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  • 書評|DeepSeekの創業者も影響を受けたクオンツファンドの伝説|”The Man Who Solved the Market” by  Gregory Zuckerman

    書評|DeepSeekの創業者も影響を受けたクオンツファンドの伝説|”The Man Who Solved the Market” by Gregory Zuckerman

    いま話題のDeepSeekの源流はクオンツファンドです。クオンツファンドは高度な数学的テクニックを駆使し、運用に携わる人間の相場感を一切排除し、金融市場や経済情勢などの大量データをコンピューターで分析してつくられた「数理モデル」に従って運用する投資スタイルです。DeepSeekのアルゴリズムはクオンツファンド時代から培ってきたものです。

    一般的なイメージとして金融や経済はお金を扱うのだからデータ中心で科学的なのではないかと思われがちです。しかし、一般的なイメージとは裏腹に、経済学は「科学」だと認識されていません。ノーベル経済学賞も通称であってノーベル賞ではありません。金融や経済は理論はあるものの、実際は経験と勘がモノをいう世界でした。

    そんな金融の世界でアルゴリズムで市場の謎を解いたのがジム・シモンズです。少なくとも数多くいる数学者の中で金融において特筆すべき実績を作った一人です。だって、メダリオンファンドの年率は80%ですよ。驚異的です。今回紹介する”The Man Who Solved the Market”は普段は表に出てこないジム・シモンズと彼が率いるルネッサンス・テクノロジーズの発展の歴史を膨大なインタビューから構築しています。ルネッサンス・テクノロジーズがいかに世の中から距離を取っているのかもっとも表れているのがホームページです。ここまで秘密主義に徹した会社の歴史をあぶりだすんだから大した仕事です。ジム・サイモン本人とも10時間にわたるインタビューを行ったそうですが、最後まで出版に賛成してもらえなかったそうです。

    This Could Be Our Future: A Manifesto for a More Generous World (English Edition)

    The Man Who Solved the Market: How Jim Simons Launched the Quant Revolution

    ジム・シモンズはもともとは数学者で数多くの影響力のある研究論文を残しています。しかし、根っこの部分は商売人なんでしょうね。お金を増やすのが好きで、タイル工場に投資したりしています。そして、大学で教鞭をとっていてはお金がとても足りないということで、収入のいい国防分析研究所(IDA)に移籍します。これで給料が倍になりました。しかし、ベトナム戦争時期に問題発言をメディアで公開されてIDAをクビになってしまいます。幸いにしてニューヨーク州立大学ストーニーブルック校で数学部門の立ち上げの話があり、学部長として迎え入れられます。この時期にヴェブレン賞を獲得して数学者として幾何学の分野で頂点を極めます。でも、数学者としてはやりつくしたと感じたのでしょうね。1977年に40歳でMonometrics(のちのルネッサンス・テクノロジーズ)を設立して金融の世界に飛び込みます。

    初期に参加した数学者たちは言語解析やGoogleのサーチエンジンの土台となっているバウム=ウェルチアルゴリズムで有名なレオナルド・バウムや量子力学の分野で実績を持つジェームス・アックスバーレカンプーマッセイアルゴリズムで有名なエルウィン・バーレカンプなどスターが集まりました。特にアックスとバーレカンプは一時的にAxcom Trading Advisers(1999年にルネッサンス・テクノロジーズが吸収合併)を関連会社として設立し、現在のメダリオンファンドのコンピューターモデルのベースとなる部分を作りました。

    しかし、コンピューター取引は80年代後半になっても大きな成功をおさめませんでした。これはルネッサンス・テクノロジーズだけでなく、ほかの金融機関でも同じでした。金融では数字を使った分析をテクニカル分析といいます。テクニカル分析自体は古くからあって、日本にも江戸時代に本間宗久がいましたし、チャールズ・ダウも数学的な予測を金融に持ち込もうとしました。現代のテクニカル分析の始祖とされるウィリアム・ギャンもそうですし、ジェラルド・ツァイもそうです。

    80年代はコンピューター取引の研究も盛んになりました。ウォールストリートやロンドンでは物理学者や数学者が集められはじめられ、のちに金融工学と呼ばれる分野が形作られます。彼らは最初はロケット科学者と呼ばれ、さらにクオンツと呼ばれるようになり、現在に至ります。この時期にリチャード・デニストレンドフォロー(順張り)系の手法で大成功しますが、1987年に大失敗。取引から引退してしまいます。また、エドワード・オークリー・ソープがコンピューター取引を本格的に導入。大きく成功するが、1988年に活動停止します。モルガンスタンレーもATPグループというスタット・アーブを活用したコンピューター取引の特化した組織を作り、日商9億ドルの取引を実現する金融界でも有数の取引グループにまで育てますが、これも1988年に解散しています。みんなブラックマンデーが悪いんです。

    リチャード・デニスが引退に追い込まれた原因の ブラックマンデーもコンピューターを使った自動売買プログラムの連鎖が原因の一つとされ、数学は金融取引では市民権を得るに至りませんでした。懐疑論は金融業だけではなく、数学アカデミアの中でも根強く、ブノワ・マンデルブロは金融もフラクタル幾何学のパターンに準ずると論じました。つまり、予想しえないイベントが金融市場では起こるということ。これに続くのが ナシーム・ニコラス・タレブ の『ブラック・スワン』でした。黒い白鳥は予測できませんよと。現在までにジム・シモンズと比肩するパフォーマンスを一時的にも叩き出した会社もありますし、上回った会社もありました。DEショウもその一つですし、ロングターム・キャピタル・マネージメントもそうです。しかし、マンデルブロの予測通り、彼らは失敗しました。ジム・シモンズを除いては。もちろん、ジム・シモンズだって大損をすることもあるのですが、ある程度ファンドの規模が大きくなってからは忍耐強く数学モデルをチューニングして乗り越える。その積み重ねがルネッサンス・テクノロジーズの強さなんでしょうね。

    でも、それだけでもここまでの伝説にはなれない。金融取引の花形であり、儲けの源泉である株式取引まで手を広げないと、大きなプレイヤーにはなれない。そして、大きな賭けにはリスクもある。そう、テックバブルの崩壊です。ルネッサンス・テクノロジーズも決して小さくない損害を受けました。それまでメダリオンでは一日に500万ドル以上損失したことはなかったのですが、テックバブル崩壊では一日に9000万ドル以上の損出を数日間出し続けました。

    株式取引における金言の一つは「知っていることに投資する」です。株取引の神様といわれるピーター・リンチ、その後継者のジェフリー・ヴィニック、さらにウォーレン・バフェットのやり方です。リンチの本は日本でも『ピーター・リンチの株で勝つ―アマの知恵でプロを出し抜け』が今でも売れています。いわゆるバイブルですね。リンチが運用していたフィデリティのメガリオン(ややこしいのですがジム・サイモンはメダリオン)には100人に一人のアメリカ人が投資をしていました。このため、フィデリティが投資信託でリードしていた。

    この分野で頭角を現してきたのがPIMCOビル・グロス。エド・ショウからインスピレーションを得る。完全に数学的なモデルではなく、直感も活用しました。1995年には債権の投資信託が最大規模まで達し、「債権の王様」と呼ばれるようになりました。また、ジョージ・ソロスのクオンタムファンドを引き継いだスタンレー・ドレッケンミラーも頭角を表します。つまり、数学モデルを使った株取引は一部では行われていましたが、完全に自動化はしていませんでした。それでもははじまってはいましたが、すでに皆様ご存知のとおり、リーマンショックやテックバブルの崩壊の要因の一つはコンピューター取引であると言われています。ブラックスワンに負けず、(いままで)生き抜いたのがジム・シモンズとルネサンス・テクノロジーズのメダリオンファンドだったのです。つまり、唯一のプレーヤーではなく、数多くの挑戦者の中でも粘り強く生き残った数少ないプレーヤーということです。

    この本はどんな人にオススメか

    金融取引とコンピューターの関係に興味がある人はオススメです。実際にそのお手本としてジム・シモンズ率いるルネッサンス・テクノロジーズと彼らが運用するメダリオン・ファンド以上の教科書ってないわけです(少なくとも今のところは)。しかも、彼らはメディアに露出することを極端に嫌うため、その全容が明らかになることはこれまでありませんでした。ここまで歴史を明らかにするってすごいことなんですよ。

  • 暗号化通貨のロマンであるDeFi(ディファイ)を理解する「で、ディファイって何?」

    暗号化通貨のロマンであるDeFi(ディファイ)を理解する「で、ディファイって何?」

    前回の暗号化通貨のロマンであるDeFi(ディファイ)を理解する「なんでディファイ?」からちょっと時間が経ってしまいました。立て続けに本を読んでしまったのが原因です。読んですぐに書評を書かないと忘れちゃうので、先に書評を書いてしまいました。

    暗号化通貨やブロックチェーン界隈で話題の分散化された金融システム、通称DeFi(ディファイ)ですが、前回は「なんでディファイ?」というWhyの部分をボクなりの解釈で解説しました。今回は具体的にデファイってなんなの?というWhatの部分をボクなりの解釈で解説します。

    暗号化通貨の課題

    ブロックチェーンの特徴は以下になります(ボクの個人的な理解です)。簡単に言ってしまえば、現在の暗号化通貨の課題はブロックチェーンが備えるこれらの特徴を全て享受できていないことです。

    • 弾力性があり、しなやかなシステム(Resilient)
    • 透明性がある(Transparent)
    • 解析しにくい耐タンパー性がある(Tamper Resistant)
    • 改ざん不可能(Non-reputable)
    • 仮名性がある(Pseudonymity:匿名性とは違うので区別が必要)

    全てが分散化されておらず、中央集権的な部分が残ってしまっている。これら中央集権的な部分が不正の温床となり、脆弱性にも繋がっています。これらの中央集権的な部分を全て分散化する取り組みがディファイです。簡単に言ってしまえば。

    しかし、全ての課題をディファイで解決できるわけではありません。例えば、広く一般に普及するためにはスケーラビリティの課題を解決する必要がありますが、これは根本的な課題なのでディファイというアプリケーションレベルでは解決できません。根本的な課題はビットコインやイーサリアムなど基本的な部分で解決する必要があります。

    ディファイのビルディングブロック

    ブロックチェーンを活用した分散化した金融システムがディファイです。以下のアプリケーションが代表的です。

    • 分散化されたステーブルコイン
    • 分散化された取引所(DEX)
    • 分散化された貸し出し(レンディング)

    通貨、取引所、銀行。これくらいあれば金融業の基本的なことはできるでしょう。ディファイと定義されるアプリケーションは実際にはもっとたくさんありますが、まずはこれだけ覚えておけば十分でしょう。他に注目すべきはSet Protocolのようなトークンバスケット(金融商品であるトークンを複数組み合わせる)や本人証明であるKYC(例:uPortBloomWyre)ですかね。

    そして、ディファイも分散化アプリ(Dapps)の一つなので、大前提としてトークン(WETHBATZRXDAIREPなどERC20トークン)とウォレット(Coinbase WalletLedgerMetaMaskなど)の利用があります。まず、分散化アプリのプラットフォームがあり、そのアプリケーションの一つとしてディファイがあると理解してください。

    分散化されたステーブルコイン

    中央集権的なステーブルコイン(テザー)

    暗号化通貨を広く一般に使ってもらう上で課題の一つが価格の分かりづらさと不安定な相場です。ボクたちは普段は日本円を使ってますよね?買い物をするとき、いくらだったら安いのか、高いのか相場感って日本円で考えます。今月だったらいくらまで使えるのか、日本円で考えます。日本円で100円ってビットコインでいくらなのかわかります?普通わかんなんですよね。しかも、変動が激しいからその日によって価値が違う。これだとなかなか普段使いには厳しいです。普段に米ドルを使わないのと同じか、それ以上のハードルがあります。暗号化通貨への投資は米ドル建の貯蓄よりハードルが高い。

    この問題を解決するのが普段使っている通貨(法定通貨)と連動(ペグ)されたステーブルコインです。有名なのは2015年から運営しているテザーですね。米ドルと連動したUSDTや欧ユーロと連動したEURTや、中国元と連動したCHNTがあります。日本円にペグされた暗号化通貨だとLCNEMが発行済みで、GMOが独自の日本円とペグされた暗号化通貨の発行を検討しています。ただ、USDTと比べるとまだまだですね。

    分散化されたステーブルコイン(DAI)

    法定通貨とペグされたテザーのような暗号化通貨は、普段使いの一歩となりえます。しかし、課題もあります。テザーはテザー社が中央管理しています。銀行間取引で使われる暗号化通貨リップルと同様で、借用取引(IOU取引)になります。つまり、テザーの米ドルとの連動を担保するためにテザー社は1:1の割合で米ドルを保管します。これが米ドルとの連動を担保しています……とテザー社は言ってます。でも、本当に米ドルを保管してるの?

    さらに、テザー社の経営陣はビットフィネックスという暗号化通貨の取引所を経営しています。通貨の発行元であるテザー社と取引所のビットフィネックスが市場操作をしているのではないかという嫌疑がかけられています。ブロックチェーンの暗号化通貨のウリは透明性なのですが、テザーもビットフィネックスもブラックボックスになっているんですね。この問題を解決するのが分散化ステーブルコインです。

    NY司法当局、テザー社側の不正利用を見るけるために「財務書類の要求文書」を提出

    テザーは法定通貨担保型のステーブルコインです。法定通貨を担保しているのはテザー社。テザーのような中央集権的なステーブルコインに代わって、ディファイのステーブルコインで最も期待されているのがDAIです。DAIは仮想通貨担保型のステーブルコインです。EHTを担保に利用した担保付き責務(CDP:Collateralized Debt Position)というスマートコントラクトで実現しています。簡単に言えばEHTを担保にDAIを発行します。 150%以上の担保が必要なので、$150のETHで、$100のDAIまで発行できます。EHTは価格変動するので、ペナルティを避けるためには150%の担保率を維持する必要があります。なんか、面倒ですね。

    ドルペグといえば、アジア通貨危機を思い出してしまいます。投資家のおもちゃにならないような仕組みも必要ですね。

    分散化された取引所

    ビットコインが盗まれたマウントゴックス事件やNEMが盗まれたコインチェック事件。暗号化通貨を買ったり売ったりするのに取引所は非常に便利なのですが、ハッキングの対象となり盗難事件が後を絶ちません。ブロックチェーンって改ざん不可能で、ハッキングが難しいんじゃなかったっけ?ブロックチェーンはそうなんですが、取引所は中央集権的に管理されているのでブロックチェーン取引の脆弱性にもなっています。

    具体的には秘密鍵の管理を取引所に委任する必要があります。秘密鍵を持っているので、取引所の中の人が不正に資金を引き出してしまうリスクや、外部からハッキングされて資金が流出してしまうリスクがあります。

    そこで生まれたのが中央で管理しない分散化した取引所です。一般的には分散化取引所(DEX:Distributed Exchange)と呼ばれています。

    分散化取引所(DEX)には三つのアプローチがあります。

    • Bancorのように複数のコインと価格設定アルゴリズムを持つスマートトークンを発行する方法
    • KyberNetworkのようにプールした流動資産をスマートコントラクトで管理する方法
    • 0xのように分散化アプリケーションのためのオープンプロトコルとして流動資産の取引を可能にする方法

    それぞれ、一長一短で現時点ではまだ中央集権的な暗号化通貨の取引所に取って代わるまでには至っていません。

    分散化された貸し出し

    以前に中国フィンテックの解説をした時に説明したように、銀行の儲けは手数料と運用の二つがあります。手数料はお金を集めるためにやってますが、あまり儲かりません。儲かるのは運用です。お金を預かって、その預かったお金を運用して儲けます。その運用の一つが貸し出しで、金利によって儲けます。銀行にとってコアビジネスですね。

    この貸し出しもディファイのターゲットとなっています。簡単にいえば、暗号化通貨を貸して、その利益を得られることができるサービスです。

    ブロックチェーンを使った分散化貸し出しサービスで最も有名なのがCompoundです。ブロックチェーンといえばP2Pのイメージがあるので、個人対個人の貸し借りができるプラットフォームだと思いますよね?違うんです。Compoundは“liquidity pool”です。流動化した資産をプールしている場所です。既存の金融で近いのがマネー・マーケットです。暗号化通貨の貸し借りの取引ができる市場ですね。既存のマネー・マーケットでは金融機関同士や一般事業者が取引に使うもので、個人には縁がありません。しかし、Compoundの場合は個人でできてしまいます。

    Compoundで取引される暗号化通貨はERC20トークンです。ERC20はイーサリアムのプラットフォーム上でのみで使用されることを目的に設計されたトークンです。Compoundで現在取り扱いができるERC20トークンはWETHBATZRXDAIREPなどです。取引できるトークンの一覧はこちらで確認できます。非常に分かりづらいのですが、イーサリアム自体はCompoundでは取引できません。なぜなら、イーサリアム(ETH)はERC20ではないからです。イーサリアム(ETH)をトークン化したのがWEHTです。ラップ(Wrap)されたイーサリアム(EHT)だからWEHT。ラップされたビットコインはWBTC。ここまでが基礎知識。オーケー?ついてきている?

    CompoundでERC20トークンを取引をするために使うのはウォレットとスマート・コントラクトです。ERC20を扱えるウォレットにはCoinbase WalletLedgerMetaMaskがあります。このような対応ウォレットからトークンをCompound市場に預けます。Compoundの市場へ預けた残高はcTokenとしてトークン化されます。そして、預け入れや貸し出しなどはCompound Money Marketのスマート・コントラクト(White Paper – PDFへリンク)が使われます。

    Compoundについてもっと知りたい人はMediumにあるCompoundのオフィシャルブログのFAQを参考にするといいでしょう。

    で、あらためてディファイって必要?

    こうやって何がディファイかだけ解説してみると、いい感じがしません?これまで課題だったことが解決されて、進歩的な感じがする。とてもプログレッシブ。

    分散化アプリ(Dapps)はたくさんあるので、ディファイで扱うトークンも使い道はあります。ゲームだとマイクリプトヒーローズクリプトキティとか人気があるらしいです。イーサランス(Ethlance)のようなクラウドソーシングでイーサリアムを稼ぐこともできます。ディファイ(DeFi)自体も分散化アプリ(Dapps)のアプリケーションです。トークンで成立する分散化経済圏は法定通貨で成立する実体経済圏の小さなパラレルワールドといった感じです。

    そこでもう一度、「なんでディファイ?」を振り返ってみましょう。日本だったら日本円でそれほど困ってないですよね?アメリカに旅行したって米ドルでそれほど困りません。たくさんの技術的な課題を解決しても、暗号化通貨が法定通貨の利便性を日常の利用シーンで上回ることはまだまだできそうにありません。ディファイのユースケースはまだまだ限られています。出稼ぎの人たちがマイナーな自国の法定通貨の代わりに暗号化通貨を使って海外送金とか、余裕のある富裕層の資産運用のポートフォリオの一部に組み込むくらいかなあ。

    まあ、ジンバブエやベネズエラのように自国の法定通貨に不安がある国に住んでいたらハイパーインフレ対策にはなりそうです。米ドル、欧ユーロ、人民元、日本円、英ポンド以外のマイナー通貨はディファイになってしまえ!と思わなくもない。貧しい国に住む人たちがイーサランスで暗号化通貨を稼いで、暗号化通貨で暮らすなんてちょっと夢がありますよね。ハイパーインフレ来たって小島よしおのように「そんなの関係ねえ!」って、やっぱり、ロマンですよ。実際にベネズエラでは一部の人がハイパーインフレ対策でビットコインを使ってるようですし。

    Hyperinflation Produces Surge In Bitcoin Trading In Venezuela

    まあ、未来を選べるのであれば、スーパー中央集権っぽいフェイスブックのリブラ(Libra)よりは、分散化されたディファイに身をゆだねたくなる気持ちはわからなくもない。

  • 暗号化通貨のロマンであるDeFi(ディファイ)を理解する「なんでディファイ?」

    暗号化通貨のロマンであるDeFi(ディファイ)を理解する「なんでディファイ?」

    何がビットコインやブロックチェーンをここまで盛り上げてきたのか?それは、ロマンだと思うんですよね。暗号化通貨のロマンは二つあります。まず、お金持ちになりたいロマン。そして、自由になりたいロマン。そのロマンにみんな集まってきました。

    しかし、「お金持ちになりたいロマン」はすでに終わったようです。ビットコインは2017年12月に最高値をつけ、2018年に急落し、2019年に入ってようやく復調の兆しを見せていますが、それでも2017年のレベルにはまだまだ届きそうにありません。イーサリアムに至っては復調の兆しすら見えません。高いボラティリティは失われました。

    今回は暗号化通貨の「自由になりたいロマン」に焦点を当てて、最近話題になっているDeFi(ディファイ)を前編/後編に分けて解説します。今回は「なぜディファイ? (Why DeFi?)」です。その技術で得た自由でどうしたいの?

    なお、次回は「なにがディファイ? (What is DeFi?)」です。Daiステーブルコインの話とかを期待している人は、後編まで待ってください。そういう話は検索すればいっぱい出てきますし。

    ロマンのツールとしてのDeFi(ディファイ)

    「お金持ちになりたいロマン」は終わりつつありますが、「自由になりたいロマン」としての暗号化通貨とブロックチェーンは続いています。ビットコインもイーサアムもまだまだ改善を続けています。そして、リバタリアン(完全自由主義)のツールとしてのブロックチェーンを体現する動きがディファイで、政府と金融機関に集中管理された既存の金融システムから独立した分散化金融を目指しています。ディセントラライズド・ファイナンス(Decentralized Finance) の略称です。

    普通の人たちは今の金融システムで十分満足していますよね。日本円を使ってて困ったこととかほんとんどないでしょ?アメリカに住んでいる人も米ドルで困ったことはほとんどないと思います。今のシステムの中でもモバイルペイメントとか、やることだって山ほどある。なんでディファイ?そこにロマンを求める人たちがいるからです。

    ディファイの思想:リバタリアンのおさらい

    政府からどれくらい自由になるべきか。その立ち位置を表す言葉がたくさんあります。政府の役割が多い方がいいと思う人は「リベラル」、政府の役割が少ない方がいいと思う人は「コンサバティブ」に多い気がします。リベラルは政府の役割を強めて社会保障を厚くする方向に向かいがちですし、結果的に税金が高くなる。コンサバティブは政府の役割を弱めて民間企業にその役割を委ねる方向に向かいがちですし、結果的に税金が安くなる。政府の役割が強い極端な例が「コミュニズム(共産主義)」で、昔の中国やロシアがそれに当たります。政府の役割がない極端な例が「リバタリアン(完全自由主義)」です。

    長い歴史の中で、政府の役割は変わってきました。なるべく干渉しないレッセ・フェールの時代もありましたし、なるべく管理するニューディールの時代もありました。今は政府はなるべく干渉せずに自由市場に委ねる新自由主義の時代です。その方向性に影響を与えているのがリバタリアンです。

    リバタリアンの思想にはいい面と悪い面があります。映画『スターウォーズ』に例えれば、同じリバタリアンでもジェダイもいますし、シスもいます。フォースという力を操る意思によって、いい思想にもなれば、悪い思想にもなります。

    自由を守るジェダイとしてのリバタリアン

    ボクたちの暮らしは監視されています。え?何かの陰謀説?いえいえ、違います。例えばブラウザでWebサイトを開けばクッキーで自分たちの行動はトラッキングされます。アマゾンがオススメ商品を提案できるのも、グーグルが入力する検索キーワードを予測できるのも、行動データを蓄積して、それを人工知能を使って分析しているおかげです。ボクたちの行動データは商品として取引されています。ショシャナ・ズボフは”The Age of Surveillance Capitalism”で、これを「監視資本主義」と名付けました

    Gmailで送るメールも、Amazon Echoに語りかける声も、FacebookやTwitterの投稿や「いいね」も、すべて個人にひもづく行動データです。LINEだって同じですよ。だって、みなさんログインして使ってますよね?クッキーだけだと技術的に個人にまでひもづけることは難しいです。しかし、ログインさえしていれば簡単に個人を特定できます。

    自由を担保するにはプライバシーが大切だとリバタリアンは考えます。ブロックチェーンを生み出したサイファーパンクたちの最初の動きは追跡されない暗号化技術です。政府の監視から自らを守る武器が暗号化技術でした。

    政府による監視が単なるパラノイアや被害妄想ではなく、現実に起きていることだと教えてくれたのがエドワード・スノーデンでした。そして、それが民間企業にまで広がっていると分かったのがケンブリッジ・アナリティカのデータ流出事件でした。ボクはそれをきっかけに本当にフェイスブックとグーグルのChromeやめましたもの。フェイスブックの暗号化通貨のリブラ(Libra)なんてディストピアしか予見できません。

    このような監視資本主義の中で生活する上で、自分のプライバシーを守る手段は少ないのが現状です。安全なブラウザを安全な設定で使うとか、Signalのようなメッセンジャーを使うくらいでしょうか。なるべく使わないようにすると言っても限界があります。ブロックチェーンを使った分散型の仕組みであれば、プライバシーの流出を気にする必要がなくなります。それが現実的なのかどうかは別にして「ロマン」があります。

    悪の帝国としてのリバタリアン

    格差の元凶

    世の中は監視資本主義であり、同時に格差社会でもあります。この格差社会の原因は政府の管理を最小限にして市場原理にゆだねる新自由主義だと言われています。政府が干渉しないということはセーフティーネットもないということですからね。そして、新自由主義を強く推進してきたのがリバタリアンです。代表がノーベル賞を受賞した経済学者のミルトン・フリードマンですし、企業家として愚直に実践してきたのがコーン兄弟です。なんか、いきなりダークサイドが現れてきましたね。

    格差の拡大は先進国で広く見られる現象で、「ウォール街を占拠せよ」などの運動につながりました。新自由主義が台頭した1980年代から現在まで格差は広がり続け、アメリカの上位1パーセントの収入は平均275%増加しました。この辺のデータはトマ・ピケティの研究でも明らかになっています。

    南米のチリは新自由主義を実践して経済的に急成長しました。「チリの奇跡」と呼ばれています。軍事クーデターで政権を得たピノチェトの下で実際に高い成長率を記録したのですが、同時に経済格差も広がりました。一方で同じく南米で急速な経済成長を果たしたブラジルは労働党出身で思想的にはかなりリベラルなルーラ政権下で貧困層向けの家族手当であるボルサ・ファミリアを実施して、経済成長と格差縮小を同時に実現しました。実は貧困層に向けた現金支給は貧困層向けの減税よりも効果的だと主張したのもミルトン・フリードマンだったりします。リバタリアンのフリードマンがリベラルな政策を提言したりするのは面白いですよね。

    それはそうと、経済成長と格差。アナンド・ギリダラダスも”Winners Take All”で指摘していますが、富裕層は貧困を問題化することに積極的ですが、格差を問題化することには消極的です。貧困に目を向けさせて、格差からは目をそらそうとします。これがリバタリアンのダークサイドです。

    日本でもどこまでが自己責任で、どこまでが社会の責任なのか、が議論されますよね。自己責任論はどちらかといえばリバタリアン的なモノの見方です。セーフティーネットとかベーシックインカムみたいな社会的弱者保護はどちらかといえばリベラル的なモノの見方です。どっちが正しいということはなく、バランスなんですけどね。

    闇取引の元凶

    もう一つのリバタリアンのダークサイドが闇取引です。お金の流れを政府が把握したいのには訳があります。犯罪に利用されないためです。お金の移動は中央で記録されています。だから本人確認義務(KYC)は金融取引にはとても大事なのです。そこで、犯罪者はお金の出自がわからなくなるように資金洗浄(マネーロンダリング)をします。

    これまでに明るみに出た麻薬などの違法取引をするダークウェブで最大のものはシルクロードです。そして、このシルクロードの首謀者であるロス・ウルブリヒトもリバタリアンでした。このシルクロードで使われたのが暗号化技術のTorであり、ビットコインでした。

    で、なんでディファイ?

    ビットコインなど暗号化通貨は単なるツールであり、善も悪もありません。それはディファイにも言えることです。悪い奴らに悪用されるかもしれないのに、なんでわざわざそんなものを作るんだ?そう疑問に思うこともあるでしょう。そこ答えは簡単ではありません。そんなこと言ったらインターネットだって悪い奴らに悪用されますしね。ツールってそういうものです。

    技術は善悪関係なしに進歩していくものですし、いまは「それがロマンだから」としか言いようがないですね。それでも、これからディファイを世に広めようとするのであれば、リバタリアン的なこの技術のいい面と悪い面をちゃんと理解した上で、悪用されないようにするにはどうしたらいいのかを考える必要があると思います。

  • 金持ちのキャッシュレスと貧困のキャッシュレス

    金持ちのキャッシュレスと貧困のキャッシュレス

    キャッシュレスの大きな需要は二つあります。ひとつは富裕層ためのキャッシュレスで、もうひとつは貧困層のためのキャッシュレスです。この二つの異なる需要はきちんと分けないといけないなあと思います。 富裕層とか貧困層って日本ではあまりピンと来ないかもしれません。日本人は世界的に見れば富裕層です。銀行口座を持っているというだけで、かなり恵まれています。日本は銀行口座の保有率がほぼ97%(リンク先はPDF)で、クレジットカードの保有率は85%です。

    金融機関を利用できる状態のことを金融包摂(きんゆうほうせつ|Financial Inclusion)というのですが、日本人のほとんどは金融機関を通じた経済活動が行えています。「経済活動」というと難しそうですが、要するにカードを使った買い物や、銀行引き落としで光熱費を支払うなどです。お金がなければキャッシングだってできます。

    アンバンクドのキャッシュレス

    一方で、銀行口座のない成人は世界で17億人います。銀行口座を持たない人たちを「アンバンクド」といいます。世界銀行のGlobal Findexによると、銀行口座を持たないアンバンクドの割合はアフリカが高いです。特に北アフリカを除くサブサハラアフリカは半数以上の66%がアンバンクドです。アンバンクドはバンクレスな人たちですが、キャッシュレスの技術が金融サービスへのアクセスを提供しています。お金があまりない人にキャッシュレスとは何とも皮肉な言い方ですが。

    アンバンクド率が高いサブサハラアフリカの中でも突出して金融包摂がすすんでいるのがケニヤです。モバイルペイメントサービスのMペサの口座保有率が93%を超えています。Mペサは2007年にケニヤではじまったモバイルペイメントです。スマホでなくガラケーで使えるため、大変普及しました。タンザニアやアフガニスタンでも普及しているのですが、アフガニスタンでは警官の給料支払いに使われました。アフガニスタンの場合は給料の中抜きが横行していたため、Mペサで給与を直接支払うことで不正が減り、昇給したと勘違いする警官が多かったそうです。

    Mペサはほかの国にも進出したのですが、あまりうまくいっていません。一人当たりのGDPが6000ドル以上とアフリカ最高です(ケニアは1/4の1500ドル)というのもありますが、南アフリカは銀行口座の普及率が77%で、口座を持つことへのニーズ自体がケニヤほどは高くないのです。Mペサのようなモバイルペイメントはアンバンクド層には魅力的なのですが、銀行口座をすでに持っているバンクド層にはあまり魅力的ではないということです。

    先進国の金持ちキャッシュレスと貧困キャッシュレス

    先進国にもアンバンクド層は存在します。アメリカでも6.5%がアンバンクド層で、その多くがアフリカ系黒人やヒスパニックといったマイノリティーです(リンク先はPDF)。イギリス政府なども同じですが、公共サービスはデジタルだからいいというものではありません。大前提として使う人の利便性が高まり、より多くの人がサービスを受けられることが大切です。買い物や公共料金の支払いなどは基本的には差別があってはいけないものです。

    金持ちのキャッシュレス

    デジタル技術は富裕層のエクスペリエンスを高めます。アメリカやヨーロッパでは現金を受け付けないSweetgreenのような小売業が増えてきていますし、安くていい品を売るBrandlessのようなオンライン専門のショップも増えてきています。これが高級店だったら、そもそも貧困層はターゲットではないから仕方がないという見方もあります。しかし、貧困層でも買えるような安くて、いい品だったらどうでしょうか。

    貧困層のキャッシュレス

    貧困層の経済活動の促進にも役立てるべきという考え方も成り立ちます。アメリカではBlue Birdのようなプリペイド方式のデビットカードが普及しはじめています。口座がなくてもカードに直接お金をためておいて、それがカードとして使える。

    中国もインドもすでに先進国といっていいと思いますし、キャッシュレスが急速に浸透してきています。その背景にはもともとたくさんいたアンバンクドの存在があります。インドの場合は自ら進んでアンバンクドだったんですけどね、そうも言ってられなくなりました。

    アンバンクド層はアンバンクドの人口が一番多いのは中国で、その次がインドになります。まあ、単純に人口が多いですからね。中国のフィンテック事情インドのフィンテック事情に関しては以前に書いたので興味があればリンクを参照してください。

    このように技術は先進国における金融包摂(きんゆうほうせつ|Financial Inclusion)のギャップを解消することも期待されています。中国やインドで低所得者層にまでキャッシュレスが急速に普及しているのもこのような社会的背景があります。

  • インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|UPI編

    インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|UPI編

    今回のインドのキャッシュレス特集では、第一回目はインドのeコマースを利用してカバンを買おうとしたらインド特有のクレジットカード事情のためにつまづいてしまったという話。第二回目はモバイルペイメントも使えなかったというお話をしました。

    では、インド特有のUPIとQRコードではどうでしょうか?インドのQRコードは統一されていて、Alipay(アリペイ|支付宝)とWeChat Pay(ウィチャットペイ|微信支付)ではQRコードがそれぞれ違う中国よりずっと便利なんですけどねえ……というのが今回の内容です。

    UPIとは

    ウォレットとUPIの違いですが、ウォレットはウォレットサービスの中にお金をチャージしておいて、それを切り崩して使います。足りなくなったら、チャージします。UPIは統一したインターフェースによって銀行口座と直接繋げることによって支払いができるようにします。簡単に言えばデジタル版のデビットカードサービスです。銀行口座があるんだから、モバイルペイメントだけの特別な口座なんていらないよね?というインド人らしい合理的な考え方から生まれたものです。

    ウォレットって実は意外と不便です。例えばPayPayからSuicaにお金は移せないですよね。ウォレットごとにお金を貯めておかないといけない。UPIだと銀行口座と直結だから銀行口座があればいい。中国のAlipayやWeChat Payのようにクレジットカード機能やキャッシング機能のような銀行口座ではない機能があると違うのですけど。

    UPIの仕組み

    UPI(Unified Payments Interface)は第一回『インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|クレジットカード編』でも登場したインド決済公社(National Payments Corporation of India)が開発したリアルタイム決済システムです。UPIを使うと具体的には以下の五つの方法(インターフェース)で自分の銀行口座とお金のやり取りをすることができます。

    UPIを使うには銀行のUPIアプリをインストールする必要があります。UPIアプリをインストールすると決済用アドレスが割り当てられます。UPIアドレスは “ユーザー名@銀行名” になっています。これに加えてモバイル通貨ID(MMID: Mobile Money IDentifier)が必要になります

    • 仮想決済アドレス(VPA: Virtual Payment Address):仮想決済アドレスと紐づけられた銀行口座とのお金の送金/受け取り。
    • 携帯番号:携帯電話の番号と紐づけられた銀行口座とのお金の送金/受け取り。
    • 口座番号とインド金融システムコード(IFSC: Indian Financial System Code):銀行口座またはインド金融システムコードを使ったお金の送金/受け取り。国際的に使われているのはアイバン(IBAN: International Bank Account Number)ですが、インドは特殊なコードを使います。
    • インドのマイナンバー「アダール」アダールと紐づけられた銀行口座とのお金の送金/受け取り。
    • QRコード:送金に必要な情報(VPA、口座番号、IFSCまたは携帯番号)QRコードで伝えることによりお金の送金。インドのモバイルペイメントのQRコードは各社バラバラではなくてBharatQRという規格で統一されています。これも元締めはインド決済公社(National Payments Corporation of India)です。

    UPIが生まれた背景

    UPIが発表されたのは2016年4月でした。そしてモディ首相が高額紙幣廃止をしたのが2016年11月。以下がUPIに関わる主な出来事のタイムラインとなります。このタイムラインを見ればわかるように、インドの金融自由化はモディ政権以前からゆっくりではありますが徐々に進んではいました。

    2008年12月:インド決済公社(National Payments Corporation of India)の設立

    2012年3月:インドのナショナルブランドのクレジットカードRuPayの誕生

    2014年5月:モディ政権誕生

    2016年4月:UPI(Unified Payments Interface)発表

    2016年9月:統一QRコードのBharatQR発表

    2016年11月:高額紙幣廃止

    2017年4月:銀行間の送金アプリBHIM(Bharat Interface for Money)発表

    しかし、不正や脱税の温床となっていた現金主義から決別するには高額紙幣廃止という荒治療が必要でした。そして、現金からキャッシュレスにシフトするための施策が必要でした。UPIやBharatQR、BHIMなど重要な施策が高額紙幣廃止前後に矢継ぎ早に発表されているのは偶然ではないでしょう。

    UPIをサポートするアプリ

    すでにGoogle PayやWhatsAppなど国際的なアプリがUPIをサポートしています。彼らにとっては非常に都合がいいサービスですよね。UPIをサポートすればモバイルペイメントができるようになってしまうのですから。

    特にWhatsAppはインドでのシェアが高いので、かなりの人はWhatsAppとUPIを使ってお金のやり取りをしていると考えられます。この辺の合理性は本当にインド人っぽいです。

    さらに、UPIをサポートすればQRコード決済もできるようになっちゃうんですから。LINEもインドでUPIサポートすればいいのに。

    で、日本人はUPIを使えるのか?

    念のために改めて書きますが、この連載はインドのeコマースで無事にカバンが買えるのか?という記事です(笑)

    どうやれば支払いができるのかを研究しているうちに、連載するくらいの情報が入手できてしまったので、それを整理して書いています。察しのいい方はお気づきだと思いますが、UPIを使って日本から支払いはできません。だって、インドの銀行口座持ってないですもの。

    (次回は解決編の予定です。え?解決するの?はい、解決しました!)

  • インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|モバイルペイメント編

    インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|モバイルペイメント編

    前回はファッションのeコマースを利用してカバンを買おうとしたらインド特有のクレジットカード事情のためにつまづいてしまった話でした。

    今回はクレジットカードが使えないならどうする?という話です。では、クレジットカード以外はどのような選択肢があるのでしょうか。スクリーンショットを見ると、ネットバンキング、ウォレット、UPIとQRコードという選択肢があります。

    インドのモバイルペイメント理解のための前提

    インドは中国とは違います。日本とも違います。まず、これを理解しないといけません。モバイルペイメントの普及には技術と市場の両方が必要です。インドの技術は高いです。日本のPayPayも中身はインドのPaytmです。インドは昔から開発のオフシュアとしてレベルの高い開発者がたくさん育ててきました。

    しかし、市場としてはまだまだ未成熟です。中国のモバイルペイメントの発展の歴史に関する記事でも書きましたが、モバイルペイメントは様々な要素が合わさってはじめて実現します。インドの人口は13億人で中国についで二番目に人口の多い国です。そして、スマホユーザーが3億人強(普及率約23%)です。これが中国や日本と大きく異なる点です。インドは技術は高くても、国内市場はまだまだ発展途上なのが特徴です。

    インドでのモバイルペイメントの普及率は7.6%です。7390万人だと言われています。中国のモバイルペイメントの普及率は98%(日本は6%)だそうなので、中国と比べると大きな開きがあります。日本と同様で、まだまだ小さな市場に群雄割拠で小さなプレーヤーも含めてしのぎを削っているのが現在のインド市場です。

    インドのウォレット

    ウォレットアプリとはお金をアプリにチャージしておいて、それをQRコードなどで使うアプリです。中国のAliapay(アリペイ|支付宝)やWeChat Pay(ウィチャットペイ|微信支付)みたいなものです。日本のSuicaもウォレットですね。インドで最も普及しているウォレットアプリといえばPaytmだと思います。しかし、今回のオンラインショップで採用されているペイメントゲートウェイのRazorpayではどうやらPaytmやOxigenはサポートされていないようで、PayZapp、Ola MoneyとFreechargeのみ利用できます。

    Paytm

    2016年の高額紙幣廃止からUberやインド鉄道がいち早く採用するなど、急速に伸びたサービスがPaytmです。ちなみに日本のPayPayの基礎技術はPaytmです。インドのAlipayやWeChat Payといったポジショニングです。Alibaba(アリババ|阿里巴巴)やソフトバンクが主要株主です。800万のオフライン加盟店を獲得していて、インドの街を歩いていればPaytmのサインを見かけることは多いかと思います。

    RBIからオンラインバンクとしては最初の認可を受けて決済銀行であるPaytm Payments Bank Limitedを設立しています。この辺り、中国と全く同じ流れですね。

     

    MobiKwik

    MobiKwikはPaytmの次にシェアを獲得しているモバイルペイメントですが、こちらもRazorpayではサポートされていません。MobiKwikもUberに採用されているモバイルペイメントです。

    MobiKwikの拡大チャネルはeコマースとのパートナーシップで、オフラインから拡大したPaytmとの差別化ポイントとなっていました。でも、今は同じですけどね。

    Oxigen Wallet

    Oxigen Walletもインドで人気のあるモバイルペイメントの一つだと思うのですが、Razorpayではこちらもサポートされていません。実はインドで最初にモバイルウォレットを発表したのはPaytmではなくてOxigenでした。

    PayZapp

    PayZappはHDFC銀行が提供しているウォレットです。インドの銀行は1969年にほとんど国有化されました。1990年代からインドでも銀行業が自由化されはじめ、新しい民間の銀行が生まれました。HDFC銀行(The Housing Development Finance Corporation Limited)もその一つで1994年に設立されました。

    それでも、国有銀行の方がまだまだ大きく、インドの4大銀行(インドステイト銀行/ICICI銀行/パンジャブ国立銀行 /バローダ銀行)もICICI銀行を除いて全て国有銀行です。HDFC銀行は挑戦者の立場なので、ウォレットのPayZappだけでなく、P2P決済のChillrなど新しいテクノロジーの採用に積極的です。

    とはいえ、状況はまだまだ厳しいといえます。4大銀行の一角であるインドステイト銀行(SBI)のウォレットアプリであるBuddyは2018年11月にサービス終了しました。まだまだ未成熟なインド市場でHDFC銀行がどこまで頑張れるか。

    Ola Money

    Olaはインドで最も有名なタクシーアプリで、Uberとしのぎを削っています。中国でいえばDidi( 滴滴出行)のような存在。そのOlaが提供するウォレットアプリがOla Moneyです。AlibabaがDidiに出資してAlipayとの連携を深めたように、タクシーや映画館のような日々オフラインで利用するサービスの決済とウォレットアプリの相性は非常にいいです。

    Freecharge

    SnapdealFlipkartに次ぐ第2位のインドのeコマースサイトで、中国のAlibaba(第2位だからJD.comか)のような存在です。実際にソフトバンクやAlibabaから投資を受けています。このSnapdealが2015年に買収して組み込んだモバイルペイメントがFreechargeです。Alibabaの例もありますが、eコマースも当然ながら決済サービスと相性がいいです。

    しかし、2017年には大手民間銀行のアクシス銀行がSnapdealからFreechargeを買い上げました。アクシス銀行は新興の民間銀行で、PayZappを提供しているHDFC銀行の直接的なライバルとなります。

    で、問題は解決した?

    察しのいい方はすでにお分かりでしょうが、インドの銀行に口座を持たない日本人はこれらのインドのモバイルペイメントは利用できません。つまり、まだカバンは買えないのです!ここまで書いておいてなんですが。

    第三回:インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|UPI編

  • インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|クレジットカード編

    インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|クレジットカード編

    ボクはファッションに関してはちょっとしたこだわりを持っています。音楽、映画、アート、ファッションはボクのアイデンティティの一部といってもいい。これに「食」を加えた五つにはオタク的なこだわりがあります。リアルに会って、これらを語らせたら迷惑なほどうるさいです。故に、今回は本題に入るまで前書きが長いです。

    ボクのファッションのこだわりの一つは「ワンポイント」です。色でもアイテムでもアクセントを重視します。そのためには個性的でセンスのいいものが欲しい。個性的でセンスのいいアイテムは海外のオンラインショップで買うことが多いです。すみません、持っている人が増えると困るので、ここでは具体的なブランド名は書かないです。それらを身に付けていると「いいね、それ。どこで買ったの?」とよく聞かれます。聞かれれば、ちゃんと答えます(笑)。アクセントだから目立つんですよね。ちなみに、靴だけは日本のブランドで、スピングルです。アクセントになるアイテム以外はユニクロやZOZOのお世話になっています。ARIGATO会員はマジありがたい。

    このブログではあまりボクのこだわりについて書かないのですが、ファッションという個人的なこだわりトピックからスタートしているのには理由があります。

    インドのeコマースでカバンを買うための戦い

    最近、ボクのインドの知り合いがカバンのブランドを立ち上げました。ここがスゴイ。センスのいい革の鞄とか一万円しません。コスパ最強です。インド人はもともと色彩センスが素晴らしいのですが*1、そのセンスが最大限に発揮されています。というわけで、すぐにオーダーしたのですが、これがなかなかうまくいかない。その理由はインド独自の決済システムにあります。やっと本題に入りました!

    インドのタンス貯金と現金主義からの決別

    インドは日本と同様に現金主義の国でした。それでも、日本では銀行に預けますが、インドではリアルタンス貯金でした。現金を家に溜め込むのです。その理由は節税です。あ、脱税か。これが一部の特殊な層だけやっていることではなく、一般的な家庭レベルのやり方でした。そのため、つい最近までインドでは決済の90%以上が現金です。日本も現金主義ですが、インドはそれ以上に現金主義です。

    最近はモディ首相も勢いが衰えていますが、彼は近年稀に見るリーダーシップを発揮した政治家です。本当に尊敬しています。そして、モディ首相がまだ勢いのあった時にガツンとやったのが高額紙幣廃止でした。

    2016年11月に突然、タンス貯金として溜め込んだ高額紙幣(1000ルピーと500ルピー:それぞれ1700円、850円くらい)は一定期間内に金融機関に預け入れるか、新紙幣と交換しなくては紙くずになってしまうと発表しました。本当に一部の関係者しか知らない極秘裏に進めたプロジェクトで、ほとんどの人にとって寝耳に水の発表でした。政治腐敗があればこういうことできないですよね。モディ首相はこういうことができるのが本当にすごい。自分たちの資産であるタンス貯金が紙くずになってはたまらないので、インド人たちは銀行に殺到し、結果的に15兆2800億ルピー(約26兆3000億円)が銀行に集まりました。

    この時のことをよく覚えていますが、シンガポールやアメリカに住んでいる友人たちも急いでインドに戻って家のタンス貯金を銀行に預けていました。全く価値がゼロになるよりは税金を払ったほうがマシ。それでも預けきれずに紙くずになってしまった資産もあったそうです。

    インドの急速なキャッシュレス化

    インド人はとても合理的な人たちです。気持ちの切り替わりが早い。これまで現金しか使えなかった店舗で小さな店舗も含めてクレジットカードが使えるようになりました。そもそも、現金を使ってたのは脱税のためですからね。その理由がなくなれば、キャッシュレスの方が便利だから使うよ。

    インドのクレジットカードを海外で使う場合

    しかし、インドのクレジットカードのシステムはインド国外のシステムと若干違います。クレジットカードやデビッドカードは海外への不正送金を妨げるためにRBI(インド準備銀行:インドの中央銀行)によって規制されているからです。

    この規制により、インドの銀行から発行されたクレジットカードは基本的にはインド国内でしか使えません。海外で使う場合は、発行してもらう時に海外で使えるようにしてもらわなければいけません。

    どうしてそのような事がおきるのか?これは中国も同じなのですが、既存の国際ブランドへの警戒感もあるのだと思います。中国では独自のブランドであるUnionPay(2004年から普及開始)があるように、インドにはRuPay(2012年)があり、36%のマーケットシェアを獲得しています。中国のUnionPayが2002年に設立され、実際の普及開始まで時間がかかったように、インドのRuPayもその母体であるインド決済公社(National Payments Corporation of India)が設立された2008年から普及までは時間がかかっています。

    海外のクレジットカードをインドで使う場合

    インド国内で発行されたクレジットカードだけでなく、日本を含むインド国外で発行されたクレジットカードのインド国内での利用もRBIによって規制されています。このため、せっかく店舗でクレジットカードを受け付けていても……”International Cards are not accepted”とバッチリ拒否られます。

    2018年4月にRBIは全ての決済サービス企業に対してインド国内における決済データ全てをインドで保管するよう求めました。つまり、国際ブランドであるVisaやMastercardもこの新しい規制に従わないといけなくなります。Bloombergの記事”Be Fully Compliant With RBI Rules By September“によると2019年9月までにはこの規制に対応して、海外のクレジットカードもインド国内で使えるようになりそうです。でも、それまでどうするの?

    友人のファッションブランドであるTribeではRazorpayという決済サービス(日本だとGMOペイメントゲイトウェイ、海外だとStripeのようなもの)を使っています。Razorpayはインドの決済サービスなので、デフォルト設定ではインドの規制に準拠した設定になっています。つまり、インド国外で発行されたクレジットカードは”International Cards are not accepted”というメッセージとともに拒否されてしまいます。

    でも、そんなことで挫けるボクではありません。欲しいと思ったら欲しいのです。

    第二回:インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|モバイルペイメント編

    *1:マドラス模様とかインド人のセンスじゃないと生まれないですよね。マドラスは現在のチェンナイです。

  • 信用経済と健康経済|どう便利になる?個人情報は?

    信用経済と健康経済|どう便利になる?個人情報は?

    「データは新しい石油」とイギリスのデータサイエンティストで大手スーパーマーケットであるテスコのポイントシステムを作ったクライブ・ハンビー最初に言ったそうです。価値があるものだが、石油と精製しないと使い物にならない。それ以来、様々な場面で語られるフレーズとなっています。

    これまでの経済で誰が強いかといえば石油を仕切っている人たちでした。米ドルの強さの源泉も石油です。石油は米ドルでなければ取引ができません。本当に石油に相当するくらいの価値があるかは議論の余地がありますが、データは重要なビジネスの源泉です。

    データの中でも特に価値が高いのが個人データです。個人の行動データはGAFA(Google/Amazon/Facebook/Apple)のようなプラットフォーマーの強さの源泉でもあります。個人IDと紐づいた行動データから趣味嗜好を理解して広告を表示し、オススメの商品を売ります。インターネット上の行動データや購買データの他に価値が高いとされるのは信用データと健康データです。

    信用スコアと信用経済

    信用スコアによる信用経済は中国で発展しています。具体的には2015年にスタートしたアリババの芝麻信用(ジーマーシンヨン|Sesame Credit)です。金融機関にとってお金を貸すビジネスは利益の源泉となります。しかし、お金が返ってこないと利益が出ません。そこで、貸したお金が返ってくるかどうかを数値化しています。これが信用スコアです。

    信用スコアの歴史は1956年の米国FICO設立まで遡ることができます。このFICOの信用スコアは多くの金融機関で採用されることになりますが、このためにローンへのアクセスが不当に妨げらる事案が見られるようになりました。そこで消費者信用保護法(Fair Credit Reporting Act)が成立されることになり、これは現在でも続いています。

    FICOもそうですが中国の芝麻信用はクレジットの与信だけでなく、お金のやりとりが発生しないことでも利用されはじめています。例えば、FICOスコアは企業の採用で使われるケースもあるようです。芝麻信用は利用者にインセンティブを与えるために、信用スコアの高い利用者には様々な特典を用意しています。

    信用スコアの光と闇

    これが信用スコアによる信用経済です。中国の場合は金融インフラが整っていなかったため、ローンへのアクセスに制限がありました。そのような背景から、よりアクセス性の高い芝麻信用を利用したローンは広く受け入れられました。その結果、利用者も信用スコアに悪影響を与える行動を慎むようになり、経済発展に寄与したと言えます。

    しかし、利用者が見えない場面で個人の信用情報が様々な用途で活用されているのも個人情報保護の観点からあまり望ましくないという考え方もあります。キャシー・オニールの『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』では信用スコアが適切に運用されていない例が多く紹介されています。

    信用情報は誰が管理する?

    信用情報は個人情報なので、その管理は重要です。国によって異なりますが、多くの場合は法律で保護され、国に指定された指定信用情報機関が管理します。日本の場合だとCIC等です。アメリカの場合はFACT法で保護され、Equifax,Experian,TrunsUnionの大手三社が管理していて、FICOがスコアを提供しています。

    中国の場合はこれまでこのような法整備が追いついていなかったため、アリババやテンセント等の企業が独自に行ってきました。しかし、ようやく法整備が整ってきて百行征信有限公司、通称シンリエン(信联)が国から認可を受けた信用情報機関として設立されました。アリババなども信用情報機関のライセンスを受けようとしていましたが、これは認められませんでした。これまで信用スコアをとってきたアリババなどはシンリエン(信联)にスコアを提供する形になります。シンリエン(信联)がEquifqxなど信用情報機関の役割を担い、アリババの芝麻信用(ジーマーシンヨン|Sesame Credit)などはFICOと同じ位置づけですね。

    自分自身の個人情報は自分自身がチェックして、間違っていれば訂正できるようになっていなければいけません。ブラックボックスにしてはいけないというのが基本的な考え方です。

    個人の健康情報と健康経済

    お金の流れを一元的に見れるようにしたいというニーズがフィンテックの発端でした。しかし、預金口座、株式の情報、有形無形の資産情報はバラバラに管理されていました。今もそうですが、それでもフィンテックのおかげでデジタル化されてだいぶマシになりました。

    個人情報でバラバラに管理されているもう一つの代表例が健康情報です。風邪をひいて病院に行けば、自分のカルテはその病院にあります。歯医者に行けばまた別のカルテがあります。薬を飲んだ履歴は薬手帳で手元にあるかもしれません。

    病気や薬の情報以外にも、Fitbitなどを使った運動の情報もあります。Apple Watchで脈拍などとってるかもしれません。これらの健康情報は個人のファイナンス情報と共通点があります。

    • 非常に高度な個人情報
    • バラバラに管理されている
    • 新しいビジネスを創出すると考えられている

    健康情報の電子化と標準化

    しかし、ファイナンス情報と違い、健康情報はデジタル化が進んでいません。欧米でも電子カルテ(EHR)の普及は進んでいますが、複数の病院のEHRはそれぞれ個別で管理され、個別のポータルサイトでしか参照できません。日本はまだそこにすらたどり着けてないですね。

    ヘルスケア分野でAIだのビッグデータだの言う前に、まずは標準化されたデジタルデータがないとどうしようもありません。いまは自分自身の健康データすら見れないのですから。

    個々で管理されている情報をまとめるには標準化が必要です。健康情報の標準はHealthcare Interoperability Resources(FHIR|ファイア)があります。

    個人情報としての健康情報の取り扱い

    健康情報のデジタルデータはいろいろと便利に活用できるのですが、同時に高度な個人情報でもあるため、取扱は慎重に行わなければいけません。そこで、個人の信用情報がFACT法で守られているように、健康情報はHIPAA(ヒッパ)で守られています。

    HIPAAはHealth Insurance Portability and Accountability Actの略です。日本語では「医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律」です。HIPAAでは診断や保険の情報へのアクセスの保証や、プライバシーやセキュリティについて規定されています。

    日本でも

    健康情報の現在

    簡単に言えばHIPAAに準拠してFHIR標準に従ってデジタル化すればいいということになります。ようやくその法整備や標準といった基盤がようやく整いました。

    そして、何と言っても健康は巨大ビジネスです。アメリカでの健康関連の支出はGDPの17.8%に相当します。MicrosoftやGoogle、Appleといった巨大企業も当然ながらこの市場を狙っています。Microsoft、Amazon、Google、IBM、OracleとSalesforce.comは共同でFHIRへの対応へのコミットメントを表明しました。

    特にAppleはFHIR対応に熱心です。iPhoneやApple Watchで収集される健康データはFHIRに準拠しています。

    電子カルテや個人ヘルスレコード(PHR)ではAllscriptsに今年になって買収されエグジットしたPractice Fusiona16zが投資しているCiitizenなどが注目を浴びています。これからデジタル化という意味では初期のフィンテックに似た状況なので、これからスタートアップが増えてきて投資も集まってくるでしょう。

    で、どうなの?

    個人の健康に関するデータがクラウドで統合されると便利になるのは確かだと思います。どのような生活習慣が病気と相関関係があるのかわかりますし、医療機関も統合されたデータにアクセスできるので、よりデータに基づいた治療ができるようになるでしょう。いろんな健康関連の新しいサービスも出てくると思います。

    しかし、これは信用データと同じなのですが、個人データです。意図しない使われ方をしたらたまったものではありません。当然ながら健康データの悪用への懸念は法整備がされているとはいえ払拭しきれるものではありません。

    中国の場合は法整備が追いついていないことからアリババやテンセントのような営利企業による信用スコアの発展につながりましたが、それ以外の国でその動きに簡単に追従しないのはそれなりに理由があるのです。

  • PayPalマフィアとユニコーンの系譜

    PayPalマフィアとユニコーンの系譜

    スタートアップの歴史を語る上で避けて通ることができないのがPayPalです。2002年のeBayによるPalPayの1億5000万ドルの買収は、創業者や社員に大きな富をもたらしました。それがPayPalマフィアと呼ばれる創業者たちになっていきます。PayPalがなければテスラはもちろんのこと、YelpもYouTubeもありませんでした。

     

    PayPalマフィア

    まず、PayPalマフィアについて。PayPalの初期メンバーはその後にさらにスタートアップで成功させています。イーロン・マスク やピーター・ティールといった創業者だけでなく、チャド・ハーリ/スティーブ・チェン/ジョード・カリム(YouTube)、ジェリミー・ストッペルマン(Yelp)、リード・ホフマン(LinkedIn)など錚々たる顔ぶれです。

    PayPalマフィアの系譜

    PayPalはインターネットが伸びるドットコムバブルの初期に設立され、ドットコムバブルが崩壊した後にeBayに買収され無事にエグジットしました。少なくとも、eBayに買収される前まではとても革新的な会社でした。グロースハックのパイオニアでしたし、アリババのビジネスモデルはPayPalのそのままパクリだったりもします(PayPalが失敗したモデルを成功させたアリババもすごい)。

    ピーター・ティール(CFO > Chairman)とマックス・レフチン(CTO)

    ピーター・ティールとマックス・レフチンはPalm Pilot向けのセキュリティーソフトを開発するConfinityを立ち上げます。しかし、これはあまりうまく行かず、Palm Pilot向けのウォレットを開発し、これがPayPalとなります。PayPalは最初はモバイルペイメントのサービスだったんですね。

    Palm Pilot

    しかし、Palm Pilotという特定のプラットフォームだけではマーケットも限られているため、Webのプラットフォームに移行しました。

    イーロン・マスク(Chairman > CEO)

    イーロン・マスクが最初に立ち上げたのは街のローカル情報を提供するZip2でした。Zip2はコンパックに買収されます。イーロン・マスクは2200万ドルを手に入れ、この資金を元手にX.comを立ち上げます。

    X.comはピーター・ティールとマックス・レフチンのConfinityが提供するPayPalに競合するサービスで、さらに銀行として営業をする認可を受けていました。少なくともアメリカでははじめてのオンライン専業銀行でした。最初は競合だったんですね。

    ConfinityとX.comのグロースハック

    eBayは当時伸び盛りのコマースサイトでした。B2CコマースのAmazonと違い、eBayはC2Cコマースなのでユーザー同士による金銭のやりとりが必要でした。そこでよく使われたペイメントプラットフォームがPayPalとX.comでした。

    当時のPayPalのグロースハックはマーケティング責任者だったリード・ホフマン(LinkedInの創業者)が詳しく解説してくれています。

    グロースハック1:インセンティブとリファーラル

    両社はeBay上で顧客獲得のために激しく競争をしました。新規顧客には10ドルを支払い、さらに他の人を紹介してくれた場合は紹介料として10ドルを支払いました。今だとCPA(新規顧客一人当たりの獲得コスト)が高すぎてなかなか取れない戦略ですが、ドットコムバブルがはじける前なのでこのようなバブリーな成長戦略が取れたんですね。

    グロースハック2:埋め込みHTML

    PayPalのようなサービスにとって最終的なコンバージョンはお金の支払いです。では、eBayでのお金の支払いのためにPayPalを使ってもらうにはどうしたらいいか?まずはeBayで目立つようにしないといけませんよね。そこで、出店者がConfinityやX.comのロゴをつけられるように埋め込み用のHTMLコードを用意しました。

    グロースハック3:クローラーと電子メールによるハック

    eBayのWebサイトで目立つだけではまだ足りません。最終的な落札の連絡は電子メールだからです。そこでConfinityはeBayのサイトをクロール(ロボットによる検索)してターゲットとなるオークションを特定し、eBayより早く落札者を特定してメールを送れるようにしました。これぞグロースハックですよね。

    ビジネスモデルの創出

    オンラインペイメントのスタートアップは同時期にたくさん生まれましたが、PayPalはビジネスを成功させることで新しいビジネスモデルを生み出しました。

    また、あまり知られていませんが、マネーリザーブファンド(余额宝)によるアリババのビジネスモデルはPayPalが最初にはじめました。PayPalはMoney Market Fundを立ち上げ、2000年には5.56%の金利を提供していました。ちなみに、アリババの余额宝の2018年の金利は3.6%です。

    しかし、PayPalのMoney Market Fundの金利は2009年には0.23%まで落ち、2011年にはサービス終了しました。リーマンショックは2008年だったので、そこでかなり損が出てしまったのでしょうか。アリババのすごいところはPayPalが失敗したこのモデルを成功させたことです。きっと、なぜPayPalが失敗したのか研究したんでしょうね。失敗を避けるのではなく、学べる組織は強い。

    eBayによる買収

    コマースサイトとオンラインペイメントは切ってもきれない関係です。eBayとしても他人に自分の庭を荒らされるより、自分でペイメントも仕切りたい。そこで、eBayはConfinityとX.comにとっての競合となるBillpointを買収します。そして、ConfinityやX.comの使っていたグロースハックの手法を無効にしたり、色々な対抗策を講じます。

    Confinityにとっての問題は顧客は多いが、キャッシュが少ないこと。X.comにとっての問題はキャッシュは多いが、顧客が少ないこと。お互いの持ってるものと持っていないものが補完関係で、Billpointという共通の敵が生まれたことでConfinityとX.comは合併することにします。これがPayPalとなります。

    お金を持っているイーロン・マスク が大株主で会長(Chairman)、ファイナンスのバックグラウンドを持つピーター・ティールがCFOとなります。ちなみに、ビル・ハリスがCEOになりますが、すぐにクビになります。

    しかし、BillpointというeBayネイティブのペイメントがあるにも関わらず、PayPalのeBayでのシェアは70%まで高まります。そして、eBayはPayPalの競合サービスを独自で展開することを諦め、PayPalを1億5000万ドルで買収することにします。

    PayPalマフィアたち

    2002年のeBayによるPayPal買収によりPayPalで活躍していた人材が自分たちでスタートアップをはじめます。また、エンジェル投資家になったり、ベンチャーキャピタルのパートナーになる人たちもいました。創業者と投資家が同時に生まれたのです。

    多くの元PayPal従業員がスタートアップで成功し、それを支援した元PayPal従業員の投資家とともに彼らはPayPalマフィアと呼ばれるようになりました。

    イーロン・マスクやピーター・ティールはすでに日本でも有名ですので、それ以外の人たちを見ていきましょう。

    リード・ホフマン(COO > LinkedIn創業者)

    PayPalに参加する前にリード・ホフマンはSocialNet.comというマッチングサイトを創業しました。PayPal当時にホフマンの上司だったピーター・ティールによると、SocialNet.comはソーシャルメディアの先駆けとなるようなサイトだったそうです。PayPalではCOOとして外部との関係すべてに責任を持ちました。

    eBayの買収後、リード・ホフマンはLinkedInを立ち上げます。そして、LinkedInは2016年にマイクロソフトに262億ドルで買収され、エグジットします。

    ジェリミー・ストッペルマン(エンジニアリング担当副社長 > Yelp創業者)

    イーロン・マスク の立ち上げたX.comに参加して、Confinityとの合併でPayPalにそのまま参加します。eBayの買収後はハーバード大学のビジネススクールに通いますが、PayPal当時にストッペルマンの上司だったマックス・レフチンに勧められMRL venturesに参加します。そこで再開したPayPalの元エンジニアだったラッセル・シモンズとYelpを立ち上げます。

    元PayPalのCTOでYelp創業者たちの上司だったマックス・レフチンはYelpに投資しました。

    チャド・ハーリー/スティーブ・チェン/ジョード・カリム(エンジニア > YouTube創業者)

    YouTubeの創業者たちもPayPalのエンジニアでした。YouTubeの創業の歴史はいろんな文献があるので各自でチェックお願いします。(そのうち書くかも)

    ルロフ・ボサはピーター・ティールの後にPayPalのCFOになり、eBay買収後はベンチャーキャピタルのSequoia Capitalに参加します。Sequoia CapitalからのYouTubeへの投資担当はルロフ・ボサでした。

    ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

    ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

     

    参考文献

    The History Of PayPal: Important Company Dates | PYMNTS.com

    The Story of PayPal – Bharath Kumar J – Medium

    Reid Hoffman on best strategies, valuable lessons, the PayPal mafia & creating early social networks – YouTube

    How Does a PayPal Money Market Fund Work? | Pocket Sense

    The YouTube Gurus – TIME

  • 徹底比較 SuicaとAlipay|日本のモバイルペイメント普及のカギ

    徹底比較 SuicaとAlipay|日本のモバイルペイメント普及のカギ

    中国はモバイルペイメントが普及している先進事例です。インターフェースがQRコードで一番目立つため、QRコードが大きく注目されています。しかし、インターフェースは(重要だけれども)一つのコンポーネントでしかありません。

    今回は中国の支付宝(Alipay)と日本のSuicaを比較して、何が足りないのかを検証します。そして、日本で中国より進んだ電子マネーを普及させるには何が必要なのかを考えてみます。

     

    支付宝(Alipay)と蚂蚁金服(Ant Financial)

    モバイルペイメントのジーフーバオ(支付宝|Alipay)を運営するのはアリババの関連会社であるアントファイナンシャル(蚂蚁金服|Ant Financial)です。アントファイナンシャルは非上場企業としては最大の価値評価(約16.7兆円)をされているユニコーン企業です。

    以前の中国モバイルペイメントの分析でも紹介した通り、アントファイナンシャルは決済を含む三つの主要サービスを展開しています。この三つが合わさって一つのビジネスモデルとなり、モバイルペイメントだけを真似ても意味がないことがわかります。

    アントファイナンシャルの主要サービスは以下の三つ。

    1. 決済機能(QRコード)
    2. マネーリザーブファンド
    3. 金融機能(クレジット)

    決済機能

    Suicaをはじめとした日本の電子マネーは1. 決済機能はありますが、2. マネーリザーブファンドと3. 金融機能がありません。日本の電子マネーの1. 決済機能はQRコードではなくICチップなのでむしろ中国より利便性は高いと言えます。QRコードは導入コストが低いために中国で裾野を広げるには有効でした。また、ライバルのUnionPayがICチップの決済インフラを抑えていたのも大きいと思います。

    インターフェースの違いよりも大きいのが手数料です。Alipayの手数料は0.1%ですが、Suicaの手数料は3%から5%とクレジットカードと同程度です。QRコードにして導入コストを抑えたとしても、運用コストが大きいのが中国と日本の大きな違いと言えます。中国のモバイルペイメントの手数料が低い理由はビジネスモデルが根本的に違うからだと考えられます。その違いは次に説明するマネーリザーブファンドと金融機能です。

    マネーリザーブファンド

    電子マネーはチャージする必要があり、そのチャージしたお金を貯めておく必要があります。日本の電子マネーもまずはチャージしますよね。中国の場合はこのチャージしているお金に銀行より高い利息(銀行は0.35%、余额宝は3.6%)がつきます。これが日本の電子マネーにないサービスの一つです。

    この仕組みはマネーリザーブファンドといい、アントファイナンシャルはユエバオ(余额宝)というサービス名で展開しています。マネーリザーブファンドは金融商品の一種で、ユーザーはユエバオに「投資」することによってリターン(金利)を受け取ります。

    また、日本の電子マネーとAlipayの大きな違いの一つがチャージの方法です。Alipayは直接銀行口座からチャージができますが、日本の場合は一部を除いて銀行口座から直接チャージができません。2018年9月現在ではMizuho Suicaくらいなものでしょうか。それ以外ではクレジットカードが必要になります。デビットカードのモバイル化は重要な普及要素の一つです。

    この仕組みを電子マネーのアプリ内(Alipay)で提供しているところがアントファイナンシャルの強みの一つです。Mizuho Suicaのやり方だと銀行によってそれぞれ別のSuicaが必要になります。

    金融機能

    金融機関は顧客から預かったお金(マネーリザーブファンド)を運用して利益を出します。別の金融商品に投資したり、貸し出して金利をとるなどです。

    Alipayはクレジットカード機能も提供しています。アントファイナンシャルの独自ブランドのため、代理店が支払う手数料はVisaやMastercardなどの国際ブランドと比べて安く抑えられています(国際ブランドの手数料は1%から5%、Alipayは0.1%)。アントファイナンシャルのキャッシングサービスがジエベイ(借呗)でクレジットサービスがフアベイ(花呗)です。これもAlipayのアプリ内で利用できます。

    金融機関の儲けは決済よりも金融機能の方が大きいのが通説です。Alipayの場合も決済手数料は低く抑えられているため、利益の源泉はマネーリザーブファンドの運用とこの金融機能になります。

    この機能も日本の電子マネーにはありません。日本の電子マネーのビジネスモデルは手数料で利益を出すビジネスモデルですが、Alipayのビジネスモデルは金融機能で利益を出すビジネスモデル。QRコードのような表面的なことだけではなく、そもそものビジネスモデルが違います。

    支付宝(Alipay)のサービススコープ

    アントファイナンシャルはアリババの関連会社ですが、アリババのコアビジネスはコマースサイトです。eBayのようなC2Cコマースがタオバオ(淘宝网)、AmazonのようなB2CコマースがTmall(天猫)です。Alipayはこのアリババのコアビジネスであるコマースサイトの決済機能から生まれました。これはSuicaがJR東日本のコアビジネスである電車代の決済機能から生まれたのと同じです。

    アントファイナンシャルとアリババはAlipayをアリババ以外でも普及させるためにエコシステムの形成を図ります。タクシーサービスやシェアバイクに投資するのはこのAlipayのエコシステム形成のためです。

    利用者が増えることで交通機関、公共サービス、その他の店舗などがAlipayの決済サービスを導入するインセンティブが増えます。

    JR東日本のSuicaも自社サービスの決済機能から店舗まで広がりましたが、積極的にスタートアップに投資はしていません。また、コマースサイトなどオンライン/モバイルショッピングでのSuica利用へスコープは広がっていません。オンライン決済に関してはAmazonも日本でAmazonペイの展開を進めているため、この分野に関しては早く手を打った方がいいと思います。

    支付宝(Alipay)とSuicaの違い

    中国のAlipayと日本のSuicaの違いは以下にまとめることができます。

    1. Alipayのビジネスモデルは決済だけでなく金融機能を含み、全ての金融サービスを一つのアプリ内で完結できる。日本のSuicaは決済手数料のビジネスモデルのため、決済以外の機能がない。
    2. Alipayは手数料で利益を出すモデルではないため、手数料が低い。日本のSuicaは手数料で利益を出すモデルなので、手数料が高い。
    3. Alipayの母体のアントファイナンシャルはサービス普及のためにスタートアップに投資しているが、JR東日本をはじめとした電子マネーの母体会社にそのような動きはない。
    4. Alipayはクレジットカードが前提のサービスではない。銀行口座と直接つながることが出来る。日本のSuicaはクレジットカードが前提。銀行口座と直接つながることができない。クレジットカード前提のために手数料が高くなる。
    5. Alipayはオンラインとオフラインを同じサービスで利用できる。日本のSuicaではオンラインサービスの決済はできない。

    こうやってみると、QRコードかICチップかの違いはそれほど大きな要素ではないことが理解できると思います。

    日本で中国を超える電子マネーを普及させるために

    QRコードは一番真似しやすい部分ですが、中国での電子マネー普及の本質ではありません。一部だけ真似しても同じ結果は得られません。それはインターフェースはサービスの視点で考えると一要素でしかないからです。サービスのスコープを俯瞰する必要があります。

    Suicaをはじめとした交通系電子マネーはかなり普及しています。サービスのスコープが中国より狭いので同じ利便性を得られていないだけです。Suicaはエキナカからマチナカまでは広がりましたが、オンラインやモバイルサービスまでは広がっていません。水道、ガス、電気料金を含む公共料金の支払いもSuicaではできません。

    しかし、スコープを広げて利便性を高めれば中国以上の電子マネーを実現するポテンシャルがあると考えます。では、Suicaのスコープを広げるにはどうしたらいいのでしょうか?

    独立金融機関としてのSuicaの可能性

    Alipayは「コマースに付随する決算サービス」でした。アリババはアントファイナンシャルを設立することで、Alipayを「決算サービスに付随する金融サービス」に変革しました。

    現在、Suica事業はJR東日本が行なっています。アリババがアントファイナンスを設立して本業から金融を分離したように、JR東日本も鉄道業と分離した金融機関を設立する必要があります。これは銀行業をやるという意味ではありません。アントファイナンスも銀行業はやっていません。Suicaを「鉄道業に付随する決算サービス」から「決算サービスに付随する金融サービス」へと変革しなければいけません。これによりビジネスモデルの転換ができます。

    Suicaがさらに広く使われるようになるためにはまだまだ多くのことをやらなければいけません。決算以外の金融サービスから利益をえるには独立した母体が必要となります。

    もちろん、JR北海道(Kitaka)、JR東日本(Suica)、JR東海(Toica)、JR西日本(Icoca)、JR四国、JR九州(Sugoca)は独立した企業でJR四国を除きそれぞれ独自の交通カードを発行しています。これらを統合するという考え方もありますが、それには時間がかかります。最大のユーザー数を誇るSuicaがシェアを取り、デファクト化をした方が合理的だと考えられます。そういう意味でJR東日本からSuica事業を独立させるのが一番早い方法ではないでしょうか。

    お金の流通の最適化

    現在のSuicaを利用したお金の流れは以下になります。

    1. 銀行口座
    2. クレジットカードまたは現金
    3. Suica(チャージ)
    4. 店舗で支払い

    アプリの場合、現金でチャージできないため、基本的にはクレジットカードからのチャージになります。この際にサービス提供業者にはクレジット手数料が発生していると考えられます。つまり、コストがかかっています。

    Alipayの流れは以下になります。

    1. 銀行口座
    2. Alipay(チャージ)
    3. 店舗で支払い

    一つステップが少ないのがわかります。これは銀行口座とAlipayが直接つながっているからです。銀行の手数料はかかると思いますが、クレジット手数料はかかりません。コストが安くすみます。

    日本の場合は他の国よりクレジット手数料が高いので、これを削減できる効果は非常に大きいです。

    大きなお金をアプリにチャージするインセンティブの設計

    たびたびチャージするのは面倒ですよね。でも、Suicaにたくさんのお金をチャージしておくメリットは少ない。Alipayはマネーリザーブファンドでこの課題を解決しています。

    Alipayではアプリにチャージしたお金をマネーリザーブファンドのユエバオ(余额宝)に移すことができます。ユエバオは銀行より金利が高いため、ユエバオの口座にお金をためておくのはユーザーのメリットとなります。運用会社のアントファイナンシャルはそのお金を運用して利ざやを稼ぐことができます。

    このようにアプリ内で資金を運用できるようになれば、アプリに大きなお金を預けるメリットが出てきます。

    クレジット機能を持たせる

    現金でなく、クレジットカードを利用して買い物をする人は多いと思います。Suicaにはクレジットカード機能はありませんが、Alipayにはクレジットカード機能あります。フアベイ(花呗)がクレジットで、ジエベイ(借呗)がキャッシングです。

    このクレジット機能はVisaやMastercardなど大手ブランドではなく、アントファイナンシャル独自ブランドのため、中間業者のマージンが必要ありません。

    クレジットカードには三つの業務があります。1) ブランド 2) イシュアー 3) アクワイアラーです。ブランドはVisa、MastercardやJCBです。日本の場合、イシュアーとアクワイアラーは同じことが多くて、銀行の三井住友カードとかイオンカードとか楽天カードとかです。日本の場合は唯一JCBがこの3つすべて行う総合カード会社となっています。国際ブランドに頼らないAlipayは中国のJCBみたいなものです。SuicaもJCBに続く第二の総合カード会社になればいいのです。JR東日本が事業母体だとこれはできません。

    モバイルペイメントを実現する

    Suicaはオフラインのペイメントには強いのですが、オンラインペイメントには対応していません。たとえば、コマースサイトで買い物をしてもSuicaで支払いできません。Alipayならできます。その他にも映画のチケットなどオンラインで買えるサービスはたくさんあります。

    考えられるユースケースとして、スマホのSuicaアプリで映画のチケットを買って、Suicaアプリにチケット情報がそのまま保存され、Suicaアプリで映画館に入場できるなどです。レストランの予約も可能ですよね。ペイメントと連携しているからドタキャンも少ないでしょう。これらすべて中国では実現されています。カギはQRコードではなく、オンラインとオフラインのシームレスな連携であり、中間業者の排除です。