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  • 映画評|「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」を描き続ける監督|”Beach Bum” by Harmony Korine

    映画評|「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」を描き続ける監督|”Beach Bum” by Harmony Korine

    今回紹介する日本未公開作品はハーモニー・コリン監督最新作”Beach Bum”です。本作に限らず、ハーモニー・コリン監督作品は好き嫌いが分かれます。一作だけ観てもなかなか登場人物たちに共感できないかもしれません。それは登場人物が全て「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」だからです。

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    ハーモニー・コリン監督の映画人としてのキャリアのスタートはラリー・クラーク監督作品『KIDS/キッズ』の脚本家としてです。ハーモニー・コリン監督が19歳の時です。内容は「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」な子供たちの話です。映画人としてのスタートから「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」なんです。映画の内容かなり胸糞なのですが、フォーク・インプロージョンによるサウンドトラックEP”Natural One”が大好きで、ついでに映画も観ました。当時はアメリカのインディーが活気があった時期で、ダイナソーJrから派生したルー・バーロウ関連の音楽を追いかけていた時期だったんですよ。セバドーとか。肝心の映画の方ですが、正直に言えば、あまり好きにはなれなかったです。

    『KIDS/キッズ』が成功した後、ハーモニー・コリンは初監督作品『ガンモ』と二作目『ジュリアン』と立て続けに公開していきます。『ガンモ』は猫の肉を売る話だし、『ジュリアン』は統合失調症の主人公ジュリアンのぶっ壊れた家族の話です。「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」が主人公で胸糞な内容です。映像的にかなり面白いのですが、内容的にはあまり奥深さはありません。

    ハーモニー・コリン監督が単なる「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」をそのまま描く胸糞映画ではなく、より奥深いテーマに結び付けるきっかけとなったのが三作目の『ミスター・ロンリー』だと思います。モノマネ師と修道女のそれぞれのコミューン(共同生活)を関係ない別々のプロットとして描き、最後に一つのテーマに結びつける手法はとても見事でした。それまでとは別人のような映画です。詳しくはFilmarksのレビューを参照してください。

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    しかし、内容的に素晴らしかった『ミスター・ロンリー』も興行的には散々だったようで、再度ピボットを余儀なくされます。

    四作目の『スプリング・ブレイカーズ』はハーモニー・コリン監督が勝ちパターンを確立した映画なんだと思います。興行的な成功のため表面的にはパリピ映画、でも分かる人には分かる二重底。こちらも詳しくはFilmarksのレビューを参照していただくとして、パリピとギャングスターの二つの「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」を描くことで、その境界線について考えさせられる映画です。この映画は普通にアップビートなパリピ映画としても観ることができます。表面的にはファッションや音楽も一般受けしそうです。しかし、ハーモニー・コリン監督がここに至るまで何を描いてきたかを知れば、その先にある深いテーマもわかってくる内容になっています。見事なピボットです。『スプリング・ブレイカーズ』はA24から配給され、興行的にも成功しました。

    スプリング・ブレイカーズ

    スプリング・ブレイカーズ

    • メディア: Prime Video

    そして、昨年公開されたのが五作目となる”Beach Bum”です。前作『スプリング・ブレイカーズ』の勝ちパターンを踏襲して、表面的にはパリピ映画、わかっている人にはより深いテーマという二重底の作りとなっています。『ミスター・ロンリー』のメッセージは「失敗しようと、成功しようと、奇跡が起きようと、最後はみんな一緒。受け入れるしかない」でした。本作”Beach Bum”のメッセージは「ファックド・アップを貫けばいい。天才でも凡人でも、どうせ最後は同じなのだから」なんでしょう。つまり、『ミスター・ロンリー』から繋がった一貫したテーマとメッセージです。こちらも詳しくはFilmarksのレビューを参照してください。

  • 映画評|『パラサイト』の元ネタも救ったマーティン・スコセッシの映画保存プロジェクト|The World Cinema Project

    映画評|『パラサイト』の元ネタも救ったマーティン・スコセッシの映画保存プロジェクト|The World Cinema Project

    ボクは本を読むのが好きで、音楽を聴くのが好きで、映画を観るのが好きなインドア系の人間です。だから、このブログも本と音楽と映画が中心です。ブログで紹介するのは日本でまだ紹介されていない作品が中心ですが、日本の本も読みますし、邦画も観ます。

    日本の映画は昔の映画を観ることが多いかもしれません。最近の日本映画も嫌いではないですが、観る機会は古い映画の方が多いです。古い日本映画を見る場合、映画館で観るか、 BDやDVDなどメディアで家で観るかになります。古い映画を上映する名画座まで出かけるのは億劫なので(インドア系人間なんです)、ほとんど家で観ることになります。しかし、残念ながら日本の古い映画はあまりBDやDVDなどメディアになっていません。品質の高いレストアがされている作品は黒澤明と小津安二郎くらいです。最近は成瀬巳喜男が加わりはじめたくらいですかね。それも多くは米国クライテリオンなど日本国外で修復されたものが多いです。日本のB級ジャンル映画の品質の高いレストアも、日本国外より英国アローフィルムズの方が多いと思います。

    日本でも巨匠と言われる溝口健二や川島雄三の作品ですら限られた有名作しかレストアされません。これも日本ではなくクライテリオンからです。では、日本が特別にレストレーション後進国なのか?そうとも言えません。アメリカとイギリスが飛び抜けて映像文化の保全に力を入れているのです。多くの国に名作映画はありますが、なかなかレストアが進んでいないのが現状です。

    今回紹介するのはマーティン・スコセッシ(『タクシードライバー』や最近だと『アイリッシュマン』などで有名な映画監督)が中心となった立ち上げたThe Film Foundationのプロジェクトの一つであるWorld Cinema Projectの作品集です。

    The Film Foundationはマーティン・スコセッシが中心となって1990年に立ち上げられた基金です。ウッディー・アレン、ロバート・アルトマン、フランシス・コッポラ、クリント・イーストウッド、スタンリー・キューブリック、ジョージ・ルーカスにスティーブン・スピルバーグなどが最初の理事として名を連ねました。そうそうたる顔ぶれです。

    The Film Foundationを理解するには基金の仕組みを理解する必要があります。レストレーションにはお金がかかります。お金がすごく大事なんです。基金は1)資金を集めて、2)その資金を投資等の運用して利益を稼ぎ、3)稼いだ利益で事業を行う仕組みです。多くの基金が寄付を求めますよね?例えば、ボクがある基金に寄付をしたとします。ボクが寄付した寄付金はすぐには使われません。多くの人の寄付金と合わせて口座に入ります。基金はこの口座に入っているお金を投資運用して利益を出します。その利益から特定目的に使われます。アメリカの大学も資金の多くを基金の運用益に依存しています。

    ノーベル賞を支えているノーベル財団もそうですよね。ノーベル賞の財源はアルフレッド・ノーベルの遺産です。ビル&メリンダ・ゲイツ財団もビル・ゲイツの資産が財源です。アルフレッド・ノーベルやビル・ゲイツの資産がいくら莫大でも、無限にはありません。有限です。いつかは無くなります。なくなるたびに寄付を求めたらキリがないですよね。なくならないように資産を元手に運用するのが基金であり財団です。基金も財団も英語では同じ”Foundation”です。ちなみにWikipediaも同じ仕組みでウィキメディア財団が運営しているはずなのですが、ちょいちょい資金が足りなくなって寄付を求めてきますね。基金や財団の財政的な健全性はCharity Navigatorで知ることができます。

    1950年以前の映像作品の半分以上はすでに失われたそうです。映像作品の保全もお金がかかります。The Film Foundationは映像文化の歴史の保全と保持を目的とした基金です。すでに850以上の映像作品をのレストアに協力してきました。

    The Film Foundationはいくつかのプロジェクトを進めています。その一つがWorld Cinema Projectです。World Cinema Projectでは世界各国の40の映画作品がレストアされました。その一部がクライテリオンから発売されています。その中に収録されている『下女』(하녀)は先日アカデミー作品賞を獲得した映画『パラサイト』にも大きな影響を与えたことでも有名な作品です。

    日本の映画でまだBDになっていない作品がまだまだたくさんあります。日本の「映画の父」と言われる牧野省三作品とか300編近くあったのが今では数編しか残ってないらしいです。田中絹代が成瀬巳喜男に師事して作った最初の監督作品『恋文』も高品質なレストア映像で観たい。日本でもこういう基金が立ち上がらないかなあ。いっそのこと自分で立ち上げちゃうか?

  • 映画評|アメリカン・ニューシネマに中指を突きつけたパンクな映画|”Wanda” by Barbara Loden

    映画評|アメリカン・ニューシネマに中指を突きつけたパンクな映画|”Wanda” by Barbara Loden

    1960年代中頃から1970年代後半は映画ではアメリカン・ニューシネマの時代です。音楽ではプログレッシブ・ロックの時代ですね。アメリカのテレビジョンやイギリスのセックス・ピストルズのようなパンク・ロックはその後の1970年代後半からとなります。今回紹介する”Wanda”(1971年アメリカ公開)は早すぎた映画のパンクです。長い間、幻の名作としてなかなか観る機会がありませんでしたが、クライテリオンが発売してくれて多くの人の目に触れるようになりました。

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    • 発売日: 2019/03/19
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    この作品と同時代に流行したアメリカン・ニューシネマには二つの特徴があります。アンチヒーローとアンチ・ハッピーエンドです。例えば『俺たちに明日はない』、『イージーライダー』やこの作品と同年に公開された『時計仕掛けのオレンジ』とかです。エスタブリッシュメントへの反抗がアメリカン・ニューシネマです。アンチ・エスタブリッシュメントです。『あしたのジョー』で例えればカウンターパンチ。

    しかし、この作品はそのカウンターパンチに「NO!」を突きつけます。でも『あしたのジョー』で例えればダブルクロスカウンターは打てない。ヒーローにもアンチ・ヒーローにもなれない。矢吹丈や力石徹は遠い雲の上。マンモス西にすらなれない。ダブルクロスカウンターなんて、そんな技出せないよ。超サイヤ人同士の戦いなんてどうしょうもないだろ?ボクたち、ワタシたちはダメな普通の人間だよ。アンチに対してすら傍観者にしかなれない底辺がワンダの世界です。音楽に例えればヴェルヴェット・アンダーグラウンドと同時期のジョナサン・リッチマンなんて近いかも。

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    • 発売日: 2017/03/01
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    閑話休題。本編の話をしましょう。

    舞台はアメリカのペンシルバニア州郊外。登場人物はそこで暮らす主婦のワンダ(写真)。監督のバーバラ・ローデン自ら演じています。あまりにもズボラで旦那から離婚されてしまいます。仕事が遅くて縫製工場もクビになるし、自分自身の意思もない。ブロンドで顔も標準以上だけど、はっきり言ってダメ人間です。それでも、共感せずにいられません。だって、それボクらだよ。ボクらの中にワンダはいます。そういう面が必ずある。

    ワンダのダメさは他人に依存していません。自立したダメさです。人間が本来もつダメさです。ワンダのダメさは成瀬巳喜男監督作品に登場する女性たちと比較するとわかりやすいです。

    成瀬巳喜男監督は一貫して「女性の自立」をテーマとして作品を作りました。そして、成瀬作品には女を不幸にするダメな男やズルい男が登場します。ダメな男がいるから女が不幸になる。『晩菊』の上原謙や『浮雲』の森雅之が代表的です。しかし、ワンダの場合はダメな男抜きでダメなんです。成瀬巳喜男監督作品で成人指定されてしまった『あらくれ』という名作がるのですが、高峰秀子が演じる主人公がダメな男を見限るたびに強くなるのとは対照的です。男を変えてもワンダはやっぱりダメなんです。フェミニストが理想とするような強い女性を描いた映画はニコラス・レイ監督『大砂塵』(1954年)など昔からあるのですが、ワンダのように徹底的にダメな女はありませんでした。

    BDに同梱されている解説書によるとバーバラ・ローデン監督は30歳になるまで自分は「ワンダのように自分がなかった」と振り返っています。この作品が公開された1971年当時の第二期フェミニスト運動では全女性(ヒーローではない人たちも含む)を解放するか、もっと現実的に優れた女性(ヒーロー)をより持ち上げることに集中するかが議論になっていたそうです。ボクはこの作品の終わりかたが大好きです。よくあるハッピーエンドでもなく、アメリカン・ニューシネマ的なアンチ・ハッピーエンドでもありません。どっちでもないのです。ワンダは変われない。以前に紹介した”River of Grass”の登場人物たちに似ています。どこにも行けない。つまり、ワンダは女性だけでなく、「何者かになりたいのになれない人たち」すべての代表です。誰もがヒーローでもアンチヒーローなわけでもない。頭のいい偉い人たちが高尚な議論をしてるけど、ボクたち、ワタシたちはここにいる。

    解説書によると、この映画はドキュメンタリーを意図したそうです。実際にショットはあまり安定していない素人風です。しかし、スーパーロングショットを多用するなど素人では考えられないショットもたくさん含まれているため、やはり素人作品ではありません。ドキュメンタリーとフィクション、素人と玄人の境界線が曖昧なところもこの作品の魅力かもしれません。そこが更にパンク。

    最後に画質と音質について。高品質で名高いクライテリオン版ですが、かなりグレインが目立ちます。音質もざらつきがあります。これはレストレーションの限界なのか、それとも元々そうなのか?予算が10万から20万ドルだったそうで、かなり低予算映画です。ドキュメンタリーを意識したそうなので、元々のフィルムがグレイン感があり、録音状態も意図してクリアじゃなくしていたのではないかと推測します。

    そのほかに観た映画はFilmarksでレビューを書いています

  • 映画評|道なく、愛なく、犯罪のないボニー&クライド|『リバー・オブ・グラス』ケリー・ライカート監督(1994年)

    映画評|道なく、愛なく、犯罪のないボニー&クライド|『リバー・オブ・グラス』ケリー・ライカート監督(1994年)

    有名監督の最初の作品って初期衝動が詰まっていて好きなものが多いです。スパイク・リー監督の『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』とかクエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』とか。しかし、意外と初期作品ってメディアになってなかったり、ストリーミングでも公開されていなかったりします。アメリカのクライテリオン・コレクションやイギリスのアロー・フィルムズのような高品質な再発専門レーベルからの発売を待たなければいけないのが常でした。日本映画ですらそうです。

    しかし、その状況も変わりつつあります。最近では映画の資金調達もクラウドファンディングで行われるようになりました。昨年公開された“Last Black Man in San Francisco”もそうでしたね。そして、昔のフィルムのレストレーションもクラウドファンディングで資金調達するケースが出てきました。ハル・ハートリーは自身の監督作品をクラウドファンディングで再発しています。今回紹介するケリー・ライヒャルト監督の最初の長編映画『リバー・オブ・グラス』のレストレーションもクラウドファンディングで資金調達されたものです。

    『リバー・オブ・グラス』はケリー・ライカート監督自身の言葉が全てを表しています。

    「道のないロードムービー、愛のない恋愛映画、犯罪のない犯罪映画」

    舞台はフロリダ州エバーグレーズ。東側にあるビーチエリアは観光客で賑わいますが、エバーグレーズは湿地帯で先住民がRiver of Grassと名付けた地域です。多くの映画はA地点から出発して、B地点にたどり着きます。または、A地点からいろいろな場所を周ってA地点に戻ります。A地点とかB地点は実際の土地の場合もありますし、心理的な状態の場合もあります。

    しかし、『リバー・オブ・グラス』の場合、登場人物たちはA地点にとどまり続けます。A地点が心地よいわけではありません。現状に満足していません。どこかに行きたい。でも、どこにも行けない。いや、どこにも行かない。バスにも乗れないし、高速の料金所すら越えられない。

    男と女、銃と車。設定と小道具は全て揃っています。『俺たちに明日はない』のボニー&クライドにだってなれるはず。でも、何も起きない。セックスも、ドラッグもロックンロールもない。でも、きっとボクらはそうなんですよ。何者にもなれない。何者かになったつもりでいるだけ。

    ケリー・ライヒャルト監督はこの後にオレゴン四部作を発表して大物監督の地位を獲得していきます。一貫したテーマは「取り残された人たち」で、徐々にリベラルでプログレッシブな政治的側面を見せてきます。経済学者ポール・クルーグマンにとても近いスタンスです。ただ、ポール・クルーグマンは非常に攻撃的ですが、ケリー・ライカート監督はとても繊細な伝え方をします。それは『リバー・オブ・グラス』でも共通していますね。

    しかし、オレゴン四部作からは動けない状態から徐々に動く状態を描くようになりました。それを進歩と取るのか、後退と取るのか。ボクには『リバー・オブ・グラス』の荒っぽい輝きがまぶしすぎて。

    リバー・オブ・グラス

    リバー・オブ・グラス

    • リサ・ドナルドソン

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  • 映画評|サイケデリックでダウナーな暴力|”Bliss” by Joe Begos

    映画評|サイケデリックでダウナーな暴力|”Bliss” by Joe Begos

    ニコラス・ケイジ主演映画『マンディ― 地獄のロード・ウォーリアー』が大好きで、映画の中で主人公が着ていたロングTシャツ(虎の絵のやつ)をオフィシャルストアで買ったくらいです。クエンティン・タランティーノは50年代や60年代をモチーフにしたジャンル映画が得意ですが、『マンディ― 地獄のロード・ウォーリアー』のパノス・コスマトス監督は70年代のサイケデリックなテーマをモチーフにしたジャンル映画を得意とします。ちなみにパノス・コスマトス監督のお父さんは『ランボー/怒りの脱出』や『コブラ』を作ったジョージ・コスマトス監督です。なんか、血は争えないなって感じです。

    『マンディ― 地獄のロード・ウォーリアー』はサイケデリックでダウナーな幻想的な映像が特徴で、暴力に満ち溢れています。そして、『マンディ― 地獄のロード・ウォーリアー』以降、サイケデリックでダウナーで暴力に満ち溢れた映画が増えた気がします。今回紹介するジョー・ベゴス監督作品”Bliss”もその一つです。下の二作品のパッケージ写真も似てるでしょ?

    マンディ 地獄のロード・ウォリア― [Blu-ray]

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    • 出版社/メーカー: Happinet
    • 発売日: 2019/04/02
    • メディア: Blu-ray
    Bliss [Blu-ray]

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    • 出版社/メーカー: Dark Sky Films
    • 発売日: 2019/11/12
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    ジョー・ベゴス監督はこれまで低予算でちょっとおかしなホラー映画を作ってきました。『マインズ・アイ』と『人間まがい』が日本でも公開されていますが、正直に言えばボクは知りませんでした。YouTubeで予告編を確認する限り、”Bliss”以前の作品はあまりサイケデリックは感じはしませんでした。しかし、”Bliss”の後に公開された”VFW”の予告編は夜のシーンが多く、映像的には”Bliss”に近いですね。”VFW”のBDももう直ぐ発売されるので、是非観てみたいです。

    さてさて、肝心の”Bliss”です。舞台はロサンゼルス。主人公はそこそこ名が知られてるけど、スランプで筆が進まず、家賃を払うのも一苦労なアーティスト。ドラッグをキメてなんとかスランプを脱出しようとして出会ったのが”Bliss”。アーティストがドラッグをキメて創作活動をするなんて、あまりにもクリシェ(使い古されたネタ)ですよね。ただ、このBlissはただのドラッグではありません。過剰摂取すると人間の血が欲しくなるんです。ヴァンパイアになってしまう。しかも、人を襲ったことを覚えていない。まあ、内容的にはこれが全てです。まあ、ストーリーはぶっちゃけどうでもよく、サイケデリックでドラッギーな映像と音楽を楽しむ映画なのかなと。

    以前にアメリカのヘロイン渦を解説した書籍”Dopesick”を紹介しました。ドラッグには大きく分けて気分が上がるアッパー系と気分が下がるダウナー系があります。沢尻エリカが保有して有罪確定したMDMAはアッパー系。ヘロインは代表的なダウナー系のドラッグだそうです。

    クエンティン・タランティーノ監督作品『パルプ・フィクション』でユマ・サーマンがオーバードーズしてしまったのがヘロインです。映画で出てくるドラッグ”Bliss”もダウナー系のようですね。最近、サイケデリックでダウナーな映画が増えているのも背景にはヘロイン渦があるような気がします。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの曲に『ヘロイン』がありますが、スローから徐々に早くなる感じがトリップ感があり、”Bliss”はきっとそれの強烈なやつなんだろうなあと。

    2020年2月第四週に観た映画にひとこと(観た順)

    フェアウェル:あまりにも中国なアメリカ映画

    猿:映像はキレイだけど深みがない

    1917:IMAXで観てよかった!

    牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件:すごい映画

    Bliss:本作品

    クワイエット・プレイス:ツッコミ禁止

    River of Grass:路のないロードムービー、愛のない恋愛映画、犯罪のない犯罪映画

    ヘヴィ・トリップ:北欧メタル、自転車に乗る

    最後の人:サイレント映画の究極の形

    サンライズ:ドイツ表現主義とハリウッドの奇跡の融合

  • 『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』映画レビュー|現代的な高校生活を描く青春コメディ

    映画には多くの定番テーマがあり、その多くは人生の転換期です。「卒業」はその一つです。若き日のヒース・レジャーが眩しい『恋のからさわぎ』、サントラが好きだった『プリティ・イン・ピンク』や目立たない女の子をプロムクイーンに仕立てる『シーズ・オール・ザット』などなど。どちらかと言えば、ティーン向けの胸キュン映画が多いかもしれません。あ、映画版『ハイスクール・ミュージカル』もそうか。

    ボクが好きなのはリチャード・リンクレイター監督作品『バッド・チューニング』のような卒業の日を群像劇のように淡々と描いた映画。卒業の日を境にそんなドラマティックに変わるわけないじゃん!今回紹介するオリヴィア・ワイルド初監督作品”Booksmart”はどちらかと言えばドラマティックじゃない「卒業」を描いたボク好みの作品です。

    Booksmart [Blu-ray]

    Booksmart [Blu-ray]

    • 出版社/メーカー: 20th Century Fox
    • 発売日: 2019/09/03
    • メディア: Blu-ray

    Booksmartは「本の虫」つまりガリ勉という意味。主人公の女子高生二人はいい大学に合格するため、キラキラな高校生活をあきらめて、ひたすら勉学に励んできました。恋もしない、パーティーも行かない。生徒会長も引き受けてひたすら印象をよくする。一人だと暗くなっちゃうけど、二人なら大丈夫。私たちは本当はすごくイケてるんだから!

    ……ところがです。実はパリピと思っていたイケてる連中も同じいい大学に行くことが分かってしまった。大学ではなく、いきなりグーグルに引き抜かれた子もいる。なんで?なんだったの、私たちの地味な努力は?そんなのズルい!せめて卒業の日のパーティーぐらい輝かないと!果たして二人は最後に輝くことができるのか?という映画です。

    今のアメリカは学校主催のフォーマルなダンスパーティー「プロム」じゃなくて、生徒が自主的に主催するカジュアルなパーティーなんですかね。ティーン向けの胸キュン映画はプロムがピークとして描かれるのが多いのですが、ボクが好きな地味系の卒業映画は生徒が自主的に主催するパーティーがピークとして描かれることが多いです。『バッド・チューニング』もカジュアルなパーティーでした。

    アメリカやヨーロッパはカジュアルなパーティーをやりやすい環境にあります。まず、場所がたくさんある。日本のようにお店を借りる必要がない。家がでかいし、お隣さんも離れているから、家でパーティーしても(あまり)問題ない。大学生の場合はフラタニティーハウスに集まったりする。住宅密集地域でも、ヨーロッパなんかだと住民たちが協力して住宅街の1区画を1日だけパーティー会場にしたりします。アメリカではブロック・パーティーと呼んでますね。つまり、アメリカやヨーロッパではパーティーは特別なイベントではなくて、かなり日常的なことです。そんな環境でパーティーに行かずに勉強を頑張るって、かなりの努力なわけですよ。

    パーティーが日常というだけでなく、インスタとかオンラインでもキラキラできるんですよね、最近の子たちは。それを描いたのがA24の『エイス・グレード』です(『エイス・グレード』が気に入った人には”Booksmart”もオススメです)、”Booksmart”の二人はそんなオンラインの誘惑にも負けずに勉強頑張ったのにねえ。せめて、最後の1日くらい頑張ってみろ!と応援したくなりますよ、おじさんも。 

  • 映画評|老舗のとんかつ屋に似た幻のホラー映画|”The Ghost of Sierra de Cobre” by Joseph Stefano

    映画評|老舗のとんかつ屋に似た幻のホラー映画|”The Ghost of Sierra de Cobre” by Joseph Stefano

    老舗の味は意外とおいしくない。「おいしい/おいしくない」は主観であって、絶対的な尺度などないにしても。もちろん、例外もあるのですが、これがボクが色々と食べ歩いた結論です。老舗は雰囲気がいいです。趣があります。でも、味は今ひとつだったりするんですよね。とんかつの場合は臭みが残っていたり、焼き鳥の場合はちょっと冷めたものが出てきたり。新進の店はおいしくなければお客がつきませんが、老舗の場合は老舗というだけでお客がつきます。それが理由かどうかわかりません、伝統なのかもしれませんが、多くの老舗の場合は味が進化してないんです。工夫が少ない。

    ワインなどもそうですが、古いほどいいなんてことはないです。残念ながら何にでも寿命がある。時の試練に耐える素晴らしいヴィンテージもありますが、多くのワインは経年劣化してしまいます。50年経っても美味しいヴィンテージなんて滅多にないですからね。映画の場合は作品が劣化するのではなく、観客の目が肥えてしまうのです。ジョージ・ルーカスが神経質に『スターウォーズ 』オリジナルトリロジー(エピソード4から6)を最新技術でちょこちょこアップデートするのは観客の目が最新技術に慣れてしまうのを知っているからなんでしょうね。

    前置きが長くなってしまいましたが、今回紹介する”The Ghost of Sierra de Cobre”は『シェラ・デ・コブレの幽霊』として日本でテレビ放映されたことがあります。そういう意味では、厳密に言えば日本未公開作品ではないのですが、長らく日本では公開されていないのでここで紹介します。監督はヒッチコックの映画『サイコ』の脚本を書いたジョセフ・ステファノです。比較的に最近の作品だとアル・パチーノ主演作品『天国の約束』もジョセフ・ステファノ脚本です。

    The Ghost of Sierra de Cobre [Blu-ray]

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    • 出版社/メーカー: Kl Studio Classics
    • 発売日: 2018/10/16
    • メディア: Blu-ray
    天国の約束 [DVD]

    天国の約束 [DVD]

    • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
    • 発売日: 2009/10/23
    • メディア: DVD

    『シエラ・デ・コブレの幽霊』はテレビシリーズのパイロット版として製作されたもので、主人公の心霊調査員は明らかにシリーズ化を狙ったキャラクターです。ジャンルとしてはホラー風サスペンス映画なのかな。『スパイ大作戦』でも活躍したマーティン・ランドーです!きちんとキャラクターを作り込んでいるし、脇役たちも(シリーズ化を前提に)しっかりとした特徴があります。おそらく、これからどんどんと怪事件を解決してってくれるんだろうな!という期待感が持てます。残念ながらシリーズ化はされませんでしたが、ジョセフ・ステファノは脚本家としてはやはり優れていたんですよ。

    ストーリーはウィキペディアにも書いてあるので、割愛します。この映画はフィルムがあまり現存していなくて、ブルーレイでメディア化されるまであまり観る機会がなかったためにちょっとした伝説の映画となっていました。そして、恐ろしい映像表現のため、アメリカでは劇場公開されなかった(らしい)ので、これが伝説に箔をつけました。まあ、気になるじゃないですか。どんなに恐ろしい映像なのか。

    結論としては、まあ、確かに昔の映画にしてはなかなか頑張ってると思います。昔の人は怖かっただろうなと。アレのことですよね?ただ、もう今の人は目が肥えちゃってるわけですよ。ボクは自他共に認めるビビリです。『ソウ』とか『ホステル』とかダメです。ゴスやグロはダメです。そんなビビリのボクが余裕で観れるレベルです。映画『バイオハザード』シリーズは主婦がアイロンをかけながら観れるビビリに優しいゾンビモノとして有名ですが、怖さ的にはそのレベルかなと。

    2020年2月第二週に観た映画にひとこと(観た順)

    レクイエム・フォー・ドリーム:アメリカ版『トレイン・スポッティング』

    グッド・タイム:OPNによるサウンドトラックが実は素晴らしい。

    アドレナリン:エイミー・スマートがカワイイ

    アメリカの夜:映画なんてくだらない、人生そのものじゃないか。

    ヒッチコック/トリュフォー:『アメリカの夜』を観たなら、これも観ないと。

  • 映画評|ひたすらTVゲーム『パックマン』をプレイするだけの映画なのに面白い|”Relaxer” by Joel Potrykus

    映画評|ひたすらTVゲーム『パックマン』をプレイするだけの映画なのに面白い|”Relaxer” by Joel Potrykus

    今回紹介するジョエル・ポトライカス監督作品”Relaxer“を簡単に説明すれば「男がひたすらテレビゲーム『パックマン』をプレイする映画」です。ジャンル的には不条理劇で密室劇。え?何が面白いの?ですよね。これがなかなか面白い映画なんです。

    Relaxer (Ltd Edition) [Blu-ray]

    Relaxer (Ltd Edition) [Blu-ray]

    • 出版社/メーカー: Powerhouse
    • 発売日: 2020/03/06
    • メディア: Blu-ray

    映画の舞台は1999年7月。監督曰く、Y2K(西暦2000年)を題材にした映画がほとんどなかったので、この年代に決めたそうです。兄コム(写真左:デヴィッド・ダスマルチャン)の部屋でニンテンドー64のゲームをプレイする弟アビー(写真右:ジョシュア・バーグ)。男っぽい粗暴なコムと中性的で気の弱そうなアビー。コムはアビーにチャレンジを与えます。しかし、どうしてもアビーはチャレンジを達成できない。途中で投げ出してしまう。

    そこで、コムはパックマンでレベル256を超える「ビリー・ミッチェル チャレンジ」に挑戦するようアビーをけしかけます。このチャレンジには制限があって、レベル256を超えるまで座っているソファーから決して離れてはいけない。アビーは兄のチャレンジを受け、「止めることを止める」と誓います。兄は部屋を出て、一人でソファーに座りひたすらパックマンをプレイする弟アビー。

    “Relaxer”の設定はルイス・ブニュエル監督作品『皆殺しの天使』からの着想したそうです(ルイス・ブニュエル監督作品から着想を得た映画はあまりないという理由で)。

    『皆殺しの天使』の場合は見えない力によって豪邸の一室に20人ほどの富裕層ゲストが閉じ込められます。”Relaxer”の場合は兄の部屋にニートっぽい弟が閉じ込められます。閉じ込められる対象は対照的ですね。また『皆殺しの天使』の場合は音楽(反復構造など)が閉じ込めるモチーフになっていますが、”Relaxer”の場合はゲームがモチーフになっています。そして、ゲーム(チャレンジ)の中のゲーム(パックマン)に閉じ込められるといういメタ構造になっています。あと、水道管や動物の使い方は完全に『皆殺しの天使』へのオマージュですね。

    皆殺しの天使 (字幕版)

    皆殺しの天使 (字幕版)

    • 発売日: 2018/04/09
    • メディア: Prime Video

    『皆殺しの天使』と”Relaxer”の違いは現実と妄想の境界線です。『皆殺しの天使』の場合は閉じ込める力があまり明確ではありません。その代わり、閉じ込められている環境と閉じ込められていない環境の境界線が非常に明確です。中と外が明確に描かれています。”Relaxer”の場合は閉じ込める力は兄のコムです。しかし、閉じ込められている環境はあまり明確ではありません。もちろん、兄の部屋の中の話です。しかし、そこに閉じこもっている対象であるアビーの存在が明確ではないのです。あれ?本当はもういないんじゃない?と思えたりもするのです。

    『皆殺しの天使』と”Relaxer”のテーマですが、「停滞と衰退」と捉えることは可能です。でも、あまりテーマを考えるのは意味がないのかなあなんて思ったりもします。実はそこまで考えていないような。意味深に観客を惑わしてニタニタしている監督が目に浮かんできたりします。ジョエル・ポトライカス監督とルイス・ブニュエル監督はそういうイタズラっぽい天邪鬼さが共通点なような気がするんですよね。

    2020年2月前半に観た映画にひとこと(観た順)

    Relaxer:本作

    皆殺しの天使:本作が着想を得た作品

    アンカット・ダイヤモンド:最後へ向けたカタルシスがすごい

  • 映画評|エドガー・アラン・ポーの未完の作品からスタートした怪作|”The Lighthouse” by Robert Eggers

    映画評|エドガー・アラン・ポーの未完の作品からスタートした怪作|”The Lighthouse” by Robert Eggers

    これまで日本ではまだ翻訳されていない本を紹介してきましたが、今年はもっと日本未公開の映画も紹介していきます。今回は良作を連発して勢いが止まらないA24制作でロバート・エガース監督作品”The Lighthouse”です。評価が高い映画なので、そのうちに日本でも公開されると思います。

    ロバート・エガース監督による15世紀の魔女伝説を舞台とした前作『ウィッチ』はホラー映画と言い切れない不思議な映画でしたが、今回の19世紀の灯台を舞台とする”The Lighthouse”は更にカテゴリーしにくい映画です。昔のニューイングランドを舞台に隔離された環境に閉じ込められるシチュエーションは同じですが、更にホラーっぽさは無くなっています。うーん、ホラーじゃないかなあ。ホラーと言えばホラーか?哲学的でもありドラマとも言い切れない。

    The Lighthouse [Blu-ray]

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    • 出版社/メーカー: Lions Gate
    • 発売日: 2020/01/07
    • メディア: Blu-ray
    ウィッチ(字幕版)

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    • 発売日: 2017/12/15
    • メディア: Prime Video

    “The Lighthouse”のスタート地点はエドガー・アラン・ポーの未完の作品”The Light-House“でした。ロバート・エガースの兄弟マックス・エガースがこれを完成させる取り組みをしていましたが、二人で映画の脚本とすることにしました。しかし、結果的に全く違う話になりました。むしろ、インスピレーションとして強く影響を受けているのが1801年に起きたウェールズにあるスモールズ灯台での殺人事件です。

    映画の舞台は19世紀後半の米国ニューイングランド。灯台の守役として4週間派遣されたウィレム・デフォー演じる老人とロバート・パティンソン演じる若者の二人を描いた映画です。登場人物は二人だけ。19世紀後半なので当然ながら電気水道ガスは完備されていません。水や食料の備蓄がなくなるとやばい環境。それなのにカモメが……補給が……。灯台の明かりはオイルを燃やしてフレネルレンズで増幅させ、石炭を使った蒸気で回転させます。なかなかボロボロな灯台でメンテもたいへん。

    この映画の特徴は四つあります。

    まず第一にほぼ正方形の画角。これは1920年代中頃から1930年代初頭に短い期間に使われたMovietoneというフィルム式トーキーのフォーマットらしいです。ボクなんかは昔はブローニーフィルムを使って写真を撮っていたので、そっちに近い感覚だと思いました。ボクらが慣れている画角って映画なら横長、スマホなら縦長の長方形ですよね。四角い映像はどことなく狭苦しく感じます。この映画ではこの狭苦しさが効果的に使われています。

    二つ目が光の効果的な使い方です。灯台ですしね。モノクロ映画なので光のコントラストがとても重要な表現方法となります。二人のどちら側に光が当たっているとか、光が当たる方向とか。とにかく光が大事な映画です。登場人物は二人しかいないので、映像に語らせないといけないのですよ。しかも、ウィレム・デフォー演じる老人はかなり特殊な話し方や英語表現をするため、何を言っているのかよくわからなくなるし。ボクでも字幕がないとかなり辛かったです。

    三つ目が老人と若者がそれぞれ象徴するものの対比です。老人と若者、神と下僕、酒と水、海と森、信仰と欲望。では、存在としても対照的な二人なのか?そうではありません。合わせ鏡のような存在で、関係性も変わってきます。ひょっとしたら同一人物なんじゃないかという印象を観る側に与えます。そして共通点として二人とも嘘つきです。「信用できない語り手」です。嘘と幻想の世界。誰の視点の話なのかによって解釈はだいぶ変わると思います。

    最後に比喩の多用です。死の象徴としてのカモメ、欲望の象徴としての人魚、神の象徴としての光がとても印象的です。かなりわかりやすい形で提示されます。まあ、二人しか登場人物がいないので、わかりやすい小道具は必要ですよね。

    まだ一月終わりですが、今のところ、このThe LighthouseとChained for Lifeの二作が2020年のベストですね。特に今作はウィレム・デフォーとロバート・パティンソンの怪演が凄まじすぎます。とっつきやすさはChained for Lifeなんですが、The Lighthouseは映画自体のパワーが凄いと言いますか。ロバート・パティンソンは『トワイライト』でのイケメン吸血鬼の印象が強いですが、凄い役者になりましたね。今年はクリストファー・ノーラン監督の期待の新作『テネット』にも出演が決まってますし、新しいバットマンにも抜擢されましたしね。

    2020年1月後半までに観た映画にひとこと(観た順)

    殺人の追憶:タランティーノの多幸感溢れる『ワンハリ』以降では、評価しにくい映画。

    電人ザボーガー:迸る原作愛!

    KING OF PRISM by PrettyRhythm:既成概念の斜め上を駆け抜ける応援上映のキング

    KING OF PRISM PRIDE the HERO:今回は腹筋から空爆!

    The Lighthouse:本作

    ウィッチ :本作と比べると練り込みが浅いが、悪くはない。

    ジャックは一体何をした?:『ツイン・ピークス』のエピソードのようなデヴィッド・リンチのお遊び

    魂のゆくえ:クリスチャンじゃないとこれは厳しいっす……

    スティル・クレイジー:ビル・ナイにはもっとこういう役をやってほしい

  • 映画評|普通であることが凄い映画|”Chained for Life” by Aaron Schimberg

    映画評|普通であることが凄い映画|”Chained for Life” by Aaron Schimberg

    今回紹介するアーロン・シンバーグ監督作品”Chained for Life”は「普通であることが凄い」非常に稀有な映画です。何がそんなに凄いのか、ネタバレにならない程度に解説したいと思います。ぜひ日本でも公開してほしい!

    まず、”Chained for Life”は映画として非常に優れています。とても印象的な長回しを使います。そして、劇中劇のフォーマットを使いながら、それが多重に折り込まれて境界線を曖昧なものにしています。どこまでが「劇」で、どこまでが「劇の中の劇」なのか。さらに、誰の劇なのか。そう、「劇の中の劇」が複数存在するのです。単に物珍しい映画ではなく、映画としてとても良くできています。

    テーマとストーリーは非常にシンプルです。テーマは「美しさとは」です。ストーリーも一編の映画を作り上げるまでです。たったそれだけです。普通でしょ?インディー作品にありがちな、難解な「アート映画」でもありません。『サタンタンゴ』もそうですが、すごい映画ってシンプルでスゴイんですよ。

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    • 出版社/メーカー: Lorber Films (Kino)
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    では、なんで「普通であることが凄い」のか?それは登場人物たちです。

    主演の一人であるアダム・ピアソン(写真右側)は俳優です。そして、神経線維腫症という難病のために顔が著しく変形しています。そう、一般的に「奇形」と言われる人です。英語ではデフォーミー(Deformies)です。上の写真は特殊メイクではないのです。本人そのまま。ちなみに、写真左側は双子の兄弟のニール・ピアソンです。多分、ニール・ピアソンもこの映画であの役で出てるよなあ……

    人気テレビドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』でティリオン・ラニスターを演じたピーター・ディンクレイジはデフォーミー(奇形)にとって普通に扱われる役を演じた一つのブレイクスルーでした。しかし、それ以前の映画に出てくるデフォーミーたちはフリークスでした。つまり、怪物です。古くはトッド・ブラウニング監督の1932年に公開された作品『フリークス』があります。そして、デフォーミーを題材にした最も有名な映画はデヴィッド・リンチ監督の1980年公開作品『エレファントマン』でしょう。

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     『フリークス』も『エレファントマン』でもデフォーミーは虐げられる存在です。奇形ではない「普通の」人たちとは対等ではない。『エレファントマン』のメッセージは「それでも彼らだって人間だ」だとは思いますが、その時点で対等ではない。『ゲーム・オブ・スローンズ』のティリオン・ラニスターだって、強力なラニスター家の一員だから対等以上に扱ってもらっています。そうでなかったらあのように振る舞うことはできなかったでしょう。ラニスターは借りを返しますから。アダム・ピアソンが出演した前作の『アンダー・ザ・スキン』も普通に接してもらえた理由ってあれですものね。

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    しかし、”Chained for Life”でアダム・ピアソンが演じるローゼンタールは本当に普通の存在です。もちろん、デフォーミーであることは認識されています。認識されていて、かつ普通なんです。ローゼンタールも人と違うことは認識し、そのために不自由であることは認めつつも普通に暮らしています。そして、観客はそこに若干の違和感を感じつつ、話が展開されるのをひたすら見守るしかないわけです。観客はまだその世界に住んでいないのですから。

    アダム・ピアソンは俳優であり、デフォーミーへのイジメに反対する活動家でもあります。人を見た目で判断して差別することをルッキズムといいます。”Chained for Life”の世界ではルッキズムは存在しません。違いは認めつつも、差別はない世界なのです。実際の世界でアダム・ピアソンが活動家として目指す世界なんですよね。それはとても穏やかな世界で、映画自体もルッキズムに対する社会批判みたいな安易な体裁にもなっていないのです。そこも凄いなと思うのです。そして、この映画が本当に「普通の映画」になる日は来るのだろうか。