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  • WeWorkの誕生と成長|自分がやりたいことを実現できるコミュニティーを作るということ

    WeWorkの誕生と成長|自分がやりたいことを実現できるコミュニティーを作るということ

    WeWorkは資産評価35億ドルのユニコーン企業です。彼らのビジネスはコワーキングスペース。なぜWeWorkはそれほど資産評価が高いのでしょうか?コワーキングスペースを提供する企業は山ほどありますし、WeWorkがコワーキングスペースのコンセプトを生み出したわけでもありません。ボクがシンガポールやオランダにいるときも、WeWorkと同じくらいおしゃれでコミュニティー感が強くて広いコワーキングスペースはたくさんありました。代表的な例はImpact Hub(WeWorkより2年早い2008年に創業)やThe Surf Office(湘南や九十九里浜に欲しいなあ……沖縄もいいなあ)でしょう。

    共同創業者でCEOのアダム・ニューマンは「Amazonがオンラインの本屋だと思っている人は本質を見ていなかった」と言います。では、WeWorkの本質とはなんでしょうか。WeWorkと他のコワーキングスペースを分け隔てているのはなんでしょうか。

    イスラエルのキブツと最初のアイデア

    WeWorkの共同創業者のアダム・ニューマンはイスラエル生まれ。失読症で9歳まで字が読めませんでした。10歳でアメリカに来ましたが、あまり馴染めずにイスラエルに戻ります。イスラエルではほとんどキブツで過ごしました。キブツはイスラエル独特の集団農業共同体で小さな規模で100人、大きな規模では1000人が共に暮らし、働きます。このキブツでの生活がWeWorkのアイデアに影響を与えているのではないでしょうか。

    イスラエルの軍役の後、2002年、23歳でアメリカに戻ります。そして、ニューヨーク市立大学バルーク校に通い、起業を専攻します。大学ではスタートアップのコンペがあり、アダムはWeWorkやWeLiveの原型となるアイデアを提案します。そのアイデアは暮らしのコミュニティーと言えるもので「暮らしのコンセプト(Concept Living)」と名付けました。そしてクラスの中で唯一次のステージに進めなかったそうです。このコンペは5ステージあったのですが、一つも通過できなかったそうです。

    実現が遅れたアイデア

    これは後から学長に聞いたのですが、アダムだけが通過できなかったのはそれが不動産を扱うアイデアだったからだそうです。その年齢で不動産を扱うスタートアップをやって資金調達はできないと言われました。この言葉はのちにアダムの判断に影響してしまいます。WeLiveをはじめるのが7年遅れました。

    振り返ってアダムは「教師に限らず影響力のあるリーダーは人々の可能性を限定するような言葉や行動を慎まなければいけない。可能性は無限にある。それに足枷をつけるようなことをしてはいけない」と語っています。ちなみに、アダムは卒業前に起業をしてしまったので、WeWorkで成功した後にバルーク校に戻り学位を取得しました。学長は当時の判断と言葉に関して謝罪してくれたそうです。そして、アダムは卒業したその日に学位授与式のスピーチ(普通はスティーブ・ジョブスのような人が卒業生に贈るスピーチ)を行うというユニークな体験をします。

    WeWorkを立ち上げるまでの寄り道と失敗

    アメリカに来た頃のアダムはお金に取り憑かれていたそうです。そして、「なんで自分ばかりこんなひどい境遇にあるんだ、自分はもっといい暮らしをする権利がある」と考えていたそうです。在学中もどのように成功できるのかを考え、様々なビジネスを立ち上げています。この頃に奥さんでもありビジネスパートナーでもあり映画監督でもあるレベッカ・パルトロウと出会います。レベッカとの出会いがカバラとの出会いに繋がり、お金ではない大事なことに気づき、考え方が徐々に変わっていきます。WeWorkのコンセプトにもレベッカは大きな影響を与えています。

    アダムが最初に立ち上げたビジネスは折りたたみができるヒールがついた女性靴だそうです。これはモデルでもあった妹のアディ・ニューマンの歩く姿を見て思いついたそうです。これは全く成功しなかったようです。次に立ち上げたビジネスは「クローラーズ(Krawlers)」という膝にパッチのついた幼児用のジーンズで赤ちゃんのハイハイに最適でしたが、これも失敗。そしてデザイナーのスーザン・レイザーと「Egg Baby」という幼児用ブランドを立ち上げます。このブランドは大手の流通でも取り扱ってもらえ、今でも「Egg by Susan Lazar」として残っています(アダムは経営から手をひいています)。それでも借金は残ったそうです。その借金はWeWorkで成功した後に完済したそうです。

    このアパレル系のビジネスをしていた頃、WeWorkを一緒に立ち上げるミゲル・マッケルヴィーと出会います。建築デザイン事務所で働いていたミゲルはアダムにブルックリンにあるオフィスに一緒に入るように勧めます。このオフィスがある建物がWeWorkの原型となります。

    WeWorkの原型となるGreen Deskの立ち上げ

    最初のきっかけはちょっとしたことでした。アダムが自分のオフィスの一部を貸すためにCraiglistに広告を掲載したのです。すぐに借り手が見つかりました。アダムとミゲルは当時のオフィスがあった建物にあまり他のテナントがいないことに気がつきました。あれ?スタートアップ向けのコワーキングスペースにできるんじゃない?一週間後に友人のギル・ハックレーを加えた三人はその建物の所有者であったジョシュア・グットマンを説得しようとします。ジョシュア・グッドマンは最初はかなり懐疑的だったようです。

    「キミらはどれだけ不動産ビジネスについて知ってるんだい?」

    「あなたが不動産ビジネスについてそんなに詳しいなら、なんでこの建物はこんなに空っぽなんだい?」

    これがGreen Deskとなります(当時のローカルニュース)。株式の大部分はジョシュア・グットマンがもち、三人はそれぞれの投資額は5000ドル(約50万円)を出します。利益はジョシュア・グットマンと折半。この時は2008年で、Green Deskの準備期間中にリーマンショックが起きました。不動産ビジネスにとって経済環境としては最悪。流石にこの時はアダムも焦ったそうです。しかし、改装中にすでに予約がいっぱいになったそうです。結局のところ、アダムとミゲルのやろうとしていたことは不動産ビジネスではなくて、人とのつながりを生むビジネスで、それを求める人が多かったということでしょう。ちなみに、WeWorkの競合のImpact Hubもこの年に創業しています。

    当時のGreen Desk

    コワーキングスペースのコンセプト自体はブラッド・ニューベルグが生み出したもので、すでに2005年にサンフランシスコに最初のコワーキングスペースがすでにありました。このGreen Deskがユニークだったのは再利用の家具と再利用エネルギーの利用です。だからグリーンなんですね。

    Green DeskはWeWorkというよりもシェアオフィスのRegusに近かったそうです。アダムとミゲルはイベントやアメニティーが充実したコミュニティーとしてのいまのWeWorkのコンセプトに近いモデルを次に試したかったそうですが、ジョシュア・プットマンは成功しているGreen Deskのモデルを展開したかったそうです。方向性の違いが生まれました。

    WeWorkの立ち上げ

    進もうとする方向が違うため、アダムとミゲルはGreen Deckをジョシュア・グットマンに300万ドルの資産価値で売却、そこから得た30万ドル(約3000万円)を頭金にしてSOHOでビルを借り、自分たちでWeWorkを立ち上げます。足りない分は友達に借りたりクレジットカードで借りるだけ借りました。お金をセーブするためにイスラエルから友達を呼んで7日間ぶっ通しで内装工事を手伝ってもらいました。

    「たぶん、ニューヨークで遊ぶために呼んだと思ったろうね!」

    このような節約が功を奏して最初のSOHOのWeWorkは一ヶ月で利益が出るようになりました。これが2010年です。Green Deskをはじめて2年ですね。

    次の物件が三人のイラン人兄弟が所有しているエンパイアステートビルの向かいの格安物件でした。格安と言っても100万ドル(約1億円)が必要でした。もちろん、そんなお金はありません。

    「ニューヨークにいる一人を落とせばいけちゃうかもよ」と後にWeWorkに投資をするジョエル・シュライバーがアダムに囁きます。そして、アダムは実行します。イラン人オーナーの一人をたっぷり酔わせて虚ろなまま契約をもらいます。もちろん、後から文句を言われましたが「ペルシャ人は約束を守る人たちでは?」で問題なかったそうです。これが最初の資金調達。そして、その後にもシードで700万ドルほどの調達にも成功します。その後さらに二つのコワーキングスペースをオープンしてから続々と大型投資が決まって行きます。

    それにしても、コワーキングスペースが多くある中、なぜWeWorkだけがこれほど成功したのでしょうか?

    WeWorkにとっての「プロダクト」とは?

    WeWorkの特徴はお洒落な内装、無料のビール、そしてたくさんのイベントですね。でも、これってすぐにマネできますし、実際におしゃれでイベントがたくさんあるコワーキングスペースってたくさんあります。ただ、内装へのお金のかけ方はWeWorkは突出していますし、無料ビールはなかなかないですけどね。別の言い方をすれば「WeWorkは何故そこまで多くの資金を調達できるのか?」とも言えます。

    いろいろと調べると初期の成功はかなり「運」もあったと思います。WeWorkのようなコワーキングスペースは他のテクノロジー系のスタートアップと違い、不動産が必要です。多くの資金が必要です。最初にそれを引き寄せたのはアダム・ニューマンの熱意と創意工夫(オーナーの一人をたっぷり酔っ払わせるとか)でした。しかし、それもプロダクトとしてのWeWorkが優れていなければ継続して成功し(投資を引きつけ続ける)はできません。そうしないと彼らの考える「プロダクト」に投資できないですからね。

    WeWorkにとってのプロダクトとはなんなのでしょうか?それを具体的な形に落とし込むにはどうしたらいいのでしょうか。

    WeWorkのプロダクトは「やっと月曜日がはじまる!(Thanks God It’s Monday!)」

    アダム・ニューマンはWeWorkのコンセプトはカバラセンターから影響を受けていると言っています。カバラはユダヤの思想で、カバラセンターはニューヨークを拠点としてマドンナやデミ・ムーアなどセレブから支持を受けていることでも有名ですよね。アダムがカバラに目覚めたのは妻のレベッカの影響だそうです。それまでのアダムはお金のために働いていました。なんで自分はこんなに不幸な環境に生まれたんだと、成功していなことを環境のせいにしていました。言うことは大きい(Talk big)けど、レベッカをディナーに連れいくお金もない。カバラと出会い、お金よりも大事なことがあることに気づき、不健康な生活をやめたそうです。そして、お金よりも大事なことのために働きます。

    アダムに限らず、多くの創業者たちは必死で働きます。でも、それはお金のためではありません。やりたいことがあるからです。Spotifyの創業者のダニエル・エクだったら「全部入りのiTunesを作る」だし、Airbnbの創業者たちなら「旅先での共同生活でしか味わえない体験」です。

    生きていくためにお金を稼ぐのは犬にとってドッグフードを食べるのと同じです。しかし、創業者が必死に寝る間も惜しんで働くのはDropdox創業者のドリュー・ヒューストンが言うように、犬にとってのテニスボールを追いかけるのと同じです。

    そのために働くのは単に「よく働き、よく遊ぶ(Work hard, play harder)」のような表面的な行動だけを抜き取ったものではありません。自分のやりたいことを実現すること自体が楽しいのです。これはスタートアップの創業者だけでなく、働く人一般に言えますよね。そういう環境を作りたいのいうのがWeWorkの原点であり、「プロダクト」です。

    WeWorkのタグラインは「やっと月曜日がはじまる!(Thanks God It’s Monday!)」です。ドッグフードをもらうためにご主人様の言うことをきちんと聞かなければいけないのであれば「やっと週末だ!(Thanks God It’s Friday!)」となるでしょう。しかし、自分が大好きなテニスボールを追っかけているのであれば、早くボールが欲しいから「やっと月曜日がはじまる!」になるのです。おしゃれなオフィスだからって嫌な仕事が好きになれるわけないですよね。

    コミュニティーマネージメント

    WeWorkにはコミュニティーマネージャーという職種があります。コミュニティーマネージャーはもともとゲームのオンラインコミュニティー(特にMMORPG)をまとめる役割でした。どちらかといえば管理者的な側面が強いですね。これをブランドの代表者として主にソーシャルメディアを通じてユーザーの役に立つ情報を発信する役割に変えたのがLisa Brazielでした。そして、徐々にマーケティングの役割の一つとしてコミュニティーマネージメントは発展していきます。そして、多くの場合はマーケティング会社に外注されます。

    WeWorkにとって、コミュニティーはリアルな集まりで、プロダクトにとってのコアとなります。そのため、WeWorkでコミュニティーマネージャーは外注ではなくそのための部門が存在します。

    メンバーエクスペリエンス(UX)

    これまでのRegusのようなシェアオフィスとは違い、WeWorkのプロダクトは「体験」です。WeWorkのユーザー(メンバーとよばれる)の体験が重要になります。

    デジタルプロダクトであればUXは計測可能です。しかし、WeWorkはデジタルプロダクトではないので一般的なUXのための計測ツールは使えません。そこでWeWorkが開発したのがPolarisです。

    WeWorkで開発されたUXレポジトリのPolaris

    WeWorkは各国にコワーキングスペースを展開していて、それぞれの拠点でUX調査を行なっています。そこで、重複するような調査を避けたり、別の場所での学びを他に展開するために一つの場所にPolarisに調査結果を集めています。WeWorkでは調査の最小単位をNuggetといい、Polarisには調査結果がNugget毎に保存され、検索性を高めています。

    おそらく、他のコワーキングスペースもそのスピリッツや考え方はWeWorkと同じなんだと思います。

    まとめ

    働き方改革などいろいろと言われていますが、究極的には「自分のやりたい仕事ができているのか?」なんだと思います。WeWorkも日本に上陸してきました。日本の働く環境も「やっと月曜日がはじまる!(Thanks God It’s Monday!)」になるといいですね!

    参考文献

    Adam Neumann / Washington Ideas 2017 – YouTube

    ECNY Events – Adam Neumann – YouTube

    Adam Neumann Real Estate | WeWork NYC

    The founding story of WeWork – Business Insider

    Inside The Phenomenal Rise Of WeWork

    When WeWork was young: the early years | VatorNews

    Democratizing UX – Tomer Sharon – Medium

    Community Manager Role Has Changed: A Decade of Community Management

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  • Instagramの誕生と成長|爆速エグジットの秘密

    Instagramの誕生と成長|爆速エグジットの秘密

    Instagramのエグジット *1 はアメリカで八番目に早い記録になります。資金調達と同時に起業し、その七ヶ月後に製品ローンチ。起業から一年後に更に700万ドル(約7億円)の資金調達をし、その一年後にFacebookに10億ドル(約1000億円)で買収されます。ちなみに、Facebookはその直後にIPOをしてエグジットしています。

    以下がInstagramの立ち上げからビジネスとして成立するまでの年表です。うーん、めっちゃ早いですよね。Facebookに買収されるまで全く売上はなかったのですが、これだけ資金調達ができていれば全く資金的には問題なく運営できていたでしょう。絵に描いたような順風満帆です。でも、どうやって?

    異例の速さで成功したインスタグラム

    これほど大成功したスタートアップなのに、日本ではその創業者のケヴィン・シストロムとマイク・クリーガーについてはあまり知られていません。彼らがInstagramを立ち上げる前に何をしていたのか、Instagramを立ち上げた後に何をしたのかを見ていきましょう。

    Instagramを立ち上げる前

    ケヴィン・シストロムは自称コンピューターオタクで、子供の頃からQ BasicとVisual Basicに親しんでいました。Doomなどのコンピューターゲームにハマっていたそうです。

    スタンフォード大学時代、専攻はビジネスマネージメントでしたが、プログラミングは続けていたそうです。そして、スタンフォード大学生向けのCraiglistのようなものを作りました。8000人くらいのユーザーがいて、これが最初のソーシャルネットワークっぽいプロダクトだったそうです。

    トイカメラとの出会い

    Holga 120GN (5898093683)

    そして、スタンフォード大学在学中にイタリアのフローレンスに留学をして写真を学びました。その時の写真の講師がトイカメラのHolgaを持っていて、ケヴィンが持っていたニコンと交換して使ったそうです。そのころにトイカメラにハマったそうです

    Holgaなどのトイカメラのフレームサイズは他のカメラと違ってブローニという6×6の正方形の形が多いのです。トイカメラはトンネル効果やピンボケ感など独自のロウファイな風合いが出るため、愛好家から非常に人気がありました。日本でも流行りましたよね。Instagramにトイカメラ風のエフェクトが多いのはこのためです。

    Twitter人脈との出会いとスタートアップの経験

    フローレンスにいた頃に卒業後のキャリアを考えてインターンの機会を探していました。フローレンスにはあまりよいインターネット環境は当時なかったそうで、図書館に行かなければいけなかったそうです。そして、ニューヨーク・タイムスでOdeoを知ります。Odeoはポッドキャストのサービスですが、後にピボットしてTwitterになります。ケヴィンはWhoisでOdeoのメールアドレスを探し当ててメールを送ります。そして、それがきっかけでOdeoでインターンとして働くことになりました。

    Odeoでのインターンの期間はローンチまでの三ヶ月半。チームは4、5人から15人くらいに増えるまでだったそうです。ケヴィンはここでスタートアップでの働き方を学びます。しかもTwitterを立ち上げるエヴァン・ウィリアムス、ビズ・ストーン、ジャック・ドーシーといった錚々たる面々から。

    Instagramの原型となるBurbn(バーボン)の開発

    いくつかのインターンを経験して大学を卒業した後にGoogleに入社しました。本当にやりたかったのは開発のプロダクトマネージャーでしたが、コンピューターサイエンスの学位がなかったため、Googleではマーケティングをやることになりました。

    それでもやっぱり開発がやりたくなって元Google社員が起業したNextstopに転職します。ちなみに、NextstopはInstagramが起業した2010年後半にFacebookに買収されます。そこで個人的なサイドプロジェクトとして作っていたのがBurbnというHTML5アプリです。最初の構想はチェックインとソーシャルゲームを組み合わせたものでした。しかし、出来上がったのは(大雑把に言えば)Four Squareのようなチェックインアプリです。ただし、写真の共有機能がありました。

    Instagramの元となるBurbnのホーム画面(ソース: Famous First Landing Pages

    そして、このBurbnが投資家の目にとまり、50万ドルのシード資金を調達できました。Instagramで資金調達したのではなく、Burbnで資金調達をしたのです。まだInstagramはなかったですからね。そして、シード資金を調達したことによりNextStopをやめて起業することに決めました。起業するときに声をかけたのが共同創業者となるマイク・クリーガーです。Instagramはケヴィン・シストロムとマイク・クリーガーの二人ではじめました。

    しかし、ケヴィンはBurbnに今一つ自信が持てなかったようです。Burbnのユーザーベースは数百人を超えることはなかったようです。一番人気があった機能は写真の共有。そこで、写真の共有に集中することにしました。Burbnをやるつもりで参加したマイク・クリーガーは相当びっくりしたでしょうね。え?チェックインアプリじゃなくて、カメラアプリ?

    Instagramの開発

    当時はたくさんのカメラアプリたくさんあって、Appstoreには906のカメラアプリが登録されていました。その中からなぜInstagramだけが浮上したのでしょうか?創業者二人が口を揃えていうのが「運」です。

    ケヴィン・シストロムは「運が最大の要因。誰でも失敗する。どんなに経験がある人でも。適切な時に、適切な人と、適切なことをやる。ここまでの道のりで、それが出来たのは運。そして、運は自分で引き寄せるしかない。それには必死に働くしかない *2」と言っています。

    マイク・クリーガーはインタビューでもう少し分析してくれています。

    「もちろん運の要素が大きい。運以外の要因をあえて挙げるといくつかある。まず、全くスクラッチから作ったプロダクトではないということ。1000人ほどのユーザーベースだったが写真の部分だけはすごく気に入られてた。その経験から解決すべき課題を理解していた。

    1. 写真をよくしたい
    2. よく撮れた写真はシェアしたい
    3. 早くしたい

    この三つ」

    写真をよくしたい

    当時のiPhone 3Gは今のiPhoneと比べてあまりカメラの性能がよくありませんでした。ケヴィンがガールフレンドと旅行に行ったときに、ガールフレンドが写真をよく撮れるようにしてほしいと言いました。実際に当時のカメラアプリはあまりキレイに写真が撮れませんでした。

    そこで開発したのがX-Pro IIというエフェクトで現在でも使われています。Instagramの初期のユーザーからは写真のフィルターアプリだと思っていた人が多かったそうです。

    X-Pro II

    共有したい

    よく撮れた写真は共有したくなります。やはり多くの写真共有アプリが当時もあったそうなのですが、そもそもいい写真を取ることができませんでした。そして、Instagramの初期に重要だったのは人気の写真を集めたポピュラーページだったそうです。友達がInstagramを使っていなくても、いい写真を共有している人をフォローできるました。つまり、友達がいなくてもInstagramにアップした写真を見てくれる人がいる。

    早くしたい

    当時のiPhoneはカメラ性能もよくありませんでしたが、通信速度もあまり早くありませんでした。特に二人がいたサンフランシスコのネットワークスピードは遅かったそうです。そのために、最初からパフォーマンスには気を使っていたそうです。

    例えば、写真やフィルターを選んでいるときにバックグラウンドでアップロードを開始するなどの工夫をしました。そのために、アップロードが早いという感覚が生まれます。

    成長の秘訣

    グロースハック的な意味での成長で言えばTwitterやFacebookのピギーバッギング *3 や有名人にベータを使ってもらうなどいくつかの工夫をしていました。ただ、こういうことはおそらく普通のスタートアップならやってると思うんですよね。

    それよりも大事だったのは、やるべきことに集中したことなんじゃないかと思います。素晴らしい体験を届けるためにすべきことをやる。どうせわからない将来なんて予測(Second Guessing)しない。邪魔なハンバーガーメニューは作らない。何か追加する場合はInstagramの外で試す。マネタイズも考えない(資金はたっぷり調達してますからね)。

    InstagramがFacebookに買収された時の社員数は13人で、当時のユーザー数は約3000万人。ユーザー数が1000万人くらいまでは5人だったそうです。あれもこれもやっていたらできない人数ですよね。

    どうしてそんな少ない人数でできたのか?という質問に対してケヴィン・シストロムは「すごくスマートな人たちが集まったから」と答えています。

    スタッフを雇う時に二つのアプローチがあります。ひとつは早く雇って、早くクビにする(Hire fast, fire fast)。もうひとつはゆっくりその人の能力や企業文化との相性を見極めてから雇う(Hire slow and smart)。インスタグラムの場合は後者でした。そして、参加した仲間たちを信じること。それが少ない人数でこれだけのことを成し遂げた秘訣だそうです。

    参考文献

    BBC – Future – The simple cult camera that inspired Instagram

    Foundation 16 // Kevin Systrom – YouTube

    Instagram: Conversation with Co-Founder Mike Krieger – YouTube

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    *1:創業者と投資家がIPOやM&Aを通じて投資を回収すること

    *2:すいません。かなり意訳していますが、こういう趣旨のことをインタビューで答えています

    *3:より大きなプラットフォームに乗っかるという意味。

  • エストニアがスタートアップ国家としてデジタル政府を推進する理由

    エストニアがスタートアップ国家としてデジタル政府を推進する理由

    これまでアメリカイギリスのデジタル政府に踏み出した背景を説明してきました。なかなか評判がいいようなのでエストニアの資料も作ってみました。全ての国家はそれぞれ歴史があり、大きさも様々です。アメリカ、イギリスや日本とエストニアを単純に比べることはできませんが、一見「弱み」に見えるエストニアの特徴を「強み」に変えるしなやかさは多くの為政者や経営者の参考になるのではないでしょうか。

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  • イギリスのGOV.UKまでの長い道のり

    イギリスのGOV.UKまでの長い道のり

    GOV.UKによってイギリス政府は世界で最も進んだデジタル政府という評価を受けるようになり、様々な政府のデジタル化の参考となりました。その推進力となったGDSの発足直前から現在に至るまでの過程はGDS Storysで詳しく見ることができます。カタパルトスープレックスでも日本語に翻訳しています。

    しかし、そもそもどうして前身であったDirectGovから移行しなければいけなかったのか?それまでどのようなことがあったのか?断片的な情報はWeb上に散見してありますが、まとまった情報はありません。アメリカのデジタル公共サービスの歴史をまとめたので、今回はイギリスのデジタル公共サービスの歴史をまとめてみました。人気があればエストニアもやるかもです。今回もSlideshareGithubにアップロードしました。

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  • アメリカ政府を公共サービスのデジタル化に向かわせた二つの力と三つの組織

    アメリカ政府を公共サービスのデジタル化に向かわせた二つの力と三つの組織

    イギリスのGDSやエストニアの電子政府の情報は割とまとまったものがあります。カタパルトスープレックスも貢献していますよね!ところが、アメリカの公共サービスのデジタル化も急速に進んでいるのですが、あまりちゃんとまとまった情報が日本語ではありません。

    アメリカにはPIF18FUSDSという公共サービスのデジタル化を進める部門がアメリカ政府内にあります。それぞれ、ユーザーニーズから全てをスタートして、リーンスタートアップ、デザイン思考、アジャイルなどモダンなアプローチを公共サービスに取り入れることでイノベーションを推進しようとしています。ゴールは同じです。

    なんで、そんなことしようと思ったの?なんで三つもあるの?という疑問が浮かぶと思います。それをなるべく簡潔に説明しようと思います。興味がある人はSlideshareGithubにプレゼンテーションをアップロードしました。

    PDFのダウンロード(カタパルトスープレックスデザインのGithub)

    経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を発足したり、経団連が「デジタル省」を提言したりしています。アメリカはボトムアップとトップダウンを積み上げて、複数のアプローチをとって成功しています。日本はどうなるんでしょうね。

    個人的にはCode for Americaがアメリカの公共サービスを変える原動力になったように、「デザイン+ジャパン」が日本の公共サービスを変える原動力になればいいなと思っています。

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  • 書評|コミュニティーとソーシャルと催涙ガス?|Twitter and Tear Gas by Zeynep Tufekci

    書評|コミュニティーとソーシャルと催涙ガス?|Twitter and Tear Gas by Zeynep Tufekci

     

     インターネットとソーシャルメディアでコミュニティー活動がとてもやりやすくなりました。ボク自身も『デザイン+ジャパン』というデザインで日本の社会的問題を解決するコミュニティーをはじめましたが、インターネットがなければまともに活動できません。

     

    Twitter and Tear Gas: The Power and Fragility of Networked Protest

    Twitter and Tear Gas: The Power and Fragility of Networked Protest

     

     

    コミュニティーとインターネットとソーシャル

    コミュニティー活動自体は昔から存在していましたが、インターネットとソーシャルメディアがコミュニティーを加速度的に広げて行きました。昔だとはてなのヘビーユーザーの「はてな村」なんてありましたが(いまでもある?)、あれも一種のコミュニティーです。コミュニティーの影響力は大きく、企業でも活用しています。AWSのユーザーグループコミュニティーのJAWS-USなんて代表的な成功事例ですよね。

    目的や嗜好を共有する人たちの集まりという意味でコミュニティー活動は当然ながらインターネット以前から存在していました。例えば、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアなど公民権運動の活動家たちも人種差別をなくすという目的を共有した人たちの集まりで、モンゴメリー・バス・ボイコットやワシントンD.C.への20万人デモ行進など組織的にやらないと当然ながら実現できない。それを実現したのが当時のコミュニティーでした。

    ソーシャルと催涙ガス

    今回の本は”Twitter and Tear Gas“(Twitterと催涙ガス)という非常に物騒なタイトルで、インターネットとソーシャルがどのようにコミュニティー活動に影響を与えているか、特に政治的活動家と言われている人たちのコミュニティーに影響を与えているかを考察した本です。

    Twitter and Tear Gas: The Power and Fragility of Networked Protest

    Twitter and Tear Gas: The Power and Fragility of Networked Protest

     

    インターネットとソーシャルによって公民権運動のような活動が簡単にできるようになりました。それが表面化したのが「アラブの春」と呼ばれる一連の運動でした。海外生活が長いとはいえ、ボクも日本人なので馴染みの薄いアラブの世界はよくわからなかったです。オランダにもたくさんアラブの難民がいて、ヨーロッパ全体で難民問題は課題になっていました。

    この本を読んでわかったのですが、アラブの春って社会的にはすごいインパクトだったんですね。エジプトでの運動なんて、タハリール広場に集まった200万人の必要物資をたった四人の海外のエジプト人がロジスティックをオンラインで全て調整したんですから驚きです。オンラインと言ったって、専用ツールとかじゃなく、TwitterやGoogleスプレッドシートのような普段から使っているツールです。そして現場では座り込みを阻止するために催涙ガスで制圧しようとして軍と市民が衝突となりました。本のタイトルはここから来てるわけです。

    デジタル時代のコミュニティー維持の難しさ

    デジタル時代のコミュニティー活動はすぐに大きくなるけど継続は難しいという特徴があるようです。例えば一連のデジタルコミュニティー革命と言える事象はこれといった成果を達成していないことでもわかります。エジプトではムバラクは退陣しても軍事政権はそのままだし、アメリカでも特に貧富の差が解消されたわけではないし。

    著者は目的意識や共通認識の醸成は単純に時間がかかるというのが理由の一つとしています。「で、どうしたいの?」という合意がコミュニティー全体では生まれにくい。それはリーダーがいないというデジタル時代のコミュニティーの特徴でもある。例えば『デザイン+ジャパン』で今一番時間を使っているのは「目的と手段」の定義です。社会的課題ってなに?デザインってなに?誰が主体的なの?自分たちの役割は?こういうことを行動と並行してコミュニティー全体で考えていかないと、ツールがあっても中身がなくなってしまう。そして、その中身がコミュニティーの外からも共感が得られないようだと続かない。著者はこの辺りをシグナリング理論で説明しています。

    デジタルコミュニティーとティール組織

    この目的や行動規範の醸成という課題はティール組織やホラクラシーにも通じると思うんですよ。リーダーがいないフラットな組織という意味ではコミュニティーとティールは似ている。『デザイン+ジャパン』の組織デザインを考えた時も参考にしたのはティール組織でした。ボク自身(や数人のメンバー)がリーダーとしてなんでも決めるモデルにはしたくなかった。そして、実際にやってみるとそれはかなり難しい。「で、どうしたいの?」という共通認識がやっぱり大事です。それでも、企業の場合は「お金を儲ける」とか、「サービスを広げる」とか目先のゴールの共通認識は生まれやすいでしょう。でも、もっと大きな「で、どうしたいの?」という企業がよく掲げるミッションステートメントやビジョン、行動規範みたいなものです。コミュニティーが人の集まりであり、人それぞれ違った考えを持っている以上、こういった目的意識や行動規範の方向性を揃えるには時間がかかるのだろうと思います。

    この本ではソーシャルメディアが持ついい側面と悪い側面を活動家の立場から分析もしています。フェイクニュースやネット中立性など重要なトピックについて考えるときも、普段あまり考えたことのないアングル(政治活動家の立場)から紹介しているので理解が深まりました。

    興味のある方はTEDTalkもありますので、ご覧ください。

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  • イギリスのバークレイズ銀行におけるサービスデザインの事例

    Barclays bank logo vector free download

    イギリスのデザインエージェンシーであるRawnetがイギリス三大銀行の一つでクライアントのバークレイズ銀行のサービスデザイン部門のディレクターであるClive Grinyer氏へのインタビューをYouTubeで共有していました。企業におけるサービスデザインの事例は海外では多いのですが、日本で紹介されているものは少ないので、ここでアウトラインをご紹介します。

    ボク自身もシンガポールやオランダの銀行のサービスデザインのプロジェクトに関わったことがありますが、このインタビューで語られていることはそのままどの国のどのプロジェクトにも当てはまることだと思います。

    あなたにとってサービスデザインとは?

    • エンドトゥーエンドのカスタマーエクスペリエンス
    • 全てのタッチポイントの組み合わせ
    • 厳格な顧客中心アプローチ

    バークレー銀行ではサービスデザインを取り入れる上で組織的に難しかったことをどうやって乗り越えた?

    • サービスデザインを取り入れると、組織の構造的な課題に挑戦することになる
    • 組織は基本的に縦割りで、顧客のエクスペリエンスはその縦割りを横ぐしで通り抜けるもの
    • サービスデザイナーの仕事はカスタマーエクスペリエンスは組織横断的なもので、組織の壁をまたいで働くことだと理解してもらうこと
    • そのためのツールの一つがビジョンづくり
    • ビジョンを作り、組織間のコラボレーションをファシリテートし、最終的には組織文化を変える

    サービスデザインは部門でリードしたほうがいいのか、または全従業員で理解するべきことなのか?

    • 企業内におけるサービスデザインのポジションは様々な議論がある
    • 最終的なゴールはサービスデザインの考え方は全ての人に浸透すること
    • 最初はスキルセットのフォーカスポイントが必要。つまり、一箇所に集約する。それが私個人のバークレーでのアプローチでもある
    • これまでの銀行職員とは違う考え方を雇い入れる。サービスデザインはこれまでの銀行とは全く違う考え方
    • これまでに触れたことのなかったデザインのツールやメソドロジーを展開する
    • まだまだ最終ゴールにはたどり着けていないが、たどり着いたとしても期待値はどんどん上がっていく

    伝統的な部門の壁をどうやって乗り越えて協業ができる環境を作る?

    • サービスデザインを取り入れるということは伝統的なやり方を変えていくといことで、それを理解しないといけない
    • 例えば2週間のスプリントで機会や課題を集中的に扱う。それはこれまでの金融機関では数ヶ月、数年かけていた
    • そういう意味では参加する部門にちゃんとフォーカスして時間を取ってもらうことがチャレンジでもある
    • サービスデザイナーは一緒に仕事をする。それによって部門のオーナーシップや自分たちで成し遂げたというプライドが生まれる
    • 課題を探すだけでなく、一緒に解決する

    具体的な事例は?

    • 顧客がやりたいことを実現するための知識やプロセスに詳しい詳しいチーム(Super Hero)の設立
    • バークレイズの社員が顧客のやりたいことをどう実現するかわからないときに、誰でもアクセスできる
    • このような取り組みは顧客にも社員にも喜ばれる
    • 誰もたらい回しにされたくないし、したくもない
    • デジタルだけがサービスではないし、このような小さな取り組みがインパクトを生むこともある

    バークレーではどのようにサービスデザインの価値を測っている?

    • 顧客満足度やNPSが尺度になっている
    • 蓄積的な変化ではなく、トランスフォーメーションとしての変化
    • 特にバークレーで行なっているのは小規模の内部や外部でのテストを重ね、リスクを最小限にすること
    • 大きな投資をいっぺんに行うのではなく、少しずつ変化を確認する

    サービスデザインはどんな産業に適している?

    • すでにプロダクトをデザインする余地はあまりなく、デザインのメソドロジーだけが残った
    • そしてデザインを形のないものに当てはめることが様々な産業で起きた
    • 特にコモディティー化して差別化が難しい産業でサービスデザインは活きてくる
    • しかし、公共サービスでの可能性は大きいし、GDSの仕事は素晴らしい。金融業界でも見習うことが多い

    サービスデザインのビジネスにおける将来は?

    • ビジネスに対してサービスの説明をしてきて、それは見えてきた
    • 形のあるプロダクトから形のないサービスのデザイン。それらを全て包括したエンドトゥーエンドのデザインになる
    • デザインはもっと戦略的に、将来を見渡せる力をリーダーシップに与える
    • イノベーションはテクノロジーだった。しかし、みんなテクノロジーのイノベーションを目指している
    • それを人間を中心にまとめ上げることができるのがサービスデザイン

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  • 世界にサービスデザインを広めるアダム・ローレンスのサービスデザイナーとしての原動力

    世界にサービスデザインを広めるアダム・ローレンスのサービスデザイナーとしての原動力

    アダム・ローレンス(Adam Lawrence)さんはサービスデザインの世界を牽引しているキーパーソンの一人です。エージェンシーの設立者というだけでなく、Global Service Jamという世界的なコミュニティーイベントを運営したり、サービスデザインの実用書『This is Service Design Doing』の著者の一人として幅広くサービスデザインを世界に広めています。今回はそんなアダムさんの日本語による貴重なインタビューとなります。

    カタパルトなかむら(以下なかむら):アダムさんは最近出版されたサービスデザインの書籍『This is Service Design Doing』に参加されているほか、Global Service Jamのようなグローバルなサービスデザインイベントの立ち上げもされています。いろんなことをやっていますが、主に何をされているのでしょうか。

    アダム・ローレンス(以下アダム):職業としてはヨーロッパで最も優れたビジネススクールの一つであるマドリッドのIE Business Schoolのサービスデザイン思考の助教授です。そしてもちろん、中央ヨーロッパを中心に活動しているサービスイノベーションと顧客体験のコンサルティングエージェンシーであるWorkPlayExperienceの創業者の一人でもあります。

    私たちの仕事のほとんどは組織(特に大きな組織)の中の人たちがうまく一緒に働けるお手伝いをすることです。それは彼らの顧客、スタッフを含めた社員、パートナーにどのように良い体験(エクスペリエンス)を提供するかに集中することです。それをどのように柔軟的、効果的、現実的に実行するかです。具体的には実際のプロジェクトに参加したり、スタッフのためのトレーニングや認定までの道筋を作ったり、仕事のためのツールなどを作ったりします。「サービスデザイン導入のサービスデザイン」とも言えますね。

    なかむら:最近出版された『This is Service Design Doing』に関連するのかもしれませんが、日本の組織が直面している課題の一つに「モノづくり」から「コトづくり」へのシフトがあります。おそらく日本企業の中で働いている多くの人は顧客中心であり、サービス思考であるべきだと考えてはいると思います。しかし、実際に変わるには「考える(Thinking)」だけではダメで、「行動(Doing)」が必要になります。行動に移す難しさについて何かお考えになる部分はありますか?

    This Is Service Design Doing: Applying Service Design Thinking in the Real World: A Practitioners' Handbook

    This Is Service Design Doing: Applying Service Design Thinking in the Real World: A Practitioners’ Handbook

    • 作者: Marc Stickdorn,Adam Lawrence,Markus Edgar Hormess,Jakob Schneider
    • 出版社/メーカー: Oreilly & Associates Inc
    • 発売日: 2018/01/12
    • メディア: ペーパーバック
    • この商品を含むブログを見る
     

    アダム:思考の変化は会議室やオフィスで座っているだけでは難しいです。オフィスから出て顧客と時間を過ごし、顧客と行動を共にして彼らが直面する課題に触れると見えてくるものが全く変わります。学術的なプロダクトとサービスの違いや、デジタルと非デジタルの違いは顧客にとって全く意味がないことに気がつきます。顧客は単に自分たちの課題を解決して欲しいだけなんです。生活に役立つ、できれば良い体験ができることが欲しいだけなんです。

    それらの問題はオフィスから出ないと発見できないのと同様に、会議室に立てこもっていては顧客の役に立つこともできません。私たちは顧客やステークホルダーのいる世界に出ていかなければいけません。プロトタイプを作り、実際の世界で試さなければいけません。そうすることで共創の「実行(doing)」が戦略立案会議よりよっぽど効果出来だとわかります。

    Global Service Jamでのマーカスさん(左)とアダムさん(右)。写真クレジット:@kirsty_joan

    人はとにかく話したがります。合意形成の中で安心感を得たいからです。しかし、イノベーションに必ずしも合意形成は必要ありません。プロジェクトの中では意見の多様性が必要な段階があって、複数の方向性を荒くても構わないので素早くプロトタイプを同時進行で作っていく必要があります。そうすることで、私たちはマネージャーへの報告やPowerPointではなく、顧客の近くにいること、現実を基にした実験の文化が成功への近道だと学ぶのです。

    なかむら:アダムさんが創立者の一人となっているGlobal Service Jamについて教えてください。

    アダム:私たちは変革の立ち上げや改善にジャム(Jamming)の方法を使います。また、組織で適切な人たちと協業する時です。これは「圧力鍋」の調理法で、通常は二日間、チームを作って素早い開発のイタレーションを行います。これには素早いゲリラ調査、速射砲的アイデア出し、エクスペリエンスのローファイ*1プロトタイピングを作って実世界に戻って検証や追加調査をします。これはテーマを知り、基本的なツールやサービスデザインのマインドに触れる素晴らしい方法です。

    私たちはこの方法がとても気に入っているので、世界中に共有したいと考えました。そして三つのグローバル・ジャム(Global Jam)をスタートしました。グローバル・サービス・ジャム、グローバル・ガバジャム(Global GovJam:公共サービスのためのGlobal Jam)、グローバル・サステイナビリティー・ジャムです。詳しくはGlobal JamのWebサイトで確認できます。

    なかむら:私たちも『デザイン+ジャパン』という日本の社会的課題をデザインコミュニティーで解決するイニシアティブを立ち上げたんですよ。次回のGlobal Service Jamに参加させていただくかもしれません。

    アダム:それは素晴らしい!

    なかむら:ところで、このような活動をどうしてやってるんですか?

    アダム:私はもともと心理学、マーケティング、プロダクト開発をやってたんですよ。あと、俳優や監督としても長年やってきました。だから、ビジネスの世界を舞台に見立てて探索してきました。そして「サービスデザイナー」と呼ばれる人たちのコミュニティーがあることを知りました。ビジネスパートナーであるマーカスと私はすでに顧客のエクスペリエンスの分野で舞台の手法を使っていました。だから、このコミュニティーと出会って自分たちのしていることを共有することは素晴らしいことでした。

    今やっていることは、人が本当にやりたかったことの実現を助けることができます。いわゆる「仕事」ではなく、他人にとっての価値を生み出し、自分もそれを楽しむことができること。だから、今やっていることをやり続けているんです。

    なかむら:「サービスデザイナー」は比較的新しい職種なので、様々なバックグラウンドの人がいて面白いですよね。ボク自身がサービスデザインのプロジェクトと呼べることをやったのはマイクロソフトでビジネスアナリストをしている時でした。アダムさんのおっしゃる通り、他人に対して情熱を持てることはサービスデザイナーの持つ資質のひとつだとおもいます。優れたサービスデザイナーになる条件ってなんだと思いますか?

    アダム:優れたサービスデザイナーは情熱と同時に批判的なものの見方が必要だと思います。問題の裏側にある課題の発見に情熱を注がなければいけません。そして、それに関わる人たちに情熱を持たなければいけません。そうすることによって耳を傾ける事ができます。そして調査、プロトタイピング、導入といった重要な活動に情熱を持たなければいけません。

    これらの活動を実行する上で、どのように人々が働き、技術がどのように使われているのか、組織がどのように変革するのかを理解しなければいけません。そして、謙虚でありつつも仮説、アイデア、プロトタイプに対して批判的な見方ができなければいけません。常にそれを壊してさらに良いものを作る姿勢が大事です。

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    *1:プロトタイピングにはいくつかの段階があって、ロウファイ(Low Fidelity)は見た目が荒い簡単なプロトタイプのこと。もっと製品版に千和桁見た目のいいプロトタイプはハイファイ(High Fidelity)プロトタイプという。通常、ロウファイの前にスケッチなどでアイデア出しをする。

  • 人事(じんじ)を人事(ひとごと)にしないサービスデザイン|インテルでの取り組み

    人事(じんじ)を人事(ひとごと)にしないサービスデザイン|インテルでの取り組み

    この記事のポイント

    • プロセスではなくエクスペリエンスをデザインする
    • フロントステージの主役は複数設定でき、それぞれジャーニーが異なる
    • 組織変革にサービスデザインが果たせる役割は大きい

    原文:”Using Service Design to shape the future of Talent Acquisition” by Shira Ben-Cohen

    この記事はShira Ben-Cohenさんによる Practical Service Designへのゲスト寄稿です。Shiraさんはイスラエルに住んでいて、インテルのGlobal Talent AcquisitionグループにてGlobal Talent & Hiringのパートナーエクスペリエンスに取り組んでいます。Shiraさんは組織文化の変革と組織内の人の意識変革にサービスデザインが大きな役割を果たすことができると考えています。

    ■■■

     前回の記事でサービスデザインを自分の組織に取り入れる活動とこの素晴らしいテクニックを人材獲得に活かす取り組むを紹介しました。そして夢見る次のアクションについて書くことでその記事を終えました。

     それはビジネスプロセスパフォーマンスのチームと一緒にリクルーティングのバックステージをデザインすることでサービスデザインを一歩進めること。そして採用候補者だけでなくリクルーターや採用部門長もクライアントとしてみること。そして、その夢はかなったのです!

    採用は三位一体

     私たちは採用する候補者のエクスペリエンスが大事だと知っています。採用のプロは質の高い人材プールを保ち、人材マーケットに組織がいかに採用エクスペリエンスを向上するためにプロセスやツールの改善に努めています。

    解説

    日本では馴染みが薄いかもしれませんが、海外では採用される側と採用する側は対等です。選ぶ自由は採用される側にもあるので、採用する側は「雇ってやる」という態度を見せてはいけません。そのために採用される側のエクスペリエンスが重要視されます。採用に至らなかった場合でも「ああ、結果はともあれ、この企業と話ができてよかった」と感じてもらうことが重要です。

     しかし、何か忘れていないでしょうか?

     採用部門の部門長やリクルーターは採用エクスペリエンスに重要な役割を果たしています。彼らこそ採用プロセスの推進力であり、候補者とともに三位一体を構成します。

     人材獲得の組織を活性化するためには採用パートナーも顧客としてみることが大事です。採用アプローチをデザインする上で彼らのエクスペリエンスも中心に置く必要があります。

     これで主要な顧客がわかりましたので、ニーズの調査に移ることができます。そのやり方を見てみましょう。

    採用部門長とリクルーターは候補者のエクスペリエンスのカギを握る

    プロセスではなくサービスのデザイン

     新しいポジションを作る、人材を募集する、候補者と接触する、といった採用パートナーとのインタラクションは全てサービスと言えます。

     人材のドメインにおいて、私たちは単にプロダクト(ポジション)を売っているわけではなく、サービスを管理しています。

     多くの場合、デザインプロセスはルールや構造、ポリシーからはじまります。今回はその方向を逆さまにしてみました。向上させたいインタラクション(サービス)を取り上げ、「このサービスにおいてどのようなエクスペリエンスを提供したいのか?」と問いかけました。

    このアプローチは非常に役に立ちました。

    1. プロセスではなくエクスペリエンスをデザインする
    2. 既存のサービスの改善ではなく、将来の理想的なサービスをデザインする

    ステージとしての人材獲得

     そしてサービスデザイン手法の素晴らしさが現れる部分でもあります。

     ワークショップの初日、サービスブループリントに取り掛かる前に私は「ステージ」の考え方を同僚たちに紹介しました。

     人材獲得の世界を一つのステージとすると、三つの見方をすることができます。フロントステージ、バックステージと舞台裏です。

    引用:Service Design Stages, by Practical Service Design

    1. フロントステージは実際の活動が起きる場所です。採用候補者のエクスペリエンスの全て。行動をする場所であり、関係する人たちと関わり合いを持つ場所。採用部門長とリクルーターを人材獲得サービスの顧客と設定するならば、彼らもそれぞれのジャーニーを体験するフロントステージの役者となります。

    例:

    • 全体の採用候補者ジャーニー:受け取るeメール、電話、面接のすべて
    • 採用部門長とリクルーターとのやり取り
    • リクルーターがプロセスでのやり取りのエクスペリエンス

    三人の異なる役者、それぞれが違うジャーニーを体験します。それぞれが採用プロセスにおいて自分のフロントステージに立ちます。

    2. バックステージはフロントステージを支えるサポートプロセスです。

    例:

    • 採用候補者が私たちのコミュニティーに参加するための登録フォームを作るための人材管理のCRMシステム
    • リクルーターと採用部門長が採用プロセスを管理するための応募のトラッキングシステム
    • インフラの担当者やアシスタントなど採用活動を支えてくれる他の役者たち

    3. 舞台裏はフロントステージとバックステージが機能するために会社が持つべき規則、規定や予算といった無形のもの全てです。

    例:

    • 考慮すべきあなたの組織の採用予算と人材計画
    • 組織のダイバーシティ―目標とそれが意思決定プロセスに与える影響
    • 障害者採用規定、各国の採用規則、採用募集期間など

    新しいサービスをイメージしなおすために有意義な議論をするマッピング作業を行う前に「ステージ」の考え方を理解することは重要です。ビジネスプロセスだけでなくそこに立つ役者のエクスペリエンスにフォーカスする人間中心デザインの本質と言えます。

    引用:Service Design Stages, by Practical Service Design

    未来の状況のデザインと既存の状況デザイン

     未来のマッピングはそのユーザーにとって理想の状況に基づいています。あるべき姿のサービス構造です。

     わたしたちは採用パートナーの現在のエクスペリエンスではなく、将来のエクスペリエンスの再定義をするために各国の様々な部門からその分野に明るい人たちに集まってもらいました。

     メンバーはそれぞれ異なる専門分野、リージョンや役割を代表し、採用プロセスにおいての役割と知見を得られるよう選出しました。そう、三位一体。

     私たちは三つのトラックを同時進行できるようにグループ分けをしました。それぞれのトラックは採用プロセスにおいて異なる注力分野を担当して新しいエクスペリエンスを描きます。

    将来の理想の採用プロセスと体験をデザインする

    PART 1- サービスエクスペリエンスを描く

     ワークショップ初日はサービスデザインのボディーともいえるサービスブループリントを使って未来のサービスのあるべき姿を描きます。

     前回は現在のサービスブループリントセッションでは現在のサービスをベースとして改善のアイデアを反復させました。しかし、今回はゼロベースで理想のサービスを描くことにしました。

     私たちの基礎となる原則(プリンシパル)は継ぎ目のないシームレスなプロセス、意味のある関係、主なステークホルダーとの真のパートナーシップです。この原則が最後まで私たちの活動を導いてくれることになります。

     私たちは新しいサービスを作りはじめました。一歩ずつ。「最初から最後まで」まずはフロントステージに注力して。

     そして、「最初から最後まで」作り上げたサービスのバックステージと舞台裏のサービスコンポーネントを未来のサービスブループリントをチェックリストとして使いながら「表面から中心まで」みていきます。

    未来のサービスブループリント作成

     たとえば新しいポジションをオープンするためのプロセスを作るとします。一歩ずつ。左から右へ。そしてブループリントの色分けを使ってマッピングしていきます。

    フロントステージとバックステージ

     最初のステップが終わりましたか?それでは次のステップに行きましょう。

    ブループリントの色分け

    デジタルとアナログ

     付箋紙はデザイナーが好むツールで、とても楽しいですが、今回のセッションではデジタルのツール活用も模索しました。

     もちろん、付箋紙を使うことでチームは自らの手を使い、立ち上がり、クリエイティブになります。私も付箋紙は大好きです。一日のワークショップのあとに壁一面に貼られて付箋紙は美しく一日の最後にふさわしいとも言えます。でも、

     現在はクリエイティブにコラボレーションができるデジタルでにできるツールが沢山あります。そしてリアルタイムに文書化することができます。そして、これが重要なのですが、その日の作業状態を保存できるので、好きな時にそこからはじめることができます。その日にいなくても、別の地域にいたとしても。

     今回はMuralを使ってみました。とてもよかったです。今後のセッションでも使い続けるでしょう。

    Our digital blueprint map on Mural-beautiful visualization

    PART 2 — サービスエクスペリエンスを定義する

     ワークショップの二日目は分かれていたグループが再び一つに集まり、それぞれが作ったブループリントの共有をしました。

     それぞれのチームは担当したシナリオのデザインとフローを詳しく説明します。

     次のステップはアイデアを優先づけして実行可能な戦力的な計画に落とし込むことです。そして将来の人材獲得ロードマップを作成して組織に持ち帰ります。

     チームがエクスペリエンスの考え方を素早く吸収してサービスデザインの言葉でグループの作業を共有する姿はとても素晴らしいです。

    それぞれのチームは担当したシナリオのデザインとフローを詳しく説明

    デザイン・ドリブンな組織変革

     はい、組織をデザイン・ドリブンに変革するには時間がかかります。しかし、小さな一歩、企業のマインドが顧客中心の会社への進めていきます。

     私は私のマネージャーたちや会社がサービスデザインのような新しい考え方を取り入れることを誇りに思います。Global Talent Acquisition組織における変革が実行中ですが、ここにサービスデザインを活用できる機会が与えられたことは本当に幸運でした。

    壁にマッピングされたポストイット

    このプロジェクトから学んだこと

    1. 世界はステージでその要素は全て重要です。変化を起こす時にエンドユーザーだけでなく、それを実行する役者全てを考える必要があります。それに取り掛かるチームが「ステージ」のコンセプトを理解できるよう背景を設定しましょう。
    2. 望むエクスペリエンスからはじめ、プロセスを後から定義する。これまでやっていたことは脇において、ビジネスのフローにおいてどのようにしたいのかをデザインしましょう。まず顧客を考える。ニーズを把握してそこからはじめる。使わなければいけないシステムやルールに気を使いすぎない。あなたのモデルに組み込むことができるし、これまで考えたこともないタッチポイントが生まれるかもしれない。
    3. 将来の理想を想像しましょう。現状のマッピングも素晴らしいです。そこは間違えないで下さい。しかし、現状のマッピングでは不十分な状況があります。実際に存在しないワークフローをデザインするのは非常に難しいですが、固有の改善を推進するには必要なことです。
    4. デジタルに移行しましょう。当たり前に聞こえるでしょうが、ワークショップの環境でのエンゲージメントのために付箋紙から離れられない人たちもいます。デジタルツールを使いましょう。
    5. 大きく夢見て、小さくはじめましょう。サービスデザインによる採用プロセスの再定義は1日でなし得るものではありません。サービスデザインを使って組織文化に影響を与えたいと考えるならば、小さなシナリオで小さく興味を持っている人たちと一緒にはじめましょう。その小さな一歩が先へとつながっていきます。

    解説

     顧客満足度を高めるために人間中心のデザインを取り入れる。特にサービスにおいてはサービスデザインは日本でも注目を集めてきています。

     サービスには外向きのサービス(顧客やパートナー)と内向きのサービス(従業員やパートタイム)があります。例えば人事やITというのは従業員が働きやすい環境を作るサービスです。サービスデザインが活用されるのは外向きのサービスが多く、内向きのサービスに使われることはあまりありません。これは予算のつき方が原因なのだと思います。社員満足度のために外部のデザイン会社にお金を払う予算がない。

     でも、内側で人間中心のサービスができないのに、外側に対して人間中心のサービスができるのか?という疑問はありますよね。インテルのこの事例はそういう意味ではとてもいい事例です。ボク自身もシンガポールで新入社員のオンボーディングのデザインをしたことがあります。とある政府系機関の人事の方々とデザイン室と一緒にこのプロジェクトをやったのですが、人事の方というのは社員のことを知っているようで知らない。どちらかというと人事プロセスの専門家なんですね。だから人事(じんじ)は人事(ひとごと)と言われたりする。

     顧客中心の企業文化にしたいのであれば、まずは内側からはじめてみてはいかがでしょうか?

    カタパルトスープレックス なかむらかずや

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  • Facebookのような大企業をトークン化する方法

    Facebookのような大企業をトークン化する方法

    ざっくり言うと

    • キッカケはMark Zuckerbergが2018年に暗号化通貨の可能性を探ることを示唆したFacebookでの書き込み【全文和訳掲載】マーク・ザッカーバーグ「仮想通貨は権力… | News | Cointelegraph)。実際に親和性が高そうなことから、インターネット上で大きな議論がおきた。この記事はブロックチェーン業界で有名なBigchainDBの創業者Trent McConaghyからの提案。
    • 「そんなことできない」というのは簡単、「どうすればできるか」と考えるのがイノベーション。
    • 頭の体操ではFacebookもAmazonもIBMもトークン化できる。
    • 「株主=会社の持ち主」という概念は暗号化トークン社会においては崩れる可能性がある。貢献する人が価値を得るという自律型経営の究極の形かもしれない。

    原文:”Tokenize the Enterprise” by Trent McConaghy

     トークンは新しいブロックチェーンの中でも特に新しい概念です。現在はこれまでブロックチェーンだと思っていたものでは十分ではありません。トークンはWeb 3.0のビジネスモデルだと誰もが気づきました。

     分散システムは権力を多くの人に広げます。それはトークン化されているかもしれませんし、されていないかもしれない。トークンのメリットはエコシステムの参加者の動機付けを同じ方向に向けることです。これはトークンを持つ人たちにとってポジティブサムゲームです。もちろん、トークンのローンチ時の棚ぼた効果も期待できます。

    解説

    ポジティブサムゲームはゲーム理論のひとつ。ポジティブサム、ゼロサム、ネガティブサムがある。ゼロサムゲームはゲームの総和がゼロのため、誰かが勝てば(ゼロより大きい)それ以外の人が損(ゼロより小さい)する。ポジティブサムはゲームの総和がゼロ以上になるため、誰かが勝っても(ゼロより大きい)、他の人も勝つ可能性がある。

     現時点でトークンを発行しているのはスタートアップです。しかし、大企業が発行したらどうでしょうか?Facebookをトークン化できるでしょうか?AmazonやIBMは?どうやって?どんな利点があるのでしょうか?

     手短に言えば、トークンは大企業を内側から侵食します。なぜなら投資家は投資から利益を得られ、コミュニティーが勝利するからです。企業内で起業する暗号化集団が現れるでしょう。それが多くの大企業で起こり、伝統的な証券取引は無くなります。最後にこれは新しい投資家のジレンマとなります。大企業が利益を守る傾向においてどうやって競争するのか?

     もう少し詳しく見ていきましょう。

    アプローチ

    以下が各大企業向けのレシピです。

    • トークン化:株式がトークンとなる。
    • 分散化:権力を人々に分散する。ユーザーは過去や将来の貢献に対してトークンを受け取る。
    • コミュニティーに溶け込む:時間が経過するにつれて価値と権力がさらに分散される。一つか二つの大企業がこれを実行するとき、株主のためにお金を稼ぐことができます。それを目の当たりにした他の大企業もそれに続くようになり、全ての大企業は暗号化されます。

    Facebookをトークン化する

     それでは、Facebookを例にとってこのレシピで大企業のトークン化をしてみましょう。

    ステップ0:現状維持

     Facebookの命運はユーザーとともにあります。Facebookの創業者たちと株主は多くの富を築きました。しかし、ユーザーは個人情報やコンテンツといったFacebookのコアビジネスへの貢献に対して富の分配を受けていません。これが基本的な緊張関係です。Facebookはオープン性とユーザーのプライバシーに対して偏見を持たれています。

     Facebookは数億のユーザーと高いエンゲージメントによって非常に強大になりました。しかし、それは少人数の人たちによって管理されています。これは社会にとってとても危険です。その責任を全うするような構造となっていない場合は特にそうです。

    これまでにこの状況を変えるために様々な提案がなされました。ひとつは法廷に持ち込んで独占企業として認定することで分割することです。

     もう一つのアイデアがブロックチェーン化です。Facebookのボトムアップからの支配です。分散化した何かを作り、ユーザーに参加してもらう。このようなアプローチは分散化したソーシャルメディアで多くありますが、成功したケースは多くありません。最大のチャレンジはユーザーを増やすことです。ニワトリか卵か。ユーザーは友達が参加しているからそこへ参加しているのであり、エンゲージメントの高い2億ユーザーに食い込むのは至難の技です。

     これをさらに推し進めた考え方もあります。分散化とトークン化です。これは役にたつかもしれません。初期にトークンを持っている人は友達に紹介するでしょう。友人を招待することでインセンティブが生まれるので。トークン化は口コミ効果を高めます。しかし、それでも2億ユーザーのネットワークを乗っ取ることができる保証はありません。

     これらのアイデアはゼロからスタートすることを前提として、より早く、賢く、バイラルなもので下から攻撃するものです。それはうまくいくかもしれませんが、私は別の方法があることに気がつきました。内側からのトークン化です。

    ステップ1:証券のトークン化

     このステップではFacebook株(シンボル:FB)がトークンに変換されます。

     Facebook株は約30億株あります。企業としてのFacebookがブロックチェーン上に30億トークン(シンボル:$FB)を発行します。

     そして、Facebookが30億のFacebook株を$FBトークンに変換する契約を行います。または単純に株主(株=$FB)をブロックチェーンの登録台帳とすることもできます。米国デラウェア州はこの方式の可能性を模索しています。

     どちらの方法でもブロックチェーンが$FBトークンが従来の株式を置き換えることができます。これが証券としてのトークンとなります。

    ステップ2:分散化

     この時点でトークンの管理は企業としてのFacebookの手の内にあります。そしてFB株と$FBトークンは同じで1対1です。本当の変化はステップ2で起きます。権力の分散とユーザーへのトークンのアクセスです。

     次のことが同時に起きる必要があります。

    ガバナンスの拡散

     コミュニティーがもっとコントロールできるようにガバナンスを変えます。そうすることにより$FBトークンは企業としてのFacebookのコントロールを離れます。キーとなる責任はプロトコルのアップデート(APIの変更)のルールとトークンのガバナンス(金融政策)です。多くのガバナンスモデルが考えられます。

    1. 完全にオンチェーンで自動化する(TheDAOで起きたようにこれはまだ危険)
    2. 20名以上のケアテイカーによる伝統的なノンプロフィットによるコントロール
    3. 伝統的なノンプロフィットからはじめて、徐々に自動化する(私の好きなIPDBのように)

    ブロックチェーンを公開する

     誰でも書き込み、読み込みができる。そしてサーバーで動いていない。つまり、Facebookの機能は全てオープンなプロトコルとなります。特にトークンを得た人、使った人にとって。理想的にはFacebookの全てがオープンソースとなることです。クールじゃないですか?新しい環境下においてオープンソース化は企業としてのFacebookのメリットとなるので夢物語以上のものです。ブロックチェーンにおいて価値はそのインプリメンテーションではなく究極的にはファットプロトコルにあります。

    過去の貢献に対してトークンを配布

     企業としてのFacebookが追加で30億の$FBトークンを既存のFacebookユーザーに配布します。Facebookの過去の利用に応じてユーザーはリワードされます。全ての過去のポスト、写真の共有、いいねに対して$FBトークンを受け取ることができます。または既存のビジネスモデルでも分散化されたサービスでマーケティング目的でユーザーデータを利用する代わりに$FBトークンを配布することもできます。

    将来の貢献に対してトークンを配布

     Facebookが価値を高める行動をしたユーザーに対して$FBトークンを配布するルールを設定します。例えば、写真を投稿すれば$FBトークンを獲得できる。すでにSteemitBraveBasic Attention Token(BAT)のような前例があります。さらに機能追加やパフォーマンス改善の貢献でも$FBトークンを獲得することができます。

     もしこれらが実施されればKrakenやInterledgerのような交換所が$FBトークンを追加することは明白です。ステップ1とステップ2によって株式としてのFBは伝統的な証券取引所から新しい暗号化取引所へ移行します。

     これによって企業としてのFacebookはどうなるのでしょうか?解散が一つのオプションです。$FBトークンを持つ社員はその貢献によってインセンティブが与えられるので大枠では大丈夫なはずですが、いろいろと解決いけないこともあるであろうことは理解しています。もう一つのオプションは企業としてのFacebookがパブリックの$FBブロックチェーンのサービスプロバイダーとなることです。公共の$FBブロックチェーンのサービスを改善することで従業員に代わって$FBトークンを受け取ることができるため、インセンティブが生まれます。もちろん、個人や他の組織も同様にサービスを改善することができます。

     私の例では50%の$FBトークンを既存の株主に、残りの50%をユーザーに分配しました。もちろんこの比率は変えることができます。しかし、経験則として半分というのはよい数字です。落ち着きやすい数字で、不要な議論を避けることができます。

    ステップ3:$FBをコミュニティーに溶け込ませる

     このステップは時間とともに浸透していきます。このステップの最初の頃は半数の$FBトークンは既存の株主、残りの半分をユーザーが持ちます。時間の経過とともにユーザーはFacebookの利用とともに$FBを獲得し続け、多くの人が$FBをその購入のしやすさから買い続けます。$FBトークンは広がり続けることになります。

     長い期間保有する人も出てきます。$FBトークンをHODLするようになります。Facebookのマキシマリズム。これ、ここで初めて言ったからね。

    解説

    • HODLはビットコインのスラングで「売らずにとっておく」という意味。

     そもそもなんでFacebookの株主がこのような取り組みに賛成するか疑問に思うかもしれません。主な理由はお金を稼ぐためです!それが典型的な株主の主な動機です。 これは大きな価値です。もし企業としてのFacebookがユーザーの利益に反することなく実現する方法を見つけたならば。しかもこれはユーザーにとって自然な関係というだけでなく、ユーザーは貢献によって価値というインセンティブを受け取ります。さらに長期計画の元凶とも言える四半期ごとの収益報告義務から解放され、正しいことを実行できるようになります。その代わりビジネスとコミュニティーのバランスが必要となります。これだけでも価値は二倍以上になり、コストの回収ができます。ボーナス価値としてFB株と比べて$FBを買うことは取引摩擦が低いために流動性が改善されます。最後に誰でもコードベースを改善できるために価値を追加するためのボトルネックが少なくなります。

    解説

    オリジナルの記事はもっと長くてAmazonやVisaのトークン化のやり方も提案しています。力作ですがタイムリーなネタであるFacebookのトークン化の提案だけ翻訳しました。それ以外は興味があったら読んでみてください。

    オープンソース以前でソフトウェアの開発組織が大きく変わったように、トークン化は企業全体を変える可能性があります。Facebookのような大企業がその先鞭をつけたとしたら、その波はかなり大きなうねりとなり多くの企業を巻き込むことになるでしょう。

    それにしても、こんな大きな決断ができるとしたらMark Zuckerbergは本当にすごい。Internet Tidal WaveでMicrosoftのインターネットへの転換を図ったBill Gatesを彷彿させるものがあります。

    カタパルトスープレックスなかむらかずや