
毎回AIに同じことを言っていませんか——仕事の回し方を先に決める方法
ChatGPTやClaudeに仕事をたのんでも、最初から思ってた答えが返ってくるとは限りません。。
「もう少し短くしてください」
「この数字も入れてください」
「前回と同じ形式にしてください」
「出典が足りません」
「この部分だけ書き直してください」
何度かやり取りすると、ようやく仕事で使えるものになります。
ここで、一つ疑問が浮かびます。
この確認と修正を、毎回人間が一つずつ指示し続ける必要はあるのでしょうか。
今回解説するLoop Engineeringは、AIとのやり取りそのものをなくす考え方ではありません。人間がその都度行っている確認や修正を、最初から仕事の手順に組み込む考え方です。
AIが作る。決めた条件と照らし合わせる。足りない部分だけを直す。それでも解決しなければ、人間に戻す。
こうして、行き当たりばったりだったやり取りを、毎回同じ基準で進められる仕事の型に変えます。
Loop Engineeringとは何か
Loop Engineeringは、次のように説明できます。
AIに一回ずつ指示する代わりに、目的、材料、確認方法、やり直す条件、終わる条件、人間が確認する場所を先に決めておく考え方です。
もっと短く言えば、AIに毎回口頭で指示するのではなく、仕事の進め方とチェック方法を先に決めておくことです。
ここで注意したいのが、この言葉の由来です。
Loop Engineeringは、Anthropicが公式の新しい方法論として発表した名称ではありません。
今回の調査で確認できた範囲では、2026年6月にソフトウェア開発者で著述家のAddy Osmaniが、この言葉を使って考え方を整理しました。その後、Business Insiderなどが取り上げ、AnthropicでClaude Codeを率いるBoris Chernyの実践とともに紹介したことで知られるようになりました。
一方、Anthropicはそれ以前から公式資料の中で、仕事を小さく分けること、結果を評価すること、長い作業の途中経過を引き継ぐこと、使える場所を制限すること、条件を満たすまで繰り返すことなどを説明してきました。
つまり、名前は新しいものの、中身はこれまで積み上げられてきたAIの仕事設計に近いのです。突然現れた、まったく新しい技術ではありません。
一件の依頼票と、毎月使う業務手順書
普通のプロンプトは、今日の一件をどう処理してほしいかを書いた依頼票です。そして、Loop Engineeringは、同じ仕事を毎回どう進め、どこで検品し、問題があればどこまで戻るかを決めた業務手順書です。
営業報告書を例にすると、一件の依頼票は次のようになります。
この売上表を分析して、営業報告書を書いてください。
これでも下書きは作れます。
ただし、数字が合っているか。根拠のない説明が混ざっていないか。前回と同じ形式になっているか。人間が一つずつ確認し、その都度AIへ伝えなければなりません。
Loopでは、先に次の進め方を決めます。
- 当月の売上表と前月の売上表を読む
- 年間目標との差を確認する
- 前月との差が大きい項目を三つ挙げる
- 数字と文章が一致しているか確認する
- 資料にない原因を事実のように書かない
- 前回の報告書と同じ見出しを使う
- 数字が違えば集計まで戻る
- 根拠がなければ該当部分だけ書き直す
- 二回直しても解決しなければ人間へ戻す
- 上司への提出は人間が行う
プロンプトは、一回の仕事を頼むものです。
Loopは、作成、検品、手直し、打ち切り、承認までを含む仕事の決まりです。
長いプロンプトを書くだけではLoopになりません。完成の条件と、間違ったときの戻り先が決まっていることが重要です。
ケース1:毎週の情報収集
営業企画やマーケティング、経営企画では、毎週のように業界ニュースを探します。
単に毎週月曜日に同じ検索を実行するだけなら、決まった予定の実行です。
Loopでは、出てきた結果を見て、次の行動を変えます。
- 新しい情報を探す
- 古い記事や重複を除く
- できるだけ元の発表や公式資料を優先する
- 重要な話題を三つに絞る
- 根拠となるリンクがあるか確認する
- 足りなければ追加で調べる
- 人間が重要度とコメントを確認する
- 社内共有は人間が行う
情報が少なければ追加で探します。同じ話題が重なっていれば整理します。根拠がなければ、その項目は外すか、もう一度調べます。
決まった時間に動くことより、結果を見て次の行動を変えることがLoopの特徴です。
ケース2:毎月の営業報告書
毎月の営業報告書には、次の材料を使います。
当月の売上表、前月の売上表、年間目標、報告書のひな型、前回上司から受けた指摘です。
AIには、集計、前月との差の発見、文章の下書き、形式の確認を任せます。
人間には、数字の最終確認、原因の判断、来月の方針、上司への提出を残します。
まずAIが数字を集計します。元のExcelと合わなければ、文章を直す前に集計まで戻ります。
数字が合ったら、差が大きい項目を抜き出します。
次に説明文を作ります。ただし、売上が落ちた理由をAIが勝手に決めてはいけません。資料に根拠がなければ「要確認」とします。
説明に根拠がなければ、その部分だけを書き直します。
二回直しても数字や説明が合わなければ、人間へ戻します。来月の方針は、営業現場の事情を知る人が決めます。上司への提出も人間が行います。
ケース3:顧客アンケートから改善案を作る
顧客アンケートの自由記述を読む仕事にも、Loopを使えます。
- 自由記述を似た内容ごとにまとめる
- 多かった意見を数える
- 深刻な問題を分ける
- 改善案を作る
- 改善案がどの顧客の声から出たのか確認する
- 元の声と結びつかない改善案は削る
- 採用する案は人間が決める
AIは、もっともらしい改善案を増やすことがあります。
そこで、「その案は、どの顧客の声から出たのか」を必ず確認します。
元の声に戻れない改善案は、いったん削ります。AIの発想力より、元の材料とのつながりを優先します。
Loopを作る前に決める六つのこと
Loop Engineeringを、難しい設計手法として考える必要はありません。
仕事を頼む前のチェック項目だと思えば十分です。
1.何を終わらせたいか
「売上を分析する」では曖昧です。
「前月との差が大きい商品を三つ挙げ、理由の候補と確認すべき点を報告書にする」のように、完成の形を決めます。
2.何を材料にするか
Excel、過去の報告書、会議メモ、公式資料など、AIが使ってよい情報を決めます。
使ってはいけない資料も決めておきます。
3.どうなれば合格か
「いい感じ」では確認できません。
- 数字が元のExcelと一致している
- 根拠のない説明がない
- 指定の見出しがそろっている
- 重要項目が三つ以内にまとまっている
- 出典のリンクが付いている
人が見て確かめられる条件にします。
4.不合格なら何を直すか
数字が違えば集計部分へ戻る。出典が足りなければ調査部分だけ追加する。見出しが違えば形式だけ直す。
全部を最初からやり直すのではなく、足りない部分だけを直します。
5.何回で打ち切るか
AIが同じ失敗を繰り返すことがあります。
二回または三回で止め、人間へ戻すと決めておきます。
6.どこで人間が確認するか
公開、送信、削除、購入、契約、採用、金銭、顧客対応などは、人間が最後に確認します。
戻せない操作ほど、人間を挟む。
これが基本です。
Loopはどこに書けばよいのか
最初は、WordやGoogleドキュメント、メモ帳で構いません。
普通のチャットで仕事を一度行い、AIが間違えた場所と、人間が出した修正指示を書き留めます。
仕事が完成したら、AIに次のように頼みます。
今回行った仕事を、次回も同じ方法で進められるLoop設計メモにまとめてください。
目的、使う資料、作業手順、完成条件、確認方法、修正方法、停止条件、人間が確認する場所を入れてください。
AIが作ったメモを人間が確認し、足りない条件を加えます。
ただし、メモを作っただけでは、次回も確実に使われるとは限りません。
そこでProjectを使います。
ProjectはLoopを動かす仕事場
Projectは、同じ仕事に関係する資料や会話をまとめておく仕事場です。実際の運用では、三つに分けると分かりやすくなります。
Projectの指示欄
ここには、毎回必ず守る短いルールを書きます。
たとえば月次営業報告なら、次のような内容です。
資料にない原因を事実として書かない。
重要項目は三つ以内にする。
修正は二回までとする。
上司への提出は行わず、人間の確認待ちで止める。
仕事場の壁に貼った注意事項のようなものです。
Projectの資料置き場
ここには、詳しいLoop設計メモや、判断に使う資料を置きます。
- 報告書のひな型
- 良い完成例
- 年間目標
- 前回の完成版
- 上司から受けた指摘
- Loop設計メモ
ChatGPTでは「情報源」、Claudeでは「プロジェクトナレッジベース」と呼ばれています。
ChatGPTでは、会話の中で作った良い回答をProjectの資料として保存する仕組みがあります。Claudeでは、次回も確実に参照させたい内容を、会話に置いたままにせずナレッジベースへ追加する運用がより重要です。
毎回のチャット
毎月の仕事は、同じProjectの中に新しいチャットを作って実行します。
たとえば「2026年7月営業報告」というチャットを作り、その月だけ使う資料を渡します。
- 7月の売上表
- 6月の売上表
- 7月の会議メモ
- 今月の特記事項
そして、次のように頼みます。
Projectの指示とLoop設計メモに従って、7月の営業報告を作成してください。
まず必要な資料がそろっているか確認してください。
条件を満たさない場合は二回まで修正し、解決しなければ人間へ戻してください。
上司への提出は行わず、確認待ちで止めてください。
つまりProjectでは、次のように役割を分けます。
- 指示欄は、毎回守る注意事項
- 資料置き場は、手順書と見本
- 毎回のチャットは、今月の作業記録
一つの長いチャットを延々と使うより、週別、月別に新しいチャットを作るほうが、どの資料で何を作ったのか追いやすくなります。
改善はチャットの中だけで終わらせない
7月分の報告書で、AIが売上高と受注額を混同したとします。
その場で直すだけでは、翌月も同じ間違いをするかもしれません。
仕事が終わったあと、AIに次のように頼みます。
今回、人間が修正した内容を一覧にしてください。
来月以降も必要なルールと、今回だけの修正を分けてください。
恒久的に必要なルールは、Loop設計メモへの追記案にしてください。
人間が内容を確認し、正しければLoop設計メモを更新します。
たとえば、次の一文を加えます。
売上高と受注額を混同しない。報告書では売上高だけを使用し、参照した列名を確認結果に記載する。
短く、毎回必ず守らせたい内容なら、Projectの指示欄にも加えます。
チャット履歴は実行記録であり、業務手順書ではありません。
次回も確実に使いたい学びは、指示欄かLoop設計メモへ移します。
Skillは、複数の仕事場で使う共通マニュアル
Projectで同じLoopを二回、三回と使うと、毎回変わらない部分が見えてきます。
- 必要な資料を最初に確認する
- 数字を元の資料と照合する
- 根拠のない説明を書かない
- 指定のひな型に合わせる
- 二回で止める
- 提出前に人間へ戻す
この共通部分を、別のProjectでも使えるようにしたものがSkillです。
たとえば、東京、大阪、福岡の三つの営業部があるとします。
Projectは三つ作ります。
- 東京営業部の月次報告
- 大阪営業部の月次報告
- 福岡営業部の月次報告
売上、目標、上司の指摘は、営業部ごとに違うからです。
一方、「月次報告をどう作るか」は共通です。
そこで、共通の手順だけを「月次営業報告Skill」にします。
Projectには、この部署についての情報を置く。
Skillには、月次報告をどう作るかを置く。
毎月変わるExcelや会議メモはSkillへ入れません。変わらない手順、完成条件、確認方法、修正方法、停止条件を入れます。
利用できるSkillの作成方法や対象プランは、ClaudeとChatGPTで異なります。
Claudeでは、簡単なSkillなら文章中心で作成でき、個人向けを含む広いプランで利用できます。ただし、登録時には専用のファイルとしてまとめる作業が必要になる場合があります。
ChatGPTでは、会話や編集画面からSkillを作る仕組みが案内されていますが、独自Skillの提供は現時点では組織向けプランの情報が中心です。個人利用者が全員同じように使えるとは限りません。
そのため、最初からSkillを使う必要はありません。
Projectの指示欄とLoop設計メモだけでも、Loopは十分に始められます。
Skillが役立つのは、同じ進め方を別の案件、別の部署、別の担当者でも使いたくなったときです。
PC上の作業まで任せる段階
ProjectやSkillでは、基本的に人間が必要なファイルを選んで渡します。
PC内のフォルダから必要なファイルを探す。複数のExcelをまとめて読む。結果を別のファイルとして保存する。そこまで任せたい場合は、Claude CodeやCodexなどを検討します。
これらは、PC上で実際に作業する担当者に近い道具です。
Skillが作業マニュアルなら、Claude CodeやCodexは、そのマニュアルを見ながらファイルを扱う担当者です。
ただし、普通のチャットより設定や安全管理が難しくなります。会社員が最初に使う必要はありません。
人間の役割はなくならない
Loop Engineeringによって、人間が不要になるわけではありません。
人間の役割は、毎回同じ細かな指示を出す作業から、次の仕事へ移ります。
- 何を達成するか決める
- どの資料を使うか選ぶ
- 何を良い成果とするか決める
- AIの結果を評価する
- 重要な判断を下す
- 外部へ出す前に承認する
- Loopそのものを改善する
人間は作業者から、編集長や監督に近づきます。
ただし、責任が軽くなるわけではありません。目的や評価基準を考える責任は、むしろ重くなります。
間違った基準を渡せば、AIはその間違いを効率よく繰り返してしまいます。
失敗の形と安全策
AIは自信を持って間違えることがあります。自分の成果を甘く評価することもあります。
間違った前提を次の作業へ引き継ぐ。何度直しても同じ失敗をする。実行回数と費用だけが増える。似たような文章を大量に作る。個人情報や社内情報を誤って渡す。間違ったメールや資料を外部に送る。
そうした問題も起こり得ます。
安全に始めるには、次を守ります。
- 頻度が高く、間違えても戻せる仕事を選ぶ
- いきなり送信や公開まで任せない
- 削除、契約、購入、採用、金銭移動は人間が確認する
- 最大の試行回数を決める
- 作業履歴を残す
- 個人情報や機密情報は社内ルールを確認する
- AIの結果を元データや別の資料と照合する
- うまくいくまでは手動で回す
Loop Engineeringに向かない仕事
何でもLoopにすればよいわけではありません。
一度しか行わない仕事、毎回条件がまったく違う仕事、良し悪しを人間も判断できない仕事には向きません。
ミスの影響が非常に大きい仕事も慎重に扱う必要があります。
個人情報や機密情報を多く含む仕事、法務、医療、採用、経理などで人間の確認を置けない仕事は、安易にLoopへ入れるべきではありません。
自動化する準備のほうが、元の作業より大変になる場合もあります。
まずはシンプルな方法で十分ではないかを考えてください。
今日から最初のLoopを作る
- 毎週または毎月、繰り返している仕事を一つ選ぶ
- 普通のチャットで、その仕事を一度行う
- どこでAIが間違えたかをメモする
- 完成の条件を五つ以内で決める
- 不合格だった場合の直し方を決める
- 二回または三回で止めると決める
- 公開や送信の前に人間の確認を置く
- うまくいったらProjectの指示欄と資料置き場へ残す
- 数回使って手順が固まったら、必要に応じてSkillにする
- PC上の処理まで必要になったらClaude CodeやCodexを検討する
最初に選ぶなら、毎週の情報収集、月次報告書の下書き、アンケートの整理などが向いています。
頻度が高く、元の資料と結果を比べやすく、間違えても公開前に戻せるからです。
よくある誤解
プロンプトはもういらないのですか
いいえ。指示や合格基準は必要です。
減るのは、毎回同じ修正指示を人間が一つずつ入力する作業です。
完全に自動化しないと意味がありませんか
いいえ。
人間が確認と修正を行う手動Loopから始めるのが現実的です。
プログラムを書けなくてもできますか
できます。
普通のチャットとProjectを使えば、手動または半自動で始められます。
AIが間違えるなら、Loopにする意味はありますか
間違えるからこそ、確認方法、やり直し、停止、人間承認を先に決めます。
Claude CodeやCodexを使わないとLoop Engineeringではありませんか
いいえ。
普通のチャットやProjectの中で、人間がLoopを回すところから始められます。
何をもって完成とするか
Loop Engineeringは、AIへ仕事を丸投げするための技術ではありません。
AIが何を見て、何を行い、どう確認し、どこでやり直し、いつ人間へ戻るのかを決める考え方です。
大切なのは、AIを何度も動かすことではありません。
何をもって完成とするかを、人間が決めることです。
最初からClaude Codeや複雑な自動化に進む必要はありません。
まずは普通のチャットで、繰り返している仕事を一つ選びます。完成条件と確認方法を決め、二回ほど回してみます。
うまくいけばProjectの指示欄と資料置き場へ残します。
別の仕事でも同じやり方を使いたくなったらSkillを検討します。
PC上のファイル処理まで必要になったら、そのときにClaude CodeやCodexへ進めば十分です。
この記事で伝えたかったこと
Loop Engineeringは、AIを放置して働かせる方法ではありません。目的、合格条件、やり直し方、停止、人間の承認を先に決め、確認と修正を安全に回しやすくする考え方です。































