustです。まず、この基金にお金を集めます。この基金自体は政治団体ではないため、資金提供者の開示義務がありません。ここからTriad Management Serviceに献金されます。Triad Management Serviceは特定の共和党議員に無償で様々なサービスを提供する団体でした。このほかにもAmerican Legislative Exchange Councilは保守派の州議員のための組織で、規制緩和を求める企業の多くが献金しています。

    この本はどんな人にオススメか

    まず、この本はとても重厚です。ページ数で704ページ、オーディオで23時間です。コーク・インダストリーズの歴史本なので、気になる章だけ読んでもあまり意味がありません。全体像が見えないからです。そのため、読むにはかなりの気合いが必要です。オーディオブックの早送り再生をしなければ、ボクもかなり時間がかかったと思います。それでも、経営に携わる人には強くオススメしたいです。

    コーク・インダストリーズの歴史を振り返ると、オリンパス事件東芝の不正会計三菱自動車の繰り返される不正体質などが頭をよぎります。リバタリアンは透明性を嫌いますが、透明性が低いとモラルも低下するのですね。新自由主義者が言うように、市場の方が官僚よりも効率的なのかもしれません。しかし、効率ばかりを求めてしまうと、その組織の視野でしか物事が見れず、環境や社会などより広い視野で判断できなくなります。

    コーク・インダストリーズを率いるチャールズ・コークも2019年現在で84歳。弟のデヴィッドも亡くなりましたし、彼自身もそろそろ引退時期です。コーク・インダストリーズの象徴であり、理念の柱であるチャールズ・コークがいなくなった時、コーク・インダストリーズはどのような方向へ進むのでしょうか。

    また、次のチャールズ・コークはどこから現れてもおかしくありません。ペイパル・ギャングの親玉ピーター・ティールなんてそうですよね。マーク・ザッカーバーグやラリー・ペイジが次のチャールズ・コークになる可能性だってあるのです。不正と利益の境界線はとても曖昧なのですから。

  • 書評|次の経営バズワード「フライホイール」|Turning the Flywheel by Jim Collins

    書評|次の経営バズワード「フライホイール」|Turning the Flywheel by Jim Collins

    おそらく、次の経営のバズワードとなるのが「フライホイール」です。アマゾンの成功の秘訣として有名になりつつあります。簡単に言えば、成功の循環サイクルです。フライホイールの名付けの親がアマゾンの戦略コンサルタントを務めていたジム・コリンズです。ジム・コリンズは『ビジョナリーカンパニー』シリーズで有名ですね。

    そのジム・コリンズが自らフライホイールを詳しく説明したのが”Turning the Flywheel”です。

    Turning the Flywheel: A Monograph to Accompany Good to Great (English Edition)

    Turning the Flywheel: A Monograph to Accompany Good to Great (English Edition)

    ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

    ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

    フライホイール自体はとても単純なコンセプトなので、非常にページ数が少ないです。パンフレットのようです。有名なアマゾンの他、インテルや自転車のヘルメットで有名なGIROが事例として紹介されています。インテルのようにメモリーからCPUへ商品が変わっても、フライホイールが変わっていない事例はなかなか興味深かったです。

    正直言えば『ビジョナリー・カンパニー』自体があまり好みではなく、斜に構えて読んでいた(聴いていた)のは否めません。あんな生存バイアスだらけの本を書いた人が、二匹目のドジョウを狙ったんでしょ?と。実際にそうだと思うんですけどね。ただ、まあ、サクッと読めるし、日本でも翻訳されて話題になるでしょうから、今から読んでおいてもいいかもしれません。

    この本は誰にオススメか

    経営企画の人にはオススメです。自社の強みを整理するのには便利なフレームワークだと思います。翻訳版がいつ出るかにもよりますが、半年後くらいには日本でも話題になってると思うので、今から読んで自慢してもいいかもしれません。でも、まあ、それくらいかなあ。