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  • 書評|フィルターなしのインスタグラムの歴史|”No Filter” by Sarah Frier

    書評|フィルターなしのインスタグラムの歴史|”No Filter” by Sarah Frier

    インスタグラムがフェイスブックに買収されるまでの成功物語って有名ですよね。ボクも以前にまとめたことありますし。もちろん、成功には後日談がつきものです。インスタグラムの創業者二人はフェイスブック買収後もしばらく残りましたが、二人揃って2018年にインスタグラムを「卒業」してしまいました。買収から創業者の離脱。この間になにがあったのでしょうか?それが今回紹介するサラ・フライヤーの新著”No Filter”のテーマです。

    インスタグラム:野望の果ての真実

    インスタグラム:野望の果ての真実

    • 作者:サラ・フライヤー
    • NewsPicksパブリッシング
    No Filter: The Inside Story of Instagram

    No Filter: The Inside Story of Instagram

    • 作者:Frier, Sarah
    • 発売日: 2020/04/14
    • メディア: ペーパーバック

    本書の前半はケヴィン・シストロムとマイク・クリーガーの創業者二人の成功物語です。マイク・クリーガーはブラジル人で、インスタグラム創業の時にビジネスビザを取るのが大変だったんですね。それ以外は特に新しい話はありませんでした。

    この本の目玉はフェイスブック買収から創業者の退社に至るストーリーです。Odeoでのインターンシップから個人的な友情をジャック・ドーシーと育んできたケヴィン・シストロムです。ジャック・ドーシーも数少ないエンジェル投資家としてインスタグラムを個人的に助けてきましたし、超有名なベンチャー・キャピタルのセコイア・キャピタルを紹介して500万ドルの投資ラウンドを助けました。ツイッターはずっとインスタグラムと買収の話をしてきた。ところがですよ、セコイアの投資ランドが完了した二日後にフェイスブックが1000万ドルでインスタグラムの買収を発表。ケヴィン・シストロムとマーク・ザッカーバーグは裏で話をしていたんですね。こりゃ、ジャック・ドーシーが怒るのも当然ですよ。セコイア・キャピタルも二日で投資を2倍にするという成功と言っていいのか、失敗と言っていいのかよくわからない経験をしてしまいます。

    この本ではマーク・ザッカーバーグのクソ野郎ぶりがかなり堪能できるのですが、ケヴィン・シストロムも(少なくともこの時は)かなりのクソ野郎ですね。このフェイスブックの買収で金持ちになったのはなんと創業者の二人だけ。それ以外の社員はおこぼれにほぼあり付けなかったそうです。いやいや、それはヒドイでしょ。インスタグラムみたいなスタートアップに参加するインセンティブってエグジットした時の分前なんだから。さらに後味が悪いのが、ワッツアップの買収とインスタグラムの買収が社員にとって全く違う結果だったことです。インスタグラム買収の2年後の2014年のワッツアップの買収金額は1億9000万ドルでした。なんとインスタグラムの19倍。社員にもその分前は行き渡り、創業者はフェイスブックの取締役として迎えられました。

    それでも、ケヴィン・シストロムとマイク・クリーガーは「ある程度」の自由を認められていたため、そこそこ満足はしていたようです。例えば、フェイスブックはアルゴリズムで最適化しますが、インスタグラムは人によるキュレーション(ポピュラーページや公式アカウント)でインスタグラムらしさを保っていました。

    しかし、その自由も徐々にマーク・ザッカーバーグに侵食されます。マーク・ザッカーバーグにとって重要なのは母艦のフェイスブックであり、インスタグラムもワッツアップもその周辺アプリでしかない。むしろ、インスタグラムはフェイスブックとカニバリゼーションを起こして「競合」のようにマーク・ザッカーバーグに目をつけられてしまいます。IGTVのロゴがフェイスブック・メッセンジャーのロゴに似ていると上司のクリス・コックス経由でマーク・ザッカーバーグに文句を言われるってヒドくないです?インスタグラムはすごい勢いで成長しているので、リソースも増強しないといけない。しかし、マーク・ザッカーバーグはリソースをインスタグラムに割り当てるのを渋ります。同じ時期にVRのオキュラスが600名の採用枠をもらったのに、インスタグラムがもらえた採用枠は90名。2019年にはフェイスブックの売上の30%をインスタグラムが担うとされていたのにも関わらずです。

    ここまでイジメられると、流石に創業者二人も気がつきます。あ、出て行けってことなんだって。

    それにしても、ここで描かれるマーク・ザッカーバーグはやっぱりクソ野郎なんですよ。VPNのOnavo買収とか競合分析のためですものね。スナップチャットの人気が出てきているのが、メディアが騒ぐよりずっと前にフェイスブックはVPNのトラフィック分析でわかっていた。VPNって政府の監視から逃れるために使う人が多いと思うのですが、監視される相手がフェイスブックになっただけというオチ。

    インスタグラムの成功後日談はなかなか苦い味わいですね。

  • 書評|ニューヨークとサンフランシスコの間の「不気味の谷」|”Uncanny Valley” by Anna Wiener

    書評|ニューヨークとサンフランシスコの間の「不気味の谷」|”Uncanny Valley” by Anna Wiener

    オンライン版の雑誌『ニューヨーカー』で記者をやっているアナ・ウェイナーの初著書である”Uncanny Valley”は日本語で「不気味の谷」です。不気味の谷は最近はロボットへの嫌悪感を表す心理現象です。ロボットっぽいロボットには特に嫌悪感は感じないのだけれど、人間に近づくと気持ち悪く感じる。これが「不気味の谷」で。この嫌悪感を超えると再び好感が持てるようになります。

    “Uncanny Valley”はアナ・ウェイナーがニューヨークからシリコンバレーに移り住み、出版業界からスタートアップに転職した際に、自信が様々な「不気味の谷」を超えた経験をまとめたものです。

    Uncanny Valley: A Memoir

    Uncanny Valley: A Memoir

    • 作者:Anna Wiener
    • 出版社/メーカー: McD
    • 発売日: 2020/01/14
    • メディア: ハードカバー

    アナ・ウェイナーはニューヨーク生まれ。大学では文学を学び、出版社に就職します。しかし、出版業界は氷河期。若い労働力は搾取されるのみ。25歳なのにまだお茶汲みやってる。出版業界で成功できるのは資産を受け継いだ人たちだけ。カネもコネもない自分にはどうしようもできない世界。自分自身で独立した大人になりたくて、これまで借金なしで生きてはきたけれど、低い給料で高い生活費。とても持続可能と思えませんでした。そこで、25歳でebookのスタートアップ(たぶん、後にグーグルに買収されたOyster)に転職を決意します。2013年のこと。この本では具体的な会社名は出てきません。フェイスブックは「みんなから嫌われているソーシャルメディア」だし、グーグルは「検索の巨人」だし、マイクロソフトは「コラボレーションツールの複合企業」です。

    この出版業界からスタートアップが最初の「不気味の谷」ですね。大学を出たばかりのスタートアップ 創業者たちからお茶汲みの自分が、出版業界の知識を持っているタレントとして求められていると感じた。新旧の出版業界を結ぶ架け橋として役割も見出しました。しかし、実際には創業者たちは本に興味はなかった。スタートアップの創業者にとって本は起業のネタでしかないですからね。ダメならピボットしないといけない。これがビジネスが成立している大企業とこれから飯の種を見つけなければいけないスタートアップ との大きな差でさり、大企業からスタートアップへ転職する人にとっての「不気味の谷」となります。

    この「不気味の谷」を渡る過程で一種のアイデンティティークライシスに陥ります。アナ・ウェイナーも「本に興味がないなら、なぜ自分を雇ったのか?」と考えてしまいます。ひとつは、女性を雇うのがトレンドでクールだったから?実際には大企業とスタートアップ のメンタリティーの違いです。大企業において仕事は与えられるものです。ちゃんと役割があって、役割をうまくこなすことが求められる。しかし、スタートアップでは仕事は自分で作るもの。そして、その仕事がスタートアップにとって必要だと周りに必要だと認めさせること実行こそが美徳、失敗こそが美徳。

    ボクがマイクロソフトに入った時も仕事ありませんでした。1995年にマイクロソフトはすでにスタートアップとは言えませんでしたが、そのメンタリティーはしっかり残っていました。最初の「仕事」はコンピューターを組み上げて(ネットワークカードってなんだ?)、ネットワークにつないで(当時のWindowsはPPPもTCP/IPをサポートしていませんでしたからね!NetBEUI覚えてる?)、必要なソフトウェア(どこにあるんだ?当時はOutlookもSharepointもないですから!メールはMicrosoft Mail。裏はXENIX – マイクロソフトのUNIXと聞いた。ブラウザすらない!)をインストールすることでした。で、その後に本当の「仕事」は自分で見つけないといけなかった。「何したらいいですか?」「ごめん、忙しいから自分で探して」「??!」。未熟であることは許されるけど、自分で考えて動けないことは許されない。実行こそが美徳、失敗こそが美徳。最近はスタートアップ だけでなく大企業でも”Self Starter”(自走できる人材)が求められますが、スタートアップ では自走できない人は生きていけません。自走できない人が集まると会社が死ぬから。

    閑話休題。

    アナ・ウェイナーはebookスタートアップから解雇されてしまいます。文化に適応できなかった。大きな出版業界でしか経験がないので、スタートアップとの”Culture Fit”が十分ではなかったんですね。では、出版業界にに戻るか?しかし、スタートアップが気に入りはじめていました。出版業界では得られない自由がそこにはありました。そこで、スタートアップのメッカであるシリコンバレーで職探しをします。そして、データアナリティクスのスタートアップ(これはどこかわからない)で働くこととなりました。アナ・ウェイナーも徐々にスタートアップ の流儀がわかってきます。言葉も理解できるようになってきた。

    もちろん、ニューヨーク出身のアナ・ウェイナーがサンフランシスコに溶け込むのはさらに時間がかかりました。センスが全然違うんですよね。良くも悪くもウッディー・アレンってニューヨークっぽさを代表していて、笑いもちょっとインテリなんですよ。ちょっとインテリで、クールな振る舞いが求められる。アナ・ウェイナーの文章もかなりニューヨークっぽいです。西海岸はもっと明るく楽観的な振る舞いが求められる。もちろん、個々の人たちはそれぞれですよ。明るいニューヨーカーもいるし、皮肉屋のサンフランシスコの人もいます。ポイントは「振る舞いが求められる」ってところです。個々は違っても、企業のような集団となれば求められる振る舞いや傾向が出てくる。これがもう一つの「不気味の谷」ですね。

    もう一つは職業の間にある「不気味の谷」。アナ・ウェイナーが「データアナリティックの会社」で得た仕事はカスタマーサポートでした。ソフトウェア企業には見えないカースト制度があります。カスタマーサポートは低い層のカーストに属しています。みんな言わないですが、暗黙の了解としてそうなっています。今でこそ「カスタマーサクセス」は(エンタープライズ向けソフトウェアであれば)重要な仕事として認識されていますが、それも最近のことです。アナ・ウェイナーもスタートアップの人たちが集まるバーで会話をするときに自分の仕事を言うのを少し躊躇してしまいます。ニューヨークとシリコンバレー。出版とテック、女性と男性。創業者と従業員。スーツとギーク。開発者とカスタマーサポート。「不気味の谷」はいろんなところに存在しています。

    この本はどんな人にオススメか

    従業員の視点からスタートアップを知りたい人にはオススメです。創業者の視点も一つのリアルですが、従業員の視点もまたリアルなんです。

    スタートアップ関連の本は創業者や出資者の視点で書かれたものが多いです。しかし、創業者と従業員では視点が全く違います。連邦軍とジオン軍くらい違う。多くのスタートアップ従業員はアムロ・レイでもキャスバル・レム・ダイクンでもないです。ビル・ゲイツでもマーク・ザッカーバーグでもないのと同じ意味で。創業者と従業員の間にも「不気味な谷」があるのです。”Uncanny Valley”は従業員の視点から書かれた本です。そう言う意味では、ジオン軍の視点からゲームができる『ジオニックフロント』に似ています。ガンダムに乗って無双するのがスタートアップじゃないんです。

    また、従業員の視点から様々な事件を眺める形になっているのも面白いです。例えばスノーデン。どこのスタートアップも「ゴッドモード」でいろんなユーザーデータを見ていました。そんなときにスノーデンの事件。「悪い奴らもいるもんだ、ボクらは正義の側」だとうそぶく社員。そして、徐々に「監視」という言葉が使われるようになる。データを扱う会社は監視会社。アナ・ウェイナーはスタートアップにおける男女差別が問題になっていた頃に「オープンソースの会社(=GitHub)」に転職します。女性従業員からみた男女差別や人種差別もなかなか面白かったです。

    GitHubの女性エンジニアがハラスメント(セクハラ、から訂正)に耐えかねて退社 ネットで改善を訴える:海外速報部ログ:オルタナティブ・ブログ

  • いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その3)

    いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その3)

    eコマースはスケールのビジネスなので寡占化しやすい業種ですが、生鮮、家電など独立しやすい分野もあります。アリババとJDが並存しているのもこの理由ですし、アマゾンがホールフーズを買収したのも同様です。個性が重要なファッションも独立して成立しやすい分野で小規模なプレーヤーがたくさん並存します。ちなみに最近だとThe Yeteeで『ガメラ対大悪獣ギロン』Tシャツ(あと、Mother 2のサウンドトラックLP2枚組)、Legion Mで映画『マンディ 地獄のロード・ウォリアー 』のオフィシャルTシャツを買いました、個人的な話ですが。日本だとハードコアチョコレートでよく買います。

    マカロニほうれん荘(ピーマン学園ホワイト) (M)

    このように、ファッションは群雄割拠しやすいeコマースの分野ですが、それでも「普段着はどこかでまとめて」というニーズがあります。それを吸収しているのが日本ではユニクロだし、ZOZOですよね。そんなボクもワードローブのほぼ7割はユニクロかZOZOで買った服です。中国で女性ファッションにおいて同様に役割を果たしているのがモグジェ(蘑菇街)なんだと思います。しかし、そのやり方はユニクロやZOZOとは違うし、アリババとも違います。

    デザイナー創業者

    そのモグジェを2010年に創業したのがチェン・チー(陈琪)です。チェン・チーは2004年にジェージアン大学(浙江大学)卒業後、アリババのC2Cコマースであるタオバオ(淘宝网)でUX/UIデザイナーとして働き、プロダクトマネージャーを務めます。

    アリババは顧客体験を重視していて、デザインセンター(阿里巴巴国际UED)を設立しました。アリペイ(支付宝)などの個別のUED (User Experience Design)のほか、以下のようなライバルのUXとも連携していました。過去形なのが残念なところですが、みんなでベーシックな部分は作って(完了)、後は個別で頑張ろう(現在)ということなんでしょうね。デザイナー的なユートピア思想は中国でも終わっちゃったのかなあ。

    テンセント:CDCISUX

    バイドゥー:MUX

    JD:JDC

    チェン・チーはタオバオのデザインセンター(淘宝UED:こちらも最近は活動停滞気味ですが、フロントエンド開発センターである淘宝FEDは元気です)の立ち上げメンバーの一人でした。そんなチェン・チーもやはり1980年代以降に生まれた「バーリンホウ(80后)」の世代です。実を言えば、2000年前に誕生した中国のeコマースはほぼアリババとJDに駆逐されていて、今再び現れているのは新世代による新世代のためのeコマースプラットフォームだったりします。

    最初の失敗

    チェン・チーと大学時代の友人で共同創業者のウェイ・イーボ(魏一搏)はお互いの家を売り、創業資金を作りました。二人で集めた資金は150万人民元(日本円で2350万円くらい)になりました。家族は家に売るのはまだしも、タオバオのストックオプションが1000万人民元以上(日本円で1億6000万円くらい)が行使されていなかったので、それを全て捨てることにすこし反対されたそうです。とはいえ、創業メンバーはタオバオから引き抜いた優秀チームだったので、それなりに自信があったのでしょう。

    まず、最初に作ったのはモグジェではなく、ジュアンドウワン(卷豆网)というeコマースと19楼Hers爱物网化龙巷といったコミュニティーを繋げて、コンバージョンを最適化するツールでした。しかし、これは失敗してしまいます。実際にコミュニティーからeコマースで買い物に来るコンバージョンがあまりにも低いので、想定していたよりも市場規模が小さいことがわかりました。

    中国のeコマースのコンバージョン率(訪問者が実際に買い物をする率)は0.01%以下なのだそうです。JDやタオバオでも3%前後。だったら、自分たちでeコマースを実践して、どうやったらうまくコンバージョンするのかを証明しようとしてはじめたのがモグジェでした。会社を辞める(2010年2月)、家を売って資金を集める、創業(2010年4月)、コンバージョンツールで最初の失敗、eコマースプラットフォームにピボット(2010年10月)というスピード感。わずか8ヶ月の出来事です。ちなみに、若干似てるなーと思えるZOZOのWEARは2013年5月スタートなので、モグジェの2年半後です。

    アリババの影とモグジェの逆襲

    チェン・チーが注目したのはデザイナー出身らしくユーザー行動です。ユーザーはファッションやショッピングについてオンラインで交流したい、共有したい。ピンタレストに近いですかね。タオバオ、ダンダン(当当)、JD、ファンク(凡客)のようなeコマースサイトで見つけてきたグッズを共有する。それぞれのユーザーがキュレーターになって、モグジェに投稿するという仕組みです。先に説明したように、ファッションのeコマースは寡占化しにくく、群雄割拠になりがちです。モグジェはこの群雄割拠の状態をうまく生かしてコミュニティーを作り上げました。その結果、モグジェでのコンバージョンは6%から8%と非常に高い数字です。

    モグジェの特徴は購買単価が高いことと、モバイルユーザーが多いことです。MobileQuestの調査によると、中国のミレニアル世代であるリンリンホウ(00后)とジウリンホウ(90后)が重要なのがわかります。モグジェの24歳以下のeコマースにおける浸透率は8.1%です。C2CコマースのタオバオとB2CコマースのTMallの両方を持つアリババの浸透率は98%です。モグジェは仲介モデルでタオバオにもトラフィックを送っているので、一概に比較できませんが、それでも浸透率の差は歴然です。タオバオ出身のチェン・チーもそこは熟知しているところです。

    当然ながらアリババはモグジェを取り込もうとしますが、モグジェはその申し出を断ります。アリババは全て自分でコントロールしたいのですが、モグジェはフェデレーションモデルですからね。世界観が全く合いません。その結果、モグジェからタオバオのトラフィックは遮断されました。仁義なき戦いですね。このようなトラフィックの遮断はメイリー(美丽)なども同様でした。モグジェはメイリーとタオシュージエ(淘世界)と経営統合して、新たにメイリーグループ(美丽联合集团)を設立して、モグジェのチェン・チーがグループCEOに就任しました。

    そして、このような状況に救いの手を差し伸べたのがアリババのライバルであり、メイリーへも投資していたテンセントです。テンセント自身は主要なeコマースはありませんが、アリババ帝国への楔となっているJDとピンドゥオドゥオ(拼多多)の株主です。これに加えて、WeChat(微信)がありますので、モグジェのミニプログラムへの展開が期待できます。昨年の実績で見ると、モグジェの売上の31.1%がWeChat経由になっています。

    モグジェは2018年にナスダックに上場しました。eコマースの巨人アリババはタオバオのライブストリーミングで攻勢をかけています。モグジェは同じライブコマースでも多様なエコシステムを取り込んで巨人アリババに挑みます。

    参考文献

    陈琪(蘑菇街创始人)_百度百科

    蘑菇街创始人陈琪:玩票性质的网站居然做大了 – 初创公司 – 创业邦

    QuestMobile泛娱乐用户行为新趋势 | QuestMobile-还原市场真相 助力企业增长

    Meet the man who wants to upend China’s fashion industry with an app called Mogujie | South China Morning Post

    Mogu’s long journey: From rejecting Alibaba’s advances to US IPO – TechCrunch

  • いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その2)

    いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その2)

    古今東西そうですが、ファッションのeコマースではインフルエンサーが重要な役割を果たします。KIMONOを商標登録しようとして物議を醸したキム・カーダシアンとか。タイでピンクが大流行して、オフィスの中でもピンクを身につけている人が多かった時期がありました。タイでは当時の国王だったラーマ9世がファッションリーダーで、一時期ピンクを身につけていたんですね。タイ王室の色は黄色で、普段は黄色い服を着てるからピンクが新鮮だったんでしょうね。eコマースの世界を引っ張っている中国でも同様で、ホンレン(红人)とかワンホン(网红)とかKOL(Key Opinion Leader)と呼ばれるインフルエンサーが重要な地位を占めています。

    MobileQuestの調査によると、中国のミレニアル世代であるリンリンホウ(00后)とジウリンホウ(90后)が重要なのがわかります。そして、その起点となっているのがインフルエンサーです。

    インフルエンサーとブランドの出会い

    中国ファッションのeコマースの世界でいち早くKOLの地位を確立した一人がジャン・ダーイー(张大奕)です。早くから事業化して、ルーハングループ(如涵控股)としていまでは女性服、下着、メイク、家庭用品の四つのジャンルで年商22億中国元(約350億円)のビジネスとなっています。ビジネスモデルは違いますが、日本だとインフルエンサーのビジネスという意味ではUUUMに近いんですかね(UUUMは広告売上が主体)。そんなルーハンの表看板がジャン・ダーイーだとしたら、裏で番頭としてビジネスを支えているのがフェン・ミン(冯敏)です。

    フェン・ミンは「バーリンホウ(80后)」という中国で勢いのある1980年代生まれの世代の一人です。2005年にインターネットのサービスプロバイダー事業をはじめたのが最初の起業でした。しかし、サービスプロバイダー事業はすぐに下火になり、事業を通販ビジネスにピボットします。当時は大流行してナスダックにまで上場した「マイコーリン(麦考林)」から着想した女性服通販でした。そして、ファッションブランド「リーベイリン(莉贝琳)」を2011年に立ち上げました。

    ジャン・ダーイーはフェン・ミンのブランドのモデルをしていました。ファッションモデルとファッションブランド。これが二人の接点でした。ジャン・ダーイーもすでにソーシャルメディアでファンがつきはじめていて、影響力が現れてきた頃です。ジャン・ダーイーのインフルエンサーとしての影響力と、フェン・ミンのファッションビジネスの経験を合わせれば、さらに成長できると二人は考えたようです。そこで2014年7月に舞台をC2Cコマースプラットフォームのタオバオ(淘宝网)に移して、タオバオのトップブランドの仲間入りをしました。

    インフルエンサーエコノミー

    リーベイリンがタオバオ開店初日には、他の店の一年分の売上を1日で達成したそうです。この成功をもとにフェン・ミンは他のインフルエンサーとも協業するようになります。これがルーハンの設立に繋がっていきます。

    当時はライブコマースはまだなかったので、ヨウク(优酷)などの別のビデオプラットフォームを使っていました。解像度も現在ほど良くはありませんでしたが、画像よりは説得力がありました。

    ジャン・ダーイーの率直な物言いがファンとの距離を縮めました。ファンはジャン・ダーイーを「ダーイーマ(大姨妈:おばさん)」と呼び、ジャン・ダーイーはファンを「イージャオベイ(E罩杯:Eカップ)」と呼びました。ファンはジャン・ダーイーの関係はとても親密で、ファンは彼女に離婚のためのドレスを選んでもらったりしました。

    中国のインフルエンサーエコノミーはワンホンジンジー(网红经济)と言います。これを事業化したのがジャン・ダーイーとフェン・ミンのルーハンです。ルーハンはアリババから資金調達した後に、ナスダックで上場を果たしました。

    ルーハンの売上はまだまだジャン・ダーイー頼りなため、第二、第三のインフルエンサーを育成していく必要があります。とはいえ、中国のインフルエンサーエコノミーを築いた功績は素晴らしいものがありますね。

    参考文献

    网红电商孵化第一人-冯敏

    网红背后的成功男人——冯敏,打造出113位网红

    谁在批量制造张大奕?|冯敏_新浪财经_新浪网

    网红张大奕的奋斗史:不当模特做网红,开淘宝店年销售额破3亿

    淘宝第一网红,张大奕背后的真实世界

  • 翻訳記事|アトラシアン成長の秘訣、ロータッチ営業モデル

    翻訳記事|アトラシアン成長の秘訣、ロータッチ営業モデル

    How Atlassian built a $20 billion company with a unique sales model | Inside Intercom by Geoffrey Keating via Inside Intercom

    マイクロソフト、オラクル、IBMのような伝統的な法人顧客にソフトウェアを販売する企業は同じようなやり方で営業します。交渉、長い営業サイクル、実際には使わない意思決定者から要求される機能のチェックリストなど。

    しかし、アトラシアンはこれとは全く違うソフトウェアビジネスの成長モデルを見つけました。アトラシアンはJiraやHipChatの開発やTrelloの買収で12.5万ユーザーを伝統的なセールスプロセスなしに獲得しました。

    このような成長はSaaS企業にとって珍しいことです、特異ですらあります。典型的な超成長の道筋は営業活動に多大な投資をし、長期的な顧客生涯価値がの顧客獲得の初期コストを上回って全体的に利益が出ることを期待します。

    アトラシアンは全く違う道筋を作りました。IPO当時、売り上げの19%しか営業マーケティングに使っていませんでした。同規模の企業と比べると全く少ない投資額です。

    もし、これが「真実にしては都合が良すぎる “Too good to be true”」と感じるのであれば、それは間違っていません。他者が営業マーケティングに巨額の投資をする中、アトラシアンは全く違うチャネルに投資をしました。 高速でボトムアップの拡散マシンを10年近くかけて磨きあげました。

    私たちはアトラシアンのプレジデントであるジェイ・シモンズに時間をもらい、アトラシアンでそれがどのように機能してきたのかを聞きました。

    すべては注目すべき”Remarkable”プロダクトからはじまる

    成長を推し進める役割としての「口コミ」はすでに確立されています。

    顧客は「口コミ」が製品購入の意思決定において最も重要だと答えています。創業者は最も重要な顧客獲得チャネルだと言います。それが初期段階でも拡大期でも。しかし、あまり理解されていないのは、セス・ゴーディンの言葉ですが、人々から注目”Remark”されるには、自分自身が注目に値する”Remarkable”にならなければいけません。

    製品が勝手に売れていくのは、アトラシアンの初期の成長の鍵となった発見でした。しかし、いくつかの条件が整った場合に限りです。それは、ユーザーが熱中して自らが伝道師として組織の内側にも外側にも伝えたくなるような素晴らしい製品であることです。製品とマーケティングとユーザーの密接なフィードバックループによって、アトラシアンはビジネスを前進させる非常に効率的なフライホイール(慣性を利用した推進装置:弾み車)を作り上げました。

    「フライホイールは素晴らしい製品作りから始まります。アトラシアンの初期において、私たちは注目に値する”Remarkable”な製品を作る議論をしました。”Remarkable”という言葉を意識的に使いました。私たちは人々が注目”Remark”せずにはいられない製品を作りたかったからです。ここから口コミがはじまります。そして、フリーホイールは顧客にとって意味のある問題を解決する素晴らしい製品でなければ成立しません。そのために顧客にとっての摩擦はなるべく排除するようにしました」ジェイ・シモンズ

    アトラシアンのフリーホイール

    なぜ、ロータッチは21世紀の法人営業モデルなのか

    現在の法人顧客は10年前とは全く違う方法でソフトウェアを調達しています。自分自身を考えてみましょう。Googleで検索して、知人に聞いて、会社の同僚と話をする。私たちは供給が限定的で需要をコントロールしていたサプライヤーの世界から無限の供給がある顧客が全ての力を持つ世界に移行しました。

    この新しい世界では、顧客は全ての知識、意見、を持って営業サイクルの中に入ってきます。すでに自分自身で学んでいます。すでに、フリーミアムのバージョンを使っているかもしれません。そして、獲得するための最良の方法は営業に電話をしてもらうことではありません。最良の方法は製品を利用してもらい、その価値をなるべく早く理解してもらうことです。

    「多くの評価者や顧客にとって、購入サイクルはインターネットによる情報の民主化によってここ10年で大きく変わっています。確かHBRの記事にあったとも思うのですが、65%の購入サイクルはすでに顧客によって完了しているとされています。

    そこで、私たちのフリーホイールは顧客にとっての摩擦を極力減らすことに注力しています。いくらくらいコストがかかるのか、よくある疑問はどういうもので、どのような答えなのか、そしてそれを支えるサービス。そうすることによって私たちの製品の価値が顧客自身で簡単に発見できるようにすると言えるのです。」ジェイ・シモンズ

    ロータッチはノータッチではない

    アトラシアンのアプローチは他のビジネスにとっても魅力的です。正式な営業組織をなくし、間接コストを削減、研究開発への投資を増やすせます。ほとんど魔法のようです。製品をWebサイトにおいて、トラフィックを集めて、奇跡的に全く努力せずに製品が売れていく。

    しかし、「使いやすくていい製品が勝手に売れていく」はSaaSにとっては神話の一つです。ジェイもそこを強調するのに苦慮しています。ロータッチはノータッチではありません。ロータッチモデルでは営業サイクルの初期において営業チームを完全に無くしたり、最小限にすることができます。しかし、アトラシアンでは依然として人の手でロータッチモデルを維持しています。

    「もし、あなたが大企業の顧客でより複雑な課題を持ち、私たちにとっても大きな価値があるのであれば、それを手助けするチームが存在します。エンタープライズ・アドヴォケートです。この組織は4年前くらいからはじめ、大企業の複雑な問題に特化しています。

    しかし、全ての顧客に対してこのモデルで対応すると、12万の既存顧客に5000の新規顧客を四半期に獲得するのは非常に困難になります。私たちはフリーホイールによる効率的なモデルを作り上げることに集中し、顧客が自分自身でサインアップしてプロダクトを使いはじめる仕組みを作らなければいけません。もし、私たちの関与が必要なけらば、それは素晴らしいことです。もし、私たちの助けが必要でしたら、最大限の支援をします。」ジェイ・シモンズ

    透明性の高い価格モデルの利点

    価格のオンラインでの公表に抵抗感を感じるB2Bソフトウェア企業は多いと思います。競合が価格を参考にして下回る値付けをしないか心配になります。大きな商談でもっと価格を上げることができるのではないかと考えます。大企業の顧客が価格交渉の材料にするのではないかと懸念します。

    B2Bソフトウェアの世界でアトラシアンは際立った存在です。彼らの価格ゴールは顧客の決断を助けること。余計な営業プロセスに惑わされず、なるべく簡単に素早くソフトウェアを動かすことができるようにする。クリック、購入、利用。

    「顧客にとって、よくあるつまずきポイントは価格です。価格をWebサイトに明示しないことで、営業にコンタクトさせる。心理的には“顧客を驚かせて逃したくない、なるべく高い価格設定で売りたい、ソフトウェアの機能を説明する前に、顧客の課題を理解して、その解決を提示することで価格の正当性を訴えたい”でしょう。

    私たちのモデルでは、価格が顧客にとってのつまずきポイントにならないように気を配っています。最上位プランにおいてもです。それで速度を上げることができます。大企業の顧客でもWebサイトから1万ドル(約100万円)で10から50人のチームのプランを営業の関与なしに購入することができます。」ジェイ・シモンズ

    ロータッチ営業モデルが全てではない

    ビジネスモデルは事業の成否を決める判断の一つです。間違ったモデルを選べば、始まる前から失敗してしまいます。正しいビジネスモデルを選ぶのは、単に価格のページを変えたり、機能を追加したり、具体的なマーケティング施策を実施したり、営業チームを雇ったりすることではありません。全てのビジネス要素を考慮に入れなければいけません。

    「あなたのビジネスモデルはあなたの市場と、その市場にどのようにアプローチするかに依存します。もし私がワークデイ(大企業向けの人事ソフトウェア)で、世界で最も大きな2000社を市場としてみるのであれば、アトラシアンのモデルは適していません。HRの管理システムは複数導入するものではないので、ワークデイのソリューションの購入はとても大きなトップダウンの決断になります。たった一つを選ばなければならず、人事のトップとCIOがスポンサーとしてつくことでしょう。つまり、コンサルティングが必要となり、非常に営業サイクルの長い商談になるでしょう。まずやってみようのようなモデルではありません。

    創業者として、あなたは全てを考慮しなければいけません。私のアドバイスは”アトラシアンを参考にしてアトラシアンのモデルを採用する”と安易に考えないことです。」ジェイ・シモンズ

    ジェイのアドバイスは明白です。SaaSでサービスを売ろうが、物理的なモノを売ろうが、まずは顧客を理解し、どのように魅力的に感じてもらうかです。そうすることで、ようやくロータッチ営業モデルの適用を判断することができます。

  • 書評|日本ではわかりづらいRedditを理解するためのテキスト|”We Are the Nerds” by Christine Lagorio-Chafkin

    書評|日本ではわかりづらいRedditを理解するためのテキスト|”We Are the Nerds” by Christine Lagorio-Chafkin

    Redditって有名だし、英語圏でビジネスをするならチャネルとしても無視できない。2019年1月時点でのAlexaのランキングでは18位。FacebookやTwitterのような定番以外にグロースハックをやるならRedditは検討しなければいけないチャネルの一つです。Reddit hug of deathというくらい、Redditで注目されればサイトがダウンするくらいトラフィックがきます。中国語ならWeiboを理解できないといけないのと同様な意味で、英語でビジネスをするならRedditを理解できないといけない。

    今回紹介する”We Are the Nerds”は共同創業者の二人であるスティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンを中心として創業から現在までを振り返る構成となっています。正直にいえば、前半は登場人物がうまく描ききれていないし、後半はあまり面白くありません。それでも、ここまで詳しくRedditの歴史を追った本はないので、Redditを理解するテキストとして非常に有効です。

    We Are the Nerds: The Birth and Tumultuous Life of Reddit, the Internet's Culture Laboratory (English Edition)

    We Are the Nerds: The Birth and Tumultuous Life of Reddit, the Internet’s Culture Laboratory (English Edition)

    そもそもRedditってなに?

    Redditは日本語版がないので日本人にはあまり馴染みがありません。簡単にいえばコメント機能が充実したはてなブックマークです。自分が気になるリンクをRedditに投稿して、それについてユーザーがコメントする。そのリンクに投票することもできて、高い投票を獲得したリンクが上の方に表示される。Redditにはカルマポイントというポイントシステムがあって、投票などでカルマポイントが増える。これがユーザーにRedditを使ってもらうインセンティブになっているわけです。

    匿名性の高いアクティブなコミュニティーを形成しているのがRedditの特徴です。雰囲気としては日本の2ちゃんねるに近いかもしれません。2ちゃんねるで「ジャンル」と呼ばれるものはRedditではsubredditに近い気がします。そして、各ジャンルの下に「板」がたつ。それでも、Redditはユーザーのハンドル名があるし、完全に匿名とも言い切れません。また、コミュニティーマネージャーが存在して、各subredditにはユーザーによるボランティアの管理人もいます。2ちゃんねるとはやはり違います。英語で2ちゃんねるに近いのは4chan8chanですね。

    Redditのはじまり

    スティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンは後にY Combinatorを立ち上げるポール・グラハムに心酔していて、わざわざ講演を聞きにボストンまで出かけて行き、自分たちのスタートアップアイデアをピッチしました。この時はまだY Combinatorを立ち上げていなかったのですが、この出会いがきっかけでY Combinatorの最初のバッチにスティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンは補欠で選ばれます。本当は落ちていて、失意のまま電車で帰る途中だったのですが、当時、Y Combinatorを一緒に立ち上げた彼女のジェシカ・リビングストンに「え?あの子達いいじゃない!」という鶴の一声で呼び戻されました。スタートアップアイデアが認められたというよりも、二人の将来性が認められた形でした。

    RedditのアイデアはY Combinatorの期間中にポール・グラハムも関わり合いながら形成されました。当時はブックマークサービスのdel.icio.us(はてなブックマークの元ネタ。紆余曲折を経て実質的に2017年終了)や掲示板サイトのSlashdotが人気でした。ポール・グラハムのモットーは「あまりイカしていないそこそこのサービスを最高のサービスにブラッシュアップさせろ」でした。del.icio.usもSlashdotも人気はあったのですが、まだまだ改善する余地がある。そうして生まれたのがRedditのアイデアだったそうです。

    インターネットコミュニティーと企業文化

    サービスとしてのRedditと2ちゃんねるの違いより、それを運営する企業文化の違いの方が大きいと思います。両方ともプラットフォームであり、そこでユーザーが何をやらかしても自由という精神で運営されています。リバタリアン思想。「メディアではなく、プラットフォーム」という位置付けは責任回避にも都合がいいので、FacebookもTwitterも同じ姿勢を取っています。いわゆるソーシャルメディアやソーシャルニュースは「完全自由」と「完全管理」で白黒くっきり別れるわけでなく、様々な濃淡のグレースケールのどこかに位置する感じとなります。大手になるほど管理が強くなります。2ちゃんねるは完全自由に近いですよね。Redditも当初は完全自由だったのですが、大手出版社のConde Nastに緩やかにではありますがコンテンツの管理をするようになります。そういう意味ではニコニコ動画に近いんじゃないかと思います。

    Reddit(2005年6月)より半年先がけてDigg(2004年11月)がローンチして人気が出ます。RedditとDiggは非常に似ていました。着想自体はほぼ同時期なのですが、人気はDiggの方が高かったためにRedditは模倣サイトとみられることも少なくなかったそうです。Redditは2006年10月にConde Nastに買収されたのですが、Diggは2012年でした。

    結局、DiggはRedditに抜かれてしまうのですが、これも企業文化なのかなと思える部分があります。Conde NastはRedditをほぼ自由に運営させていましたが、投資もほとんどしなかった。スタッフは本当に最小限。それに比べるとDiggは2005年、2006年のシリーズAとBの後、2008年に日本円で30億円近い資金を調達しています。そして、2010年に大規模なデザインのリニューアルを行うのですが、これがユーザー離脱の原因となってしまいました。コミュニティー運営って難しいですよね。

    経営と運営の違い

    Redditが2006年にConde Nastに買収された後も、彼らが引退する2009年までスティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンを中心としたコミュニティー運営母体としての色合いが強かった印象を受けます。コミュニティー運営のための決断(主にオハニアン)や開発上の決断(主にホフマン)はしますが、経営上の決断はほとんどしていません。

    経営判断をするようになったのはPayPalマフィアの一員でFacebookでもディレクターとして機械翻訳プロジェクトなどで成功したイーシャン・ウォンがCEOになってからでしょう。ただ、経営者としてあまり有能ではなく、経営者(=経営)と現場(=運営)の乖離が大きくなってしまいました。その後任のエレン・パオもそれはあまり大差がなく。Redditの経営は全くうまくいってませんでしたが、運営はできていた。経営の役割って一体なんだろう?と考えさせられます。

    この本はどんな人にオススメか

    英語圏でビジネスをやる人は読んだ方がいいでしょう。インターネットコミュニティーが何にどのように反応するのか、Redditで実際に起きた出来事はコミュニティー運営の共有知となっています。ストライザンド効果なんて代表例ですね。

    ソーシャルニュースサイトにおけるオープンソース(Redditのコードはオープンソースとして公開されていた)の意味とか、ImgurなどRedditのコバンザメとして発展してきた外部サービスとか。まあ、実際にRedditを使ってみるのが一番ではあります。

    ただ、(個人的な感想ではありますが)著者が読者をぐいぐい引っ張っていく力量がないため、ストーリーとしてあまり面白くない。感情移入しにくいんですよね。本来ならエレン・パオがCEOになってからの彼女の戦いはスタートアップのジェンダー論争にとって重要な意味があるのですが、そこまでたどり着くまでなかなか苦痛です。エレン・パオが辞めたあとにスティーブ・ホフマンとアレクサス・オハニアンがRedditに復帰するのですが、ぶっちゃけそこまで読めていません。

  • 書評|自分のペースで仕事をする大切さ|”It Doesn’t Have to Be Crazy at Work” by David Heinemeier Hansson and Jason Fried

    書評|自分のペースで仕事をする大切さ|”It Doesn’t Have to Be Crazy at Work” by David Heinemeier Hansson and Jason Fried

    いきなり個人的なことですが、ボクは最近になって日本企業で働いています。これまでずっと外資系企業に勤めたり、海外でスタートアップやったりしていたので、日本企業で働くのは本当に初めてのことです。で、これが驚くほどに快適なんですね。なぜかといえば、自分のペースで自分の好きな仕事を存分にできるからなんだと思います。

    自分の仕事が会社に貢献できていると感じることができる。それでいてオフィスにも基本的には定時しかいないし、そのあとは仕事とは関係のない好きなことができる。これほど幸せなことはありません。

    ひょっとしたらボクが所属する部署が特別なのかもしれない。ボク自身が特別な扱いを受けているのかもしれない。でも、大切なことは日本企業の中にも(レアかもしれないけど)そういう場所があるということです。

    今回紹介する書籍”It Doesn’t Have to Be Crazy at Work”を書いたジェイソン・フリードとデイヴィッド・ハイネマイナー・ハンソン(通称DHH)が経営しているBasecampもスタートアップ界のレアケースとも言える幸せな場所です。

    NO HARD WORK! 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方 (早川書房)

    NO HARD WORK! 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方 (早川書房)

    • 作者:ジェイソン フリード,デイヴィッド ハイネマイヤー ハンソン
    • 発売日: 2019/01/31
    • メディア: Kindle版
    It Doesn't Have to Be Crazy at Work (English Edition)

    It Doesn’t Have to Be Crazy at Work (English Edition)

     

    スロースタートアップ

    以前に「スロースタートアップ」として外部から資金調達をせずに、自己資金だけでゆっくりと成長しているスタートアップを紹介しました。MailChimpdribbbleなどです。Basecampはスロースタートアップの代表です。

    Basecampは1999年にジェイソン・フリードを含む3人の共同創業者とともに37signalsとして立ち上がりました。もう20年も事業が続いています。広く使われている開発フレームワークのRuby on RailsはBasecamp開発のためにDHHによって作られてオープンソースになったものです。開発言語としてのRubyがこれほど普及したのはRuby on Railsのおかげです。

    Basecampのようなスロースタートアップは外部から資金調達をせずにブートストラップ(自己資金だけ)で経営しています。しかし、多くのスタートアップは外部から大きな資金調達をして、大きくスケールすることを目指します。前回紹介した”Lab Rats”を書いたダン・リオンズに言わせれば、それこそが不幸の原因です。

    売上は全ての傷を癒す(Revenue heals all wounds)

    スタートアップには多くの金言があります。「売上は全ての傷を癒す”Revenue heals all wounds”」はその一つです。成果が出ないと組織内の雰囲気はどんどん悪くなります。他部署への批判が増え、モラルが低下します。しかし、どれだけ苦労しても成果が出れば報われる。雰囲気は一気に明るくなる。一般的には「時は全ての傷を癒す”Time heals all wounds”」ですが、時だけが過ぎて売上がなければ企業は死んでしまいます。結果が全てなのがスタートアップです。

    Basecampが外部から資金調達をせずに20年間事業を継続できているのはコストをカバーするための十分な売り上げがあり、利益を確保しているからです。どうやって?ユーザーから愛されるプロダクトを作る。それだけのことです。「ユーザーを理解する」、「ユーザーの声に耳を傾ける」、「それをプロダクトに反映する」です。それだけのことなのですが、それをするのが難しい。

    「売上は全ての傷を癒す」のですが、それは「ユーザーから愛されるプロダクトを作る」しかないんです。ボクが会社の中でやってることも、結局のところは顧客起点で考える習慣を作ること、そこから得た知見をもとにユーザーが求めるであろうプロダクトを科学的に検証して早くリリースすること。それしかないんですよね。

    立ち止まる大切さ

    Bootcampでは全ての人たちが自分のペースで働いています。チームで仕事をする場合、他人のスケジュールに影響されることがありますよね。Aさんがいないと自分の仕事が先に進まない。Basecampではそんな時にどうするのか?待つのです。Aさんがその仕事に取りかかれるまで待つ。

     

    Basecampは長い時間をかけて自分たちにとって最適な開発サイクルを作りました。ゴールはないが、そのサイクル期間内に実装したい機能はある。でも、実装できなかったらそれは次のサイクルで実装する。それがBasecampで自分のペースで仕事をできる秘訣です。

    日本の多くの課題は「待つ」ことで解決するんじゃないか

    トーキョーネイティブではない人から「東京の人はぶつかっても謝らないでそのまま立ち去ってしまう」って言われることがあります。自分はトーキョーネイティブですが、確かに「感じ悪いなあ」と思うことはありました。後ろから来て人の目の前を平気で横切る。何も言わずに黙ってぶつかりながら進む。ドアを後ろから来る人のために開けておくのは海外では常識なのですが、日本でそれをやる人は少ない。ボクは正直なところ、日本人は「他の国の人たちと比べると優しくない」と捉えていました。「おもてなし」も非常に表面的で、お金を払うお客さんにだけ。赤の他人にはとても冷たい。

    でも、実際は人間として「他人のことを思いやる」ことに国や人種は関係ない。日本人だけ特別に「氷のように冷たい心」を持っているわけではない。単に、他人を思いやる行動ができないだけ。どうすれば他人とぶつからないのか?道を譲ればいいんです。立ち止まればいい。それだけのことなんです。

    満員電車も無理に詰め込んで入らなくても、次の車両を「待て」ばいい。自分の進行方向に人がいて通れない場合、「すみません、ちょっと通ります」といえばいい。黙ってぶつかって押し分けて通らなくてもいい。海外ではみんな”Excuse me”って言うでしょ?英語の授業でも習いましたよね。母国語である日本語でもそうしましょう。

    日本人はスタート時間にこだわりがあって、他人が遅れると気分を害してしまいがちです(そのわりに終わる時間にはルーズなのですが)。でも、待てばいいのではないでしょうか。「待てばいいんだ」と思えばいろんなフラストレーションは消えて無くなります。

    この本はどんな人にオススメか

    いわゆる「働き方改革」のヒントがたくさん詰まっています。根本的には「ユーザーが愛するプロダクトを作る」と「必要な利益を確保する」なんですが、それをした上で、どうすれば幸せな職場環境を作れるのか。そう言う意味では、上級編なのかもしれません。小手先だけ真似してもうまくいかない。

    経営者も、従業員も、顧客も幸せにできる企業を作って維持するのって簡単じゃないと思います。Basecampはそれが20年続いている非常にレアなケースです。そこから何か少しでも学びたいと思えるなら、この本はとてもオススメです。

  • 書評|スタートアップとベンチャーキャピタルの関係を説明したバイブル|”Venture Deals” by Brad Feld, Jason Mendelson

    書評|スタートアップとベンチャーキャピタルの関係を説明したバイブル|”Venture Deals” by Brad Feld, Jason Mendelson

    スタートアップ界隈では尊敬されている人たちがいます。今回紹介する”Venture Deals”の共同著者のブラッド・フェルドはその一人です。コロラド州のボルダーはスタートアップの活動が活発ですが、そのスタートアップコミュニティーを立ち上げる主役の一人がブラッド・フェルドでした。その過程を綴った”Startup Communitties”はコミュニティー活動に関わる人たちにとってのバイブルの一つです。

    Startup Communities: Building an Entrepreneurial Ecosystem in Your City (English Edition)

    Startup Communities: Building an Entrepreneurial Ecosystem in Your City (English Edition)

    ブラッド・フェルドはTechstarsという小規模のベンチャーキャピタルをボルダーでジャレッド・ポリスとともに立ち上げました。ちなみに、ジャレッド・ポリスは2018年にコロラド州知事となりました。そんな彼らがスタートアップのために事細かにベンチャーキャピタルからの資金調達について書いた”Venture Deals”はスタートアップを目指す人ならほぼ必ず読む本の一つです。すでに第3版まで出ていて、その時に合わせて内容も若干アップデートされています。

    Venture Deals: Be Smarter Than Your Lawyer and Venture Capitalist

    Venture Deals: Be Smarter Than Your Lawyer and Venture Capitalist

    ベンチャーキャピタルというのはなかなかわかりづらい存在です。スタートアップにとっては資金調達の王道。資金を出してくれる人たちです。しかし、その資金がどこからきて、ベンチャーキャピタル自身はどのようにお金を儲けているのかきちんと理解をしている人はそれほど多くないと思います。まあ、普通に会社勤めをしていれば関係ないですからね。それでもお金ってどう循環して経済が回っているのかは理解していて損はないでしょう。簡単に言えば、リクルートのリボン図で「お金を投資したい人たち」と「

    投資を受けて事業をしたい人たち」を結びつけるのがベンチャーキャピタルです。

    経済はお金が循環することで発展します。金融機関の仕事はお金を動かすことです。その動かす先の一つがベンチャーキャピタル。ベンチャーキャピタルの役割はいい投資先を見つけたい人と投資を受けたい人にお金を流すことです。よく誤解する人がいるのですが、ベンチャーキャピタル自身がたくさんお金を持っていて、その投資益で儲けているわけではないのです。

    「いい投資先を見つけたい人」はプライベートエクイティファンドなどです。例えば私たちの年金もそう。ほら、私たちにも関係あるでしょ?すごく簡単に言えば、出資する人をリミテッドパートナー(LP)、それを運用する人をジェネラルパートナー(GP)といいます。ベンチャーキャピタルにとってのお客さんは資金の運用を任せてフィーを払ってくれるリミテッドパートナー(LP)ということになります。で、そのリミテッドパートナーのお客さんは?普通の個人や法人ですね。私たちを含め。

    日本語の本では(これもやはり起業家にとってのバイブルとされている)『起業のファイナンス』が”Venture Deals”に近いです。ただ、”Venture Deals”はベンチャーキャピタルが書いただけあって、ベンチャーキャピタルがどう動いているのかを詳しく解説してくれています。

    起業のファイナンス増補改訂版

    起業のファイナンス増補改訂版

    この本はどういう人にオススメか

    ベンチャーキャピタルから資金調達をしたい人にはもちろんオススメです。あと、スタートアップ的なやり方に批判的な立場をとる人にもオススメです。欧米ではすでにミルトン・フリードマン的なスタートアップ的なやり方に限界を感じる人たちが出てきています。それが日本に波及するのもそう遠くないのではないかと思います。

    しかし、実際にどちらが「正しい」か「正しくない」とくっきり白黒つけられるものではありません。きちんと双方の立場を理解した上で、自分なりの判断をしていくしかないのです。そのために、スタートアップ的な資金調達のバイブルであるこの本は役に立つでしょう。

     

  • 書評|オッサンの言ってることは意外と正しいんじゃないか?|”Lab Rats” by Dan Lyons

    書評|オッサンの言ってることは意外と正しいんじゃないか?|”Lab Rats” by Dan Lyons

    今回紹介する著書のダン・リオンズさん。見ての通り、オッサンです。ずっと編集畑を歩んできて、リストラされる。心機一転、スタートアップ(Hubspot)の世界に飛び込んだもののやっぱりリストラ。スタートアップめ!ざけんじゃねーぞ!とスタートアップ界隈をdisった前著の”Disrupted“が大ヒット。余勢をかってスコープを広げたのが今回紹介する”Lab Rats”となります。

    Lab Rats: How Silicon Valley Made Work Miserable for the Rest of Us (English Edition)

    Lab Rats: How Silicon Valley Made Work Miserable for the Rest of Us (English Edition)

    スタートアップの価値観って本当に正しいですか?

    こういう本って下手したら逆恨み感満載の負け犬の遠吠えになってしまいます。ここまでいろんなことに噛み付いていると、単なる狂犬なのではと思われてしまう危険性もある。実際に、これが「ユニコーン」という言葉が生まれた5年前(2013年)だったらそう取られていたでしょう(前著の”Disrupted”は2016年)。

    しかし、最近はユニコーンって本当にそれだけの価値があるの?と疑問符がつきはじめてきました。実際に利益が出ている会社なんてほとんどない。GoogleやFacebookは例外中の例外(統計でいえば異常値)であって、本当はシリコンバレーのやり方は正しくないんじゃない?

    スタートアップという病

    大企業でもスタートアップ的なやり方を取り入れることが多くなってきました。この本で冒頭に出てくるレゴ・シリアスプレイなんて典型的な大企業向けスタートアップ風ワークショップですよね。ボクもアムステルダムに住んでいた頃にいくつかシリアスプレイのワークショップに参加したことがあります。面白いとは思ったけど、特に何かの役に立ったということはありませんでした。

    ダン・リオンズは「わかっている人はわかってる、こんなこと意味ないと」と言います。しかし、こういうスタートアップ的なものに意味がないというと周りから「古臭くてダメなやつ」というレッテルが貼られる。チームプレーヤーだと思われない。だから、声を上げることができない。あれ?同調圧力って日本独特なものではないんですね!

    どこで資本主義は間違ったのか?

    マイケル・ムーアの『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』が2015年に公開されたのは偶然ではないでしょう。ボクたち戦後の日本人はアメリカからの影響を強く受けているので、アメリカの価値観が世界の価値観だと思ってしまう傾向があります。グローバルスタンダードといっても、それはアメリカのスタンダードだったりします。それを二つの金融危機を通じてアメリカ自身が気づいたのがこの頃だったのではないでしょうか。そして、アメリカ資本主義の価値観をドーピング強化したのがベンチャーキャピタルが作ったスタートアップのエコシステムというのがダン・リオンズの見立てです。

    ダン・リオンズも資本主義自体が間違ってるとは主張していません。どこかで道を間違えたとしたらそれはミルトン・フリードマンではないかと主張しています。つまり、会社は株主の利益を追求すべきという考えに基づいた資本主義ですね。最近の書籍ではミルトン・フリードマンは悪者として描かれることが多い気がします。利益追求こそが企業の役目という姿勢がそもそも間違ってない?ということです。人の幸せってそういうことだっけ?

    アメリカ企業で人事(じんじ)は人事(ひとごと)な理由

    アメリカ企業は組織の新陳代謝が早いと言われています。これは、生産性の低い社員を生産性の高い社員に常に置き換えるからです。年功序列ではなく、実力主義だからというのは表面上のことです。それはシリコンバレーの男性至上主義なブロカルチャーが批判されていることでもわかりますよね。純粋に実力が評価されるのであれば、女性やマイノリティーの割合はもっと高いはずです。

    シリコンバレーだけでなく、大企業でも「実力主義」は様々な行動に表れています。例えば、PIP(業務改善プログラム)という社員のクビを切る仕組みが大抵どこの会社でもあります。本来は文字通り、パフォーマンスの悪い社員の改善を助けるプログラムなのですが、慣習としては裁判を起こされないようにちゃんとクビを切る手続きとなっています。

    コンサルティング会社などではUp or Out(上にあがるか、会社を去るか)と言われますし、最悪な場合はburn them out, churn them out(燃え尽きさせて、追い出せ)なんて言われます。特に給与のインセンティブが高い(歩合制:基本給が50%で歩合ボーナスが50%とか)の営業に多いのですが、このインセンティブミックスで歩合の割合が高いほどギャンブルに近くって、「今期刈り取りすぎて、来期は成績が達成できなそうだなー」なんてなると辞めてしまいます。この場合は雇用側も置き換え可能なモノとして社員を見てしまうし、雇用される側も企業(とその顧客)を焼畑農業の農地としてみてしまう。

    このような社員やパートナーを代替可能なモノとして扱う考えの発端はフレデリック・テイラーなのだそうです。そして、そのシリコンバレーの伝道師が“We are a team, not a family”で有名なNetflixの創業者リード・ヘイスティングであり、それを忠実に人事のトップとして実践して自らもNetflixをクビになったパティー・マコード、「ブリッツスケール」を提唱しているLinkedInの創業者リード・ホフマンです。PayPalマフィアの中でリード・ホフマンはまともな方だと思っていたのですが、ダン・リオン的には他の「クソ野郎」と同じだそうです。

    ギグ経済で人が商品になる(サービスとしての人間:Human as a Service)

    この究極の形がギグ経済だとダン・リオンズは言います。ギグとは小さな請負仕事のこと。クラウドソーシングがこのギグ経済を作り上げました。フリーランスの人たちが正規雇用とならずにクラウドソーシングで仕事を得ることができるようになりました。それなりに生活費は稼げていて、それでも本当に時間が余っている人にはすごくいいですよね。基本の生活費ではなく、プラスアルファをクラウドソーシングで稼ぐ人たち。でも多くの場合は企業に所属して安定した収入を得ることができない人たちが基本の生活費を稼ぐためにクラウドソーシングで小さなギグを拾っています。

    ギグ経済って企業(資本家)にとってはとても都合がいい。だって、正規雇用をしなくていいから、コストをいつでも最適化できる。いつでもクビにできる。社会保障費も必要ない。福利厚生も必要ない。

    Uberはこの本の中で悪い例として頻繁に出てきます。Uberは人を人として扱わないことで有名です。少なくとも、トラヴィス・カラニックがCEOの頃はそうでした。Uberの立場からすれば「空いている時間を自由に使ってお金を稼げる仕組みを作ってる。嫌なら使わなければいい」だし、働いている立場からすれば「ドライバーを最低賃金以下で社会保障もなく働かせている。Uberのおかげでタクシーでは働けなくなった。」になる。

    洗脳ツールとしてのアジャイル

    人事が開催するトレーニングって洗脳儀式めいたところがあります。もちろん、仕事で本当に役に立つトレーニングもありますよ。プログラミング言語とか英会話とか。ハードスキルですね。ソフトスキルだとクリティカルシンキングとかデザイン思考も、まあ悪くはない。それを実際に使って仕事をする機会はたくさんある。でも、冒頭で紹介したレゴ・シリアスプレイあたりになるとかなり怪しくなってくる。「こういうマインドセットで働いてくださいね」という型にハメてくる。ちょっと前だと『7つの習慣』とかね。

    もちろん、これは人事としては「企業文化」を作るためにこういうソフトトレーニングをやっています。悪気があるわけではない。英語に”weed out”(雑草を刈る)という言葉がありますが、「企業文化」に合わない人材は雑草なので出て行って欲しい。Zapposトニー・シェイがホラクラシーを導入するときに30%の従業員が会社をさったのと同じですね。そこまで大胆じゃないにしても、洗脳系のトレーニングに参加する方もそれは理解しているから分かったフリをする。外資系企業ってそうですよ。

    ダン・リオンズはアジャイルもこの部類に入るとしています。結局のところ、ウォーターフォールもアジャイルも手段でしかない。アジャイルが適切な開発があれば、ウォーターフォールが適切な開発もある。それを一つの枠に押し込めては、適材適所ができなくなってしまう。アジャイルが開発だけに留まっていればまだいいが、アジャイルマーケティングとか本来のアジャイルとは関係ない「アジャイルほにゃらら」になると怪しさが一気に増してきます。アジャイル自体がそれほど歴史がないのに、その亜流の「アジャイルほにゃらら」が成熟した手法であるはずもなく、実績もない。それでも企業研修に取り入れられているする。それは、実際のスキル開発というよりは「企業文化」のため。つまり、洗脳ツールとしての機能を求められている。

    新しい資本主義

    もちろんダン・リオンズは文句を言っているだけでなく、目指すべき方向も(本人が認めるように不完全ではありながら)示しています。ベンチャーキャピタルはミルトン・フリードマンの「悪しき資本主義」の究極の形ですが、「よい資本主義」を目指す新しいベンチャーキャピタルが誕生してきています。その代表例がLotus 1-2-3を開発したロータス創業者のミッチ・ケイパーが設立したケイパー・キャピタルです。

    ケイパー・キャピタルのミッションは「社会に存在する格差を埋める」ことです。地域格差、人種格差、性別による格差。こういうことをなくしていくスタートアップに投資しています。実はかなり初期の2010年にケイパー・キャピタルはUberにも投資をしていました。そして、Uberが創業者であるトラビス・カラニックのセクハラ疑惑が浮上すると、Uberの取締役会と投資家に向けてブログでオープンレターを公表しました。

    投資家は投資した企業の価値を最大化することを目的としています。なので、たとえその企業が(利益以外のいことで)うまく行っていなくても、大っぴらに批判することはありません。それは企業価値を貶めてしまう可能性があるからです。しかし、ケイパー・キャピタルはあえてそれをしました。このケイパー・キャピタルはシリコンバレーの伝統的な投資家からは非難されましたが、ケイパー・キャピタルは彼らのミッションに忠実であっただけです。

    新しい資本主義に方向転換するには投資家だけでなく、企業も変わらないといけません。その代表例がBasecampです。Basecampの創業者たちが書いた”It Doesn’t Have to Be Crazy at Work”についてはそのうちに書評として紹介します(鋭意執筆中)。

    この本はどんな人にオススメか

    何事も過ぎれば「宗教」となり、盲目的に信じてしまいます。アジャイルもリーンもデザイン思考もそれは同じです。たまには距離をとって客観的に見つめることも大切です。この本はいわゆるスタートアップ的な見方をクールに見つめ直すのに最適です。

     

  • 世界をリードする中国のAI企業:アイフライテック

    世界をリードする中国のAI企業:アイフライテック

    MIT Technology Reviewが2017年に発表した最もスマートな企業には多くの中国企業がランクインしました。ちなみにアメリカ企業がトップのNvidiaを含む最多で31社。中国企業は7社で2位でした。残念ながら日本企業はランクインしていません。

    そして、中国企業の中でテンセントを抑えてトップになったのはアイフライテック(iFlytek|科大讯飞)でした。世界では6位で、アップルやフェイスブックより上位となりました。*1

    アイフライテックは日本ではあまり馴染みがないかもしれません。しかし、創業は1999年で、すでに20年近い歴史があります。

    大学時代:若く頭角を表す

    アイフライテックはリュウ・チンフェン(刘庆峰)と中国科学技术大学(USTC)で出会った5人の共同創業者によって設立されました。

    大学時代のリュウ・チンフェンは中国語の言語解析の分野において飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍をします。

    リュウ・チンフェンは中国のマイクロソフト・リサーチ時代のカイ=フー・リーに社員としてボイスAIに従事するよう誘われていましたが、それを固辞して1999年にアイフライテックを創業します。1992年に中国科技大学と国家人工知能研究開発センター(国家智能计算机研究开发中心)が共同で設立した「人間とコンピューターとのコミュニケーションに関する実験室(人机语音通信实验室)」に参加して以来、人工知能による人間とコンピューターの研究に従事するようになります。そして、様々な賞を受賞して、スカラシップを獲得します。

    起業当時:研究とビジネスのギャップに苦しむ

    アイフライテックは当初はコンシューマー向けの商品を開発していました。2000年に最初のプロダクトである「チェンヤン2000(畅言2000)」を発表します。これは音声認識ソフトで、パソコンで音声を取り込んでテキストに変換するというものでした。価格は2000人民元(現在のレートの日本円で約33000円)で、個人が買うには非常に高価でした。

    リュウ・チンフェンは技術者なので経営には興味がなく、CEOのポジションもどちらかといえば消極的に受け入れていました。ビジネス的にも経営的にもうまくいかず、お金はみるみるうちに無くなっていきます。人工知能からピボットすることも検討され、不動産業に変えたほうがいいのではないかという意見が出たくらいでした。

    飛躍:出会いとピボット

    財政面でのアイフライテックの危機を救ったのは中国のベンチャーキャピタルのレジェンドキャピタル(君联资本)とレノボの創業者でリュー・チュアンジー(柳传志)でした。

    ビジネスもB2CからB2Bに転換しました。ファーウェイやレノボで利用されている音声認識機能はアイフライテックが技術提供をしているものです。

    中国政府はAI大国となるための三カ年計画「促进新一代人工智能产业发展三年行动计划」を発表しましたが、その一翼を担うのがアイフライテックです。医療分野がテンセント、スマートシティーがアリババ、クルマの自動運転がバイドゥで音声認識がアイフライテックの担当分野です。中国政府のお墨付き企業というわけです。

    オバマ前大統領やトランプ大統領のスピーチではアイフライテックの技術を使った英語→中国語の音声翻訳が利用されました。中国に要人が来た時にスピーチをするときにアイフライテックの技術を使うのは定番になってきましたね。

    www.youtube.com

    実は人の手を借りているのではないか疑惑

    中国はライバル同士で足の引っ張り合いをすることで有名です。「生き馬の目を抜く」は中国のスタートアップシーンを表す表現としてとてもふさわしい気がします。飛ぶ鳥を落とす勢いのアイフライテックも例外ではなく、様々な批判にさらされます。最近ではAIだけではなく人の手も借りているのではないかという疑惑です。

    ベル・ワンが知乎に投稿した公開書簡によると、彼はアイフライテックにやとわれた同時通訳チームの一員だったそうです。同時通訳をAIでやるってスゲーと思っていたのですが、人の助けがあったのなら納得。アメリカ大統領などの要人のスピーチとなればなおのことでしょう。

    これが真実なのかライバルによる罠なのかはわからないですが。

    参考文献

    我有嘉宾之对话刘庆峰:中国最聪明公司的DNA-脱口秀-高清正版视频在线观看–爱奇艺

    科大讯飞刘庆峰9年制造3个亿万富翁 中国科学技术大学新闻网

    科大讯飞:期待语音市场高成长还要熬两三年 | 客户世界

    刘庆峰_百度百科

    畅言2000让你“畅所欲言”

    科大讯飞,你的AI同传操(qi)作(zha)能更风骚一点吗 – 知乎

    iFlytek: China’s Nuance and Siri?

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    *1:ただ、WebサイトにAdobe Flashを使っているのが非常にイケてないのですが……