アメリカのリベラルは逆風の中にあります。党内から、自分たちのやり方を見直すよう求める本が相次いで出ています。ニューヨーク・タイムズのコラムニストEzra Kleinの共著『Abundance』もその一冊です。今回紹介するBen Wiklerによる『This Is the Plan』もその流れにあります。Ezra KleinはBen Wiklerとの対談で、本書の議論が、自分が『Abundance』で書いたことと重なると述べました。

対談では、政党そのものが弱っているという話も出ます。「民主党」という言葉には、輪郭の曖昧な支持者の集まりと、公式の党組織という二つの意味があります。本書が扱うのは後者、州の党組織です。
題名が『これがプランだ(This Is the Plan)』ですから、読者は具体策の一覧を期待して本を開きます。ところが、著者が「プラン」と呼んでいるのは、そうした一覧ではありません。
講演での本人の説明はこうです。11月に連邦下院と上院、そして州知事職と州議会で勝ち、2028年の選挙運営を相手側に握らせない状態をつくる。2028年には大統領選と上下両院で勝つ。そのうえで、選挙のルールを自分たちに有利に決めて権力を維持するやり方をやめ、これまでよりよい民主主義をつくる。この一連の段取りが「プラン」です。
制度改革についても書かれています。全米で最も多くの票を得た候補に各州の選挙人票を割り当てる州間協定、フィリバスター(連邦上院で少数派が採決を止められる仕組み)の廃止または改革など、5点が挙げられています。ただし、これらは「プラン」を実現した先にある改革です。
Publishers Weeklyの2026年4月の書評によれば、本書の力点は制度改革ではなく、人と人とのつながりをつくる組織化にあります。50州を一括りにした戦略ではなく、州ごとに一つずつ、50通りの戦略をつくる必要がある、というのが本書の主張だとも書かれています。
著者のBen Wiklerは、ウィスコンシン州民主党の委員長を2019年から2025年まで務めた人です。委員長は、州の党組織を運営し、資金を集め、選挙に必要な人員を整える役職です。2025年2月には民主党全国委員会の委員長選に立候補し、Ken Martinに敗れました。本書が初の単著で、2026年7月21日にW. W. Nortonから刊行されています。11月の中間選挙に向けて各党が動くさなかの刊行です。
目次
地道な組織化が、接戦の選挙を動かす
本書の中心はウィスコンシンです。この州では、選挙がわずかな差で決まってきました。いわゆるスイング・ステートです。
著者は2024年の大統領選について、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの3州で約11万5,000票、投票総数の0.1%ほどが動いていればハリスが勝っていた、と述べています。選挙を運営するのは州なので、州政府を押さえることが独裁を防ぐうえで最も重要になる。そう述べて、この3州にミネソタ、アリゾナ、ニューハンプシャー、ネバダを加えた7州を名指ししています。ただし、ウィスコンシンでの成功が他州でも通用するのかを検証した書評は、確認できた範囲では見つかりませんでした。
刊行の翌週、サンフランシスコのCommonwealth Clubで行われた講演で、Wiklerはこの州で何が起きたかを説明しています。
まず挙げたのは、州共和党が何をしてきたかです。共和党は2011年に法律を成立させ、公務員労組から団体交渉の権利を奪いました。公務員の労働組合はウィスコンシンで生まれました。
同じ年には、ある判事が「この州を全米で最も投票しにくい州にした」と評した州法を成立させ、共和党の全国的な計画の一環として選挙区を極端に引き直しました。民間部門の労働組合からも同じ権利を奪ったのは2015年です。
この選挙区割りによって、得票率と議席の割合が大きくずれました。ウィスコンシンでは州最高裁の判事も選挙で選ばれます。当時、右派が多数を占めていた州最高裁は、これらの法律と選挙区の引き直しを認めました。その選挙区割りは、のちに是正されています。この是正によって、民主党は今年、知事職と州議会の両院を狙える状況になっています。
巻き返しの出発点は2016年です。この年の大統領選で、民主党はウィスコンシンをトランプに奪われました。勝敗を分けた州でした。
当時の州民主党は、大統領選の年だけ人を集めるやり方を改め、選挙のない年も活動を続けるようにしました。特定の候補のためではなく、州で行われるすべての選挙のためです。選挙がまだ遠いうちから資金も集めました。
州民主党が雇った組織化の担当者は、戸別訪問をしませんでした。カフェで人に会い、地元チームのリーダーになってくれないかと頼みました。友人を何人か誘って、チームを立ち上げてほしい、という頼み方です。
「組織化は、私たち一人ひとりが持っている力です」とWiklerは言います。ただし、組織化でできることには限界もあります。
「組織化で、大差で負ける選挙を勝ちに変えることはできません。ですが、あと少しで負ける選挙を、1ポイント差の勝ちに変えることはできます」
2018年、この方法によってTony Eversが知事選に勝った、とWiklerは説明します。差は1.1ポイントでした。Wiklerが委員長に選ばれたのは、その翌年です。彼はこの進め方を引き継ぎました。
なぜ、知り合いを通じて働きかけるのでしょうか。
刊行日にワシントンで行われた対談で、Wiklerはこう説明しています。
「有権者のもとには、広告が次から次へと届きます。迷っている人は、そのどれも信じなくなります。全部を聞き流します。けれども、自分が知っていて信頼している相手から声をかけられれば、その人は耳を傾けます」
ウィスコンシンでは、誰が投票に行ったかが公の記録に残ります。どの候補に投票したかまでは分かりません。州の選挙管理委員会に請求すれば、この記録は誰でも入手できます。公開される情報の範囲は州によって異なります。
州民主党は、この記録を活用するアプリを用意しています。ボランティアがアプリに自分のスマートフォンの連絡先を読み込ませると、知り合いのうち、ここ数年の選挙で投票していない人が表示されます。あとは、その人に声をかけます。
Wiklerはこう続けます。
「政治広告に使われる資金は、すべてこのデータを前提にしています。誰が最も態度を決めかねている有権者かを特定しようと、誰もが躍起になっています。ですが、その迷っている有権者が信頼している人であれば、あなたの言葉には大きな重みがあります」
これを、知り合いを通じた組織化と呼びます。
2025年の州最高裁判事選のとき、Elon Muskはウィスコンシンに来て、自ら請願書を用意し、友人を誘って署名させた人に報酬を支払いました。
Wiklerの評価は厳しいです。
「彼は、知り合いを通じた組織化を金で買おうとしたのです。おそらく彼のコンサルタントの誰かが、この種の研究論文を読んだのでしょう」
共和党はいま、この手法に多額の資金を投じているが、最も効果が大きいのは、人々がボランティアとして自発的に動くときだ、とWiklerは続けています。
本書が扱うのは組織の動かし方で、何を訴えるかではない
本書を紹介する文章は、どれも明るい調子で書かれています。
出版社は紹介文で、著者を過去10年で屈指の成果を挙げた民主党の選挙戦略家と呼び、映画『プリンセス・ブライド・ストーリー』の一節を引いています。
「城攻めを楽しんで。ただし穏当に、あくまで比喩として、1月6日のような真似はせずに」
この映画は1987年の作品で、アメリカでは広く親しまれています。1月6日は、2021年にトランプ支持者が連邦議会議事堂に押し入った日です。
推薦者は党内の中道派から進歩派まで幅広くいます。一方の派閥だけが推している本ではありません。
ただ、書かれている作業そのものは簡単ではありません。一つひとつは地味ですが、量は多く、長い時間がかかります。明るく書かれていても、実際に動く人の負担が軽くなるわけではありません。
The Progressiveに掲載された書評では、評者がその明るさに留保をつけています。調べたかぎり、専門媒体の書評で本書に具体的な注文をつけていたのはこれだけでした。
評者のMary Beth Markleinは、本書をどこまでも楽観的だと評し、人を奮い立たせる檄文のようでもあり、実際に動く人のための手引きでもある、と位置づけています。
そのうえで4点の注文を挙げています。街頭行動についての記述が少ないこと、ユーモアが多すぎること、実務の情報が本のあちこちに散らばっていて一覧も索引もないこと、そして「プラン」自体に改訂が必要なこと。
ここで重要なのは4点目です。事態の深刻さを考えると、いまの「プラン」では足りない、という指摘です。
本書に書かれていないことは、著者自身が語っています。
冒頭で触れた対談で、Kleinはこう問いました。
「本を読みながら引っかかったことがあります。この本は組織化についての本で、あなたは昔から組織を作ってきた人です。ですが組織化には、組織を動かす仕組みと戦略があると同時に、売り物そのものがあります。どう売るかより、何を売っているかのほうが大事です」
Kleinは続けて、道路を直し、行政の手続きを滞りなく進め、価値観をめぐる争いには深入りしない、激戦州で勝ってきた民主党の政治家たちを挙げました。
そのうえで、同じ激戦州から違う訴え方をする候補が出てきているとして、ミシガンのAbdul El-SayedとウィスコンシンのFrancesca Hongの2人の名前を出しました。
著者は二つの点から答えます。
一つ目は、民主社会主義者から中道派まで候補者を並べてみても、今回の選挙で掲げる中心的な訴えは、暮らしの負担を下げるという点でほぼ一致している、という答えです。外交政策や医療制度のあり方では意見が食い違うものの、選挙で前面に出す訴えは重なっている、と答えました。
二つ目は、選挙で前面に出す訴えは、党組織が押しつけたり作り出したりできるものではない、という答えです。その党がどのような党なのかは、当選した候補者がその後どう動き、何を語るかで決まるからだ、と述べました。
有権者に何を訴えるかを決めるのは、自分の仕事ではないということです。本書は組織の動かし方を書いた本で、何を訴えるかを決める本ではない。著者はそう答えました。
KleinがHongの名を挙げたのは7月28日、ウィスコンシンの予備選の2週間前でした。
本書の方法が試されるのは、11月3日のウィスコンシン州知事選
本書が出た3週間後の2026年8月11日、ウィスコンシン州知事選の民主党予備選がありました。Evers知事が2025年夏に再選を目指さないと表明していたため、多くの候補者が立候補しました。
勝ったのはDavid Crowleyです。ミルウォーキー郡の郡長を務めています。郡の行政の長にあたる役職です。党内では中道に位置し、当選すればウィスコンシン州で初の黒人知事になります。
得票率は39.8%で、民主社会主義者を名乗る州議会下院議員Francesca Hongとの差は0.5ポイント、票数では4,000票弱でした。8月12日朝、開票率が95%を超えた時点の数字です。
ここで注意が必要です。これは本書の方法が試された選挙ではありません。
予備選は民主党の中で候補者を選ぶ争いで、どちらが勝っても民主党の候補になります。著者が説いているのは、本選で共和党に勝つための方法です。Wiklerも州民主党で顧問を務める立場から、どちらを支持するかは明らかにしませんでした。
本書の方法が試されるのは、11月3日です。Crowleyと、共和党のTom Tiffany連邦下院議員の争いになります。
著者が、組織化によって結果を変えられると述べたのは、あと少しで負けるような僅差の選挙です。11月3日の知事選は、まさにその範囲に入る選挙になります。
何年もかけて人に会い、協力を頼み続ける活動が、実際に票へ結びつくのか。答えが出るのは11月3日です。
リベラルが逆境にあるのは、アメリカだけでなく世界的な潮流のような気もします。日本もその中にいます。日本のリベラルの再建策はどのようなものになるのでしょうか。
参考リンク
- https://wwnorton.com/books/this-is-the-plan — 出版社の書籍ページ
- https://www.publishersweekly.com/9781324131434 — Publishers Weekly の書評
- https://progressive.org/latest/ben-wikler-roadmap-for-success-marklein-20260730/ — The Progressive の書評
- https://www.benwikler.com/p/this-is-the-plan-how-to-end-americas — 著者による刊行の告知
- https://catapultsuplex.com/entry/abundance/
- https://www.nytimes.com/2026/07/28/opinion/ezra-klein-podcast-ben-wikler.html
- https://www.youtube.com/watch?v=7v9pvuSf4Qg
- https://www.youtube.com/watch?v=9R_m1-6h0cA
- https://pbswisconsin.org/news-item/recapping-wisconsins-2026-primary-election-for-governor/
- https://www.nytimes.com/2026/08/12/us/politics/crowley-hong-wisconsin-governor-primary-polls.html
- https://docs.legis.wisconsin.gov/misc/lc/issue_briefs/2022/elections/voter_information_kbo_2022_04_07 — ウィスコンシン州議会法制局「Voter Information as Public Record」
- https://elections.wi.gov/clerks/svrs/voter-data — ウィスコンシン州選挙管理委員会「Voter Data」