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  • グローバルコミュニティーの作り方|第一回:Kickstarter|クリエーターのためのコミュニティー

    グローバルコミュニティーの作り方|第一回:Kickstarter|クリエーターのためのコミュニティー

    21世紀のビジネスの特徴にコミュニティーの重視があります。20世紀だとブランドロイヤリティーが重要視されていましたが(もちろん、今も重要視されていますが)、コミュニティーはその一歩進んだ考え方です。ハーレーダビッドソンとかいい例ですよね。ハーレーダビッドソンのバイクに乗る人にとってはライフスタイルの象徴なわけです。これがブランドロイヤリティーの源泉ですね。そして、それはハーレーダビットソンを愛する人たちのコミュニティーで維持されている。コミュニティーがなければロイヤリティーもありません。今回の特集ではビジネスにおけるコミュニティーの重要性についてみていきたいと思います。

    第一回目はクラウドファンディングのKickstarterです。物理的なプロダクトを作るときの資金集めでクラウドファンディングは非常にありがたい存在です。OculusもPebbleもグローバルなプロダクトですがKickstarterがなければ存在しませんでした。

     

     

    そもそもクラウドファンディングとは

    資金を一般から調達するパブリックファンディング自体は昔からあって、新しいアイデアではありません。ホメロスは『イーリアス』の翻訳のため750人の支援者をパブリックファンディングで獲得して出版しました。モーツァルトもコンチェルト作成のためにパブリックファンディングを行いましたし、自由の女神もパブリックファンディングです。あれ、税金で作ってないですからね(本体はフランスからの贈り物で、台座はアメリカ側で一般の募金で資金調達)。

    このパブリックファンディングをインターネットで行うのがクラウドファンディングです。

    クラウドファンディングで成功するために必要なコミュニティー

    クラウドファンディングで成功するにはコミュニティーが必要です。そして、クラウドファンディングのコミュニティーには二つのレイヤーがあります。一つはその商品独自のコミュニティー。もう一つはクラウドファンディングのプラットフォームがもつコミュニティーです。

    商品独自のコミュニティー

    以前にインタビューしたIoTプラットフォームのThe Things Networkの場合、クラウドファンディングをはじめる前にワークショップをたくさん開催しました。実際にツールに触れてもらい、簡単にIoTネットワークを構築できることを体験してもらいました。そして、ワークショップ参加者の中から「早くこの商品が欲しい!」という声が十分あがるまで待ちました。例えば、支援する人(バッカー)が100人必要だったら、最初の20人をこのコミュニティーの中から確保する必要があります。以前に「Kickstarterで資金調達するときに大事な三つのこと」という記事を書きましたが、数日で20%達成したプロジェクトの79%は成功するからです。

    この商品独自のコミュニティーはローカルなコミュニティーで構いません。The Things Networkの場合も最初はアムステルダムでワークショップをやってました。オンラインのプロダクトならいきなりWebでグローバルもありでしょうが、今回はクラウドファンディング(=物理的なプロダクト)ということで物理的なプロダクト前提です。オンラインは第二回:ProductHuntでカバーします。

    プラットフォームのコミュニティー

    クラウドファンディングのコミュニティーは言語で分断化されています。本当の意味でグローバルなプラットフォームはまだありません。日本(だけ)でクラウドファンディングをしたければやっぱりMakuakeCampfireの方がいいですし、中国(だけ)だったらJD.comのジョンチョウ(众筹)でしょうし、韓国(だけ)だったらWadizでしょう。しかし、できるだけ多くの国をカバーしてグローバルコミュニティーに広げるならば英語でKickstarterでということになります。*1

    前置きが長くなりましたが、クラウドファンディングのプラットフォームにはその中に独自のコミュニティーがあります。Kickstarterは独自のコミュニティー作りに成功していて、その特徴の一つがリピート率です。Kickstarterは統計を公開していますが、クラウドファンディングを支援する人(バッカー)の30%以上がリピーターです。単純に考えると商品独自のコミュニティー(20)にプラットフォームのコミュニティー(30)を足せば半分以上がコミュニティーからの資金調達になります。残りが新規ですね。新規を獲得するのは大変ですから、コミュニティーの割合が高いほど成功の確率は高まります。

    それほどクラウドファンディングにとって大切なコミュニティーなのですが、そもそもKickstarterはどうやってコミュニティーを作り上げたのでしょうか?先に答えを言ってしまうとほぼ何もしていないです。では、どうやってここまで大きくなったんでしょう?

    Kickstarterのはじまり

    ペリー・チェン(2001/2002)

    Kickstarterの創業者の一人であるペリー・チェンはニューヨークで生まれて、ニューオリンズに移り住んでいました。2001年か2002年の頃の話です。いろんな仕事を掛け持ちしながら音楽もやっていました。音楽が好きだったら考えますよね。自分で好きなアーティストを呼べたらなあって。ペリー・チェンも同じことを考えていて、そのためのWebサイトとかあればいいのにと思っていました。でも、彼自身はデベロッパーでもないし、デザイナーでもないのでアイデアだけでとどまっていました。

    ヤンセイ・ストリクラー(2005)

    しかし、人生で選択を迫られる時ってあるものです。ペリー・チェンはニューオリンズで仕事がなくなって、ニューヨークに帰ることになりました。だったらレストランで働きつづけるより、自分のやりたいことを追いかけてみたら?そう考えたそうです。そして、ニューヨークに戻ってからウェイターとして働いていたレストランで二人目の創業者のヤンセイ・ストリクラーと出会います。これが2005年。そのレストランの常連だったヤンセイは音楽雑誌の記者だったので話があったのでしょうね。ペリーの考えているアイデアを二人で具体的にイメージしていきました。

    ペリー・チェンが描いた初期のワイヤーフレーム

    チャールズ・アドラー(2007)

    三人目の共同創業者のチャールズ・アドラーはシカゴのWebのデザインエージェンシーのAgency.com(今は吸収合併されて別の名前)に長年勤めていました。ほぼ初期メンバーですね。最後の方は(あまりやりたくない)営業職でしたが、それもこなしていました。上司とクライアントに行く途中に飛行場で「キミが失敗してもクビにしないから安心したまえ」と言われました。(ざけんじゃねーよ、オレはこの会社の苦しい時からやってきてんだ。てめー何様だ)と内心思いました。ちなみにこの上司は前の会社をクビになって移ってきたそうです。そして、チャールズは会社を辞めてニューヨークへ行きます。

    チャールズはニューヨークで自分のデザインスタジオを設立しました。そして、友達からペリーを紹介されます。最初にペリーと電話で話をした時、ぶっちゃけクライアント候補と考えていたそうです。ペリーは電話でアイデアについてまくし立て、チャールズは大まかに理解しました。まだ存在しないアイデアだけを人に伝えるのは難しいことも含め理解しました。そして、面白そうだと思いました。

    まず、数週間だけ一緒にコラボレーションすることにしました。まあ、ビールを奢ってくれればいいよと。その間に何か意味のあるものが生まれなかったらやめればいいし、意味があるものが生まれたらその時に考えようと。そして、それが続くことになります。チャールズが参加してから紙のワイヤーフレームからデジタル版に進みはじめました。チャールズは開発とデザインの両方ができました。ちなみに、これは2007年の話で、三人とも別の仕事をしていました。アイデアで食べていけませんからね。

    チームの立ち上げとローンチ(2009)

    チャールズは開発を進めるためにチームを作りはじめます。最初は外部の開発会社やデザインエージェンシー。4回目でようやくこれはと思えるチーム(アンディー・バイオとランス・アイヴィー)に当たったそうです。スタートアップの場合はあまり大きな金額を払うことができないので、株で参加してもらうことが多いですよね。Kickstarterも同様でした。

    そしていよいよ2009年にローンチします。最初の着想から8年ですね。最初にペリーがグレース・ジョーンズのTシャツプロジェクトを立ち上げ、ヤンセイがその最初の支援者となりました。この時点で初めて正社員を雇います。

    Kickstarterがマーケティングらしいことをしたのは50人の友人にプロジェクトをスタートさせる招待状を渡したこと。そしてその50人がそれぞれ5人の友達を招待できるように招待状をプレゼントしたことでした。たったそれだけ。そしてローンチから三日目で最初の成功プロジェクトが生まれました。

    Kickstarterにとってのプロダクトとコミュニティーとは

    Kickstarterの創業者たちはKickstarterをクラウドファンディングと言ったことはないそうです。Kickstarterはクリエーターが自分たちのやりたいことを実現するためのプラットフォームなのだそうです。その仕組みがたまたまクラウドファンディングだったと。

    そして、クリエーターを支援したい人たちがプロジェクトを見つけることができる場所でもある。クリエーターは自分たちのプロジェクトとともに自分たちのコミュニティーをKickstarterに呼び込み、Kickstarterのコミュニティーは徐々に広がります。

    参考文献

    Startup Grind Chicago Hosts Charles Adler (Co-founder Kickstarter) – YouTube

    at first i remember standing in my kitchen talking…

    How Was The First Year Of Kickstarter?

    Happy 3rd Birthday, Kickstarter! — Kickstarter

    Kickstarter and the Economics of Creativity (Full Session) – YouTube

    Employee #1: Kickstarter

    On to the next 2,271 days… – Hacker Noon

    Eight Years of Kickstarter (1 of 2) – Lance Ivy – Medium

    関連記事

     

    *1:日本語でKickstarterはオススメしないです。日本語なら素直にMakuakeでやりましょう。Makuake(日本語)で成功してから、次のステップででKickstarter(英語)やジンチョウ(中国語)というのはアリです。

  • スロースタートアップ|第三回:MailChimp|選んだ道じゃないけれど

    スロースタートアップ|第三回:MailChimp|選んだ道じゃないけれど

    スタートアップといえば急速な成長のためにベンチャーキャピタルからガツンと資金調達をするイメージがあると思います。しかし、ベンチャーキャピタルから資金調達をせずにずっとブートストラップ *1 しながら成長するスタートアップも存在します。日本だとサイバーエージェントがそうですよね。そういうブートストラップなスタートアップをスロースタートアップと呼びたいと思います。

    「スロースタートアップ」の第三回目はスタートアップなら誰しも(おそらく)お世話になったことがあるMailChimpです。当然、ボクもお世話になっています!これまで見てきたGithubはやりたいことを求めてdribbbleはおじさんたちのサイドプロジェクトとして資金調達をしない自らスロースタートアップの道を進みましたね。MailChimpの場合は全く別の理由でスロースタートアップの道を歩まなくてはなりませんでした

    MailChimpってなに?

    簡単に言えばeメールによるマーケティングツールです。マーケティングオートメーション(MA)のメールだけに特化したサービスです。2000サブスクライバーまでは無料なのでスタートアップがよく使います。ほんと助かってます。

    勘違いによる出会いと解雇

    創業者のベン・チェスナットとダン・クルジアスはアトランタで出会います。ベンはデザイナーとしてCoxという会社に勤めていました。MP3のプロジェクトでデベロッパーが必要だったベンは友人からダンを紹介されます。ダンは元々はDJで不動産業をしていました。音楽の仕事でDJのプログラミングだと思ってたら、コンピューターのプログラミングだった。とんだ勘違いですが、速攻でコンピューターのプログラミングを覚えたそうです。マジか!

    勘違いからの出会いでしたが、二人は息があったようで一緒に働きます。しかし、CoxのMP3の事業は二人の仲ほどはうまくいかず、2000年にベンとダンは一緒に解雇されてしまいます。まあ、Spotifyまで音楽ビジネスはうまくいかないのですから、これは仕方がない。

    失意の起業と失敗の連続

    そして、失業者となった二人は2001年にRocket Science Groupを立ち上げます。最初はコンサルティング業、次に旅行業にピボット、更に不動産業にピボットします。つまり、うまくいかなかったわけです。ベンもダンも奥さんと子供がいましたが、この頃の生活費は奥さんが稼いでくれました。実はもうひとり創業者がいたのですが、その人とはコンタクトが取れないそうです。まあ、うまくいかない時期ってそんなもんですよね。

    うまくいかなかった理由は二人とも営業が苦手だったからです。アトランタにはデルタ航空、コカコーラ、CNNなどの大企業があるのですが、そういう大企業を相手にするのも苦手でした。自分たちでもできたのは中小企業で、中小企業はeメールマーケティングを求めていました。

    MailChimpの誕生

    そこで、普段は大企業相手につらい営業をしつつ、空いた時間で中小企業向けにeメールマーケティングの自動化の手伝いをしていました。この隙間時間のeメールマーケティングのプログラムはすごく楽しむことができたそうです。そして、それが1万ドル(約10万円)、2万ドル(約20万円)くらい入ってくるようになりました。そこで、使っていたプログラムをMailChimpと名付けて、それだけでやっていくことに決めました。これが2007年の話。創業から6年ですね。すっごく長かった!

    2007年と言えばMailChimpの競合会社でベンチャーキャピタルから資金調達をしていたConstant ContactがIPOをした年です。当然ながらベンチャーキャピタルはMailChimpにも来たそうです。でも、ぶっちゃけファイナンシングというのがよく分からなかったそうです。何か信念があって資金調達をしなかったわけではなく、よく分からなかった。少なくとも初期のインタビューではそう答えています。当時のベンチャーキャピタルのアドバイスは中小企業ではなく、大企業のエンタープライズビジネスにシフトすることでした。しかし、それは二人がやりたくないことでした。

    フリーミアムで飛躍

    MailChimpが急速に成長したのは2009年にフリーミアムモデルを導入してからです。当時は10万人くらいだったユーザーがその年で100万人になり、翌年に200万人になりました。

    ブートストラップし続けるということは、エグジットする必要がないということです。回収しなければいけないものがないですから。ベンチャーキャピタルから投資を受け入れるということは、投資を回収する(エグジットする)ためにIPOなりM&Aをしなければいけません。進んで起業したわけでもなく、選んでブートストラップしたわけでもありませんが、MailChimpの場合はそういう圧力がないので今日も元気にブートストラップ中です。

    参考文献

    Want Proof That Patience Pays Off? Ask the Founders of This 17-Year-Old $525 Million Email Empire | Inc.com

    MailChimp Story – Profile, CEO, Founder, History | Email Marketinng Companies | SuccessStory

    Monkey Business: The Story Behind MailChimp’s Wild Growth | Drift Blog

    MailChimp and the Un-Silicon Valley Way to Make It as a Start-Up – The New York Times

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    *1:自己資金で事業をするという意味。コンピューター用語としてコンピューターを起動することをブートと言います。ブートストラップは外部からの助けがなくプロセス実行できることを言います。それがスタートアップの世界でもそのまま使われるようになりました。ちなみに、本来的な意味はブーツの後ろにつく輪っかの部分です。ブーツをかける輪っか。

  • Dropboxを成長に導いたショーン・エリスのグロースハック

    Dropboxを成長に導いたショーン・エリスのグロースハック

    「ソースにあたれ!」って大事ですよね。何かを本質的に理解したければソースを探す。グロースハックに関しては「ソース」は間違いなくショーン・エリスです。そしてショーン・エリスをここまで有名にしたのはDropboxでの成功です。では、ショーン・エリスは具体的にDropboxで何をして、それがどのような形で今のグロースハックとなっているのでしょうか。

    初期のDropboxの成長に関してはいろんなところに事例として取り上げられています。もっとも有名なのは共同創業者でCEOのドリュー・ヒューストンがまとめたこのスライドでしょう。

    Dropboxの場合は「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit*1)」をかなり早い時期に作り上げることができたものの、成長(グロース)させるのに苦労していたことがわかります。そこでDropboxに参加したのが「グロースハック」の生みの親であるショーン・エリスです。「何が必要だったか」は色々と資料があるのですが、「では、実際にそれを解決するためにどうしたのか?」に答えてくれる資料はあまりありませんでした。

    ショーン・エリスとDropboxの出会い

    ショーン・エリスが参加した時、Dropboxはまだ10人のエンジニアチームでした。ショーン・エリスはオンラインゲームのUproarやリモートデスクトップのLogmeInなどでマーケティングの担当役員を経験しながらスタートアップに必要な成長の手法を文書化してきました。それを本格的に活かしたのがDropboxで後にグロースハックと名付けられる手法でした。

    グロースハックとマーケティングの違い

    まず、スタートアップはグロース(成長)に集中するしかないという現実が出発点となります。最も大事なのは新規ユーザー獲得、ユーザーから顧客への転換、顧客の維持の三つです。大企業と違い、リソースも少ないから伝統的なマーケティングの「認知」や「ブランディング」にリソースを費やせません。

    つまり、グロースハックというのはスタートアップに必要な成長のコアとなる部分を数値に基づいたテストで徹底的に行うことです。そして、伝統的なマーケティングとは違いカスタマージャーニー全般に関わること。成長を軸とした組織をまたがるマトリックス戦略とも言えます。

    アンドリーセン・ホロヴィッツのアンドリュー・チャンは開発との融合を強調していて、それが定義として広まってたりもしますが、ショーン・エリスのオリジナルのコンセプトでは必ずしもエンジニアとの融合は不可欠ではないそうです。

    グロースハックの最終的な目標は企業全体にグロースの文化を植え付けること

    ショーン・エリスのDropboxとの契約は暫定CMOとして6ヵ月間。契約書でゴールとして設定したのは数値に基づくテストによるグロースの文化をDropboxに定着させること。最初の2週間はDropboxの成長の仕組みを質的に量的に理解することに徹したそうです。そこでわかったのは製品への入り口がたくさんあり、ホームページから入るユーザーは思ったより少ないということ。

    使いにくい摩擦になるような箇所を取り除き、よい体験ができるように、それぞれの入り口でテストしていきました。プロダクトのテストは10人のエンジニア集団なのでやってきましたが、グロースのテストをそれまではやったことはなかったそうです。

    最初の三、四のテストはCEOのドリュー・ヒューストンと一緒にやり、コツを掴んでいきました。そして徐々にエンジニアが参加してテストをコンセプト化して実装していきました。こうしてグロースの文化が全体に波及していきました。

    Dropboxを去ってすぐ後にショーン・エリスはスタートアップのピラミッドを発表します。これは「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit)」のステージ、以降のステージ、グロースのステージの三つに分けるシンプルなものでした。

    しかし、グロースハックの最終的な目標は初期のDropboxでもわかるように組織に数値テストを基にしたグロースの文化を定着させることです。ショーン・エリスはそれを加味した上で、上記のように「成長のピラミッド」として「スタートアップのピラミッド」をアップデートしました。

    成長の原動力となる数字となる道しるべの指標(Northstar Metrics)

    アップデートしたピラミッドでもまず大事なのは「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit)」があること。「市場に受け入れられるプロダクト」とは使っているユーザーに価値を提供できるプロダクトとも言えます。

    そして、「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit)」を探す道しるべとなるのが「道しるべの指標(Northstar Metrics)*2」です。つまり、ユーザーベースにどれくらいの価値を提供しているかを示す指標です。

    ショーン・エリスの経験から言えることは、どのようなプロダクトでも最大のグロース要因は口コミだそうです。だったら短絡的に口コミを増やせばいいというわけではありません。必要なのは二つ。1)価値を提供することに集中すること、2)それを定期的に計測して確認すること。大事なのはユーザーに提供する価値とその数値化です。

    ショーン・エリスがはAirbnbとFacebookを例として説明しています。Airbnbなら道しるべの指標は「宿泊予約数」です。Airbnbにとってアプリのインストール数やユーザー数は道しるべになりません。予約をして、体験をしなければ価値は生まれないから。その体験によって口コミも生まれるし、エコシスステム全体がビジネスとして活性化します。Facebookの場合なら道しるべの指標は1日の利用者数(Daily Active User:DAU)です。アクティブなユーザーが増えれば、コンテンツが増えて価値が生まれます。

    道しるべの指標(North Star Metrics)と最重要指標(One Metrics That Matters:OMTM)の違い

    この「道しるべの指標」と似ているのが『リーン・アナリティクス』で紹介されている「最重要指標(OMTM)」です。OMTMはその時のビジネスを成長するのに何に集中したらいいのかというコンセプトですが、「道しるべの指標」はもっと長期的な本質的な価値指標となります。

    ショーン・エリスは自身のLogmeInでの経験で違いを説明しています。リモートデスクトップソリューションのLogmeInの場合はリモートコントロールセッションがユーザーの価値を生む「道しるべ指標」でした。しかし、95%の新規ユーザーはリモートコントロールセッションを行なっていませんでした。そこでマーケティングとエンジニアチームは共同でサインアップから利用までのコンバージョンを改善するために実験とテストを繰り返しました。これはLogmeInが急成長した時期と重なります。この時に注力したコンバージョン率がOMTMですが、リモートコントロールセッションの数が「道しるべ指標」であることは変わりません。OMTMはグロースの段階で変わりますが、「道しるべ指標」は変わりません。

    企業がグロースハックを取り入れるのに必要なこと

    グロースハックの最終的な目標は組織全体に数値に基づいたテストによるグロースの文化を定着させることですが、それはいうほど簡単ではありません。スプリットテストなどの手法はグロースハックの一部でしかありません。

    例えば、LogmeInの事例ではマーケティングとエンジニアチームがそれまでのすべての活動を止めて新規ユーザーのサインアップから利用までのコンバージョンに集中しました。実際に成長の妨げとなっていることを解決するには製品自体のプロセスの場合もあります。

    多くの企業ではそれぞれの部署が得意とする分野に特化した役割を持ちます。そして、それは時として縦割り組織の弊害を生みます。例えば、製品開発は長期のロードマップに沿って開発されるし、マーケティングもリードの獲得などに集中して、製品に関わるランディングページのような部分には深く関われていません。

    グロースハックを組織に根付かせるには、「道しるべの指標」をどの部門でも改善する指標として持ち、数字に基づいたテストを継続的に行う必要があります。下のYouTubeのビデオでもあるようにDropboxでは現在でもグロースハックの文化が定着しているようです。

    参考文献

    The Startup Pyramid

    The Growth Pyramid Revisited – Growth Hackers

    Sean Ellis, CEO at Growth Hackers, an episode from Intercom on Spotify

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    *1:マーク・アンドリーセンが提唱したコンセプト。プロダクトやサービスの生死を決めるもの。プロダクトがマーケットにフィットしている状態。つまり、プロダクトを求めるユーザーがいる状態

    *2:Northstarは北極星で、探検家にとって道しるべとなります。また、北は上向き成長を表します。Go southと言えば売り上げが下がってるという意味です。

  • ジャレッド・スプールが語る|NPSは役に立たないどころか害になる(UXはどうすべきか)

    ジャレッド・スプールが語る|NPSは役に立たないどころか害になる(UXはどうすべきか)

    原文:”Net Promoter Score Considered Harmful (and What UX Professionals Can Do About It)” by Jared M Spool

     2003年にコンサルタントのFred Reichheldがハーバードビジネスレビューの記事「伸ばすべきたった一つの数字 “The One Number You Need To Grow”」という記事でビジネス界に火をつけました。彼は顧客のロイヤリティーを測るたった一つの質問で経営者は顧客がビジネスに対する感情を測ることができると断言しました。彼は記事の最後に「この数字こそが伸ばすべきたった一つの数字です。シンプルで奥深い。」と締めくくりました。

     結局のところNPSはシンプルでもなければ奥深くもありませんでした。経営者が顧客のロイヤリティーを測る助けにもなりませんでした。

      それでもネットプロモータースコア(略してNPS)は「使える」ビジネス指標としての一般的な必要事項は満たしていました。

    • 簡単に測定できる
    • トラッキングできる数字を生み出す
    • 正当だと感じることができる

     NPSの正体が優れた多くの論文によって確固として暴かれた後でも、いまだにビジネスの世界では確固として使われ続けています。いまだに企業が新しいNPS測定プログラムを開始したと毎日のように聞きます。

     業界のリーダーたちはNPSを賞賛し続けています。例えばStephen BennettがIntuitのCEOだった時に「全ての事業ラインはNPSを戦略計画に含めている。業務予算のコンポーネントとなっているし、役員のボーナスにも組み込まれている。ビジネスの進捗をNPSで毎月レビューしている。」と語っていました。

     Intuitのような会社は会社の重要な決断をNPSを元にして行なっていましたが、この数値は彼らが測ろうとしていたことを測るものではありませんでした。実際のところNPSは特に何も測っていません。実際にNPSがどれほど空虚なものなのかを見ていきましょう。

    NPSの数式の裏にある奇妙な科学

     NPSがおかしな点の一つはその数式にあります。インプットはシンプルな質問からきます。「あなたはこの[企業]を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問に対して0なら「全く可能性がない」10なら「非常に高い可能性がある」と数字で回答します。(後のバージョンでFred Reichheldはその数字にした理由を聞くようにしています。それも後で見ていきましょう。)

     普通の統計学者であれば集められた数字の平均値を報告します。その理由はよく説明されてはいませんが、NPSでは平均値を利用しません。その代わりにスコアを三つのセグメントに分けます。

    9と10は「プロモーター」

    7と8は「受動的な立場」

    6から0は「批判的な立場」

    Net Promoter Score

     スコアを計算する式は以下の通り。

     NPS =「プロモーター」の割合 マイナス 「批判的立場」の割合

     例えば10人の回答者がいたとします。データは 0、0、1、4、5、6、7、8、9と10。

     この平均は5となります。

     NPSは「プロモーター」20%で「批判的立場」が60%なので、マイナス40となります。

    NPSの分布

     5が平均というのは良くも悪くも有りません。ニュートラルと言えます。しかしマイナス40は非常に悪いですよね。 (マイナス100よりは悪くないですが、それでもすごく悪いです)

     なぜかというとNPSの考えではニュートラルなスコアをつける人は他人にその会社を薦めないからです。ロイヤルではありません。「プロモーター」に引き上げないといけないので「批判的な立場」とされます。

    NPSはエクスペリエンスの成功を隠す

    回答が全て0だった場合

     例えばものすごい悪い日があったとします。10人の回答者全てゼロ:0、0、0、0、0、0、0、0、0で0。

     平均はゼロです(当然ながら)。

     NPSはマイナス100。これがNPSでの最悪のスコアです。

     理解できます。ゼロは最悪です。ゼロに祝福はありません。

     そして、チームはすごく頑張ったとします。プロダクトをよくしました。

    回答が全て6だった場合

     ガンバってスコアを全て6にしました。6、6、6、6、6、6、6、6、6と6。

     平均は6です。

     しかし、NPSはまだマイナス100です。

     何らかの理由でNPSは6はゼロと同じだと考えます。NPS以外ではそうは考えていませんが。Intuitのような会社で働いていると、ゼロから6に改善するために多大な努力をしたとしても認められません。役員もボーナスをもらえません。何もやってないのと同じ。

    回答が全て8だった場合

     もちろん、これはあなたが6しかもらえなかったから。例えば8をもらえるくらいプロダクトを改善したらどうでしょうか?8、8、8、8、8、8、8、8、8と8。

     平均は8でNPSは…ゼロです。

     全てのユーザーをゼロから8に引き上げるというのは普通の組織ではものすごい達成です。しかし、NPSを採用しているとゼロですのでボーナスはもらえません。

    回答が全て9だった場合

     ではデータを全て9にしてみましょう。9、9、9、9、9、9、9、9、9と9。

     平均は9で、なんとNPSは100です!

     8から見ると100%の改善です。やった!ボーナスがもらえる!データをちょっと押し上げるだけで真ん中から最高になりました。天才ですか?

     このようにNPSの計算は納得できる部分は多くありません。ビジネス的にも数学的にもこのようなスコアの急激な変化に意味はありません。

     小さな改善の蓄積が小さなスコアの改善に反映されるべきです。大きな改善のみ大きなスコアの変化に表れるべきです。NPSはそのようになっていませんし、それについて誰も説明できません。

     これはKate Rutterが言うところの「分析劇場」です。プロダクトやサービスを改善するためではなく、ドラマを生み出すため数字の劇的変化を演出する方法です。

     平均の方が数字で何が起きているのかを理解することができます。シンプルで改善を表現します。

    もしNPSの問題が単なる計算式の問題だけであれば平均を使えば解決です。しかし、平均はデータに意味がある場合にのみ有効です。不幸にしてNPSの質問をどのように解釈するかによってデータは意味がなさなくなります。

    ノイズが科学を装う11ポイントスケール

    3ポイントスケール

     「この記事が面白かったですか?」と質問をして「はい」「いいえ」「わからない」の三つの選択肢があったらどのように回答しますか?三つから選ぶのはさほど難しくありません。

    5ポイントスケール

     それが3ポイントスケールです。これを5ポイントスケールに引き上げると少し回答するのが難しくなります。「とても面白い」「ちょっと面白い」「わからない」「ちょっとつまらない」「とてもつまらない」。「ちょっとつまらない」ってなんでしょうか?ちょっと面白いけど最後まで読みおえるほどは面白くない?

    7ポイントスケール

     7ポイントスケールだとさらに難しくなります。ラベルがつけられなくなり、数字に頼るようになります。「とても面白い」、6と5、「わからない」、3と2、「とてもつまらない」。

     回答が難しいだけでなく、解釈も難しくなります。3と2の違いは何でしょうか?両方とも悪いスコアです。しかし、何が違うのでしょうか?回答者はその時々で一貫性がある回答をすることができるのでしょうか?他の回答者との一貫性はどうでしょうか?

    11ポイントスケール

     NPSでは11ポイントスケールを使います。これはとても多い数字ですし、数字の違いは明確ではありません。私とあなたは全く同じエクスペリエンスを体験するかもしれませが、私は7、あなたは6をつけるかもしれません。何か意味のある違いがあるのでしょうか?

     私たちは6と7の違いを理解すると何となく想定されていますが、多くの回答者は理解していません。何を選ぶかは気まぐれです。

     NPSでは6のみのデータセットではマイナス100で7のみのデータセットではゼロになります。NPSにとっては大きな区別ですが、回答者にとってはノイズでしかありません。回答者はどうしてその数字なのか説明できません。

    NPSの質問:無意味なデータを入力すれば無意味な結果が返ってくる

     NPSを導入するときに、回答者に友達や同僚に[企業]を勧める可能性を聞きます。表面的に顧客のロイヤリティーについての質問にみえます。元々のハーバードビジネスレビューの記事でも著者は実際の再購入や紹介と強い関連性があると主張しています。

     しかし、後の調査で関連性は見つかりませんでした。その理由がこちら。

     良い質問は未来ではなく過去についての質問です。健康的な生活を送るつもりですか?とか砂糖をこれからは抑えますか?とかこの商品を買いますか?などの質問は未来を予測するものです。私たちはこれから何をするかよりもこれまでに何を行なったかに関心を持ちます。私たちは行動の予測ではなく実際の行動に関心を持ちます。

     こちらがその例となります。イギリスの分析コンサルタントでNPSの信奉者のDan Barkerに協力してもらいました。一つのeコマースから16ヶ月のNPSデータです。

    eコマースのNPS

     DanのNPSデータポイントは5から10までの広がりがあります。このデータから読み取れないのは実際にそのような行動をとったかどうかです。その企業を実際に友人や同僚に勧めたかどうかわかりません。

     Danの購入履歴から彼の顧客はスコア8の回答に最もお金($110)を使っています。一番安い買い物($57.60)に9をつけています。スコア5がつけられた時の価格は10がつけられた時の価格と$3.00しか違いがありません。このデータから買い物の行動とNPSの回答の関連性はみられません。ロイヤリティーの関連性もです。

    NPSは本当にロイヤリティーと成長の数値なのか?

     ロイヤリティーは長い道のりです。長期間の行動です。ハーバードビジネスレビューの記事でFred Reichheldは「ロイヤリティーは個人的な投資や犠牲と引き換えに企業との関係性を深めたいというのぞみです」と解説しています。

     しかしNPSの質問は投資や犠牲について触れていません。ロイヤリティーについても触れていません。会社を勧めるかどうかしか聞いていません。

     将来の行動についての質問はロイヤリティーではなく、楽観主義です。

     もし本当にロイヤリティーについて関心があるのであれば、別の質問ができます:「過去6週間に私たちのサービスを友達または同僚に紹介してもらえましたか?」。これはNetflixが初期に実際に顧客に質問したやり方です。Netflixはこれと同時に決定的な質問を購読者全員にします「新しく購読するにあたり、友達や家族から紹介されましたか?」

    Netflix

     Netflixではこの質問の「はい」の回答と新しい購読者の成長と関連性を見出しました。そして「はい」の回答がなくなるとキャンセルが増え新しい購読者の成長が鈍りました。これらの質問はNetflixの成長と直接関連づいています。質問は過去の行動についてであり、未来の予測ではありません。

    エクスペリエンスとNPSはマッチしない

     これを書いている時まさにユナイテッド航空のWebサイトで私が891,116マイルを飛んだと表示しています。今年だけで49回のフライトで73,890マイル飛んでいます。このデータだけでロイヤルカスタマーと言えるでしょう。

     私のTwitterをフォローしている人であれば私がユナイテッド航空のサービスに文句ばっかり言ってるのにお気づきでしょう。もしユナイテッド航空がNPSの質問をしたならば5以上の回答はあまりしないでしょう。(誰も殴られなかった時が5です)

     私はユナイテッド航空のロイヤルカスタマーでしょうか?NPSの質問(未来の行動)でもNetflixの質問(過去の行動でも)ユナイテッド航空に高い得点を与えるでしょう。

     驚くことに私はいつもユナイテッド航空を勧めています。ボストンから西海岸に移行するのにベストチョイスです。寛容できる程度の国際線サービスもあります。

     しかし「ベストチョイス」が「ウキウキするサービス」というわけではありません。最悪の中では一番マシというだけです。彼らが好きだから勧めるのではなく、他が大嫌いだから勧めるのです。

     この記事を書いていると知っている友人がCitiオンラインバンキングのNPS質問を送ってきてくれました。

    CitibankのNPS

     その友人はお金を送るためにCitiのアカウントにログインんしました。その取引は平凡なものでした。なんで平凡なサービスのためにCitiを銀行として推薦するのでしょうか。そもそも普段の銀行取引は平凡なものです。何か違ったことがあるとしたら、それは悪い知らせです。

     NPSはユーザーのこのような粒度を反映してデザインされていません。この質問をされる前に4回別の取引をしたかもしれません。どうしてそれらを覚えているでしょうか?うまくいったのでしょうか?

     NPSが目的とするデザインの通り試したのですが、企業がこのやり方を試す時には問題に直面します。回答に何も意味はないのですから。

    NPSを質的調査に組み込んでみる

     数年の間、私たちはNPSの質問を質的調査に組み込んでみました。どうしてそのスコアを選んだのか。私たちの発見は、人々はその質問の意味を理解していなかったということです。

     低いスコアをつける典型的な参加者は全く問題のないサービスやプロダクトのエクスペリエンスを私たちのラボでは体験します。なぜ低いスコアをつけたかを聞くと、過去に悪い体験をしたためにそのサービスを勧めるのに抵抗があると言います。そのサービスやプロダクトをそれ以来使っていないかというと、何回も使ってると言います。

     またサービスやプロダクトを使いにくそうにしていたのに10をつけた参加者がいました。彼らの答えは「思ったより良かった」や「まあ、いいかも」でした。このプロダクトやサービスを実際に使うかどうかを聞くと「多分使わない」です。

     私たちは「誰に推薦するか思いつかない」という理由で0をつける多くの参加者をみてきました。他の人たちは友達がその会社で働いているという理由で10を付けました。企業が回答に対してAmazonのギフトカードなどインセンティブを提供する場合もスコアは高くなる傾向があります。「ゼロをつける参加者にギフトはもらえないだろう」と考えるからです。

     私たちはNPSが顧客のエクスペリエンスもロイヤリティーも表していないことを学びました。実際にNPSは何も有益なことを表していません。

    NPSは簡単に操作できる

     もしボーナスがNPSスコアと連動しているなら $100のインセンティブはスコアを上げる有効な手段です。そしてこれはNPSを操作する唯一の手段ではありません。

     質問をユーザープロセスの最後にすることでもスコアを上げることができます。理想的なタイミングはタスクの完了を成功したときです。例えば購入とか。

     それにより、成功した人にだけ質問をすることができます。プロセスにフラストレーションを感じて途中でやめた人を除外できます。回答は自然とポジティブなものが集まります。

    回答率7%

     もう一つの方法は回答率を無視することですhほとんどのNPS調査でのフィローアップ質問の回答率は4%から7%です。7%の回答率というのは1人から回答のあったら13人は回答していないということです。この答えなかった13人は答えた1人と同じ回答でしょうか?おそらく違うでしょう。

     イライラした人はわざわざフィードバックをしないというのが低い回答率の説明の一つです。 Fred Reichheldのロイヤリティの定義で言えば、興味のない人はさらなる投資をしません。

     スコアを更に操作するならば、「批判的な立場」のユーザーには早い段階で脱落してもらうことです。悪いエクスペリエンスによって意識的に離脱を促し、スコアを改善することができます。意図的でなくとも、これを発見して改善する方法はほぼないので、結果的にそうなりやすいです。 

     このようなNPSのダークなテクニックで高いスコアを獲得でき、もっとボーナスがもらえます。みんなが幸せになりますよね? 

     私たちはNPSを有害だと考えます。全く改善していないエクスペリエンスをあたかも改善したように操作できます。

    フォローアップ質問の本当の価値

     NPS信者は数字以外は何も質問しないといいます。スマートな実施は常になぜそのスコアなのかフォローアップ質問をします。 洗練された調査ではスコアによってフォローアップ質問を変えます。プロモーターには「何が良かったのか」、批判的な立場には「どう改善すればいいか」を聞きます。

     これはとても正しいことです。本当の価値は「なぜ」という質問です。ユーザーは何が実際に起こり、どうすれば改善できるのかを教えてくれます。また、すでによくできていることを壊さないように。

     NPS信奉者に私は素晴らしいデータを取っていると言います。なんでわざわざ数字の質問までするんでしょうか?質的な質問で十分ではないでしょうか。彼らの反応はモゴモゴ口ごもったり、セグメントやインディケーターに関するフワフワした説明や理屈のつかないタワゴトです。

     私たちは「なぜ」の質問を対面の質的ユーザー調査に追加します。その反応はデザインに関する問題部分とうまくいっている部分に関するヒントを与えてくれます。しかし、NPSスコアの反応はそのセッションで何が起きたかと関係がありません。これは私たちが実際に集めたデータにも表れています。NPSは現実を表していません。

    でも、偉い人たちは数字が欲しいんですよ!

     最近Fortune 500企業のデザイン担当の上級副社長が「全ての部門の役員ミーティングでは数字を発表します。多くの場合、NPSだったりします。NPSじゃなければ何か改善を示す別の数字が必要なんですよ」と言いました。

     数字なんてたくさんあります。実際に無数にあります。

     それでも企業のカスタマーエクスペリエンスを表すたった一つの数字はありません。NPSですらです。だからといって、挑戦をやめる理由にはなりません。

     私たちは事業の数字を使うことができます。サブスクリプションの数や離脱率など。売上、純収益や利益でも構いません。

     これらの数字はプロダクトのデザインに直接関係してきます。顧客が満足なのか、さらにワクワクしているのかはわかりません。

     これこそがNPSがやろうとしていることです。成功していないというだけで。ではどうしたらいいでしょうか?以下は代替案です。

    どれくらいウキウキ、それともイライラしましたか?

    お役に立てましたか?

    ハッピーにできましたか?

     どれでも構わないと思います。もっと大事なのが次の質問です。

    どのようにすればもっとよくなりますか?

     このフォローアップ質問こそが価値となります。いろんな質問の仕方があるでしょう。顧客に耳を傾けるのが重要なのです。

    カスタマーエクスペリエンスを一つの数字で表すことはできない

     これがNPSの欠陥です。達成できない結果を達成しようとする。簡単に問題を解決するという約束自体が経営陣には魅力的なのです。実際に問題は解決しないのですが。

     カスタマーエクスペリエンスとは製品、Webサイト、従業員やブランド全てとの関わりの総合点です。そのやりとりの流れは顧客によって全て違います。

     NPSを信じる人たちは欲しているものを実現しないものを欲しています。NPSは星占いのようなもので、科学的ではありません。信仰です。

     UXのプロといえど星占いが本物だと信じている人を説得するのは難しいでしょう。それでも私たちは罠を避け、組織に対して価値のある測定をすることはできます。

     この記事を友人や同僚に勧める可能性はどれくらいありますか?

     

    解説

    ジャレッド・スプールはUIEの創業者でUI/UXの専門家として知られています。最近だとKickstarterキャンペーンでCenter CentreというUXデザインを教える教育機関を設立しました。ボク個人もNPSには納得できない部分があって、こうやって説明されると「なるほどな」と思います。

    カタパルトスープレックスなかむらかずや