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  • 書評|「価値」と「生産性」の再定義|”Value of Everything” by Mariana Mazzucato

    書評|「価値」と「生産性」の再定義|”Value of Everything” by Mariana Mazzucato

    日本は生産性が低いといわれていますが、それは本当でしょうか。

    生産性の計算は労力や資本といったインプットに対して、どれくらい価値を生み出したかというアウトプットから算出されます。では、そのアウトプットである「価値」ってなんでしょう?一般的にはアウトプットは国内総生産(GDP)を使います。では、GDPが定義する「価値」とはなんでしょう?マリアナ・マッツカートは新著”Value of Everything”でGDPの歴史から経済活動における価値の変遷を紐解いていきます。

    The Value of Everything: Making and Taking in the Global Economy

    The Value of Everything: Making and Taking in the Global Economy

    価値の源泉はなにか?

    そもそも経済活動における「価値」ってなんでしょうか?というのが最初の問いかけとなります。マリアナ・マッツカートは国内総生産(GDP)の歴史から経済活動における価値の変遷を紐解いていきます。GDPを計算するうえで大切なのが生産境界(production boundary)です。生産境界の内側にあるものが「価値」があり、GDPに計上されます。生産境界の外側にあるものは「価値」がないため、GDPには計上されません。

    国の力を測る基準は時代によって変わってきました。最初のころは農業が中心だったので、農業が生産境界の内側(価値を生み出す側)にあり、職人や商業は外側(価値を享受する側)にありました。工業化が進むと工業が生産境界の内側に入りました。そして、金融が生産境界の内側に入りました。この測定基準は標準化され、国際基準が国連が定める国民経済計算(SNA: System of National Accounts)となりました。GDPはSNAが基準となっています。

    生産境界の内側(価値を生み出す側)と外側(価値を享受する側)は新自由主義によって曖昧になりました。価値は市場が決める、価格がついているサービスや商品はすべて価値ということになってしまいました。ただ、そうしてしまうと公共サービスやボランティア活動は価値がないということになってしまいます。家事も同様。

    GDPは生産面、分配面、支出面の三つの見方ができます。生産面が価値創出なのですが、原価と売価の差が「付加価値」となります。ただ、政府が提供する公共サービスって価格がないので生産面にはあまり入ってきません。政府の支出がGDPに入るのは支出面が大きくなります。単純にGDPの計算方法だけみてしまうと、政府はお金を使うばかりで、価値を生み出さないという感じになってしまいます。

    価値の創造と抽出

    1975年から2017年にかけてアメリカのGDPは3倍増え、生産性は60%向上しました。この伸びには主にアメリカとイギリスの金融業界の発展が関わっています。多くの国がアメリカとイギリスの成功に見習って金融の規制緩和と強化を目指しました。それに成功したのがシンガポールであり、香港ですね。具体的にはFISIM(間接的に計測される金融仲介サービス)がGDPを計算する標準である国民経済計算(SNA)に含まれるようになった1993年からです。しかし、賃金は増えていない。つまり、40年近く、数%のエリートのみが富の伸びを享受していると指摘しています。

    ボク個人は農業は内臓、製造業は筋肉、金融業は心臓や血管などの循環系だと考えています。栄養自体は胃袋である農業が抽出して、それが体の部品である製造業となる。そして、それを運ぶのが金融業の役割。最近だとテクノロジー業界もそうなのかもしれません。

    マリアナ・マッツカートも金融業界やテクノロジー業界の価値を否定してはいないのですが、「お前ら、もらいすぎやろ!」と考えているようです。つまり、価値を生む側ではなく、価値を抽出する側であるといいます。

    金融業、製薬業、テクノロジー業に共通して言えるのは「オレらリスク取ってますから!」ということですが、金融業は金融破綻で政府の救済を受けました。つまり、実際にはほとんどリスクを取っていません。損しても政府が助けてくれます。製薬業に関しても研究開発の支出が多いことで知られていますが、実を言えばそのほとんどは模倣品の”Me Too”ドラッグで新薬開発への投資は非常に少ない。テクノロジー業界にしてもVCが投資するのは基礎研究ではなく、売れる技術です。基礎研究にお金を出しているのは政府の補助金だったりします。Webだって、インターネットだって民間企業が開発したものではありません。本当の意味でリスクを取っているのは政府です。スタートアップに投資している投資家ではありません。

    ショシャナ・ズボフの新著”The Age of Surveillance Capitalism”でも監視資本主義を生み出したGoogleは抽出の革命を起こしたと指摘していて、「抽出」という言葉を使っているのが共通点です。

     この本はどんな人にオススメか

    この本はGDPの歴史本とも言えます。GDPは国力を測るツールとして開発されましたが、時代によって「価値」の定義は変遷してきました。そして「生産性」も同様に変化してきましたし、これからも変化するでしょう。「日本の生産性は低い」というのはそう簡単に言えるものでもないのです。むしろ、近年になって急速に「価値」を生み出すようになった金融とテクノロジーの波に乗り遅れたというべきでしょうね。製造業のままで金融業と同じ「生産性」を実現しようとしたって、それはなかなか難しいのではないでしょうか。

    「生産性」を語るには様々な視点が必要となります。この本はそんな視点を提供してくれる人とです。もちろん「サービス残業」とか無くなった方がいいですし、テクノロジーを活用して効率的な仕事ができるようになった方がいいです。ただ、そういう小手先のことだけでなく、もうちょっと根本的な変化が必要なんじゃないですかね。

  • スタートアップ国家エストニアの脆弱性

    スタートアップ国家エストニアの脆弱性

    エストニアでマネーロンダリング(資金洗浄)が行われている疑いがあるとして、世界を騒がせています。ノルウェーのダンスケ銀行のエストニア支店を通過した約26兆円に相当する資金が疑わしい取引であったということです。いま、このスキャンダルはドイツ銀行やウェルス・ファーゴなどほかの銀行にも広がっています。

    事件の概要

    一般的には外国人が銀行口座を作るのはとてもハードルが高いです。顧客確認(KYC: Know Your Customer)が厳しいのも資金の不正な流通を妨げるためですが、今回の事件ではこれが機能していなかったということになります。事件の概要はこうです。

    • ロシア通貨ルーブルは国際的に流通需要が少ないソフトカレンシーな上、価値の変動が激しい。このため、資産を守るためにユーロや米ドル、英ポンドのようなハードカレンシーへの換金需要がある。しかし、ハードカレンシーへの換金は法律で制限されている。
    • ロシアではそもそも非合法な手段で得たり、出所が不明瞭な資金が多い。そのようなお金はマネーロンダリングして、きれいにしないと使えない。
    • 資金を国外に移動して洗浄したい人は、エストニアに口座を持ち、そこに粉飾見積もりの差額を業者に入金してもらう。
    • エストニア口座に入金した資産を、イギリスの口座に移し、さらに英領バージン諸島など転々とさせる。

    マネーロンダリングに関しては猫組長の『猫組長と西原理恵子のネコノミクス宣言』が読みやすくて面白いのでお勧めです。

    猫組長と西原理恵子のネコノミクス宣言 完全版

    猫組長と西原理恵子のネコノミクス宣言 完全版

    eレジデンシー(仮想住民制度)とマネーロンダリングの関係

    エストニアはスタートアップ的な国家として様々な先進的な施策を実施してきました。その中心となっているのがエストニアに居住しなくてもエストニアで起業できるeレジデンシー(仮想住民制度)の仕組みです。このeレジデンシーがはじまったのは2014年からですが、問題となっている資金洗浄はそれ以前(わかっているだけで2007年)からありました。そのことからもわかるように、エストニアの先進的な取り組みと今回の事件が直接的に関係しているということではなさそうです。それでも、今回の事件でエストニアのイメージ低下は避けられそうにありません。

    捜査はアメリカ、イギリス、フランスなど国をまたいで行われていて、今回のスキャンダルの全容はまだ明らかになっていません。これが単に濡れ衣なのか、本質的に何か脆弱性があるのかわからないため、エストニアも風評被害を抑えようとしています。

    経済大臣のViljar LubiはMediumでeレジデンスの仕組みは資金洗浄が難しい理由を解説するブログポスト”Here’s why money launderers are disappointed with e-Residency“を発表しました。要約するとポイントは以下の四つです。

    • 申請者は警察による身元確認が行われ、IDカードを受け取るためには警察やエストニア大使館など所定の場所で本人が受け取らないといけない。
    • デジタルIDカードを使ってエストニアで企業を設立するのと、一般のエストニア市民がエストニアで企業を設立するのと違いはない。エストニアでライセンスを持つ代表者を立ててマネーロンダリングを含むリスクを開示しなければいけない。
    • 仮想住民がエストニアで銀行口座を開設する場合も同様にそれぞれの銀行でエストニア市民と同じ審査が適用される。
    • エストニアの商法に違反した仮想住民はその権利をはく奪される。

    エストニア政府のeレジデンシー(仮想住民制度)とマネーロンダリングは関係ないという主張はおおむね合理的だと思います。ただ、それはベースとなるエストニアの金融制度や法整備に問題がないことが前提となっています。今回の事件はeレジデンシー(仮想住民制度)のベースとなる根本的なエストニアのビジネスインフラに関して疑問符がついてしまった形になっています。ここからきちんと信頼回復をしていかないと、スタートアップ国家としてのエストニアブランドは厳しいことになりそうです。

  • 金持ちのキャッシュレスと貧困のキャッシュレス

    金持ちのキャッシュレスと貧困のキャッシュレス

    キャッシュレスの大きな需要は二つあります。ひとつは富裕層ためのキャッシュレスで、もうひとつは貧困層のためのキャッシュレスです。この二つの異なる需要はきちんと分けないといけないなあと思います。 富裕層とか貧困層って日本ではあまりピンと来ないかもしれません。日本人は世界的に見れば富裕層です。銀行口座を持っているというだけで、かなり恵まれています。日本は銀行口座の保有率がほぼ97%(リンク先はPDF)で、クレジットカードの保有率は85%です。

    金融機関を利用できる状態のことを金融包摂(きんゆうほうせつ|Financial Inclusion)というのですが、日本人のほとんどは金融機関を通じた経済活動が行えています。「経済活動」というと難しそうですが、要するにカードを使った買い物や、銀行引き落としで光熱費を支払うなどです。お金がなければキャッシングだってできます。

    アンバンクドのキャッシュレス

    一方で、銀行口座のない成人は世界で17億人います。銀行口座を持たない人たちを「アンバンクド」といいます。世界銀行のGlobal Findexによると、銀行口座を持たないアンバンクドの割合はアフリカが高いです。特に北アフリカを除くサブサハラアフリカは半数以上の66%がアンバンクドです。アンバンクドはバンクレスな人たちですが、キャッシュレスの技術が金融サービスへのアクセスを提供しています。お金があまりない人にキャッシュレスとは何とも皮肉な言い方ですが。

    アンバンクド率が高いサブサハラアフリカの中でも突出して金融包摂がすすんでいるのがケニヤです。モバイルペイメントサービスのMペサの口座保有率が93%を超えています。Mペサは2007年にケニヤではじまったモバイルペイメントです。スマホでなくガラケーで使えるため、大変普及しました。タンザニアやアフガニスタンでも普及しているのですが、アフガニスタンでは警官の給料支払いに使われました。アフガニスタンの場合は給料の中抜きが横行していたため、Mペサで給与を直接支払うことで不正が減り、昇給したと勘違いする警官が多かったそうです。

    Mペサはほかの国にも進出したのですが、あまりうまくいっていません。一人当たりのGDPが6000ドル以上とアフリカ最高です(ケニアは1/4の1500ドル)というのもありますが、南アフリカは銀行口座の普及率が77%で、口座を持つことへのニーズ自体がケニヤほどは高くないのです。Mペサのようなモバイルペイメントはアンバンクド層には魅力的なのですが、銀行口座をすでに持っているバンクド層にはあまり魅力的ではないということです。

    先進国の金持ちキャッシュレスと貧困キャッシュレス

    先進国にもアンバンクド層は存在します。アメリカでも6.5%がアンバンクド層で、その多くがアフリカ系黒人やヒスパニックといったマイノリティーです(リンク先はPDF)。イギリス政府なども同じですが、公共サービスはデジタルだからいいというものではありません。大前提として使う人の利便性が高まり、より多くの人がサービスを受けられることが大切です。買い物や公共料金の支払いなどは基本的には差別があってはいけないものです。

    金持ちのキャッシュレス

    デジタル技術は富裕層のエクスペリエンスを高めます。アメリカやヨーロッパでは現金を受け付けないSweetgreenのような小売業が増えてきていますし、安くていい品を売るBrandlessのようなオンライン専門のショップも増えてきています。これが高級店だったら、そもそも貧困層はターゲットではないから仕方がないという見方もあります。しかし、貧困層でも買えるような安くて、いい品だったらどうでしょうか。

    貧困層のキャッシュレス

    貧困層の経済活動の促進にも役立てるべきという考え方も成り立ちます。アメリカではBlue Birdのようなプリペイド方式のデビットカードが普及しはじめています。口座がなくてもカードに直接お金をためておいて、それがカードとして使える。

    中国もインドもすでに先進国といっていいと思いますし、キャッシュレスが急速に浸透してきています。その背景にはもともとたくさんいたアンバンクドの存在があります。インドの場合は自ら進んでアンバンクドだったんですけどね、そうも言ってられなくなりました。

    アンバンクド層はアンバンクドの人口が一番多いのは中国で、その次がインドになります。まあ、単純に人口が多いですからね。中国のフィンテック事情インドのフィンテック事情に関しては以前に書いたので興味があればリンクを参照してください。

    このように技術は先進国における金融包摂(きんゆうほうせつ|Financial Inclusion)のギャップを解消することも期待されています。中国やインドで低所得者層にまでキャッシュレスが急速に普及しているのもこのような社会的背景があります。

  • イギリスの取り組みから学ぶ児童相談所問題とサービスデザイン

    イギリスの取り組みから学ぶ児童相談所問題とサービスデザイン

    千葉小4虐待死事件から自動相談所の問題点について多くが語られるようになりました。自動相談所の対応が杜撰だったと「質」を批判する声が上がるとともに、児童相談所の職員はそもそも足りておらず、対応が追いつかないと「量」の問題を提起する声も上がりました。実を言えば「質」の問題はなかなか解決が難しく、「量」の問題の方が解決しやすいです。

    実際に安倍晋三首相は2019年2月9日に児童相談所の専門職員を5000人体制にする意向を表明しました。現在は3200人で、来年度から4200人に増やし、その後5000人体制にするそうです。まずは、「量」の問題を解決する姿勢を示しました。

    「量」の問題と「質」の問題の解決方法

    もちろん「量」の問題を解決するのは大切です。「量」の問題とはベースとなる数字の問題です。例えば10+10=20で例えれば「10」を「40」にして10+40=50にするのが「量」の問題の解決方法です。そもそも50必要なのに10しかないのであれば、まずは40足すしかないでしょう。

    一方で、「質」の問題は演算子の問題です。同じ10+10=20をたとえに使えば、「+足し算」を「×掛け算」にして10×10=100にするのが「質」の問題の解決方法です。「質」の問題の解決方法はスタートアップでは「スケールするやり方を見つける」と言います。例えば、「数が足りていれば児童相談所は誤った判断をしなかったのか?」という問題です。正しい判断が個人に依存せずに(できる/できない)というのは質の問題です。

    それでは、いきなり「+足し算」を「×掛け算」にできるかと言えばそんなことはありません。「スケールしない方法」から学び、徐々に「スケールするやり方を見つける」必要があります。じゃあ、そうすればいいじゃない?と思いますよね。しかし、これがなかなかできません。

    「質」の問題解決に転換できない原因

    誰しも「悪いことをしてやろう」とか「子供なんて適当にしておけばいい」なんて思っているはずはなく、それは児童相談所で働く人たちも同じです。たくさん人数がいるので、ひょっとしたらいるかもしれませんが、それほど多くないはずです。だから、「質」の問題と言われると抵抗感を感じることもあるでしょう。

    「こんなにガンバっているのに」

    問題は個人の頑張りではなく、仕組みです。「10」はどれだけ頑張っても「10」ですし、残業して「12」にしても長続きはしません。つまり、スケールしません。「スケールするやり方を見つける」というのは個人が頑張らなくてもできる仕組みを作るということです。

    この、仕組みを作るというのは「言うは易く行うは難し」です。特に児童相談所のような公共サービスはそうです。様々なステークホルダーがいますし、法律など従わなければいけない規則もあります。

    優先順位と信念

    自分自身、様々なサービスのプロジェクトに関わった経験上、日本のプロジェクトでデザインプリンシプルを定めているケースはあまりないように感じます。「質」の問題があるとしたら、第一の理由はここにです。プリンシプルというのは日本語では「原理原則」です。法律でいえば憲法のようなものです。

    イギリス政府のデジタル公共サービスの場合ですとデザインプリンシプルは以下になります。

    1. ユーザー起点(Start with users)
    2. なるべく少なく(Do less)
    3. データに基づいて設計する(Design with data)
    4. シンプルにするために頑張る(Do the hard work to make it simple)
    5. 繰り返し改善(Iterate. Then iterate again)
    6. 全ての人のために(This is for everyone)
    7. 背景を理解する(Understand context)
    8. Webサイトではなくデジタルサービスを作る(Build digital services, not websites)
    9. 統一性ではなく、一貫性を持たせる(Be consistent, not uniform)
    10. オープンにする。オープンにすれば良くなる(Make things open: it makes things better)

    おそらく特徴的なのは6番目の「全ての人のために(This is for everyone)」でしょう。これは公共サービスならではです。民間のサービスですと、ターゲット顧客がいて、そのターゲット顧客に最適かすることで効率化を行います。しかし、公共サービスですと市民全員がユーザーですので、インクルーシブなデザインを心がける必要があります。

    しかし、一番重要なのは1番目の「ユーザー起点」でしょう。ユーザーからはじめる。これを原理原則とする。そのためにはまずはユーザーを理解しなければいけません。では、どのようにユーザーを理解すればいいのでしょうか。

    ユーザー起点で考える公共サービスデザイン

    サービスデザインの考え方ではユーザーは二種類あります。一つはサービスを受ける側。もう一つはサービスを提供する側です。児童相談所の場合、相談をする児童や関係者がサービスを受ける側で、児童相談所の職員やその関係者がサービスを提供する側になります。この関係性を描く図式をサービスブループリント(以下の図)と言います。

    サービスブループリントではサービスを舞台に見立て、サービスを受ける側の舞台を「フロントステージ」、サービスを提供する側の舞台を「バックステージ」と呼びます。そして、左から右へプロセスを書いていきます。フロントステージのユーザーが右端まで来るとき、問題が解決されていなければいけません。

    それを「バックステージ」のユーザーのユーザーがどのようなプロセスや仕組みで「フロントステージ」のユーザーを助けるのかを「バックステージ」のプロセスとして描きます。サービスブループリントを描くためには「フロントステージ」と「バックステージ」双方のユーザープロセスとそれを支える仕組みを棚卸しなければいけません。上記のデザインプリンシプルでは7番目の「背景を理解する(Understand context)」がここにあたります。その時に重要なのが「タッチポイント」の概念です。

    例えば、児童相談所に相談したい児童がいた場合、その児童がどのように最初のコンタクトを児童相談所にするのか?何か書類があるのか?Webサイトから申し込むのか?それとも、児童相談所に直接行くか、電話をするのか?その場合、児童相談所の住所や電話番号はどうやって調べるのか?Googleで検索するのか?このハイライトした部分が全てタッチポイントです。タッチポイントは「フロントエンド」と「バックエンド」をつなぐラインです。ユーザーである児童がLINEをよく使うのであれば、LINEが最も適切なタッチポイントである可能性は高いです。ユーザー起点でタッチポイントを考えるというのはこういうことです。

    このラインが断線しているとサービスを受けることができません。例えば、児童相談所の住所や電話番号がわかりづらければサービスは断線してしまいます。また、脱線してしまうと、本来受けたいサービスが受けられずにたらいまわしになります。所得税なのか住民税なのかで税金を納める場所が違いますが、こういう場合は脱線が起きやすいです。この断線と脱線の概念もサービスデザインやUXでは非常に重要な概念です。

    事実をベースにデザインする

    このようにサービスを「フロントステージ」と「バックステージ」に分けて整理をするとどこで断線が起きるのか、どこで脱線するのか、どこで停滞するのかが見えるようになります。これは観察から導き出してもいいですし、何かシステムを使ってデータをとってもいいです。何れにせよ「なんとなくそう思う」ではなく、事実ベースで整理整頓をすることが必要になります。3番目のデザインプリンシプルである「データに基づいて設計する」です。

    この整理整頓のフェーズとデザインのフェーズでは必ず憲法であるデザインプリンシプルに従っているのかを確認する必要があります。特に2番目の「なるべく少なく」や4番目の「シンプルにするために頑張る」は常に意識しないとできません。

    多くのプロジェクトは仕組みを作ることがゴールとなってしまいます。そのため結果を振り返ることは稀です。振り返らなければ学びは失われます。そこで重要なのが5番目のデザインプリンシプルである「繰り返し改善」です。仕組みを作ることがゴールではなく、ユーザーの問題を解決することがゴールです。そのためには常にデータを取り、データに基づいて繰り返し改善をする必要があります。

    イギリスの公共サービスデザインから学ぶ

    イギリスの公共サービスデザインからは学ぶことが多くあります。多くの事例をこのブログでは翻訳していますので、ぜひ参考にしてみてください。

     

  • ルールは何のため?大切なものを守るため

    ルールは何のため?大切なものを守るため

    「ルールに縛られたくない」と「歌詞」で検索するとたくさん結果が返ってきます。歌の世界ではルールは定番の悪者です。盗んだバイクで走り出したい気分なんです。それでも、社会生活においてルールに守られているのも確かなわけで、誰かが実際に盗んだバイクで走り出したら被害届を出せば警察は犯人を探してくれます

    これまでは「郷に入っては郷に従え」と同調圧力の強かった日本ですが、多様性に寛容的になってきました。杉田水脈さんの「LGBTは生産性がない」論文から端を発した新潮45の休刊もLGBTという多様性を認める日本人の変化を表しているのでしょう。そして、東京都が決めたLGBTの差別を禁止する条例も、またルールなのです。

    ルールは何かを縛るだけでなく、社会に参加する人たちがなるべく不満を感じないようにするために必要なんですね。

    ルールの三階層

    ルールは特定の集団(国、自治体、学校、企業)に所属する人たちにとった大切なものを守るための決まりごとです。「何が大切なのか」が決まっていないとルールはおかしなことになってしまいます。

    ルールは大きく三つに分けることができます。一つは憲法や法律、会社の就業規則や学校の校則といった公的なルールです。そこに所属する人たちは守らないといけないルールで、守らない人には罰則があります。

    二つ目は明示的ルールです。法律で決まってはいないものの、多くの人たちが暮らしやすいように行政やサービス提供者が明示的に示すルールです。マタニティーマーク優先席はその代表例ですね。法律ではありませんが、社会に参加する人たちとして推奨される行動を提示しています。入り口に書いてあったり、シンボルマークでわかるようになっています。

    温泉や公共浴場で刺青やタトゥーを禁止しているのも明示的なルールの代表例ですね。法律で決まっているわけではないのですが、サービス提供者が全体の利益を考えてきめて、提示しているルールです。エスカレーター上の歩行も多くの場合は明示的に禁止されているのですが、これは暗黙のルールで無視されるケースがほとんどです。

    三つ目が暗黙のルールです。電車内での飲食や先のエスカレーター上は歩行する人のために片側は空けておくなど、どこにも書かれていないが何となく多くの人が従っているルールです。

    暗黙のルールのいいところと悪いところ

    日本は明示的なルールが少なく、暗黙のルールが少ない文化だと言われています。文化の話なので、どっちがいいという話ではありません。

    欧米ではハッキリとモノを言い、それが明示的に誰でも見えるようになっている文化(ローコンテクスト文化)ですが、日本ではハッキリとモノを言わずともなんとなく通じる文化(ハイコンテクスト文化)だそうです。文脈(=コンテクスト)を読むことを求められます。つまり、空気を読めということです。

    暗黙のルールのいいところ

    柔軟な運用

    「なんでも規制ばかりだと息苦しい」と感じる人は多いかと思います。規制ばかりだとなんでも杓子定規になって柔軟的な対応ができない。その時々の状況に応じて柔軟に対応できるのは暗黙のルールのいいところです。

    全てルールを決められるわけではない

    全てにおいてルールを決めれることはできません。明示的にルールを決める場合、それが守られる必要がありますし、人間が覚えられることには限界があります。また、ルールは生きていて、常にアップデートされなければいけません。新しいルールが浸透するのにも時間がかかりますが、アップデートされたルールが浸透するにも時間もかかりますし、昔のルールに慣れた人からの抵抗もあります。

    サービス提供者の負荷軽減

    サービス提供者にとっても都合がいい面があります。事業者自身はルールを決めず、その場にいる人たちの間で決めてもらうことができます。日本の場合、多くの電車では持ち物の規制は明治的ルールがあります。危険物を持ち込んではいけないし、動物や自転車の持ち込みにもルールがあります。

    しかし、電車内での行動に関しては行動規範のようなものはありません。つまり、電車内での行動に関して明示的なルールはありません。もちろん、その上位にある法律で規制されていることはあります。電車内の喫煙は法律で禁止されています。しかし、電車内の飲食は実は禁止されていません。なんとなく「電車の中で飲食してはいけない」と多くの人が思っていて、暗黙のルールになっているだけです。

    何かを決めるのは大変ですが、暗黙のルールに頼れば決めずに済みます。

    暗黙のルールの悪いところ

    ストレスを強いる

    明文化されていないということは、個人によって違った考え方やルールがあるということでもあります。ある人にとっては常識でも、ある人によっては非常識だということになります。

    タレントの小籔千豊さんが新幹線でリクライニングシートをマックスで倒したら怒られた話をTwitterで呟いて話題になり、賛否両論の議論になりました。怒られる方もストレスでしょうが、怒る方もストレスでしょう。明示的なルールがあればこのようなストレスを避けることができます。

    公共性が低い

    鉄道会社が暗黙のルールに頼るように、自治体の多くも運用は地元住民の暗黙のルールに頼るところが多いです。

    奈良県の自治会が移住者を村八分にしたことで弁護士会が「是正勧告」を認定したニュースが話題になりました。自治会というのは任意団体であって公共団体ではありません。そういう意味において、所属する人たちが好きなルールで好きなことをやればいいのです。その自治会は「昔から地域に住んでいて神社の氏子である世帯」でなければ参加できません。それはそれで構わないでしょう。手芸の会とかコスプレの会みたいなものです。氏子の会があってもいい。

    しかし、市町村からの情報の告知の場とされたり、公共のイベントの母体となるのであれば公共性が求められます。公共性とは多様性の受け入れでもあります。「昔から地域に住んでいて神社の氏子である世帯」だけに限定されることは許されないということで是正勧告なのでしょう。

    昔なら暗黙のルールとして通用したことが、通用しなくなってきた代表的な例です。

    大切なことには明示的ルールが必要

    暗黙のルールの方が柔軟に運用できるというのは実は正しくないケースが多いです。

    全てのことにルールを決めることはできませんし、決める必要もありません。しかし、多くの人と共有すべき/共有できる大切なことについては明示的ルールが必要となります。例えば、女性は安心して電車に乗りたいし、女性が心配せずに電車に乗ることができることは社会にとって大切なことです。そのために鉄道会社は女性専用車両という明示的なルールを決めました。法律のような公的ルールで決められていること以外、手荷物しか規定してこなかった日本の鉄道会社がこのような独自の明示的ルールを決めるのは異例のことでした。

    同じ目標に同じ行動規範で取り組む組織は大きな成果を出すことが多いです。多くの人数で同じ目標と同じ行動規範を共有するためには明示的ルールが必要になります。

    アジャイル

    アジャイルは開発手法としてだけでなく、様々なビジネスの考え方に大きな影響を与えています。全てを計画してその通りに開発する手法をウォーターフォールに対して、アジャイルは変化に柔軟に対応することができます。

    変化に柔軟に対応するために、その理念であるアジャイルソフトウェア開発宣言があり、行動規範であるアジャイルソフトウェアの12の原則という明示的なルールがあります。非常にシンプルなルールですが、シンプルだからこそ多くの開発者に共有され、実施されています。スクラムやスタンディングミーティングといった手法より、理念と行動規範がまず大切です。この理念がわからないと、「そもそも、なんでこんなことやってるの?」ということになってしまいます。

    シンプルなルールを作るには、その組織がどのような価値観を大切にしているのかを決めなければいけません。アジャイルの場合は以下を価値観として大切にしていることが明確に示されています。アジャイルが暗黙のルールだったら世の中に広がらなかったでしょう。

    プロセスやツールよりも個人と対話を、

    包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、

    契約交渉よりも顧客との協調を、

    計画に従うことよりも変化への対応を、

    デザイン

    イギリス政府はユーザー中心の先進的な取り組みで、公共サービスの利便性を大きく高めています。公共サービスは多くの人が使うので、より多くの人にとって使いやすいサービスでなければいけません。

    イギリス政府がかなり早い時期に取り組んだのがデザイン原則の策定です。イギリス政府が公開しているGOV.UKの歴史に詳しく書いてあるので、興味があればご覧ください(日本語翻訳版はこちら)。Amazon Alexaなどボイスインターフェースが話題ですが、新しいインターフェースを取り入れる際もこのデザイン原則に照らし合わせて検討を進めています。

    何が大切なのかをきちんと決めているから、新しい取り組みも決断を早く行うことができます。共有されているだけでなく、きちんと使われているのです。

  • イギリス政府がはじめたボイスに優しいコンテンツ戦略

    イギリス政府がはじめたボイスに優しいコンテンツ戦略

    原文:”Hey GOV.UK, what are you doing about voice?” by Sam Dub and Mark Hurrell

    ここ数年で多くの人がAlexa、SiriやGoogleアシスタントのようなボイスアシスタントを家庭に取り入れ、スマートフォンで活用するようになりました。

    最も人気のある活用方法は質問をすることです。そして、その質問に政府が答えることを期待しています。そこで、GDSでは小さなチームを作り、GOV.UKにおいてどのようにその期待に応えられるかを研究しました。

    なぜGOV.UKにとってボイスが重要なのか

    スマートスピーカーはイギリスで急速に普及しています。 8%の成人が所有し、2018は3%増えました。2016年にGoogleは20%のAndroidデバイスからの検索はボイスによる検索だと発表しました

    ボイスプラットフォーム自体はユーザーの質問に関する情報を共有していません。しかし、AmazonやGoogleのチームとの議論から、ユーザーがボイスインターフェースを通して質問する内容は政府が最も信頼たり得るソースだということを理解しました。

    ボイスインターフェースは情報アクセスのためにDragon Naturally Speakingのようなソフトウェアを使っている人たちにとっては新しいものではありません。しかし、 アクセシビリティのコミュニティーは現在のボイスインターフェースの盛り上がりに大きな期待を持っています。ボイスインターフェースの劇的にシンプルなインターフェースはコンピューターやスマートフォンを使いにくいと感じている多くの人たちの助けになる可能性があります。

    GOV.UKにとってボイスインターフェースは政府によりアクセスしやすくしてユーザーの高まる期待に応える機会となります。

    ボイスの大規模利用への挑戦

    政府としてはボイスサービスに関して一貫した方法を取る必要があります。

    最近の GDS Innovation Survey によると、多くの地方行政、政府機関や省庁がすでにボイスを使ってサービスや情報を提供できるか可能性を探っています。

    GOV.UKのアプローチはデザイン原則 に沿って以下の点を考慮に入れる必要があります。

    • クロスプラットフォーム
    • クロスガバメント
    • 一貫性
    • 拡張性

    私たちのチームはボイスアシスタントのためのアプリを開発してみました。私たちは一つのアプリで全ての主なボイスアシスタントをサポートできるか試してみました。

    「答え」からはじめる

    私たちはまず、それぞれのボイスサービスがどのようにユーザーに答えを提供するのかを調べました。

    私たちは三つのソースがあることを理解しました。

    • 検索エンジン:Webを検索して適切なリンクとボイスとして提供できるコンテンツ部分を見つける
    • ナレッジエンジン: データと計算を使い、事実に基づく回答が必要な質問に対する答えを提供する
    • アプリケーション: known as skills on AlexaやCortanaではスキルと呼ばれているもの。多くのボイスプラットフォームは独自のアプリストアを持つ

    以下が人気のある主なボイスアシスタントがそれぞれ何を使っているかをまとめたものです。

      検索エンジン アプリケーション ナレッジエンジン
    Siri
    Apple
    Google iOS & SiriKit Wolfram Alpha
    & Siri Knowledge
    Assistant
    Google
    Google Google actions KnowledgeGraph
    & Wikidata
    Alexa
    Amazon
    Bing Alexa skills Evi & Alexa
    Knowledge
    Cortana
    Microsoft
    Bing Cortana skills Bing Satori

    この調査により、検索エンジンとナレッジエンジンにとってGOV.UKがデータソースそして取り込みやすいようにすることで、多くの質問に答えることができることがわかりました。

    GOV.UKを検索エンジンにもっとわかりやすくする

    GOV.UKではオープンなWebによく練られたコンテンツデザインを適用しているため、既存のガイドラインですでに多くのコンテンツがボイスプラットフォームにとって答えを引き出しやすいようになっています。

    検索エンジンは私たちのコンテンツをクロールして機械学習でボイスとして適切な答えを摘出します。私たちが作成したGoogleアシスタントのデモで体験することができます。

    しかし、もっと改善することができることもわかりました。schema.orgの構造化データ標準を活用することで、検索エンジンにさらに多くのコンテクストを提供して私たちのコンテンツをよりよく理解する助けをすることができます。

    この四半期は以下の三つを実装しました。

    私たちのコンテンツ戦略を考える上で、もっと多くの示唆を得ることができました。私たちはすでにコンテンツを既にコンテンツをわかりやすく、自然な言葉で簡潔に作成しています。しかし、会話形式で提供するにはさらに必要なことがあります。例えば、Amazonは一息で答えを提供できるように推奨しています。

    これを踏まえ、私たちは以下を実行する予定です。

    • オープンなパブリッシングをさらに進める。ガイダンスがサービスに隠れないようにする。
    • 構造化データの利用を改善し、検索エンジンにとってさらにわかりやすくする
    • さらに簡潔な答えをガイダンスに取り入れる

    GOV.UKをナレッジエンジンに取り込む

    検索エンジンはWebをスキャンして答えを探しますが、ナレッジエンジンはデータベースから事実を探します。

    私たちはユーザーがボイスアシスタントを活用することを助けるには政府が提供する標準的なデータをナレッジエンジンが取り込みやすい形にすることが最も効果的だと考えます。

    私たちはAPIを通じてGOV.UKのデータを最も簡単に標準に基づいて提供できる方法を主なナレッジエンジンのプロバイダーと話し合っています。

    既にGOV.UKのコンテンツAPIは存在しますが、ナレッジエンジンが必要な詳細の構造がまだ不足しています。数週間前に小規模な新しいAPIを試験的に作り、限定的にさらに構造化かされたデータの提供を開始しました。

    結果はわかり次第またお知らせします。

    ボイスアプリとスキルの現在の制限

    私たちは答えを提供することにフォーカスしています。まだボイスを活用した公共サービスの活用まで踏み込んでいません。例えば、例えば給付金の請求や運転免許取得試験の予約などです。これは現在のボイスインターフェースではこれらを提供することができないからです。

    • プライバシー:多くのボイスサービスは会話の履歴を保存しています
    • 個人認証:多くの公共サービスは高いレベルの個人認証が必要となります
    • 個人情報:住所の入力も躊躇されます。

    公共サービスで利用するには多くの障害があります。しかし、私たちはボイスの環境に注目し続けます。将来的に標準的なクロスプラットフォームが実現され、多くの機能が改善されることを期待します。

    将来の展望

    もしボイスの可能性を知りたいのであれば、AndoroidかiPhoneのスマホを使って以下の質問をGoogleアシスタントに問いかけてみてください。

    • 新しいパスポートを取得するのにどれくらいの時間がかかりますか?(How long does it take to get a new passport?)
    • 運転免許試験にはいくらかかりますか?(How much does a driving test cost?)
    • 育児手当はいつ支払われますか?(When will I get child benefit paid?)

    Sam Dubは is a product manager on GOV.UKのプロダクトマネージャー、Mark HurrellはGDSにおけるHead of Graphic Designです。

    訳者解説

    GOV.UKだけでなく、欧米の優れた組織はユーザー中心の考え方が大前提としてあり、それを実現するための原理原則を明確にして明文化しています。GOV.UKの場合はデザイン原則がその一つになります。優れた組織において原理原則は世間に見せるためだけのカッコつけたビジョンやミッションとは違い、本当の行動原則となります。ボイスのような新しい技術が出てきても、その原理原則に照らし合わせて適応します。ボイスが原理原則に合わないのであれば、使わない。

    それは頑なであることとは違います。ガイドラインレベルではそれが適切だと考えれば技術に合わせます。それはデータのさらなる構造化やより簡潔な文章の心掛けなどに現れます。新しい技術に対する取り組みのお手本のような事例であり、ブログ記事ですね。素晴らしい。

  • ブロックチェーンとエストニアの情報連携基盤『X-Road』の違い

    ブロックチェーンとエストニアの情報連携基盤『X-Road』の違い

    原文:”There is no blockchain technology in the X-Road” by Petteri Kivimäki (Nordic Institute for Interoperability Solutions)

    最近、X-Road(エストニアの情報連携基盤*1 )はブロックチェーンを基盤としたテクノロジーだと説明する記事を複数見かけました。または、内部的にブロックチェーンを使っていると。それが事実なのかどうか検証したいと思います。

    ブロックチェーンとは

    ブロックチェーンは今年の流行語の一つで、テクノロジー分野で最もアツいとされています。ブロックチェーンは2009年に最初の暗号化通貨として立ち上がったビットコインの基盤技術として知られるようになりました。それ以来、ブロックチェーンは暗号化通貨だけでなく、様々なビジネス分野やユースケースに適応されるようになりました。

    ブロックチェーンは分散化されたパブリックデータベースで、取引情報をチェーン上に保存して、改ざんから守り、データの整合性を保証します。ブロックチェーンはP2Pネットワークでそれぞれのノード(エンドポイント)は平等で全てのノードの完全なブロックチェーンのコピーが保存されます。ブロックチェーンに保存されたデータはネットワークに参加している続く全てのブロックを変更して複製されない限り、変更することはできません。この仕組みによりブロックチェーンのデータ改ざんは非常に難しいものになっています。

    取引データはブロックチェーンにおいてマークル木*2の形式で保存されます。連続するブロックはお互いにリンクされ、チェーンを形成します。それぞれのブロックは、その前のブロックの暗号学的ハッシュを含み、最初のブロックからチェーン上のブロックの順序と整合性を確認することができます。この仕組みにより、チェーン上の取引データの監査と確認をすることができます。

    ブロックチェーンは中央集権ではないため、新しいブロックが追加される前に参加するノードの合意が必要となります。これは合意プロトコルまたは合意機構によって行われます。最も一般的な合意機構はProof of Work (PoW) とProof of Stake (PoS)です。

    X-Roadとは

    X-Roadはオープンソースのデータ連携レイヤーで、組織がインターネット上でデータ連携することを可能にします。X-Roadは中央管理された情報システム間の分散統合レイヤーで安全に標準化されたサービスの提供と消費の方法を提供します。X-Roadはデータ連携をする双方の匿名性、整合性、互換性を保証します。 

    サービスプロバイダー(例:基本レジストリ)とそれを消費するコンシューマー(例:Webポータル)のアイデンティティはX-Roadのオペレーターにより集中的に管理され、全てのデータ連携はデータのコンシューマーとプロバイダーの間で直接行われます。データ連携の証拠はデータ連携した双方のローカルストレージに保存されます。第三者はアクセスできません。タイムスタンプと電子署名によってX-Roadからおくらえレウデータの否認不可を保証しています。

    X-Roadはバッチ処理による署名とタイムスタンプをサポートしています。バッチ処理による署名は添付を含むメッセージのために作られます。バッチによるタイムスタンプとは最後に作られたタイムスタンプから遡ってバッチ処理によって非同期に作られるタイムスタンプです。バッチ処理によるタイムスタンプはタイムスタンプサービスの負荷を削減するために利用されます。署名とタイムスタンプの両方の機能はマークル木とバッチ中にメッセージをハッシュチェーンを通じてリンクされるメッセージプロセスを元にしています。ハッシュチェーンを使うことで任意のメッセージが特定のバッチ処めいの一部だと確認することができます。しかし、異なるバッチと含まれるメッセージの間にリンクはなく、バッチ処理された全てのメッセージを全てリンクはされていません。

    セキュリティーサーバーは全ての署名とタイムスタンプがバッチ処理されたメッセージをメッセージログデータベースに保存します。ログの記録はディスクに定期的に保管され、データベースからは削除されます。メッセージログのアーカイブは以前にアーカイブさたメッセージに依存し、このチェーンは異なるアーカイブファイルに続きます。これによりメッセージログのアーカイブファイルは一つのセキュリティーサーバーにあるメッセージのチェーンを構成します。つまり、メッセージのアーカイブファイルはチェーンを破ることなく変更することができなくなります。

    X-Roadはブロックチェーンを基盤としているか?

    ブロックチェーンは非中央化された分散データベースで、合意プロトコルを通じて更新されます。ネットワーク上の全てのノードは平等で、データベースの完全なコピーを所持します。データベースに格納されたブロックは暗号学的ハッシュ機能でリンクされます。

    X-Roadのセキュリティーサーバーに格納されているメッセージログのアーカイブファイルは一つのセキュリティーサーバーで処理された全てのメッセージを含みます。メッセージは暗号学的ハッシュ機能でリンクされています。ファイルはローカルで保管され、ファイルをホスティングしているサーバーはファイルを作成する必要があります。それぞれのセキュリティーサーバーはそれぞれユニークなメッセージのチェーンを持ちます。それ以外のX-Roadのエコシステムメンバーはファイルにアクセスできません。

    ブロックチェーンとX-Roadの共通点はデータをリンクする暗号化ハッシュ機能です。それ以外はあまり共通点はありません。それは目的のユースケースが異なるからです。暗号化ハッシュ機能はブロックチェーンが生まれる前から存在しました。暗号化ハッシュタグをブロックチェーンでもX-Roadでも使っていることで、X-Roadがブロックチェーンを基盤としていることにはなりません。自転車も自動車も車輪があります。しかし自動車が自転車の前にあったからといって、自動車は自転車を元にしていると言いません。ブロックチェーンとX-Roadにも同じことが言えます。

    上記からX-Roadはブロックチェーンを基盤としていないと言えますし、内部的にも使っていないと言えます。

    解説

    この記事はThe Nordic Institute for Interoperability Solutions(略称:NIIS フィンランドとエストニアが共同で設立)がX-Roadとブロックチェーンの違いを解説したものです。

    X-Roadはもともとエストニア政府が開発した情報連携プラットフォームで、MITライセンスのもとにオープンソースとして公開されています。海外でも使われていて、2018年2月にはフィンランドのX-RoadとエストニアのX-Roadが接続されました。

    この記事にもありますが、X-Roadとブロックチェーンを混同する記事が日本でも見受けられます。確かにエストニアはブロックチェーンの公共サービスへの活用にも積極的ですが、その基幹システムとも言えるX-Roadは違うんですよ。

    カタパルトスープレックス なかむらかずや

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    これまでアメリカイギリスのデジタル政府に踏み出した背景を説明してきました。なかなか評判がいいようなのでエストニアの資料も作ってみました。全ての国家はそれぞれ歴史があり、大きさも様々です。アメリカ、イギリスや日本とエストニアを単純に比べることはできませんが、一見「弱み」に見えるエストニアの特徴を「強み」に変えるしなやかさは多くの為政者や経営者の参考になるのではないでしょうか。

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    GOV.UKによってイギリス政府は世界で最も進んだデジタル政府という評価を受けるようになり、様々な政府のデジタル化の参考となりました。その推進力となったGDSの発足直前から現在に至るまでの過程はGDS Storysで詳しく見ることができます。カタパルトスープレックスでも日本語に翻訳しています。

    しかし、そもそもどうして前身であったDirectGovから移行しなければいけなかったのか?それまでどのようなことがあったのか?断片的な情報はWeb上に散見してありますが、まとまった情報はありません。アメリカのデジタル公共サービスの歴史をまとめたので、今回はイギリスのデジタル公共サービスの歴史をまとめてみました。人気があればエストニアもやるかもです。今回もSlideshareGithubにアップロードしました。

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    イギリスのGDSやエストニアの電子政府の情報は割とまとまったものがあります。カタパルトスープレックスも貢献していますよね!ところが、アメリカの公共サービスのデジタル化も急速に進んでいるのですが、あまりちゃんとまとまった情報が日本語ではありません。

    アメリカにはPIF18FUSDSという公共サービスのデジタル化を進める部門がアメリカ政府内にあります。それぞれ、ユーザーニーズから全てをスタートして、リーンスタートアップ、デザイン思考、アジャイルなどモダンなアプローチを公共サービスに取り入れることでイノベーションを推進しようとしています。ゴールは同じです。

    なんで、そんなことしようと思ったの?なんで三つもあるの?という疑問が浮かぶと思います。それをなるべく簡潔に説明しようと思います。興味がある人はSlideshareGithubにプレゼンテーションをアップロードしました。

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    経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を発足したり、経団連が「デジタル省」を提言したりしています。アメリカはボトムアップとトップダウンを積み上げて、複数のアプローチをとって成功しています。日本はどうなるんでしょうね。

    個人的にはCode for Americaがアメリカの公共サービスを変える原動力になったように、「デザイン+ジャパン」が日本の公共サービスを変える原動力になればいいなと思っています。

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