そして、スリーマイル島原子力発電所事故です。アップルにデザイン文化を植え付ける決定的な仕事をしたのは先に触れた”Design for Everyday Things”の著者ドン・ノーマンです。ドン・ノーマンはアップルでUXプロフェッショナルと呼ばれる人たちを育てます。その一人がジョニー・アイブです。そして、ドン・ノーマンはスリーマイル島事故の調査チームの一員でした。ノーマンの分析によると、スリーマイル島の原子力発電所は技術的な課題を優先して、そこで働く人たちを考慮に入れなかったことだそうです。コントロールルームのデザインは後回しにされ、何か工夫をする時間も余裕もなかった。例えば、原子炉は常に「第一」と「第二」の二つペアで作られます。しかし、コントロールルームはひとつしか作られませんでした。一つ作って、その鏡面イメージをもう一つ作った方が安上がりだと考えました。エンジニアは全く逆の配置の二つのコントロールルームで仕事をしなければいけませんでした。
職業としてのデザイナーの定義はあいまいです。試験とか資格とかないので、誰でも自称デザイナーになれてしまいます。スタンフォード大学のd.schoolのような学校もないですしね。ボクなんかもちゃんとした教育を受けたことはないので、「なんちゃってデザイナー」なのかもしれません。とはいえ、ボクがはじめた頃はペルソナとかカスタマージャーニーマップとかツールがそろっていなかったので、独自で工夫するしかありませんでした。UXの世界に決定的に影響を与えた書籍”The Psycology of Everyday Things”(現在は”The Design of Everyday Things”に改名/日本語訳は『誰のためのデザイン?』)だって、世に出たのは1988年ですし、ペルソナを世に広め、インターフェースデザインに影響を与えたアラン・クーパーの”About Face”も1995年です。いま現在、日本でどれだけデザインについて学ぶ場所が提供が提供されているのかはよくわかりませんが、みんな試行錯誤しながらツールや方法論を作り上げてきました。ボクもそうです。
そういう時に若いデザイナーたちに渡すのがA Book Apartの本です。英語の本ですが、日本語でこれくらい基礎知識が分野別にコンパクトにまとまってるシリーズはないので。
最近買ってデザイナーたちに手渡したのは”Conversational Design”と”Everyday Information Architecture”です。Conversational Designとはどうやってデザインを通じてユーザーと対話をするかです。Maxims of Violationsのような重要なコンセプトが紹介されています。情報アーキテクチャの手法も大規模なWebサイトを作る上では日本でも活用されはじめていますが、アプリのデザインでは使われていなかったりします。LATCHがすべてじゃないですが、せめてLATCHとは何で、どうやって使うのかくらい知っておこうよ、マジで。
A Book Apartの本は現時点でVol. 31 Expressive Design Systemsまで出ています。それぞれ100ページ強の軽い本ですが、ひとつの分野にフォーカスしているため、総合的な分厚いデザイン本一冊より各テーマについては深堀されています。こういう、軽くてサクッと読める本が日本語でもあるといいんですけどね。日本のデザイナーは日本語だけでは情報的には一周半くらい遅れてしまうので、常に最新の英語の資料に触れておきたいものです。Webコンテンツだと薄いので、A Book Apartくらいのコンパクトな豆本がちょうどいいと思います。
マイク・モンテイロ自身がMule Designを経営しているデザイナーですが、デザイン倫理学を広める伝道師的な役割を自ら担っています。”Ruined by Design”はデザイン倫理学の伝道師として、彼が言いたいことをとにかくぶつけてきたなかなか情熱的な書籍です。口語的な表現が多いので、書籍として読むより本人の声をオーディオブックで聴いた方がいいんじゃないかな。リバタリアンが大っ嫌いだとすごく伝わってきます。アイン・ランドなんてマジでクソ!みたいな(笑)。マイク・モンテイロはポジション的にはかなりリベラルです。バーニー・サンダース好きそう。どのような立場から発言しているのか、わかりやすくていい。
しかし、実際に正しい情報をユーザーが提供することは難しい場合がります。例えば、アメリカのインディアンはFacebookで本当の名前を使えないことがあります。Facebookの本名のポリシーに適合しないからです。例えばChase Iron Eyes(鉄の目を追う)が本名だとしても、Facebookにとっては偽名になってしまいます。
アダム・ローレンス(以下アダム):職業としてはヨーロッパで最も優れたビジネススクールの一つであるマドリッドのIE Business Schoolのサービスデザイン思考の助教授です。そしてもちろん、中央ヨーロッパを中心に活動しているサービスイノベーションと顧客体験のコンサルティングエージェンシーであるWorkPlayExperienceの創業者の一人でもあります。
なかむら:最近出版された『This is Service Design Doing』に関連するのかもしれませんが、日本の組織が直面している課題の一つに「モノづくり」から「コトづくり」へのシフトがあります。おそらく日本企業の中で働いている多くの人は顧客中心であり、サービス思考であるべきだと考えてはいると思います。しかし、実際に変わるには「考える(Thinking)」だけではダメで、「行動(Doing)」が必要になります。行動に移す難しさについて何かお考えになる部分はありますか?
Jeff GothelfのリーンUXキャンバスやJim KalbachのUXストラテジーブループリントなど素晴らしいツールがありますが、デザイナーや講師としてデザイナーと関わる機会が多い私から見るとこれらのツールは新しいデザイナーが習得して実戦で使うには難しい。このプロジェクトが実現する価値があるかどうか判断するのが単純に彼らにとって難しいのです。
外側の要素を埋めてから、頭の中の動きにフォーカスしはじめます。多くの共感マップは頭の外側に「考えてること、感じていること」を置いて、あまり書き込む余地がないことに気づきました。真ん中の大きな頭はこのマップデザインの最も重要な側面の1つです。実際に最初の名前は「The Big Head」でした。なぜなら、もともとのコンセプトはその人が何を感じて何を考えているか知ることだからです。そして、それは今も変わりません。
2003年にコンサルタントのFred Reichheldがハーバードビジネスレビューの記事「伸ばすべきたった一つの数字 “The One Number You Need To Grow”」という記事でビジネス界に火をつけました。彼は顧客のロイヤリティーを測るたった一つの質問で経営者は顧客がビジネスに対する感情を測ることができると断言しました。彼は記事の最後に「この数字こそが伸ばすべきたった一つの数字です。シンプルで奥深い。」と締めくくりました。