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  • 書評|オッサンの言ってることは意外と正しいんじゃないか?|”Lab Rats” by Dan Lyons

    書評|オッサンの言ってることは意外と正しいんじゃないか?|”Lab Rats” by Dan Lyons

    今回紹介する著書のダン・リオンズさん。見ての通り、オッサンです。ずっと編集畑を歩んできて、リストラされる。心機一転、スタートアップ(Hubspot)の世界に飛び込んだもののやっぱりリストラ。スタートアップめ!ざけんじゃねーぞ!とスタートアップ界隈をdisった前著の”Disrupted“が大ヒット。余勢をかってスコープを広げたのが今回紹介する”Lab Rats”となります。

    Lab Rats: How Silicon Valley Made Work Miserable for the Rest of Us (English Edition)

    Lab Rats: How Silicon Valley Made Work Miserable for the Rest of Us (English Edition)

    スタートアップの価値観って本当に正しいですか?

    こういう本って下手したら逆恨み感満載の負け犬の遠吠えになってしまいます。ここまでいろんなことに噛み付いていると、単なる狂犬なのではと思われてしまう危険性もある。実際に、これが「ユニコーン」という言葉が生まれた5年前(2013年)だったらそう取られていたでしょう(前著の”Disrupted”は2016年)。

    しかし、最近はユニコーンって本当にそれだけの価値があるの?と疑問符がつきはじめてきました。実際に利益が出ている会社なんてほとんどない。GoogleやFacebookは例外中の例外(統計でいえば異常値)であって、本当はシリコンバレーのやり方は正しくないんじゃない?

    スタートアップという病

    大企業でもスタートアップ的なやり方を取り入れることが多くなってきました。この本で冒頭に出てくるレゴ・シリアスプレイなんて典型的な大企業向けスタートアップ風ワークショップですよね。ボクもアムステルダムに住んでいた頃にいくつかシリアスプレイのワークショップに参加したことがあります。面白いとは思ったけど、特に何かの役に立ったということはありませんでした。

    ダン・リオンズは「わかっている人はわかってる、こんなこと意味ないと」と言います。しかし、こういうスタートアップ的なものに意味がないというと周りから「古臭くてダメなやつ」というレッテルが貼られる。チームプレーヤーだと思われない。だから、声を上げることができない。あれ?同調圧力って日本独特なものではないんですね!

    どこで資本主義は間違ったのか?

    マイケル・ムーアの『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』が2015年に公開されたのは偶然ではないでしょう。ボクたち戦後の日本人はアメリカからの影響を強く受けているので、アメリカの価値観が世界の価値観だと思ってしまう傾向があります。グローバルスタンダードといっても、それはアメリカのスタンダードだったりします。それを二つの金融危機を通じてアメリカ自身が気づいたのがこの頃だったのではないでしょうか。そして、アメリカ資本主義の価値観をドーピング強化したのがベンチャーキャピタルが作ったスタートアップのエコシステムというのがダン・リオンズの見立てです。

    ダン・リオンズも資本主義自体が間違ってるとは主張していません。どこかで道を間違えたとしたらそれはミルトン・フリードマンではないかと主張しています。つまり、会社は株主の利益を追求すべきという考えに基づいた資本主義ですね。最近の書籍ではミルトン・フリードマンは悪者として描かれることが多い気がします。利益追求こそが企業の役目という姿勢がそもそも間違ってない?ということです。人の幸せってそういうことだっけ?

    アメリカ企業で人事(じんじ)は人事(ひとごと)な理由

    アメリカ企業は組織の新陳代謝が早いと言われています。これは、生産性の低い社員を生産性の高い社員に常に置き換えるからです。年功序列ではなく、実力主義だからというのは表面上のことです。それはシリコンバレーの男性至上主義なブロカルチャーが批判されていることでもわかりますよね。純粋に実力が評価されるのであれば、女性やマイノリティーの割合はもっと高いはずです。

    シリコンバレーだけでなく、大企業でも「実力主義」は様々な行動に表れています。例えば、PIP(業務改善プログラム)という社員のクビを切る仕組みが大抵どこの会社でもあります。本来は文字通り、パフォーマンスの悪い社員の改善を助けるプログラムなのですが、慣習としては裁判を起こされないようにちゃんとクビを切る手続きとなっています。

    コンサルティング会社などではUp or Out(上にあがるか、会社を去るか)と言われますし、最悪な場合はburn them out, churn them out(燃え尽きさせて、追い出せ)なんて言われます。特に給与のインセンティブが高い(歩合制:基本給が50%で歩合ボーナスが50%とか)の営業に多いのですが、このインセンティブミックスで歩合の割合が高いほどギャンブルに近くって、「今期刈り取りすぎて、来期は成績が達成できなそうだなー」なんてなると辞めてしまいます。この場合は雇用側も置き換え可能なモノとして社員を見てしまうし、雇用される側も企業(とその顧客)を焼畑農業の農地としてみてしまう。

    このような社員やパートナーを代替可能なモノとして扱う考えの発端はフレデリック・テイラーなのだそうです。そして、そのシリコンバレーの伝道師が“We are a team, not a family”で有名なNetflixの創業者リード・ヘイスティングであり、それを忠実に人事のトップとして実践して自らもNetflixをクビになったパティー・マコード、「ブリッツスケール」を提唱しているLinkedInの創業者リード・ホフマンです。PayPalマフィアの中でリード・ホフマンはまともな方だと思っていたのですが、ダン・リオン的には他の「クソ野郎」と同じだそうです。

    ギグ経済で人が商品になる(サービスとしての人間:Human as a Service)

    この究極の形がギグ経済だとダン・リオンズは言います。ギグとは小さな請負仕事のこと。クラウドソーシングがこのギグ経済を作り上げました。フリーランスの人たちが正規雇用とならずにクラウドソーシングで仕事を得ることができるようになりました。それなりに生活費は稼げていて、それでも本当に時間が余っている人にはすごくいいですよね。基本の生活費ではなく、プラスアルファをクラウドソーシングで稼ぐ人たち。でも多くの場合は企業に所属して安定した収入を得ることができない人たちが基本の生活費を稼ぐためにクラウドソーシングで小さなギグを拾っています。

    ギグ経済って企業(資本家)にとってはとても都合がいい。だって、正規雇用をしなくていいから、コストをいつでも最適化できる。いつでもクビにできる。社会保障費も必要ない。福利厚生も必要ない。

    Uberはこの本の中で悪い例として頻繁に出てきます。Uberは人を人として扱わないことで有名です。少なくとも、トラヴィス・カラニックがCEOの頃はそうでした。Uberの立場からすれば「空いている時間を自由に使ってお金を稼げる仕組みを作ってる。嫌なら使わなければいい」だし、働いている立場からすれば「ドライバーを最低賃金以下で社会保障もなく働かせている。Uberのおかげでタクシーでは働けなくなった。」になる。

    洗脳ツールとしてのアジャイル

    人事が開催するトレーニングって洗脳儀式めいたところがあります。もちろん、仕事で本当に役に立つトレーニングもありますよ。プログラミング言語とか英会話とか。ハードスキルですね。ソフトスキルだとクリティカルシンキングとかデザイン思考も、まあ悪くはない。それを実際に使って仕事をする機会はたくさんある。でも、冒頭で紹介したレゴ・シリアスプレイあたりになるとかなり怪しくなってくる。「こういうマインドセットで働いてくださいね」という型にハメてくる。ちょっと前だと『7つの習慣』とかね。

    もちろん、これは人事としては「企業文化」を作るためにこういうソフトトレーニングをやっています。悪気があるわけではない。英語に”weed out”(雑草を刈る)という言葉がありますが、「企業文化」に合わない人材は雑草なので出て行って欲しい。Zapposトニー・シェイがホラクラシーを導入するときに30%の従業員が会社をさったのと同じですね。そこまで大胆じゃないにしても、洗脳系のトレーニングに参加する方もそれは理解しているから分かったフリをする。外資系企業ってそうですよ。

    ダン・リオンズはアジャイルもこの部類に入るとしています。結局のところ、ウォーターフォールもアジャイルも手段でしかない。アジャイルが適切な開発があれば、ウォーターフォールが適切な開発もある。それを一つの枠に押し込めては、適材適所ができなくなってしまう。アジャイルが開発だけに留まっていればまだいいが、アジャイルマーケティングとか本来のアジャイルとは関係ない「アジャイルほにゃらら」になると怪しさが一気に増してきます。アジャイル自体がそれほど歴史がないのに、その亜流の「アジャイルほにゃらら」が成熟した手法であるはずもなく、実績もない。それでも企業研修に取り入れられているする。それは、実際のスキル開発というよりは「企業文化」のため。つまり、洗脳ツールとしての機能を求められている。

    新しい資本主義

    もちろんダン・リオンズは文句を言っているだけでなく、目指すべき方向も(本人が認めるように不完全ではありながら)示しています。ベンチャーキャピタルはミルトン・フリードマンの「悪しき資本主義」の究極の形ですが、「よい資本主義」を目指す新しいベンチャーキャピタルが誕生してきています。その代表例がLotus 1-2-3を開発したロータス創業者のミッチ・ケイパーが設立したケイパー・キャピタルです。

    ケイパー・キャピタルのミッションは「社会に存在する格差を埋める」ことです。地域格差、人種格差、性別による格差。こういうことをなくしていくスタートアップに投資しています。実はかなり初期の2010年にケイパー・キャピタルはUberにも投資をしていました。そして、Uberが創業者であるトラビス・カラニックのセクハラ疑惑が浮上すると、Uberの取締役会と投資家に向けてブログでオープンレターを公表しました。

    投資家は投資した企業の価値を最大化することを目的としています。なので、たとえその企業が(利益以外のいことで)うまく行っていなくても、大っぴらに批判することはありません。それは企業価値を貶めてしまう可能性があるからです。しかし、ケイパー・キャピタルはあえてそれをしました。このケイパー・キャピタルはシリコンバレーの伝統的な投資家からは非難されましたが、ケイパー・キャピタルは彼らのミッションに忠実であっただけです。

    新しい資本主義に方向転換するには投資家だけでなく、企業も変わらないといけません。その代表例がBasecampです。Basecampの創業者たちが書いた”It Doesn’t Have to Be Crazy at Work”についてはそのうちに書評として紹介します(鋭意執筆中)。

    この本はどんな人にオススメか

    何事も過ぎれば「宗教」となり、盲目的に信じてしまいます。アジャイルもリーンもデザイン思考もそれは同じです。たまには距離をとって客観的に見つめることも大切です。この本はいわゆるスタートアップ的な見方をクールに見つめ直すのに最適です。

     

  • 書評|Googleも超えられない男性天国シリコンバレーの闇|”Brotopia” by Emily Chang

    書評|Googleも超えられない男性天国シリコンバレーの闇|”Brotopia” by Emily Chang

    シリコンバレーというとイノベーションの中心地というイメージがありますし、実際にその役割を担っている部分もあります。しかし、全てパーフェクトなものはありませんし、それはシリコンバレーとて例外ではありません。

    シリコンバレーは特に白人男性社会と批判されることが多く、エミリー・チャンによる“Brotopia”はその流れの代表です。「ブロ」は男性同士で親友を意味します。「あいつは俺のブロだ」みたいな感じ。それにユートピアをかけて「ブロトピア」なんですね。

    シリコンバレーがどうしてブロトピアになってしまったかという考察は男女平等の度合いを示す「ガラスの天井指標(GLASS-CEILING INDEX)」でOECD加盟国の中で二番目に低くい日本にとっても参考になるところが多いでしょう。

    Brotopia: Breaking Up the Boys' Club of Silicon Valley

    Brotopia: Breaking Up the Boys’ Club of Silicon Valley

     

    ブロトピアが生まれる背景:小さな積み重ねが文化をつくる

    コンピューター業界も小さな積み重ねが今のブロトピアにつながりました。ENIACの六人のプログラマーたちやプログラム言語COBOLを開発したグレース・ホッパーなど、ソフトウェア開発は元々は女性が多かった職業なのですが、80年代にソフトウェア開発に注目が集まると徐々に男性中心になっていきました。その象徴的な事象としてデジタル画像処理の基準として使われてきた雑誌『プレイボーイ』のヌードグラビアを挙げています。そんな研究現場や職場に女性は居づらいですよね。

    徐々にプログラマー=白人男性というステレオタイプが出来上がり、採用試験のためのテストなども徐々にそのステレオタイプに合うような候補者を見つけるような設問になっていきました。

    Googleですら失敗した男女平等

    “Brotopia”では様々な事例が紹介されています。特にPayPalマフィアはシリコンバレーをブロトピアにすることに加担したグループとして詳しく描かれています。当たり前ですが、ビジネスで成功したからといって、人間的に素晴らしいわけではないんですね。最初からまともなのはLinkedInを起業したリード・ホフマンくらいで、それ以外はほぼクソ野郎として描かれています(特にピーター・ティール)。

    まあ、彼らは「ブロ」の集まりですし、友達を採用することで有名でしたから。そのやり方が常に成功するならいいのですが、PayPalマフィアのマックス・レフチンはブロトピアな企業文化で自分のスタートアップを失敗して、過ちに気づいた一人です。

     Googleの場合は最初から女性の採用に積極的でした。Googleの広告ビジネスを確立させたスーザン・ウォシッキー(現YouTube CEO)、シェリル・サンドバーグ(現Facebook COO)、マリッサ・メイヤー(元Yahoo! CEO)が代表例です。初期には男女の機会均等に大いに努力をしてきたGoogleですが、女性の役員やリーダーの割合はシリコンバレーの平均に落ち着いてしまっています。

    当時Googleのエンジニアだったジェームズ・ダモアが公開した「反多様性メモ」はGoogleもブロトピアになってしまったことを示すものでした。そして、GoogleのCEOであるサンダー・ピチャイが公開したこの件に関するメモは色々と示唆に満ちたものでした。

    まずはじめに、Google社員の表現の自由を尊重します。そして、件のメモはたとえ多くのGoogle社員が賛同しないとしても公正に議論をする内容を含むものでした。しかし、メモの一部はGoogleの行動規範に反するものですし、私たちの職場の性別の多様性に悪影響を与える内容を含んでいました。私たちの仕事はユーザーの生活にインパクトを与える素晴らしい製品を作ることです。私たちの職場仲間の一部が生物的に仕事に適していない傾向があるとするのは不快ですし、認められません。全てのGoogle社員はハラスメント、威嚇、バイアス、不法な差別のない職場文化を築くために最善の努力を尽くすという私たちの基本的な価値観と行動規範に反するものです。

     

    “First, let me say that we strongly support the right of Googlers to express themselves, and much of what was in that memo is fair to debate, regardless of whether a vast majority of Googlers disagree with it. However, portions of the memo violate our Code of Conduct and cross the line by advancing harmful gender stereotypes in our workplace. Our job is to build great products for users that make a difference in their lives. To suggest a group of our colleagues have traits that make them less biologically suited to that work is offensive and not OK. It is contrary to our basic values and our Code of Conduct, which expects ‘each Googler to do their utmost to create a workplace culture that is free of harassment, intimidation, bias and unlawful discrimination.’”

     この本は誰にオススメか

    企業文化に興味を持っている人にはオススメです。PayPalでの採用の進め方とGoogleでの採用の進め方の比較はジェンダー論だけではなく色々な示唆に富んでいます。

    ただ、一番読んで欲しいのは飲み会で風俗の話をするような人たちなんですけどね。そうすれば「ガラスの天井指標」で日本の数字も多少は上がるのではないでしょうか。

  • 書評|Amazonから学ぶ4つのビジネスの成功要素|”Be Like Amazon” by Jeffrey Eisenberg

    書評|Amazonから学ぶ4つのビジネスの成功要素|”Be Like Amazon” by Jeffrey Eisenberg

    実証されていないイノベーションやビジネスモデルはワクワクします。将来のことだから。株価も将来の期待によって上下します。顧客や従業員を中心に考える企業は投資家からみれば、利益という自分の分前を取られていると感じますし、ワクワクしないのであまりニュースにもなりません。

    ジェフリー・アイゼンバーグの”Be Like Amazon“は「もちろん、イノベーションやオペレーションの最適化は大事なのだけれど、顧客やパートナーも大事だよ」と事例を示しながら解説しています。

    本の内容

    ジェフリー・アイゼンバーグの”Be Like Amazon”はビジネス書なのだけれど、投資家である師匠と起業家である弟子が車でどこかへ向かう途中の会話という形式になっています。会話形式ですが、フレームワークははっきりしているので、要点がぶれることもなく非常にわかりやすいです。タイトルにAmazonとありますが、Amazon以外の事例を紹介しながら独自の事業フレームワークを解説しています。

    この本では以下の四つが成功の要素としています。

    1. 顧客中心主義(Customer Centricity)
    2. 継続的改善(Continuous Optimization)
    3. イノベーション文化(Culture of Innovation)
    4. 企業としての迅速さ(Corporate Agility)

    メディアで「これはイノベーションだ!すごい!」とか「こんなオペレーションよく考えた!天才!」のような記事をよく見かけます。それはこの四つの中の2. 継続的改善と 3. イノベーション文化の表れではあります。しかし、「この取り組みは顧客中心主義ですごい!」という記事はあまり見かけません。顧客中心主義はイノベーションやオペレーションに比べて記事になりにくいからでしょうが、1. 顧客中心主義がなければ「結局そのイノベーションは誰のため?」となってしまいます。

    顧客にとっては安く便利に買い物ができて、早く届けばいい。それがどんな仕組みだろうと関係ありません。Amazonが矢継ぎ早に繰り出すドローンによる配達、Amazon Dash、Amazon Goも「安く便利に買い物ができて、早く届ける」ことを実現することですよね。上記の成功要素四つが全て満たされています。

    顧客を失うと改善もイノベーションも意味がなくなる

    シアーズはジュリアス・ローゼンウォルドの時代、1906年にIPOします。シアーズはカタログ販売という当時としては革新的なビジネスモデルを成功させましたが、その成功の裏にあった理念は良いものを安く届けるです。顧客が満足しなければ返金する「満足保証」はその表れでした。

    長年シアーズがアメリカ小売りのトップでしたが、1980年代にサム・ウォルトンのウォルマートにチャンピオンの座を譲ります。シアーズはディスカバリーカードを作ってクレジットカード領域に参入したり、オペレーションの改善をしましたが、顧客中心の視点は失っていきました。

    そのイノベーションは誰のため?

    現金お断りは顧客のため?

    様々なニュースでイノベーションが取り上げられ賞賛されています。しかし、「そのイノベーションは誰のため?」と思ってしまうような事例も少なくないです。例えば、天丼てんやが現金お断りのキャッシュレス店舗をはじめるという話。

    ヨーロッパでは確かに現金を受け付けないキャッシュレススーパーマーケット(Marqt)など一部あります。アメリカではAmazon Goが代表例です。しかし、これは例外的です。ヨーロッパではデビットカードでの支払い、アメリカではクレジットカードでの支払いが一般化していて、キャッシュレスでの支払い行動が現金より多いという背景もあり、それほど困ったことにはなりません。

    企業として2. 継続的改善(Continuous Optimization)は大事ですし、イノベーション文化(Culture of Innovation)や企業としての迅速さ(Corporate Agility)は賞賛されるべきことです。しかし、1. 顧客中心主義(Customer Centricity)の視点で考えるとどうでしょうか?

    このような疑問は英国The Gurdianでも提起されています。キャッシュレスで支払えないという理由だけで顧客を拒絶するのが正しい姿勢なのでしょうかと。もちろん、テスト運用だったら理解できます。やってみないとわかりませんから。しかし、現金拒否があたかも既定路線であるかのような姿勢には、顧客中心主義の観点で大きな疑問となります。

    デリバリープロバイダは顧客のため?

    この本では大絶賛さているAmazonですが、日本ではどうでしょうか。例えばAmazon Japanのデリバリープロバイダは早くも安くもなっていないので1. 顧客中心主義の欠けた2. 継続的改善となってしまっています。なかなか日本では徹底できないのかもしれません。Amazonは小売だけではなく物流も支配するかもしれないと予想する人たちもいますが、それが顧客のためにならないのであれば支持もされないでしょう。

  • 書評|Twitter創業者たちのエゴと魅力『ツイッター創業物語』|”Hatching Twitter” by Nick Bilton【2018年夏休み読書週間】

    書評|Twitter創業者たちのエゴと魅力『ツイッター創業物語』|”Hatching Twitter” by Nick Bilton【2018年夏休み読書週間】

    いろいろなスタートアップの成り立ちを調べてブログで書いていると、企業や人となりには(当然ながら)裏と表があると気がつきます。完璧なんてない。どれだけ素晴らしい業績を残した起業家も成人君主ではなく普通の人間です。

    いわゆる会社公認の「創業史」には人間的なドロドロした部分を拭き取って、磨いてピカピカになったものです。しかし、この『ツイッター創業物語』はニック・ビルトンが創業者たちだけでなく、当時の関係者に徹底的に聞き取り調査をした結果、非常に人間らしいツイッターの生い立ちを伝えています。

    Hatching Twitter (English Edition)

    Hatching Twitter (English Edition)

     
    ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り

    ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り

     

     

     

    成功者は聖人君主じゃない

    Appleのスティーブ・ジョブズやFacebookのマーク・ザッカーバーグの成し遂げたことはスゴイです。日本だと松下幸之助や本田宗一郎は伝説ですよね。彼らの人となりが理解できるほど近しい人は限られていて、多くの人は想像するしかありません。そして想像する彼らは素晴らしいリーダー。想像の産物です。リーダーは人格者であってほしいという潜在的な期待もあるでしょう。でも、実際には完璧な人間なんていません。

    『ツイッター創業物語』に登場するエヴァン・ウィリアムズ、ジャック・ドーシー、ビズ・ストーン、ノア・グラスの四人(公式には三人)の創業者たちも完璧とは程遠い人間らしい人たちとして描かれています。マーク・ザッカーバーグも登場しますが、彼も(当然ながら)慈善事業としてFacebookを運営しているわけではないので、ライバルであるTwitterをしたたかに追い詰めようとします。でも、それが人間ですよね。

    三人いれば「社内政治」が生まれる

    スタートアップは大企業と違って社内政治がないというイメージがあると思います。これは実際とは随分違うかなと思います。欧米のビジネスの世界では「三人いれば社内政治が生まれる」と言われています。ボクが手伝っていたスタートアップが海外支社を作った時、その国は三人ではじめました。三人なんだから密接に連携してやると思いますよね?そんなことないんです。人間にはエゴがありプライドがあり、相性があります。英語では人間の相性を化学反応(Chemistry)と言います。Wikipediaにもあるくらい頻繁に使われるビジネス用語です。

    エヴァン・ウィリアムズ、ジャック・ドーシー、ビズ・ストーン、ノア・グラスの四人は簡単に言えばChemistryが合わなかったのかなと。完璧な聖人君主がいないように、完璧な悪魔もいません。人と人との化学反応がよく作用することもあれば、悪く作用することもある。それだけです。この本では創業者同士の化学反応がどのように起きたのかを追うことができます。

    ジャーナリズムの凄さ

    インターネットのおかげで創業者が会社の成り立ちをPRというフィルター無しで見ることができるようになりました。ボクのようなブロガーはそのようなネット上のインタビューを整理整頓して記事にすることができます。創業初期にはPRエージェンシーは付いていないので、創業者の率直な考えや出来事を知ることができます。PRエージェンシーがキレイにした会社公認の「創業史」よりは少し人間っぽさが出ているかと思います。それでも、そこが限界です。

    報道には会社からの「発表報道」と記者の「調査報道」があります。セラノスを追求したジョン・カレイロウの”Bad Blood”もそうですが、ニック・ビルトンによるこの『ツイッター創業物語』を読んでいるとやっぱりジャーナリズムってスゴイと思います。

    不満点

    Twitterの発展には日本のユーザーがかなり貢献しているのですが、その点については全く触れられていません。Pride ParadeやSXSW、大統領選などのイベントについては触れられているのですが、「バルス」については触れられていません。この本は関係者へのインタビューをもとに書かれているので、ひょっとしたらTwitterの関係者は何が日本で起きていたのか、実はあまり理解できていなかったのかもしれません。

    Twitter’s Top 5 Accounts Are All in Japan — Here’s Why

  • 書評|超えてはいけない一線を超えたスタートアップ史上最大のスキャンダル|”Bad Blood” by John Carreyrou【2018年夏休み読書週間】

    書評|超えてはいけない一線を超えたスタートアップ史上最大のスキャンダル|”Bad Blood” by John Carreyrou【2018年夏休み読書週間】

    スタートアップ史上最大のスキャンダルのひとつとして数えられるであろうセラノスの事件をその発端から現在に至るまで詳細に追いかけた一冊。

    なぜこれほど多くの実績あるベテラン投資家や政府高官、企業役員たちがセラノスの不正を見抜けなかったのか。シリコンバレーに大きな教訓を残した事件であり、今回紹介するジョン・カレイロウの”Bad Blood”はそれを学ぶのに重要な一冊だと言えます。

    BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相 (集英社学芸単行本)

    BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相 (集英社学芸単行本)

    • 作者:ジョン・キャリールー
    • 発売日: 2021/02/26
    • メディア: Kindle版
    Bad Blood: Secrets and Lies in a Silicon Valley Startup

    Bad Blood: Secrets and Lies in a Silicon Valley Startup

     

     

    信じたいことだけを信じるカルチャー

    この本の最初の何章か読んで(オーディオブックなので正しくは「聞いて」ですが)いてまず思ったのが「ああ、これって企業の中ではあるあるだよね」でした。「正しい」ことと「望まれる」ことは違う。往々にして正しさは主観的なので、人の数だけ「正しい」答えがあることがあります。そして、その「正しい」のギャップは話し合いで解決をしたり、トップの人の「正しさ」がその会社にとっての「正しさ」になることもある。この差をどう解決するかは企業文化に依存します。

    いずれにせよ、会社の「正しさ」を信じてチームプレイに徹することが求められます。会社が「正しい」と思えず、変えることができなければそこを離れるしかない。これはセラノスに限らずどこに企業でも同じです。

    セラノスの「正しさ」は共同創業者のエリザベス・ホームズが定義していました。スタートアップは創業者チームの考えを具現化したものですから、これもスタートアップにはよくあることです。ここで描かれるセラノスは超ブラック企業ですが、残念ながらこれも多くの企業でよくあることです。後半は病的なまでに従業員、元従業員や関係者を攻撃するのですが、こういう会社も少ないながらあります。セクハラやパワハラはありますし、パートナー企業を徹底的に追い詰める企業も存在します。必ずしも組織や人事が従業員を守ってくれるとは限りません、残念ながら。「そんなことない」と言える人はラッキーです。では、そこまでありふれたことなのであれば、セラノスの場合はどうしてここまで大きな事件になったのか?

    セラノスが事件となった理由

    これが純粋にテクノロジーのスタートアップだったらあまり問題になりません。創業者が間違っていたとしても、会社が潰れるだけですから。大企業の場合は正常に機能していればそのような因子を排除するように動くのですが、これには時間がかかります。自浄作用が働かなくても噂は止められません。

    ところが、人の命に関わる分野はそうはいきません。間違ったことが起きないように規制やルールがあります。どれだけ起業家が「正しい」と主張しようと、法律以上に「正しい」ことはありません。スタートアップの主観的な「正しさ」は法律の客観的な「正しさ」を上書きできません。

    もちろん、グレーゾーンはたくさんありますし、グレーゾーンにこそチャンスがあります。Fintechスタートアップなら金融に関する規制、Uberのようなシェアエコノミーなら道路交通法など準拠しなければいけない法律があります。グレーゾーンとは黒ではない、誰も試したことがないことですね。その境界線をどこまで押せるのか。どこまで黒で、どこからが白なのか、これを試しながら進んで行くのがスタートアップです。

    しかし、いつかは黒と白の線引きをしなければいけません。人の命に関わることならなおさらです。人の命はビジネスより大切です。電通社員の自殺事件でもそれはわかりますよね。セラノスはこの境界線の明らかに黒い部分を超えていました。

    歴戦の企業家や投資家がなぜ出し抜かれたのか

    セラノスを投資家として、ビジネスパートナーとして支えてきた人たちは素晴らしい経歴の持ち主達です。大手ドラッグストアチェーンのWalgreensやスーパーマーケットチェーンのSafewayのCEOは店舗にミニラボを設立する契約をしました。現トランプ政権の国防長官であるジェームズ・マティスは軍司令時代に海兵隊でセラノスのシステムを使う口利きをし、現職を受ける前にセラノスの取締役会に席をおきました。

    マイクロソフトの独禁法裁判で司法省を代表して一躍有名になったデビッド・ボイスもセラノスの弁護士としてその腕を(悪い意味で)ふるいました。元国務長官のジョージ・シュルツもセラノスで働いていた孫が不正を訴えても聞く耳を持ちませんでした。

    なんで?って思いますよね。

    スタートアップを測るモノサシ

    以前に紹介したエリック・リーズの『スタートアップ・ウェイ』にも書いてありますが、伝統的な経営とスタートアップの経営は異なります。予実管理や会計手法は伝統的な経営に適しています。予測できるビジネスには最適です。しかし、スタートアップは予測できないビジネスです。

    起業家が投資家にホッケースティックのような売り上げや利益の予測をピッチしますが、それを本気で信じて投資する人はほとんどいません。そもそも、そのアイデア自体が最終的なプロダクトになるとも限りません。ピボットはスタートアップには日常です。投資判断をする上で、プロダクトよりビジネスプランより大きいのはチームだと言われています。まあ、人に投資するわけです。

    セラノスを支えた素晴らしい経歴の持ち主たちはスタートアップを測るモノサシを持っていませんでした。エリザベス・ホームズという人を測るしかなかった。そして、見誤った。美人ですしね。

    セラノス事件の教訓

    セラノスの経営陣、特にエリザベス・ホームズとラメシュ・サニー・バルワ二がいつ自分たちが犯罪を犯しているのか気づいたのかはわかりません。しかし、いつかの時点で気が付いていたはずです。この二人がセラノス社内でモラルハザードになっていたとしたとしたら、弁護士のデビッド・ボイスとその法律事務所はセラノス社外で猛威を振るいました。彼も境界線を見誤った一人でしょう。デビッド・ボイスはこの件で晩節を汚した一人ですね。

    スタートアップは予想できないビジネスの上に成り立つモデルですが、白と黒の境界線は決めなければいけません。おそらくこの部分に関しては法のメスが入るのではないでしょうか。ベンチャーキャピタルも医療テックへの投資はもっと慎重になるかもしれません。しかし法に対するコンプライアンスは医療に限らず様々な分野に及びます。今回の事件でスタートアップのコンプライアンスがどこまで広がるかは注目に値します。

  • 書評|大人ためのリーンスタートアップ『スタートアップ・ウェイ』|”The Startup Way” by Eric Ries【2018年夏休み読書週間】

    書評|大人ためのリーンスタートアップ『スタートアップ・ウェイ』|”The Startup Way” by Eric Ries【2018年夏休み読書週間】

    イノベーションの実現を助ける手法としてリーン・スタートアップは有名です。用語としてMVPとかピボットとか聞いたことがある人もいるでしょう。『スタートアップ・ウェイ』は『リーン・スタートアップ』を書いて世の中にリーン・スタートアップを広めたエリック・リースの新著です。

    リーン・スタートアップはスタートアップだけではなく、どのような規模でも業態でも活用できる考え方ですが、今回のスタートアップ・ウェイではGEやアメリカ政府などの事例を紹介しながら大規模な組織や伝統的な業態での適応の仕方を紹介しています。今回は英語の原書を読んでの書評なので最近出版された翻訳版と少し用語が違うかもしれません。読むんだったらもちろん翻訳版を読んだほうがいいです。

     

    リーン・スタートアップ

    リーン・スタートアップ

    • 作者: エリック・リース,伊藤穣一(MITメディアラボ所長),井口耕二
    • 出版社/メーカー: 日経BP社
    • 発売日: 2012/04/12
    • メディア: 単行本
    • 購入: 24人 クリック: 360回
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    スタートアップ・ウェイ 予測不可能な世界で成長し続けるマネジメント

    スタートアップ・ウェイ 予測不可能な世界で成長し続けるマネジメント

    前提としての二つの経営

    経営には二つあるとエリック・リースは言います。一つは伝統的な経営(General Management)でもう一つは起業家の経営(Entrepreneurial Management)です。これまでのビジネスだけでなく、新しいイノベーションを起こす持続可能な経営のためにはこの二つの両方が必要だとエリック・リースは主張しています。

    伝統的な経営

    伝統的な経営は予測できる世界の中で有効です。予実管理とかパイプライン管理はビジネスは先が見通せることを前提にできている考え方です。それを支える会計ツールやSCM、CRMなど全て予実管理のツールです。

    このような伝統的な経営は市場が求める計画と予測を提供するために必要です。

    起業家の経営

    すでに確立したビジネスのある企業と違い、スタートアップは予測することができません。スタートアップが3年生き残る確率は10%未満です。ドットコムバブルやリーマンショックでも多くのスタートアップが潰れました。それでも生き残った企業はイノベーションを起こして伝統的な企業より大きな市場価値を生み出しました。

    予測ができないことを前提で様々な手法が生まれました。リーン・スタートアップはその一つですし、グロースハッキングやデザイン思考、ジョブ理論などたくさんの考え方が起業家の経営を支えています。

    スタートアップとイノベーションのジレンマ

    ボク自身の経験を振り返ってみれば、伝統的な企業とスタートアップでは求めているものが確かに異なっていました。

    伝統的な企業はよりスタートアップ的な考え方を取り入れたい。リーン・スタートアップやアジャイルなどを活用したイノベーションのやり方を知りたい。

    スタートアップはより伝統的な手法を取り入れたい。売上予測の立て方やそれを管理するためのパイプライン管理手法などを知りたい。GoogleやFacebookを見ればわかりますが、スタートアップはいずれ大企業になります。その成長の過程で伝統的な市場のニーズに応える方法を身につけなければいけません。しかし、その過程で起業家の経営は失われていきます。

    伝統的な企業で起業家経営をする

    スタートアップ・ウェイはどのように伝統的な経営と起業家の経営という二つの経営の考え方をどのように組織に定着させて持続可能なイノベーションを生み出す企業に変革できるかを説明しています。

    すでに多くの企業はイノベーション・ハブの考え方を取り入れています。このカタパルトスープレックスで紹介しているアメリカ政府の18Fやイギリス政府のGDSもイノベーションハブですし、以前に紹介したバークレイズ銀行のデザイン部門もイノベーション・ハブです。ボク個人も多くの国内外のイノベーション・ハブに関わってきました。

    スタートアップ・ウェイはその発展系とも言えます。ちなみにイノベーション・ハブというのはボクが勝手に作った造語ではなく、欧米では割と頻繁に使われている言葉です。イノベーション・ラボとも言います。

    スタートアップ・ウェイに必要なこと

    イノベーション・ハブは伝統的な企業がスタートアップ的な手法を取り入れる時に有効です。しかし、経営レベルでは伝統的な経営に留まります。スタートアップ・ウェイの新しいところはリーンスタートアップという手法を取り入れるだけでなく、経営レベルで持続可能なモデルを提案しているところでしょう。

    単に手法だけを知りたければ前著の『リーン・スタートアップ』で十分です。これをボトムアップで経営レベルまで持っていくにはどうしたらいいのかというのが『スタートアップ・ウェイ』の主題となっています。これを読めばどのような組織を作り、どのように管理をすればいいのかがおおまかに理解できます。

    どんな人にオススメか

    経営者の人には読んで欲しいですね。あと、開発や新規事業を担当する役員やマネージャー。エリック・リースの特徴はとても奥深い考察に基づくフレームワークの提供です。実際の手法となると実は以外と提示されていない。だからこそ、『リーンスタートアップ』の後も様々な関連書籍が発売されたのです。

    例えばリーン・スタートアップでは「挑戦の要となる仮説(Leap of Faith Assumption)」という考え方が紹介されていますが、具体的にどんな仮説を立てればいいのか悩む人は多いかと思います。仮説には顧客/プロダクトの軸とアイデア/実証の軸があって、この四象限で考えないといけない。そこまで細かいことはエリック・リースの本には書いてありません。具体的な手法が知りたい人はこの後に発売されるであろう関連書籍をお勧めします。もちろん、ボクもお手伝いできます(お問い合わせはTwitterまでDMで)。

    Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

    Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

    • 作者: アッシュ・マウリャ,渡辺千賀,エリック・リース,角征典
    • 出版社/メーカー: オライリージャパン
    • 発売日: 2012/12/21
    • メディア: 単行本(ソフトカバー)
    • 購入: 3人 クリック: 14回
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    Lean Analytics ―スタートアップのためのデータ解析と活用法 (THE LEAN SERIES)

    Lean Analytics ―スタートアップのためのデータ解析と活用法 (THE LEAN SERIES)

    • 作者: アリステア・クロール,ベンジャミン・ヨスコビッツ,林千晶,エリック・リース,角征典
    • 出版社/メーカー: オライリージャパン
    • 発売日: 2015/01/24
    • メディア: 単行本(ソフトカバー)
    • この商品を含むブログ (4件) を見る
     

    id:i2key さんがとても詳細な『スタートアップ・ウェイ』の紹介をされているので、興味がある人はまずこちらを読んでみるのもいいかもしれません。

  • 書評|クソくだらなくて意味のない仕事が増えている|Bullshit Jobs by David Graeber

    書評|クソくだらなくて意味のない仕事が増えている|Bullshit Jobs by David Graeber

    本来必要ない仕事があったら?そして、その仕事をしている人はそれに気づいていたら?これが今回紹介するデビッド・グレーバーの”Bullshit Jobs”の主題です。様々な調査によると37%から40%の人が自分の仕事がなくなっても何も世の中に影響がないと考えています。さらに、仕事自体は意味があったとしても、意味のないタスクをしていると考える人を入れれば、全体の仕事の50%以上は意味がないことになります。

    なぜそんなことになってしまったのでしょうか?

    ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論

    ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論

    • 作者:デヴィッド・グレーバー
    • 発売日: 2020/07/30
    • メディア: 単行本
    Bullshit Jobs: A Theory

    Bullshit Jobs: A Theory

     

    ケインズ経済学で有名な経済学者のジョン・メイナード・ケインズは人は1930年代に週15時間だけ働けばいいようになるだろうと予測しました。週に5日働くとしたら、一日三時間ですね。ティモシー・フェリスのベストセラー『週4時間だけ働く』のような書籍はありますが、ケインズの予想はまだ実現されていません。そして、本来なら必要ない仕事、なんの価値も持たない仕事が増えています。 デビッド・グレーバーはこのような仕事を”Bullshit Jobs”と名付けました。クソくだらなくて意味のない仕事という意味です。

    Whatever happened to the 15-hour workweek?

    「週4時間」だけ働く。

    「週4時間」だけ働く。

     

    クソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)とは?

    仕事の価値は客観的に定義できません。この本での定義はその仕事をしている本人が自分の仕事自体に意味がなく、なくなってもビジネスは問題なく回り続けると思っている仕事です。つまり、実際にその仕事に携わっている人の主観です。

    本人すら気づいてるほど無意味な仕事。仕事をしていなくても、誰も気づかない仕事。でも、公にはそうは言えない仕事。これが「クソくだらなくて意味のない仕事」の定義です。

    ここではスペインで6年間(ひょっとしたら14年間)全く出社せず、誰も気が付かなかった事例などが紹介されています。これは極端にしても、Yougovなどの調査では37%から40%の人が自分の仕事は全て丸ごと「クソくだらなくて意味のない仕事」だと考えています。

    看護婦や運転手がいなくなったら世の中は大変なことになります。いわゆるブルーカラーの仕事は意味のある仕事ですし、実際にそれに携わる人たちも社会的に意味があると考える傾向があります。自分の仕事がロビー活動家や企業弁護士がいなくなったら?クソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Job)と感じる人は付加価値サービスに携わる人たちに多いようです。

    イヤな仕事(Shit Job)とクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Job)との違い

    イヤな仕事(Shit Jobs)とクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)は違います。世の中にやりたくないイヤな仕事(Shit Jobs)は存在します。どのような職業にもそのような要素は多少なりともあります。劣悪な環境でツラい作業をしなければならなかったり、退屈な作業を繰り返しやらなければいけなかったり。

    しかし、世の中が回るためには誰かがその仕事をしなければなりません。つまり、イヤな仕事だけれど、意味がある仕事です。クソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)は誰もその仕事をしなくても世の中は問題なく回るし、誰もなくなったことにすら気が付かない仕事です。

    クソくだらなくて意味のない仕事の種類

    デビッド・グレーバーは5種類のクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)を紹介しています。これは典型的なクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)で、全てではないそうです。多くの場合はこれらの組み合わせです。

    フランキーズ(下僕: Flunkies)

    誰かの権力誇示のためにだけ存在する仕事。例えば、オフィスのドアマン。電話のアポ取りなど。クビにすると大変なので、とりあえず何か仕事を与える場合もある。他にも、会社での力が部下の数で測られると感じる上司など。

    グーンズ(用心棒:Goons)

    メキシコにとっての軍隊のようなもの。メキシコの国境はアメリカとガテマラとしか接していない。どんな強い軍隊を持っていてもアメリカには勝てないし、どんな弱い軍隊でもガテマラには勝てる。必要のない力。広告のエージェントやテレマーケティングなど必要ないものを必要だと印象操作をするような仕事。印象操作だし、場合によってはアグレッシブな印象を与える。 

    ダクト・テーパーズ(ガムテープ:Duct Tapers)

    根本的に壊れているものをガムテープで補強しながら無理やり使うためにだけに存在する仕事。例えば設計失敗したコアテクノロジーのパッチ開発など。

    ボックス・ティッキング(プロセスのためのプロセス:Box Ticking)

    プロセスを完了することだけが大事で、そのプロセス事態に全く意味がない仕事。例えば、インタビューしてそれをパソコンに入れるが、そのデータを実際に使ってクライアントを満足させることはないなど。プロセスだからやってるが、意味がないことも知ってる。他にもグループ合意をするためのミーティングなのに、誰も合意したことを覚えていないなど。

    タスク・メーカー(無駄な仕事を作る人:Task Makers)

    中間管理者など。フランキーズの仕事を作る人。

    社会的な害悪としてのクソくだらなくて意味のない仕事 (Bullshit Jobs)

    経済理論によればクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)は理想的な仕事のはずです。経済理論によれば最小の努力で最大の結果を生み出すことだから、意味のない仕事で仕事をしたふりをして給料がもらえるなんて素晴らしいことです。

    しかし、実際にはクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)に従事する人は仕事をする意欲をなくし、気持ちが落ち込みます。約5%の人はクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)を楽しんでいますが、多くの人は虚しさしか感じていません。

    クソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)の存在を信じられない人

    創業者や企業の役員はクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)が自分の会社に存在することを信じていません。効率的に組織運営をして利益を出すために働いているのですからそれは当然ですね。しかし、実際には存在しています。だって、全体の仕事の50%はクソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)なんですから。少なくとも働いている人たちはそう感じている。

    実際に多くの人たちが自分の仕事を「クソくだらなくて意味がない」と考える理由の一つに不透明性があります。なぜそれが重要なのか誰も説明できない。ひょっとしたら意味のないデータ入力もどこかで使われているのかもしれない。でも、実際にそれを行っている人も、その価値がわからなければ「クソくだらなくて意味のない仕事」をやらされていると感じるでしょうね。他にもいろいろな要因がありますが、これはその一例です。

    創業者や企業の役員の人たちはその現実を認めて、クソくだらなくて意味のない仕事(Bullshit Jobs)をなくすためにはどうしたらいいか、ちゃんと考えたほうがいいですよね。

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  • 書評|コープのソーシャルプラットフォーム|”Ours to Hack and to Own” by Trebor Scholz and etc

    書評|コープのソーシャルプラットフォーム|”Ours to Hack and to Own” by Trebor Scholz and etc

    注目されるスタートアップの歴史を書こうと考えた時、どうしても食指が動かなかったのがUberです。そもそもビジネス自体に共感が持てない。創業者たちがどのような社会を作ろうとしているのかわからないですが、便利と搾取の等価交換な気がしてならない。社会的に新しく生まれる価値はプラマイゼロ。

    そう考える人はやっぱり多くて、今回取り上げる”Ours to Hack and to Own“もソーシャルメディアやシェアリング経済に懸念を持つ人たちがプラットフォーム・コーポラティズムという概念の元にそれぞれの考えをエッセーをまとめたものです。

     

    Ours to Hack and to Own: The Rise of Platform Cooperativism: A New Vision for the Future of Work and a Fairer Internet

    Ours to Hack and to Own: The Rise of Platform Cooperativism: A New Vision for the Future of Work and a Fairer Internet

     

     

     

    コーポラティズムとは

    企業はコーポレーションですよね。通常は株主が出資して事業をする組織。そして、労働者が出資して作る企業をコープと言います。日本だとスーパーの生協のイメージが強いですが、スーパーマーケットに限らず社員自身が出資して作る企業はコープです。コーポラティズムはこのコープからきています。

    シェアリング経済やクラウドソーシングは搾取の仕組み?

    Uber自身は何も持っていません。運転手も正社員ではないですし、クルマも運転手のもの。所有しないことにより社会保障費を払う必要がありませんし、クルマという資産に対する税金もかかりません。レビューシステムでサービスの質を担保していますが、これもある種の労働者の監視システムとも言えます。

    パフォーマンスレビュー(年次評価)が社員のやる気を起こさないことがわかってから、多くの企業は正社員に対しての年次評価を廃止しています。

    しかし、Uberの運転手やランサーズクラウドワークスのようなクラウドソーシングで働くフリーランスは正社員ではないのに常にレビューシステムにより評価されます。それでも、より多くの対価が得られればいいですが、多くの場合は正社員より低い対価で働くことになります。プラットフォーム側には都合のいい仕組みで、点数の悪いドライバーは「解雇」できる。でも、点数が良くてもドライバーにとっていいことはまったくない。アメがなくムチしかない。

    コープ方式のプラットフォーム

    だったら、フリーランスやUberの運転手が自分たちでプラットフォームを作って運営したら?というのがプラットフォーム・コーポラティズムです。タイトルのOurs to Hack and to Own (自ら作り所有する)というタイトルはここからきています。

    コープは特にヨーロッパで成功している企業が多く、スペインで7番目に大きなビジネスで10万人以上の雇用を生んでいるモンドラゴンとか有名ですよね。優良企業の事例としてよく取り上げられるので、ご存知の方も多いでしょう。

    確かにコープ方式のプラットフォームという考え方は魅力的ですよね。ただ、アイデアは実現しないと意味がない(Idea is free, execution is priceless)ので、このプラットフォーム・コーポラティズムのコミュニティーから早く何か生まれるといいですね。

    以前に紹介したFacebookのトークン化はこの考えに近いですね。

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  • 蘇りつつあるシャオミー(小米)から学ぶ「モノづくり」から「コトづくり」への変革

    蘇りつつあるシャオミー(小米)から学ぶ「モノづくり」から「コトづくり」への変革

    日本は製造業が強く、「モノづくり」が得意でした。これが過去形になってしまうのはアメリカ(アップルなど)や台湾(シャープを買収したホンハイなど)、韓国(サムソンなど)が日本の製造業を追い越してしまったからです。おそらく作るモノの品質自体はまだまだ追い越されていないのかもしれません。しかし、消費者が求めるものは「品質」から「体験」に変化してしまいました。これが「モノづくり」から体験という「コトづくり」へ変革しなければいけない理由です。

    シャオミー(小米) *1 はスマホのメーカーとして有名ですが、今はその枠にとらわれません。中国で三番目に大きな流通小売ですし、スマートホームやモビリティーでも存在感を示しています。つい最近まで凋落した企業とされていたのにです。今回はシャオミーがどのように「モノづくり」から「コトづくり」に変革したのかを見ていきましょう。ちなみに、今回はスタートアップよりも既存の日本企業に参考になる話かと思います。シャオミーを一般的なスタートアップと捉えると見誤ります。

    スタートアップというには恵まれたスタート

    シャオミーをスタートアップとするのは少し躊躇してしまいます。シャオミーの創業者のレイ・ジュン(雷军)は元々はキングソフトの社長です。そして、キングソフトの経営を退いてからエンジェル投資家として二十以上の企業に投資しています。

    2010年に元Google、MicrosoftやMotorolaのディレクタークラスの人たちとシャオミーを立ち上げます。最初から5億円の資金。ね、スタートアップというには豊富すぎる資金力と経験値でしょ?PayPalで成功してすでに大金持ちだったイーロン・マスクが立ち上げたスペースXやテスラと同じクラスですね。日本だと堀江貴文さんのロケット事業が近いでしょうかね。お金持ちにしかできないスタートアップってやっぱりあるんです。それでも成功したらすごい。スタートアップに貴賎なし。

    資金力も経験もあまりない若いスタートアップは一つのプロダクトに集中しますが、シャオミーの場合は豊富な資金力と経験値によって三方面から事業展開を同時に行いました。ソフトウェア、ハードウェア、サービスです。

    ソフトウェア

    シャオミーを有名にしたのはスマホですが、最初に出したのはハードウェアではなくソフトウェア。最初のプロダクトはAndroidのカスタムUIであるMIUI(ミーユーアイ)でした。これはカスタムROMとして組み込むこともできましたし、自分のAndroidのスマホに入れることもできました。ターゲットは既存のAndroidに満足できていないギークなコアユーザー。

    このコアユーザーにアピールするために既存のオンラインフォーラムを使ってMIUIの宣伝を人海戦術で行います。ポール・ブックハイトのディープアピールの法則と同じで熱狂的な100人のユーザーを育てます。このほかにもウェイボ(微博) *2 やウェイシン(微信:英語名WeChat) *3 を使ってユーザーと積極的に直接コンタクトを取り、フィードバックを受けます。

    メーカーが直接ユーザーの意見を聞いて、その意見がプロダクトに反映される。この当たり前のことができるメーカーってあまりないんですね。それを愚直にやったのがシャオミーでした。のちにシャオミーは独自のオンラインフォーラムを立ち上げますが、そのメンバー数は急速に膨れ上がりました。

    ここで育った熱狂的なシャオミーのファンはミーファン(米粉:ビーフンの意味)と呼ばれ、シャオミー成長の原動力となります。

    サービス

    シャオミーが次に出したのがメッセンジャーアプリである米聊(ミーリャオ)でした。シャオミーに関する書籍を何冊か読んだのですが、シャオミーの成長はこのサービスが支えることになっていました。中国で最初に出たチャットアプリとして実際にミーリャオはそこそこ人気が出ましたが、後発のWeChat(微信)に追い越されてしまいます。結果的に2016年からアップデートされずに仮死状態です。

    また、レイ・ジュンがエンジェル投資家として投資してきたスタートアップを雷军派と呼ぶのだそうですが、これがサービスのエコシステムを形成するはずだというのがシャオミーの書籍で喧伝されていることでした。中国ではGoogleのアプリストアであるGoogle Playがありません。そのために百度手机(検索サイトのバイドゥが運営)や应用宝(チャットアプリの微信の腾讯が運営)など様々なアプリストアがあります。シャオミーも独自のアプリストア小米应用商店を運営しています。

    ハードウェア

    シャオミーが満を持して最後に出したのがハードウェアであるスマホの『小米1』でした。創業から1年目ですね。クドイようですが一般的な若いスタートアップなら一年でスマホは出せないですよ。テスラのように電気自動車も出せないですけどね!

    小米1(クレジット:百度百科)

    シャオミーはオンラインの直販モデルに注力しました。当時はシンガポールに住んでいたので、友人たちも話題にしていました。最新のスマホと遜色ないのに安い。もちろん、各社のフラッグシップモデルと比べれば若干スペックは落ちますよ。でも、値段を考えればお買い得。そして、フラッシュセールという限定発売の手法を取っていたので、レア感がありました。インドで人気があったので、インド人の友人からフラッシュセールのタイミングを教えてもらって実際に買おうとしましたが、すぐに売り切れてしまうので買えませんでした。

    そして、2013年には中国ではスマホのシェア1位、世界でもアップルとサムソンに次ぐ3位まで登り詰めます。海外進出も加速させ、スマートTVなど他のハードウェアにも手を広げます。

    事業不振:飽きられた「モノづくり」

    好調なスタートを切ったシャオミーですが、2015年からあまりビジネスがうまく回らなくなってきます。レイ・ジュンはサプライチェーンの問題とオンラインチャネルへの過度な依存としていました。多くのメディアの分析は上位機種ではアップルとサムソン、下位機種ではファーウェイやOPPOとの競争の激化と説明することが多かったように思います。実際にファーウェイとOPPOにシェアを抜かれてしまいます

    いろいろと原因は考えられますが、根本的な原因は当時のシャオミーのプロダクトに十分な魅力がなかった。これに尽きるのではないでしょうか。求められる価格帯にそれなりのクオリティーのプロダクト。それをフラッシュセールというグロースハックの手法で売っていた。単にそれが飽きられてしまった。シャオミーの考えていたソフトウェア、サービス、ハードウェアによる三位一体の「コトづくり」は実現できていませんでした。

    ソフトウェアに関してはAndroidがアップグレードする毎にMIUIとの差が縮まってきました。例えば、MIUI 9とAndroid Oneでは評価が逆転します。Android Oneは発展途上国向けにシンプルに設計されたAndroidスマホで、ハードウェア設計から部品の調達までGoogleが行います。日本だとワイモバイルから出ていますね。

    www.youtube.com

    サービスに関してもメッセージングアプリのミーリャオは思ったようには立ち上がりませんでしたし、「雷军派」のエコシステムも形になりませんでした。ソフトウェアとサービスによる「コトづくり」が目指すことのはずだったのですが、結局は安くてそこそこのスペックのスマホというモノづくりに終始してしまったというのが飽きられてしまった原因ではないでしょうか。

    復活の兆し:シャオミーにとっての「コトづくり」とは?

    シャオミーは業績が悪化してからあまりメディアに注目されることがなくなりました。テレビだけでなく、炊飯器などの白物家電にも手を出しました。このような様々な取り組みはメディアには迷走に映りました。ただ、「迷走」は半分は正解で半分は誤解です。試行錯誤をしながら方向性を探していたと言った方が正しいでしょう。

    いまシャオミーは復活を遂げつつありますが、レイ・ジュンはシャオミーの復活のカギとして二つ挙げています一つはシャオミーシーチャン(小米市场:販売網)、もう一つはシャオミーインイェ(小米影业:Netflixのような動画サービス)のようなサービス強化です。これにスタートアップへの投資を通じたIoTエコシステムの強化を合わせた三つがシャオミー復活の原動力と言えるでしょう。

    販売網の強化

    オンラインの販売にこだわっていたのに『小米之家(シャオミーのいえ)』という直販店の展開もはじめました。かなりアップルストアを意識しているのがわかりますが、シャオミーのラインアップは家電まで広がっているので、おしゃれなヨドバシカメラな感じがしますね。

    小米之家の店内(クレジット:小米)

    シャオミーは流通小売の側面があります。そして、その販売力はシャオミーの強さの一つです。オンライン、オフラインを合わせた販売能力では中国国内ではアリババ(阿里巴巴)、ジンドン(京东:JD.com)に続き、シャオミーは第3位につけています。ちなみにアップルは第4位。もともとオンラインは強かったのですが、実店舗を加えて販売力を更に増強しました。

    サービスのリブート

    その動画サービスであるシャオミーインイェの立ち上げの時にレイ・ジュンは中国人らしい熱い口調で「心の中で再出発を誓う、この流れる熱い涙のために!2016年を起業の道を歩むすべての仲間と祝おう、永遠に若く、永遠に熱い涙を。*4」と言っています。サービスでシャオミーを作り直す宣言ですね。

    実際にシャオミーのサービス事業は昨年は三倍に増えて2億ドル近く利益を出し、60%の粗利により営業利益を押し上げています。

    スタートアップのIoTエコシステム

    シャオミーは基本的にはスマホの会社です。しかし、炊飯器や空気清浄機までシャオミーブランドで出しています。これはどうしたコトでしょうか?

    シャオミーは2013年に5年で100のスタートアップに投資する宣言をしました。そして、それらのスタートアップはすでにユニコーンとして10億ドル以上の資産評価を受けている企業(ZMINinebot智米(ジーミー))もあれば、すでにIPOしてエグジットした企業(青米(チンミー)Huami)もあります。シャオミー本体がまだIPOしていないのに!この中で特に有名なのはMi Bandを作っているHuamiとセグウェイを買収したNinebotですかね。そう、セグウェイって今はシャオミーなんですよ!

    セグウェイの血を引き継ぐ電子スクーター(クレジット:Ninebot)

    この他にも電子ウクレレのPoputarとか電気歯ブラシのSoocareなどがあります。これらすべてシャオミーが投資をしている会社です。

    電子ウクレレのPopulele(クレジット:Poputar)

    シャオミーが戦略的に投資しているのは以下の5分野です。シャオミーの強みである「高品質な製品を低価格」で提供できるスタートアップに投資します。

    1. スマホ関連周辺機器(スピーカーやヘッドフォンなど:手机周边的智能设备)
    2. スマートホーム(スマートな炊飯器や空気清浄機など:智能白电)
    3. モビリティ(スクーターなど:个人短途交通产品)
    4. ギーク向けノクールなガジェット(ドローンやVRなど:极客酷玩产品)
    5. ライフスタイル(ウクレレなど:关系到人们生活方式类的产品)

    シャオミーはこれらのスタートアップに投資をして自らの強みである販売網を活かして成長させます。シャオミーが投資するのは株式の50%以下。スタートアップ側に議決権を残します。

    更に製造の分野に関してもシャオミーのエンジニアを派遣して品質面での指導をします。ハードウェアの分野であればシャオミーの投資を受けてエコシステムに参加することが成功の条件と言われるくらいです。

    今後の展開

    シャオミーは2018年7月9日に香港証券取引所でIPOしました。当初の調達額は最大6700億円を予定していましたが、それより2割低い約5200億円で落ち着きました。元々の設定額がAppleなどと比べても高すぎた気がします。これからIoTのエコシステムでどこまで市場の予測を裏切って成長するかが楽しみですね。

    参考文献

    シャオミ(Xiaomi) 世界最速1兆円IT企業の戦略

    小米手机_百度百科

    雷军真的会复活米聊吗?_搜狐科技_搜狐网

    小米影业_百度百科

    深度| 小米联合创始人刘德:小米生态链管理的七大逻辑

    销量大跌36%之后今年成功逆袭,在雷军看来,小米做对了什么?_凤凰科技

    A brief history of Xiaomi – China’s tech success story! – Gizchina.com

    Behind the Fall and Rise of China’s Xiaomi | WIRED

    Who Owns Xiaomi Technology, and What Does It Own? — The Motley Fool

    Tech in Asia – Connecting Asia’s startup ecosystem

    Inside Xiaomi’s plan to dominate the connected world

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    *1:小米に「シャオミ」とふりがなをふるケースを見受けますが、中国語の発音的には間違いです。ご飯は「米饭(ミーファン)」ですがミファンとは言いません。ミファンってなんやねん?また、青米(チンミー)というシャオミー関連企業がありますが、チンミと発音しません。そりゃ珍味。チンミーですね。

    *2:中国のTwitter

    *3:中国のLINE

    *4:中国語では「在我心中,重新出发,还是为了那些热泪盈眶!2016,祝福所有在创业路上的小伙伴们,永远年轻,永远热泪盈眶!」です。

  • 書評|世界最大のヘッジファンドが提唱するAIによる「意味のある仕事と意味のある関係」|Principles by Ray Dalio

    書評|世界最大のヘッジファンドが提唱するAIによる「意味のある仕事と意味のある関係」|Principles by Ray Dalio

    今回の書評はレイ・ダリオの”Principles“です。レイ・ダリオは世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエイツの創業者です。この本はいろんな意味で注目されています。一つは多くのファンドが損出を出したリーマンショックでも利益を出したブリッジウォーターの企業としての強さの秘密を知るため。もう一つはAIによる投資判断の自動化をどのように実現したのかを知るため。そしてもう一つは新しい組織論として、人生を豊かにする「意味のある仕事、意味のある関係」を実現する方法を知るためです。

     

    Principles: Life and Work

    Principles: Life and Work

     

     

    この本はレイ・ダリオの歩み、生活のための原理原則、仕事のための原理原則の三部構成となっています。「意味のある仕事、意味のある関係」を実現する組織論としてはティール組織など自律型の組織が注目を集めていますが、レイ・ダリオの提唱する徹底的な透明性とオープンな態度による「アイデアの能力主義」という経営論もまた同じ効果があると思います。手段や形はどうあれ、実現しようとすることは同じなのですから。

    幸いにして彼のTED Talkが日本語字幕付きで公開されていますので、興味のある方はまずこちらを観てもいいでしょう。論より証拠、観たほうが早いです。

    このTED Talkでも紹介されていますが、レイ・ダリオは投資で失敗して全てを失います。ここから学んだ教訓がいくつかありました。ひとつは「自分は正しい」と考える前に「どうしたら正しいとわかるのか」を突き詰めるようになりました。

    人間の判断を客観視するためのAI

    その一つが物事の原理原則を書き留めることです。多くの出来事は繰り返し起こります。ある出来事が起き、そこから学んだことを書き留め、同じことが起きた時に対応できるようにします。これを80年代からパソコンでプログラム化してきました。今で言うところのAIによる事業判断を昔からしていたのです。これは個人でも同じです。アルゴリズムにする必要はありませんが、自分の判断を客観視するためには自分にとっての原理原則を書きとめておくのは将来役に立ちます。

    AIを補完する人間の信頼性

    また、原理原則のアルゴリズムを検証できる専門家も必要です。AさんとBさんでは専門分野が違います。例えばAさんはプログラマーでBさんはマーケティングだとしましょう。プログラミングに関する意見はBさんの意見の方が信頼性が高いですし、市場調査に関してはAさんの意見の方が信頼性が高いでしょう。この信頼性に基づく判断がアイデアの能力主義の根本の考え方の一つです。TED Talkで紹介されていた「Dot Collector」はそれを実現するツールの一つです。この他にもブリッジウォーターでは「Baseball Cards」など様々なツールを開発しています。

    オープンとは何か?

     もうひとつ必要なのはオープンさです。ブリッジウォーターではほぼ全ての会議を録画して全社員に公開しています。しかし「オープン」というのは情報のオープンという意味だけではありません。人間は理性と本能があります。理性では他人からのフィードバックが必要だと知っていても、本能的に他人の意見を批判と受け止めてしまいます。その結果、冷静な判断を阻害します。「オープン」というのは人間の態度も含まれます。他人の意見に対するオープンさです。TED Talkで紹介された新人から当時のCEOであったレイ・ダリオに対するメールはまさにそれを表しています。

    これまでいくつかのスタートアップの誕生と成長の記事をアップしてきました。その創業者の多くに共通するのは「謙虚さ」です。ボク自身も何人か個人的に成功したスタートアップ創業者の友達がいますが、彼らは全て謙虚で人の意見に耳を傾けます。成功した後ででもです。Gmailを開発したポール・ブックハイトも言っていますが「信念を持つのは頑迷なこととは違う」のです。

    これらを仕組みとして全ての社員が実行できるようにしたのがブリッジウォーターの経営方法なんですね。

    ちなみに、ブリッジウォーターの考える今後の経済はこんな感じなのですが、どうなんでしょうね!

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