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  • 書評|ロジックの罠にはまらないためのマジック|”Alchemy” by Rory Sutherland

    書評|ロジックの罠にはまらないためのマジック|”Alchemy” by Rory Sutherland

    いま世界の広告代理店のトップはイギリスのWPPグループですね。そのグループの一員であるオグルヴィの母体は1890年に創業して、ローカルな諺だった「1日1個のリンゴは医者を遠ざける」を世に広めたりしました。しかし、オグルヴィが本当に世界的に有名になったのは「広告の父」デイヴィッド・オグルヴィが買収してからですね。ブランディングといえばオグルヴィというイメージがとても強いです。

    そして、ロリー・サザーランドはオグルヴィ・グループで行動科学に基づくブランディングを作り上げた人です。世の中は「ロジック」が重視されていますが、「マジック」の役割をもっと理解すべきだと著書”Alchemy”でロリー・サザーランドは主張します。この本の副題「黒魔術とマジックを作り上げる奇妙な科学」がそれを表していますね。

    Alchemy: The Dark Art and Curious Science of Creating Magic in Brands, Business, and Life

    Alchemy: The Dark Art and Curious Science of Creating Magic in Brands, Business, and Life

    スタートアップで成功しようと思ったら、ユーザーが求めるプロダクト(PMF)を見つけないといけません。PMFは簡単にいえばユーザーにとってプロダクトが提供する価値です。PMFを見つけようとしたら、ユーザーに理解してもらうと思ったら、その価値を簡単に表現できなければいけません。究極的に分かりやすい価値って吉野家じゃないですが「早い、安い、うまい」だと思うんですよね。ユーザーは何かやりたいことがある。それが早くできるのか?安くできるのか?うまくできるのか?これがスタートアップ的な考え方です。

    しかし、ブランドの観点では必ずしも「早い、安い、うまい」が価値ではありません。それだけでは足りません。ロジックが必ずしも価値を生み出すわけでなく、マジックの果たす役割が大きい。ロジックは議論には有効ですが、現実には(時にロジックに反する)マジックが必要です。なぜなら、世の中はロジカル(論理的)に動いていておらず、サイコロジカル(心理的)に動くからです。

    ロジカルに説明できることが実際に動く証明にはなりません。

    論理的だが、動かない
    (多くの政治的問題)
    論理的だし、動く
    (クルマなど)
    論理的ではないし、動かない
    (タイムマシンなど)
    論理的ではないが、動く
    (自転車など)

    実際に動くかどうか、論理的に説明する必要があると感じますが、論理的に証明する前に動いてしまっているものがたくさんあります。例えば、人が自転車に乗って倒れずに進む科学的根拠はよくわかっていません。その反対に論理的なのに、実際にはそうなら無いことが非常に多いです。例えば、ブレグジットとかドナルド・トランプ大統領です。多くの政治的な問題はこのカテゴリーに入ります。

    広告は「論理的ではないが、動く」カテゴリーのものがとても多い。例えば、なかなか売れずに困っているプロダクトがあったとする。二つの提案がある。提案1:価格を下げる、提案2:広告にアヒルを使う。人気があるプロダクトはロジカルな理由で説明できません。ハイファッションはファストファッションのように普及したら人気がなくなる。欧米で味噌汁が人気があるのも、それが日本のものだから。「よい」のロジカルな対義語は「悪い」だけど、「よい」のサイコロジカルな対義語は「よりよい」だったりする。

    この本はどんな人におすすめか

    行動心理学の観点から顧客の価値創出について書いてある本です。ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』をすでに読んでいる場合は、パスしてかまいません。『ファスト&スロー』をまだ読んでいなくて、広告業界の人がどのように顧客価値を考えているのか知りたい人にはおすすめです。ボクもそうですが、ビジネスの現場では論理的に考えたり行動するクセがついてしまっています。悪いことではないのですが、顧客価値は論理に説明できるだけではダメなんですよね。

     

  • 書評|次の経営バズワード「フライホイール」|Turning the Flywheel by Jim Collins

    書評|次の経営バズワード「フライホイール」|Turning the Flywheel by Jim Collins

    おそらく、次の経営のバズワードとなるのが「フライホイール」です。アマゾンの成功の秘訣として有名になりつつあります。簡単に言えば、成功の循環サイクルです。フライホイールの名付けの親がアマゾンの戦略コンサルタントを務めていたジム・コリンズです。ジム・コリンズは『ビジョナリーカンパニー』シリーズで有名ですね。

    そのジム・コリンズが自らフライホイールを詳しく説明したのが”Turning the Flywheel”です。

    Turning the Flywheel: A Monograph to Accompany Good to Great (English Edition)

    Turning the Flywheel: A Monograph to Accompany Good to Great (English Edition)

    ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

    ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

    フライホイール自体はとても単純なコンセプトなので、非常にページ数が少ないです。パンフレットのようです。有名なアマゾンの他、インテルや自転車のヘルメットで有名なGIROが事例として紹介されています。インテルのようにメモリーからCPUへ商品が変わっても、フライホイールが変わっていない事例はなかなか興味深かったです。

    正直言えば『ビジョナリー・カンパニー』自体があまり好みではなく、斜に構えて読んでいた(聴いていた)のは否めません。あんな生存バイアスだらけの本を書いた人が、二匹目のドジョウを狙ったんでしょ?と。実際にそうだと思うんですけどね。ただ、まあ、サクッと読めるし、日本でも翻訳されて話題になるでしょうから、今から読んでおいてもいいかもしれません。

    この本は誰にオススメか

    経営企画の人にはオススメです。自社の強みを整理するのには便利なフレームワークだと思います。翻訳版がいつ出るかにもよりますが、半年後くらいには日本でも話題になってると思うので、今から読んで自慢してもいいかもしれません。でも、まあ、それくらいかなあ。

  • 翻訳記事|アトラシアン成長の秘訣、ロータッチ営業モデル

    翻訳記事|アトラシアン成長の秘訣、ロータッチ営業モデル

    How Atlassian built a $20 billion company with a unique sales model | Inside Intercom by Geoffrey Keating via Inside Intercom

    マイクロソフト、オラクル、IBMのような伝統的な法人顧客にソフトウェアを販売する企業は同じようなやり方で営業します。交渉、長い営業サイクル、実際には使わない意思決定者から要求される機能のチェックリストなど。

    しかし、アトラシアンはこれとは全く違うソフトウェアビジネスの成長モデルを見つけました。アトラシアンはJiraやHipChatの開発やTrelloの買収で12.5万ユーザーを伝統的なセールスプロセスなしに獲得しました。

    このような成長はSaaS企業にとって珍しいことです、特異ですらあります。典型的な超成長の道筋は営業活動に多大な投資をし、長期的な顧客生涯価値がの顧客獲得の初期コストを上回って全体的に利益が出ることを期待します。

    アトラシアンは全く違う道筋を作りました。IPO当時、売り上げの19%しか営業マーケティングに使っていませんでした。同規模の企業と比べると全く少ない投資額です。

    もし、これが「真実にしては都合が良すぎる “Too good to be true”」と感じるのであれば、それは間違っていません。他者が営業マーケティングに巨額の投資をする中、アトラシアンは全く違うチャネルに投資をしました。 高速でボトムアップの拡散マシンを10年近くかけて磨きあげました。

    私たちはアトラシアンのプレジデントであるジェイ・シモンズに時間をもらい、アトラシアンでそれがどのように機能してきたのかを聞きました。

    すべては注目すべき”Remarkable”プロダクトからはじまる

    成長を推し進める役割としての「口コミ」はすでに確立されています。

    顧客は「口コミ」が製品購入の意思決定において最も重要だと答えています。創業者は最も重要な顧客獲得チャネルだと言います。それが初期段階でも拡大期でも。しかし、あまり理解されていないのは、セス・ゴーディンの言葉ですが、人々から注目”Remark”されるには、自分自身が注目に値する”Remarkable”にならなければいけません。

    製品が勝手に売れていくのは、アトラシアンの初期の成長の鍵となった発見でした。しかし、いくつかの条件が整った場合に限りです。それは、ユーザーが熱中して自らが伝道師として組織の内側にも外側にも伝えたくなるような素晴らしい製品であることです。製品とマーケティングとユーザーの密接なフィードバックループによって、アトラシアンはビジネスを前進させる非常に効率的なフライホイール(慣性を利用した推進装置:弾み車)を作り上げました。

    「フライホイールは素晴らしい製品作りから始まります。アトラシアンの初期において、私たちは注目に値する”Remarkable”な製品を作る議論をしました。”Remarkable”という言葉を意識的に使いました。私たちは人々が注目”Remark”せずにはいられない製品を作りたかったからです。ここから口コミがはじまります。そして、フリーホイールは顧客にとって意味のある問題を解決する素晴らしい製品でなければ成立しません。そのために顧客にとっての摩擦はなるべく排除するようにしました」ジェイ・シモンズ

    アトラシアンのフリーホイール

    なぜ、ロータッチは21世紀の法人営業モデルなのか

    現在の法人顧客は10年前とは全く違う方法でソフトウェアを調達しています。自分自身を考えてみましょう。Googleで検索して、知人に聞いて、会社の同僚と話をする。私たちは供給が限定的で需要をコントロールしていたサプライヤーの世界から無限の供給がある顧客が全ての力を持つ世界に移行しました。

    この新しい世界では、顧客は全ての知識、意見、を持って営業サイクルの中に入ってきます。すでに自分自身で学んでいます。すでに、フリーミアムのバージョンを使っているかもしれません。そして、獲得するための最良の方法は営業に電話をしてもらうことではありません。最良の方法は製品を利用してもらい、その価値をなるべく早く理解してもらうことです。

    「多くの評価者や顧客にとって、購入サイクルはインターネットによる情報の民主化によってここ10年で大きく変わっています。確かHBRの記事にあったとも思うのですが、65%の購入サイクルはすでに顧客によって完了しているとされています。

    そこで、私たちのフリーホイールは顧客にとっての摩擦を極力減らすことに注力しています。いくらくらいコストがかかるのか、よくある疑問はどういうもので、どのような答えなのか、そしてそれを支えるサービス。そうすることによって私たちの製品の価値が顧客自身で簡単に発見できるようにすると言えるのです。」ジェイ・シモンズ

    ロータッチはノータッチではない

    アトラシアンのアプローチは他のビジネスにとっても魅力的です。正式な営業組織をなくし、間接コストを削減、研究開発への投資を増やすせます。ほとんど魔法のようです。製品をWebサイトにおいて、トラフィックを集めて、奇跡的に全く努力せずに製品が売れていく。

    しかし、「使いやすくていい製品が勝手に売れていく」はSaaSにとっては神話の一つです。ジェイもそこを強調するのに苦慮しています。ロータッチはノータッチではありません。ロータッチモデルでは営業サイクルの初期において営業チームを完全に無くしたり、最小限にすることができます。しかし、アトラシアンでは依然として人の手でロータッチモデルを維持しています。

    「もし、あなたが大企業の顧客でより複雑な課題を持ち、私たちにとっても大きな価値があるのであれば、それを手助けするチームが存在します。エンタープライズ・アドヴォケートです。この組織は4年前くらいからはじめ、大企業の複雑な問題に特化しています。

    しかし、全ての顧客に対してこのモデルで対応すると、12万の既存顧客に5000の新規顧客を四半期に獲得するのは非常に困難になります。私たちはフリーホイールによる効率的なモデルを作り上げることに集中し、顧客が自分自身でサインアップしてプロダクトを使いはじめる仕組みを作らなければいけません。もし、私たちの関与が必要なけらば、それは素晴らしいことです。もし、私たちの助けが必要でしたら、最大限の支援をします。」ジェイ・シモンズ

    透明性の高い価格モデルの利点

    価格のオンラインでの公表に抵抗感を感じるB2Bソフトウェア企業は多いと思います。競合が価格を参考にして下回る値付けをしないか心配になります。大きな商談でもっと価格を上げることができるのではないかと考えます。大企業の顧客が価格交渉の材料にするのではないかと懸念します。

    B2Bソフトウェアの世界でアトラシアンは際立った存在です。彼らの価格ゴールは顧客の決断を助けること。余計な営業プロセスに惑わされず、なるべく簡単に素早くソフトウェアを動かすことができるようにする。クリック、購入、利用。

    「顧客にとって、よくあるつまずきポイントは価格です。価格をWebサイトに明示しないことで、営業にコンタクトさせる。心理的には“顧客を驚かせて逃したくない、なるべく高い価格設定で売りたい、ソフトウェアの機能を説明する前に、顧客の課題を理解して、その解決を提示することで価格の正当性を訴えたい”でしょう。

    私たちのモデルでは、価格が顧客にとってのつまずきポイントにならないように気を配っています。最上位プランにおいてもです。それで速度を上げることができます。大企業の顧客でもWebサイトから1万ドル(約100万円)で10から50人のチームのプランを営業の関与なしに購入することができます。」ジェイ・シモンズ

    ロータッチ営業モデルが全てではない

    ビジネスモデルは事業の成否を決める判断の一つです。間違ったモデルを選べば、始まる前から失敗してしまいます。正しいビジネスモデルを選ぶのは、単に価格のページを変えたり、機能を追加したり、具体的なマーケティング施策を実施したり、営業チームを雇ったりすることではありません。全てのビジネス要素を考慮に入れなければいけません。

    「あなたのビジネスモデルはあなたの市場と、その市場にどのようにアプローチするかに依存します。もし私がワークデイ(大企業向けの人事ソフトウェア)で、世界で最も大きな2000社を市場としてみるのであれば、アトラシアンのモデルは適していません。HRの管理システムは複数導入するものではないので、ワークデイのソリューションの購入はとても大きなトップダウンの決断になります。たった一つを選ばなければならず、人事のトップとCIOがスポンサーとしてつくことでしょう。つまり、コンサルティングが必要となり、非常に営業サイクルの長い商談になるでしょう。まずやってみようのようなモデルではありません。

    創業者として、あなたは全てを考慮しなければいけません。私のアドバイスは”アトラシアンを参考にしてアトラシアンのモデルを採用する”と安易に考えないことです。」ジェイ・シモンズ

    ジェイのアドバイスは明白です。SaaSでサービスを売ろうが、物理的なモノを売ろうが、まずは顧客を理解し、どのように魅力的に感じてもらうかです。そうすることで、ようやくロータッチ営業モデルの適用を判断することができます。

  • 書籍|本当のマーケティングの話|”This is Marketing” by Seth Godin

    書籍|本当のマーケティングの話|”This is Marketing” by Seth Godin

    顧客起点とよく言いますよね。本来であれば「マーケティング」というのは顧客のことを理解して、顧客が求めるものを作り、届けることです。「営業」は顧客の困りごとを理解し、その困りごとを解決する方法を紹介することです。 つまり、顧客起点とは顧客への奉仕です。マーケティングはサービスです。

    でも、実際には「マーケティング」はSEOを意識したキーワード対策だし、ダメな商品やサービスをキレイな写真や有名タレントでごまかすことですよね。どうすればバズるのか。「営業」も必要ないかもしれない商品やサービスをあたかも必要なもののように誤魔化しながら売ることですよね。そこに「罪悪感」があればまだいいのですが、「それが仕事だから」とロボットのように会社と仕事に奉仕してしまうことが多いのではないでしょうか。「仕事だから」ってよく聞くフレーズです。

    パーミッション・マーケティング』で日本でも有名になったセス・ゴーディンはその新著”This Is Marketing”でマーケティングは根本的に変わったと言います。

    This is Marketing: You Can’t Be Seen Until You Learn To See

    This is Marketing: You Can’t Be Seen Until You Learn To See

    インターネットでマーケティングが変わった

    こう書いてしまうと「なにをいまさら当たり前のことを言ってるんだ!?」と思う人も多いでしょう。このカタパルト・スープレックスを読んでいる人ならなおさらでしょう。でも、本当にそうですか?では、その「当たり前」の考えや知識に従って、行動も「当たり前に」変わっていますか?

    当たり前なら、なんでマーケティングは変わっていないのでしょうか?テレビや雑誌のマスメディア時代と同じ広告主体のマスマーケティングの価値観から抜け出すことができないのでしょうか?全ての人に満足してもらう、万能商品を作ることも売ることもできないのに。これがこの本の本題です。では、マーケティングはどうあるべきなのでしょうか。

    マーケティングとは何か

    セス・ゴーディンによればマーケティングとは変化を起こすことです。開発はモノやサービスを作ります。しかし、作るだけでは「変化」は起こせない。それが必要な人たちに気づいてもらわなければいけない。例えば何かいいアイデアがあり、それを上司に認めてもらい、予算を承認してもらい、実現に向けて実行したいとする。「アイデアを実現する」という「変化」にはマーケティングが必要です。上司がどのような価値観に基づき、何を求めているのかを理解しなければいけない。

    つまり、マーケティングとは「変化を起こすこと」であり、「マーケティングの課題」があるというのは「何か良い変化を起こすことができる」ということです。

    背の高いひまわりは根を深くはっている

    「より大きく」は変化の一つです。より高く、より安く、より使いやすく。マーケティング担当者は「どうすればバズるのか?」と悩みます。これは戦術の問題です。そして、最初に悩むべきはそこではありません。成長をひまわりにたとえ、より背の高いひまわりを育てたいのであれば、根を深くはらなければいけません。

    では、どこからはじめるべきなのか?セス・ゴーディンのロジックはこうです。

    • 戦術は「差」をつけることができる
    • 戦略はすべてを「変える」
    • しかし、文化は戦略を打ち負かす
    • だから、文化こそ戦略であるべき
    • 文化は「人の集まり(マーケット)」

    「文化」とは人の集まりです。この本では『リーン・スタートアップ』のMVPになぞってSmall Viable Market(SVM)という言葉がよく出てきます。ビジネスとして成立するための最も小さなマーケットという意味です。自分たちが奉仕したい最小限のグループはどこにいるのでしょうか。そこから「文化」を作りはじめましょう。

    マーケターが理解しなければいけないこと

    これを実現するためにマーケターは次のことを理解しないといけません。

    • 想像力のある人たちが全力を尽くせば世界を変えることができる
    • しかし、全ての人を変えることはできない
    • 「変化」は意識して起こす
    • 人はそれぞれ自分の「ものがたり」がある
    • 同じ「ものがたり」を持つ人たちを探す必要がある
    • 企業やプロダクト自身の語る「ものがたり」は重要ではない、人々が企業やプロダクトについて語る「ものがたり」が重要である

    マーケットを理解するということ

    マーケターが問い続けなければいけないのは二つだけです。

    • これは誰のため?
    • これは何のため?

    マーケティングの世界でよく引用される格言に「人々が欲しいのは1/4インチのドリルではなく、1/4インチの穴である」(セオドア・レヴィット)があります。しかし、本当にそうでしょうか?とセス・ゴディンは問いかけます。本当はこうでないでしょうか?

    • ほしいのは、ドリルでなく穴。
    • しかし本当にほしいのは棚。美しい本棚
    • それを作るためのきれいな穴
    • そして、大切なのは棚を自分で作ったということ(達成感)
    • そして、それを家族が褒めてくれること(承認)
    • 床に散らかっていた本が片付き、気持ちが安らぐこと(安堵感)

     つまり、欲しいのは「達成感」であり「家族からの承認」と「片付いたという安堵感」ですよね。そして、これこそ「ものがたり」です。

    この本はどんな人にオススメか?

    マーケターだったら読んだほうがいいでしょう。この書評では出だしのサマリーしか書いていませんが、内容的には「戦術」までカバーしています。しかし、戦術だけ真似ても全く意味がないし、効果もありません。この書評に書かれているような本質的なマーケティングを実施したいと考えるのであれば、とても役にたつと思います。

    当然ながら経営者やスタートアップ創業者も読んだほうがいいでしょうね。結局のところ、マーケターが会社に奉仕するマシーンになってしまうのは、それを経営者が求めるからです。経営者がマーケターにとってのロールモデルだからです。

  • インターネットのビジネス再入門|後編:消えるデジタルとリアルの境界線

    インターネットのビジネス再入門|後編:消えるデジタルとリアルの境界線

    これまでのおさらい

    第一回の『インターネットの広告をちゃんと理解する』ではインターネットのビジネスの側面を支える広告について改めて振り返りました。インターネットが「道」であれば、情報やサービスは「クルマ」、そして広告はその「燃料」であり「石油」だと解説しました。そして、お金を対価として支払う代わりに、インターネットでは個人情報とサービスを対価交換していることを確認しました。

    第二回の『インターネットの「石油」を規制する動き』では個人情報の取得が制限されつつあることを解説しました。個人情報の取得には二種類あって、一つはFacebookなどIDでの取得、二つ目がCookieによる行動データの取得でした。ケンブリッジ・アナリティカによるFacebookデータ流出事件は広告が悪用されるダークアドの危険性を世に知らしめるものでした。

    今回はデジタルとリアルの境界線が広告の世界でも曖昧になっていくという話です。Buzzword的にはOMO(Online Merge Offline)ですね。規制は続くでしょうが、デジタルビジネスの勢いはそう簡単に止まることはないですし、拡大は続きます。(だからこそ規制が大事なんですが)

    なくなるデジタルとリアルの境界線:プログラマティック

    デジタル広告とリアル広告の最大の違いは個人の嗜好に対応できるかどうかです。個人の嗜好に対応するためにIDやCookie情報が必要なんですものね。リアル広告は個人の嗜好には対応できませんが、不特定多数に一気に配信するためにマス広告と呼ばれたりもします。マスメディアとデジタルメディアの違いと一緒ですね。

    リアル広告をデジタル化するキーワードがプログラマティックです。

    プログラマティックテレビ

    テレビの広告はデジタルでしょうか、リアルでしょうか?昔ながらのテレビ広告はデジタルではありませんでした。デジタルではないので、計測が非常に難しかった。だからニールセンなどが特別な機器を選ばれた世帯に取り付けてもらってサンプル調査をしています。これが、いわゆる「視聴率」です。

    テレビの広告はインターネットのデジタル広告と違って、特定の視聴者の好みに合わせて特定のCMを流すことができません。同じ番組を見ていれば同じCMを見ています。これだとCMの枠は決まってしまっていて、多額の予算を持った企業しかテレビでCMを流すことができません。この問題を解決して、視聴者の嗜好に合わせて様々なCMを流せるようになる仕組みが「プログラマティック広告」です。

    テレビCMを動画広告と考えると、YouTubeの広告とあまり変わりません。Webサイトに埋め込まれた動画広告も同じです。プログラマティックではテレビが広告チャネルとして加えることができるようになります。海外ではプログラマティックの流れはかなり進んでいますが、日本のテレビ局はまだ対応できていません。それでもテレビを含む動画媒体は全てプログラマティックになるでしょう。その時にデジタルとリアルの境界線は無くなります。

    プログラマティックデジタル野外広告(DOOH)

    ブリティッシュ航空がリアルとデジタルを融合した野外広告”Look Ups”を設置して話題になりました。これは実際に見てもらうのが早いでしょう。

    ブリティッシュ航空の飛行機が広告を横切ると、子供が立ち上がり飛行機を指さします。そして、その飛行機のフライト番号までわかります。これがDOOH(Digital Out-of-home|デジタル野外広告)の代表例です。

    このようなデジタル野外広告がテレビと同様にプログラマティック(プログラマティックDOOH)になると個人の嗜好に合わせた野外広告が実現されます。例えば、目の前の人の嗜好に合わせたデジタルショーケースなどです。

  • インターネットのビジネス再入門|中編:インターネットの「石油」を規制する動き

    インターネットのビジネス再入門|中編:インターネットの「石油」を規制する動き

    前回の『インターネットのビジネス再入門|前編:インターネットの広告をちゃんと理解する』ではインターネットのビジネスの側面を支える広告について改めて振り返りました。インターネットが「道」であれば、情報やサービスは「クルマ」、そして広告はその「燃料」であり「石油」でしたね。

    今回はインターネットで利便性と個人情報を等価交換する「広告」のバランスが問われているという話です。悪用させないように規制がはじまっています。

    前回のまとめ

    インターネットを使ってビジネスをする限り、この仕組みの上に成り立っています。なぜなら、GoogleやFacebookというトラフィック(交通量)に依存しなければインターネットのビジネスは成り立たないからです。そして、ユーザーはその対価として個人情報をサインアップやCookieを通じて提供しています。お金ではなく、自分の情報で対価を支払っています。

    Ghosteryというブラウザのプラグインがあります。これを入れると、訪れたWebサイトがどのような追跡ツールを使っているかがわかります。例えば、朝日新聞のトップページは15の広告やソーシャルのトラッキングツールが使われていますし、読売新聞だと12です。このカタパルトスープレックス でも11のトラッキングツールが使われています。これらのトラッキングツールのほとんどはGoogle AnalyticsやAdSenseのような無害なものですので、それほど心配するものではありません。ただ、どれだけのデータが最終的にはGoogleやFacebookのようなプラットフォーマーや広告会社に提供しているのか知ることができます。GoogleやFacebookも慈善事業で便利ツールを配ってるわけではないですからね。

    個人情報規制の動き

    そうはいっても、無制限に個人情報をとっていいということにはなりません。インターネットの場合は特定のID(FacebookやGmailなど)やCookie情報から個人情報や行動情報を提供していますよね。

    ブラウザーでのトラッキング防止が搭載されはじめる

    Safari

    まず、ユーザー自身が気にしなくてもブラウザが自動的にプライバシーを保護してくれるような動きになっています。例えば、MacやiPhoneのブラウザであるSafariにはIntelligent Tracking Prevention(ITP)というトラッキング防止機能があります。簡単に言えばクロスサイトトラッキングを可能にするサードパーティーCookieの寿命を短くする機能です。最近のトラフィックの半分くらいはモバイルからですし、iPhoneでデフォルトのブラウザであるSafariでトラッキング防止機能がついたというのは大きなインパクトでした。

    Firefox

    FirefoxもQuantumからEnhanced Tracking Prevention(ETP)トラッキング防止機能がつきましたが、デフォルト設定ではオフとなっていました。しかし、これもデフォルトでオンとなる設定になりました。ETPもSafariのITPと同じでサードーパーティーCookieを自動的に検知して制限する機能ですね。

    Chrome

    そして、何と言ってもGoogleのChromeです。Googleの売り上げの85%以上は広告であり、ブラウザであるChromeはトップシェアを誇っています。Googleは2017年7月に”Improving advertising on the web“というブログ記事をChromium Blogに投稿しました。ここで明らかにされたのは「よい広告基準(Better Ads Standard)」に準拠しない広告はChromeでの表示を制限するようになるというものでした。

    この基準はCoalition for Better Adsという広告の業界団体が策定したものです。もともと「ポップアップ広告」などは好ましくない広告とされてきましたし、それに伴いブラウザではポップアップは制限されてきました。これに加えて、プレステイシャル広告や画面の大部分を占有する大きな広告が「好ましくない広告」とされました。Googleは自社の広告がこの基準に準拠しているかチェックできるツールを提供しています。

    とは言え、Googleは広告で生きている企業ですので、FirefoxやSafariのようにサードパーティーCookieを問答無用で切り捨てる訳にはいかないようで、だいぶソフトな対応だという印象はぬぐえません。しかも、日本ではこの機能は動いていません。この基準自体がヨーロッパとアメリカが対象なのでこれは仕方がないですね。

    日本の場合はGoogle謹製のデフォルト機能は使えないので、Ghosteryのようなサードパーティーツールを使い続けないといけないようです。あと、これはまた別の機会に書こうと思いますが、ついでにHTTP Everywhereも入れておくことをオススメします。Googleの呼びかけのおかげでSSLはかなり普及しましたが、それでもまだまだまばらだったりしますから。

    法律による規制

    オランダに移住した時にブラウザで表示される小さな画面がいろんなWebサイトでいつも表示されることに気づきました。このサイトではCookieの収集をしています。同意いただけますか?(Yes / No)というものです。日本でもこの表示を見かけるようになりましたよね。これはGPPRが施行され、その影響が日本でもあるからです。

    GDPRとは

    GDPR(General Data Protection Regulation)はEUの個人情報保護の枠組みで、日本語では「EU一般データ保護規則」と言います。この枠組みの範囲は多岐にわたるのですが、ビジネスとしてのインターネットにとって、Cookieを個人情報と捉えたところが非常にインパクトがありました。そして、このCookie制限は「eプライバシー規則(ePrivacy regulation|ePR)」によってさらに強化される予定です。

    GDPRでもCookie取得前にユーザーから同意を取る必要がありましたが、ePRではさらに多くの同意をユーザーから取得しなければいけなくなります。

    フェイクニュースとダークアド

    今回はCookieについて多く取り上げましたが、広告を規制する動きはCookieだけにとどまりません。問題は個人の趣味嗜好を特定して、その嗜好に合わせて広告を出すことです。え?それって悪いことなんですか?もちろん、正しく使われれば、とても便利ですし、UXも向上します。

    年齢など人口特性によるプロファイリングをデモグラフィック、住んでいる場所など地域特性によるプロファイリングをジオグラフィック、行動特性の場合はビヘイビアルという分類方法をマーケティングでは使います。

    そして特定のグループや個人の行動データを蓄積した心理的特性で分類することをサイコグラフィックといいます。そして、このようなサイコグラフィックの分類を使って大統領選挙などで活躍したのがケンブリッジ・アナリティカでした。他にもAggregateIQなどが有名です。

    例えば「このサイコグラフィックグループAは一定の政治的な考えを持つから、そのグループBにあった広告Aを表示しよう、別のサイコグラフィックグループBは別の政治的な考えを持つから、グループBには別の広告Bを表示しよう」ということができます。

    このようにサイコグラフィック属性を利用して異なる政治的なメッセージを出すことをダークアドといいます。プロファイリングをすること自体は問題ではないのですが、人工知能でマイクロセグメント化して数百の異なるメッセージを生成したら本当の主張がなんなのかわからなくなってしまいますよね。

    フェイクニュースと同じで、このダークアドに関してはまだまだ業界としても答えが出ていません。

  • インターネットのビジネス再入門|前編:インターネットの広告をちゃんと理解する

    インターネットのビジネス再入門|前編:インターネットの広告をちゃんと理解する

    インターネットが道路だとしたら、広告は燃料です。GoogleもFacebookもYouTubeも広告がなければ存在できません。インターネットはマグロのようなもので、動いていないと死んでしまいます。それを動かしているのが広告です。この意味においてAppleやAmazonのようなモノやサービスも広告に依存しています。インターネットという道路に交通量(トラフィック)がなければAppleもAmazonも何も売れないからです。

    インターネットのトラフィックは大きく分ければ以下の四つに分けることができます。

    1. 検索
    2. ソーシャル
    3. 広告
    4. 直接リンク

    1) 検索と2) ソーシャルは広告収入があることが前提でビジネスで提供されています。つまり、1から3まで広告なんです。インターネットという「道路」をコンテンツやサービスという「クルマ」が通るには広告という「燃料」が直接的にも間接的にも必要です。これはモバイルでもほぼ変わりません。App Storeが加わったくらいなものです。

    インターネットは常に脚光を浴びてイノベーションの象徴とされてきましたが、広告は日陰者の邪魔者で悪いニュースがほとんどでした。しかしながら、広告はインターネットの根幹の一部ですので、改めてきちんと理解しておきたいところです。

    電通、デジタル広告で”不適切取引”の裏事情 | 東洋経済オンライン

    オンライン広告の歴史

    最初のオンライン広告:バナー広告

    最初のオンライン広告はアメリカの雑誌Wiredのオンライン版であるHotWiredのローンチのために1994年10月27日に掲載されたバナー広告でした。最初に人気の出たブラウザーのMosaicがリリースされたのが1993年の1月23日ですから、ブラウザー登場から2年弱で最初のオンライン広告が生まれたことになります。

    最初のオンライン広告(クレジット:Wired)

    当時にはまだクリックごとにチャージされるPay Per Clickはなく、バナー広告の設置期間によって広告の価格が決まっていました。当時のオンライン広告は雑誌の延長線にあって、限られた紙面をどれくらい占有するかが価値の測り方だったんですね。

    検索の誕生:GoogleのAdWords

    一番はじめに検索連動型広告を発売したのはOpen Textでした。1996年のことです。しかし、一般的に検索連動型広告を世に広めたのはOvertureでしょう。GoTo.com(Overtureの最初の名前。のちにYahoo!に買収される)が検索連動型広告を発売したのが1998年です。Overtureの検索連動型広告はMSNやYahoo!といった当時の人気ポータルサイトに採用されました。そして、スーザン・ウォシッキーのガレージでGoogleが産声をあげたのが1998年9月4日です。最初のオンライン広告から4年が経過しています。

    インターネットのビジネスにとって重要なのはどれだけのコンテンツやサービスがその道を通るか。つまり交通量(トラフィック)が重要な要素となります。Googleの検索の仕組みであるPageRankは優れいていたので、結果的にオンライン広告の仕組みであるAdWordsはより多くの燃料を生み出すことになりました。

    Googleがどうやって会社を運営する資金を稼いでいるかといえば、この広告収入です。広告収入がなければGoogleという企業自体存在することができません。2017年度のGoogleの売り上げ(2017 annual report)は1110億ドル(約12兆4700億円)ですが、広告売り上げは約86%の953億ドル(約10兆円)です。5年前くらいは95%以上が広告収入だったので、これでも比率としてはだいぶ下がってきましたが、まだまだ大きな割合を占めています。

    ソーシャルの誕生:Facebook Flyer

    ソーシャルといえばFacebookですね。Facebookの売り上げの98%は広告です(2017 annual report)。Facebookは2004年の創業時から広告をビジネスモデルとしてきました。ただ、初期のFacebookは友達のニュースフィードを見ることはできませんので、見た目は随分と違ったものでした。

    Facebookの初期の広告(クレジット:collegewebeditor.com)

    その頃のFacebookの広告がFacebook Flyerでした。その間にニュースフィード(2006年)を発表したり、ソーシャルグラフをベースにしてFarmVilleのようなサードパーティーのアプリケーションにプラットフォームを解放(2007年)したり、Facebook Connect(2008年)で外のサービスと繋がるようにしたり、「いいね」(2008年)を発表してソーシャルプラットフォームとして磨きをかけてきました。2006年からFacebookがMySpaceを追い抜いたのは2009年の三年間がFacebookが一番輝いていた頃ですね。過去形にして申し訳ないですが。

    ターゲット広告:Cookieとソーシャルグラフ

    勢いは徐々に弱まりつつあるものの、ソーシャルは検索とともにトラフィックの二大巨頭です。Shareholicの調査データによると2016年まではソーシャルのトラフィックが検索を上回っていました。

    検索とソーシャルのトラフィックトレンド(クレジット:Shareholic)

    広告のプラットフォームとして考えた時に、交通量(トラフィック)以外にもう一つ大切なことがあります。それがターゲット情報です。「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」ではなく、あるターゲットとなるマトを絞って広告を表示させたいですよね。インターネットのビジネスを考える上でトラフィックと並んで大切な概念がコンバージョンです。

    例えば、100回広告を出して1個売れたとします。この場合、100のトラフィックで1%のコンバージョンということになります。これが20回広告を出して、同じく1個売れたとします。この場合は20のトラフィックで5%のコンバージョンということになります。結果が同じなら5%のコンバージョンの方が効率的です。

    このコンバージョンを高める方法のひとつがターゲット広告です。

    ソーシャルメディアの場合

    ソーシャルメディアの場合は、かなり個人情報を提供していますよね。年齢、住んでいる地域、性別、好きな映画や音楽、そして交友範囲。これらが広告の出し分けに利用されています。

    この仕組みは基本的には企業のオウンドメディアでも同じです。サインアップしてプロフィールを登録すれば、それを広告やキャンペーンに利用できます。

    Facebookの場合はFacebookピクセルによってリターゲティングやダイナミック広告も可能にしています。

    バナー広告や検索連動型広告の場合

    ソーシャルメディアやオウンドメディアの場合はプロフィールを提供するから広告もターゲットできる理由がわかりますよね。それではバナー広告や検索連動型広告の場合はどうでしょうか。

    Cookieとは

    オンライン広告のかなり初期からCookieは利用されてきました。Cookieは簡単に言えば識別情報です。例えばAさんがサイトXにアクセスします。サイトXはCookieというテキスト情報をAさんのブラウザに渡します。この時に初めての訪問なので「ようこそいらっしゃいました!」と表示します。

    AさんがサイトXを2回目に訪問した時、サイトXはCookie情報を読むことでAさんが2回目の訪問だとわかります。2回目なので「お帰りなさい!」と違うメッセージを表示することができます。これは非常に単純な例ですが、もっと高度なことができます。

    例えば、なんでGoogleは訪問者の年代や性別、趣味嗜好を推測することができるのでしょうか?GoogleもCookieを使っていて、その情報を分析しているからです。AIはとっくの昔にあたりまえのように広告では使われています。広告はインターネットの燃料なんですから。

    Cookieデータが人の形になる:データをまとめるDMP

    広告をターゲットのユーザーに出し分けるために、ソーシャルのプロファイルやピクセル情報、企業のオウンドメディアの情報、それに加えてCookie情報があるのがわかりました。でも、それってバラバラですよね。じゃあ、まとめてしまいましょう!というのがデータ・マネージメント・プラットフォーム(DMP)です。ツールとしては日本だとTreasure DataとかAudienceOneが有名でしょうか。

    ログイン情報がない場合、そのサイトに訪れるユーザーのプロフィールは推論するしかありません。その推論の方法がLook-alikeという分析方法で、データはCookieから得ることができます。例えば、同じバナー広告でもユーザーの特性によって背景や天気を変えたりできます。京都のユーザーが雨の日にサイトに訪れたら京都の背景に雨が降ってるのに、東京は晴れていたら晴れた日のスカイツリーを背景にするとか。

    ひとつのCookieデータだけだとぼんやりとして見えなかったユーザー像がいろんなデータを組み合わせることによってよりくっきりと見えてきます。世の中にはLotameSalesfoce DMP(旧Krux)、Nielsen DMP(旧Exelate)のような多くのデータ取引所があります。

    (次回はGDPRやブラウザーのCookie締め出しといった広告モデルの変革の必要性について書く予定です)

  • 書評|グロースハック本の決定版|”Hacking Growth” by Sean Ellis【2018年夏休み読書週間】

    書評|グロースハック本の決定版|”Hacking Growth” by Sean Ellis【2018年夏休み読書週間】

    エリック・リースはリーン・スタートアップを書籍の形で世に出しましたが、グロースハックという言葉を2010年に生み出したショーン・エリスこれまでグロースハックの本を書いてきませんでした。グロースハックはショーンがコンセプトを発表した後に、アンドリュー・チャン(a16zのパートナー)がブログで紹介してスタートアップ界隈で広がりはじめました。そして、ショーン・エリスはGrowthHackersというグロースハックのコミュニティーの運営を始め、そこでノウハウの共有をします。

    今回紹介する”Hacking Growth”はグロースハックの生みの親であるショーン・エリスがはじめて出すグロースハック本です。GrowthHackersのコミュニティーで集まった知見を体系立てて整理しています。ボクも国内外のグロースハック本を何冊か読みましたが、さすが本家本元。決定版と呼ぶに相応しい内容になっています。

    Hacking Growth グロースハック完全読本

    Hacking Growth グロースハック完全読本

    • 作者:ショーン・エリス,モーガン・ブラウン
    • 発売日: 2018/10/02
    • メディア: Kindle版
    Hacking Growth: How Today's Fastest-Growing Companies Drive Breakout Success

    Hacking Growth: How Today’s Fastest-Growing Companies Drive Breakout Success

    グロースハックのフレームワーク

    プロダクトには二つのステージがあります。プロダクトマーケットフィット(PMF)のステージと成長のステージです。

    プロダクトマーケットフィットのステージ

    プロダクトマーケットフィットは「顧客が愛してくれる製品」ということです。製品(プロダクト)と顧客(マーケット)がフィットする。Gmailを生み出したポール・ブックハイトの「ディープアピール」と同じ。この本では”Product Must-Have”と定義しています。これがなければ成長のステージにいけません。どんなグロースハックも意味がない。

    このステージはどちらかといえばリーン・スタートアップが得意とするステージです。多くのグロースハック本もJavelin Boardなどリーン・スタートアップの手法を紹介しているケースが多いです。この”Hacking Growth”でもいくつか紹介されていますが、特に印象深かったのが”Product Must Have Score”です。

    製品の価値を検証せずに開発してしまった製品ってたくさんあります。グロースチームとしてそのような製品を担当した場合どうしたらいいのか?ユーザーに「この製品がなくなったら?」と聞いてみるんです。「ガッカリ」するが40%を超えていたらかなりポテンシャルが高い。20%以下だとかなりヤバイ。フレームワークと合わせて具体的な手法をたくさん紹介しているのもこの本の魅力といえます。

    成長のステージ

    プロダクトマーケットフィットで製品がユーザーに愛されるものだと検証したとに成長ステージがはじまります。ここがグロースハックの真骨頂ですね。この本はパート1で全体的なフレームワークやそれを支える役割や組織を説明した後に、パート2でプレイブックとしてたっぷりと体系立てて考え方や手法を紹介しています。

    そして成長ステージには「言葉とマーケットのフィット(Language Market Fit)」の検証と「チャネルとプロダクトのフィット(Channel Product Fit)」の検証があります。「愛される製品」をちゃんとユーザーに説明できることが「言葉とマーケットのフィット」です。伝わらなければ意味がない。「チャネルとプロダクトのフィット」はそれを実際に届けるチャネルは機能するかということです。届かなければ意味がない。

    このように体系立てて何が大事なのか、どのような順番で進めればいいのか指針をクリアにしているのがこの本のいいところだと思います。

    グロースハックのプレイブック

    後半のパート2では以下の順序に沿って具体的な手法を紹介しています。

    1. 顧客獲得(Acquisition)
    2. 顧客活性化(Activation)
    3. 顧客維持(Retention)

    一番有名なグロースハックのフレームワークであるパイレーツメトリックスのAARRRの最初の三つですね。それぞれの段階でこのように整理整頓してくれているので、わかりやすいです。例えば顧客維持(Retention)でもイニシャル、ミディアム、ロングの三段階で説明しています。

    実技編と言えるこのパート2では実際に使える手法やツールだけでなく、Kファクターなどの測定方法も紹介しています。

    どのような人にオススメか?

    新規事業に関わる人、マーケティングに携わる人、グロースハックに携わる人には読んで欲しいです。ここで紹介されている手法をすでに実践している人も多いと思いますし、考え方も理解しているかもしれません。しかし、改めて整理された形で提示されると多くの気づきがあります。

    経営者にも読んで欲しいです。世の中には「愛される製品」だと検証される前に発売されているプロダクトやサービスがたくさんあります。むしろ大多数の製品は市場調査だけで「ニーズがある」と判断されます。「ニーズ」を仮説としてプロダクトマーケットフィットまで検証したケースなど少ないでしょう。必要とされないものを作るのは無駄です。検証する方法があるのだから、きちんと検証しましょう。

  • グローバルコミュニティーの作り方|第三回:Product Hunt|スタートアップの登竜門

    グローバルコミュニティーの作り方|第三回:Product Hunt|スタートアップの登竜門

    前回に引き続き今回もProduct Huntです。前回はProduct Hunt自身のコミュニティーづくりについてでしたが、今回はProduct Huntを実際に使ってどのようにコミュニティーを作るかを解説します。

    王道の流れはProduct Huntで上位にランクし、主要なメディアに取り上げられるというパターン。ここではProduct Huntの掲載方法と、それを主要メディアにフォローアップして掲載してもらうまでの流れを説明します。海外展開に海外のPR会社を雇う必要ありません。英語さえできれば個人で全部できます。ボク自身もService Dioramaでやりましたので、その経験に基づいて解説します。海外で自分のプロダクトについて知って欲しければ、この方法を試してみましょう。

     

    Product Huntとは

    アメリカ、ヨーロッパ、シンガポールといった英語圏のスタートアップがプロダクトをローンチする時にまず掲載を目指すサイトがいくつかあります。いきなりTechCrunchThe Next WebThe VergeといったメジャーなTechメディアでの掲載は無理です。もっと現実的に考えましょう。Redditの関連Sub RedditやHacker Newsは誰でも投稿できるのでやって損はありません。しかし、Redditはカルマが溜まってないとほぼ無視されますし、Hacker Newsも相当クールでないと無視されます。

    Product Huntは新しいプロダクトやサービスのランキングです。一般の人が掲載、投票します。ランキングは毎日変わって、その日にローンチした面白いプロダクトやサービスを知ることができます。新しモノ好きにはたまらないサイトです。プロダクトをローンチする側からしたらアーリーアダプターの集まりとも言えます。そういう意味ではオーディエンス的にはKickstarterにも似ていますね。

    Product Huntに自分のプロダクトを掲載する

    Product Huntに自分のプロダクトを掲載してもらう方法は二つあります。一つは掲載する権利を獲得して、自分で掲載する。もう一つは掲載する権利を持っている人に自分のプロダクトを掲載してもらう、です。

    自分で掲載する

    Product Huntに新しいプロダクトを掲載する(コントリビューターになる)には一定の条件があって、Product Huntのコミュニティーでの貢献が認められた人だけが掲載できます。明日プロダクトローンチだから今日Product Huntに登録しても、すぐには掲載できる権利はもらえません。

    ボクの場合は掲載できる権利がもらえるまで3カ月くらいかかりましたが、現在はこちらから確認することができます。ただ、最初はフォロワーが少ないので、掲載しても気づいてもらえない可能性があります。

    他人に掲載してもらう

    すでにProduct Huntのコントリビューターになっている人に人に掲載してもらう方法もあります。自分のサービスと似たようなサービスを掲載した人のプロフィールをチェックして、Twitterなどでコンタクトしてみるといいでしょう。その人自身が「あ、これは面白いな」と思ってくれればProduct Huntに登録してくれるでしょう。ボクも掲載できますが、やっぱり自分がいいサービスだと思わないと掲載はしませんね。自分のサービスはすげーからグローバルに知ってほしい!という日本のスタートアップはTwitterでご連絡ください。ただ、あとで説明する事前準備やフォローアップは自分でやってくださいね。

    掲載できる人のフォロワーが多ければ多いほど、たくさん票が入る可能性があります。

    掲載する事前準備

    成功はどれだけ準備できているかにかかっています。例えば、Product Huntに掲載しても上位に入らなければ意味がありません。上位に入っても主要メディアに取り上げられなければ効果は半減です。事前準備は非常に重要です。

    Product Huntで上位に入るための準備

    先ずは掲載された後にランキングで上位に入らなければいけません。できればトップになりたいところです。

    投票してくれそうな人と関係を作る

    Product HuntはRedditと少し似ていて、人によって一票の重みが違います(明示的にそうは説明されていませんが、経験上そう思います)。新しい人よりも常連の一票のほうが重い。自分のサービスに投票している友達を大量にProduct Huntに登録してもらうという行動はよくあります。そういう投票はあまり信用できませんよね。Product Huntを継続して利用している人の方が目利きの信頼性が高いと言えます。そこで、自分のサービスに興味がありそうな人を事前調査して、そのような人たちとコメントやメッセージでコンタクトをすることをお勧めします。

    友人や関係者に投票してもらうことは推奨されていません。注意しましょう。

    Product Huntだけの特別キャンペーンを準備する

    多くの成功しているキャンペーンはProduct Hunt用の特別なランディングページを準備しています。例えば、Product Huntのオーディエンスはほぼ英語圏の人たちなので、英語のランディングページでなければいけません。日本語のランディングページではダメですよ。

    他にもProduct Huntならではのイメージを出すためにGlasshole Kittyを使うこともオススメです。Glasshole KittyはGoogle Glassをつけた子猫のイメージで元々はProduct Huntのファンが作ったものを喜んだProduct Huntのスタッフがオフィシャルなイメージとして採用したものです。

     多くのプロジェクトはGlasshole Kittyを使った特別なランディングページを用意します。もし、プロダクトが有償なのであれば特別なキャンペーンコードを準備してProduct Hunt経由でランディングページに来てくれた場合は特別なディスカウントを提供する場合もあります。

    事前にメディアとコンタクトを取る

    もしProduct Huntで上位になった場合、主要メディアでの掲載を目指します。これもProduct Hunt掲載前に準備をしておくといいでしょう。

    メディアキットを作る

    どのようなメディアにどのようなストーリーで取り上げてもらうのか?何がユニークで何が強みなのか。これが簡単に説明されているメディアキットを作っておきます。スクリーンショットとかイメージ写真も用意してメディアキットに含めましょう。プロダクトを説明するビデオがあればベスト。これらはProduct Huntのプロダクト説明でも使えます。

    プレスリストを作る

    そして、各主要メディアで自分のプロダクトを取り上げてくれそうな記者をリストアップします。スタートアップ、ライフサイエンス、IoTなど記者によってカバー範囲が異なるので、適切な記者にコンタクトをすることが重要です。ハードウェアの記者にソフトウェアを紹介しても無視されるだけです。

    コンタクトする

    コンタクトはTwitterかメールで行います。どの記事を読んで記者を知ったのか(ちゃんとあなたの専門分野と興味がわかってコンタクトしているという意味)、その分野で新しいプロダクトを準備している、ローンチする日(Product Huntに掲載する日)はいつという情報をメディアキットを添えて記者に伝えます。もし興味も持ってくれれば事前に試してくれる可能性もあります。

    返信の可能性が高いのはメールではなくTwitterです、特にDM。対象の記者をフォローしてどのような発信をしているのか知りましょう。そして、返信したりリツイートしたりしましょう。ちゃんと関係性を事前に作っておくことが大事です。ボクの場合はTwitterでメディアリストを作りました。

    タイミングが合わずに掲載にはなりませんでしたが、Product HuntでService Dioramaのローンチ前にThe Vergeの記者と記事掲載に向けた話ができました。

    注意事項:タイムゾーンを意識する

    Product Huntはリアルタイムのランキングです。見て欲しいオーディエンスに見てもらうためにはタイムゾーンを意識する必要があります。英語圏なら先ずはアメリカですよね。そして、アメリカで最初に朝になるのは東海岸(ニューヨークなど)で、イギリスはまだお昼ですね。つまり、東海岸の朝に掲載することが重要です。Product Huntはアメリカの時間で前日のリストがリフレッシュされるので、東海岸でトップに入ればその日は上位を継続できる可能性が高まります。西海岸の朝に東海岸の昼。

    日本だけで働いているとタイムゾーンを意識したプロダクトローンチをしませんが、グローバルでプロダクトローンチをする場合はタイムゾーンを意識する必要があります。

     

  • グローバルコミュニティーの作り方|第二回:Product Hunt|プロダクトのコミュニティーづくり

    グローバルコミュニティーの作り方|第二回:Product Hunt|プロダクトのコミュニティーづくり

    スタートアップのグローバルコミュニティーはStartup Grindなどいくつかあります。その中でも特にオンラインでグローバルに存在感があるのはProduct Huntでしょう。Product Huntは英語のサイトなので日本ではあまり知られていませんが、英語圏ではスタートアップの登竜門とも言える重要なサイトです。

    今回はProduct Huntのそもそもの成り立ちについて解説します。Product Hunt自体はどうやってグローバルなコミュニティーを構築したのでしょうか。また、ZapierやBufferの創業者といったもっと有名な人たちとやっていたStartup Editionはうまくいかなかったのはなぜでしょうか。

     

     

    Product Huntを立ち上げる前、ライアン・フーヴァーは「ギグ経済」に生きていました。「ギグ」とはスポットの小さな仕事のことで、フリーランスがスポットの仕事をしながら生計を立てるスタイルを指します。以前の記事「書評|ソーシャルメディアの協同体|”Ours to Hack and to Own” by Trebor Scholz and etc」でも紹介したように、クラウドソーシングやシェアリング経済による搾取の仕組みは海外では徐々に批判の対象となりつつあります。

    ライアンも自分の価値が時間によってのみ測られる「ギグ経済」に不満を持っていました。そのアウトプットがどのような価値を産もうと1時間は1時間ですからね。ところが、Product HuntのMVPは20から30分、Product Hunt自体は8日間でローンチしています。そして、Angellistによって2000万ドル(約20億円)で買収されます。

    プロダクトのシグナル

    不満があっても具体的なアイデアがなければどうしようもありません。Product Huntのアイデアは「シグナル」という形でライアン・フーヴァーに訪れます。最初のシグナルはMessageMe(後にYahoo!が買収)でのチャットでした。ここに30人ほどの多くの起業家や投資家が集まり新しいアプリやサービスについてチャットしていました。

    そのほかにもオフラインでのシグナルがありました。映画が好きな人たちなら「この前あの映画見た?」のような会話をします。スタートアップが好きなら「あのアプリ試した?」のような会話をします。ある意味テンプレ化した会話ですね。しかし、このようなオフラインではテンプレ化した会話がオンラインではない。これもシグナルでした。

    最初のMVP

    ロンドンのMakeshiftが作ったLinkydinkというシステムで2013年11月に作ったメーリングリストがProduct Huntの最初のプロトタイプでした。ライアンが自分自身でRuby on Railsで作れば数週間かかるところ、Linkydinkを使えば20から30分でできました。

    ライアンはプログラミングもできましたが、どちらかといえばハッカー(デベロッパー)というよりはハスラー(ビジネス)の素養がありました。ライアンはProduct Huntを立ち上げる前にニール・イヤールのベストセラー”Hooked”(邦題:Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール)の執筆を手伝います。そのため、行動心理学に基づいたデザインややり方を採用しています。ゴールは仮説を検証することで、システムはそれを検証するためという割り切りができています。

    Linkydinkで作ったメーリングリストのMVPの目的は「流行りのプロダクトのリストが求められている」という仮説の検証でした。 スタートアップはリスクがたくさんあります。そのため、最初は細かにリスクを取り除いていきます。「早く、安く、多く失敗する(Fail fast, fail cheap, fail often)」のはこのためです。

    結果は素晴らしいものでした。Sequoia CapitalやUnion Square Venturesといった大手のヴェンチャーキャピタルのほか、有力なスタートアップから大きな反応がありました。二週間で170人が新たにメーリングリストに登録しました。この成功の裏にはProduct Huntのアイデアの素晴らしさもありますが、ライアン自身のネットワークもありました。ライアン自身はブログ記事を多く書き他の媒体にもゲストライターとして記事を書いていました。こうしたオンライン上の信頼(Credibility)は何かをはじめる上で非常に重要だと振り返っています。

    LinkydinkでのMVP成功(クレジット:Ryan Hoover)


    プロダクト開発

    MVPで仮説が検証されたため、プロダクトとしてのProduct Huntのローンチの準備を始めます。ライアン自身も開発はできるものの、それほど複雑なことはできないため開発ができる人を見つけるために心当たりのある友人何人かにメールをします。

    その中でいい返事をくれたのがネイサン・バショウでした。

    ライアン「シンプルで技術的な知識がなくてもサクッと立ち上げるにはどうしたらいい?」

    ネイサン「もうすご感謝祭(11月の後半)で実家に戻るから、一緒にやってみる?」

    ライアン「もちろん、スゲーうれしい!」

    そして、8日後にできたのがProduct Huntでした。

    最初のProduct Hunt(クレジット:Ryan Hoover)

     

    当時、ライアンはフリーランスとして他の仕事をしていて、ネイサンもGeneral Assembly(WeWorkの教育版みたいなもの)でフルタイムで働いていました。数ヶ月はお互いにサイドプロジェクトとしてProduct Huntに関わります。

    サイドプロジェクトからスタートアップに

    2014年はProduct Huntにとって転換期となりました。ネイサンが仕事の関係でニューヨークに移り住むことになったのです。ライアンとネイサンはフルタイムでProduct Huntにコミットするか話し合いました。そして、ライアンはProduct Huntにフルタイムでコミットし、ネイサンはサイドプロジェクトのままニューヨークに移り住むことになります。

    スタートアップにフルコミットするのは大変です。安定した職業についていれば特にです。MailChimpも初期メンバーが抜けていますし、Dribbleもフルタイムになるまで時間をかけましたよね。Product Huntでも同様でした。

    Product Huntの場合、2014年7月にAirbnbと同様にY Combinatorのプログラムに合格することでフルタイムでのコミットメントの道が拓けます。さらに2014年の後半には610万ドル(約6億1000万円)の資金調達に成功します。

    コミュニティーの育て方

    ライアン自身はブログやミートアップを通じてサンフランシスコのスタートアップコミュニティーとつながりを持っていました。これがProduct Huntのコミュニティーのタネになります。これにメーリングリストやProduct Huntへの登録によって徐々に増えていきます。ライアンはコミュニティーをはじめる場合、このコミュニティーのタネとなる人達が一定の人数まで集まる必要があると考えています。

    このコミュニティーのタネをライアンは慎重に育てました。例えば、登録したばかりのユーザーはコメントをすることができませんでした。ボク自身もある程度Product Huntでの活動(投票やTwitterでのシェア)を継続的にして、ようやくコメントをすることが認められました。いまではそうでもありませんが、スタート当初はコミュニティーの雰囲気をよくコントロールしていました。

    最初のタネとなる人達はすでになんらかの形で知り合いです。これらの人たちはすでにエンゲージされている状態なので、特別な何かは必要ありません。しかし、新しく参加する人達もいます。ライアンはProduct Huntに登録してくれた人たちに一人一人お礼のメールを書きました。テンプレートを使わず、コピペもせず、一件づつ丁寧に。そして、Product Huntで特にアクティブな人には「Product Huntが好きそうな友達がいたら是非紹介して!招待状を送るから!」とアプローチしました。このようにユーザーを徐々に増やしながらよい雰囲気のコミュニティーに育てていきました。

    コミュニティー管理の問題

    もちろん、登録したユーザーに自動でテンプレ化したメッセージを送ることもできました。しかし、初期のコミュニティーづくりにはこのような手作り感が重要だと考えました。

    また、コミュニティーのサイズが大きくならないようにも注意を払いました。これはライアンとネイサンの二人しかいないので管理が行き届かないという問題もありました。Dribbleでも同じ理由で招待制にしていましたが、Product Huntもやはり最初は招待制でした。初期の頃は大きなオープンなコミュニティーよりも小さな町の集会のようなコミュニティーであることに心がけました。

    少し前にやっていたStartup Editionがサイドプロジェクトでとどまっていたのは、このようなコミュニティーが無かったからとも言えます。有名人がコンテンツを書いてもそれはいつか尽きてしまいます。

    コミュニティーのスケールアップ

    手の届く範囲で徐々にコミュニティーを作ると言ってもライアンはサンフランシスコ、ネイサンはニューヨークです。アメリカはとても広いので、その間には大きな空白地帯があります。オンラインでカバーするにしても親密さはなかなか生まれません。

    Product Huntがオフラインをカバーした方法がハッピーアワーです。ハッピーアワーはProduct Huntのファンが集まるミートアップのことです。それぞれの国や地域にProduct Huntのコミュニティーがあって、その人たちが集まる支援をProduct Huntがしています。

    ただ、これにもなかなか難しくって、ボクの場合はシンガポールのハッピーアワーには参加しましたが、アムステルダムのハッピーアワーには参加しませんでした。それを取り仕切る人の人望って大事なんですよね。主催者が仕切り屋すぎると参加者は受動的になるし、「自分たちのコミュニティー」というより「主催者のためのコミュニティー」という感じになってしまう。アムステルダムがまさにそんな感じでした。その地域のコミュニティーのために献身的に働いてくれる人でないと難しい。

    参考記事

    The Product Hunt Story: How it all began according to its founder Ryan Hoover

    How To Build Active Online Communities: Q&A With Product Hunt Founder Ryan Hoover

    Product Hunt Began as an Email List | Ryan Hoover

    Hunting for Habits: Keying in on smart design to… | Ryan Hoover

    How We Got Our First 2,000 Users Doing Things That Don’t Scale