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  • 書評|天才は回り道をしながら遅れてやってくる|”Range” by David Epstein

    書評|天才は回り道をしながら遅れてやってくる|”Range” by David Epstein

    幼年期からの英才教育。タイガー・ウッズやチェスのポルガー姉妹のように特定の分野を小さなころから徹底的にやりこんだ天才たちを例にとって、専門教育に取り組むケースがあるようです。さらに、マルコム・グラッドウェルの『天才! 成功する人々の法則(原題:Outliers)』(本当にダサい日本語訳タイトルだ!)で有名になった一万時間の法則(何かに秀でた人は、その分野で一万時間を使っている)も相まって、なるべく専門分野を決めて、それに集中する傾向に拍車がかかりました。その傾向に異議を唱え、むしろ幅広いスキルを手に入れたほうが何かを成し遂げる可能性が高いと唱えているのが今回紹介する書籍”Range”です。

    この本を書いたデヴィッド・エプスタインはローレンス・レッシグの”America, Compromised”のなかで少し触れられていたProPublicaで調査報道を務める記者ですが、もともとは雑誌『スポーツ・イラストレイテッド』などスポーツ記者でした。本書のタイトルである”Range”は「幅広さ」を意味しますが、彼自身も幅広いキャリアを持っているようです。

    Range: Why Generalists Triumph in a Specialized World (English Edition)

    Range: Why Generalists Triumph in a Specialized World (English Edition)

    マルコム・グラッドウェルが紹介した一万時間ルールでは、専門的なことに時間を費やすと、その分野で頭角を現す可能性が高いと言っています。しかし、幼少期にはサンプリングピリオドという何でもやる期間が重要だとわかってきているそうです。代表的な例はW杯で優勝した2014年ドイツのサッカーチームで、22歳以降に専門的な組織サッカートレーニングを受けた選手が多かったそうです。

    このほかにもトム・ブレイディ(フットボールの前に野球でドラフト入り、野球、フットボール、バスケットボール、空手のどれを専門にするか悩んでいた)ニック・フォールズ(大学までフットボールとバスケットボールのどちらを選ぶか悩んでいた)、エステル・レデツカ(スキーとスノーボードの両方で金メダル。その前はビーチバレーボールとウィンドサーフィン)やワシル・ロマチェンコ(様々なスポーツをやって、最終的にボクサーになる)などの例を挙げています。さすがに元スポーツ記者!

    ポリマスの時代

    この傾向はスポーツに限らず、ビジネスでも同じだそうです。マーク・ザッカーバーグは「若い人たちは単純によりスマートだ」といいましたが、実際には50代の起業家は30代の企業かと比べて2倍の成功している実績があり、急成長しているスタートアップの創業者の平均年齢は45歳なのだそうです(ちなみに、日本は43歳だそうです)。ゆっくりと学ぶのが最も効果的な学習なのだそうです。それは中年でも同じで、早ければいいということではないとのこと。日本のおじさんたちも頑張りましょう。

    前回に紹介したイントラヴァートもそうですが、英語圏でここ最近注目されている単語に博学者(ポリマス:Polymath)があります。ポリマスの代表選手がレオナルド・ダ・ヴィンチですね。最近だとネイサン・ミルボルトなんかまさにポリマスのイメージです。ポリマスは知識だけじゃなくて、技量も熟練している人なので、現代ではスポーツ選手なども含めていいのだと思います。大谷翔平の二刀流も野球に限定してますがポリマスですね。

    AIに駆逐される狭い専門性とAIと補完関係にある広い専門性

    タイガー・ウッズやポルガー姉妹が若い時期からの専門トレーニングの成功例とされています。これはパターンがあるもの(ゴルフ、チェス、消火作業)は経験がスキルと比例するからです。しかし、反復的なパターンが存在するものは例外であって、多くのスキルはパターンがないために経験とスキルが比例しません。

    反復するパターンがあることはAIが得意分野だったりもします。AIがチェスで人間に勝てるのは反復するパターンがあるためです。エキスパートがあるカタマリをパターンとして学習します。カタマリの方がバラバラより覚えやすいからです。たとえば、20の単語を覚える場合、20の単語から構成される文章を覚えるほうが、ランダムな単語を個別に20個を覚えるより遥かに簡単です。

    反復したパターンのレンジが広いほど、人間が得意分野となり、反復したパターンのレンジが狭いほどAIが得意分野となります。ガン治療のような答えのない(つまりパターンがわかっていない)研究分野はAIは手が出ませんGoogleも流行り風邪のトレンド分析をあきらめました。「高度な推論よりも感覚運動スキルの方が多くの計算資源を要する」というモラベックのパラドックスです。

    この本はどんな人にオススメか

    最初の方はすごく面白いのですが、途中からかなり中だるみします。あまりにも冗長なので、途中でやめてしまいました。それでも、最初の出だしはその欠点を補ってあまりある魅力があります。ボク自身も若い頃から専門分野を極めた方がいいし、若ければ若いほど輝くものだと思っていました。

    それでもボクが学ぶことを辞めないのは、実際に50歳を過ぎた今でも知識は増えていると感じるし、ギターも弾けるようになったし、自分が作る新しいオリジナルカレーは美味しいし、新しいインスピレーションが湧いてくるからです。少し落ち着いたら今度はロングボードやろうと思ってます。まあ、若い人にはかなわないかもしれないけど、自分自身が実感できているんだからいいやと。

    でも、こうやって研究結果を見せられると、なるほど、いつから学びはじめてもいいし、ゆっくりやればいいんだと励みになります。そういった意味で、ボクみたいなおじさんが読むと元気になると思います。

  • 書評|GoogleやFacebookをみる新しいレンズとしての監視資本主義|”The Age of Surveillance Capitalism” by Shoshana Zuboff

    書評|GoogleやFacebookをみる新しいレンズとしての監視資本主義|”The Age of Surveillance Capitalism” by Shoshana Zuboff

    ここ数年、AIの危険性やGAFAの過度の影響を警戒する書籍がベストセラーに増えてきました。例えばキャシー・オニールによる”Weapons of Math Destruction“(邦題『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』)は現場で実際にプロジェクトに携わっていたデータサイエンティストからの視点での警告でした。

    しかし、やはりトランプ政権の誕生やイギリスのEU離脱にまで影響を及ぼしたと言われるケンブリッジ・アナリティカのFacebookのデータ不正流用事件は大きな衝撃でした。テクノロジーを民主主義の敵として捉えたジェイミー・バートレットの”The People vs Tech“(邦題『操られる民主主義: デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか』)のような民主主義との対立構造はその影響下にあるでしょう。

    しかし、こういった状況をどう捉えたらいいのでしょうか?これまで私たちが経験しなかった状況です。今回紹介するショシャナ・ズボフの新著”The Age of Surveillance Capitalism“はいま起きている時代のシフトを「監視資本主義」として捉え、GoogleやFacebookをその先鋒として位置づけ、新しい見方を提供しています。今年ははじまったばかりですが、おそらく今年のベスト10に入ることは確実の力作です。

    監視資本主義: 人類の未来を賭けた闘い

    監視資本主義: 人類の未来を賭けた闘い

    • 作者:ショシャナ・ズボフ
    • 東洋経済新報社

    Amazon

    The Age of Surveillance Capitalism: The Fight for a Human Future at the New Frontier of Power

    The Age of Surveillance Capitalism: The Fight for a Human Future at the New Frontier of Power

    資本主義の三段階のモダン化

    ショシャナ・ズボフによれば、資本主義はこれまで三段階のモダン化が実現されています。最初のモダン化はFordによる大量生産。第二段階はAppleによるデジタル化。日本語的に言えば「モノからコトへ」が第二段階でした。そして、現在進行中なのが第三段階で、これがGoogleからはじまった「監視資本主義」です。

    • 最初のモダン化でFordは生産で革命を起こしました。
    • 次のモダン化でAppleはiPodとiTunesで物理的な制約から資本主義を解放しました。
    • 三段階目のモダン化でGoogleは抽出に革命を起こしました。

    抽出とは原材料の抽出です。そして監視資本主義における原材料とは人の行動データです。そして、抽出したデータを予測サービスに組み込み、さらにこれらのデータは市場で売買されます。さらに、ユーザーの行動にまで影響を与えます。つまり、行動データの抽出プロセスの自動化だけでなく、行動自体に影響を与えて自動化しようとします。

    監視資本主義のはじまりとしてのGoogle

    Googleで行動データはあまり利用されていませんでした。その価値に最初に気づいたのはアニット・パテルだと言われています。アニットは当時は利用されていなかったクリックパターンなどの行動データに着目し、検索結果を学習し、サービス改善できることに気づきました。

    この段階では、個人の行動データはサービス改善に役立てるだけ、監視資本主義ではありませんでした。行動データの価値はサービスに再投資されていたのです。実際に当時のGoogleはマネタイズの道を必死に探している最中でした。最初のマネタイズはYahooや日本のBiglobeとのパートナーシップやスポンサーキーワード広告でしたが、ドットコムバブルが弾けたため、投資家からのマネタイズへの圧力がさらに高まりました。

    そして、Googleは行動データがサービスの改善だけでなく、利益の改善に役立つことを発見しました。その後はみんなのよく知るGoogleです。Googleストリートビューではじまったプライバシー侵害が四つの段階を経て世の中の批判と規制を回避する術を見つけました。無線データのハッキングとかマジでタチ悪いですけどね。

    第一段階:侵入(incursion)

    第二段階:習慣(habituation)

    第三段階:適応(adaptation)

    第四段階:回避(redirection)

    このGoogleのやり方はのちにFacebookなど他の監視資本主義を代表する企業に採用されるようになります。

    失われた機会

    通信品位法230条は監視資本主義が生まれる前に成立した法律です。この法律により、多くのプラットフォーマーはコンテンツのパブリッシャーではなく、図書館のような仲介者だと位置付けられました。

    しかし、プライバシーの侵害による懸念が高まる中、その見直しの動きがはじまった矢先に起こったのが911です。プライバシーよりセキュリティが政治的な優先事項となり、GoogleとCIAなど政府機関など蜜月がはじまります。その代表例がIn-Q-Telですね。スノーデンの告発で明るみに出たNSAのプリズムのような監視プログラムなどもGoogleやFacebookをはじめとする監視資本主義の代表企業の協力があってこそです。

    GoogleやFacebookもロビー活動や献金を通じて、政府の方向が規制に向かないように投資を増やしていきました。本来規制する側の政府を抑えられてしまっては、歯止めを利かせるのはなかなか難しくなってきます。

    不可避主義の嘘

    監視資本主義の企業の常套句に「技術の進歩のためには不可避」という不可避主義があります。利便性を享受したいなら、プライバシーに関してある程度譲歩する必要があるという主張です。

    これは日本の識者からもよく聞かれる主張ですよね。利便性の向上のためなら自ら積極的に行動データを提供したい。もちろん、そういう人たちもいますし、そういう人たちは積極的にデータを提供して利便性を享受すればいい。しかし、そうでない人もいるにもかかわらず、その人たちに選択する権利がないことが「不可避主義」の問題です。

    忘れられる権利を認めることはプラットフォーム企業から人々が権利を勝ち取った事例の一つとなりました。そして、GoogleやFacebookのような行動データを集めてそれを売買することで商売にしている監視資本主義の代表的な企業が主張する「技術の進歩のためには不可避」は真実ではなかったことがわかった事例でもありました。人々は技術の権利を失ったのではなく、民主主義のルールに沿った手続きを踏めば自らの権利を主張して行使できることがわかりました。

    GDPRやクッキー法もそうですが、欧州を中心としてこのような監視資本主義に対する規制が強化されてきています。たとえば、Android端末にGoogleアプリをプレインストールを強要するのは独禁法違反ということで日本円にして約5700億円の制裁金が課せられる判決が言い渡されました。もちろん、欧州にはアメリカ企業の独占に対する政治的な意図もあるでしょう。しかし、大切なのはプラットフォーム企業だからと言って人間が持つ基本的な権利を「技術的に不可避」だという理由で放棄することを強要することはできないということです。

    人質戦略と読む気のしないくらい長く複雑な利用許諾

    「そういうものだから仕方ない」という不可避主義のほかに監視資本主義の企業が使う手口が人質戦略です。ユーザーの位置を示すロケーションデータやCookieなどの行動データの取得を無効にした場合、ほとんどの機能を使えなくすることが多い。これは不可避論にも通じるものがあります。もちろん、そもそも使いたい機能なのか?というのはありますよ。サムソンビジオのスマートテレビから会話を録音してニュアンスに売っているとか、バービー人形の家から子供の行動データを取得するとか実際に行われています。

    でも、そのような商品を購入としたとして、すべての価値を享受するには行動データのトラッキングを受け入れなければいけないというのはいかがなものかということです。

    また、そのような行動データが取得される場合は本来ならユーザーの同意が必要になるのですが、これを規定する利用許諾やプライバシー規定が読む気がなくなるくらい長く、理解しにくいという問題もあります。悪く言えばけむに巻くような戦略がとられていて、それが認められてしまっているというのが現在です。

    この本はどんな人におすすめか

    特に事情通を自任する方には読んでいただきたい書籍です。ひょっとしたらもうすでに理解されているかもしれませんが、「利便性のためには多少のプライバシーは犠牲にすべき」というのが一方的な主張だという知識はアップデートしたほうがいいでしょう。それを選択する権利はGoogleやFacebookではなく、人間にあるという考え方が広まりつつあります。

  • 世界をリードする中国のAI企業:アイフライテック

    世界をリードする中国のAI企業:アイフライテック

    MIT Technology Reviewが2017年に発表した最もスマートな企業には多くの中国企業がランクインしました。ちなみにアメリカ企業がトップのNvidiaを含む最多で31社。中国企業は7社で2位でした。残念ながら日本企業はランクインしていません。

    そして、中国企業の中でテンセントを抑えてトップになったのはアイフライテック(iFlytek|科大讯飞)でした。世界では6位で、アップルやフェイスブックより上位となりました。*1

    アイフライテックは日本ではあまり馴染みがないかもしれません。しかし、創業は1999年で、すでに20年近い歴史があります。

    大学時代:若く頭角を表す

    アイフライテックはリュウ・チンフェン(刘庆峰)と中国科学技术大学(USTC)で出会った5人の共同創業者によって設立されました。

    大学時代のリュウ・チンフェンは中国語の言語解析の分野において飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍をします。

    リュウ・チンフェンは中国のマイクロソフト・リサーチ時代のカイ=フー・リーに社員としてボイスAIに従事するよう誘われていましたが、それを固辞して1999年にアイフライテックを創業します。1992年に中国科技大学と国家人工知能研究開発センター(国家智能计算机研究开发中心)が共同で設立した「人間とコンピューターとのコミュニケーションに関する実験室(人机语音通信实验室)」に参加して以来、人工知能による人間とコンピューターの研究に従事するようになります。そして、様々な賞を受賞して、スカラシップを獲得します。

    起業当時:研究とビジネスのギャップに苦しむ

    アイフライテックは当初はコンシューマー向けの商品を開発していました。2000年に最初のプロダクトである「チェンヤン2000(畅言2000)」を発表します。これは音声認識ソフトで、パソコンで音声を取り込んでテキストに変換するというものでした。価格は2000人民元(現在のレートの日本円で約33000円)で、個人が買うには非常に高価でした。

    リュウ・チンフェンは技術者なので経営には興味がなく、CEOのポジションもどちらかといえば消極的に受け入れていました。ビジネス的にも経営的にもうまくいかず、お金はみるみるうちに無くなっていきます。人工知能からピボットすることも検討され、不動産業に変えたほうがいいのではないかという意見が出たくらいでした。

    飛躍:出会いとピボット

    財政面でのアイフライテックの危機を救ったのは中国のベンチャーキャピタルのレジェンドキャピタル(君联资本)とレノボの創業者でリュー・チュアンジー(柳传志)でした。

    ビジネスもB2CからB2Bに転換しました。ファーウェイやレノボで利用されている音声認識機能はアイフライテックが技術提供をしているものです。

    中国政府はAI大国となるための三カ年計画「促进新一代人工智能产业发展三年行动计划」を発表しましたが、その一翼を担うのがアイフライテックです。医療分野がテンセント、スマートシティーがアリババ、クルマの自動運転がバイドゥで音声認識がアイフライテックの担当分野です。中国政府のお墨付き企業というわけです。

    オバマ前大統領やトランプ大統領のスピーチではアイフライテックの技術を使った英語→中国語の音声翻訳が利用されました。中国に要人が来た時にスピーチをするときにアイフライテックの技術を使うのは定番になってきましたね。

    www.youtube.com

    実は人の手を借りているのではないか疑惑

    中国はライバル同士で足の引っ張り合いをすることで有名です。「生き馬の目を抜く」は中国のスタートアップシーンを表す表現としてとてもふさわしい気がします。飛ぶ鳥を落とす勢いのアイフライテックも例外ではなく、様々な批判にさらされます。最近ではAIだけではなく人の手も借りているのではないかという疑惑です。

    ベル・ワンが知乎に投稿した公開書簡によると、彼はアイフライテックにやとわれた同時通訳チームの一員だったそうです。同時通訳をAIでやるってスゲーと思っていたのですが、人の助けがあったのなら納得。アメリカ大統領などの要人のスピーチとなればなおのことでしょう。

    これが真実なのかライバルによる罠なのかはわからないですが。

    参考文献

    我有嘉宾之对话刘庆峰:中国最聪明公司的DNA-脱口秀-高清正版视频在线观看–爱奇艺

    科大讯飞刘庆峰9年制造3个亿万富翁 中国科学技术大学新闻网

    科大讯飞:期待语音市场高成长还要熬两三年 | 客户世界

    刘庆峰_百度百科

    畅言2000让你“畅所欲言”

    科大讯飞,你的AI同传操(qi)作(zha)能更风骚一点吗 – 知乎

    iFlytek: China’s Nuance and Siri?

    iFlytek’s journey from the bottom to the top of China’s voice AI industry · TechNode

     

    *1:ただ、WebサイトにAdobe Flashを使っているのが非常にイケてないのですが……

  • 書評|OMOの生みの親が至るAIと愛の境地|”AI Superpowers” by Kai-Fu Lee

    書評|OMOの生みの親が至るAIと愛の境地|”AI Superpowers” by Kai-Fu Lee

    頭のいい人はフレームワークで考えて整理整頓するのが非常に上手です。今回紹介する”AI Superpowers”の著者であるカイ=フー・リーもその例に漏れず、AIを中国とシリコンバレーで比較するという入り組んだ題材をうまく整理しています。OMOというキーワードが日本でも話題になりつつありますが、その考え方の生みの親です。

    また、自身のガン闘病生活を通じて「何が大切なのか」を改めて学んだ視線は無味乾燥なロジカルだけの分析とは一線を画するものです。今のところ2018年に読んだ本の中ではベストですね。

    AI Superpowers: China, Silicon Valley, and the New World Order

    AI Superpowers: China, Silicon Valley, and the New World Order

     

    この本は大きく分けて二つに分けることができます。前半はAIに必要な要素を一つづつ検証し、中国がいかにシリコンバレーに対して競争力があるかを分析しています。

    AIの発展に必要な4つの要素

    まず、大前提として、AIはすでにブレイクスルーはある程度出尽くして、いかに実行していくかという段階に入っているとしています。カイ=フー・リーの見立てでは次のブレイクスルーが起きるまで数十年かかるそうです。ブレイクスルーが必要な段階では基礎研究が強い欧米が強いが、既存のアイデアを実行に移す場合は中国に利があると分析しています。

    そして、実行の段階において、カイ=フー・リーはAIの発展には以下の四つの要素が必要だと説きます。

    • 起業家
    • データ
    • エンジニアリング
    • 政府のサポート

    中国の起業家

    まずは起業家。カタパルトスープレックス でも中国のスタートアップをたくさん紹介してきました。この本でもトウティアオ(头条)シャオミー(小米)メイトゥアン(美团)がどのように模倣からオリジナルにたどり着き、激しい競争を勝ち抜いてきたかを描いています。シリコンバレーがテクノユートピアンで理想主義だとしたら、中国はテクノユータリタリアンで実利主義だとします。

    理想主義はオリジナルのアイデアを大切にして、模倣は悪とします。これがシリコンバレー流。実利主義は競争に勝つことが大切で、模倣をよしとします。トウティアオもメイトゥアンも多くの模倣者を蹴散らして今の地位があるわけですものね。

    データは中国が有利

    アリババやテンセントの例を見てもわかるように、中国ではデータが急速に蓄積され、AIに絶えず供給されています。アメリカのプラットフォーマーはGAFA、中国のプラットフォーマーはBATと呼ばれています。

    カイ=フー・リーはグーグル、アマゾン、フェイスブック、(アップルではなく)マイクロソフトにアリバババイドゥテンセントの7社をAIの7人の巨人と呼んでいます。この巨人たちが発電所と送電線のようなグリッドアプローチだとしたら、スタートアップは乾電池のようなバッテリーアプローチだとしています。

    発電所と乾電池のどちらのアプローチが最終的に勝利するのかはわかりません。大量のデータでより一般的なAIを実現するのか、よりニッチなデータである分野に特化したAIを実現するのか。どちらのアプローチも正しい可能性があります。

    この辺くらいまではカタパルトスープレックス の中国系の記事を読んでいる人にとってはあまり新しい発見はないかもしれません。しかし、カイ=フー・リーの真骨頂はここからです。

    OMOとAIの4段階の進化

    日本でもOMO(Online Merge Offline)が話題になっていますが、このコンセプトはカイ=フー・リーが打ち出したものです。これまでのO2O(Online to Offline)と比べ、デジタルとリアルの境界線はOMOでは非常に曖昧になります。

    OMOを理解するためにはAIの4段階の進化を理解する必要があります。

    • インターネットAI
    • ビジネスAI
    • パーセプションAI
    • オートノマスAI

    インターネットAIとはGoogleの検索語のサジェスチョンやAmazonのレコメンデーションを指します。インターネット企業の源泉ですね。トウティアオのAI記者やフェイクニュースの検知もこの分類に含まれます。

    ビジネスAIとはAIの分析を実際のビジネスに結びつけることを指します。例えば、保険のリスク評価や銀行の貸し出しのための与信などです。AlipayやWeChat Payによる信用経済はどはここに当てはまります。

    ここまでがO2Oの世界です。

    パーセプションAIからOMOの実現が可能になります。パーセプションとは認知ですね。視覚や聴覚、味覚などです。センサー技術で取得した画像や音声などのデータをAIが高度に理解することによりパーセプションAIが実現されます。

    Amazon Goはそのいい例ですね。Amazon Goなどのレジなし店舗はこれまでのRFIDでのモノの管理ではなく、カメラによる画像データをAIで解析することにより、モノだけでなくヒトも認識します。リアルの世界をセンサーによって視覚や聴覚を持ったAIが理解することによってOMOが実現されます。

    オートノマスAIは自律化するAIです。代表例は自動運転のクルマですね。この自律化はクルマだけにとどまりません。例えば工場。工場はかなり高度に「自動化」されていますが「自律化」はされていません。現在はAIが需要を予測して自律的に生産計画を変更してラインを組み立てたりはできていません。

    また、いちごが熟して収穫に最適かどうかを判断は人の目で判断する必要がありますが、これをセンサーで感知して自律的にいちごを収穫するTrapticのようなスタートアップも出はじめています。

    人とAIの共存

    前半のロジカルなカイ=フー・リーも素晴らしいのですが、ボクは後半の人間らしい部分に特に引き込まれました。前半は中国とシリコンバレーを比べて中国の優位性を熱心に説いています。そのロジックは理解できるものの、勝ち負けで分けるようなものでもないだろうと思ってしまう部分もあります。しかし、後半は中国とかシリコンバレーとかではなく、世界のどこの国も果たすことのできる役割があると。え?本当に前半と後半は別人間が書いてる?というくらい。

    前半は台湾で生まれ、アメリカで育ち、アップル、マイクロソフト、グーグルとアメリカ企業の出世競争を勝ち抜いてきたアジア人特有のアグレッシブさが前半ににじみ出ています。アメリカ企業がいかにアジア市場を理解しようとせず、アメリカ流こそグローバル流として押し付けてきたことに反感を覚える気持ちも、同じ環境にいたものとして理解できます。

    しかし、ガンと診断され余命僅かと宣告されてから彼の物事の見方が大きく変わります。カイ=フー・リーはいわゆる「仕事人間」でした。長男誕生の時も当時のアップルCEOとのジョン・スカリーへのプレゼンが気になって仕方なかった。付き合う人間も「自分にとっての価値」を考えて選別していました。仕事の効率こそが善。機械のような考え方をしていたそうです。

    後半は前半とかなりトーンが変わります。アグレッシブで競争が大好きな面は薄れ、人間として何が大切なのか、そのためにどうやったらAIと共存できるのかを様々な側面から検討します。もちろん、現時点で答えはありません。しかし、AIと人間の違いは「愛すること、愛されること」の喜びだという慧眼はガン闘病生活を経て得るに至った境地ですよね。

  • インターネットのビジネス再入門|後編:消えるデジタルとリアルの境界線

    インターネットのビジネス再入門|後編:消えるデジタルとリアルの境界線

    これまでのおさらい

    第一回の『インターネットの広告をちゃんと理解する』ではインターネットのビジネスの側面を支える広告について改めて振り返りました。インターネットが「道」であれば、情報やサービスは「クルマ」、そして広告はその「燃料」であり「石油」だと解説しました。そして、お金を対価として支払う代わりに、インターネットでは個人情報とサービスを対価交換していることを確認しました。

    第二回の『インターネットの「石油」を規制する動き』では個人情報の取得が制限されつつあることを解説しました。個人情報の取得には二種類あって、一つはFacebookなどIDでの取得、二つ目がCookieによる行動データの取得でした。ケンブリッジ・アナリティカによるFacebookデータ流出事件は広告が悪用されるダークアドの危険性を世に知らしめるものでした。

    今回はデジタルとリアルの境界線が広告の世界でも曖昧になっていくという話です。Buzzword的にはOMO(Online Merge Offline)ですね。規制は続くでしょうが、デジタルビジネスの勢いはそう簡単に止まることはないですし、拡大は続きます。(だからこそ規制が大事なんですが)

    なくなるデジタルとリアルの境界線:プログラマティック

    デジタル広告とリアル広告の最大の違いは個人の嗜好に対応できるかどうかです。個人の嗜好に対応するためにIDやCookie情報が必要なんですものね。リアル広告は個人の嗜好には対応できませんが、不特定多数に一気に配信するためにマス広告と呼ばれたりもします。マスメディアとデジタルメディアの違いと一緒ですね。

    リアル広告をデジタル化するキーワードがプログラマティックです。

    プログラマティックテレビ

    テレビの広告はデジタルでしょうか、リアルでしょうか?昔ながらのテレビ広告はデジタルではありませんでした。デジタルではないので、計測が非常に難しかった。だからニールセンなどが特別な機器を選ばれた世帯に取り付けてもらってサンプル調査をしています。これが、いわゆる「視聴率」です。

    テレビの広告はインターネットのデジタル広告と違って、特定の視聴者の好みに合わせて特定のCMを流すことができません。同じ番組を見ていれば同じCMを見ています。これだとCMの枠は決まってしまっていて、多額の予算を持った企業しかテレビでCMを流すことができません。この問題を解決して、視聴者の嗜好に合わせて様々なCMを流せるようになる仕組みが「プログラマティック広告」です。

    テレビCMを動画広告と考えると、YouTubeの広告とあまり変わりません。Webサイトに埋め込まれた動画広告も同じです。プログラマティックではテレビが広告チャネルとして加えることができるようになります。海外ではプログラマティックの流れはかなり進んでいますが、日本のテレビ局はまだ対応できていません。それでもテレビを含む動画媒体は全てプログラマティックになるでしょう。その時にデジタルとリアルの境界線は無くなります。

    プログラマティックデジタル野外広告(DOOH)

    ブリティッシュ航空がリアルとデジタルを融合した野外広告”Look Ups”を設置して話題になりました。これは実際に見てもらうのが早いでしょう。

    ブリティッシュ航空の飛行機が広告を横切ると、子供が立ち上がり飛行機を指さします。そして、その飛行機のフライト番号までわかります。これがDOOH(Digital Out-of-home|デジタル野外広告)の代表例です。

    このようなデジタル野外広告がテレビと同様にプログラマティック(プログラマティックDOOH)になると個人の嗜好に合わせた野外広告が実現されます。例えば、目の前の人の嗜好に合わせたデジタルショーケースなどです。

  • インターネットのビジネス再入門|前編:インターネットの広告をちゃんと理解する

    インターネットのビジネス再入門|前編:インターネットの広告をちゃんと理解する

    インターネットが道路だとしたら、広告は燃料です。GoogleもFacebookもYouTubeも広告がなければ存在できません。インターネットはマグロのようなもので、動いていないと死んでしまいます。それを動かしているのが広告です。この意味においてAppleやAmazonのようなモノやサービスも広告に依存しています。インターネットという道路に交通量(トラフィック)がなければAppleもAmazonも何も売れないからです。

    インターネットのトラフィックは大きく分ければ以下の四つに分けることができます。

    1. 検索
    2. ソーシャル
    3. 広告
    4. 直接リンク

    1) 検索と2) ソーシャルは広告収入があることが前提でビジネスで提供されています。つまり、1から3まで広告なんです。インターネットという「道路」をコンテンツやサービスという「クルマ」が通るには広告という「燃料」が直接的にも間接的にも必要です。これはモバイルでもほぼ変わりません。App Storeが加わったくらいなものです。

    インターネットは常に脚光を浴びてイノベーションの象徴とされてきましたが、広告は日陰者の邪魔者で悪いニュースがほとんどでした。しかしながら、広告はインターネットの根幹の一部ですので、改めてきちんと理解しておきたいところです。

    電通、デジタル広告で”不適切取引”の裏事情 | 東洋経済オンライン

    オンライン広告の歴史

    最初のオンライン広告:バナー広告

    最初のオンライン広告はアメリカの雑誌Wiredのオンライン版であるHotWiredのローンチのために1994年10月27日に掲載されたバナー広告でした。最初に人気の出たブラウザーのMosaicがリリースされたのが1993年の1月23日ですから、ブラウザー登場から2年弱で最初のオンライン広告が生まれたことになります。

    最初のオンライン広告(クレジット:Wired)

    当時にはまだクリックごとにチャージされるPay Per Clickはなく、バナー広告の設置期間によって広告の価格が決まっていました。当時のオンライン広告は雑誌の延長線にあって、限られた紙面をどれくらい占有するかが価値の測り方だったんですね。

    検索の誕生:GoogleのAdWords

    一番はじめに検索連動型広告を発売したのはOpen Textでした。1996年のことです。しかし、一般的に検索連動型広告を世に広めたのはOvertureでしょう。GoTo.com(Overtureの最初の名前。のちにYahoo!に買収される)が検索連動型広告を発売したのが1998年です。Overtureの検索連動型広告はMSNやYahoo!といった当時の人気ポータルサイトに採用されました。そして、スーザン・ウォシッキーのガレージでGoogleが産声をあげたのが1998年9月4日です。最初のオンライン広告から4年が経過しています。

    インターネットのビジネスにとって重要なのはどれだけのコンテンツやサービスがその道を通るか。つまり交通量(トラフィック)が重要な要素となります。Googleの検索の仕組みであるPageRankは優れいていたので、結果的にオンライン広告の仕組みであるAdWordsはより多くの燃料を生み出すことになりました。

    Googleがどうやって会社を運営する資金を稼いでいるかといえば、この広告収入です。広告収入がなければGoogleという企業自体存在することができません。2017年度のGoogleの売り上げ(2017 annual report)は1110億ドル(約12兆4700億円)ですが、広告売り上げは約86%の953億ドル(約10兆円)です。5年前くらいは95%以上が広告収入だったので、これでも比率としてはだいぶ下がってきましたが、まだまだ大きな割合を占めています。

    ソーシャルの誕生:Facebook Flyer

    ソーシャルといえばFacebookですね。Facebookの売り上げの98%は広告です(2017 annual report)。Facebookは2004年の創業時から広告をビジネスモデルとしてきました。ただ、初期のFacebookは友達のニュースフィードを見ることはできませんので、見た目は随分と違ったものでした。

    Facebookの初期の広告(クレジット:collegewebeditor.com)

    その頃のFacebookの広告がFacebook Flyerでした。その間にニュースフィード(2006年)を発表したり、ソーシャルグラフをベースにしてFarmVilleのようなサードパーティーのアプリケーションにプラットフォームを解放(2007年)したり、Facebook Connect(2008年)で外のサービスと繋がるようにしたり、「いいね」(2008年)を発表してソーシャルプラットフォームとして磨きをかけてきました。2006年からFacebookがMySpaceを追い抜いたのは2009年の三年間がFacebookが一番輝いていた頃ですね。過去形にして申し訳ないですが。

    ターゲット広告:Cookieとソーシャルグラフ

    勢いは徐々に弱まりつつあるものの、ソーシャルは検索とともにトラフィックの二大巨頭です。Shareholicの調査データによると2016年まではソーシャルのトラフィックが検索を上回っていました。

    検索とソーシャルのトラフィックトレンド(クレジット:Shareholic)

    広告のプラットフォームとして考えた時に、交通量(トラフィック)以外にもう一つ大切なことがあります。それがターゲット情報です。「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」ではなく、あるターゲットとなるマトを絞って広告を表示させたいですよね。インターネットのビジネスを考える上でトラフィックと並んで大切な概念がコンバージョンです。

    例えば、100回広告を出して1個売れたとします。この場合、100のトラフィックで1%のコンバージョンということになります。これが20回広告を出して、同じく1個売れたとします。この場合は20のトラフィックで5%のコンバージョンということになります。結果が同じなら5%のコンバージョンの方が効率的です。

    このコンバージョンを高める方法のひとつがターゲット広告です。

    ソーシャルメディアの場合

    ソーシャルメディアの場合は、かなり個人情報を提供していますよね。年齢、住んでいる地域、性別、好きな映画や音楽、そして交友範囲。これらが広告の出し分けに利用されています。

    この仕組みは基本的には企業のオウンドメディアでも同じです。サインアップしてプロフィールを登録すれば、それを広告やキャンペーンに利用できます。

    Facebookの場合はFacebookピクセルによってリターゲティングやダイナミック広告も可能にしています。

    バナー広告や検索連動型広告の場合

    ソーシャルメディアやオウンドメディアの場合はプロフィールを提供するから広告もターゲットできる理由がわかりますよね。それではバナー広告や検索連動型広告の場合はどうでしょうか。

    Cookieとは

    オンライン広告のかなり初期からCookieは利用されてきました。Cookieは簡単に言えば識別情報です。例えばAさんがサイトXにアクセスします。サイトXはCookieというテキスト情報をAさんのブラウザに渡します。この時に初めての訪問なので「ようこそいらっしゃいました!」と表示します。

    AさんがサイトXを2回目に訪問した時、サイトXはCookie情報を読むことでAさんが2回目の訪問だとわかります。2回目なので「お帰りなさい!」と違うメッセージを表示することができます。これは非常に単純な例ですが、もっと高度なことができます。

    例えば、なんでGoogleは訪問者の年代や性別、趣味嗜好を推測することができるのでしょうか?GoogleもCookieを使っていて、その情報を分析しているからです。AIはとっくの昔にあたりまえのように広告では使われています。広告はインターネットの燃料なんですから。

    Cookieデータが人の形になる:データをまとめるDMP

    広告をターゲットのユーザーに出し分けるために、ソーシャルのプロファイルやピクセル情報、企業のオウンドメディアの情報、それに加えてCookie情報があるのがわかりました。でも、それってバラバラですよね。じゃあ、まとめてしまいましょう!というのがデータ・マネージメント・プラットフォーム(DMP)です。ツールとしては日本だとTreasure DataとかAudienceOneが有名でしょうか。

    ログイン情報がない場合、そのサイトに訪れるユーザーのプロフィールは推論するしかありません。その推論の方法がLook-alikeという分析方法で、データはCookieから得ることができます。例えば、同じバナー広告でもユーザーの特性によって背景や天気を変えたりできます。京都のユーザーが雨の日にサイトに訪れたら京都の背景に雨が降ってるのに、東京は晴れていたら晴れた日のスカイツリーを背景にするとか。

    ひとつのCookieデータだけだとぼんやりとして見えなかったユーザー像がいろんなデータを組み合わせることによってよりくっきりと見えてきます。世の中にはLotameSalesfoce DMP(旧Krux)、Nielsen DMP(旧Exelate)のような多くのデータ取引所があります。

    (次回はGDPRやブラウザーのCookie締め出しといった広告モデルの変革の必要性について書く予定です)

  • Amazon Goに代表されるレジなし店舗の現状|2018年リテールテック

    Amazon Goに代表されるレジなし店舗の現状|2018年リテールテック

    Amazonがレジに並ばずに自動的に支払いを完了できるAmazon Goのベータを社内にオープンしたのは2016年12月でした。そして、一般顧客を対象とした一般公開を2018年1月におこないました。2018年はレジなし店舗元年となりました。

    レジなし店舗の特徴

    チェックインとチェックアウト

    非常にざっくりと言ってしまえば、レジなし店舗の特徴は支払いの時にレジで並ばなくて済むことです。その代わり、入る時に駅の改札のようなゲートでチェックインする必要があります。レジでの支払い(チェックアウト)の方が時間がかかるので、チェックインが少し手間でも全体的には効率的になっています。

    • レジがない(自動チェックアウト)
    • 入り口でアプリを使ってチェックイン

    チェックインをするのは入店する個人を認識するためです。チェックインすることで個人の買い物カゴが開かれます。棚からとった商品が買い物カゴに移動します。家族で買い物をする場合、一人のアカウントでチェックインすることもできます。その場合、複数の人がチェックインした人の買い物カゴを開いている状態になっています。

    子供もチェックインしなければいけないので、小さな子供の場合は少し面倒かもしれませんね。

    商品ラインアップ

    スーパーマーケットで扱う商品は大きく分けて「ウェット」と「ドライ」があります。「ウェット」は生鮮食料品です。野菜、肉や魚ですね。「ドライ」はグローサリーのようなパッケージ商品です。日本やアジアのスーパーマーケットはウェットの取り扱いが多いという特徴があります。

    レジなし店舗ではグローサリーのようなパッケージ商品が対象になります。生鮮食料品は取り扱っていません。生鮮食料品の場合は量り売りだったりするので、センサーでのトラッキングが難しいのかもしれません。生鮮食料品を家庭で調理をするような人たちはパッケージ商品を消費する人たちよりも効率性を求めていないのかもしれません。

    いずれにせよ、チェックインした人が手に取った商品は買い物カゴに入ります。人と商品を結びつけるわけですね。気が変わって商品を棚に戻せば買い物カゴからもなくなります。

    買い物の不便なルール

    レジなし店舗は新しい技術なので、技術やUXがまだ成熟していない部分があります。そのため、レジなし店舗にはレジあり店舗にはないルールがあります。

    まず、店舗の中では買い物カゴの中身を見ることができません。どの商品が買い物カゴに入っているか確認することができないんです。これは不便というより不安ですよね。

    次に店舗内ではチェックインした人同士で商品の受け渡しができません。例えば、AさんがBさんに「あの商品を取ってきて」とお願いしたとします。商品を手に取ったのがBさんなので、この時点でその商品はBさんの買い物カゴに入っています。商品自体はAさんに渡すことはできますが、Bさんの買い物カゴに入っているので、Bさんに課金されます。

    家族や友達と一緒に行く場合はAmazon Goのアプリを持っている人が持ってない人をチェックインすることができます。例えばお父さんとお母さんと子供が買い物に行くとします。お父さんとお母さんはアプリを持っていますが、子供はアプリを持っていません。そこで、お父さんかお母さんのアプリで子供をチェックインして店舗に入れるのです。これはこれで面倒ですよね。

    2018年10月現在ではこんな感じなのですが、これは徐々に改善されるだろうと予想します。

    利用されている技術

    Amazon Goを含め、多くのレジなし店舗で使われている技術の詳細は公開されていません。センサーとカメラで情報収集をして、センサーフュージョンで統合されます。データ分析にはAIが利用され、裏では人間がAIを学習させています。

    現時点での注力は実際に店舗から持ち出された商品がチェックインした人に正しく紐付けされているかでしょう。それがある程度できるようになったら現時点では技術的に実現できていないUXの問題を解決していくと予想します。

    レジなし店舗のプレーヤー

    Amazon Goは間違いなく先頭を走っていますが、まだまだ新しい取り組みです。追いつけると考えるスタートアップも投資家もたくさん現れています。Amazon Goを含めて全てのレジなし店舗の取り組みに言えることですが、技術やUXはまだ成熟していないので、現時点でどれが有力だと言い切ることはできないと思います。

    BingoBox

    中国のBingoBox(缤果盒子|ビングオフーズ)はすでに300店舗を運営しています。Amazon Goとは若干違う技術構成でRFID(無線タグ)を利用しています。チェックアウトも自動ではなく、キオスクで行われます。技術的にはユニクロやGUと同じです。

    これはBingoBoxの起業が2016年で、Amazon Goの発表前だったことが起因しています。Amazon Goの登場以前はRFIDがバーコードに置き換わる商品トラッキングと見られていましたが、コストが高いことがネックとなっていました。

    クレジットカードではなくAlipayとWeChatをサポートしているところが中国ならではですね。AlipayとWeChatの特性を活かして、ミニプログラムになっています。

    現在ではRFIDよりもカメラによる画像解析が有望だと考えられていて、BingoBoxも画像解析を含めたセンサーフュージョンに力を入れ、Fan AI(小范|シャオファン)を開発しました。

    Standard Cognition

    日本でも事業展開を発表したStandard CognitionはAmazon Goの競合の中ではビジネス的に先行していると言えます。2017年に創業ですが、無人店舗の研究自体は2016年から行っていたそうです。1000万ドルの資金調達をしています。

    基本的な技術構成はAmazon Goと同じでカメラとセンサーで収集したセンサーフュージョンのデータをAIで分析します。違いはStandard Cognitionはセンサーの設置場所がAmazon Goより少ないことだそうです。Amazon Goでは棚に重量センサーなどが付いていますが、Standard Cognitionは天井だけなので複雑さを解消しているそうです。

    Standard Cognitionは独自店舗のStandard Marketをサンフランシスコでオープンしています。これはAmazon Goのシアトル店舗よりも若干大きい店舗のようです。下のイメージビデオでは店員が商品とり顧客に渡していますが、店舗内での人から人への商品引き渡しの問題をStandard Cognitionは解決しているのでしょうか?

    Zippin

    Zippinもサンフランシスコでレジなしの実店舗を運営しています。元々は商品と追跡システムを2014年から開発していたようですが、その経験を活かしてレジなし店舗のマーケットに2018年に参入しました。

    基本的な技術構成はAmazon Goと同じでカメラとセンサーで収集したセンサーフュージョンのデータをAIで分析します。棚の重量センサーにより重きを置いているようで、アパレルなど重量の軽い商品には向いていないようです。

    Inokyo

    Standard Cognitionと同様のY Combinator卒業生であるInokyoもサンフランシスコでレジなしの実店舗を運営しています。Inokyoの場合は画像解析により重きを置いているようで、棚にもカメラがついています。

    InokyoはUXに力を入れていて、技術的な問題ではなくUXの問題を解決するためにあえてチェックアウトゲートを設けて明示的にユーザーがチェックアウトできるようにしています。

     

    参考文献

    Examining the User Experience of Amazon Go Shopping — Just Walk Out

  • イノベーションとディスラプションの違い|アメリカの有名ベンチャーキャピタリストの考えるトレンド

    イノベーションとディスラプションの違い|アメリカの有名ベンチャーキャピタリストの考えるトレンド

    アメリカには多くのベンチャーキャピタルがあり、有望なスタートアップに投資をして、IPOやM&Aなどで投資で得た株式などを売却することで多くの利益を出しています。ベンチャーキャピタル自身が大きな資金を持っているわけではなく、機関投資家などから資金を集め、それをスタートアップに投資をします。実際に株式を売却できるほど大きくなるスタートアップの数は少なく、ベンチャーキャピタルのクライアントにとってはハイリスク/ハイリターンの投資です。

    投資を回収するには有望な技術やトレンドについて常にアンテナを張り巡らせてなければいけません。ベンチャーキャピタルにとっては信頼性が大切ですし、信頼されるためには投資の回収実績を上げなければいけません。マーク・アンドリーセンとベン・ホロヴィッツによるアンドリーセン・ホロウィッツ(最初のAと最後のZの間に16のアルファベットがあるためにa16zとして知られる)は、クライアントからもスタートアップからも信頼されているベンチャーキャピタルの一つです。

    a16zは技術トレンドやスタートアップに関するポッドキャストを配信しています。ベンチャーキャピタルのユニオン・スクエア・ヴェンチャーズの共同創業者であり有名ブロガーでもあるフレッド・ウィルソン(画像の写真右)とのインタビューが興味深かったので、そのサマリーを抄訳として紹介します。インタビューの相手は暗号化通貨に強いa16zのクリス・ディクソン(画像の写真左)です。

    イノベーションとディスラプションの違い

    • 技術的なイノベーションは常に出てきているが、イノベーションがディスラプションに繋がっていない
    • 例えばモバイル前とモバイル後では人気のあるWebサイトはそれほど変わっていない。Facebookがいい例。モバイルというイノベーションはFacebookを破壊せず、モバイルを取り入れたFacebookはより強固になった。
    • ディスラプションは既存のビジネスモデルを破壊することによって起きる。Googleは広告をビジネスモデルにした。それまではライセンスで課金されていたのが、広告で無料になった。
    • ビジネスモデルが変わると全てが変わる。それまでの強みが弱みになり、新規参入がしやすくなる。
    • 暗号化通貨(クリプト)など暗号化技術はディスラプションを起こす可能性がある。それは単に技術の変革ではなく、ビジネスモデルの変革だから。これまでの広告やサブスクリプションのような既存のビジネスモデルではなく、トークンのビジネスモデルになる。

    革新的なイノベーションとディスラプションの要素

    • 革命的なことが起きるには重要な要素が揃っていることが必要。インターネットの場合はブロードバンドだった。モバイルの場合はiPhoneだった。暗号化通貨(クリプト)にはまだ重要な要素が揃っていない。
    • クリプトが本当に利用されるには本当の意味での分散化を実現しなければならないし、セキュリティーも高めないといけない。そして、ATMネットワーク程度の処理能力を持たないといけない。これはインターネットにはブロードバンドが必要だったのと同じ。
    • その理由でNFT(代替不可能なトークン)には投資しているが、DEX(分散化した取引所)にはあまり投資していない。長期的にクリプトは有望だが短期的にはクラウド(特に開発者とエンタープライズむけのSaaS)の方が投資先としては有望。

    暗号化通貨(クリプト)に期待すること

    • 暗号化通貨の世界はもっと新しい資金の市場が生まれることを期待している。もちろん、詐欺の横行など問題になってるのは理解している。それでも、これまでベンチャーキャピタルの市場の中に入れなかった普通の人たちが投資家として参加できるのは素晴らしいこと。これはスタートアップにとってもにとっても良いこと。
    • 多くの人は投資としてのクリプトと利用としてのクリプトを二つに分けているが、これには反対。投資するにはユーザーである必要がある。FacebookのユーザーがFacebookを作り、YouTubeのユーザーがYouTubeを作っているのに、投資に参加できない。これはおかしい。
    • Twitterが大きくなるときにクリプトがあったら、きっと取り入れてただろう(フレッド・ウィルソンはTwitterの初期からの投資家で『ツイッター創業物語』にも登場します)。

    • インターネットの初期の頃はインターネットで置き換えるオフラインのものに投資していた。オンラインニュースとか、オンラインショップとか。オンラインほにゃらら。これはあまり賢いやり方ではなかった。インターネットネイティブなものに投資しなければいけない。クリプトの場合はクリプトネイティブなやり方を見つけないといけない。

    クラウドはまだまだいける(特に開発者向けとエンタープライズ)

    • 開発がさらに楽になるようなSaaSは多くの余地が残されている。例えばStripeのおかげで決済を組み込むのが簡単になった。Twilioのおかげでテキストを組み込むのが簡単になった。もっとあると思う。
    • 投資が活発なのはエンタープライズSaaSの分野。FacebookやYouTubeのようなB2Cは当たれば何百倍にもなって派手だけど、その数は多くない。B2Cの場合は勝者総取りで、トップと二番手の間には10倍以上の差がある。B2Bも同じだけど、トップと二番手の差は3倍くらい。
    • AIが仕事を奪うというけど、クラウドの方がもっと奪う可能性がある。例えば、給与支払いのクラウドはこれまでの社内システムの開発者や給与に関わっていた人たちの職を奪う。すぐに目に見える形ではないけど、気づかないうちに必要なくなっている。

  • スタートアップの最後のフロンティア?|2018年建設関連コンストラクションテック

    スタートアップの最後のフロンティア?|2018年建設関連コンストラクションテック

    スタートアップでよく言われるのは地味な産業の地味な問題を解決しろです。競争相手が少ないのが一つ、本当に困っているからお金を払ってもらえるのが二つ目の理由です。以前に通っていた歯医者さんに「歯科向けのソフト開発しなよ、絶対売れるから」と言われていました。作らなかったけど、作ってたら売れたのかなあ。

    建設は地味だけど大きな市場で無駄がたくさんある産業の代表例です。アメリカでは600万人が建設業界に携わっていて、毎年1兆円規模のプロジェクトを行なっています。

     

     

    建設業界の課題

    建設業界は金融業界と並び、スタートアップにとってはロマンあふれる市場です。いや、本当ですよ。マッキンゼーによると2030年までに57億ドル(約6400兆円)のインフラ投資が必要になります。また、建設業界は非効率的な産業で納期の遅れと予算オーバーが常態化しています。デジタル化が遅れていて、「紙が一番の競合」と言われたりしています。世界の生産性の平均は35ドル/時間ですが、建設業界の平均は25ドル/時間です。これにより1兆6000万ドル(約180兆円!)の生産性のギャップが一年間で発生しています。

    じゃあ、具体的にどれくらいの資料の量なのかというと、平成29年度の国土交通白書によると、約14ヶ月の橋梁下部工事の場合、資料の厚みが3メートル以上(360cm)だったそうです。それを削減してもまだ1メートル以上(納品資料:53cm/提示資料:112cm)あるんだからすごいですね。それでもこれまで半分以上削減したのだから大したものです。

    国土交通省 i-Constructionの推進状況 2018年6月1日 第3回企画委員会 資料-1

    多くの資料や検査が必要なのは仕方がない部分があります。建物や道路など公共のインフラを作るのには安全が第一です。長く使うものですしね。しかも、設計、調達、施工、管理のそれぞれの段階で多くの関係企業や省庁がかかわってきます。プレーヤーが多いのです。

    建設業界デジタル化の潮流

    コンストラクションテックはAutodeskの主戦場です。設計はまずAutoCADですからね。そして、今は設計情報のデータベースとも言えるビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)の時代ですね。建設データのデジタル化が全体的なトレンドです。この分野で大きなシェアを持っているのはArchiCADとAutodeskのBIM 360です。

    しかし、当然ながら大手だけでどうにかなる市場ではないので、多くのスタートアップがシェアを求めて挑戦してきています。日本でも富士通とかNECとか日立とか大きなところが幅を利かせている市場ですが、スタートアップが寄り付かないのが海外との違いです、残念ながら。

    建設市場へのテックの挑戦

    建設市場は成長が見込まれる市場なので投資も集まっています。投資が集まるということはスタートアップも参入しますし、ユニコーン(10億ドル以上の資産評価される未公開企業)も生まれます。

    サービスとしての建設:Katerra

    ここ最近、大きな資金調達をして話題を集めているのがKaterraです。シリーズDでSoftBank Vision Fundから8億6500万ドルを調達しました。30億ドルの資産評価でユニコーンの仲間入りをしました。中国の自転車レンタルサービスのOfoがそれくらいの資産評価だったと思います。

    Katerraはソフトウェア会社というよりは建設業界に特化したサービスプロバイダーです。自社工場で部品を製造し、組み立てを行い、建設現場に資材を届け、施工まで行います。全てのプロセスを一社で行うのです。

    ソフトウェアを使いこなすには時間がかかりますし、プレーヤーが多いとなおのことです。だったら、自分たちでソフトウェアを使いこなして、全部やっちゃえ!というアプローチですね。建設業界でもモノからサービス、ソフトウェアからサービスへの移行が進む可能性がありますね。

    コンストラクションテックのパイオニア:Procore

    この市場の可能性に早くから気づいて、2002年に創業したのが建設に特化したプロジェクト管理のProcoreです。シリーズGまで進んでいて、10億ドルの資産評価を受けたユニコーンでもあります。CDNのCloudflareやアドテックのInMobiと同じくらいの資産評価ですね。

    BIMがデータの管理だとしたら、Procoreコラボレーションソフトですね。創業者でCEOのトゥーイ・コートマンチは自宅の建設中に設計チームとコミュニケーションをするのが大変だった経験から創業のアイデアを得たそうです。

    Procoreくらい存在感が出てくると、Autodeskとしても無視できないようで、色々とぶつかっているようです。一方でRhumbixには投資してるので、組めるところは組む、組めないところは徹底的に戦うということなんでしょう。

    Y Combinator卒業のエリート:PlanGrid

    コンストラクションテックに一番投資をしているのが何を隠そうY Combinatorです。そしてその卒業生の代表選手がPlanGridです。その名が示す通り、ブループリント(設計図)を共有するサービスです。ブループリントは変更が多いデータで、紙で全てをトラッキングするのは非常に困難でした。全部をやろうとせず、一番困っているニッチな部分を探すのって大事ですよね。

    PlanGridも2015年にシリーズBで5000万ドルの資金調達に成功しています。

    建設業界でのAR/AR活用:Scope AR/Yulio VR

    AR/VRって建設業界で活かせそうですよね。実際にそう考えるスタートアップは多くて、スタートアップがたくさん参入しています。主なユースケースはトレーニングとデザインです。

    Scope ARはARを使って現場のスタッフに適切な情報や指示を送ることができます。マイクロソフトのHoloLensを使っています。こちらもY Combinator卒業生。

    YulioはVRを使ったショールーミング。CADのデータを取り入れてVR環境を作ります。Webやアプリの開発ではInVisionのようなプロトタイプツールで開発前にどのようなUXなのかをデザイナーと開発者で共有することができますし、クライアントにプレゼンテーションもできます。Yulioはその3D版という感じですね。同様のサービスにIris VRもあります。

    建設業界での人工知能(AI)活用:Smartvid.io/Doxel

    BIMで建設データをデジタル化したら、それを分析したくなりますよね。そして、分析できるということは人工知能を使える場面も増えるということです。

    Smartvid.ioは建設業界に特化した画像解析のAIです。現場で撮影され、BIMに登録された写真や動画に自動的にタグ付けをして管理を容易にします。Adobe SenseiがストックフォトサービスのAdobe Stockでやっていることの建設特化版ですね。シリーズAで1000万ドルの資金調達に成功しています。

    Doxelも同様に建設業界に特化した画像解析AIですが、自律走行ロボットを活用して画像を収集するというところが新しいアプローチになっています。

    ただ、ドローンを使った画像解析サービスのAirware130億円を溶かして壮大に破綻したので、独自のハードウェアはちょっと注意が必要ですかね。どこまで汎用品を使い、どこまで専用のものを開発するかの見極めは大事です。

  • 人工知能で裁判できる?|2018年法律関連リーガルテック

    人工知能で裁判できる?|2018年法律関連リーガルテック

    法律関連は資料や書類が多くて大変なイメージがありますよね。すごく紙が多いイメージ。実際に多いんですけどね。そういう分野こそ本来ならテクノロジーが解決できる課題が多いはず。そう考えるう人はやはり多く、法律に関するスタートアップも少なくありません。老舗だとLegalZoomRocketLawyerが有名です。

    スタンフォード大学のCodeX Techindexでは法律関連のテクノロジーをカタログ化していて、2018年9月現在で1061のスタートアップが登録されています。今回はそんなリーガルテックで注目のスタートアップを集めてみました。

    人工知能で裁判できちゃったりするんでしょうか?

     

     

    リーガルテックの分類と特徴

    リーガルテックは大きくは以下の三つに分類することができます。

    業務のデジタル化:法律関連データのデジタル化

    プロセス改善:業務管理や文書管理など、既存の法務業務のプロセスを効率化する

    既存のサービスのオンライン化:既存の法務サービスをオンラインサービスへ置き換え

    そうはいっても、法律はとても大きな範囲で、スケールしにくい分野です。第一に、国によって法律が異なります。アメリカのリーガルテックが日本やヨーロッパに展開するのは相当難しいでしょう。

    次に、専門分野がたくさんあります。個人で必要になる法律と法人で必要となる法律も違います。慰謝料請求や離婚調停も法律関連ですし、セクハラで訴えるのだって法律関連です。民間の文書を公証人が認める公証もそうですね。

    最後に、業務範囲も広いです。例えば、ユーザーが法律の専門家を見つけるマーケットプレイスはB2BとB2Cで違います。弁護士だって業務管理や文書管理が必要ですよね。そういうわけで、様々なニッチ分野に様々なスタートアップが存在しているというのがリーガルテックの特徴でしょう。

    テクノロジースタートアップとしての法律事務所

    Atriumは法務文書をデータに変換して資金調達、契約書作成や株式分配といった法務プロセスを効率的にすることを掲げるスタートアップ。テクノロジー企業というより、テクノロジーを基盤とした法律事務所です。最近、a16zから6500万ドルの資金調達をして話題になりました。

    Y Combinatorの卒業生なんですが、法律事務所もY Combinatorに選ばれるんですね。確かに、テックカンパニーだけがスタートアップじゃないですからね。

    注目されるe-Discovery

    e-Discoveryは裁判や捜査に必要な電子情報を発見、収集してドキュメントとしてまとめる仕組みです。電子情報は電子メールや文書ファイル、データベースにボイスメールなど多岐に渡ります。また、タイムスタンプなどのメタデータも扱います。これらを人の手で管理するのは非常に大変なのは想像に難しくないですよね。

    収取されたデータはデータベースに格納されます。証拠として扱うので、改変ができないようにしないといけません。そして、弁護士やパラリーガルがレビューできる状態にします。ドキュメントの量は膨大になるので、CAR / TAR (Computer Assisted Review / Technology Assisted Review) のようなレビューを支援する仕組みがあります。

    このe-Discoveryは年間で70から100億円の市場と言われていて、関連スタートアップに投資が集まっています。代表的なe-DiscoveryのスタートアップはCS Disco2000万ドルをシリーズDで調達)、Everlaw2500万ドルをシリーズBで調達)、Logikcull2500万ドルをシリーズBで調達)が今年に入って大きな資金調達をしました。

    法律分野での人工知能活用

    AIも法律での活用が期待されている技術です。将来的には裁判もAIでできてしまうのではないかと言われたりしますよね。しかし、法律分野でのAIの利用はまだはじまったばかりです。

    リーガルリサーチ

    法律分野でのAIの活用で有名なのは最近(2017年10月)にシリーズAで870万ドルを調達したROSSでしょうね。分野としては現在取り掛かっている裁判に近い判例を探すリーガルサーチですが、この分野はLexisNexisThomson Reutersが既存の主なプレーヤーです。自然言語解析にAIを使うことで判例を探すスピードを早くするそうです。結果的に法律のサービスのコストを下げることになり、これまで弁護士を雇うことができなかった層の人たちにも法律サービスが提供できるようになるというのがビジョンだそうです。IBMワトソンを使っているからか、TEDのIBM枠でプレゼンしています。

    ドキュメント管理

    Kiraは契約書のデータを収集して分析してレポートを出すツールです。創業者のノア・ワイスバーグは元々M&Aに携わっていた弁護士で、AIを使うことでまだ慣れていない弁護士がデューデリジェンスで間違いを犯すことを防げると考えているそうです。ドイツのLevertonも文書をAIを使って構造化データに変換するサービスです。e-Discoveryの延長線上としてのAIなんですかね。

    リーガルアシスタント

    ユーザーに直接的に法律サービスを提供するAIも出はじめています。簡単に言えば法律サービスを提供するチャットボットです。AIはチャットボットによく使われていますからね。

    DoNotPayはAIを使った法律サービスの代表例です。駐車違反の異議申し立てを手伝ってくれたり、予約した旅行料金より安いサービスを見つけた時の返金申請を手伝ってくれたりします。こちらは機械学習というよりはルールベースっぽいですね。

    Lee & Alleyもチャットを使ったリーガルアシスタントで、こちらは自然言語で応対してくれるようです。まだサービスははじまってないので、実際どこまでAIなのかはわからないですが。