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  • 映画評|もう一つの『ブレードランナー』の映画化|”Taking Tigar Mountain” by Tom Huckabee and Kent Smith

    映画評|もう一つの『ブレードランナー』の映画化|”Taking Tigar Mountain” by Tom Huckabee and Kent Smith

    今回紹介する”Taking Tigar Mountain”はトム・ハッカビーとケント・スミスが監督、ビル・パクストンのデビュー作でもあるSF映画です。SF映画ですが、低予算ですので特殊効果なんて一切ない。設定だけ近未来。SF映画というよりは、むしろ、アートフィルムといった方がいいかも。ブライアン・イーノの同名アルバムとは関係ない……と思う。雰囲気としてはデヴィッド・リンチ監督作品の狂気的な部分。例えば、『ツイン・ピークス』シーズン3の問題の第8話や『インランド・エンパイア』のようなストーリーよりも不条理が前面に出ている感じ。

    Taking Tiger Mountain [Blu-ray]

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    • 発売日: 2019/07/02
    • メディア: Blu-ray

    非常に評価が難しい作品です。ボクはあまりアートフィルムが好きではないです。テーマ、ストーリー、キャラクターが曖昧になっている映画が多いから。ボクはこの三つの要素がしっかりとした映画が好きなんです。本作はこの三つの要素がかろうじて認識できる。だから、かなり混乱はしますが、ちゃんと観ていられる。そういうアートとエンターテインメントのバランス感覚もデヴィッド・リンチっぽいと思いました。

    舞台はウェールズ。フェミニズムの科学者テロリストたちに誘拐されたアメリカ人のビリー・ハンプトン(ビル・パクストン)。科学者たちに様々な処置をされ、男性的な性欲を抑制された上で、暗殺者としてとある村(売春が役割として政府に割り振られた村)に送り込まれます。果たして、暗殺は成功するのか、暗殺の目的は?……というのはあまり重要ではないのですが、そういう話です。

    本作のインスピレーションもとはウィリアム・S・バロウズの小説『ブレードランナー』(リドリー・スコットの映画じゃないよ)と実際にあったアメリカ人誘拐事件だそうです。確かに『ブレードランナー』っぽい世紀末感。人類の免疫力低下についても本作では言及されています。

    ブレードランナー

    ブレードランナー

    • 作者:ウィリアム・S. バロウズ
    • メディア: 単行本

    劇中では常にラジオ放送が流れています。主にニュースで占領されたアメリカの状況やドイツでの科学者テロリストたちの活動など。それ以外にも科学者テロリストたちの実験時の会話。ただでさえ複数の会話が重なっているのに場面も現在、過去、未来が編集で繋げられるため、これは現実なのか幻想なのか分からなくなってきます。この常に流れるラジオ放送は主人公の頭の中でずっと流れているのでしょう。これは気が狂う。

    この映画を観ていて思い出したのがもうすぐ日本でも公開されるロバート・エガース監督作品『ライトハウス』です。灯台(=ライトハウス)という隔離された環境で二人の灯台守が狂っていく話です。本作での主人公ビリー・ハンプトンは一人でやってる感じ。この村から抜け出せない。誰も引き止めていないのに。ひょっとしたら、これは主人公の精神世界なのではないか。村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』的な。そんな感じもします。これも『ライトハウス』と近い感覚。

     

  • 映画評|ロバート・ダウニー・ジュニアのお父さんが作った早すぎたブラックスプロイテーション|”Putney Swope” by Robert Downey Sr.

    映画評|ロバート・ダウニー・ジュニアのお父さんが作った早すぎたブラックスプロイテーション|”Putney Swope” by Robert Downey Sr.

    今回紹介する”Putney Swope”はロバート・ダウニー・シニア監督(ロバート・ダウニー・ジュニアのお父さん)による広告業界風刺ドラマです。ブラックスプロイテーションはメルヴィン・ヴァン・ピーブルズ監督『スウィート・スウィートバック』(1971年)が最初とされますが、それより2年早い1969年製作作品です。

    Putney Swope [Blu-ray]

    Putney Swope [Blu-ray]

    • 発売日: 2019/07/02
    • メディア: Blu-ray

    この作品は黒人監督作品ではないですが、その後のブラックスプロイテーション映画との共通点が非常に多いです。本作で音楽を担当するのがチャーリー・キューヴァという人で、ジャズファンクがとてもかっこいい。登場人物たちも広告代理店の社員なのにギャング風。普通に拳銃を持っている。白人は使えない奴らで、黒人が斬新なアイデアでビジネスをリードしていく。ね、ブラックスプロイテーションっぽいでしょ。

    Putney Swope

    Putney Swope

    • アーティスト:Various
    • 発売日: 2006/09/18
    • メディア: CD

    非常に低予算(25万ドル)で作られた作品ですが、とてもカッコいい。コントラスト強めの白黒映像と黒人特有の会話。初期のクエンティン・タランティーノとスパイク・リーを足して二で割った感じ。

    本作の舞台となるのは代表取締役が急死したため、投票で後任が選ばれることになった広告代理店。選ばれたのは唯一の黒人取締役だったパトニー・スウォープ(アーノルド・ジョンソン)。トップに立ったパトニー・スウォープは社員を黒人に入れ替え、社名も「トゥルース&ソウル社」に変更してしまいます。革新的なアイデアがヒット商品を続々生み出し、アメリカ大統領からも一目置かれる存在になりますが……という話です。

    内容は「もし黒人がメディアを席巻したら」というファンタジーを膨らませたもので、社会批判というよりは「アイデアを膨らませるのを楽しんだらこんなのができちゃいました」って感じ。結果的にそれが広告業界の風刺っぽく出来上がった。クールさが前面に来ているため、メッセージ性はあまり感じませんでした。

    ロバート・ダウニー・シニア監督は「もし○○だったら?」というアイデア発想が好きなようで、次作”Pound”(息子のロバート・ダウニー・ジュニアの映画出演デビュー作)では「もし人間が犬として里親が見つかるまで施設に収容されたら?」という作品です。だから、本作”Putney Swope”についても意識してブラックスプロイテーションを作ったわけではなく、たまたま発想がそういう方向へ向かったのだと思います。

  • 映画評|『インターステラー』のインスピレーション元のドキュメンタリー|”The Dust Bowl” by Ken Burns

    映画評|『インターステラー』のインスピレーション元のドキュメンタリー|”The Dust Bowl” by Ken Burns

    ジェームズ・キャメロン監督が六人の映画監督にインタビューした『SF映画術』という素晴らしい本があります。その六人のうちの一人が今を輝くクリストファー・ノーラン監督でした。ボクはクリストファー・ノーラン監督作品が大好きで、おそらく全ての作品を観ています、何回も。そのクリストファー・ノーランがインタビューで『インターステラー』(2014年)のインスピレーション元の一つとして挙げていたのがケン・バーンズ監督のドキュメンタリー作品『ダストボウル(The Dust Bowl)』でした。

    SF映画術 ジェームズ・キャメロンと6人の巨匠が語るサイエンス・フィクション創作講座

    SF映画術 ジェームズ・キャメロンと6人の巨匠が語るサイエンス・フィクション創作講座

    • 作者:ジェームズ・キャメロン
    • 発売日: 2020/09/30
    • メディア: Kindle版
     

    ダストボウルは1930年代のアメリカで実際にあった異常気象です。映画『インターステラー』をご覧になった方だったらわかると思いますが、あの映画で地球が置かれている人類が滅びるほどの砂嵐状態が実際にアメリカの一部ではありますがあったのです。映画で印象的な砂嵐。野球の試合を見ていたら、砂嵐の警報とともに信じられないくらい大きな砂嵐がやってくる。あんな映画みたいな砂嵐が実際にあったのです。むしろ、ダストボウルの本当の砂嵐の方が恐ろしいくらい。

    『インターステラー』映画レビュー|科学と愛が交錯する壮大なSF映画 – カタパルトスープレックス

    『インターステラー』でインタビューシーンがあるじゃないですか。砂嵐を経験した人たちのインタビュー映像。あれの元ネタも『ダストボウル』です。『ダストボウル』のインタビューシーンがそのまま『インターステラー』です。

    ケン・バーンズ監督は日本ではあまり知られていませんが、ドキュメンタリー映画の名手です。アメリカをテーマにする作品が多いから、アメリカ国外ではあまり評価されないのかもしれないですね。カントリー音楽とかジャズをテーマにしたり、建築家のフランク・ロイド・ライトやブルックリン橋をテーマにしたり。アメリカをテーマにするとやはりダストボウルは避けて取れないのでしょうね。スタインベックの小説『怒りの葡萄』やウディ・ガスリーの曲みたいにアメリカと切っても切り離せない作品はダストボウルを扱ってるわけで。

    しかし、アメリカ人ではないボクらが見ても映画『ダストボウル』は感じいるものがあります。なんといっても、ダストボウルは人工的に起きた最大の自然災害なのですから。現在の気象温暖化みたいなものです。開墾のために土地を覆っていたバッファローグラスを刈り取り、地表を露出させた。多くの人たちが小麦農業で一山当てようとしてどんどん土地を掘り起こした。その結果として起きたのが巨大な砂嵐でした。その砂嵐がシカゴやニューヨークまで届いてしまうのだから、その規模は凄まじいものでした。アメリカはダストボウルを経験しているんだから、もっと気象温暖化について真剣に考える人が増えた方がいいんじゃないかなあ。そんな感想を得た映画でした。

     

    インターステラー(字幕版)

    インターステラー(字幕版)

    • マシュー・マコノヒー

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  • 映画評|トーキング・ヘッズ『ストップ・メイキング・センス』のアップデート|”David Byrne’s American Utopia”  by Spike Lee

    映画評|トーキング・ヘッズ『ストップ・メイキング・センス』のアップデート|”David Byrne’s American Utopia” by Spike Lee

    デヴィッド・バーンのアルバム『American Utopia』(2018年)を元にしたブロードウェイのショウをスパイク・リーが映像化した作品です。デヴィッド・バーントーキング・ヘッズを解散してから1990年代のソロ活動はあまりピンと来ませんでした。それが2000年代からまたクリエイティビティーを取り戻して多くの楽しいアルバムをリリースして今日に至ります。

    デヴィッド・バーンのライブ映像作品としてはトーキング・ヘッズ時代の『ストップ・メイキング・センス』(1984年)が決定的なのですが、そこから30年以上たったアップデートとなります。そう思えるほど本作と『ストップ・メイキング・センス』には共通点が多いです。

    ストップ・メイキング・センス(字幕版)

    ストップ・メイキング・センス(字幕版)

    • 発売日: 2017/07/07
    • メディア: Prime Video

    まず、装飾を極力排除した舞台セット。本作の場合は演奏者と楽器しかありません。楽器も無線を使い、ラインは使っていません。『ストップ・メイキング・センス』もかなりシンプルでしたが、それをさらに突き詰めた究極のシンプルさ。また、演奏される楽曲も『ガールフレンド・イズ・ベター』や『サイコ・キラー』はないものの、トーキング・ヘッズ時代の曲が半数以上を占めています。

    証明に関してはかなり『ストップ・メイキング・センス』を意識して、影を効果的に使っています。

    しかし、『ストップ・メイキング・センス』にはなかったものが本作にはあります。それは映画(舞台)にとって重要なテーマとキャラクター造形。

    テーマは「より良い世界を作ろう」なんでしょうね。まだまだ人種差別もある、日本と同じで若い世代の投票率が低い。もっと、人に興味を持とう。今回はそのためのシンプルな舞台セットです。演者と観客。人と人。それだけ。なんか、スパイク・リーが本作を撮った理由がわかる気がします。

    トーキング・ヘッズは良くも悪くもフロントマンであるデヴィッド・バーンのバンドだったと思います。『ストップ・メイキング・センス』もそれを反映してズートスーツを着込んだデヴィッド・バーンだけが目立っていた。良くも悪くもです。2000年以降のデヴィッド・バーンは多くの人とコラボレーションをしてトーキング・ヘッズにとらわれない活動をしてきました。ファット・ボーイ・スリムと組んだ『Here Lies Love』やセイント・ヴィンセントと組んだ『Love This Giant』なんて近年の代表作ですね。コンピレーションアルバムの『Dark Was the Night』でダーティー・プロジェクターズと組んだ『Knotty Pine』とか最高でしたよね。

    本作でもデヴィッド・バーンの存在感は圧倒的なのですが、それぞれの演者の個性もスパイク・リーはうまく捉えていると思います。

    『ストップ・メイキング・センス』はやはり傑作ですが、ボクは本作も好きです。

  • 映画評|インドの実験的映像作家アミット・ダッタ|”Wittgenstein Plays Chess With Marcel Duchamp or How Not To Do Philosophy” by Amit Dutta

    映画評|インドの実験的映像作家アミット・ダッタ|”Wittgenstein Plays Chess With Marcel Duchamp or How Not To Do Philosophy” by Amit Dutta

    ボクはシネフィルと言えるほどは映画に詳しくないですが、それでもMubiに登録するくらいは映画を愛しています。Mubiは映画のサブスク(英語圏)で、ネットフリックスやアマプラにはないマニアックな映画を得意としています。あまりにマニアックなので、時としてFilmarksにすら登録されていない作品があります。つまり、日本未公開作品を紹介する趣旨のこのブログのネタ探しにはぴったりのサービスです。

    今回紹介するのはインドの実験的映像作家のアミット・ダッタです。インド映画といえばボリウッドのミュージカルが有名ですが、当然ながら前衛的な作品もあります。インド人的にいえば「そうじゃない映画」です。

    アミット・ダッタはアニメーションと実写の両方を作品としては作っています。ボクは彼の実写作品はアヴァンギャルドすぎて苦手なのですが、アニメーション作品は好きです。今回紹介するのは彼のアニメーション作品の最新作となる”Wittgenstein Plays Chess With Marcel Duchamp or How Not To Do Philosophy”です。つまり、哲学者のルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインとアーティストのマルセル・デュシャンがチェスをする話です。途中でマックス・エルンストも乱入してきます。

    ウィトゲンシュタインといえば『論理哲学論考』ですね。「語りえぬものについては、沈黙しなければならない」です。ボクもよくわかりません。すみません。マルセル・デュシャンは『泉』でアートの常識をぶち壊して、デュシャン以前と以後を明確に分けた人ですね。モノの意味は超越することができる。そう考えるとウィトゲンシュタインとデュシャンのチェスを通じた会話は楽しそうです。実際にボクは楽しみました。じゃあ、理解できたか?理解できませんでした。でも、それでいいんだと思います。

    「世界はそうであるモノの全てである」とウィトゲンシュタインは言いました。でも、「そうであるモノって何ですかね?」とデュシャンは問いかけるわけですよ。

  • 映画評|サイレント映画での特撮の鬼才チャーリー・バウワーズ|”The Extraordinary World of Charley Bowers”

    映画評|サイレント映画での特撮の鬼才チャーリー・バウワーズ|”The Extraordinary World of Charley Bowers”

    サイレント映画といえばチャーリー・チャップリン、バスター・キートンとハロルド・ロイドの「三大喜劇王」が有名ですよね。もう少しマイナーなところだと映画『僕たちのラストステージ』でその晩年が描かれたローレル&ハーディ(極楽コンビ)とかですね。しかし、才能があるのに、まったく忘れ去られてしまった人たちもいます。その代表格が今回紹介するチャーリー・バウワーズだと思います。Filmarksにすら名前も作品も登録されていない。

    チャーリー・バウワーズの特徴は特殊撮影。キートンなども特殊撮影を使っていますが、隠し味であってメインではない。バウワーズの場合はストーリーは特殊効果を使うための流れであり、メインは特殊効果です。特にピタゴラスイッチ的なガジェットとストップモーションアニメの組み合わせが特徴となっています。

    僕たちのラストステージ

    僕たちのラストステージ

    • 発売日: 2019/09/18
    • メディア: Prime Video

    今回紹介する作品集“The Extraordinary World of Charley Bowers”は現存するチャーリー・バウワーズの作品を集めてレストアしたものです。しかし、アメリカではほとんど残っておらず、フランスを中心としてヨーロッパでフィルムが見つかったそうです。そのため、英語作品なのにフランス語字幕がほとんどです。下のYouTubeはそのプレビューですが、とてもキレイにレストアされているのがわかると思います。

    初期の作品はアニメーション作品です。セルアニメのパイオニアはジョン・ランドルフ・ブレイで透明シートに描く手法を1910年代の半ばに確立しました。チャーリー・バウワーズはその当時最新の手法を使ってアニメーション作品を作り上げています。下のYouTubeはジョン・ランドルフ・ブレイの作品(1915年)ですが、チャーリー・バウワーズの最初の作品”The Extra-Quick Lunch”(1917年)と”A.W.O.L”(1918年)はその数年後に発表しています。ウォルト・ディズニーの『蒸気船ウィリー』が1928年ですから、かなり先駆的ですよね。

    チャーリー・バウワーズはその後に実写映画を作りはじめますが、ユニークなのはストップモーションアニメを取り入れているところです。実写とストップモーションアニメを融合させた作家としてカレル・ゼマン(『悪魔の発明』は傑作!)が有名ですが、それよりもずっと前にチャーリー・バウワーズが実写とストップモーションアニメの融合はやってるんです。

    “The Extraordinary World of Charley Bowers”に収録されている最初の実写映画”Egged On”(1926年)で既にストップモーションアニメーションが使われています。これがどれくらい凄いかというと、ストップモーションアニメーションを使った古典的映画『ロストワールド』(1925年)とほぼ同時期なんですよ。『ロストワールド』で特撮を担当したのはウィリス・オブライエン。「特殊効果の巨人」とされるレイ・ハリーハウゼンのお師匠さんの出世作です。そのウィリス・オブライエンの古典的名作とほぼ同時期というだけでなく、ガジェットを使ったユニークさではチャーリー・バウワーズの方が今の時代にも通用する普遍性を持っているとボクは思います。

    チャーリー・バウワーズはきっとエンジニア気質の人だったんじゃないかと想像します。だって、彼の映画はストーリーやテーマは今ひとつなんです。そこはチャップリンやキートンの方が優れている。しかし、特撮に関してはチャーリー・バウワーズの表現は現代でも通用する普遍性を持っている。

    機会があれば、是非、チャーリー・バウワーズの作品を観てみて下さい。

  • 映画評|ガイ・リッチー監督最新作は原点回帰の良作だった|”The Gentlemen” by Guy Ritchie

    映画評|ガイ・リッチー監督最新作は原点回帰の良作だった|”The Gentlemen” by Guy Ritchie

    日本未公開作品のレビューを書くリスクとは何か?それは、レビューを書く前に日本公開されてしまうことです。書籍の場合、そのリスクは大きくありません。書籍の翻訳って時間がかかりますから。しかし、映画の場合はレビューを書く前に日本公開されてしまうリスクは非常に高いです。今年はすでに『燃ゆる女の肖像』と『バクラウ/地図から消された村』がもう直ぐ日本公開されます。ああ、両方ともいい作品だから、日本公開が決まる前に、とっととレビュー書いておけばよかったよ!

    さて、このリスクは有名俳優が出演している有名監督作品だったらなおさら高くなります。現時点でのガイ・リッチー監督最新作である”The Gentlemen”がなぜいまだに日本未公開なのか、ボクにはさっぱり意味がわかりません。これ、日本で公開したら普通にヒットすると思いますよ。

    The Gentlemen [Blu-ray] [2020]

    The Gentlemen [Blu-ray] [2020]

    • メディア: Blu-ray

    舞台はイギリス。ミッキー・ピアソン(マシュー・マコノヒー)がオックスフォード大学の学生時代から築き上げたマリファナ組織を友人マシュー・バーガー(ジェレミー・ストロング)に売り渡し、引退を考えます。しかし、売り渡す前に問題が続発。果たしてピアソンは無事に引退できるのか?という話です。

    まずは構成の勝利です。中心人物はピアソンの引退までのストーリー(メインプロット)です。このストーリーの語り部は探偵フレッチャー(ヒュー・グラント)、聞き手は麻薬組織の右腕レイモンド(チャーリー・ハナム)です。タブロイド紙の編集長に依頼された捜査の結果をネタにお金を脅し取ろうとします。フレッチャーの脅迫は成功するのか?がサブプロットとなっています。

    サブプロットの中にメインプロットが入る構成になっています。この入れ子の構成のために、メインプロットの登場人物とサブプロットの登場人物を効果的に活用することができます。本作のキャストは本当に豪華なので、この構成のおかげでうまくすべての人を引き立てることができていると思います。

    例えば、事件に巻き込まれてしまう格闘技集団のコーチ(コリン・ファレル)なんて、よく使い切ったと思いますよ。ピアソンの妻を演じるミシェル・ドッカリーだって、出番は少ないのにちゃんとキャラクター造形ができてる。ミッキー・ピアソンが大切なものがよくわかるから、事件の幕の引き方理解できる。

    これ、絶対に続編やるだろうなあ。多分、同じガイ・リッチーが監督をしたロバート・ダウニー・Jr主演の「シャーロック・ホームズ」シリーズと同じくらいはうまくいくんじゃなかろうか。ロバート・ダウニー・Jr+ジュード・ロウのコンビも良かったけど、本作のマシュー・マコノヒー+チャーリー・ハナム+コリン・ファレルのトリオもまた見たくなる魅力がありますよ!

  • 映画評|セリフと音の不在が不安を生む|”Bait” by Mark Jenkin

    映画評|セリフと音の不在が不安を生む|”Bait” by Mark Jenkin

    今年はコロナ禍で生活のリズムが変化したために読書が減り、映画鑑賞が増えました。さすがに今年も後半になり、書評があまりに少ないことに気づき、大急ぎでたくさんの本を読みました。おかげでだいぶ読書もキャッチアップできた感じです。そして、ふと気がついたんです。あれ?今年は映画評をたくさん書こうと思ってたのに。しかも、日本では未公開映画の。というわけで、今年も残り少ないですが、映画評もキャッチアップしていきたいと思います。

    今回紹介するのはイギリス映画”Bait”です。監督はイギリスですでにドキュメンタリーなどを中心に多くの作品を手掛けているマーク・ジェンキン監督。ストーリーは単純で、セリフもあまりありません。セリフによる説明がほぼありません。それなのに(だからこそ)、この作品が生み出す緊張感は尋常ではありません。

    Bait [Dual Format] [Blu-ray]

    Bait [Dual Format] [Blu-ray]

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    舞台は観光化しつつある漁港コーンウォール。地元民と新しく来た観光業の対立がメインのストーリーです。元々いた漁師を代表するのがマーティン(エドワード・ロウ)です。マーティンの兄のスティーヴン(ガイルズ・キング)は漁業を諦め、漁船で観光客のためにツアーで生計を立てます。一方で観光業の代表が”Skipper’s Cottage”を経営するリー一家です。

    撮影はボレックスの16ミリカメラ(上の写真)で撮影されています。これがこの作品の大きな特徴の一つを生み出しています。家庭用のビデオカメラは8ミリカメラが多いのですが、ボレックスは家庭でも使える16ミリ映画カメラとして普及したのだそうです。マーク・ジェンキン監督が使ったカメラは録音機能がなかったため、セリフなど音声は後からアフレコをあてました。これが二つ目の特徴的な効果を生み出しています。

    二つの特徴的な効果とは……

    1. 編集とモンタージュ
    2. 効果的な音の使い方

    ……です。

    この作品はかなり独自の編集とモンタージュで構成されています。カットアウェイともジャンプカットとも違う。大事なシーンでは時系列や場所がバラバラになります。しかし、支離滅裂ではない。何が起きているのかはわかる。

    ボクは独りよがりで自己満足な前衛表現は大嫌いです。この作品で使われている独自の編集は決して監督の独りよがりではない。ちゃんと観客に伝えたいことがあるから、あえてそうしているんだと思います。だから、ボクみたいな前衛表現が苦手な人間にもちゃんと伝わる。

    特に独自のモンタージュが使われるのは漁師の代表であるマーティンと観光業の代表であるリー夫婦が交わる時なのです。この独自の手法で緊張感を高めている。観客を不安にさせるんですよね。最初はそれほどストレスではないのだけれど、それが続くとどんどんストレスが蓄積される。これがこの作品独自の緊張感を生み出しているんだと思います。

    この作品にはほとんど音がありません。かすかに波の音、かもめの鳴き声が聞こえる程度です。バーでは音楽がかかりますが、それも作品ではかなり抑えられているので、どんな曲かまでは判別できません。

    この作品は「存在」よりも「不在」が重要な意味を持つ映画です。「何があるのか」ではなく「何がないのか?無くなったのか?」が大事です。例えばコーンウォールの漁業です。人の存在よりも人の不在の方がより大きな意味がある。その象徴が音なんだと思います。音がない世界。それがコーンウォールです。釣餌は何か?その釣餌の罠にハマっているのは誰か?

  • ジャン=クロード・カリエールについて

    ジャン=クロード・カリエールについて

    コロナ禍の間、通勤しなくなり、通勤時間の間にオーディオブックで「読書」する習慣がすっかりなくなってしまいました。移動時間がなくなり、読書時間が減りました。その代わり増えたのが映画を観る時間です。ちゃんと数えるのも面倒ですが、今年に入って既に300本以上の映画を観ました

    いろいろ映画を観て、一人の脚本家の名前が頭に刻み込まれました。それがジャン=クロード・カリエールです。日本でも著書が何冊か翻訳出版されています。yomoyomoさんの『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて』はウンベルト・エーコとジャン=クロード・カリエールの共著である『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』からとってるんですね。でも、おそらく一番有名なのは『ブリキの太鼓』(1979年)や『存在の耐えられない軽さ』(1988年)のような映画の脚本家としてでしょう。

    もうすぐ絶滅するという紙の書物について

    もうすぐ絶滅するという紙の書物について

    • 作者:ウンベルト・エーコ,ジャン=クロード・カリエール
    • 発売日: 2010/12/17
    • メディア: 単行本

    ピエール・エテックスとの共同作業

    ジャン=クロード・カリエールの脚本家としてのキャリアはピエール・エテックスと共にはじまりました。ピエール・エテックスはフランスのコメディアンで映画監督です。お互い初めての映画作りでしたが、二作目の短編『幸福な結婚記念日』(1962年)でいきなりアカデミー短編映画賞を獲得しました。ピエール・エテックス監督とジャン=クロード・カリエールの共同作業で特筆すべきは二作目の長編『ヨーヨー』(1965年)でしょう。

    ピエール・エテックス監督はチャップリンやキートンのようなスラップスティックをこよなく愛し、作品スタイルとしました。当時としては時代錯誤もいいところです。そんな彼がサイレント映画とサーカスにオマージュを捧げたとても美しい作品が『ヨーヨー』です。サーカス愛といえばフェデリコ・フェリーにですが、本作は『8 1/2』から強い影響を受けたそうです。そして、フェリーニに対するオマージュもこの作品には織り込まれています。こんな美しい作品が日本で未公開なんてもったいない!(日本未発表作品を扱う本ブログの面目躍如ポイント)

    ピエール・エテックスの監督作品はクライテリオン・コレクションからボックスセットが発売されています。

    PIERRE ETAIX

    PIERRE ETAIX

    • メディア: Blu-ray

    ルイス・ブニュエルとの共同作業

    ジャン=クロード・カリエールが映画のキャリアをはじめたのはピエール・エテックス監督との共同作業でしたが、脚本家としての確固たる地位を築いたのはルイス・ブニュエル監督との共同作業でした。

    ルイス・ブニュエルはスペイン人の監督です。有名なのは『アンダルシアの犬』やサルバドール・ダリと作った『黄金時代』などシュールレアリズム作品かもしれません。しかし、本当の真価が発揮されるのはメキシコ時代でしょう。メキシコ時代に様々な作品を作っていますが、特徴として強く現れているのが不条理映画『皆殺しの天使』。

    メキシコを離れヨーロッパに戻ったルイス・ブニュエルがパートナーとして選んだのが駆け出しの脚本家だったジャン=クロード・カリエールでした。ジャン=クロード・カリエールと組んだ後期のルイス・ブニュエルを一言で表せば「変態」です。澁澤龍彦が『澁澤龍彦映画論集成』でフランス時代のルイス・ブニュエルをその変態性において大絶賛しています。その代表作が『自由の幻想』だと思います。メキシコ時代もかなり変な映画を作っていたルイス・ブニュエルですが、そこに明確な「変態」が加わったのは、紛れもなくジャン=クロード・カリエールの影響でしょう。

    澁澤龍彦 映画論集成 (河出文庫)

    澁澤龍彦 映画論集成 (河出文庫)

    • 作者:澁澤龍彦
    • 発売日: 2013/02/15
    • メディア: Kindle版

    ルイス・ブニュエルのフランス時代の監督作品は日本でも角川からボックスセットが発売されています。

    ルイス・ブニュエル 《フランス時代》 Blu-ray BOX

    ルイス・ブニュエル 《フランス時代》 Blu-ray BOX

    • 発売日: 2018/07/27
    • メディア: Blu-ray

    そんなジャン=クロード・カリエールの変態性が垣間見える著作が『万国奇人博覧館』と『珍説愚説辞典』でしょう。ジャン=クロード・カリエールは人間の想像力を測る尺度が三つあると言います。「驚異」と「愚行」と「奇行」です。驚異の中身が的外れで愚かなのが「愚行」で、それを集めたのが『珍説愚説辞典』です。そして、自由意志の発露が「奇行」です。ジャン=クロード・カリエールの定義によればです。彼の書いた本は本当に面白いから、機会があったら読むといいですよ。

    そして、彼が書いた書籍を読めば、ルイス・ブニュエルの後期作品に垣間見れる変態性は間違いなくジャン=クロード・カリエールによってもたらされたのだと確信するのです。

    万国奇人博覧館

    万国奇人博覧館

    • 作者:ブクテル, ギィ,Bechtel, Guy,カリエール, ジャン‐クロード,Carri`ere, Jean‐Claude,信次, 守能
    • メディア: 単行本

    珍説愚説辞典

    • 作者:J.C.カリエール,G.ベシュテル,高遠 弘美
    • 発売日: 2003/09/20
    • メディア: 単行本
     

     

     

  • 映画評|1980年代アッパークラスの1990年代からの眺望|”The Last Days of Disco” by Whit Stillman

    映画評|1980年代アッパークラスの1990年代からの眺望|”The Last Days of Disco” by Whit Stillman

    1990年初頭から脚光を浴びたインディー映画監督といえばスパイク・リー、アキ・カウリスマキ、クエンティン・タランティーノを筆頭にケビン・スミスやハル・ハートリーなどたくさんいますね。それに比べてホィット・スティルマンは同じ時期に自主制作で脚光を浴びた監督なのですが、あまり目立ちません。

    これはホィット・スティルマン監督が1990年代に「1980年代のアッパークラス」というあまり一般受けしないテーマを描いていたからだと思います。一部の物好きにはすっごく好まれるのだけれども、ほとんどの人からは見向きもされない。しかし、好きな人は大好きですし、品質も非常に高い映画なのでクライテリオンから初期三部作がちゃんとレストアされてBlu-rayで発売されています。この初期三部作の中の最初の二作は日本でも公開されました。『メトロポリタン』(Filmarksのレビュー)と『バルセロナの恋人たち』(Filmarksのレビュー)です。

    今回取り上げるのは日本で公開されなかった三作目『ラスト・デイズ・オブ・ディスコ』です。

    ホィット・スティルマン監督作品の特徴は1990年代から1980年代の青春の眺望です(アッパークラス限定)。1980年代の青春映画といえばブラット・パックが活躍した『ブレックファスト・クラブ』や『セント・エルモス・ファイアー』を思い受けべますよね。しかし、ホィット・スティルマン監督が描くのはそれよりも少し上のクラスの若者たちです。具体的には名門市立大学に入学するためのプレップスクールに通う「プレッピー」たちや若くて上昇志向の高いビジネスパーソンである「ヤッピー」たちです。なんか、聞いただけで胸糞悪いでしょ?最近はあまり使われませんがスノッブと揶揄された人たちです。

    映画『ウェインズ・ワールド』(1992年)でロブ・ロウが演じたテレビプロデューサーのベンジャミンなんて、典型的なヤッピーです。つまり、イジル対象なんですよ。みんなイケすかないと思っているから。1990年代にスノッビーなアッパークラスは真面目に描く対象ではありませんでした。おそらく今でもそうです。それを正面から描いたのがホィット・スティルマン監督でした。そこが逆にパンクでしょ。今回紹介したい三作目の『ラスト・デイズ・オブ・ディスコ』は日本で公開されていないのですが、私が考えるホィット・スティルマン監督作品の最高傑作です。非常にもったいない。

    舞台は1980年代初頭のニューヨーク。1970年代から続くディスコブームがそろそろ下火になってくる頃です。この映画は女性たちのメインプロット(恋愛感のすれ違い)と男性たちのサブプロット(脱税捜査)で構成されています。

    メインプロットの主人公は大人しい性格のアリス(クロエ・セヴィニー)とセックス革命に感化されているイケイケのシャーロット(ケイト・ベッキンセイル)です。二人は同じ出版社に勤めてメディアで成功することを望んでいます。同時にイケてるヤッピーにもなりたい。シャーロットはヤッピーらしく「イケてる女性」になるためにアリスに色々とアドバイスをします。しかし、そのアドバイスのせいで二番目に好きだった男性のトム(ロバート・ショーン・レナード)に遊び人だと思われてしまいます。トムに処女を捧げたのに淋病とヘルペスをうつされてしまう。そして、尻軽女として捨てられてしまいます。

    サブプロットの主人公はクラブのマネージャーのデズ(クリス・アイグマン)、広告会社に勤めるジミー(マッケンジー・アスティン)と地方検事補のジョシュ(マット・キースラー)です。このサブプロットはサスペンスなのであまりネタバレになるのは避けます。この三人とメインプロットの二人はグループで行動するのですが、そこでの会話がスノッブなのですが洒落ています。

    特にボクが好きなのがディズニーの『わんわん物語』についての会話。血統書つきコッカー・スパニエルのレディと野良犬トランプの恋愛映画です。真面目なアリスと地方検事補のジョシュは「気が滅入る映画」と評します。トランプはごろつきで浮気者なのにレディは許して結婚してしまう。「女性は悪い男に惹かれるイメージ」を視聴者に刷り込んでいる。一方でイケイケのシャーロットとクラブのマネージャーのデズは野良犬トランプの成長の物語だと捉えます。正解なんてないですが、違う意見を知性的に語れる仲間ってすごくいいと思うんですよね。ホィット・スティルマン監督作品はそういう会話がたくさんあります。

    この映画は1980年初頭のクラブシーンも描いています。登場するクラブのモデルになったのは”Studio 54“です。この他にもガラージを生み出した”Paradise Garage“や多くのクラブに影響を与えた”The Loft“などがニューヨークにありました。このようなクラブはあまりにも人気のため、入場制限がありました。入れる人たちはある種の特権階級でした。そういうスノッビーな姿勢が嫌われたりもしました。1970年代中頃から始まる音楽としてのディスコシーンですが、1980年代中頃にはすっかりと寂れてしまいます(クラブはユーロビートやニュージャックスウィングなど常に新しい音楽を取り入れて生き残りますが)。

    この映画でディスコは「若い日々」の隠喩です。常に新しい音楽が生まれるように、常に新しい世代が生まれる。若い日々は続かない。でも、世の中には常に「若い日々」が溢れている。クラブには常に新しい音楽が溢れているように。最後のシーンがそれを表しています。あのラストは本当に大好きです。