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  • いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その4)

    いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その4)

    今回のライブコマースの特集では主にファッションを起点に紹介してきました。しかし、中国でストリーミング+eコマースの文脈で語られるのは主にゲームだったりします。そこで、最後にゲーム文脈でのライブストリーミングを紹介します。日本だとプレイステーション・ナウ(PSN)とかNintendo Switch Onlineとか特定のゲームコンソールに紐づいていることが多いので、あまりピンとこないかもしれません。英語圏ではアマゾンに買収されたTwitchがありますね。中国でこれに当たるのがドウユー(斗鱼)やフーヤー(虎牙)です。マーケットシェア的にはYYやインク(映客)がそのあとに続きます。

    まず、この傾向を理解するためには中国ではそもそもストリーミングがミレニアル世代(リンリンホウ:00后とジウリンホウ:90后)を中心にしてインターネット利用のかなりの部分を占めていることを理解する必要があります。Tik Tok(科音)やクアイショウ(快手)の人気がそれを裏付けていますよね。

    大きな枠組みでのビデオストリーミングのトップ3はバイドゥーのアイチーイー(爱奇艺)、テンセントのテンシュンシーピン(騰訊视频)とアリババのヨウク(优酷)です。Tik Tokもゲームストリーミングもこのビデオストリーミングという多くな枠の中のサブカテゴリーのひとつで、BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)のシェアに食い込んで行こうとしているスタートアップです。この辺りがファッション文脈のライブコマースと違うところです。これらトップを走る中国のビデオストリーミングといえば、昔は海賊版の温床だったんですが、随分と世の中は変わりました。

    闘魚ドウユー

    ストリーミング市場にゲームで切り込んでいるドウユー(2015年5月設立)やフーヤー(2016年8月設立)ですが、ともに非常に若い会社です。それでもう米国ナスダックに上場してるんだからすごいですよね。日本のDeNAやサイバーエージェントとは比べられないスピード感です。

    ドウユーの創業者であるチン・シャオジエ(陈少杰)も他のストリーミング系スタートアップの創業者と同様に1980年代生まれのバーリンホウ(80后)なのですが、ドウユーをはじめるきっかけは他の若い創業者たちと少し違っています。創業前はゲーム会社のビエンファングループ(杭州边锋公司)の社長でした。このゲーム会社はストリーミングをはじめて人気が出始めてきたのですが、9158と係争になり負けてしまいます。9158ストリーミングデートサイトで、色情経済なんて言われたりします。そこで、ニコニコ動画風の段幕型ストリーミングを別会社でやることにしょうとはじまったのがドウユーでした。

    チン・シャオジエは大学卒業後すぐにビエンファンを起業して友人のジャン・ウェンミン(张文明)とともにゲームを作りはじめます。ヒット作もあったようですが、持続可能なビジネスにはならなかったようです。その当時に個人的にはまっていたのがニコニコ動画インスパイア系の弾幕動画のエーシーファン(AcFan)で、ゲームとライブストリーミングの融合というTwitchのモデルがイケるのではないかと思ったのがこの頃だそうです。

    最初のエンジェル投資をしてくれたのがゲーム会社のオウフェイ(奥飞)で2000万人民元(日本円で約3億円)を投資してくれ、2014年に起業することができました。その後にシリーズAで2000万アメリカドル(日本円で約21億円)を調達しました。ビデオストリーミングはお金がかかりますが、スタートアップとしては十分すぎる額です。

    虎の牙フーヤーとYY

    中国ゲームストリーミングのもう一つの雄であり、どーゆーを追い上げているのがフーヤー(虎牙)です。フーヤーの創業者であるリー・シュエリン(李学凌)はバーリンホウ(80后)より前の世代で1973年生まれ。それもそのはず、様々なスタートアップを中国で立ち上げた連続起業家です。

    リー・シュエリンは元々はメディア出身で、中国インターネットメディアの黎明期を作り上げた一人です。メディア時代に多くの起業家にインタビューを実施したことが人脈を築く一助になったそうです。リー・シェンリンはシャオミ(小米)のレイ・ジュン人脈の一人とみられていますが、レイ・ジュンとの出会いもメディア時代だそうです。

    そして、メディア業界を離れて立ち上げたのがゲームメディアのドウワン(多玩)とグーグー(狗狗)というRSSサービスを立ち上げます。これらを売却し、その売却益をもとに2008年にYY(欢聚时代)を設立します。そう、中国のライブストリーミング大手のYYの創業者なのです。

    YYは順調に成長して、テンセントからも買収の提案を受けたのですが、それを断って米国ナスダックに上場しました。YYはライブストリーミングですが、フーヤーはゲームストリーミングの位置付けとなります。つまり、YYはライブストリーミングではモモ(陌陌)と対峙して、ゲームストリーミングではドーユーと対峙するという二面作戦ですね。

    これまで、ライブストリーミングは中国国内市場に閉じた展開でしたが、YYは2019年5月にBIGOを買収して海外展開への足がかりを築きました。

    参考文献

    斗鱼CEO陈少杰是什么来历 陈少杰个人资料介绍_忒有料

    是什么,让腾讯再投给斗鱼这两位年轻人6.3亿美元?

    每日人物 | 虎牙赴美IPO,李学凌的顺势而为

    李学凌:亏2.39亿换来490亿,成就大量网红,更成就了自己的事业

     

  • いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その3)

    いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その3)

    eコマースはスケールのビジネスなので寡占化しやすい業種ですが、生鮮、家電など独立しやすい分野もあります。アリババとJDが並存しているのもこの理由ですし、アマゾンがホールフーズを買収したのも同様です。個性が重要なファッションも独立して成立しやすい分野で小規模なプレーヤーがたくさん並存します。ちなみに最近だとThe Yeteeで『ガメラ対大悪獣ギロン』Tシャツ(あと、Mother 2のサウンドトラックLP2枚組)、Legion Mで映画『マンディ 地獄のロード・ウォリアー 』のオフィシャルTシャツを買いました、個人的な話ですが。日本だとハードコアチョコレートでよく買います。

    マカロニほうれん荘(ピーマン学園ホワイト) (M)

    このように、ファッションは群雄割拠しやすいeコマースの分野ですが、それでも「普段着はどこかでまとめて」というニーズがあります。それを吸収しているのが日本ではユニクロだし、ZOZOですよね。そんなボクもワードローブのほぼ7割はユニクロかZOZOで買った服です。中国で女性ファッションにおいて同様に役割を果たしているのがモグジェ(蘑菇街)なんだと思います。しかし、そのやり方はユニクロやZOZOとは違うし、アリババとも違います。

    デザイナー創業者

    そのモグジェを2010年に創業したのがチェン・チー(陈琪)です。チェン・チーは2004年にジェージアン大学(浙江大学)卒業後、アリババのC2Cコマースであるタオバオ(淘宝网)でUX/UIデザイナーとして働き、プロダクトマネージャーを務めます。

    アリババは顧客体験を重視していて、デザインセンター(阿里巴巴国际UED)を設立しました。アリペイ(支付宝)などの個別のUED (User Experience Design)のほか、以下のようなライバルのUXとも連携していました。過去形なのが残念なところですが、みんなでベーシックな部分は作って(完了)、後は個別で頑張ろう(現在)ということなんでしょうね。デザイナー的なユートピア思想は中国でも終わっちゃったのかなあ。

    テンセント:CDCISUX

    バイドゥー:MUX

    JD:JDC

    チェン・チーはタオバオのデザインセンター(淘宝UED:こちらも最近は活動停滞気味ですが、フロントエンド開発センターである淘宝FEDは元気です)の立ち上げメンバーの一人でした。そんなチェン・チーもやはり1980年代以降に生まれた「バーリンホウ(80后)」の世代です。実を言えば、2000年前に誕生した中国のeコマースはほぼアリババとJDに駆逐されていて、今再び現れているのは新世代による新世代のためのeコマースプラットフォームだったりします。

    最初の失敗

    チェン・チーと大学時代の友人で共同創業者のウェイ・イーボ(魏一搏)はお互いの家を売り、創業資金を作りました。二人で集めた資金は150万人民元(日本円で2350万円くらい)になりました。家族は家に売るのはまだしも、タオバオのストックオプションが1000万人民元以上(日本円で1億6000万円くらい)が行使されていなかったので、それを全て捨てることにすこし反対されたそうです。とはいえ、創業メンバーはタオバオから引き抜いた優秀チームだったので、それなりに自信があったのでしょう。

    まず、最初に作ったのはモグジェではなく、ジュアンドウワン(卷豆网)というeコマースと19楼Hers爱物网化龙巷といったコミュニティーを繋げて、コンバージョンを最適化するツールでした。しかし、これは失敗してしまいます。実際にコミュニティーからeコマースで買い物に来るコンバージョンがあまりにも低いので、想定していたよりも市場規模が小さいことがわかりました。

    中国のeコマースのコンバージョン率(訪問者が実際に買い物をする率)は0.01%以下なのだそうです。JDやタオバオでも3%前後。だったら、自分たちでeコマースを実践して、どうやったらうまくコンバージョンするのかを証明しようとしてはじめたのがモグジェでした。会社を辞める(2010年2月)、家を売って資金を集める、創業(2010年4月)、コンバージョンツールで最初の失敗、eコマースプラットフォームにピボット(2010年10月)というスピード感。わずか8ヶ月の出来事です。ちなみに、若干似てるなーと思えるZOZOのWEARは2013年5月スタートなので、モグジェの2年半後です。

    アリババの影とモグジェの逆襲

    チェン・チーが注目したのはデザイナー出身らしくユーザー行動です。ユーザーはファッションやショッピングについてオンラインで交流したい、共有したい。ピンタレストに近いですかね。タオバオ、ダンダン(当当)、JD、ファンク(凡客)のようなeコマースサイトで見つけてきたグッズを共有する。それぞれのユーザーがキュレーターになって、モグジェに投稿するという仕組みです。先に説明したように、ファッションのeコマースは寡占化しにくく、群雄割拠になりがちです。モグジェはこの群雄割拠の状態をうまく生かしてコミュニティーを作り上げました。その結果、モグジェでのコンバージョンは6%から8%と非常に高い数字です。

    モグジェの特徴は購買単価が高いことと、モバイルユーザーが多いことです。MobileQuestの調査によると、中国のミレニアル世代であるリンリンホウ(00后)とジウリンホウ(90后)が重要なのがわかります。モグジェの24歳以下のeコマースにおける浸透率は8.1%です。C2CコマースのタオバオとB2CコマースのTMallの両方を持つアリババの浸透率は98%です。モグジェは仲介モデルでタオバオにもトラフィックを送っているので、一概に比較できませんが、それでも浸透率の差は歴然です。タオバオ出身のチェン・チーもそこは熟知しているところです。

    当然ながらアリババはモグジェを取り込もうとしますが、モグジェはその申し出を断ります。アリババは全て自分でコントロールしたいのですが、モグジェはフェデレーションモデルですからね。世界観が全く合いません。その結果、モグジェからタオバオのトラフィックは遮断されました。仁義なき戦いですね。このようなトラフィックの遮断はメイリー(美丽)なども同様でした。モグジェはメイリーとタオシュージエ(淘世界)と経営統合して、新たにメイリーグループ(美丽联合集团)を設立して、モグジェのチェン・チーがグループCEOに就任しました。

    そして、このような状況に救いの手を差し伸べたのがアリババのライバルであり、メイリーへも投資していたテンセントです。テンセント自身は主要なeコマースはありませんが、アリババ帝国への楔となっているJDとピンドゥオドゥオ(拼多多)の株主です。これに加えて、WeChat(微信)がありますので、モグジェのミニプログラムへの展開が期待できます。昨年の実績で見ると、モグジェの売上の31.1%がWeChat経由になっています。

    モグジェは2018年にナスダックに上場しました。eコマースの巨人アリババはタオバオのライブストリーミングで攻勢をかけています。モグジェは同じライブコマースでも多様なエコシステムを取り込んで巨人アリババに挑みます。

    参考文献

    陈琪(蘑菇街创始人)_百度百科

    蘑菇街创始人陈琪:玩票性质的网站居然做大了 – 初创公司 – 创业邦

    QuestMobile泛娱乐用户行为新趋势 | QuestMobile-还原市场真相 助力企业增长

    Meet the man who wants to upend China’s fashion industry with an app called Mogujie | South China Morning Post

    Mogu’s long journey: From rejecting Alibaba’s advances to US IPO – TechCrunch

  • いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その2)

    いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その2)

    古今東西そうですが、ファッションのeコマースではインフルエンサーが重要な役割を果たします。KIMONOを商標登録しようとして物議を醸したキム・カーダシアンとか。タイでピンクが大流行して、オフィスの中でもピンクを身につけている人が多かった時期がありました。タイでは当時の国王だったラーマ9世がファッションリーダーで、一時期ピンクを身につけていたんですね。タイ王室の色は黄色で、普段は黄色い服を着てるからピンクが新鮮だったんでしょうね。eコマースの世界を引っ張っている中国でも同様で、ホンレン(红人)とかワンホン(网红)とかKOL(Key Opinion Leader)と呼ばれるインフルエンサーが重要な地位を占めています。

    MobileQuestの調査によると、中国のミレニアル世代であるリンリンホウ(00后)とジウリンホウ(90后)が重要なのがわかります。そして、その起点となっているのがインフルエンサーです。

    インフルエンサーとブランドの出会い

    中国ファッションのeコマースの世界でいち早くKOLの地位を確立した一人がジャン・ダーイー(张大奕)です。早くから事業化して、ルーハングループ(如涵控股)としていまでは女性服、下着、メイク、家庭用品の四つのジャンルで年商22億中国元(約350億円)のビジネスとなっています。ビジネスモデルは違いますが、日本だとインフルエンサーのビジネスという意味ではUUUMに近いんですかね(UUUMは広告売上が主体)。そんなルーハンの表看板がジャン・ダーイーだとしたら、裏で番頭としてビジネスを支えているのがフェン・ミン(冯敏)です。

    フェン・ミンは「バーリンホウ(80后)」という中国で勢いのある1980年代生まれの世代の一人です。2005年にインターネットのサービスプロバイダー事業をはじめたのが最初の起業でした。しかし、サービスプロバイダー事業はすぐに下火になり、事業を通販ビジネスにピボットします。当時は大流行してナスダックにまで上場した「マイコーリン(麦考林)」から着想した女性服通販でした。そして、ファッションブランド「リーベイリン(莉贝琳)」を2011年に立ち上げました。

    ジャン・ダーイーはフェン・ミンのブランドのモデルをしていました。ファッションモデルとファッションブランド。これが二人の接点でした。ジャン・ダーイーもすでにソーシャルメディアでファンがつきはじめていて、影響力が現れてきた頃です。ジャン・ダーイーのインフルエンサーとしての影響力と、フェン・ミンのファッションビジネスの経験を合わせれば、さらに成長できると二人は考えたようです。そこで2014年7月に舞台をC2Cコマースプラットフォームのタオバオ(淘宝网)に移して、タオバオのトップブランドの仲間入りをしました。

    インフルエンサーエコノミー

    リーベイリンがタオバオ開店初日には、他の店の一年分の売上を1日で達成したそうです。この成功をもとにフェン・ミンは他のインフルエンサーとも協業するようになります。これがルーハンの設立に繋がっていきます。

    当時はライブコマースはまだなかったので、ヨウク(优酷)などの別のビデオプラットフォームを使っていました。解像度も現在ほど良くはありませんでしたが、画像よりは説得力がありました。

    ジャン・ダーイーの率直な物言いがファンとの距離を縮めました。ファンはジャン・ダーイーを「ダーイーマ(大姨妈:おばさん)」と呼び、ジャン・ダーイーはファンを「イージャオベイ(E罩杯:Eカップ)」と呼びました。ファンはジャン・ダーイーの関係はとても親密で、ファンは彼女に離婚のためのドレスを選んでもらったりしました。

    中国のインフルエンサーエコノミーはワンホンジンジー(网红经济)と言います。これを事業化したのがジャン・ダーイーとフェン・ミンのルーハンです。ルーハンはアリババから資金調達した後に、ナスダックで上場を果たしました。

    ルーハンの売上はまだまだジャン・ダーイー頼りなため、第二、第三のインフルエンサーを育成していく必要があります。とはいえ、中国のインフルエンサーエコノミーを築いた功績は素晴らしいものがありますね。

    参考文献

    网红电商孵化第一人-冯敏

    网红背后的成功男人——冯敏,打造出113位网红

    谁在批量制造张大奕?|冯敏_新浪财经_新浪网

    网红张大奕的奋斗史:不当模特做网红,开淘宝店年销售额破3亿

    淘宝第一网红,张大奕背后的真实世界

  • いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その1)

    いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その1)

    アメリカで流行ったサービスがだいたい3年後に日本に来ると言われていました。これがヨーロッパなどだとあまり時差なく入ってくるのですが、日本の場合は言葉の壁もありますし、日本の起業家がアメリカのサービスをパクってはじめるので、時間がかかってしまいました。これはアメリカのシリコンバレーがイノベーションのほぼ唯一の供給地点だった頃の話です。今ではこのバランスがすっかり崩れた感があります。そう、中国の台頭です。

    シリコンバレーは相変わらず重要なイノベーションの発生地点ではありますが、これに加えて中国がイノベーションをリードする分野が生まれつつあります。一つは前回にも特集を組んだモバイルペイメントを含む金融分野ですし、もう一つは今回特集するeコマースです。

    アメリカと中国のeコマース市場の比較

    2018年の中国と米国それぞれのリテール市場は以下の通り。

    中国:売上5.6兆米ドル/伸び率7.5%

    米国:売上5.5兆米ドル/伸び率3.3%

    中国のリテール市場を牽引しているのがeコマースで35%以上の売上がオンラインで上がっています。これに対して米国では10.9%でした。eコマースという観点だけで見れば、中国市場は米国市場を2013年の時点で追い抜いていました。すでに中国市場は世界のオンラインショッピングの総額売上の過半数を超えていて(55.8%)、2022年には63%に達すると予想されています。(参考:Retail Ecommerce Sales in China Forecasts, Estimates and Historical Data | eMarketer

    英語圏のeコマースはアマゾン(B2C)とeBay(C2C)で寡占状態にあります。そして、米国のeコマースの世界的シェアは2022年までに15%まで後退するとみられています。それでも巨大市場ではありますが、広がりが限られたパイの中での競争なので寡占化してしまうんでしょうね。中国でもアリババとJDで過半数以上のシェアを占めているのですが、それ以外のサービスも十分に大きな市場を獲得しているのは注目に値します。例えば先日に米国ナスダックに上場したピンドゥオドゥオ(拼多多)やドウユー(斗鱼)です。単なる中国ローカルなニッチプレーヤーならアメリカの市場で上場できませんよね。メルカリだってスマートニュースだってZOZOだってアメリカでは上場してないんですから。

    規模だけではなく機能も先行する中国のeコマース

    中国のeコマースは市場規模だけでなく、そのあり方も他の市場と比較して先行しています。その代表例がライブコマースではないでしょうか。ライブコマースとはスマホで生放送をしながらショップジャパンやジャパネットタカタのような通販をするサービスです。インスタライブに販売機能がついたような感じです。

    ライブコマースにはいくつかのパターンがあります。

    1. 動画配信サービスからの発展形
    2. eコマースからの発展形
    3. ライブコマース専門サービス

    ライブコマースは元々はライブ配信を通販的に使う人たちが出てきて発展してきたサービスです。日本のニコ生とかツイキャスですね。米国ナスダックに上場したニコ動風の動画配信サービスであるビリビリ(哔哩哔哩)もライブコマースをやっています。

    一番多いのはeコマースからの発展形サービスです。タオバオ(淘宝网)がやってる淘宝直播や女性ファッションコマースのモグジェ(蘑菇街)による蘑菇街直播が代表例です。アリババのタオバオはC2Cコマースでファッション分野では最も影響力のあるインフルエンサーの一人であるジャン・ダーイー(张大奕)のファッションコマース活動のリーベイリン(莉贝琳)もタオバオからはじまりました。ジャン・ダーイーはもう一人の女性ファッションインフルエンサーであるテァン・ユーカーAmiu(滕雨佳Amiu)はモグジェに参入しました。

    蘑菇街直播

    中国でもファッションのコマースにおけるインフルエンサー(红人|KOL: Key Opinion Leader)の影響力は絶大で、それぞれのプラットフォームで人気のインフルエンサーがいます。先のジャン・ダーイーやテァン・ユーカーAmiuもそうですし、クアイショウ(快手)のシャオイーイー(小伊伊)などなど。ジャン・ダーイーは自身のインフルエンサーのマーケティングプラットフォームであるRUHNN(如涵)を立ち上げました。ロゴがアメリカのセレクトショップであるロン・ハーマンに似てるのはご愛嬌でしょう。

    快手

    アメリカをパクればいい時代は終わった

    インターネットとモバイルの時代になり国境よりも言語圏が市場の区分としては適切だと以前にも書きました。インターネットでどれだけ世界がフラットになっても、言葉の壁はまだまだ超えられません。中国は金盾(別名:グレートファイヤーウォール)で隔離されているから参入が難しいという議論も成り立ちますが、そもそもの言語の壁が大きな要素としてあります。言語が違えば、文化が違う。

    さらに経済大国としての中国(中国語圏市場の中心)の台頭がアメリカ(英語圏市場の中心)がイノベーションが伝播する単純なアメリカからの一方通行からより複雑な方向に変化させました。どこかの言語圏で流行ったサービスが他の言語圏でも流行るとは限らない。

    ライブコマースやモバイルペイメントなど中国発のイノベーションがいい例です。中国で起きたイノベーションが単純に他の言語圏に伝播しないのです。中国のサービス(例えばタオバオ)がアメリカで流行らないのはわかります。中国語圏に最適化されたサービスですから、他の言語圏に最適化するのは時間がかかる。そこで、これまでならオリジナルをパクったローカルなサービスができた。でも、今はそう単純にうまく行かない。例えば、英語圏ではAmazonがライブコマースのAmazon Liveを立ち上げましたが今ひとつ。日本語圏でもメルカリがライブコマースサービスの「メルカリチャンネル」撤退を決めました。

  • 世界をリードする中国のAI企業:アイフライテック

    世界をリードする中国のAI企業:アイフライテック

    MIT Technology Reviewが2017年に発表した最もスマートな企業には多くの中国企業がランクインしました。ちなみにアメリカ企業がトップのNvidiaを含む最多で31社。中国企業は7社で2位でした。残念ながら日本企業はランクインしていません。

    そして、中国企業の中でテンセントを抑えてトップになったのはアイフライテック(iFlytek|科大讯飞)でした。世界では6位で、アップルやフェイスブックより上位となりました。*1

    アイフライテックは日本ではあまり馴染みがないかもしれません。しかし、創業は1999年で、すでに20年近い歴史があります。

    大学時代:若く頭角を表す

    アイフライテックはリュウ・チンフェン(刘庆峰)と中国科学技术大学(USTC)で出会った5人の共同創業者によって設立されました。

    大学時代のリュウ・チンフェンは中国語の言語解析の分野において飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍をします。

    リュウ・チンフェンは中国のマイクロソフト・リサーチ時代のカイ=フー・リーに社員としてボイスAIに従事するよう誘われていましたが、それを固辞して1999年にアイフライテックを創業します。1992年に中国科技大学と国家人工知能研究開発センター(国家智能计算机研究开发中心)が共同で設立した「人間とコンピューターとのコミュニケーションに関する実験室(人机语音通信实验室)」に参加して以来、人工知能による人間とコンピューターの研究に従事するようになります。そして、様々な賞を受賞して、スカラシップを獲得します。

    起業当時:研究とビジネスのギャップに苦しむ

    アイフライテックは当初はコンシューマー向けの商品を開発していました。2000年に最初のプロダクトである「チェンヤン2000(畅言2000)」を発表します。これは音声認識ソフトで、パソコンで音声を取り込んでテキストに変換するというものでした。価格は2000人民元(現在のレートの日本円で約33000円)で、個人が買うには非常に高価でした。

    リュウ・チンフェンは技術者なので経営には興味がなく、CEOのポジションもどちらかといえば消極的に受け入れていました。ビジネス的にも経営的にもうまくいかず、お金はみるみるうちに無くなっていきます。人工知能からピボットすることも検討され、不動産業に変えたほうがいいのではないかという意見が出たくらいでした。

    飛躍:出会いとピボット

    財政面でのアイフライテックの危機を救ったのは中国のベンチャーキャピタルのレジェンドキャピタル(君联资本)とレノボの創業者でリュー・チュアンジー(柳传志)でした。

    ビジネスもB2CからB2Bに転換しました。ファーウェイやレノボで利用されている音声認識機能はアイフライテックが技術提供をしているものです。

    中国政府はAI大国となるための三カ年計画「促进新一代人工智能产业发展三年行动计划」を発表しましたが、その一翼を担うのがアイフライテックです。医療分野がテンセント、スマートシティーがアリババ、クルマの自動運転がバイドゥで音声認識がアイフライテックの担当分野です。中国政府のお墨付き企業というわけです。

    オバマ前大統領やトランプ大統領のスピーチではアイフライテックの技術を使った英語→中国語の音声翻訳が利用されました。中国に要人が来た時にスピーチをするときにアイフライテックの技術を使うのは定番になってきましたね。

    www.youtube.com

    実は人の手を借りているのではないか疑惑

    中国はライバル同士で足の引っ張り合いをすることで有名です。「生き馬の目を抜く」は中国のスタートアップシーンを表す表現としてとてもふさわしい気がします。飛ぶ鳥を落とす勢いのアイフライテックも例外ではなく、様々な批判にさらされます。最近ではAIだけではなく人の手も借りているのではないかという疑惑です。

    ベル・ワンが知乎に投稿した公開書簡によると、彼はアイフライテックにやとわれた同時通訳チームの一員だったそうです。同時通訳をAIでやるってスゲーと思っていたのですが、人の助けがあったのなら納得。アメリカ大統領などの要人のスピーチとなればなおのことでしょう。

    これが真実なのかライバルによる罠なのかはわからないですが。

    参考文献

    我有嘉宾之对话刘庆峰:中国最聪明公司的DNA-脱口秀-高清正版视频在线观看–爱奇艺

    科大讯飞刘庆峰9年制造3个亿万富翁 中国科学技术大学新闻网

    科大讯飞:期待语音市场高成长还要熬两三年 | 客户世界

    刘庆峰_百度百科

    畅言2000让你“畅所欲言”

    科大讯飞,你的AI同传操(qi)作(zha)能更风骚一点吗 – 知乎

    iFlytek: China’s Nuance and Siri?

    iFlytek’s journey from the bottom to the top of China’s voice AI industry · TechNode

     

    *1:ただ、WebサイトにAdobe Flashを使っているのが非常にイケてないのですが……

  • 書評|OMOの生みの親が至るAIと愛の境地|”AI Superpowers” by Kai-Fu Lee

    書評|OMOの生みの親が至るAIと愛の境地|”AI Superpowers” by Kai-Fu Lee

    頭のいい人はフレームワークで考えて整理整頓するのが非常に上手です。今回紹介する”AI Superpowers”の著者であるカイ=フー・リーもその例に漏れず、AIを中国とシリコンバレーで比較するという入り組んだ題材をうまく整理しています。OMOというキーワードが日本でも話題になりつつありますが、その考え方の生みの親です。

    また、自身のガン闘病生活を通じて「何が大切なのか」を改めて学んだ視線は無味乾燥なロジカルだけの分析とは一線を画するものです。今のところ2018年に読んだ本の中ではベストですね。

    AI Superpowers: China, Silicon Valley, and the New World Order

    AI Superpowers: China, Silicon Valley, and the New World Order

     

    この本は大きく分けて二つに分けることができます。前半はAIに必要な要素を一つづつ検証し、中国がいかにシリコンバレーに対して競争力があるかを分析しています。

    AIの発展に必要な4つの要素

    まず、大前提として、AIはすでにブレイクスルーはある程度出尽くして、いかに実行していくかという段階に入っているとしています。カイ=フー・リーの見立てでは次のブレイクスルーが起きるまで数十年かかるそうです。ブレイクスルーが必要な段階では基礎研究が強い欧米が強いが、既存のアイデアを実行に移す場合は中国に利があると分析しています。

    そして、実行の段階において、カイ=フー・リーはAIの発展には以下の四つの要素が必要だと説きます。

    • 起業家
    • データ
    • エンジニアリング
    • 政府のサポート

    中国の起業家

    まずは起業家。カタパルトスープレックス でも中国のスタートアップをたくさん紹介してきました。この本でもトウティアオ(头条)シャオミー(小米)メイトゥアン(美团)がどのように模倣からオリジナルにたどり着き、激しい競争を勝ち抜いてきたかを描いています。シリコンバレーがテクノユートピアンで理想主義だとしたら、中国はテクノユータリタリアンで実利主義だとします。

    理想主義はオリジナルのアイデアを大切にして、模倣は悪とします。これがシリコンバレー流。実利主義は競争に勝つことが大切で、模倣をよしとします。トウティアオもメイトゥアンも多くの模倣者を蹴散らして今の地位があるわけですものね。

    データは中国が有利

    アリババやテンセントの例を見てもわかるように、中国ではデータが急速に蓄積され、AIに絶えず供給されています。アメリカのプラットフォーマーはGAFA、中国のプラットフォーマーはBATと呼ばれています。

    カイ=フー・リーはグーグル、アマゾン、フェイスブック、(アップルではなく)マイクロソフトにアリバババイドゥテンセントの7社をAIの7人の巨人と呼んでいます。この巨人たちが発電所と送電線のようなグリッドアプローチだとしたら、スタートアップは乾電池のようなバッテリーアプローチだとしています。

    発電所と乾電池のどちらのアプローチが最終的に勝利するのかはわかりません。大量のデータでより一般的なAIを実現するのか、よりニッチなデータである分野に特化したAIを実現するのか。どちらのアプローチも正しい可能性があります。

    この辺くらいまではカタパルトスープレックス の中国系の記事を読んでいる人にとってはあまり新しい発見はないかもしれません。しかし、カイ=フー・リーの真骨頂はここからです。

    OMOとAIの4段階の進化

    日本でもOMO(Online Merge Offline)が話題になっていますが、このコンセプトはカイ=フー・リーが打ち出したものです。これまでのO2O(Online to Offline)と比べ、デジタルとリアルの境界線はOMOでは非常に曖昧になります。

    OMOを理解するためにはAIの4段階の進化を理解する必要があります。

    • インターネットAI
    • ビジネスAI
    • パーセプションAI
    • オートノマスAI

    インターネットAIとはGoogleの検索語のサジェスチョンやAmazonのレコメンデーションを指します。インターネット企業の源泉ですね。トウティアオのAI記者やフェイクニュースの検知もこの分類に含まれます。

    ビジネスAIとはAIの分析を実際のビジネスに結びつけることを指します。例えば、保険のリスク評価や銀行の貸し出しのための与信などです。AlipayやWeChat Payによる信用経済はどはここに当てはまります。

    ここまでがO2Oの世界です。

    パーセプションAIからOMOの実現が可能になります。パーセプションとは認知ですね。視覚や聴覚、味覚などです。センサー技術で取得した画像や音声などのデータをAIが高度に理解することによりパーセプションAIが実現されます。

    Amazon Goはそのいい例ですね。Amazon Goなどのレジなし店舗はこれまでのRFIDでのモノの管理ではなく、カメラによる画像データをAIで解析することにより、モノだけでなくヒトも認識します。リアルの世界をセンサーによって視覚や聴覚を持ったAIが理解することによってOMOが実現されます。

    オートノマスAIは自律化するAIです。代表例は自動運転のクルマですね。この自律化はクルマだけにとどまりません。例えば工場。工場はかなり高度に「自動化」されていますが「自律化」はされていません。現在はAIが需要を予測して自律的に生産計画を変更してラインを組み立てたりはできていません。

    また、いちごが熟して収穫に最適かどうかを判断は人の目で判断する必要がありますが、これをセンサーで感知して自律的にいちごを収穫するTrapticのようなスタートアップも出はじめています。

    人とAIの共存

    前半のロジカルなカイ=フー・リーも素晴らしいのですが、ボクは後半の人間らしい部分に特に引き込まれました。前半は中国とシリコンバレーを比べて中国の優位性を熱心に説いています。そのロジックは理解できるものの、勝ち負けで分けるようなものでもないだろうと思ってしまう部分もあります。しかし、後半は中国とかシリコンバレーとかではなく、世界のどこの国も果たすことのできる役割があると。え?本当に前半と後半は別人間が書いてる?というくらい。

    前半は台湾で生まれ、アメリカで育ち、アップル、マイクロソフト、グーグルとアメリカ企業の出世競争を勝ち抜いてきたアジア人特有のアグレッシブさが前半ににじみ出ています。アメリカ企業がいかにアジア市場を理解しようとせず、アメリカ流こそグローバル流として押し付けてきたことに反感を覚える気持ちも、同じ環境にいたものとして理解できます。

    しかし、ガンと診断され余命僅かと宣告されてから彼の物事の見方が大きく変わります。カイ=フー・リーはいわゆる「仕事人間」でした。長男誕生の時も当時のアップルCEOとのジョン・スカリーへのプレゼンが気になって仕方なかった。付き合う人間も「自分にとっての価値」を考えて選別していました。仕事の効率こそが善。機械のような考え方をしていたそうです。

    後半は前半とかなりトーンが変わります。アグレッシブで競争が大好きな面は薄れ、人間として何が大切なのか、そのためにどうやったらAIと共存できるのかを様々な側面から検討します。もちろん、現時点で答えはありません。しかし、AIと人間の違いは「愛すること、愛されること」の喜びだという慧眼はガン闘病生活を経て得るに至った境地ですよね。

  • ネットイース(网易)から学ぶ、我が道を行きながら事業ポートフォリオを増やす方法

    ネットイース(网易)から学ぶ、我が道を行きながら事業ポートフォリオを増やす方法

    中国のネットイース(NetEase|网易)といえばゲーム会社のイメージが強いかもしれません。陰陽師Rules of Survival荒野行動が人気ですね。実際に中国のゲーム売上ではテンセント(Tencent|腾讯)に次いで第二位、世界のモバイルゲームパブリッシャーとしてもテンセントについで第二位です。っていうか、テンセント強すぎですね。PUBG Mobileも調子いいですし。

    ネットイースは中国のプラットフォーマーである(BAT|バイドゥアリババテンセント)には及ばないですし、それを追いかける若いユニコーンたち(メイトゥアントウティアオJD.comなど)と比べると目立った存在ではないかもしれません。

    テンセントがゲームを収益の柱としつつ、ペイメントやソーシャルに事業ポートフォリオを伸ばしているのと同様に、ネットイースも音楽やコマースといったゲーム以外の事業ポートフォリオで成功を収めつつあります。ユニークなのはその事業の方向性です。

     

     

    ネットイースの特徴

    中国のBATはそれぞれに事業の特徴があり、長期的なビジョンやそこへ進む道も明確です。ネットイースは他の中国企業と比べて表面的には一貫性がありません。養豚事業のウェイヤン(网易味央)とか象徴的ですよね。なんでゲーム会社が養豚?

    でも、これら表面的には一貫性のない多角化がうまくいっているのが面白いところです。音楽ストリーミング(网易云音乐)も越境コマースのカオラ(考拉)も順調です。

    ネットイースの主要事業(2017年度のAnnual Reportより)

    • ゲーム:言わずもがなのネットイース の主力事業で67%の売り上げを占めるます。2015年度には76%だったので、相対的に他の事業(Eコマース)が順調に伸びていることがわかります。
    • Eコマース:ネットイースの2本目の柱となることが期待されている事業。越境コマースのカオラ(考拉)とプライベートブランドを展開するB2Cコマースのヤンシュアン(严选)が軸。2015年度は5.1%でしたが、2017年度は21.6%にまで成長しています。
    • インターネットメディア:元々のメイン事業だったポータルサイト(www.163.com)を中心としたコンテンツとコミュニケーションのビジネス。広告収入がメイン。2017年度の売り上げは全体の4.5%なのであまり大きくないですね。
    • その他、Eメールなど:ネットイースは中国の無料eメールの先駆けで、ボクの中国人の友人はほぼ163のメールアドレスを持っていました。その他、音楽ストリーミング(网易云音乐)やチャットのようなインキュベーション的な事業は全て一括りにされています。養豚事業も恐らくこの分類かと。こちらも6.9%とまだ大きくありません。

    網易(ネットイース)、第2四半期営業収入は約2730億円:ゲーム復調、純利益減少に歯止め | 36Kr Japan

    ネットイース創業前

    ネットイースの創業者はウィリアム・ディン(丁磊)です。ネットイース創業前のウィリアムのキャリアは順風満帆とはいえませんでした。大学卒業後に上海市近くのニンボー市(宁波)の電信局に1993年に就職しますが、しばらくして退職します。そして広州に移りデータベース企業のSybaseで働きはじめますが、これも一年しか続きませんでした。さらに、広州のISPに転職してFirebird BBSを使ったフォーラムを立ち上げますが、この会社もすぐに辞めてしまいます。

    ネットイース創業と163の意味

    大学を卒業してからどこも長く続きませんでした。そこでウィリアムは起業することにします。何かアイデアがあったわけではなく、ソフトウェアを作ってシステム開発すればいいだろうと考えていたそうです。50万人民元(いまの日本円で800万円くらい)の資本金の一部は自己資金で、あとは友達に借りたそうです。とにかく自分のやりたいことをやりたかった。これがネットイースの原点なんですね。1997年のことでした。大学を卒業して4年ですね。テンセント(1998年)やアリババ、バイドゥ(1999年)より早かったんですね。

    中国ではドメイン名に数字が使われることが多いです。例えば中国電信の場合は10086.cnですが、これは中国電信のカスタマーサービスの電話番号が由来です。ネットイースの場合は163.comですが、これはインターネットに接続するときにダイアルアップ接続していた頃の名残です。中国ではインターネットに接続するときにダイアルする番号が163でした。

    ネットイースの初期のビジネスはポータルと無料電子メールによる広告モデルでした。

    IPOと業績不振とゲームビジネス参入

    ネットイースは2000年6月にNASDAQに一株$15.50で上場します。創業からたった三年です。すごいですね。しかし、ポータル事業を中心とした広告収入は伸び悩んでいました。その上で経営陣の不正の疑いや香港の企業の買収取りやめなどが重なり、株価が急落します。最低の時は$0.64で、価値は120億ドルから3億ドルまで下がりました。このために一時的にNASDAQでの取引を停止します。ウィリアムは30歳でした。すごいジェットコースターですね。

    そこでウィリアムスが決断したのがゲーム業界への参入でした。ポータルからのトラフィックをゲームにつなげるという理屈はわからないでもないですが、Webの開発とゲームの開発は全然違うので、すごいピボットだなと思います。

    そしてリリースしたのが『夢幻西遊』というWindowsプラットフォーム向けのMMORPGで、これが大ヒットします。ゲーム会社としてのネットイースの原点がここです。このピボットが成功してネットイースの株価は再び上昇します。なんとなく日本人のボクたちにはミクシーを想起させますね。

    ウィリアム・ディンのやりたいこと

    スタートアップは創業者のビジョンを具現化したものです。ウィリアム・ディンの場合は「自分のやりたいことをやりたい」が初期衝動でした。ビジョンというよりは初期衝動がネットイース を突き動かしているんじゃないかという気がします。

    ネットイースは創業がアリババやテンセントより早いにもかかわらず、バイドゥーの半分の資産価値なのはマーケットに動かされているというより、「自分のやりたいことをやりたい」が優先しているからなのではないかなと。ウィリアム・ディンはテンセントのポニー・マーやアレン・ジャンに輪をかけてメディアシャイでなかなか公の場に現れないので想像でしかないですが。

    BATにネットイースが加わってBANT(Baidu/Alibaba/NetEase/Tencent)になれればいいけど、それがゴールじゃない。そうじゃなければ養豚ビジネスに参入なんてしないでしょう。ボクはそんなネットイース が嫌いじゃないです。

    参考文献

    网易老总丁磊的创业故事-成功创业网

    Tencent unseats NetEase in battle for global mobile app leadership | South China Morning Post

    Sky Is Limit For NetEase’s Pig Farm Business

    Chinese Number Websites: The Secret Meaning of URLs | The New Republic

    Lost 3 billion to earn 110 billion, 32 year old became the richest man Chinese – china news

     

  • 徹底比較 SuicaとAlipay|日本のモバイルペイメント普及のカギ

    徹底比較 SuicaとAlipay|日本のモバイルペイメント普及のカギ

    中国はモバイルペイメントが普及している先進事例です。インターフェースがQRコードで一番目立つため、QRコードが大きく注目されています。しかし、インターフェースは(重要だけれども)一つのコンポーネントでしかありません。

    今回は中国の支付宝(Alipay)と日本のSuicaを比較して、何が足りないのかを検証します。そして、日本で中国より進んだ電子マネーを普及させるには何が必要なのかを考えてみます。

     

    支付宝(Alipay)と蚂蚁金服(Ant Financial)

    モバイルペイメントのジーフーバオ(支付宝|Alipay)を運営するのはアリババの関連会社であるアントファイナンシャル(蚂蚁金服|Ant Financial)です。アントファイナンシャルは非上場企業としては最大の価値評価(約16.7兆円)をされているユニコーン企業です。

    以前の中国モバイルペイメントの分析でも紹介した通り、アントファイナンシャルは決済を含む三つの主要サービスを展開しています。この三つが合わさって一つのビジネスモデルとなり、モバイルペイメントだけを真似ても意味がないことがわかります。

    アントファイナンシャルの主要サービスは以下の三つ。

    1. 決済機能(QRコード)
    2. マネーリザーブファンド
    3. 金融機能(クレジット)

    決済機能

    Suicaをはじめとした日本の電子マネーは1. 決済機能はありますが、2. マネーリザーブファンドと3. 金融機能がありません。日本の電子マネーの1. 決済機能はQRコードではなくICチップなのでむしろ中国より利便性は高いと言えます。QRコードは導入コストが低いために中国で裾野を広げるには有効でした。また、ライバルのUnionPayがICチップの決済インフラを抑えていたのも大きいと思います。

    インターフェースの違いよりも大きいのが手数料です。Alipayの手数料は0.1%ですが、Suicaの手数料は3%から5%とクレジットカードと同程度です。QRコードにして導入コストを抑えたとしても、運用コストが大きいのが中国と日本の大きな違いと言えます。中国のモバイルペイメントの手数料が低い理由はビジネスモデルが根本的に違うからだと考えられます。その違いは次に説明するマネーリザーブファンドと金融機能です。

    マネーリザーブファンド

    電子マネーはチャージする必要があり、そのチャージしたお金を貯めておく必要があります。日本の電子マネーもまずはチャージしますよね。中国の場合はこのチャージしているお金に銀行より高い利息(銀行は0.35%、余额宝は3.6%)がつきます。これが日本の電子マネーにないサービスの一つです。

    この仕組みはマネーリザーブファンドといい、アントファイナンシャルはユエバオ(余额宝)というサービス名で展開しています。マネーリザーブファンドは金融商品の一種で、ユーザーはユエバオに「投資」することによってリターン(金利)を受け取ります。

    また、日本の電子マネーとAlipayの大きな違いの一つがチャージの方法です。Alipayは直接銀行口座からチャージができますが、日本の場合は一部を除いて銀行口座から直接チャージができません。2018年9月現在ではMizuho Suicaくらいなものでしょうか。それ以外ではクレジットカードが必要になります。デビットカードのモバイル化は重要な普及要素の一つです。

    この仕組みを電子マネーのアプリ内(Alipay)で提供しているところがアントファイナンシャルの強みの一つです。Mizuho Suicaのやり方だと銀行によってそれぞれ別のSuicaが必要になります。

    金融機能

    金融機関は顧客から預かったお金(マネーリザーブファンド)を運用して利益を出します。別の金融商品に投資したり、貸し出して金利をとるなどです。

    Alipayはクレジットカード機能も提供しています。アントファイナンシャルの独自ブランドのため、代理店が支払う手数料はVisaやMastercardなどの国際ブランドと比べて安く抑えられています(国際ブランドの手数料は1%から5%、Alipayは0.1%)。アントファイナンシャルのキャッシングサービスがジエベイ(借呗)でクレジットサービスがフアベイ(花呗)です。これもAlipayのアプリ内で利用できます。

    金融機関の儲けは決済よりも金融機能の方が大きいのが通説です。Alipayの場合も決済手数料は低く抑えられているため、利益の源泉はマネーリザーブファンドの運用とこの金融機能になります。

    この機能も日本の電子マネーにはありません。日本の電子マネーのビジネスモデルは手数料で利益を出すビジネスモデルですが、Alipayのビジネスモデルは金融機能で利益を出すビジネスモデル。QRコードのような表面的なことだけではなく、そもそものビジネスモデルが違います。

    支付宝(Alipay)のサービススコープ

    アントファイナンシャルはアリババの関連会社ですが、アリババのコアビジネスはコマースサイトです。eBayのようなC2Cコマースがタオバオ(淘宝网)、AmazonのようなB2CコマースがTmall(天猫)です。Alipayはこのアリババのコアビジネスであるコマースサイトの決済機能から生まれました。これはSuicaがJR東日本のコアビジネスである電車代の決済機能から生まれたのと同じです。

    アントファイナンシャルとアリババはAlipayをアリババ以外でも普及させるためにエコシステムの形成を図ります。タクシーサービスやシェアバイクに投資するのはこのAlipayのエコシステム形成のためです。

    利用者が増えることで交通機関、公共サービス、その他の店舗などがAlipayの決済サービスを導入するインセンティブが増えます。

    JR東日本のSuicaも自社サービスの決済機能から店舗まで広がりましたが、積極的にスタートアップに投資はしていません。また、コマースサイトなどオンライン/モバイルショッピングでのSuica利用へスコープは広がっていません。オンライン決済に関してはAmazonも日本でAmazonペイの展開を進めているため、この分野に関しては早く手を打った方がいいと思います。

    支付宝(Alipay)とSuicaの違い

    中国のAlipayと日本のSuicaの違いは以下にまとめることができます。

    1. Alipayのビジネスモデルは決済だけでなく金融機能を含み、全ての金融サービスを一つのアプリ内で完結できる。日本のSuicaは決済手数料のビジネスモデルのため、決済以外の機能がない。
    2. Alipayは手数料で利益を出すモデルではないため、手数料が低い。日本のSuicaは手数料で利益を出すモデルなので、手数料が高い。
    3. Alipayの母体のアントファイナンシャルはサービス普及のためにスタートアップに投資しているが、JR東日本をはじめとした電子マネーの母体会社にそのような動きはない。
    4. Alipayはクレジットカードが前提のサービスではない。銀行口座と直接つながることが出来る。日本のSuicaはクレジットカードが前提。銀行口座と直接つながることができない。クレジットカード前提のために手数料が高くなる。
    5. Alipayはオンラインとオフラインを同じサービスで利用できる。日本のSuicaではオンラインサービスの決済はできない。

    こうやってみると、QRコードかICチップかの違いはそれほど大きな要素ではないことが理解できると思います。

    日本で中国を超える電子マネーを普及させるために

    QRコードは一番真似しやすい部分ですが、中国での電子マネー普及の本質ではありません。一部だけ真似しても同じ結果は得られません。それはインターフェースはサービスの視点で考えると一要素でしかないからです。サービスのスコープを俯瞰する必要があります。

    Suicaをはじめとした交通系電子マネーはかなり普及しています。サービスのスコープが中国より狭いので同じ利便性を得られていないだけです。Suicaはエキナカからマチナカまでは広がりましたが、オンラインやモバイルサービスまでは広がっていません。水道、ガス、電気料金を含む公共料金の支払いもSuicaではできません。

    しかし、スコープを広げて利便性を高めれば中国以上の電子マネーを実現するポテンシャルがあると考えます。では、Suicaのスコープを広げるにはどうしたらいいのでしょうか?

    独立金融機関としてのSuicaの可能性

    Alipayは「コマースに付随する決算サービス」でした。アリババはアントファイナンシャルを設立することで、Alipayを「決算サービスに付随する金融サービス」に変革しました。

    現在、Suica事業はJR東日本が行なっています。アリババがアントファイナンスを設立して本業から金融を分離したように、JR東日本も鉄道業と分離した金融機関を設立する必要があります。これは銀行業をやるという意味ではありません。アントファイナンスも銀行業はやっていません。Suicaを「鉄道業に付随する決算サービス」から「決算サービスに付随する金融サービス」へと変革しなければいけません。これによりビジネスモデルの転換ができます。

    Suicaがさらに広く使われるようになるためにはまだまだ多くのことをやらなければいけません。決算以外の金融サービスから利益をえるには独立した母体が必要となります。

    もちろん、JR北海道(Kitaka)、JR東日本(Suica)、JR東海(Toica)、JR西日本(Icoca)、JR四国、JR九州(Sugoca)は独立した企業でJR四国を除きそれぞれ独自の交通カードを発行しています。これらを統合するという考え方もありますが、それには時間がかかります。最大のユーザー数を誇るSuicaがシェアを取り、デファクト化をした方が合理的だと考えられます。そういう意味でJR東日本からSuica事業を独立させるのが一番早い方法ではないでしょうか。

    お金の流通の最適化

    現在のSuicaを利用したお金の流れは以下になります。

    1. 銀行口座
    2. クレジットカードまたは現金
    3. Suica(チャージ)
    4. 店舗で支払い

    アプリの場合、現金でチャージできないため、基本的にはクレジットカードからのチャージになります。この際にサービス提供業者にはクレジット手数料が発生していると考えられます。つまり、コストがかかっています。

    Alipayの流れは以下になります。

    1. 銀行口座
    2. Alipay(チャージ)
    3. 店舗で支払い

    一つステップが少ないのがわかります。これは銀行口座とAlipayが直接つながっているからです。銀行の手数料はかかると思いますが、クレジット手数料はかかりません。コストが安くすみます。

    日本の場合は他の国よりクレジット手数料が高いので、これを削減できる効果は非常に大きいです。

    大きなお金をアプリにチャージするインセンティブの設計

    たびたびチャージするのは面倒ですよね。でも、Suicaにたくさんのお金をチャージしておくメリットは少ない。Alipayはマネーリザーブファンドでこの課題を解決しています。

    Alipayではアプリにチャージしたお金をマネーリザーブファンドのユエバオ(余额宝)に移すことができます。ユエバオは銀行より金利が高いため、ユエバオの口座にお金をためておくのはユーザーのメリットとなります。運用会社のアントファイナンシャルはそのお金を運用して利ざやを稼ぐことができます。

    このようにアプリ内で資金を運用できるようになれば、アプリに大きなお金を預けるメリットが出てきます。

    クレジット機能を持たせる

    現金でなく、クレジットカードを利用して買い物をする人は多いと思います。Suicaにはクレジットカード機能はありませんが、Alipayにはクレジットカード機能あります。フアベイ(花呗)がクレジットで、ジエベイ(借呗)がキャッシングです。

    このクレジット機能はVisaやMastercardなど大手ブランドではなく、アントファイナンシャル独自ブランドのため、中間業者のマージンが必要ありません。

    クレジットカードには三つの業務があります。1) ブランド 2) イシュアー 3) アクワイアラーです。ブランドはVisa、MastercardやJCBです。日本の場合、イシュアーとアクワイアラーは同じことが多くて、銀行の三井住友カードとかイオンカードとか楽天カードとかです。日本の場合は唯一JCBがこの3つすべて行う総合カード会社となっています。国際ブランドに頼らないAlipayは中国のJCBみたいなものです。SuicaもJCBに続く第二の総合カード会社になればいいのです。JR東日本が事業母体だとこれはできません。

    モバイルペイメントを実現する

    Suicaはオフラインのペイメントには強いのですが、オンラインペイメントには対応していません。たとえば、コマースサイトで買い物をしてもSuicaで支払いできません。Alipayならできます。その他にも映画のチケットなどオンラインで買えるサービスはたくさんあります。

    考えられるユースケースとして、スマホのSuicaアプリで映画のチケットを買って、Suicaアプリにチケット情報がそのまま保存され、Suicaアプリで映画館に入場できるなどです。レストランの予約も可能ですよね。ペイメントと連携しているからドタキャンも少ないでしょう。これらすべて中国では実現されています。カギはQRコードではなく、オンラインとオフラインのシームレスな連携であり、中間業者の排除です。

  • はじめての中国Fintech:暗号化通貨とブロックチェーン【金盤】

    はじめての中国Fintech:暗号化通貨とブロックチェーン【金盤】

    はじめての中国Fintechはモバイルペイメント編【赤盤】モバイルバンキング編【青盤】の二回にわたってお届けしました。しかし、全くブロックチェーンやビットコインなど暗号化通貨に触れていないのに違和感を持った方もいるのではないでしょうか。ビットコインなど中国で盛んにマイニングが行われていて、中国のプレーヤーはビットコインをはじめとした多くの暗号化通貨に影響力を持っています。それなのになぜ?

    今回は中国に限らずFintechと暗号化通貨の関係をなるべくわかりやすく解説していきたいと思います。

    人民元とビットコインの違い(管理マニアと完全自由主義者)

    モバイルペイメント編【赤盤】モバイルバンキング編【青盤】で紹介した中国のFintechは中国の法定通貨である人民元を基本としています。法定通貨は中央銀行から発行され、中央管理されています。既存の中国Fintechはこの法定通貨である人民元が前提となっています。

    ビットコインに代表されるブロックチェーンを基盤とした暗号化通貨は中央銀行によって中央集権的に管理されていません。分散管理が基本です。ブロックチェーンとサイファーパンクの特集でも見てきたように、暗号化通貨の本質は完全自由主義者です。政府の干渉は必要ないと考える人たちによって作られました。管理マニアの中国政府と折り合いが悪いですよね。

    中国政府にとっての人民元の重要性

    中国の人民元は長い間固定レートでした。通貨制度改革によって変動性に変わったのは2005年のことです。それでも完全な市場による変動ではなく通貨バスケットというブラックボックスを使った管理相場制なんですけどね。中国は管理が好きなんです。

    一方で世界的に通用する通貨があります。米ドル、欧ユーロ、日本円などが国際決済通貨として広く認識されています。中国としては人民元でそこに割って入りたい。何と言っても世界で2番目に大きな経済の法定通貨です。人民元を国際化したい。でも、世界的には市場ではなく中国政府によって管理されている人民元を基軸通貨にするのはなかなか抵抗があります。

    そこで、特別引出権(SDR)というIMFの通貨バスケット(米ドル、欧ユーロ、英ポンド、日本円)に人民元を入れるよう働きかけます。それが功を奏して2016年からSDRの通貨バスケットに中国の人民元が加わりました。

    中国政府としては人民元の国際化に頑張ってきたわけです。そんな流れの中で「政府に干渉されない自由なビットコインを中国で普及しよう!」と頑張ったところで中国政府としてそんなこと許せるわけがありません。

    これは中国に限ったことではありません。中国以外の国でも法定通貨と暗号化通貨の兼ね合いは大きな課題です。例えば、エストニアはICOプラットフォームのために「エストコイン」の発行を検討していますが、EUの法定通貨であるユーロとの兼ね合いを慎重に検討しなければいけません。エストニアはEUのメンバーなので法定通貨のユーロとどのように整合性を持たせるかが重要となるのです。

    スウェーデンはEUの参加国ではなく、独自の法定通貨であるクローナを持っています。スウェーデンでもデジタル通貨「eクローナ」の発行を検討していますが、「eクローナ」はブロックチェーンベースの暗号化通貨ではないことが中央銀行からすでに示唆されています。可能性を全く否定しているわけではありませんが、検討しているデジタル通貨はブロックチェーンを基盤とした分散管理のものではありません。

    中国の金融政策における優先事項

    中国政府にとっての最優先は人民元の国際化と人民元による金融システムの安定化です。2018年7月現在で40兆ドルある不良債権問題を解決しなければいけません。また、国際的には中国国内の金融市場の自由化の圧力にどう対応するのかという問題があります。

    そんな中国政府から見た場合、ビットコインに代表されるブロックチェーンを基盤とした暗号化通貨はパラレルワールドのようなものです。政府としては法定通貨の世界が自分たちの世界、ビットコインはそれと並行して存在する全く別の世界。資金がこの二つの間を自由に行き来できたら管理できない。人民元の世界で規制しても、ビットコインの世界に逃げられてしまう。ただでさえ微妙な対応が必要なのに、暗号化通貨は中国政府にとっては不確定要素でしかありません。

    実際に中国政府はビットコインをはじめとする暗号化通貨の取引を禁止しました。ビットコインをAlipay(支付宝)から購入できるサービスに好比特币がありましたが、現在は停止しています。さらに今年からマイニングも規制されました。

    BINANCEなど香港/マカオに本社におく暗号化通貨取引所はまだ規制の対象となっていませんが、これもいつまで続くかわかりません。

    モバイルペイメント編【赤盤】モバイルバンキング編【青盤】でビットコインなど暗号化通貨の金融サービスには触れず、人民元をベースとした金融サービスを紹介してきたのはこのような背景があるからです。

    それでもブロックチェーンは中国で発展する

    ただ、ブロックチェーンという技術とビットコインなどの暗号化通貨というプロダクトを同じに考えてはいけません。ブロックチェーンという技術のアプリケーションの一つが暗号化通貨です。中国政府は現時点において暗号化通貨を締め出す動きを見せていますが、ブロックチェーンは推進しています。ブロックチェーンは技術で、それを応用したプロダクトの一つが暗号化通貨だからです。中国政府は目的と手段を見誤っていないですね。

    参考文献

    人民元 – Wikipedia

    国際通貨 – Wikipedia

    淘宝宣布全面封杀虚拟币,比特币要彻底完蛋?

    China’s Central Bank Faces Policy Bind Over Debt, Growth Goals – Bloomber

     

  • はじめての中国Fintech:オンラインバンキング編【青盤】

    はじめての中国Fintech:オンラインバンキング編【青盤】

    前回はモバイルペイメントに注目して中国のFintechを紹介しましたが【赤盤】、今回は銀行を中心に中国のFintechを紹介します【青盤】。シャドーバンキングのような複雑な問題はボクの手には負えないのですが、なるべく網羅的にわかりやすく解説します。

     

    中国のFintech

    中国では2013年からFintechに対する投資が増え続けましたが、中国の中央銀行である中国人民銀行が規制を強める発表を行い2017年には投資が大きく減少しました。それでもアメリカ、イギリスに次いで3番目にFintechに対して投資が行われた市場です。規制に左右されることが多くリスクもありますが、中国での金融サービスの市場は大きいためにスタートアップなどイノベーションも活発です。

    中国のFintech投資の伸び(ソース:Fintech Global)

    以下は調査会社のiResearchのデータをもとにコンサルティング会社のマッキンゼーがまとめたチャートですが、中国におけるFintech市場の90%近くは前回【赤盤】で紹介したペイメントが占めています *1。今回【青盤】で紹介するのはそれ以外のFintech分野となります。

    2015年末の中国におけるFintech市場規模(ソース:CNNIC; iResearch; McKinsey analysis)

    Fintechの分類

    まず、大まかにFintechを分類してみましょう。Fin-はファイナンシャル・サービス。つまり金融ですね。-techは技術、特にインターネット技術です。インターネット技術を活用した金融サービスがFintechです。

    金融サービスは大きく分けて以下の四つに分けることができます。

    1. 使う
    2. 預ける
    3. 借りる
    4. 増やす

    【赤盤】で紹介したペイメントはこの中の「1. 使う」に分類されます。お金を使う手段としてインターネット技術を活用します。他にもお金を送金するのも「1. 使う」です。ペイメント以外でも銀行でいえば口座振替や口座振込も「1. 使う」に分類できます。銀行ではないFintechであればTransferwiseがこれに当たります。

    今回【青盤】で紹介するのは「2. 預ける」、「3. 借りる」と「4. 増やす」の三つの分野です。細かい抜け漏れはあると思いますが、大まかにこれでFintechを捉えることができます。なお、ビットコインなど暗号化通貨/仮想通貨は「銀行ワールドと別にあるパラレルワールド」が前提なので、ここには入っていません。暗号化通貨/仮想通貨とFintechの関係は次回の【金盤】で解説する予定です。

    預ける:中国のオンライン銀行

    多くの人は銀行口座を持っていて、そこにお金を預けていると思います。ユーザーから見れば銀行の預金口座は全ての金融サービスのハブですよね。前回の【赤盤】でも説明しましたが、銀行はユーザーから預かったお金を運用して、その利ざやで儲けます。その窓口が預金口座です。個人の口座もあれば、企業が持つ法人の口座もあります。

    中国では長年この銀行口座は国有の銀行しか提供することができませんでした。しかし、中国経済が成長するにつれて金融サービスの需要に供給が追いつかなくなってきます。このミスマッチがシャドーバンキングの拡大につながります。シャドーバンキングは中国経済のリスクとなり、対応が必要になってきました。

    そのような背景もあり、中国銀行業監督管理委員会(中国银行业监督管理委员会)は2014年7月に銀行業のライセンスを私企業に提供することを決めます。最初は3社(=3行)でしたが、2017年には17社まで増えました。テンセントが筆頭株主(30%)のWeBankとアリババが筆頭株主(30%)のMyBankがこの代表です。

    銀行とマネーリザーブファンドの違い

    モバイルペイメントの解説【赤盤】でモバイルペイメントは銀行のようなマネーリザーブファンドとセットだと説明しました。アリババの場合はAlipay(支付宝)というモバイルペイメントとユエバオ(余额宝)というマネーリザーブファンドはセットです。しかし、マネーリザーブファンドと銀行の機能は似ていますが、本質的には違います。本質的に銀行口座の役割は「2. 預ける」ですが、マネーリザーブファンドの役割は「4. 増やす」です。

    銀行:個人(または法人)が銀行に口座を開設してお金を預けます。銀行はそれを集めて運用して利ざやを稼ぎます。運用に失敗しても銀行が資産を失っても50万人民元までは返済が保証されています。利息は0.35%です。つまり、ローリスクローリターンですね。銀行カードが使え、ATMでお金を引き出す他に、デビットカードUnionPayを使って店舗で支払いもできます。

    マネーリザーブファンド:預金ではなく基金です。ファンドが運用する基金に個人が投資をする形をとります。ファンドが運用に失敗して資産を失っても返還の保証はありません。金利は3.6%です。定期預金と違い、24時間365日ファンドからお金をいつでも引き出せるため、利便性が非常に高いのが特徴です。リスクが銀行口座より若干高いものの利便性が高く利息も高い。しかし、銀行ではないので銀行カードはありませんし、ATMでお金も引き出せません。デビットカードUnionPayは使えませんが、モバイルペイメントが利用できます。銀行口座にお金を移す時に手数料がかかります。

    既存の銀行と新しいオンライン銀行の違い

    最大の違いは銀行カード(UnionPay)の発行です。中国では銀行カードを発行するには対面での申し込みが必要になります。新しいオンライン銀行は基本的には物理的な支店はなく(あっても一つに限定されている)対面による銀行カードの発行ができません。

    ユエバオ(余额宝)、WeBank(微众银行)、MyBank(网商银行)の違い(ソース:亿欧)

    また、新しいオンライン銀行とマネーリザーブファンドの本質は違うと言っても、実質的な競合であることは変わりません。新しいプレイヤーのオンライン銀行は既存の銀行だけでなくマネーリザーブファンドと差別化をしなければいけません。前述の通り、既存の銀行の金利は利息は0.35%程度ですが、オンライン銀行は余额宝と同程度(4%前後)と比べても競争力のある金利を提供しています *2テンセントのWeBankで5%、アリババのMyBankで3.8%です。

    借りる:Fintechの成長分野

    新しいオンライン銀行の差別化ポイントは「1. 預ける」ではなく「2. 借りる」です。需要と供給のギャップが大きいのもまさにここですし、銀行が儲かるのもこの分野です。このギャップはこれまでシャドーバンキングが埋めてきたのですが、オンライン銀行が埋める一翼として期待されているのだと想像します。

    「2. 借りる」といっても様々な用途や形態があります。クレジットカードでリボ払いのようなカジュアルなもの、クレジットカードでのキャッシング、車のローンや学資ローンなど様々です。スタートアップや小さなお店なら事業のための借り入れもありますよね。

    そして、この「2. 借りる」はグローバルでも現在最も投資が行われている分野でもあります。最近だとスモールビジネス向けのKabbageやP2P金融のSoFiが大きな資金調達をしましたね。

    アプリから借りる

    中国で最もカジュアルな「2. 借りる」方法はモバイルペイメントのアプリ経由です。何か買い物をしたいのであればフアベイ(花呗)ですし、キャッシングならジエベイ(借呗)です。下の図はAlipay(支付宝)のスクリーンショットですが、クレジットもキャッシングも同じアプリの中で利用できます。

    P2P金融

    アプリでの少額融資だけでなく、P2Pによるお金の貸し借り(P2P金融)も活発です。P2P金融はソーシャル金融とも言われます。借り手と貸し手を結びつけ、個人間での融資を実現する仲介サービスです。欧米ではLending ClubProsperが有名です。中国での規模は2000億ドル(約22兆円)とも言われています。アメリカでこの分野のリーダーであるLending Clubの共同創業者のソウル・フタイトもアメリカでディエンロン(点融)を創業します。すごいですよね。

    しかし、P2P金融は世界的には成長しているのですが、中国では淘汰がはじまっています。P2P金融はこれまで明確な規制が明確ではなかったのですが、徐々に規制がはじまりました。2016年にP2P金融のイーズバオ(e租宝)が「ネズミ講」と認定され、幹部が逮捕されました。2013年から破綻するP2P金融は増え続け、顧客が急いで資金を引き上げる動きを見せています。前述のディエンロン(点融)やLufax、アメリカの株式市場で上場しているイーレンダイ(宜人贷)のような大手は成長を続けるでしょうが、中小のP2P金融は淘汰されていくと考えられています。

    オンライン銀行によるファイナンス

    テンセントのWeBankやアリババのMyBankといった新しいオンライン銀行は個人や中小企業を中心とした少額融資をターゲットにしていますが、カジュアルなキャッシングはアプリ、それ以外でもP2P金融などすでに競合となるようなサービスがあります。

    まだはじまったばかりなので、評価は難しいですが、競合が多い中でもWeBankの貸付額が8700億人民元で不良債権率が0.64%、MyBankの貸付額が4468億人民元で不良債権率が1.23%となかなかいいパフォーマンスですね。先行者利益もあるのかもしれませんがテンセントのWeBankの方がアリババのMyBankよりパフォーマンスがいいのが興味深いです。

    WeBank(微众银行)とMyBank(网商银行)の2017年実績(ソース:亿欧)

    MyBankの場合は571万の小規模企業に融資をしました。平均融資額は2.8万人民元で、75万件は農村地域への融資案件でした。そして11.9%は農業関連の融資だったそうです。中国における金融ギャップは大都市ではなく、地方が大きいのですね。

    ちなみに中国の銀行の不良債権率は1.67%で日本の銀行が1.3%だそうです(2017年実績)。日本の地銀の不良債権率が1.7%なので、日本の地銀よりいいパフォーマンスですね。

    信用経済

    不良債権率はとても重要な指標です。融資は一番銀行が儲けるところですが、貸したお金は返してもらわなければいけません。中国でお金を返さない人をラオライ(老赖)といいますが、このラオライを減らさなければいけません。お金が返ってこないリスクを信用リスクといいます。この信用リスクをどれだけ最小化できるかで収益が大きく変わってきます。

    この信用リスクを低減する仕組みがクレジットスコアです。日本だとCICですね。アメリカだとFICOVantageScoreです。中国では百行征信有限公司、通称シンリエン(信联)です。

    シンリエン(信联)はアリババのセサミクレジット(芝麻信用)やテンセントのテンセンジェンシン(騰訊征信)など民間の信用情報調査会社と業界団体が設立した企業で、中国人民銀行から信用情報調査会社としての認可をはじめて受けました。これまでセサミクレジット(芝麻信用)などが個別に認可を申請してきましたが、シンリエン(信联)がその役割を担うことになりました。

    中国ではアプリを中心とした独自の信用経済が発達してきました。セサミクレジット(芝麻信用)のスコアが高ければサービスの頭金が必要なかったり、多くの特典が与えられるようになりました。最近だと、セサミクレジットが750ポイント貯まったユーザーは新しいスマホを購入前に30日間無料で試せる特典を発表しました。

    利用者もセサミクレジットの評価をよくするために正しくサービスを受けるようになります。しかし、信用情報がプラットフォームに集中することによる個人情報の悪用などの懸念が高まりました。よく金融で影響力の強い「三人のマー(三马)」と言われます。アリババのジャック・マー(马云)、テンセントのポニー・マー(马化腾)、ピンアンのマー・ミンジェ(马明哲)の三人ですが、情報の寡占が懸念されました。これはアメリカでも同じ動きですよね。シンリエン(信联)が三年の試行の末に正式に人民銀行からライセンスを受けたのはこのような背景があります。

    増やす:中国でも注目を浴びるAIを使ったロボアドバイザー

    金融ギャップは借りる側だけではなく、投資する側にもあります。増やすには銀行口座に預けるだけではなく、高利回りの期待できる金融商品を買うこともできます。ある意味、マネーリザーブファンドも金融商品の一つと言えるでしょう。

    しかし、数多くある金融商品から自分に合ったものを選ぶのはなかなか難しいものがあります。そこで注目を浴びているのがAIで最適な投資先を見つけてくれるロボアドバイザーです。このロボアドバイザーの先駆けは2008年に創業したアメリカのWealthfrontです。この他にもRobinfoodが有力なプレーヤーです。日本でもWealthNavi(ウェルスナビ)やTHEO(テオ)が有名ですよね。

    中国でも金融商品のニーズがあるため、ロボアドバイザーへの投資も盛んです。中国ではPINTEC(品钛)やトウミRA(投米RA)が有力なプレーヤーです。多くはP2P金融で地盤を築いていますね。特にPINTECは2018年7月にアメリカの証券取引所にIPOを申請して勢いに乗っている中国のFintech企業です。

    急成長するPINTEC(ソース: 新浪科技)

    PINTECの2016年の収入は5490万人民元でしたが2017年には5億6870千万人民元、936%の成長を実現しました。この原動力となっているのがサービスフィーです。

    参考文献

    What’s next for China’s booming fintech sector? | McKinsey & Company

    Panic Roils China’s Peer-to-Peer Lenders – Bloomberg

    A Guide to China’s $10 Trillion Shadow-Banking Maze – Bloomberg

    Investors left to rue losses as fraudulent Chinese P2P lenders collapse in tighter regulatory environment | South China Morning Post

    China’s Private Commercial Banks like MyBank and WeBank have a ways to go – Kapronasia

    Asia’s Richest Banker Spots a Once-in-a-Lifetime Opportunity – Bloomberg

    阿里腾讯的三年互联网银行实验-亿欧

    不良贷款率_百度百科

    蚂蚁聚宝_百度百科

    余额宝和银行存款有什么区别?

    “信联”来了!千万不要失信不还款,不然……

    国际金融报-人民网

    致老赖:“信联”成立之后 P2P的钱你不得不还 – 金评媒

    支付宝“蚂蚁借呗”发生重大变化,马云:信联时代已经来临!-新闻头条

    “信联”驾临 信用服务行业开启新时代_搜狐财经_搜狐网

    品钛将上市,重监管时代的金融科技故事该如何讲?|宜人贷|京东金融|服务费_新浪科技_新浪网

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    *1:2015年の資料なので若干古いですが、割合はそれほど変わってないでしょう

    *2:上の表を参照してください。中国語だけど漢字だからわかりますよね。上がユエバオ、次がMyBankで下がWeBankです