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  • 書評|ルービック・キューブ考案者が語る創造性とデザイン|”Cubed” by Ernő Rubik

    書評|ルービック・キューブ考案者が語る創造性とデザイン|”Cubed” by Ernő Rubik

    ルービック・キューブの考案者エルノ・ルービックの初書籍が今回紹介する”Cubed”です。ルービック・キューブが世に出てから40年以上経過しています。これまでに自伝とか出ていそうなものですが、この本がエルノ・ルービックが初めて書くの書籍。自分とその発明品であるルービック・キューブについて語ります。内容はUXデザイン、成功と失敗、プロフェッショナルとアマチュアなど非常に多岐にわたります。単純な「自伝」ではなく、とても知的好奇心を刺激してくれる良書でした(オーディオブックはScribedにあります)。

    Cubed: The Puzzle of Us All

    Cubed: The Puzzle of Us All

    • 作者:Rubik, Erno
    • 発売日: 2020/09/15
    • メディア: ハードカバー

    本書の構成は「自伝的な部分」と「考察的な部分」に分かれます。時系列的に「自伝的な部分」が全体の骨格を作るのですが、その間に「考察的な部分」が挿入されます。その時点で自分が考えたこと、その時点と現代のつながり。

    エルノ・ルービックは子供の頃からパズルが好きだったのだそうです。タングラム15パズルペントミノに夢中になったそうです。立体的なパズルとの最初の出会いは立体型のペントミノだったと振り返っています。また、ルービック・キューブ以前に立方体のパズルとしてはソーマキューブがあったそうです。内向的な性格だったのでパズルのような一人遊びが合っていたそうです。チェスもやったそうですが、誰かと対戦するゲームより、ナイト・ツアーのような一人遊びの方が好きだったそうです。勝ち負けとか興味がない。

    自分は全てにおいてアマチュアだとエルノ・ルービックは振り返っています。職業としてはずっと教師ですが、発明家として、建築家として、デザイナーとしてそれぞれにおいてアマチュアだと言います。プロフェッショナルはお金や評価など「外的動機づけ」が必要だけど、アマチュアは自分のやりたいことをやりたい「内的動機づけ」が重要になるとエルノ・ルービックは言います。ただ、アマチュアとプロフェッショナルの区切りも実は曖昧でスティーブ・ジョブズのような人はお金に興味はなく「内的動機づけ」に突き動かされたプロフェッショナルなんだろうと。白黒はっきり分かれるようなものではないだろうと言います。

    教師として専門にしていたのは図法幾何学で、ルービック・キューブのアイデアもここから発展していったそうです。エルノ・ルービックがすごいのは想像力だけが創造性ではないと理解しているところです。ちゃんと作れないといけない。ルービック・キューブのプロトタイプは木で作り、輪ゴムや釣り糸で試したそうです。最終的に私たちがしるあの構造までたどり着きます。ルービック・キューブを分解したことがある人ならわかると思いますが、あの構造はすごいですよね。よく一人で考えた。

    そして、アルノ・ルービックは根っこはデザイナーなんでしょうね。お父さんがグライダーを専門にした航空デザイナーだったのと同じで。あの形、あの重さ、あの大きさに至るまで試行錯誤します。スムースに動くことも重要。UXデザイナーでもありインタラクション・デザイナーでもあるんですよ。本書でもUXデザインの重要性について言及しています。

    さらに、このパズルがちゃんと自分で解けるのかも実証します。すごく難しかったそうです、作った本人にとっても。最初は1ヶ月かかったそうです。「すごく根を詰めて必死にパズルを解いた」といろんなところで書かれているそうなのですが、実際には仕事の合間に楽しみながら取り組んだそうです。ルービック・キューブを解くアプローチとして直感派とアルゴリズム派がいるそうなのですが、アルノ・ルービックは直感的なアプローチと論理的思考で解いたそうです。さらに商用化に向けた特許申請や製造、素材をどうするかなどなど。海外で販売するときの登録商標の問題など紹介されています。 

    アルノ・ルービックはお金も地位も名誉も興味がないそうです。だから今まで本も書かなかったんでしょうね。古い車をずっと乗っている。高級な食事や衣服にも興味がない。建築家でもあるので、自分の家を作るのが好きなんだそうです。それができるだけのお金があれば十分。そして、自分の好奇心を満たすことができればいい。だから、いろんなことに興味があるんですね。本書でもルービック・キューブを軸としてAIやシステム思考について思考を巡らしています。

    自伝というよりは、様々な考えをルービック・キューブを中心に語ったエッセーのような本です。ルービック・キューブの発明者が存命で、現代の技術や考え方と関わり合いを持ち続けていることが(大変失礼ながら)単純に驚きでしたし、その考察もとてもユニークだと感じました。なぜユニークなのかと言えば、それが借り物じゃないからなんですよね。エルノ・ルービックはとてもユニークなルービック・キューブを一人で作り上げた人なんですから。

  • 書評|「使いやすさ」の歴史と未来|”User Friendly” by Cliff Kuang

    書評|「使いやすさ」の歴史と未来|”User Friendly” by Cliff Kuang

    「デザインが大事」と言うのは言葉では簡単なんですが、実際にはとても難しいです。なぜ難しいのか?それは「なぜ大事なのか」のWHYの部分をまず理解しないといけないからです。そして「何が大事なのか」のWHATの部分を理解しないといけません。おそらくほとんどの人は感覚的にはわかってるんです。それは「スマホみたいに使えること」だと。でも、それをきちんと説明できない。例えば「ユーザーフレンドリー」ってどう言うことですか?

    その答えを出す仕事に取り組んだのがWebメディアのFast CompanyのデザインをリードしてCo.Designを立ち上げたクリフ・クァンです。今回紹介するクリフ・クァンの最初の書籍である”User Friendly”は元Frog Designのロバート・ファブリカントとの会話から生まれたそうで、ファブリカントもクレジットされています。

    「ユーザーフレンドリー」全史 世界と人間を変えてきた「使いやすいモノ」の法則

    「ユーザーフレンドリー」全史 世界と人間を変えてきた「使いやすいモノ」の法則

    • 作者:クリフ・クアン,ロバート・ファブリカント
    • 発売日: 2020/09/29
    • メディア: 単行本(ソフトカバー)
    User Friendly: How the Hidden Rules of Design are Changing the Way We Live, Work & Play (English Edition)

    User Friendly: How the Hidden Rules of Design are Changing the Way We Live, Work & Play (English Edition)

    • 作者:Cliff Kuang,Robert Fabricant
    • 出版社/メーカー: Virgin Digital
    • 発売日: 2019/11/07
    • メディア: Kindle版

    クリス・クアンはまず現在の「ユーザーフレンドリー」の定義からはじめます。

    使いやすさを表す言葉として「ユーザーフレンドリー」しか持ち合わせていないにも関わらず、何が「ユーザーフレンドリー」なのか数限られた専門家にしかわかりません。そして、多くのデザイナーの間の中でも「ユーザーフレンドリー」が議論されてはいますが、そもそもの成り立ちはデザイナーの中でもあまり知られていません。ユーザーフレンドリーとは単に問題を解決するだけでなく、問題を簡単に解決することです。

    そして、現在の「ユーザーフレンドリー=使いやすい」を定義したのはアップルです。もっと具体的に言えばiPhoneです。人間にコンピューターを学ばせるのではなく、コンピューターに人間を学ばせる。スマートフォン以降、全てスマートフォンのように使いやすいことが期待されるようになりました。コンピューターと現在のユーザーフレンドリーは密接な関係があります。

    初期のコンピューターにおけるユーザーフレンドリーの代表例に1960年代にIBMがメインフレームを使いやすくするために開発したAPL(A Programming Language)がありました。IBMにはロゴをデザインしたポール・ランド、イームズと並んで数々の優れたプロダクトをデザインしたエーロ・サーリネン、ボール形状の印字部品を使ったセレクトリックタイプライターをデザインしたエリオット・ノイズなど優れたデザイナーたちが所属していました。しかし、IBMはアップルにはなれませんでした。

    なぜIBMはアップルになれなかったのか?

    クリス・クアンは次に現在の「ユーザーフレンドリー」の歴史を紐解きます。

    UXの歴史はレオナルド・ダ・ビンチまで遡ることができますが、現在のUXの歴史はアメリカの大量生産の歴史と重なります。アメリカにはドイツのバウハウスやフランスではル・コルビュジエユニテ・ダビタシオンなど理論的な思想はありませんでした。しかし、1929年の大恐慌での経済的な必要性が「ユーザーフレンドリー」に向かわせました。その代表例が1927年から1931年まで生産されて大ヒットしたフォード・モデルAです。一般的に大量生産で有名なのはフォード・モデルTですよね。大恐慌以降の新しいパラダイムが「工業生産の美しさ」です。そして、この時期に工業デザインのビッグ4が生まれます。レイモンド・ローウィノーマン・ベル・ゲデスウォルター・ドーウィン・ティーグヘンリー・ドレイファスです。特にヘンリー・ドレイファスは後のUXにとって重要な仕事をします。

    ちなみに、ボクはヘンリー・ドレイファスの”Designing for People“と後述するドン・ノーマンの”Design for Everyday Things”を読んだことがない「デザイナー」はあまり信用しません。論理的な基盤なしに感覚的にやってるってことですから。

    The Design of Everyday Things: Revised and Expanded Edition (English Edition)

    The Design of Everyday Things: Revised and Expanded Edition (English Edition)

    • 作者:Don Norman
    • 出版社/メーカー: Basic Books
    • 発売日: 2013/11/05
    • メディア: Kindle版
    Designing for People (English Edition)

    Designing for People (English Edition)

    • 作者:Henry Dreyfuss
    • 出版社/メーカー: Allworth
    • 発売日: 2012/11/30
    • メディア: Kindle版

    ヘンリー・ドレイファスは当時の日用品に満足できませんでした。そして、日用品を改良するためにはその生産プロセスを理解する必要があると考えました。単に見た目がいいだけではダメ。改善するには、その改善を適用するためのコストを把握する必要もあると考えました。ヘンリー・ドレイファスにとってデザインは見た目ではなく、どのように作られ、何が可能になるのかまで含まれています。要点としては以下の二つにまとめることができます。

    1. 見た目をモダン化する
    2. 使い方を再定義する

    バウハウスも考え方は同じなのですが、理解できるエリート向けでした。ヘンリー・ドレイファスをはじめとする当時のアメリカのデザイナーたちは実用的でありマーケット志向でした。実際に電話機とかこの頃に再定義されたデザインは現在まで生きています。

    クリス・クアンによると「使いやすさ」のデザインがさらに次の段階に進んだのが第二次世界大戦でした。実際に第一世代の工業デザイナーのレイモンド・ローウィ、ノーマン・ベル・ゲデス、ウォルター・ドーウィン・ティーグ、ヘンリー・ドレイファスたちはアメリカ政府に招聘されて軍用品のデザインをします。さらにアルフォンス・チャパニスS・S・スティーヴンスを中心に人間中心デザインが生まれます。そもそも、なぜ飛行機は墜落するのか?飛行機の操縦が難しいから。それでは、なぜ飛行機の操縦は難しいのか?人が間違うことを「ヒューマンエラー」と言います。それを否定して使いにくいことは「デザインエラー」と再定義されました。人間工学に基づくエルゴノミック・デザインの基礎はこの時期に確立されます。ヘンリー・ドレイファスは戦車のコクピットのデザインの経験を活かして人間中心のデザイン手法の一つであるペルソナの原型である“Joe”と”Josephine”を生み出しました。この辺もUXのオリジネーターであるダ・ヴィンチの影響を受けていますよね。

    そして、スリーマイル島原子力発電所事故です。アップルにデザイン文化を植え付ける決定的な仕事をしたのは先に触れた”Design for Everyday Things”の著者ドン・ノーマンです。ドン・ノーマンはアップルでUXプロフェッショナルと呼ばれる人たちを育てます。その一人がジョニー・アイブです。そして、ドン・ノーマンはスリーマイル島事故の調査チームの一員でした。ノーマンの分析によると、スリーマイル島の原子力発電所は技術的な課題を優先して、そこで働く人たちを考慮に入れなかったことだそうです。コントロールルームのデザインは後回しにされ、何か工夫をする時間も余裕もなかった。例えば、原子炉は常に「第一」と「第二」の二つペアで作られます。しかし、コントロールルームはひとつしか作られませんでした。一つ作って、その鏡面イメージをもう一つ作った方が安上がりだと考えました。エンジニアは全く逆の配置の二つのコントロールルームで仕事をしなければいけませんでした。

    1100のメーターと500以上のアラーム。コントロールパネルの色だけを見ても、「赤」が14の異なる意味を持ち、「緑」が11の異なる意味を持っていました。人間と機械が分かり合う共通言語の不足。ボタンやサインの配置にも特に意味がありませんでした。

    ここまでがこの本の前半。

    最初の疑問である「なぜIBMはアップルになれなかったのか?」ですが、答えは「アップルにはUXの歴史を踏まえた上で組織に実装してくれるドン・ノーマンがいたから」になるんだと思います。日本でも「ユーザーフレンドリー」の重要性は十分に理解されているにもかかわらず、デザインがなかなか組織に浸透しません。多分、日本にはUXの歴史を踏まえた上で組織に実装してくれるドン・ノーマンのような人がいないからなんでしょうね。ボクはせめてそうなりたいなと、いま日本企業でがんばってます。

    この本の後半は「ユーザーフレンドリー」を実現するために重要なコンセプトとともに、スマホ以後の「ユーザーフレンドリー」のユースケースを紹介しています。コンセプトはメタファー、共感力やパーソナライゼーションなどです。将来のユースケースはクルマの自動運転やボイスインターフェースやディズニーランドです。特にディズニーランドにおけるマジックバンドを使ったパーソナライゼーションの事例はとても面白かったです。

    この本はどんな人にオススメか

    デザイナーには読んで欲しいです。

    今のアプリデザインにこのような混乱が少ないのは、メニューの位置や意味、スワイプやタッチで何が起きるのかがテンプレートで標準化されているからです。いまのUXデザイナーがテンプレートなしで一からユーザーフレンドリーなデザインができるか?どうですかね。さほどスリーマイル島原子力発電所のエンジニアと変わらないのではないでしょうか。なぜなら、多くの「デザイナー」はこのような標準が出来上がってきた成り立ちを理解していないからです。

    情報設計などの「使いやすさ」の原理原則といえるものを理解している「デザイナー」って実はすごく少ないです。デザイン・システムとか流行っていますが、そのコンポーネントやアーティファクトを下支えしている(使いやすさを担保している)のは原理原則ですからね。

  • 書評|デザイナーのための気の利いた豆本|A Book Apart

    書評|デザイナーのための気の利いた豆本|A Book Apart

    Photo by picjumbo.com from Pexels

    ボクの社会人としての原点はサービスデザイナーです。その前にマーケティングもやっていましたが、自分のプロフェッショナルとして定義をする根っことなったのはサービスデザインでした。いまはさすがに自分自身ではデザインをしませんが、それでも出来上がってくるアプリのUXなどはチェックします。

    職業としてのデザイナーの定義はあいまいです。試験とか資格とかないので、誰でも自称デザイナーになれてしまいます。スタンフォード大学のd.schoolのような学校もないですしね。ボクなんかもちゃんとした教育を受けたことはないので、「なんちゃってデザイナー」なのかもしれません。とはいえ、ボクがはじめた頃はペルソナとかカスタマージャーニーマップとかツールがそろっていなかったので、独自で工夫するしかありませんでした。UXの世界に決定的に影響を与えた書籍”The Psycology of Everyday Things”(現在は”The Design of Everyday Things”に改名/日本語訳は『誰のためのデザイン?』)だって、世に出たのは1988年ですし、ペルソナを世に広め、インターフェースデザインに影響を与えたアラン・クーパーの”About Face”も1995年です。いま現在、日本でどれだけデザインについて学ぶ場所が提供が提供されているのかはよくわかりませんが、みんな試行錯誤しながらツールや方法論を作り上げてきました。ボクもそうです。

    それにしてもです。デザインをレビューするときに「もうちょっと基礎を知っておいてくれよ、基礎が確立されて少なくとも10年は経つんだから」と感じる場面が多々あります。見た目はきれいなんですよ。でも、直感的に使えない。FigmaとかZeplinとかNotionとか、Framerとかそういうツールを使うのは慣れている。オンラインのチュートリアルも充実してるし。まあ、モダンなツールを使えるに越したことはないのです。しかし、肝心のデザインの知識や経験が足りていない。「こればっかりは経験を重ねるしかない」という意見もあると思いますが、正しい知識は正しく教わらないと無駄に遠回りになってしまいます。寿司屋とか職人じゃないんだから(寿司も本当は体系立てて学べるとは思いますが)。

    そういう時に若いデザイナーたちに渡すのがA Book Apartの本です。英語の本ですが、日本語でこれくらい基礎知識が分野別にコンパクトにまとまってるシリーズはないので。

    最近買ってデザイナーたちに手渡したのは”Conversational Design”と”Everyday Information Architecture”です。Conversational Designとはどうやってデザインを通じてユーザーと対話をするかです。Maxims of Violationsのような重要なコンセプトが紹介されています。情報アーキテクチャの手法も大規模なWebサイトを作る上では日本でも活用されはじめていますが、アプリのデザインでは使われていなかったりします。LATCHがすべてじゃないですが、せめてLATCHとは何で、どうやって使うのかくらい知っておこうよ、マジで。

    A Book Apartの本は現時点でVol. 31 Expressive Design Systemsまで出ています。それぞれ100ページ強の軽い本ですが、ひとつの分野にフォーカスしているため、総合的な分厚いデザイン本一冊より各テーマについては深堀されています。こういう、軽くてサクッと読める本が日本語でもあるといいんですけどね。日本のデザイナーは日本語だけでは情報的には一周半くらい遅れてしまうので、常に最新の英語の資料に触れておきたいものです。Webコンテンツだと薄いので、A Book Apartくらいのコンパクトな豆本がちょうどいいと思います。

  • 書評|絶対防衛線としてのデザイン|”Ruined by Design” by Mike Monteiro

    書評|絶対防衛線としてのデザイン|”Ruined by Design” by Mike Monteiro

    「デザイン」はむやみに使われすぎていて、ボク自身、最近は避けてきた言葉です。デザインは数多くある手法の一つであって、目的ではない。目的に合った手法を使うべきであって、デザイン原理主義にハマりたくない。それでも、ユーザー中心に考える思想としてのデザインはやはり有用ですし、ボクの仕事のコアの部分を形成しています。

    YAMDAS現更新履歴でマイク・モンテイロの”Ruined by Design”が紹介されていて、読んでみたいと思っていました。最近になって本人の朗読によるオーディオブックが出たので、ようやく読む(聴く)ことができました。

    マイク・モンテイロ自身がMule Designを経営しているデザイナーですが、デザイン倫理学を広める伝道師的な役割を自ら担っています。”Ruined by Design”はデザイン倫理学の伝道師として、彼が言いたいことをとにかくぶつけてきたなかなか情熱的な書籍です。口語的な表現が多いので、書籍として読むより本人の声をオーディオブックで聴いた方がいいんじゃないかな。リバタリアンが大っ嫌いだとすごく伝わってきます。アイン・ランドなんてマジでクソ!みたいな(笑)。マイク・モンテイロはポジション的にはかなりリベラルです。バーニー・サンダース好きそう。どのような立場から発言しているのか、わかりやすくていい。

    Ruined by Design: How Designers Destroyed the World, and What We Can Do to Fix It (English Edition)

    Ruined by Design: How Designers Destroyed the World, and What We Can Do to Fix It (English Edition)

    前提としてのデザインの定義

    マイク・モンテイロは本書をデザインの定義からはじめます。すべてのモノやサービスはデザインされている。意識的であろうと、無意識的であろうと。フェイスブックもツイッターもビジネスの意図を実現するためにデザインされ、結果として現在の形になっている。

    つぎにデザイナーの定義をします。マイク・モンテイロはプロダクトやサービスの機能の決定や実装に関与する人は全てがデザイナーだと言います。UX、グラフィック、インタラクティブなど「ほにゃららデザイナー」などタイトルは関係ない。プロダクトオーナーも開発者もプロダクトの機能を定義したり、決定に関わる限り「デザイナー」です。

    まず、ここまでが前提ですね。感情的な本なのにストラクチャーがしっかりしているのが英語圏の人の性(サガ)ですね。ロジックがにじみ出てしまう。日本人だとこうはいかない。

    問題提起

    マイク・モンテイロは現在の多くのプロダクトやサービスのデザインはぶっ壊れていると問題提起します。フェイスブックとケンブリッジ・アナリティカの問題も、ウーバーがドライバーを搾取するのも、プロダクトがそのようにデザインされているからです。倫理よりもビジネスが優先された結果、プロダクトは倫理に反する動きをします。そうデザインされているのですから。フェイスブックなどのソーシャルメディアはニュージーランドで起きた乱射事件のライブストリーミングを止めることができませんでした。ソーシャルメディアは広めることを目的としてデザインされているからです。広めることを目的としてデザインされたツールを止めるのは非常に難しい。

    解決策の提案

    解決の方向性としてトップダウンとボトムアップがあります。マイク・モンテイロはマーク・ザッカーバーグやラリー・ペイジが自らの倫理観を今更変えることができないのでトップダウンは期待できないと言います。ウーバーのトラビス・カラニックやウィワークのアダム・ニューマンは自らを変えることができなかったら更迭されたわけですものね。

    そこで、マイク・モンテイロが提案するのがボトムアップのアプローチです。広義の「デザイナー」が強い倫理観を持って、企業や組織長が間違った判断をしようとしたら「ノー」と言いましょうと提案します。会社勤めしている会社員として、会社やボスが言うことを聞かなければいけないのはわかる。しかし、医者や弁護士はどうだ?とマイク・モンテイロは問いかけます。医者や弁護士はお金を払えばなんでもやるわけではなく、職業としての倫理規定が優先されます。医者の場合はヒポクラテスの誓いがあります。弁護士も各国の弁護士協会が倫理規定(アメリカのBar Associationの場合はこちら)を制定しています。

    デザイナーにも強い倫理規定が必要だとマイク・モンテイロは提案します。そこで、Githubにデザイン倫理のドラフトを公開しています。すでに様々な言語に翻訳されていますが、まだ日本語はないですね。

    倫理観に反する企業に対してエンジニアのSeth Vargoが個人として行動をとった例がDevOpsのツールとして有名なChefのGithubやRubyGEMのリポジトリにあるファイルが削除された事件です。Chefが悪名高きアメリカ合衆国移民・関税執行局(ICE:Immigration and Customs Enforcement)と契約したのが事件の発端です。摘発の仕方が非人道的だと非難されています。詳しくは以下のニュースサイトを参照してください。ここにもあるように、最終的にはChefのCEOがICEとの契約を更新しないことを発表するまで追い込まれました。個人の倫理観に基づく行動が企業のの行動を変える代表的な例になるでしょうね。

    トランプ政権の非人道的な政策に抗議し、プログラマーが翻した反旗

    この本はどんな人にオススメか

    デザイナーって視野が得意分野に集中しがちなんですよね。広い意味でのデザインも分かっているつもりでも、日々の業務で実践できていない。デザイナー個人が倫理感を持って仕事をしても、ユーザー中心の考え方をしても、チームやグループで同じ考え方じゃないと孤立してしまいます。疲れちゃうから、結局は流されてしまう。

    まわりの人たちも悪気があるわけじゃない。優先順位が違うってだけ。デザイナーのマインドセットを持っていないだけ。じゃあ、そういう人たちにこの本をオススメして読むか?読まないでしょうね。それはマイク・モンテイロもわかっている。だから、わかってる人に語りかけ、行動を促すしかない。

    フェイスブックは投稿に対して心理実験Facebookがこっそりユーザー感情操作実験をしていた – NAVER まとめ)をしましたが、これも完全に倫理的には間違っています。ビジネスに倫理観は必要で、デザインで倫理観を規定するアプローチもあるでしょうね。ただ、デザインってそこまで万能かなあ……と個人的には思ってしまいます。まあ、日本語翻訳くらいはやるか。

  • イギリスの取り組みから学ぶ児童相談所問題とサービスデザイン

    イギリスの取り組みから学ぶ児童相談所問題とサービスデザイン

    千葉小4虐待死事件から自動相談所の問題点について多くが語られるようになりました。自動相談所の対応が杜撰だったと「質」を批判する声が上がるとともに、児童相談所の職員はそもそも足りておらず、対応が追いつかないと「量」の問題を提起する声も上がりました。実を言えば「質」の問題はなかなか解決が難しく、「量」の問題の方が解決しやすいです。

    実際に安倍晋三首相は2019年2月9日に児童相談所の専門職員を5000人体制にする意向を表明しました。現在は3200人で、来年度から4200人に増やし、その後5000人体制にするそうです。まずは、「量」の問題を解決する姿勢を示しました。

    「量」の問題と「質」の問題の解決方法

    もちろん「量」の問題を解決するのは大切です。「量」の問題とはベースとなる数字の問題です。例えば10+10=20で例えれば「10」を「40」にして10+40=50にするのが「量」の問題の解決方法です。そもそも50必要なのに10しかないのであれば、まずは40足すしかないでしょう。

    一方で、「質」の問題は演算子の問題です。同じ10+10=20をたとえに使えば、「+足し算」を「×掛け算」にして10×10=100にするのが「質」の問題の解決方法です。「質」の問題の解決方法はスタートアップでは「スケールするやり方を見つける」と言います。例えば、「数が足りていれば児童相談所は誤った判断をしなかったのか?」という問題です。正しい判断が個人に依存せずに(できる/できない)というのは質の問題です。

    それでは、いきなり「+足し算」を「×掛け算」にできるかと言えばそんなことはありません。「スケールしない方法」から学び、徐々に「スケールするやり方を見つける」必要があります。じゃあ、そうすればいいじゃない?と思いますよね。しかし、これがなかなかできません。

    「質」の問題解決に転換できない原因

    誰しも「悪いことをしてやろう」とか「子供なんて適当にしておけばいい」なんて思っているはずはなく、それは児童相談所で働く人たちも同じです。たくさん人数がいるので、ひょっとしたらいるかもしれませんが、それほど多くないはずです。だから、「質」の問題と言われると抵抗感を感じることもあるでしょう。

    「こんなにガンバっているのに」

    問題は個人の頑張りではなく、仕組みです。「10」はどれだけ頑張っても「10」ですし、残業して「12」にしても長続きはしません。つまり、スケールしません。「スケールするやり方を見つける」というのは個人が頑張らなくてもできる仕組みを作るということです。

    この、仕組みを作るというのは「言うは易く行うは難し」です。特に児童相談所のような公共サービスはそうです。様々なステークホルダーがいますし、法律など従わなければいけない規則もあります。

    優先順位と信念

    自分自身、様々なサービスのプロジェクトに関わった経験上、日本のプロジェクトでデザインプリンシプルを定めているケースはあまりないように感じます。「質」の問題があるとしたら、第一の理由はここにです。プリンシプルというのは日本語では「原理原則」です。法律でいえば憲法のようなものです。

    イギリス政府のデジタル公共サービスの場合ですとデザインプリンシプルは以下になります。

    1. ユーザー起点(Start with users)
    2. なるべく少なく(Do less)
    3. データに基づいて設計する(Design with data)
    4. シンプルにするために頑張る(Do the hard work to make it simple)
    5. 繰り返し改善(Iterate. Then iterate again)
    6. 全ての人のために(This is for everyone)
    7. 背景を理解する(Understand context)
    8. Webサイトではなくデジタルサービスを作る(Build digital services, not websites)
    9. 統一性ではなく、一貫性を持たせる(Be consistent, not uniform)
    10. オープンにする。オープンにすれば良くなる(Make things open: it makes things better)

    おそらく特徴的なのは6番目の「全ての人のために(This is for everyone)」でしょう。これは公共サービスならではです。民間のサービスですと、ターゲット顧客がいて、そのターゲット顧客に最適かすることで効率化を行います。しかし、公共サービスですと市民全員がユーザーですので、インクルーシブなデザインを心がける必要があります。

    しかし、一番重要なのは1番目の「ユーザー起点」でしょう。ユーザーからはじめる。これを原理原則とする。そのためにはまずはユーザーを理解しなければいけません。では、どのようにユーザーを理解すればいいのでしょうか。

    ユーザー起点で考える公共サービスデザイン

    サービスデザインの考え方ではユーザーは二種類あります。一つはサービスを受ける側。もう一つはサービスを提供する側です。児童相談所の場合、相談をする児童や関係者がサービスを受ける側で、児童相談所の職員やその関係者がサービスを提供する側になります。この関係性を描く図式をサービスブループリント(以下の図)と言います。

    サービスブループリントではサービスを舞台に見立て、サービスを受ける側の舞台を「フロントステージ」、サービスを提供する側の舞台を「バックステージ」と呼びます。そして、左から右へプロセスを書いていきます。フロントステージのユーザーが右端まで来るとき、問題が解決されていなければいけません。

    それを「バックステージ」のユーザーのユーザーがどのようなプロセスや仕組みで「フロントステージ」のユーザーを助けるのかを「バックステージ」のプロセスとして描きます。サービスブループリントを描くためには「フロントステージ」と「バックステージ」双方のユーザープロセスとそれを支える仕組みを棚卸しなければいけません。上記のデザインプリンシプルでは7番目の「背景を理解する(Understand context)」がここにあたります。その時に重要なのが「タッチポイント」の概念です。

    例えば、児童相談所に相談したい児童がいた場合、その児童がどのように最初のコンタクトを児童相談所にするのか?何か書類があるのか?Webサイトから申し込むのか?それとも、児童相談所に直接行くか、電話をするのか?その場合、児童相談所の住所や電話番号はどうやって調べるのか?Googleで検索するのか?このハイライトした部分が全てタッチポイントです。タッチポイントは「フロントエンド」と「バックエンド」をつなぐラインです。ユーザーである児童がLINEをよく使うのであれば、LINEが最も適切なタッチポイントである可能性は高いです。ユーザー起点でタッチポイントを考えるというのはこういうことです。

    このラインが断線しているとサービスを受けることができません。例えば、児童相談所の住所や電話番号がわかりづらければサービスは断線してしまいます。また、脱線してしまうと、本来受けたいサービスが受けられずにたらいまわしになります。所得税なのか住民税なのかで税金を納める場所が違いますが、こういう場合は脱線が起きやすいです。この断線と脱線の概念もサービスデザインやUXでは非常に重要な概念です。

    事実をベースにデザインする

    このようにサービスを「フロントステージ」と「バックステージ」に分けて整理をするとどこで断線が起きるのか、どこで脱線するのか、どこで停滞するのかが見えるようになります。これは観察から導き出してもいいですし、何かシステムを使ってデータをとってもいいです。何れにせよ「なんとなくそう思う」ではなく、事実ベースで整理整頓をすることが必要になります。3番目のデザインプリンシプルである「データに基づいて設計する」です。

    この整理整頓のフェーズとデザインのフェーズでは必ず憲法であるデザインプリンシプルに従っているのかを確認する必要があります。特に2番目の「なるべく少なく」や4番目の「シンプルにするために頑張る」は常に意識しないとできません。

    多くのプロジェクトは仕組みを作ることがゴールとなってしまいます。そのため結果を振り返ることは稀です。振り返らなければ学びは失われます。そこで重要なのが5番目のデザインプリンシプルである「繰り返し改善」です。仕組みを作ることがゴールではなく、ユーザーの問題を解決することがゴールです。そのためには常にデータを取り、データに基づいて繰り返し改善をする必要があります。

    イギリスの公共サービスデザインから学ぶ

    イギリスの公共サービスデザインからは学ぶことが多くあります。多くの事例をこのブログでは翻訳していますので、ぜひ参考にしてみてください。

     

  • 書評|アメリカ海軍特殊部隊から学ぶデザインとリーダーシップ|”The Dichotomy of Leadership” by Jacko Wilink

    書評|アメリカ海軍特殊部隊から学ぶデザインとリーダーシップ|”The Dichotomy of Leadership” by Jacko Wilink

    企業ではいろんな事業やプロジェクトに取り組みますよね。中には、その企業の存続を左右するようなプロジェクトもあるかもしれません。でも、人は死にませんよね。会社が倒産して、そのために社員が路頭に迷って、間接的に人の生死を左右することはあるかもしれませんが。戦場はそうではありません。プロジェクト(オペレーション)は人の生死に直接的に影響します。戦争の倫理的な問題はありますが、現実として戦闘現場でのオペレーションほどシビアなプロジェクトはありません。そして、そこから学べることも多いのです。

    ジャコ・ウィリンク(写真)はアメリカ海軍少佐で湾岸戦争で特殊部隊ネイビーシールズの部隊を率いていました。そこからの経験を元にコンサルティング会社を立ち上げ、”Extreme Ownership“というベストセラーを書きました。この本をひとことで解説すると「リーダーはすべての責任を負う」です。部下が失敗しても、それは上司の責任。ただ、この”Extreme”は誤解を生みやすい言葉です。「極端」になればいいというものではない。そこで今回紹介する最新著書の”The Dichotomy of Leadership”ではバランスをとることの大切さを書いています。

    The Dichotomy of Leadership: Balancing the Challenges of Extreme Ownership to Lead and Win (English Edition)

    The Dichotomy of Leadership: Balancing the Challenges of Extreme Ownership to Lead and Win (English Edition)

    特殊部隊とデザインの共通点

     「軍隊方式」というとトップダウンの指揮形態で、一糸乱れぬ行動をとることを求められるイメージがあります。しかし、実際はそんなことありません。ジャコ・ウィリンクは「戦場における四つの法則」を解説しています。

    1. Cover and move:お互い助け合う。誰かが移動するときは、他の誰かは周りの危険を排除する。
    2. Simple:複雑さはカオスを生み出す。理解できないものは実行できない。
    3. Prioritize and execute:優先順位を決めて行動する。
    4. Decentralized command 全員がリードする。そのためには「何をするのか」だけでなく、「なぜそうするのか」を全員が理解しないといけない。信頼が必要。明確なコミュニケーションが必要。

     この四つだけでも、デザインとの共通点がたくさんありますよね。具体的な例を挙げると、軍隊には“Commander’s Intent”という作戦の目的をざっくりと説明する資料があります。これが上記の四番目”Decentralized command”で重要になります。デザインプロジェクトでいえば「デザイン原則」がこれにあたります。どれだけ緻密に計画を立てて、あらゆる状況を想定して訓練しても、そうならないことが多いのが戦場です。個々が判断できるざっくりとした指針が必要となります。

    そして、個々の現場での行動原則は“Standing Operating Procedures”となります。これはその現場の隊長が部隊の指揮をするためのガイドラインとなります。デザインプロジェクトでいえば「デザインブリーフ」がこれにあたります。デザインブリーフもガイドラインですよね。なぜ「ガイドライン」なのかといえば、戦場で想定通りの状況にならないことが多いからです。デザインプロジェクトでも、ユーザーテストしたら全然ダメだったってこともあります。いきなりSketchやInVisionからはじめてしまうと、どこに立ち返ればいいのかわからなくなります。

    多くのデザイン現場やプロダクト開発現場では「デザイン原則」や「デザインブリーフ」を作りません。ボクは絶対作りますけどね。マジで、皆さんちゃんと作ったほうがいいですよ。

    特殊部隊と企業でのリーダーシップの共通点

    “The Dichotomy of Leadership”では人のバランス、仕事のバランスなど様々な観点でのバランスを戦場での事例と企業での応用で紹介しています。例えば、マイクロマネージメントとフリーハンドのバランス、自分のやり方をどこまで通すのか、トレーニングはどれくらいの難易度が適切なのかなど解説しています。

    その中でも大事だなーと思ったのがリーダーシップ・キャピタルの考え方。リーダーシップは資産だという考え方ですね。無理を通せば資産は減る。それだけの価値があるのかを考える必要があるとジャコ・ウィリンクは言います。また、引き締めるべき時に緩すぎるのもリーダーシップの資産は目減りします。

    リーダーシップ・キャピタルは日本語でいえば「人徳」みたいなものに通じるかもしれないです。日本企業の役員には親分肌で人徳がある人が少なくないです。ただ、それがリーダーシップにつながっているかといえばどうなんだろうと考えてしまいます。それは、リーダーシップ・キャピタルがある程度数値化できるのに対して、「親分肌」は数値化できないからではないでしょうか。

    The Leadership Capital Index: Realizing the Market Value of Leadership

    The Leadership Capital Index: Realizing the Market Value of Leadership

    日本の組織はマネジメント(管理)は得意です。日本が世界に誇るカンバン方式もマネジメントです。しかし、リーダーシップは苦手です。最近は学校でのブラック校則が問題になっています。リーダーシップのない組織はマネジメントに過度に依存して、所属する人たちを締め付けようとします。ブラック校則はその典型的な例ですよね。

    この本はどんな人にオススメか

    もともと管理職向けに書かれた本なので、管理職にある人にはオススメです。特にマネジメント(管理)はできるけど、リーダーシップももっと学びたい人には最適なテキストになるでしょう。

    あと、プロジェクト管理をする人にとっても示唆に満ちたコンテンツが多いのではないかと思います。アジャイルとか方法論以前に、チームでプロジェクトを遂行するとはどういうことなのかという心構えについて学ぶことができます。

    日本の自衛隊はアメリカの軍隊のように戦場の最前線に行くことはありませんが、災害地域での救出活動など様々な人命に関わる活動をしています。せっかくなのだから、自衛隊の人たちがこういう本を書いてくれればなーと思ったりします。

  • 書評|差別するデザイン|”Technically Wrong” by Sara Wachter-Boettcher【2018年夏休み読書週間】

    書評|差別するデザイン|”Technically Wrong” by Sara Wachter-Boettcher【2018年夏休み読書週間】

    デザインは人を傷つけます。そして、場合によっては死に至らせる可能性もあります。このことについてはすでに翻訳が出ているジョナサン・シャリアートとシンシア・サヴァール・ソシエによる『悲劇的なデザイン』(デザイナー必読)でも詳しく紹介されています。

    このような悪いデザインの危険性は最近になってようやく認知する動きが出てきました。単にオシャレでキレイなだけでなく、もっと大事なものだという認識。今回紹介するサラ・ワッターーボーチャーの”Technically Wrong“もこのようなトレンドの中から生まれた書籍です。

    Technically Wrong: Sexist Apps, Biased Algorithms, and Other Threats of Toxic Tech

    Technically Wrong: Sexist Apps, Biased Algorithms, and Other Threats of Toxic Tech

     
    悲劇的なデザイン

    悲劇的なデザイン

    • 作者: ジョナサン・シャリアート,シンシア・サヴァール・ソシエ,高崎拓哉
    • 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
    • 発売日: 2017/12/27
    • メディア: 単行本
    • この商品を含むブログ (2件) を見る
     

    ここでは全てを紹介することはできませんが、特に印象に残ったチャプターを紹介します。

     

    組織の問題:テクノロジー企業の大部分を占める「若い白人男子」の文化

    FacebookやGoogleといった大企業の開発者やデザイナーの大部分は若い白人男性です。ダイバーシティーに注力していますが、開発やデザイン分野のダイバーシティーに関して実際にはほとんど改善はありません。この辺の問題提起はシリコンバレーの白人男性至上主義を描いたエミリー・チャンの”Brotopia“にも通じるものがありますね。

     

    Brotopia: Breaking Up the Boys' Club of Silicon Valley

    Brotopia: Breaking Up the Boys’ Club of Silicon Valley

     

     

    ダイバーシティーの問題に関しては多くの企業も気がついているのだけれど、それを解決できていない。企業側の言い分としてはマイノリティーに人材がいない。「パイプライン」の問題(=企業は採用する気はあるが候補者がいない)なのですが、黒人女性がキャリアフォーラムなどにいっても無視されるというのが現実だそうです。つまり、本当はパイプラインはある(候補者はいる)のに無視する。

    また、「若い白人男性」以外に門戸を開いていたとしても、最終的な採用判断には「企業文化適応性 (Culture Fit)」が求められます。既存のカルチャーは「若い白人男性」なので、そこにフィットしない人は採用されません。

    採用されたとしても、その意見が採用されるとは限りません。実際の女性向けスマートウォッチ開発プロジェクトで唯一の女性メンバーの意見は全く聞き入れてもらえなかったそうです。きちんとしたUX調査をしてそれを発表しても、「若い白人男性」のステレオタイプの女性の見方とマッチしないために、その調査も採用されなかったそうです。このように実際のニーズではなく、「若い白人男性」のステレオタイプを基準としたデザインが少なくないのが実情なのだそうです。

    デザインの問題:狭い視野と狭いデフォルト

    ユーザーの視点に立つためにたくさんのデザインツールがあります。しかし、それらのツールを使っても、デザイナーやステークホルダーの視野が狭いと有効には使えません。

    ペルソナはUX調査に基づいて代表的なユーザー像を描くことで開発者、デザイナーなど製品開発に関わる人たちがユーザーに共感するためのデザイン手法です。しかし、実際にはペルソナで描かれるユーザー像の範囲は狭く、深く共感することは難しいのが現実です。例えば、生理のトラッキングアプリGlowの開発者は男ばかりでした。ターゲットユーザーはセクシャルにアクティブな妊娠したくないティーン。そのペルソナは理解できますが、実際のユースケースは妊娠したい女性もいます。しかし、男性にはそれが理解できません。

    デザイナーの世界では想定しないユーザーをエッジケースと呼びます。しかし、想定するユーザーは「若い白人男性」が想像できる範囲内です。そして、それ以外はエッジケースとされてしまいます。例えばペルソナで会社のCEOに黒人女性の写真を使うと不採用になります。ステークホルダーにはリアルだと思えない。ニーズや動機が重要であって、見た目は重要ではないのに。ステレオタイプがデフォルトになります。例えばAmazon Alexaの声。アシスタントという言葉は「若い白人男性」には女性を想起させるようです。なぜボイスアシスタントは女性の声なのでしょうか?

    この本ではなるべく多くのユーザーのストレスを軽減するために「ストレスケース」の採用を提案しています。

    Identify “Stress Cases” and Design with Compassion: Eric Meyer

    選択の問題:ユーザーを理解できないためのガベージ・イン

    ユーザーを理解してユーザーに最適な提案をする。そのために行動データやプロフィールを集めます。正しい情報を入れれば正しい結果を得ることができますが、間違った情報を入れれば、間違った結果が返ってきます。これを「ガベージ・イン/ガベージ・アウト」と言います。

    しかし、実際に正しい情報をユーザーが提供することは難しい場合がります。例えば、アメリカのインディアンはFacebookで本当の名前を使えないことがあります。Facebookの本名のポリシーに適合しないからです。例えばChase Iron Eyes(鉄の目を追う)が本名だとしても、Facebookにとっては偽名になってしまいます。

    Facebook: Native American Names ‘Inauthentic’ | Time

    Facebook Name Police: Native American Names Aren’t ‘Authentic’ Enough – IndianCountryToday.com

    また、選択の不自由もあります。アメリカの国勢調査では人種の選択は白人/黒人/アジア人/その他です。メキシコ系アメリカ人はこの場合は「白人」なのですが、多くのメキシコ系アメリカ人は「その他」を選んでしまいます。

    多くのサービスはユーザーに性別を聞きます。これはセグメンテーションとレコメンデーションなど分析のためなのですが、選択肢は男性/女性しかありません。しかし、トランスジェンダーは?これらもエッジケースとして無視したとして、それで正しいユーザープロフィールになるのかという問題があります。

    また、英語の名前だとMrやMsなどタイトルがあります。これもユーザープロフィールの質問でよく聞かれます。これもトランスジェンダーには難しい選択肢ですよね。しかも、英語の場合はDrやSirなどあります。イギリス政府のデザイン機関であるGDSはタイトルの質問をすることをやめました。選択肢を増やすのではなく、不正確な情報しか得られないのであれば聞くのをやめるという選択肢もあるわけです。

    Names – GOV.UK Design System

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  • スロースタートアップ|第二回:dribbble|おじさんたちのサイドプロジェクト

    スロースタートアップ|第二回:dribbble|おじさんたちのサイドプロジェクト

    スタートアップといえば急速な成長のためにベンチャーキャピタルからガツンと資金調達をするイメージがあると思います。しかし、ベンチャーキャピタルから資金調達をせずにずっとブートストラップ *1 しながら成長するスタートアップも存在します。日本だとサイバーエージェントがそうですよね。そういうブートストラップなスタートアップをスロースタートアップと呼びたいと思います。

    「スロースタートアップ」の第二回目はデザイナーならみんな大好きdribbble *2 です。どういうわけか、デザイナー御用達ツールはブートストラップが多いんですよね。ShutterStockとかBalsamiqとか。次回紹介するMailChimpもデザイナーのスタートアップですし。今回は若者スタートアップのヒリヒリした話ではなく、おじさんスタートアップのほんわかした話です。

    dribbbleってなに?

    まず、簡単にdribbbleについて。dribbbleはデザイナーが自分の作品をシェアできるWebサービスです。非常にコミュニティー色が強く、多くの場所でボランティアがdribbbleミートアップを開催しています。そういう意味では、世界で最も大きなデザイナーコミュニティーの一つだとも言えます。ボク自身はグラフィックデザイナーではないのでdribbbleは使ってなかったですが、シンガポールやアムステルダムにいた時代にUX関連のトピックではよく参加していました。dribbbleは招待制で、既存のユーザーから招待がないと正式なメンバーになれません。これがスノッブな感じがして、一部にはアンチも存在します。あとで説明しますが、招待制にしたのは理由があって、彼らが外部から資金調達をしないブートストラップのスタートアップであるのが影響しています。

    創業者はおじさんヒップスターとハッカー

    dribbbleの創業者であるリック・ソーネットとダン・シーダーホルムがユニークなのは、かなりおじさんだということですね。スタートした当時には結婚して子供もいた。それなりに安定した仕事もあった。Webの黎明期にインスパイアされてダンはデザイナーに、リックはデベロッパーになります。普通に考えれば、わざわざ大変なスタートアップなんてやる必要ありません。

    リック・ソーネットはリサーチャーだったそうです。でも、黎明期のWebの魅力にとりつかれ、プログラミングを再び学ぶために大学の修士課程に戻り、デベロッパーになりました。IBMやFideltyなどの大企業のほか、スタートアップでも働いていました。

    ダン・シーダーホルムはもともとWebデザインの世界では超有名人で、CSSの可能性を広げた人で、たくさんの著書があります。日本でも『Web標準デザインテクニック即戦ワークブック』が翻訳されていますね。元々はスケートボードのロゴやデザインが好きで、ミュージシャンとして働いていた時にアルバムのデザインなどをしていたそうです。自分がデザイナーだと認識しはじめたのは黎明期のWebの影響が大きかったそうです。タイポグラフィーなどいろんな要素が必要で、多くの人に見られることでデザイナーであることを意識したそうです。

    おじさん達の出会い

    この二人はどうやって出会ったのでしょうか。ダンとリックはボストンで近所に住んでいて、同じ年代の子供がいました。そこでおくさん同士が知り合いになり、二人は出会います。リックは「ダン・シーダーホルムってなんか聞いた名前だな?本とか出してなかったっけ?」と調べました。あ、やっぱり有名な人だ!

    最初は有名人とは釣り合わないんじゃないかと遠慮していたそうですが、そのうちに友達になります。リックは週二日ダンのオフィスを使わせてもらい、残りは家で仕事をしていました。当時はヘルスケアスタートアップのPatientsLikeMeというプロジェクトに関わっていました。リックがダンのオフィスにいるときに二人でサイドプロジェクトができたらいいねという話になりました。デザイナーとデベロッパー。ヒップスターとハッカーはいつの時代も黄金のコンビですよね。

    サイドプロジェクトとしてのdribbble

    ダンが考えていたのはデザイナーが自分たちの仕事を共有できて、「ドリブル」できる場所。2007年くらいからアイデアを温めていました。当時は写真共有サイトのFlickrがとても人気があり、Twitterも人気がではじめた頃でした。その二つを組み合わせたらどうだろうというのが最初のアイデアでした。そして、それは紫でなければいけない!と最初から決まっていたそうです(笑)

    ダンとリックの二人はプロトタイプを徐々に磨き上げ、ベータテストを始めます。手書きの招待状に招待コードを書いて、dribbbleのTシャツを同梱してデザイナーの友人たちに送りました。eメールではなく、創業者による手書きの招待状と手作りのTシャツ。これは最初のベータテスターに参加してもらうのにとても大事だったそうです。ダンのネットワークもあり初期の段階から30人のデザイナーが作品をアップするようになりました。

    dribbbleにとってプロダクトとは

    リックはベータの段階では最初は自分の家の猫の写真などをアップしていたそうです。本物のデザイナーが実際に作品をシェアするまで自分でも確信を持てなかったようです。つまり、Flicker+Twitterというコンセプトはあったものの、デザイナーのコミュニティーというアイデアが最初からあったわけではなかったのです。

    デザイナーたちが作品をアップしはじめると、彼らがどのような意図で、どのようなプロセスでデザインをしているのかがわかるようになりました。普段は最終的なデザインだけではわからなかったものが見えてくる。これ自体がエクスペリエンス(体験)だということがわかりました。

    当初はPixelの交換やゲーミフィケーションなど様々なアイデアがあったり、実際に実装したものもありましたが、ベータテストで方向性がクリアになると不必要な実装やアイデアは全て捨てたそうです。

    長いベータと最初の危機

    ダンもリックもフルタイムの仕事があって、家庭があって子供もいました。dribbbleはかなり長い間サイドプロジェクトでベータでした。招待制はあまり大きなサービスをサイドプロジェクトで続けることができないという理由からでした。多くの機能追加のリクエストもありましたが、優先順位をきちんとつける必要がありました。

    この長いベータ期間のため、デザイナーにとってdribbbleは知り合いが気兼ねなく作品をシェアできる場所でした。そしてこれが正式版のローンチになると問題になりました。デザイナーとしては自分の初期のアイデアをあまり共有したくない。ベータで少ない人だけに共有されていたからよかったが、一般公開になると話が違う。当然ながらプライベートモードなど多くのリクエストがありました。

    しかし、ダンと(特に)リックはプライベートモードの実装には反対しました。一部しか見れないのであればエクスペリエンスは失われてしまう。ユーザーがそれで離れていってしまうのだったら直さなければいけないが、まずはプライベートモード無しでいくと決めます。数週間はクレームの嵐だったそうですが、それでも作品の投稿が減ることはなかったそうです。ここでの学びは「目に見えた変更を行えばネガティブな反応がある。ネガティブな反応があったからといって、その変更が悪いかどうかはわからない。ユーザーの行動を見ていいか悪いかの判断をする必要がある」だそうです。

    ブートストラップとフルタイム

    一般的な若いスタートアップは資金調達をして必死に働いて急速に成長させようとします。その間、仕事に100%コミットする必要があります。ダンとリックの場合は違いました。ダンとリックにとっては家庭が最優先でした。これは他の若いスタートアップの起業家と大きく異なるところです。子供がいて家族を養うとなると「ラーメン利益 (Ramen Profitable)」ではやっていけません。

    最初は大きな宣伝はせずにゆっくりと育てる。これは前回紹介したGithubも同じことが言えます。Githubは最初の二年間で一回しかTechCrunchに取り上げられていません。外部から資金調達する一般的なスタートアップがファストスタートアップだとしたら、ブートストラップの場合はスロースタートアップですね。

    最初にdribbbleでフルタイムとして働きはじめたのはリックでした。2010年5月です。dribbbleの広告でリックの半分のサラリーが賄えるくらいの売り上げがありました。当時のdribbbleはデザインよりもエンジニアリングでやることが多かったので、まずはデベロッパーのリックから。二人一緒にフルタイムの必要はない。リックとしては一時的に収入が減ったとしてもdribbbleをフルタイムでやってみようと決意します。ダメだったらまたスタートアップでデベロッパーとして働けばいいじゃない。

    普通の(でもリッチな)おじさんに戻る

    dribbbleはInstagramと同様に少人数のチームで続けました。2017年1月にTinyに買収された時、従業員は8人でした。7年のスロースタートアップの後、ダンとリックは元の場所に戻っていきます。前よりお金に余裕をもって。

    参考資料

    Rich Thornett on bootstrapping Dribbble – DNSimple Blog

    Interview with Dribbble’s co-founder Dan Cederholm | Webdesigner Depot

    What Drives Dribbble Founder Dan Cederholm? – Envato

    Dribbble Founders on Design, Entrepreneurship, & Community – YouTube

    Dribbble 2.0 – Andrew Wilkinson – Medium

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    *1:自己資金で事業をするという意味。コンピューター用語としてコンピューターを起動することをブートと言います。ブートストラップは外部からの助けがなくプロセス実行できることを言います。それがスタートアップの世界でもそのまま使われるようになりました。ちなみに、本来的な意味はブーツの後ろにつく輪っかの部分です。ブーツをかける輪っか。

    *2:ドリブルと読みます。ロゴはバスケットボール。

  • アメリカ政府を公共サービスのデジタル化に向かわせた二つの力と三つの組織

    アメリカ政府を公共サービスのデジタル化に向かわせた二つの力と三つの組織

    イギリスのGDSやエストニアの電子政府の情報は割とまとまったものがあります。カタパルトスープレックスも貢献していますよね!ところが、アメリカの公共サービスのデジタル化も急速に進んでいるのですが、あまりちゃんとまとまった情報が日本語ではありません。

    アメリカにはPIF18FUSDSという公共サービスのデジタル化を進める部門がアメリカ政府内にあります。それぞれ、ユーザーニーズから全てをスタートして、リーンスタートアップ、デザイン思考、アジャイルなどモダンなアプローチを公共サービスに取り入れることでイノベーションを推進しようとしています。ゴールは同じです。

    なんで、そんなことしようと思ったの?なんで三つもあるの?という疑問が浮かぶと思います。それをなるべく簡潔に説明しようと思います。興味がある人はSlideshareGithubにプレゼンテーションをアップロードしました。

    PDFのダウンロード(カタパルトスープレックスデザインのGithub)

    経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を発足したり、経団連が「デジタル省」を提言したりしています。アメリカはボトムアップとトップダウンを積み上げて、複数のアプローチをとって成功しています。日本はどうなるんでしょうね。

    個人的にはCode for Americaがアメリカの公共サービスを変える原動力になったように、「デザイン+ジャパン」が日本の公共サービスを変える原動力になればいいなと思っています。

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  • ケンブリッジ大学のインクルーシブ・デザイン・キット(多くの利用者を包括的にとらえるアプローチ)

    ケンブリッジ大学のインクルーシブ・デザイン・キット(多くの利用者を包括的にとらえるアプローチ)

    原文:”What is inclusive design?” by Engineering Design Centre, Department of Engineering, University of Cambridge

     全てのデザインにおける決定はユーザーを含むか含まないか潜在的な判断がある。インクルーシブ・デザインはユーザーの多様性を理解することにより、自らが対象となっているのかユーザーに理解できるようにすることを強調しています。それにより、できる限り多くのユーザーを包括できるようにします。ユーザーの多様性はユーザーのできること、ニーズ、動機などを含みます。

     ここではまずプロダクトパフォーマンス指標(PPIs)の例を紹介します。プロダクトやサービスが機能していることを確認する上で考慮しなければいけない指標です。ここではユーザーのニーズがどのようにこの指標に当てはまるのかをみていきます。そしてPPIを全てカバーするには対象となるユーザーの多様性の理解がどのように必要なのか、そしてその多様性にインクルーシブ・デザインを通じてどのように対応していくのかを説明していきます。また、「全てのためのデザイン」や「ユニバーサル・デザイン」との違いも提示します。

    プロダクトパフォーマンス指標(PPIs)

     インクルーシブ・デザインは人々の多様性とそのデザイン上のインパクトに着目します。しかし、パフォーマンス指標は人、利益、環境を含み幅広い側面をカバーしなければいけません。下のパフォーマンス指標フレームワークを参照してください。

     パフォーマンス指標を利用して製品のライフサイクルを通じてどのようなインパクトがあるのかを様々な側面で検証します。製品のライフサイクルは一般的に以下のステージから構成されます:

    • 開発する
    • 製造する
    • 流通販売する
    • 利用する
    • 廃棄する
    • 再生する

     多くの現行製品にとってユーザーはゴミ箱に捨てて「廃棄する」でしょうし、埋め立てて「再生する」でしょう。しかし、リサイクルや改修はその代替となる例となります。

    このパフォーマンス指標の詳細はthe Designing Our Tomorrow businessのウェブサイトで確認できます。

    訳者注

    ケンブリッジ大学の許可のもと、カタパルトスープレックスデザインのGithubでPowerPointのテンプレートの日本語版を無償で配布しています。

    ユーザーの多様性を理解する

     ユーザーを正しく理解できないとプロダクトに不必要な不満の原因となり、ユーザーを除外することとなります。そして、それは返品やカスタマーサポートの増加に繋がり、商業的に成功する可能性を低くします。。

     ユーザーの多様性を理解する上で、「健常者」や「障害者」といった偏見のある枠組みを疑うことは重要です。2003年にマイクロソフトから委託されたアクセシビリティテクノロジーに関する調査で以下のコメントを得られました:

    「障害者」というコンセプトはアクセシビリティテクノロジーのニーズを理解する足かせとなる可能性がある。 … IT業界は利益を受けるより幅広い人たちを考慮すべきだ。- マイクロソフト (2003)

     人々の多様性は「できること」を全てカバーしたピラミッドモデルがより正しく表現できます。このピラミッドでセグメントを作ります。一番下のセグメントは困難がないことを示し、上にあがると困難の度合いが高まります。具体的な例を下に示します。

     この多様性は「できること」という視点で最初に作られましたが、それ以外の観点でも利用することができます。例えば、ライフスタイル、動機、性別、過去の経験などです。要するに「違うことはあたりまえ」(引用:Lange and Becerra, 2007) なのです。

    このピラミッドモデルはユーザーの多様性を表しています。The pyramid model presents a continuum of population diversity. 普及データと困難度の定義は2003年のマイクロソフトの調査から導き出されています。

    インクルーシブ・デザインの定義

     英国規格協会(British Standards Institution)は2005年にインクルーシブ・デザインを「メインストリームの製品/サービスにおいてなるべく多くの人たちが特別なやり方やデザインなくアクセスでき、利用できるデザイン」と定義しています。

     インクルーシブ・デザインはいつも一つのプロダクトが全ての人のニーズに対応することが可能(または適切)だと示唆していません。そうではなく、以下の点を通じて人々の多様性に対応するようガイドします:

    • 一つの製品ではなく、製品ファミリーや派生製品を開発し、できるだけ多くの人々をカバーする
    • それぞれ個別の製品が明確なターゲットユーザーを持つことを確実にする
    • 様々な場面において幅広いユーザー層のユーザーエクスペリエンスを高めるために製品利用の困難度合いを減らす

    多様性のピラミッドモデルは困難度合いの高い人たちを包括しつつ、ピラミッドの頂点にある困難度合いの最も高い人たちには専門の商品の必要性があることを認めています。

    ユニバーサルデザインとの比較

    「すべての人のでためのデザイン(Design for all)」と「ユニバーサル・デザイン」は同じ文字通りの意味があります。これらの考え方は建造環境*1やウェブサイトのデザインから起因していて、当初は政府の規定を背景として活用されました(the Design for All FoundationのウェブサイトUniversal Design Handbookより)。

     プロダクトデザインにおいて「すべての人のためのデザイン」も「ユニバーサルデザイン」も一つの製品がすべての人々をカバーできないことは認めています。それでも、これらのアプローチはメインストリームの製品は技術的に可能な限りより多くの人がアクセスできるようにするべきだとしています(Universal Design Handbookより)。

     インクルーシブ・デザインはプロダクトデザインから派生して、特定の製品が特定のユーザーのニーズに合わせることにフォーカスすることで、ユーザー自身が適切な製品を選ぶことができ、その特定マーケットのプロダクトパフォーマンス指標を最大化します。インクルーシブ・デザインはメインストリームの商品のユーザー層の拡大を意図しますが、同時に対象ユーザーのニーズを満たすための商業的な制約も認識しています。

     ウェブサイトや建造環境のターゲットユーザーはほぼすべての人たちなので、この場合は三つのアプローチは同じと言えます。

    ネクストステップ

    ケンブリッジ大学ではワークショップコンサルティングを提供しています。

    訳者からの解説

     この記事はUniversity of Cambridgeによる記事”What is inclusive design?“を著者の許可のもと、日本語に翻訳しています。この記事はカタパルトスープレックスのなかむらかずやにより日本語に翻訳されました。University of Cambridgeはこの翻訳の正確さを保証してません。正確な内容については、原文による正式の文言を確認してください。

     このインクルーシブ・デザインという考え方は主にヨーロッパで普及していて、デジタルサービスが最も進んでいるとされるイギリス政府の公共サービスでもその理念が踏襲されています。デジタルが使えない人たちをどのように取り込んでいくのか。日本においてもデジタル化が期待されていますが、高齢化社会においてはインクルーシブ・デザインの考え方が役に立ちます。「高齢者」と一括りにせず、困難度のピラミッドを使ってどのようにデジタルを活用できない層を包括していくといいでしょう。高齢者だけがデジタルが苦手なわけではないですし、高齢者だからといってデジタルが苦手なわけでもないですから。

    なかむらかずや