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  • まとめ|2020年アメリカ合衆国選挙における投票法案のハイライト

    まとめ|2020年アメリカ合衆国選挙における投票法案のハイライト

    2020年のアメリカ合衆国選挙(大統領選挙/上院選挙/下院選挙/州知事/各州の投票法案が同時に行われる)は見所がたくさんありました。今回はトランプ vs バイデンの大統領選挙がエンターテイメントとしても、とても面白かったので日本でも注目されました。ボクも面白いと思いました。しかし、選挙で決めるのは大統領だけではないのです。アメリカでは法案にも投票することができます。直接民主主義が一部取り入れられているのです。

    アメリカの投票法案を注目すべき理由

    今回ボクが最も注目していたのは各州の投票法案です。アメリカの選挙では候補者だけでなく、法案に投票することができます。アメリカは合衆国ですから、各州が州議会で制定された独自の法律の上で、州知事を中心とした州政府によって運用されています。これら独立した州の集まりが合衆国であり、連邦政府(そのトップがアメリカ合衆国大統領)です。

    各州の法律で重要な変更がある場合、選挙の年に投票法案(ballot measures)として州民が投票することができます。2020年の選挙では32の州が130の投票法案を実施しました。投票法案にかけるには州議会から立案される、または州民からの嘆願によって立案されるケースがあります(州によって違う)。アメリカの投票法案制度は素晴らしい民主主義の仕組みだと思います。

    各州で法律が制定され、運用され、それが徐々に合衆国全体に広がっていきます。アメリカはとても影響力が強い国ですから、その影響は最終的にアメリカ以外の国まで広がります、日本を含めて。そのスタート地点がアメリカの各州における投票法案なのです。これがアメリカの投票法案を注目すべき理由です。ここで決められたことが、将来的に自分たちの国にまで影響を及ぼすからです。

     

    2020年の重要投票法案

    2020年の投票法案を見ていて面白いのが、トマ・ピケティ、ローレンス・レッシグ、ショシャナ・ズボフなどの重要書籍で語られたことが法案レベルで審議にかけられていることです。これが州レベルで決定できるスピード感なのだと改めてアメリカのダイナミズムを感じることができます。それを選択するかどうかは州民に委ねられる。その機会が州民に与えられる。

    アメリカの投票法案の多くは税金や選挙の運用方法など直接的に州の政治に関わることです。税金関連では資産に対する累進課税に関する投票法案が多く見られました。また、プライバシーに関する投票法案が多かったのも今回の特徴です。その他、多くの重要な投票法案がありましたので、見ていきましょう。

    ギグエコノミーにおける「社員」の定義

    テクノロジー関連の重要投票法案としてまずあげられるのはカリフォルニア州におけるProposition 22でしょう。これはUberなどのドライバー、UberEatsの配達人を社員ではなく独立した個人事業主との契約と位置付けてよいとする法案です。UberやLyftなどギグエコノミーの企業にとっては社員ではないので福利厚生を提供する必要がありあません。この投票法案に関しては日本でも関連記事が多く出ましたね。日本では「正社員」と「非正規社員」の議論に似ています。

    ギグワーカーを「従業員」としないカリフォルニア州法案は、企業の莫大な資金投入によって成立した | WIRED.jp

    Uberが「ギグワーカーは個人事業主」というカリフォルニアの住民立法を世界展開へ | TechCrunch Japan

    ギグワーカーをめぐる争いはウーバーとリフトが勝利…カリフォルニア州の住民投票で(BUSINESS INSIDER JAPAN) – Yahoo!ニュース

    個人情報保護の強化

    インターネットをめぐる規制はアメリカ全体で見直しがかかっている分野です。これまでGAFAがデータを使ったビジネスを推奨してきましたが、連邦レベルでGoogleやFacebookなどプラットフォーマーを守ってきた通信品位法(CDA)230条の見直しが入っています。

    カリフォルニア州は個人情報保護を強化している州として知られています。世界でアプリを展開している企業はヨーロッパのGDPRだけでなく、アメリカのカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)を目配せをしているはずです。そして、カリフォルニア州で行われたProposition 24はカリフォルニア消費者プライバシー法(CCPA)をさらに強化するカリフォルニアプライバシー権利法(CPRA)の承認となります。これもさすがに重要案件なので、日本でも記事がいくつか出ましたね。

    「個人情報保護を強化する」という米国民の選択:住民投票で静かに可決した法案の重み | WIRED.jp

    カリフォルニア州、プライバシー法の抜け穴をふさぐ発案を住民投票で可決 – ZDNet Japan

    カリフォルニア州、CCPAを強化するCPRAを住民投票で可決 | IIJ BizRis

    保釈金制度の代替としての人工知能(AI)

    カリフォルニア州はシリコンバレーがあるために多くのテクノロジー関連の投票法案が行われました。人工知能(AI)で保釈のリスクを査定し、それを保釈金の代替とするのがProposition 25でした。この案件についても事前に日本でもニュースがちらほらと出ていましたが、結果的には否決されてしまいましたね。

    CNN.co.jp : カリフォルニア州、被告の保釈金撤廃へ 米国で初

    「保釈金は金持ち優遇」米国で制度見直しの動き(猪瀬聖) – 個人 – Yahoo!ニュース

    クルマのデータは消費者のもの

    自動車には多くのデータが蓄積されています。走行距離とか速度だけではなく、ブレーキを踏んだタイミングなどいろんなデータが蓄積されています。しかし、それらのデータに消費者(=自動車の所有者)が簡単にアクセスすることはできません。この自動車に蓄積されたデータの所有者は誰なのか?実質的、運用的には(消費者ではなく)自動車会社になっているのが現状です。

    この現状に異を唱え、消費者へ容易なデータアクセスを法律化したのがマサチューセッツ州の投票法案Question 1でした。この法案、一見地味で重要性が分かりにくいのですが、アプリで簡単に自分のデータにアクセス出来るようにせよという法案なんです。これまで自動車会社の専有データのように運用されてきたクルマのデータに消費者がアクセス出来るようになります。これは他の産業にも波及するんじゃないかなあ。

    マサチューセッツ州で車両データの利用めぐり「修理する権利」拡大へ(CNET Japan) – Yahoo!ニュース

    固定資産の改革

    トマ・ピケティも指摘している通り、格差の拡大は累進課税の弱体化が原因という認識が広まっているからでしょう。収入に関しては累進課税が(弱体化されつつあるものの)採用されています。しかし、資産に関しては一律課税がアメリカでも多いようです。資産の格差が貧富の差につながるという認識が広がっています。具体的に累進課税を推進する投票法案はありませんでしたが、カリフォルニア州のProposition 15とコロラド州のConstitutional Amendment Bの二つの動きがありました。

    選好投票の実施

    民主主義は多数決が原則です。多数とは50%以上です。候補者が多い場合、50%以上の得票を獲得されない候補者が選出されることもあります。50%以上の支持がないのであれば、多数を代表しているとは言えません。この問題点を解決するのが選好投票です。ローレンス・レッシグも現代の民主主義の病を解決する処方箋の一つとして推奨しています。

    選好投票とは複数の候補者に順序をつけて複数選択する方式です。例えば5人の候補者(A〜E)がいたら、1番目がD、2番目がC、3番目がEと順番をつけて投票ができます。投票者が複数の候補者を重み付けをしながら投票することで、候補者が50%以上の多数を獲得できる確率を高めることができます。

    アメリカではすでにメーン州で実施されています。今年はマサチューセッツ州など複数の州で選好投票(Ranked-Choice Voting)に関する投票法案がありましたが、否決されたようです。まだまだ普及には時間がかかりそうですね。

    アメリカの投票法案の結果の見方

    Googleで”2020 us election”と検索すると以下の画面が出てきます。一番右端の”Ballot measures”が各州の投票法案の投票結果となります。一番左端では州を選びます。デフォルトでは”All states”となっているので、投票結果を見たい州を選ぶ必要があります。

    日本の住民投票とアメリカの投票法案の違い

    多くの記事はballot measuresを「住民投票」と訳しています。厳密には住民投票はreferendumではありますが、もちろん、間違えではないのです。しかし、日本の「住民投票」とアメリカのballot measuresでは意味合いが随分違います。そのため、このブログではあえて「住民投票」とは訳さず、「投票法案」と訳しています。

    日本の住民投票の場合、国レベル(この場合は国民投票)では憲法改正、自治体レベル(この場合は住民投票)では大阪都構想など、かなり大きな案件が多いです。生活に密着するここの案件ではなく、もっと幅が広いインパクトが大きな案件。国や自治体の根幹を変える案件が多い。そのため、日本で「住民投票」が行われる頻度はアメリカの「投票法案」と比べて低いです。

    アメリカの「投票法案」はもっと直接的に生活に関わる案件で、頻度も多い。このため、「住民投票」と訳してしまうと、そのコンテキストを誤解してしまう可能性があると危惧しました。

  • 書評|日本にいま必要なのは自己憐憫を止めて冷静に分析する勇気|”Upheaval” by Jared Diamond

    書評|日本にいま必要なのは自己憐憫を止めて冷静に分析する勇気|”Upheaval” by Jared Diamond


    文明の誕生をテーマにした『銃と鉄と病原菌』と文明の崩壊をテーマにした『文明崩壊』に続くジャレド・ダイアモンドの新著のテーマは「苦難」でした。人類の歴史をテーマにしたものはユヴァル・ノア・ハラリが『サピエンス全史』と『ホモデウス』で引き継いだ感じなので、別の方向性にピボットした感じでしょうか。

    Upheaval: How Nations Cope with Crisis and Change

    Upheaval: How Nations Cope with Crisis and Change

    危機と人類(上)

    危機と人類(下)

    今回の取り組みは個人の苦難に対する解決のフレームワークを国家の苦難に対する解決のフレームワークに当てはめたものです。これまでのような膨大な資料に基づいた科学的なアプローチとは異なり、個人的な経験に基づく分析であり、科学的なアプローチによる検証は今後の研究に委ねられるとしています。まあ、そういった意味では小休止的な位置付けなのでしょうか。

    取り上げられている国家はフィンランド、チリ、明治時代の日本、ドイツ、インドネシア、オーストラリア、現在の日本、現在のアメリカです。そう、日本だけ二回に分けて分析されています。本の表紙も浮世絵ですしね。現在の日本の状況を「苦難」と捉えることに違和感を覚える日本人は少ないでしょうから、海外の人からどうみられているのか興味がありますよね。

    フィンランドから日本が学べること

    一番面白かったのはフィンランドでした。フィンランドの事例から日本は学ぶ的ことが多い気がします。

    フィンランドはソ連・ロシアと地続きの北欧国です。地図を見てもらえばわかりますが、スウェーデンやノルウェーと違い、多くの国境がソ連・ロシアに面しています。このため地政学的にソ連・ロシアを無視できません。

    また、フィンランドはアメリカとドイツの市場がなければ経済的にスケールできません。労働者に高い給料を払うためには効率化するしかない。そのために学校教育に力を入れる。授業料は無料で、教師は高給で高いステータスを持ち、結果としてフィンランドの学力は世界でもトップレベルになりました。ニュージーランドの次に女性の政治家が多く、大統領も女性がなっている。警官も大学の学位が必要。エンジニアのの人口あたりの比率が世界一高い。R&Dへの投資は3.5%で他のEU諸国の倍です。

    小さな国であるにも関わらず、逆境を乗り越えてフィンランドは今の立場を築きました。そのために苦難の中から自らが置かれた立場を冷静に分析し、戦略を立てて実行してきた結果です昔はソビエト、今はロシアの国境にさらされ、侵略に対して徹底抗戦。その間、イギリス、フランス、アメリカからの支援はなく、第二次世界大戦(フィンランドにとっては冬戦争継続戦争)で多くの死者を出します。14歳の子供まで兵士として戦ったのだから、その死者の数は凄まじいものだったそうです。この本を読んでやったわかりましたが、ゲーム『戦場のヴァルキュリア』のモチーフはフィンランドでしょうね。

    ソビエト側にもアメリカや西ヨーロッパ側にもつかず、バランスをとるポジションを「フィンランド化」と揶揄されたりしました。しかし、フィンランドのような小国が生き残るには必要なバランスだったんですね。それで今の地位を確立できたのだから立派です。

    日本が前に進むためには、もう自己憐憫はやめよう

    フィンランドと比べて、日本は地政学的に恵まれています。フィンランドのように大国と地続きではないですし、イギリスと比べても大陸と5倍の距離があります。イギリスより土地が50%大きく、天然資源も豊富。人口もイギリスの2倍です。中国に抜かれましたが、それでも世界で三番目に大きな市場です。

    ジャレド・ダイアモンドによると明治日本と現代日本の最大の違いは冷静かつ、誠実な自己評価ができているかです。明治日本はフィンランドと同様に冷静な自己評価ができました。アメリカやヨーロッパ諸国との国力の差を理解して、海外から多く学びました。国力の差の結果、屈辱を感じながらも不平等条約を結び、近代化の努力で徐々に不平等条約を粘り強く解消していきました。

    それに比べて、第二次世界大戦に踏み込んだ日本は冷静な自己評価ができず、勝てない戦争に踏み込んでいきました。それまで、連戦連勝だったので、周りが見えずに自信過剰になっていたんでしょうね。まあ、色々と不満があって、頭に血が上り、我慢できなかったんですね。相手の挑発に見事乗ってしまった。ジャレド・ダイアモンドは当時の日本の指導者たちを”hothead”(向こう見ずで衝動的で無責任な人)とかなり辛辣に評価しています。当時の日本の指導者たちは明治時代の指導者のように海外で直接国力の差を見てきませんでした。

    勝てるはずのない戦争をして、当然のように負けてしまうのですが、そこで反省をしていないのが日本の現状だとジャレド・ダイアモンドは評しています。日本のメディアは終戦記念日に戦争の犠牲になった日本人を多く取り上げます。特に広島、長崎の原爆や東京大空襲。しかし、戦争で日本人の犠牲になった外国人については全く取り上げません。例えば、南京事件バターン死の行進サンダカン死の行進です。シンガポール人だったら誰でも知っている、シンガポールを侵略した日本の銀輪部隊について知っている日本人はほとんどいないのではないでしょうか。自転車でシンガポールに侵入して、ライフルで一般人をどんどん殺していきました。知らないでしょ?日本では教えませんものね。終戦記念日でも特集しないですものね。

    第二次世界大戦について日本人から聞こえてくる言葉は自己憐憫ばかり。これは、現在の「失われた20年」に関しても同じです。過去の栄光にとらわれ、失敗から学ばず、周りを冷静に見渡して評価できない。自分たちはなんてかわいそうなんだ!と嘆いてばかり……とジャレド・ダイヤモンドは言っています(ボクじゃないですよ!)。でも、まあ、ボクがこうやって海外情報を日本語で発信しているのも、「日本人はもっと海外のことを学ぼうよ」と思っているからですがね。

    この本を読む多くの日本人は「耳が痛い」を通り越して、「は?アメリカ人にそこまで言われたくない!」と拒否反応を起こすかもしれません。しかし、そこで考えてほしいのは明治の日本人だったら?フィンランド人だったら?と考えてみることです。プライドをなくせと言っているのではなく、冷静に現実を見つめて守るべき大切なものは守りつつ、変えるべきは周りの状況を見て変えましょうと言っているだけです。なんで外国は日本の捕鯨に批判的なんだ!日本だけ批判されてる!と嘆くのではなく、捕鯨は守るべきものなのか?と冷静に自ら問いかける必要があるでしょう。

    この本はどんな人にオススメか

    この本は日本に対する批判がかなり多いです。中には「おいおい、そこまで言わんでもいいだろ?」と思う部分もあります。たぶん、ジャレド・ダイヤモンドの周りにいる日本人は朝日新聞や毎日新聞や東京新聞や共同通信な人たちが多く、読売新聞や産経新聞な人たちは少ないんだろうと推測します。読売新聞や産経新聞な人たちが読むとかなり腹立たしい内容だと思います。山本一郎さんが海外にまできて「自分探し」を公言している連中が迷惑な件についてと記事を書きたくなる気持ちはわかります。

    ただ、この本に書いてあるように、冷静に自己分析しようよとは思います。ほんと、そうですよね。アメリカ人に言われたくないですよね。アメリカだってインディアンから不当に土地を奪ったし、ロクでもないことたくさんやってます。そう、確かにそうですよね。でも、冷静になりましょうよ。カッと頭にきても、頭を冷やしましょう。フィンランドや明治の日本のように。大国にそんなこと言ってもしょうがないんです。

    日本を卑下する必要は全くありません。素晴らしい面はたくさんありますし、中国に抜かれたと言ってもまだまだ世界で三番目に大きな市場です。しかし、課題はあるのだから、冷静に海外から学ぶ必要はあります。

    おそらく、びっくりすることもあるでしょう。銀輪部隊もそうですが、日本では教えられない日本のことを、外国の人は普通に知ってたりしますから。ボクだって海外に出るまでバターン死の行進とか知りませんでした。自分たちの実力を知り、足りない部分は謙虚に学びましょう。日本の職人スゲー!もいいのですが、海外にもスゲーはたくさんあるのですから。そういう姿勢を学ぶきっかけにはなるかなあ、この本も。

  • スタートアップの最後のフロンティア?|2018年建設関連コンストラクションテック

    スタートアップの最後のフロンティア?|2018年建設関連コンストラクションテック

    スタートアップでよく言われるのは地味な産業の地味な問題を解決しろです。競争相手が少ないのが一つ、本当に困っているからお金を払ってもらえるのが二つ目の理由です。以前に通っていた歯医者さんに「歯科向けのソフト開発しなよ、絶対売れるから」と言われていました。作らなかったけど、作ってたら売れたのかなあ。

    建設は地味だけど大きな市場で無駄がたくさんある産業の代表例です。アメリカでは600万人が建設業界に携わっていて、毎年1兆円規模のプロジェクトを行なっています。

     

     

    建設業界の課題

    建設業界は金融業界と並び、スタートアップにとってはロマンあふれる市場です。いや、本当ですよ。マッキンゼーによると2030年までに57億ドル(約6400兆円)のインフラ投資が必要になります。また、建設業界は非効率的な産業で納期の遅れと予算オーバーが常態化しています。デジタル化が遅れていて、「紙が一番の競合」と言われたりしています。世界の生産性の平均は35ドル/時間ですが、建設業界の平均は25ドル/時間です。これにより1兆6000万ドル(約180兆円!)の生産性のギャップが一年間で発生しています。

    じゃあ、具体的にどれくらいの資料の量なのかというと、平成29年度の国土交通白書によると、約14ヶ月の橋梁下部工事の場合、資料の厚みが3メートル以上(360cm)だったそうです。それを削減してもまだ1メートル以上(納品資料:53cm/提示資料:112cm)あるんだからすごいですね。それでもこれまで半分以上削減したのだから大したものです。

    国土交通省 i-Constructionの推進状況 2018年6月1日 第3回企画委員会 資料-1

    多くの資料や検査が必要なのは仕方がない部分があります。建物や道路など公共のインフラを作るのには安全が第一です。長く使うものですしね。しかも、設計、調達、施工、管理のそれぞれの段階で多くの関係企業や省庁がかかわってきます。プレーヤーが多いのです。

    建設業界デジタル化の潮流

    コンストラクションテックはAutodeskの主戦場です。設計はまずAutoCADですからね。そして、今は設計情報のデータベースとも言えるビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)の時代ですね。建設データのデジタル化が全体的なトレンドです。この分野で大きなシェアを持っているのはArchiCADとAutodeskのBIM 360です。

    しかし、当然ながら大手だけでどうにかなる市場ではないので、多くのスタートアップがシェアを求めて挑戦してきています。日本でも富士通とかNECとか日立とか大きなところが幅を利かせている市場ですが、スタートアップが寄り付かないのが海外との違いです、残念ながら。

    建設市場へのテックの挑戦

    建設市場は成長が見込まれる市場なので投資も集まっています。投資が集まるということはスタートアップも参入しますし、ユニコーン(10億ドル以上の資産評価される未公開企業)も生まれます。

    サービスとしての建設:Katerra

    ここ最近、大きな資金調達をして話題を集めているのがKaterraです。シリーズDでSoftBank Vision Fundから8億6500万ドルを調達しました。30億ドルの資産評価でユニコーンの仲間入りをしました。中国の自転車レンタルサービスのOfoがそれくらいの資産評価だったと思います。

    Katerraはソフトウェア会社というよりは建設業界に特化したサービスプロバイダーです。自社工場で部品を製造し、組み立てを行い、建設現場に資材を届け、施工まで行います。全てのプロセスを一社で行うのです。

    ソフトウェアを使いこなすには時間がかかりますし、プレーヤーが多いとなおのことです。だったら、自分たちでソフトウェアを使いこなして、全部やっちゃえ!というアプローチですね。建設業界でもモノからサービス、ソフトウェアからサービスへの移行が進む可能性がありますね。

    コンストラクションテックのパイオニア:Procore

    この市場の可能性に早くから気づいて、2002年に創業したのが建設に特化したプロジェクト管理のProcoreです。シリーズGまで進んでいて、10億ドルの資産評価を受けたユニコーンでもあります。CDNのCloudflareやアドテックのInMobiと同じくらいの資産評価ですね。

    BIMがデータの管理だとしたら、Procoreコラボレーションソフトですね。創業者でCEOのトゥーイ・コートマンチは自宅の建設中に設計チームとコミュニケーションをするのが大変だった経験から創業のアイデアを得たそうです。

    Procoreくらい存在感が出てくると、Autodeskとしても無視できないようで、色々とぶつかっているようです。一方でRhumbixには投資してるので、組めるところは組む、組めないところは徹底的に戦うということなんでしょう。

    Y Combinator卒業のエリート:PlanGrid

    コンストラクションテックに一番投資をしているのが何を隠そうY Combinatorです。そしてその卒業生の代表選手がPlanGridです。その名が示す通り、ブループリント(設計図)を共有するサービスです。ブループリントは変更が多いデータで、紙で全てをトラッキングするのは非常に困難でした。全部をやろうとせず、一番困っているニッチな部分を探すのって大事ですよね。

    PlanGridも2015年にシリーズBで5000万ドルの資金調達に成功しています。

    建設業界でのAR/AR活用:Scope AR/Yulio VR

    AR/VRって建設業界で活かせそうですよね。実際にそう考えるスタートアップは多くて、スタートアップがたくさん参入しています。主なユースケースはトレーニングとデザインです。

    Scope ARはARを使って現場のスタッフに適切な情報や指示を送ることができます。マイクロソフトのHoloLensを使っています。こちらもY Combinator卒業生。

    YulioはVRを使ったショールーミング。CADのデータを取り入れてVR環境を作ります。Webやアプリの開発ではInVisionのようなプロトタイプツールで開発前にどのようなUXなのかをデザイナーと開発者で共有することができますし、クライアントにプレゼンテーションもできます。Yulioはその3D版という感じですね。同様のサービスにIris VRもあります。

    建設業界での人工知能(AI)活用:Smartvid.io/Doxel

    BIMで建設データをデジタル化したら、それを分析したくなりますよね。そして、分析できるということは人工知能を使える場面も増えるということです。

    Smartvid.ioは建設業界に特化した画像解析のAIです。現場で撮影され、BIMに登録された写真や動画に自動的にタグ付けをして管理を容易にします。Adobe SenseiがストックフォトサービスのAdobe Stockでやっていることの建設特化版ですね。シリーズAで1000万ドルの資金調達に成功しています。

    Doxelも同様に建設業界に特化した画像解析AIですが、自律走行ロボットを活用して画像を収集するというところが新しいアプローチになっています。

    ただ、ドローンを使った画像解析サービスのAirware130億円を溶かして壮大に破綻したので、独自のハードウェアはちょっと注意が必要ですかね。どこまで汎用品を使い、どこまで専用のものを開発するかの見極めは大事です。

  • 人工知能で裁判できる?|2018年法律関連リーガルテック

    人工知能で裁判できる?|2018年法律関連リーガルテック

    法律関連は資料や書類が多くて大変なイメージがありますよね。すごく紙が多いイメージ。実際に多いんですけどね。そういう分野こそ本来ならテクノロジーが解決できる課題が多いはず。そう考えるう人はやはり多く、法律に関するスタートアップも少なくありません。老舗だとLegalZoomRocketLawyerが有名です。

    スタンフォード大学のCodeX Techindexでは法律関連のテクノロジーをカタログ化していて、2018年9月現在で1061のスタートアップが登録されています。今回はそんなリーガルテックで注目のスタートアップを集めてみました。

    人工知能で裁判できちゃったりするんでしょうか?

     

     

    リーガルテックの分類と特徴

    リーガルテックは大きくは以下の三つに分類することができます。

    業務のデジタル化:法律関連データのデジタル化

    プロセス改善:業務管理や文書管理など、既存の法務業務のプロセスを効率化する

    既存のサービスのオンライン化:既存の法務サービスをオンラインサービスへ置き換え

    そうはいっても、法律はとても大きな範囲で、スケールしにくい分野です。第一に、国によって法律が異なります。アメリカのリーガルテックが日本やヨーロッパに展開するのは相当難しいでしょう。

    次に、専門分野がたくさんあります。個人で必要になる法律と法人で必要となる法律も違います。慰謝料請求や離婚調停も法律関連ですし、セクハラで訴えるのだって法律関連です。民間の文書を公証人が認める公証もそうですね。

    最後に、業務範囲も広いです。例えば、ユーザーが法律の専門家を見つけるマーケットプレイスはB2BとB2Cで違います。弁護士だって業務管理や文書管理が必要ですよね。そういうわけで、様々なニッチ分野に様々なスタートアップが存在しているというのがリーガルテックの特徴でしょう。

    テクノロジースタートアップとしての法律事務所

    Atriumは法務文書をデータに変換して資金調達、契約書作成や株式分配といった法務プロセスを効率的にすることを掲げるスタートアップ。テクノロジー企業というより、テクノロジーを基盤とした法律事務所です。最近、a16zから6500万ドルの資金調達をして話題になりました。

    Y Combinatorの卒業生なんですが、法律事務所もY Combinatorに選ばれるんですね。確かに、テックカンパニーだけがスタートアップじゃないですからね。

    注目されるe-Discovery

    e-Discoveryは裁判や捜査に必要な電子情報を発見、収集してドキュメントとしてまとめる仕組みです。電子情報は電子メールや文書ファイル、データベースにボイスメールなど多岐に渡ります。また、タイムスタンプなどのメタデータも扱います。これらを人の手で管理するのは非常に大変なのは想像に難しくないですよね。

    収取されたデータはデータベースに格納されます。証拠として扱うので、改変ができないようにしないといけません。そして、弁護士やパラリーガルがレビューできる状態にします。ドキュメントの量は膨大になるので、CAR / TAR (Computer Assisted Review / Technology Assisted Review) のようなレビューを支援する仕組みがあります。

    このe-Discoveryは年間で70から100億円の市場と言われていて、関連スタートアップに投資が集まっています。代表的なe-DiscoveryのスタートアップはCS Disco2000万ドルをシリーズDで調達)、Everlaw2500万ドルをシリーズBで調達)、Logikcull2500万ドルをシリーズBで調達)が今年に入って大きな資金調達をしました。

    法律分野での人工知能活用

    AIも法律での活用が期待されている技術です。将来的には裁判もAIでできてしまうのではないかと言われたりしますよね。しかし、法律分野でのAIの利用はまだはじまったばかりです。

    リーガルリサーチ

    法律分野でのAIの活用で有名なのは最近(2017年10月)にシリーズAで870万ドルを調達したROSSでしょうね。分野としては現在取り掛かっている裁判に近い判例を探すリーガルサーチですが、この分野はLexisNexisThomson Reutersが既存の主なプレーヤーです。自然言語解析にAIを使うことで判例を探すスピードを早くするそうです。結果的に法律のサービスのコストを下げることになり、これまで弁護士を雇うことができなかった層の人たちにも法律サービスが提供できるようになるというのがビジョンだそうです。IBMワトソンを使っているからか、TEDのIBM枠でプレゼンしています。

    ドキュメント管理

    Kiraは契約書のデータを収集して分析してレポートを出すツールです。創業者のノア・ワイスバーグは元々M&Aに携わっていた弁護士で、AIを使うことでまだ慣れていない弁護士がデューデリジェンスで間違いを犯すことを防げると考えているそうです。ドイツのLevertonも文書をAIを使って構造化データに変換するサービスです。e-Discoveryの延長線上としてのAIなんですかね。

    リーガルアシスタント

    ユーザーに直接的に法律サービスを提供するAIも出はじめています。簡単に言えば法律サービスを提供するチャットボットです。AIはチャットボットによく使われていますからね。

    DoNotPayはAIを使った法律サービスの代表例です。駐車違反の異議申し立てを手伝ってくれたり、予約した旅行料金より安いサービスを見つけた時の返金申請を手伝ってくれたりします。こちらは機械学習というよりはルールベースっぽいですね。

    Lee & Alleyもチャットを使ったリーガルアシスタントで、こちらは自然言語で応対してくれるようです。まだサービスははじまってないので、実際どこまでAIなのかはわからないですが。

  • ネットイース(网易)から学ぶ、我が道を行きながら事業ポートフォリオを増やす方法

    ネットイース(网易)から学ぶ、我が道を行きながら事業ポートフォリオを増やす方法

    中国のネットイース(NetEase|网易)といえばゲーム会社のイメージが強いかもしれません。陰陽師Rules of Survival荒野行動が人気ですね。実際に中国のゲーム売上ではテンセント(Tencent|腾讯)に次いで第二位、世界のモバイルゲームパブリッシャーとしてもテンセントについで第二位です。っていうか、テンセント強すぎですね。PUBG Mobileも調子いいですし。

    ネットイースは中国のプラットフォーマーである(BAT|バイドゥアリババテンセント)には及ばないですし、それを追いかける若いユニコーンたち(メイトゥアントウティアオJD.comなど)と比べると目立った存在ではないかもしれません。

    テンセントがゲームを収益の柱としつつ、ペイメントやソーシャルに事業ポートフォリオを伸ばしているのと同様に、ネットイースも音楽やコマースといったゲーム以外の事業ポートフォリオで成功を収めつつあります。ユニークなのはその事業の方向性です。

     

     

    ネットイースの特徴

    中国のBATはそれぞれに事業の特徴があり、長期的なビジョンやそこへ進む道も明確です。ネットイースは他の中国企業と比べて表面的には一貫性がありません。養豚事業のウェイヤン(网易味央)とか象徴的ですよね。なんでゲーム会社が養豚?

    でも、これら表面的には一貫性のない多角化がうまくいっているのが面白いところです。音楽ストリーミング(网易云音乐)も越境コマースのカオラ(考拉)も順調です。

    ネットイースの主要事業(2017年度のAnnual Reportより)

    • ゲーム:言わずもがなのネットイース の主力事業で67%の売り上げを占めるます。2015年度には76%だったので、相対的に他の事業(Eコマース)が順調に伸びていることがわかります。
    • Eコマース:ネットイースの2本目の柱となることが期待されている事業。越境コマースのカオラ(考拉)とプライベートブランドを展開するB2Cコマースのヤンシュアン(严选)が軸。2015年度は5.1%でしたが、2017年度は21.6%にまで成長しています。
    • インターネットメディア:元々のメイン事業だったポータルサイト(www.163.com)を中心としたコンテンツとコミュニケーションのビジネス。広告収入がメイン。2017年度の売り上げは全体の4.5%なのであまり大きくないですね。
    • その他、Eメールなど:ネットイースは中国の無料eメールの先駆けで、ボクの中国人の友人はほぼ163のメールアドレスを持っていました。その他、音楽ストリーミング(网易云音乐)やチャットのようなインキュベーション的な事業は全て一括りにされています。養豚事業も恐らくこの分類かと。こちらも6.9%とまだ大きくありません。

    網易(ネットイース)、第2四半期営業収入は約2730億円:ゲーム復調、純利益減少に歯止め | 36Kr Japan

    ネットイース創業前

    ネットイースの創業者はウィリアム・ディン(丁磊)です。ネットイース創業前のウィリアムのキャリアは順風満帆とはいえませんでした。大学卒業後に上海市近くのニンボー市(宁波)の電信局に1993年に就職しますが、しばらくして退職します。そして広州に移りデータベース企業のSybaseで働きはじめますが、これも一年しか続きませんでした。さらに、広州のISPに転職してFirebird BBSを使ったフォーラムを立ち上げますが、この会社もすぐに辞めてしまいます。

    ネットイース創業と163の意味

    大学を卒業してからどこも長く続きませんでした。そこでウィリアムは起業することにします。何かアイデアがあったわけではなく、ソフトウェアを作ってシステム開発すればいいだろうと考えていたそうです。50万人民元(いまの日本円で800万円くらい)の資本金の一部は自己資金で、あとは友達に借りたそうです。とにかく自分のやりたいことをやりたかった。これがネットイースの原点なんですね。1997年のことでした。大学を卒業して4年ですね。テンセント(1998年)やアリババ、バイドゥ(1999年)より早かったんですね。

    中国ではドメイン名に数字が使われることが多いです。例えば中国電信の場合は10086.cnですが、これは中国電信のカスタマーサービスの電話番号が由来です。ネットイースの場合は163.comですが、これはインターネットに接続するときにダイアルアップ接続していた頃の名残です。中国ではインターネットに接続するときにダイアルする番号が163でした。

    ネットイースの初期のビジネスはポータルと無料電子メールによる広告モデルでした。

    IPOと業績不振とゲームビジネス参入

    ネットイースは2000年6月にNASDAQに一株$15.50で上場します。創業からたった三年です。すごいですね。しかし、ポータル事業を中心とした広告収入は伸び悩んでいました。その上で経営陣の不正の疑いや香港の企業の買収取りやめなどが重なり、株価が急落します。最低の時は$0.64で、価値は120億ドルから3億ドルまで下がりました。このために一時的にNASDAQでの取引を停止します。ウィリアムは30歳でした。すごいジェットコースターですね。

    そこでウィリアムスが決断したのがゲーム業界への参入でした。ポータルからのトラフィックをゲームにつなげるという理屈はわからないでもないですが、Webの開発とゲームの開発は全然違うので、すごいピボットだなと思います。

    そしてリリースしたのが『夢幻西遊』というWindowsプラットフォーム向けのMMORPGで、これが大ヒットします。ゲーム会社としてのネットイースの原点がここです。このピボットが成功してネットイースの株価は再び上昇します。なんとなく日本人のボクたちにはミクシーを想起させますね。

    ウィリアム・ディンのやりたいこと

    スタートアップは創業者のビジョンを具現化したものです。ウィリアム・ディンの場合は「自分のやりたいことをやりたい」が初期衝動でした。ビジョンというよりは初期衝動がネットイース を突き動かしているんじゃないかという気がします。

    ネットイースは創業がアリババやテンセントより早いにもかかわらず、バイドゥーの半分の資産価値なのはマーケットに動かされているというより、「自分のやりたいことをやりたい」が優先しているからなのではないかなと。ウィリアム・ディンはテンセントのポニー・マーやアレン・ジャンに輪をかけてメディアシャイでなかなか公の場に現れないので想像でしかないですが。

    BATにネットイースが加わってBANT(Baidu/Alibaba/NetEase/Tencent)になれればいいけど、それがゴールじゃない。そうじゃなければ養豚ビジネスに参入なんてしないでしょう。ボクはそんなネットイース が嫌いじゃないです。

    参考文献

    网易老总丁磊的创业故事-成功创业网

    Tencent unseats NetEase in battle for global mobile app leadership | South China Morning Post

    Sky Is Limit For NetEase’s Pig Farm Business

    Chinese Number Websites: The Secret Meaning of URLs | The New Republic

    Lost 3 billion to earn 110 billion, 32 year old became the richest man Chinese – china news

     

  • イギリス政府がはじめたボイスに優しいコンテンツ戦略

    イギリス政府がはじめたボイスに優しいコンテンツ戦略

    原文:”Hey GOV.UK, what are you doing about voice?” by Sam Dub and Mark Hurrell

    ここ数年で多くの人がAlexa、SiriやGoogleアシスタントのようなボイスアシスタントを家庭に取り入れ、スマートフォンで活用するようになりました。

    最も人気のある活用方法は質問をすることです。そして、その質問に政府が答えることを期待しています。そこで、GDSでは小さなチームを作り、GOV.UKにおいてどのようにその期待に応えられるかを研究しました。

    なぜGOV.UKにとってボイスが重要なのか

    スマートスピーカーはイギリスで急速に普及しています。 8%の成人が所有し、2018は3%増えました。2016年にGoogleは20%のAndroidデバイスからの検索はボイスによる検索だと発表しました

    ボイスプラットフォーム自体はユーザーの質問に関する情報を共有していません。しかし、AmazonやGoogleのチームとの議論から、ユーザーがボイスインターフェースを通して質問する内容は政府が最も信頼たり得るソースだということを理解しました。

    ボイスインターフェースは情報アクセスのためにDragon Naturally Speakingのようなソフトウェアを使っている人たちにとっては新しいものではありません。しかし、 アクセシビリティのコミュニティーは現在のボイスインターフェースの盛り上がりに大きな期待を持っています。ボイスインターフェースの劇的にシンプルなインターフェースはコンピューターやスマートフォンを使いにくいと感じている多くの人たちの助けになる可能性があります。

    GOV.UKにとってボイスインターフェースは政府によりアクセスしやすくしてユーザーの高まる期待に応える機会となります。

    ボイスの大規模利用への挑戦

    政府としてはボイスサービスに関して一貫した方法を取る必要があります。

    最近の GDS Innovation Survey によると、多くの地方行政、政府機関や省庁がすでにボイスを使ってサービスや情報を提供できるか可能性を探っています。

    GOV.UKのアプローチはデザイン原則 に沿って以下の点を考慮に入れる必要があります。

    • クロスプラットフォーム
    • クロスガバメント
    • 一貫性
    • 拡張性

    私たちのチームはボイスアシスタントのためのアプリを開発してみました。私たちは一つのアプリで全ての主なボイスアシスタントをサポートできるか試してみました。

    「答え」からはじめる

    私たちはまず、それぞれのボイスサービスがどのようにユーザーに答えを提供するのかを調べました。

    私たちは三つのソースがあることを理解しました。

    • 検索エンジン:Webを検索して適切なリンクとボイスとして提供できるコンテンツ部分を見つける
    • ナレッジエンジン: データと計算を使い、事実に基づく回答が必要な質問に対する答えを提供する
    • アプリケーション: known as skills on AlexaやCortanaではスキルと呼ばれているもの。多くのボイスプラットフォームは独自のアプリストアを持つ

    以下が人気のある主なボイスアシスタントがそれぞれ何を使っているかをまとめたものです。

      検索エンジン アプリケーション ナレッジエンジン
    Siri
    Apple
    Google iOS & SiriKit Wolfram Alpha
    & Siri Knowledge
    Assistant
    Google
    Google Google actions KnowledgeGraph
    & Wikidata
    Alexa
    Amazon
    Bing Alexa skills Evi & Alexa
    Knowledge
    Cortana
    Microsoft
    Bing Cortana skills Bing Satori

    この調査により、検索エンジンとナレッジエンジンにとってGOV.UKがデータソースそして取り込みやすいようにすることで、多くの質問に答えることができることがわかりました。

    GOV.UKを検索エンジンにもっとわかりやすくする

    GOV.UKではオープンなWebによく練られたコンテンツデザインを適用しているため、既存のガイドラインですでに多くのコンテンツがボイスプラットフォームにとって答えを引き出しやすいようになっています。

    検索エンジンは私たちのコンテンツをクロールして機械学習でボイスとして適切な答えを摘出します。私たちが作成したGoogleアシスタントのデモで体験することができます。

    しかし、もっと改善することができることもわかりました。schema.orgの構造化データ標準を活用することで、検索エンジンにさらに多くのコンテクストを提供して私たちのコンテンツをよりよく理解する助けをすることができます。

    この四半期は以下の三つを実装しました。

    私たちのコンテンツ戦略を考える上で、もっと多くの示唆を得ることができました。私たちはすでにコンテンツを既にコンテンツをわかりやすく、自然な言葉で簡潔に作成しています。しかし、会話形式で提供するにはさらに必要なことがあります。例えば、Amazonは一息で答えを提供できるように推奨しています。

    これを踏まえ、私たちは以下を実行する予定です。

    • オープンなパブリッシングをさらに進める。ガイダンスがサービスに隠れないようにする。
    • 構造化データの利用を改善し、検索エンジンにとってさらにわかりやすくする
    • さらに簡潔な答えをガイダンスに取り入れる

    GOV.UKをナレッジエンジンに取り込む

    検索エンジンはWebをスキャンして答えを探しますが、ナレッジエンジンはデータベースから事実を探します。

    私たちはユーザーがボイスアシスタントを活用することを助けるには政府が提供する標準的なデータをナレッジエンジンが取り込みやすい形にすることが最も効果的だと考えます。

    私たちはAPIを通じてGOV.UKのデータを最も簡単に標準に基づいて提供できる方法を主なナレッジエンジンのプロバイダーと話し合っています。

    既にGOV.UKのコンテンツAPIは存在しますが、ナレッジエンジンが必要な詳細の構造がまだ不足しています。数週間前に小規模な新しいAPIを試験的に作り、限定的にさらに構造化かされたデータの提供を開始しました。

    結果はわかり次第またお知らせします。

    ボイスアプリとスキルの現在の制限

    私たちは答えを提供することにフォーカスしています。まだボイスを活用した公共サービスの活用まで踏み込んでいません。例えば、例えば給付金の請求や運転免許取得試験の予約などです。これは現在のボイスインターフェースではこれらを提供することができないからです。

    • プライバシー:多くのボイスサービスは会話の履歴を保存しています
    • 個人認証:多くの公共サービスは高いレベルの個人認証が必要となります
    • 個人情報:住所の入力も躊躇されます。

    公共サービスで利用するには多くの障害があります。しかし、私たちはボイスの環境に注目し続けます。将来的に標準的なクロスプラットフォームが実現され、多くの機能が改善されることを期待します。

    将来の展望

    もしボイスの可能性を知りたいのであれば、AndoroidかiPhoneのスマホを使って以下の質問をGoogleアシスタントに問いかけてみてください。

    • 新しいパスポートを取得するのにどれくらいの時間がかかりますか?(How long does it take to get a new passport?)
    • 運転免許試験にはいくらかかりますか?(How much does a driving test cost?)
    • 育児手当はいつ支払われますか?(When will I get child benefit paid?)

    Sam Dubは is a product manager on GOV.UKのプロダクトマネージャー、Mark HurrellはGDSにおけるHead of Graphic Designです。

    訳者解説

    GOV.UKだけでなく、欧米の優れた組織はユーザー中心の考え方が大前提としてあり、それを実現するための原理原則を明確にして明文化しています。GOV.UKの場合はデザイン原則がその一つになります。優れた組織において原理原則は世間に見せるためだけのカッコつけたビジョンやミッションとは違い、本当の行動原則となります。ボイスのような新しい技術が出てきても、その原理原則に照らし合わせて適応します。ボイスが原理原則に合わないのであれば、使わない。

    それは頑なであることとは違います。ガイドラインレベルではそれが適切だと考えれば技術に合わせます。それはデータのさらなる構造化やより簡潔な文章の心掛けなどに現れます。新しい技術に対する取り組みのお手本のような事例であり、ブログ記事ですね。素晴らしい。

  • はじめての中国Fintech:暗号化通貨とブロックチェーン【金盤】

    はじめての中国Fintech:暗号化通貨とブロックチェーン【金盤】

    はじめての中国Fintechはモバイルペイメント編【赤盤】モバイルバンキング編【青盤】の二回にわたってお届けしました。しかし、全くブロックチェーンやビットコインなど暗号化通貨に触れていないのに違和感を持った方もいるのではないでしょうか。ビットコインなど中国で盛んにマイニングが行われていて、中国のプレーヤーはビットコインをはじめとした多くの暗号化通貨に影響力を持っています。それなのになぜ?

    今回は中国に限らずFintechと暗号化通貨の関係をなるべくわかりやすく解説していきたいと思います。

    人民元とビットコインの違い(管理マニアと完全自由主義者)

    モバイルペイメント編【赤盤】モバイルバンキング編【青盤】で紹介した中国のFintechは中国の法定通貨である人民元を基本としています。法定通貨は中央銀行から発行され、中央管理されています。既存の中国Fintechはこの法定通貨である人民元が前提となっています。

    ビットコインに代表されるブロックチェーンを基盤とした暗号化通貨は中央銀行によって中央集権的に管理されていません。分散管理が基本です。ブロックチェーンとサイファーパンクの特集でも見てきたように、暗号化通貨の本質は完全自由主義者です。政府の干渉は必要ないと考える人たちによって作られました。管理マニアの中国政府と折り合いが悪いですよね。

    中国政府にとっての人民元の重要性

    中国の人民元は長い間固定レートでした。通貨制度改革によって変動性に変わったのは2005年のことです。それでも完全な市場による変動ではなく通貨バスケットというブラックボックスを使った管理相場制なんですけどね。中国は管理が好きなんです。

    一方で世界的に通用する通貨があります。米ドル、欧ユーロ、日本円などが国際決済通貨として広く認識されています。中国としては人民元でそこに割って入りたい。何と言っても世界で2番目に大きな経済の法定通貨です。人民元を国際化したい。でも、世界的には市場ではなく中国政府によって管理されている人民元を基軸通貨にするのはなかなか抵抗があります。

    そこで、特別引出権(SDR)というIMFの通貨バスケット(米ドル、欧ユーロ、英ポンド、日本円)に人民元を入れるよう働きかけます。それが功を奏して2016年からSDRの通貨バスケットに中国の人民元が加わりました。

    中国政府としては人民元の国際化に頑張ってきたわけです。そんな流れの中で「政府に干渉されない自由なビットコインを中国で普及しよう!」と頑張ったところで中国政府としてそんなこと許せるわけがありません。

    これは中国に限ったことではありません。中国以外の国でも法定通貨と暗号化通貨の兼ね合いは大きな課題です。例えば、エストニアはICOプラットフォームのために「エストコイン」の発行を検討していますが、EUの法定通貨であるユーロとの兼ね合いを慎重に検討しなければいけません。エストニアはEUのメンバーなので法定通貨のユーロとどのように整合性を持たせるかが重要となるのです。

    スウェーデンはEUの参加国ではなく、独自の法定通貨であるクローナを持っています。スウェーデンでもデジタル通貨「eクローナ」の発行を検討していますが、「eクローナ」はブロックチェーンベースの暗号化通貨ではないことが中央銀行からすでに示唆されています。可能性を全く否定しているわけではありませんが、検討しているデジタル通貨はブロックチェーンを基盤とした分散管理のものではありません。

    中国の金融政策における優先事項

    中国政府にとっての最優先は人民元の国際化と人民元による金融システムの安定化です。2018年7月現在で40兆ドルある不良債権問題を解決しなければいけません。また、国際的には中国国内の金融市場の自由化の圧力にどう対応するのかという問題があります。

    そんな中国政府から見た場合、ビットコインに代表されるブロックチェーンを基盤とした暗号化通貨はパラレルワールドのようなものです。政府としては法定通貨の世界が自分たちの世界、ビットコインはそれと並行して存在する全く別の世界。資金がこの二つの間を自由に行き来できたら管理できない。人民元の世界で規制しても、ビットコインの世界に逃げられてしまう。ただでさえ微妙な対応が必要なのに、暗号化通貨は中国政府にとっては不確定要素でしかありません。

    実際に中国政府はビットコインをはじめとする暗号化通貨の取引を禁止しました。ビットコインをAlipay(支付宝)から購入できるサービスに好比特币がありましたが、現在は停止しています。さらに今年からマイニングも規制されました。

    BINANCEなど香港/マカオに本社におく暗号化通貨取引所はまだ規制の対象となっていませんが、これもいつまで続くかわかりません。

    モバイルペイメント編【赤盤】モバイルバンキング編【青盤】でビットコインなど暗号化通貨の金融サービスには触れず、人民元をベースとした金融サービスを紹介してきたのはこのような背景があるからです。

    それでもブロックチェーンは中国で発展する

    ただ、ブロックチェーンという技術とビットコインなどの暗号化通貨というプロダクトを同じに考えてはいけません。ブロックチェーンという技術のアプリケーションの一つが暗号化通貨です。中国政府は現時点において暗号化通貨を締め出す動きを見せていますが、ブロックチェーンは推進しています。ブロックチェーンは技術で、それを応用したプロダクトの一つが暗号化通貨だからです。中国政府は目的と手段を見誤っていないですね。

    参考文献

    人民元 – Wikipedia

    国際通貨 – Wikipedia

    淘宝宣布全面封杀虚拟币,比特币要彻底完蛋?

    China’s Central Bank Faces Policy Bind Over Debt, Growth Goals – Bloomber

     

  • 書評|インターネットとサブカルとオルタナ右翼|”Kill All Normies” by Angela Nagle

    書評|インターネットとサブカルとオルタナ右翼|”Kill All Normies” by Angela Nagle

    アンジェラ・ネーグルの”Kill All Normies”はオルタナティブ(特にオルタナ右翼)について書いた本です。最近のアメリカやヨーロッパのオルタナ文化を理解するのにいい本でした。ちなみにタイトルにもなっているノーミーはノーマルピープル(メインストリームの人)のこと。

    トランプ政権が出てきた背景としてのオルタナ右翼とか、それを培ってきたチャン文化(”2ちゃんねる”にインスパイアされた4chan8chan)とか。

    Kill All Normies: Online Culture Wars from 4chan and Tumblr to Trump and the Alt-right

    Kill All Normies: Online Culture Wars from 4chan and Tumblr to Trump and the Alt-right

    インターネットで世界はつながった?

    インターネットで世界は繋がりやすくなったとはいえ、ほかの文化はそう簡単に理解できるものでもありません。例えば、日本に住んで日本語を話すボクたちにとって、アラブの春ウォール街を占拠せよアノニマスウィキリークスなど名前は聞いたことあるものの、その歴史的な重要性や背景などちゃんと理解している人はそう多くないでしょう。あまり日本に関係ないですものね。

    なんでそう思う?だって、自分と直接関係ない事に興味はわかないですよね。日本の中だって理解できないじゃないですか。在特会しばき隊はお互い理解できないですよね。その枠の外にいるボクは両方ともよく理解できないし、さらにその外枠にいる外国人はなおさら理解できないと思います。インターネットはコミュニケーションの距離を縮めましたが、理解の距離は遠いままです。

    なぜインターネットは異なる文化の理解につながらないのか?

    インターネットは自分の考えることを自由に発信できるツールです。そして、興味のあることを探すことができるツールです。たくさん情報がある中で、興味があることを取捨選択できます。つまり、考え方や文化の拡声器みたいなものです。

    同じ考えや文化的な思考の人同士をつなぎ合わせますが、異なる考えや文化はつながりにくい。

    この本では一般の人たちはノーミー(ノーマルピープル)としています。ノーミー vs オルタナ右翼という構図ですね。でも、実際はノーマルピープルなんていないですよね。日本のメディアで「大衆」とか「庶民」と言いますが、「大衆」や「庶民」ってなんでしょうかね?これはボク個人の意見ですが、それぞれ異なる趣味嗜好があります。インターネットはその中で小さな村を作るのに適しています。オルタナティブという無数の小さな村の集まりがノーミーという大きな国になってるんだと思います。

    日本と欧米の文化の共通点

    荒らしと晒し

    もちろん、日本と欧米でも共通点はあるし、理解できる部分も多いです。例えば、欧米で匿名掲示板で有名な4chanや8chanはその名前が示す通り、日本の2ちゃんねるから着想を得ています。日本の2ちゃんねるが問題になるようなことは、4chanや8chanでもそのまま起きます。

    例えば、特定の人をターゲットにして攻撃する「荒らし(Troll)」や名前や住所を公開する「晒し(dox)」は4chanや8chanでもあります。この本で紹介されている事例としてシンシナティ動物園で起きたゴリラのハランベの事件や11歳の少女とその家族を破壊したJessi Slaughter祭りが紹介されています。

    アノニマスとは? パート1: アノニマスの誕生と歴史 – IRC, 4chan, 祭り-e-StoryPost

    欧米で彼女が見つからないのを女性のせいにする男性を「インセル」というのだそうですが、これも日本と同じですね。彼女ができない人を日本では非モテと言いますが、それに近いものがあります。

    荒らしや晒し、祭りはその人たちにとっては「正義」なのでしょうが、簡単にできることでスラックティビズムの一種として批判されます。これも日本と同じですね。

    保守とリベラル

    保守とリベラルがあるのは欧米でも同じです。マイロ・ヤノプルスや「ダーク・エンライトメント(闇の啓蒙)」のニック・ランドなどがオルタナ右翼側の人として紹介されています。ただ、個人的には保守=右翼/リベラル=左翼というのは違うと思ってます。その辺はあまりごっちゃにしないほうがいいかなと。保守の人が必ずしも白人至上主義でゲイが嫌いで排他的とは限りませんからね。

    メディアが保守とリベラルに分かれるのも一緒ですね。新しいメディアではBuzzfeedViceはリベラルなんだそうです。そして、BreitbartThe Rebel Mediaが保守(というよりこれは右翼的かなあ)だそうです。

    日本と欧米の文化の違い

    ミームとAA

    2ちゃんねるはテキスト文化ですが4chanやTumblrは画像文化です。その文化的な違いによって、表現方法が変わってきます。2ちゃんねるで発展したのはAA(アスキーアート)ですよね。絵文字もテキストです。モナーとかやる夫などキャラクターも生まれました。

    欧米の場合は画像文化なのでイラストやPhotoshopでの画像加工が主な表現方法となります。そこで生まれたのがミームです。Lolcatカエルのぺぺなどが有名なキャラクター(以下のGiphyのイメージのカエルが「カエルのぺぺ」)です。

     

    出る杭に対する考え方

    日本は「出る杭は打つ」ですよね。欧米もそういう面はあります。個人主義だけでなくチームプレーも求められます。ゴールを達成するためにはチームプレーも必要ですからね。しかし、ゴールを達成するにはルールを壊す必要もあります。ディスラプト(Disrupt)は「破壊」を意味する単語ですが、スタートアップではポジティブな意味に使われますよね。

    トランスグレッション(Transgression)も違反を意味する単語ですが、ポジティブな意味でも使われます。既存のルールの境界線を超えて新しいことを試してみることも大切だと欧米の人たちは考えるのですね。音楽でいえばパンクは代表的なトランスグレッションですね。誰かがルールを破らないといけない。これはマナーを大事にして「和をもって尊しとなす」日本人にはなかなか馴染めない考え方だと思います。

    トランスグレッションはいいことばかりではなく、この本ではオルタナ右翼がトランスグレッションとして描かれています。その前のオバマ政権はリベラルだったわけなので、激しい揺り戻しがきたということでしょう。保守とリベラルがトランスグレッションを繰り返しながら発展してきたのが欧米ですね。日本は戦後は基本的にずっとリベラルです。

    どんな人にオススメか

    欧米の文化的なトレンドを理解したい人にはオススメです。アンジェラ・ネーグルはフェミニストでリベラルなので、そのような視点で描かれています。その点については理解しながら読んだ方がいいかなと思います。

    もちろん、欧米のフェミニズムやリベラルに興味がある人にはオススメです。

  • 書評|トランプ時代に崩れ落ちる民主主義|The Death of Truth by Michiko Kakutani【2018年夏休み読書週間】

    書評|トランプ時代に崩れ落ちる民主主義|The Death of Truth by Michiko Kakutani【2018年夏休み読書週間】

    ハンナ・アーレントの1951年の著作『全体主義の起源』によれば、全体主義にとって都合のいいのはナチスや共産党の信者ではなく、事実と作り話の差がわからない人だそうです。そして、それから70年近く経った現在、フェイクニュースやケンブリッジアナリティカが活躍する世界でそのような状態がまた生まれつつあるというのがミチコ・カクタニの書籍”The Death of Truth“の主題です。

    The Death of Truth

    The Death of Truth

     
    ハンナ・アーレント『全体主義の起原』 2017年9月 (100分 de 名著)

    ハンナ・アーレント『全体主義の起原』 2017年9月 (100分 de 名著)

     

     

     

    著者のミチコ・カクタニはピューリッツァー賞の批評家部門で受賞経験もあるニューヨークタイムスでも活躍する文芸評論家です。この本で描かれているのは民主主義の危機です。以前に紹介したジェイミー・バーレットの”People v. Tech”はプラットフォーマーなど技術が民主主義を危機に陥れているという趣旨の本でしたが、ミチコ・カクタニは歴史の揺り返しとして捉えられている(気がします)。そのサインがドナルド・トランプが大統領になったこと。ここはジェイミー・バーレットと同じですね。

    民主主義の基盤としての事実の衰退(Truth Decay)

    事実は民主主義の基盤です。事実に基づいて議論をすることが前提となっている。しかし、この事実が衰退しているというのがこの書籍の主張です。例えばフェイクニュース。それだけでなく、フェイクサイエンスやフェイクヒストリーまで。ハンス・ロスリングの”Factfullness”も世界を事実に基づいて認識するための方法を提示していましたね。人間は「事実」よりも「自分にとっての事実=意見」を信じてしまうものなのです。そして、自分の意見を事実と混同してしまう。

    ランド研究所は「アメリカ合衆国の公益と安全のために、科学、教育、慈善の促進を目的として」設立された非営利組織です。ランド研究所は事実の衰退(Truth Decay)について以下のように定義しています。

    • 「事実」と「事実とデータに基づく分析的な解釈」の隔離
    • 「意見」と「事実」の境界線の曖昧化
    • 「事実」よりも「意見」や「個人的な体験」の影響の増大
    • 「事実」のソースへの信頼の低下

    論理的思考の衰退(Fall of Reason)

    「事実」と同時に「論理」も衰退しています。科学的なアプローチは「仮説」があり、「事実」に基づいて仮説を検証し、それを「理由(=論拠)」として「結論」を導き出します。

    しかし、現在の政治で行われているのは政府がまず「結論」を決め、その「結論」をサポートするために「理由」を考え、「事実」を探します。つまり、科学的なアプローチと逆のことが行われています。政治家が何か問題発言をしても、それは「解釈の問題」とされます。日本でも「誤解を与える表現だった」とよく政治家の方達は言いますよね。アメリカでも同じです。また、「事実」よりも「感情」を優先します。政治家としては選挙民の「感情」が「事実」より大事な場面が多いのです。

    メディアや情報の増加は多くのバージョンの事実が存在して、人によってそれは変わるという考えを生み出しました。そして、事実は代替可能で変質するものとなりました。例えば、どれだけ専門家がデータで証明しても、地球の温暖化を信じない人たちがいます。歴史も多くの場合はそれを書く人たちにとって都合がいいように書かれています。しかし、それでもどこかに事実はあって、その事実は科学的に発見できると考えています。

    日本はどうなのか?

    日本でも右翼と左翼の議論が「事実」ではなく「自分にとっての事実=意見」を前提にネット上で空中戦をしていますよね。共有された「事実」を元に議論して解決するのが民主主義なのですが、そもそも共有された「事実」について合意できていません。事実より感情が上回っています。

    もちろん、陰謀説もたくさんあります。ネットには陰謀説が溢れています。そういう意味では事実の衰退(Truth Decay)は日本でも起きていますよね。

    一方で、チェックアンドバランスも機能している部分もあります。(もっと議論すべき大事なことはあるだろうとは思いつつ)モリカケ問題で政府の隠蔽体質が明るみに出ました。日大もこれまでスキャンダルをのらりくらり風化させてきた歴史がありますが、アメフト問題ではその責任の所在を明らかにしようとする力が働いています。フェイクニュースを拡散していたDeNAのキューレーションメディアも閉鎖に追い込まれました。これはこれで日本では事実を知ろうとする力がまだ働いている健全なサインではないかと思います。

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  • はじめての中国Fintech:オンラインバンキング編【青盤】

    はじめての中国Fintech:オンラインバンキング編【青盤】

    前回はモバイルペイメントに注目して中国のFintechを紹介しましたが【赤盤】、今回は銀行を中心に中国のFintechを紹介します【青盤】。シャドーバンキングのような複雑な問題はボクの手には負えないのですが、なるべく網羅的にわかりやすく解説します。

     

    中国のFintech

    中国では2013年からFintechに対する投資が増え続けましたが、中国の中央銀行である中国人民銀行が規制を強める発表を行い2017年には投資が大きく減少しました。それでもアメリカ、イギリスに次いで3番目にFintechに対して投資が行われた市場です。規制に左右されることが多くリスクもありますが、中国での金融サービスの市場は大きいためにスタートアップなどイノベーションも活発です。

    中国のFintech投資の伸び(ソース:Fintech Global)

    以下は調査会社のiResearchのデータをもとにコンサルティング会社のマッキンゼーがまとめたチャートですが、中国におけるFintech市場の90%近くは前回【赤盤】で紹介したペイメントが占めています *1。今回【青盤】で紹介するのはそれ以外のFintech分野となります。

    2015年末の中国におけるFintech市場規模(ソース:CNNIC; iResearch; McKinsey analysis)

    Fintechの分類

    まず、大まかにFintechを分類してみましょう。Fin-はファイナンシャル・サービス。つまり金融ですね。-techは技術、特にインターネット技術です。インターネット技術を活用した金融サービスがFintechです。

    金融サービスは大きく分けて以下の四つに分けることができます。

    1. 使う
    2. 預ける
    3. 借りる
    4. 増やす

    【赤盤】で紹介したペイメントはこの中の「1. 使う」に分類されます。お金を使う手段としてインターネット技術を活用します。他にもお金を送金するのも「1. 使う」です。ペイメント以外でも銀行でいえば口座振替や口座振込も「1. 使う」に分類できます。銀行ではないFintechであればTransferwiseがこれに当たります。

    今回【青盤】で紹介するのは「2. 預ける」、「3. 借りる」と「4. 増やす」の三つの分野です。細かい抜け漏れはあると思いますが、大まかにこれでFintechを捉えることができます。なお、ビットコインなど暗号化通貨/仮想通貨は「銀行ワールドと別にあるパラレルワールド」が前提なので、ここには入っていません。暗号化通貨/仮想通貨とFintechの関係は次回の【金盤】で解説する予定です。

    預ける:中国のオンライン銀行

    多くの人は銀行口座を持っていて、そこにお金を預けていると思います。ユーザーから見れば銀行の預金口座は全ての金融サービスのハブですよね。前回の【赤盤】でも説明しましたが、銀行はユーザーから預かったお金を運用して、その利ざやで儲けます。その窓口が預金口座です。個人の口座もあれば、企業が持つ法人の口座もあります。

    中国では長年この銀行口座は国有の銀行しか提供することができませんでした。しかし、中国経済が成長するにつれて金融サービスの需要に供給が追いつかなくなってきます。このミスマッチがシャドーバンキングの拡大につながります。シャドーバンキングは中国経済のリスクとなり、対応が必要になってきました。

    そのような背景もあり、中国銀行業監督管理委員会(中国银行业监督管理委员会)は2014年7月に銀行業のライセンスを私企業に提供することを決めます。最初は3社(=3行)でしたが、2017年には17社まで増えました。テンセントが筆頭株主(30%)のWeBankとアリババが筆頭株主(30%)のMyBankがこの代表です。

    銀行とマネーリザーブファンドの違い

    モバイルペイメントの解説【赤盤】でモバイルペイメントは銀行のようなマネーリザーブファンドとセットだと説明しました。アリババの場合はAlipay(支付宝)というモバイルペイメントとユエバオ(余额宝)というマネーリザーブファンドはセットです。しかし、マネーリザーブファンドと銀行の機能は似ていますが、本質的には違います。本質的に銀行口座の役割は「2. 預ける」ですが、マネーリザーブファンドの役割は「4. 増やす」です。

    銀行:個人(または法人)が銀行に口座を開設してお金を預けます。銀行はそれを集めて運用して利ざやを稼ぎます。運用に失敗しても銀行が資産を失っても50万人民元までは返済が保証されています。利息は0.35%です。つまり、ローリスクローリターンですね。銀行カードが使え、ATMでお金を引き出す他に、デビットカードUnionPayを使って店舗で支払いもできます。

    マネーリザーブファンド:預金ではなく基金です。ファンドが運用する基金に個人が投資をする形をとります。ファンドが運用に失敗して資産を失っても返還の保証はありません。金利は3.6%です。定期預金と違い、24時間365日ファンドからお金をいつでも引き出せるため、利便性が非常に高いのが特徴です。リスクが銀行口座より若干高いものの利便性が高く利息も高い。しかし、銀行ではないので銀行カードはありませんし、ATMでお金も引き出せません。デビットカードUnionPayは使えませんが、モバイルペイメントが利用できます。銀行口座にお金を移す時に手数料がかかります。

    既存の銀行と新しいオンライン銀行の違い

    最大の違いは銀行カード(UnionPay)の発行です。中国では銀行カードを発行するには対面での申し込みが必要になります。新しいオンライン銀行は基本的には物理的な支店はなく(あっても一つに限定されている)対面による銀行カードの発行ができません。

    ユエバオ(余额宝)、WeBank(微众银行)、MyBank(网商银行)の違い(ソース:亿欧)

    また、新しいオンライン銀行とマネーリザーブファンドの本質は違うと言っても、実質的な競合であることは変わりません。新しいプレイヤーのオンライン銀行は既存の銀行だけでなくマネーリザーブファンドと差別化をしなければいけません。前述の通り、既存の銀行の金利は利息は0.35%程度ですが、オンライン銀行は余额宝と同程度(4%前後)と比べても競争力のある金利を提供しています *2テンセントのWeBankで5%、アリババのMyBankで3.8%です。

    借りる:Fintechの成長分野

    新しいオンライン銀行の差別化ポイントは「1. 預ける」ではなく「2. 借りる」です。需要と供給のギャップが大きいのもまさにここですし、銀行が儲かるのもこの分野です。このギャップはこれまでシャドーバンキングが埋めてきたのですが、オンライン銀行が埋める一翼として期待されているのだと想像します。

    「2. 借りる」といっても様々な用途や形態があります。クレジットカードでリボ払いのようなカジュアルなもの、クレジットカードでのキャッシング、車のローンや学資ローンなど様々です。スタートアップや小さなお店なら事業のための借り入れもありますよね。

    そして、この「2. 借りる」はグローバルでも現在最も投資が行われている分野でもあります。最近だとスモールビジネス向けのKabbageやP2P金融のSoFiが大きな資金調達をしましたね。

    アプリから借りる

    中国で最もカジュアルな「2. 借りる」方法はモバイルペイメントのアプリ経由です。何か買い物をしたいのであればフアベイ(花呗)ですし、キャッシングならジエベイ(借呗)です。下の図はAlipay(支付宝)のスクリーンショットですが、クレジットもキャッシングも同じアプリの中で利用できます。

    P2P金融

    アプリでの少額融資だけでなく、P2Pによるお金の貸し借り(P2P金融)も活発です。P2P金融はソーシャル金融とも言われます。借り手と貸し手を結びつけ、個人間での融資を実現する仲介サービスです。欧米ではLending ClubProsperが有名です。中国での規模は2000億ドル(約22兆円)とも言われています。アメリカでこの分野のリーダーであるLending Clubの共同創業者のソウル・フタイトもアメリカでディエンロン(点融)を創業します。すごいですよね。

    しかし、P2P金融は世界的には成長しているのですが、中国では淘汰がはじまっています。P2P金融はこれまで明確な規制が明確ではなかったのですが、徐々に規制がはじまりました。2016年にP2P金融のイーズバオ(e租宝)が「ネズミ講」と認定され、幹部が逮捕されました。2013年から破綻するP2P金融は増え続け、顧客が急いで資金を引き上げる動きを見せています。前述のディエンロン(点融)やLufax、アメリカの株式市場で上場しているイーレンダイ(宜人贷)のような大手は成長を続けるでしょうが、中小のP2P金融は淘汰されていくと考えられています。

    オンライン銀行によるファイナンス

    テンセントのWeBankやアリババのMyBankといった新しいオンライン銀行は個人や中小企業を中心とした少額融資をターゲットにしていますが、カジュアルなキャッシングはアプリ、それ以外でもP2P金融などすでに競合となるようなサービスがあります。

    まだはじまったばかりなので、評価は難しいですが、競合が多い中でもWeBankの貸付額が8700億人民元で不良債権率が0.64%、MyBankの貸付額が4468億人民元で不良債権率が1.23%となかなかいいパフォーマンスですね。先行者利益もあるのかもしれませんがテンセントのWeBankの方がアリババのMyBankよりパフォーマンスがいいのが興味深いです。

    WeBank(微众银行)とMyBank(网商银行)の2017年実績(ソース:亿欧)

    MyBankの場合は571万の小規模企業に融資をしました。平均融資額は2.8万人民元で、75万件は農村地域への融資案件でした。そして11.9%は農業関連の融資だったそうです。中国における金融ギャップは大都市ではなく、地方が大きいのですね。

    ちなみに中国の銀行の不良債権率は1.67%で日本の銀行が1.3%だそうです(2017年実績)。日本の地銀の不良債権率が1.7%なので、日本の地銀よりいいパフォーマンスですね。

    信用経済

    不良債権率はとても重要な指標です。融資は一番銀行が儲けるところですが、貸したお金は返してもらわなければいけません。中国でお金を返さない人をラオライ(老赖)といいますが、このラオライを減らさなければいけません。お金が返ってこないリスクを信用リスクといいます。この信用リスクをどれだけ最小化できるかで収益が大きく変わってきます。

    この信用リスクを低減する仕組みがクレジットスコアです。日本だとCICですね。アメリカだとFICOVantageScoreです。中国では百行征信有限公司、通称シンリエン(信联)です。

    シンリエン(信联)はアリババのセサミクレジット(芝麻信用)やテンセントのテンセンジェンシン(騰訊征信)など民間の信用情報調査会社と業界団体が設立した企業で、中国人民銀行から信用情報調査会社としての認可をはじめて受けました。これまでセサミクレジット(芝麻信用)などが個別に認可を申請してきましたが、シンリエン(信联)がその役割を担うことになりました。

    中国ではアプリを中心とした独自の信用経済が発達してきました。セサミクレジット(芝麻信用)のスコアが高ければサービスの頭金が必要なかったり、多くの特典が与えられるようになりました。最近だと、セサミクレジットが750ポイント貯まったユーザーは新しいスマホを購入前に30日間無料で試せる特典を発表しました。

    利用者もセサミクレジットの評価をよくするために正しくサービスを受けるようになります。しかし、信用情報がプラットフォームに集中することによる個人情報の悪用などの懸念が高まりました。よく金融で影響力の強い「三人のマー(三马)」と言われます。アリババのジャック・マー(马云)、テンセントのポニー・マー(马化腾)、ピンアンのマー・ミンジェ(马明哲)の三人ですが、情報の寡占が懸念されました。これはアメリカでも同じ動きですよね。シンリエン(信联)が三年の試行の末に正式に人民銀行からライセンスを受けたのはこのような背景があります。

    増やす:中国でも注目を浴びるAIを使ったロボアドバイザー

    金融ギャップは借りる側だけではなく、投資する側にもあります。増やすには銀行口座に預けるだけではなく、高利回りの期待できる金融商品を買うこともできます。ある意味、マネーリザーブファンドも金融商品の一つと言えるでしょう。

    しかし、数多くある金融商品から自分に合ったものを選ぶのはなかなか難しいものがあります。そこで注目を浴びているのがAIで最適な投資先を見つけてくれるロボアドバイザーです。このロボアドバイザーの先駆けは2008年に創業したアメリカのWealthfrontです。この他にもRobinfoodが有力なプレーヤーです。日本でもWealthNavi(ウェルスナビ)やTHEO(テオ)が有名ですよね。

    中国でも金融商品のニーズがあるため、ロボアドバイザーへの投資も盛んです。中国ではPINTEC(品钛)やトウミRA(投米RA)が有力なプレーヤーです。多くはP2P金融で地盤を築いていますね。特にPINTECは2018年7月にアメリカの証券取引所にIPOを申請して勢いに乗っている中国のFintech企業です。

    急成長するPINTEC(ソース: 新浪科技)

    PINTECの2016年の収入は5490万人民元でしたが2017年には5億6870千万人民元、936%の成長を実現しました。この原動力となっているのがサービスフィーです。

    参考文献

    What’s next for China’s booming fintech sector? | McKinsey & Company

    Panic Roils China’s Peer-to-Peer Lenders – Bloomberg

    A Guide to China’s $10 Trillion Shadow-Banking Maze – Bloomberg

    Investors left to rue losses as fraudulent Chinese P2P lenders collapse in tighter regulatory environment | South China Morning Post

    China’s Private Commercial Banks like MyBank and WeBank have a ways to go – Kapronasia

    Asia’s Richest Banker Spots a Once-in-a-Lifetime Opportunity – Bloomberg

    阿里腾讯的三年互联网银行实验-亿欧

    不良贷款率_百度百科

    蚂蚁聚宝_百度百科

    余额宝和银行存款有什么区别?

    “信联”来了!千万不要失信不还款,不然……

    国际金融报-人民网

    致老赖:“信联”成立之后 P2P的钱你不得不还 – 金评媒

    支付宝“蚂蚁借呗”发生重大变化,马云:信联时代已经来临!-新闻头条

    “信联”驾临 信用服务行业开启新时代_搜狐财经_搜狐网

    品钛将上市,重监管时代的金融科技故事该如何讲?|宜人贷|京东金融|服务费_新浪科技_新浪网

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    *1:2015年の資料なので若干古いですが、割合はそれほど変わってないでしょう

    *2:上の表を参照してください。中国語だけど漢字だからわかりますよね。上がユエバオ、次がMyBankで下がWeBankです