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  • 書評|「頭で考えたらモノが動く」はすぐそこにある現実|”The NeuroGeneration” by Tan Le

    書評|「頭で考えたらモノが動く」はすぐそこにある現実|”The NeuroGeneration” by Tan Le

     映画『アベンジャーズ』でロバート・ダウニー・ジュニア扮するトニー・スタークが浮かんでいる画面を手でササっと操作したり、やはり映画『ドクター・ストレンジ』でベネディクト・カンバーバッチが光の魔法陣をバッと手から出して防御したりカッコいいですよね!やってみたいですよね!残念ながら光ってフォトンが何かにぶつからないと出ないから、宙に浮かぶディスプレイや光の魔法陣は今の技術ではできそうにありません。残念!

    しかし、映画『X-MEN』のメインキャラクターの一人で史上最強のテレパスであるプロフェッサーXが使うセレブロのような脳の拡張装置はできてしまうかもしれません。ちなみに、セレブロはスペイン語で「脳」という意味です。

    今回紹介する書籍”The NeuroGeneration”では小型の脳波測定装置を開発するスタートアップEmotivの共同創業者であるタン・リーが様々な最新技術を紹介してくれています。

    タン・リーはまず最初にわかりやすい事例を紹介してくれています。両手、両足が麻痺して動かない四肢麻痺の男性が脳波でF1カーを運転できるようになった事例です。四肢欠損の乙武洋匡さんでも車が運転できるようになる可能性があるということです。論より証拠でYouTubeのビデオを見てもらった方が早いでしょう。

    この本では脳科学を応用した技術的進歩を「ニューロジェネレーション」として7つのケースを紹介しています。全てをここで紹介することはできませんが、面白いと思った一部を紹介します。

    まずは、ブレイン・コンピューター・インターフェイス。F1カーを運転するとか、まさにそうですね。コンピューターのインターフェースは文字のキャラクター・ユーザー・インターフェイス(CUI)から、マウスで操作するグラフィック・ユーザー・インターフェイス(GUI)に。そして、スマホでタッチ・インターフェイスに進化してきました。いま期待されているのはボイス・インターフェイスですが理想とされるのはインターフェイスがない「ノー・インターフェイス」です。おそらく、ノー・インターフェイスに一番近いのがブレイン・コンピューター・インターフェイスです。イーロン・マスクのニューラルリンクも同じコンセプトです。ニューラルリンクの場合は手術で脳に埋め込まないといけないので、ちょっと嫌ですけどね。できれば、プロフェッサーXセレブロのような脳波を使ったウェアラブルでお願いしたい。

    考えていることをコンピューターが理解できるって便利でもありますが、怖いことでもあります。この本でも紹介されていますが、脳波を使った事例としてキャンペーンの多変量テストがあります。タバコのキャンペーンでABCの3種類をテストしました。アンケートではAが一番いいスコアでしたが、脳波が一番反応を示したのはキャンペーンBでした。そして、実際のキャンペーン結果はBが一番良く、Aが一番悪かったそうです。グーグルとかフェイスブックなんて真っ先に飛びつきそうじゃないですか?VRゴーグルのオキュラスとかすごく相性良さそうだけど、自分の脳波がフェイスブックにだだ漏れとかちょっとヤダなあとか。

    また、インプランタブル・デバイスとかも面白そうです。たびたび例に出して恐縮なのですが、四肢欠損の乙武洋匡さんが義手や義足を(自分の手足と同じように)頭で考えて動かせればって思いません?この本で紹介されているアメリカのマーク・ポロックさんは四肢麻痺な上に盲目です。マーク・ポロックさんが使っているのはエクソ・バイオニックという可動式の補助器具です。『エイリアン2』でシガニー・ウィーバーが使ったパワースーツに近いですかね。

    肉体と機械の融合体をサイボーグと言います。例えば『攻殻機動隊』の草薙素子は脳と脊髄の一部を除く全身が人工物なのでサイボーグです。映画『ロボコップ』のロボコップもサイボーグです。脳が人間なので。ちなみに、脳も含めて全てが人工物の場合はアンドロイドやロボットです。わかりやすい例が『ターミネーター』でアーノルド・シュワルツネッガー演じるT-800です。あれはアンドロイド。アンドロイドやロボットの脳は人工知能(AI)ですね。映画『ブレードランナー』に登場するレプリカントはおそらくアンドロイドです。なぜなら原作のタイトルが『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』だからです。

    ブレイン・コンピューター・インターフェースやインプランタブル・デバイスのおかげで、サイボーグはだいぶ現実味が増してきています。そのため、サイボーグ・アーティストのニール・ハービソンとニール・リバスが共同でサイボーグ促進を目的としたサイボーグ基金(サイボーグ・ファウンデーション)を設立したりしています。

    人間の脳を活かしたサイボーグが可能なのであれば、人工知能を活かしたアンドロイドだって可能なんじゃないか?って考えちゃいますよね。タン・リーは人工知能は人間の脳と補完関係になると考えているようです。例えば、人間の脳をサイバースペースにアップロードしたり、さらにアンドロイドの人工知能にそれを埋め込んだり。アニメ『楽園追放』がそれに近い世界ですよね。実態のない電脳パーソナリティが器となる生身の体(マテリアルボディ)にダウンロードして動けるようになる。『エヴァンゲリオン』の綾波レイも同じ仕組みだと推測します。

    もちろん、このような世界はまだまだ先の話。人工知能(AI)がシンギュラリティまで到達した上で、意識とは何か解明する必要があります。

    そのほかにもかなり近いであろう分野もたくさん紹介されています。身体的ドーピングだけでなく、意識のドーピングとか。身体拡張だけでなく、脳拡張です。勉強ができるようになるスマートサプリとかです。

    ケトジェニック・ダイエットKeton-esterなどは元々DARPAと民間のHVMNが開発して民生利用されたニューロ医薬といえるサプリです。ニューロ医薬は薬だけでなく、Mindstrongのようなアプリも含まれるコンセプトでFDAの承認が必要になります。

    この本はどんな人にオススメか

    脳科学や将来のインターフェイスに興味がある人にはオススメです。ボク自身もここまで脳のインターフェイスが進んでいるとは知りませんでした。普通の人が身体拡張や脳拡張に使うのもそれほど遠い将来ではないと思いました。人工知能(AI)の研究も脳科学とのシナジーは大きそうです。

    これは本書でも軽く触れられていますが、脳科学の応用が進むにつれて、規制やモラルの問題も大きくなっていくことが予想されます。プライバシーの問題が脳波にまで及ぶのですから。そして、格差問題もより大きくなることが予想されます。だって、脳の拡張ができるような資産を持っている人は、より高度な仕事ができるようになるわけですよ。しかも、それはそれほど遠い将来ではないかもしれない。

  • 書評|OMOの生みの親が至るAIと愛の境地|”AI Superpowers” by Kai-Fu Lee

    書評|OMOの生みの親が至るAIと愛の境地|”AI Superpowers” by Kai-Fu Lee

    頭のいい人はフレームワークで考えて整理整頓するのが非常に上手です。今回紹介する”AI Superpowers”の著者であるカイ=フー・リーもその例に漏れず、AIを中国とシリコンバレーで比較するという入り組んだ題材をうまく整理しています。OMOというキーワードが日本でも話題になりつつありますが、その考え方の生みの親です。

    また、自身のガン闘病生活を通じて「何が大切なのか」を改めて学んだ視線は無味乾燥なロジカルだけの分析とは一線を画するものです。今のところ2018年に読んだ本の中ではベストですね。

    AI Superpowers: China, Silicon Valley, and the New World Order

    AI Superpowers: China, Silicon Valley, and the New World Order

     

    この本は大きく分けて二つに分けることができます。前半はAIに必要な要素を一つづつ検証し、中国がいかにシリコンバレーに対して競争力があるかを分析しています。

    AIの発展に必要な4つの要素

    まず、大前提として、AIはすでにブレイクスルーはある程度出尽くして、いかに実行していくかという段階に入っているとしています。カイ=フー・リーの見立てでは次のブレイクスルーが起きるまで数十年かかるそうです。ブレイクスルーが必要な段階では基礎研究が強い欧米が強いが、既存のアイデアを実行に移す場合は中国に利があると分析しています。

    そして、実行の段階において、カイ=フー・リーはAIの発展には以下の四つの要素が必要だと説きます。

    • 起業家
    • データ
    • エンジニアリング
    • 政府のサポート

    中国の起業家

    まずは起業家。カタパルトスープレックス でも中国のスタートアップをたくさん紹介してきました。この本でもトウティアオ(头条)シャオミー(小米)メイトゥアン(美团)がどのように模倣からオリジナルにたどり着き、激しい競争を勝ち抜いてきたかを描いています。シリコンバレーがテクノユートピアンで理想主義だとしたら、中国はテクノユータリタリアンで実利主義だとします。

    理想主義はオリジナルのアイデアを大切にして、模倣は悪とします。これがシリコンバレー流。実利主義は競争に勝つことが大切で、模倣をよしとします。トウティアオもメイトゥアンも多くの模倣者を蹴散らして今の地位があるわけですものね。

    データは中国が有利

    アリババやテンセントの例を見てもわかるように、中国ではデータが急速に蓄積され、AIに絶えず供給されています。アメリカのプラットフォーマーはGAFA、中国のプラットフォーマーはBATと呼ばれています。

    カイ=フー・リーはグーグル、アマゾン、フェイスブック、(アップルではなく)マイクロソフトにアリバババイドゥテンセントの7社をAIの7人の巨人と呼んでいます。この巨人たちが発電所と送電線のようなグリッドアプローチだとしたら、スタートアップは乾電池のようなバッテリーアプローチだとしています。

    発電所と乾電池のどちらのアプローチが最終的に勝利するのかはわかりません。大量のデータでより一般的なAIを実現するのか、よりニッチなデータである分野に特化したAIを実現するのか。どちらのアプローチも正しい可能性があります。

    この辺くらいまではカタパルトスープレックス の中国系の記事を読んでいる人にとってはあまり新しい発見はないかもしれません。しかし、カイ=フー・リーの真骨頂はここからです。

    OMOとAIの4段階の進化

    日本でもOMO(Online Merge Offline)が話題になっていますが、このコンセプトはカイ=フー・リーが打ち出したものです。これまでのO2O(Online to Offline)と比べ、デジタルとリアルの境界線はOMOでは非常に曖昧になります。

    OMOを理解するためにはAIの4段階の進化を理解する必要があります。

    • インターネットAI
    • ビジネスAI
    • パーセプションAI
    • オートノマスAI

    インターネットAIとはGoogleの検索語のサジェスチョンやAmazonのレコメンデーションを指します。インターネット企業の源泉ですね。トウティアオのAI記者やフェイクニュースの検知もこの分類に含まれます。

    ビジネスAIとはAIの分析を実際のビジネスに結びつけることを指します。例えば、保険のリスク評価や銀行の貸し出しのための与信などです。AlipayやWeChat Payによる信用経済はどはここに当てはまります。

    ここまでがO2Oの世界です。

    パーセプションAIからOMOの実現が可能になります。パーセプションとは認知ですね。視覚や聴覚、味覚などです。センサー技術で取得した画像や音声などのデータをAIが高度に理解することによりパーセプションAIが実現されます。

    Amazon Goはそのいい例ですね。Amazon Goなどのレジなし店舗はこれまでのRFIDでのモノの管理ではなく、カメラによる画像データをAIで解析することにより、モノだけでなくヒトも認識します。リアルの世界をセンサーによって視覚や聴覚を持ったAIが理解することによってOMOが実現されます。

    オートノマスAIは自律化するAIです。代表例は自動運転のクルマですね。この自律化はクルマだけにとどまりません。例えば工場。工場はかなり高度に「自動化」されていますが「自律化」はされていません。現在はAIが需要を予測して自律的に生産計画を変更してラインを組み立てたりはできていません。

    また、いちごが熟して収穫に最適かどうかを判断は人の目で判断する必要がありますが、これをセンサーで感知して自律的にいちごを収穫するTrapticのようなスタートアップも出はじめています。

    人とAIの共存

    前半のロジカルなカイ=フー・リーも素晴らしいのですが、ボクは後半の人間らしい部分に特に引き込まれました。前半は中国とシリコンバレーを比べて中国の優位性を熱心に説いています。そのロジックは理解できるものの、勝ち負けで分けるようなものでもないだろうと思ってしまう部分もあります。しかし、後半は中国とかシリコンバレーとかではなく、世界のどこの国も果たすことのできる役割があると。え?本当に前半と後半は別人間が書いてる?というくらい。

    前半は台湾で生まれ、アメリカで育ち、アップル、マイクロソフト、グーグルとアメリカ企業の出世競争を勝ち抜いてきたアジア人特有のアグレッシブさが前半ににじみ出ています。アメリカ企業がいかにアジア市場を理解しようとせず、アメリカ流こそグローバル流として押し付けてきたことに反感を覚える気持ちも、同じ環境にいたものとして理解できます。

    しかし、ガンと診断され余命僅かと宣告されてから彼の物事の見方が大きく変わります。カイ=フー・リーはいわゆる「仕事人間」でした。長男誕生の時も当時のアップルCEOとのジョン・スカリーへのプレゼンが気になって仕方なかった。付き合う人間も「自分にとっての価値」を考えて選別していました。仕事の効率こそが善。機械のような考え方をしていたそうです。

    後半は前半とかなりトーンが変わります。アグレッシブで競争が大好きな面は薄れ、人間として何が大切なのか、そのためにどうやったらAIと共存できるのかを様々な側面から検討します。もちろん、現時点で答えはありません。しかし、AIと人間の違いは「愛すること、愛されること」の喜びだという慧眼はガン闘病生活を経て得るに至った境地ですよね。

  • Amazon Goに代表されるレジなし店舗の現状|2018年リテールテック

    Amazon Goに代表されるレジなし店舗の現状|2018年リテールテック

    Amazonがレジに並ばずに自動的に支払いを完了できるAmazon Goのベータを社内にオープンしたのは2016年12月でした。そして、一般顧客を対象とした一般公開を2018年1月におこないました。2018年はレジなし店舗元年となりました。

    レジなし店舗の特徴

    チェックインとチェックアウト

    非常にざっくりと言ってしまえば、レジなし店舗の特徴は支払いの時にレジで並ばなくて済むことです。その代わり、入る時に駅の改札のようなゲートでチェックインする必要があります。レジでの支払い(チェックアウト)の方が時間がかかるので、チェックインが少し手間でも全体的には効率的になっています。

    • レジがない(自動チェックアウト)
    • 入り口でアプリを使ってチェックイン

    チェックインをするのは入店する個人を認識するためです。チェックインすることで個人の買い物カゴが開かれます。棚からとった商品が買い物カゴに移動します。家族で買い物をする場合、一人のアカウントでチェックインすることもできます。その場合、複数の人がチェックインした人の買い物カゴを開いている状態になっています。

    子供もチェックインしなければいけないので、小さな子供の場合は少し面倒かもしれませんね。

    商品ラインアップ

    スーパーマーケットで扱う商品は大きく分けて「ウェット」と「ドライ」があります。「ウェット」は生鮮食料品です。野菜、肉や魚ですね。「ドライ」はグローサリーのようなパッケージ商品です。日本やアジアのスーパーマーケットはウェットの取り扱いが多いという特徴があります。

    レジなし店舗ではグローサリーのようなパッケージ商品が対象になります。生鮮食料品は取り扱っていません。生鮮食料品の場合は量り売りだったりするので、センサーでのトラッキングが難しいのかもしれません。生鮮食料品を家庭で調理をするような人たちはパッケージ商品を消費する人たちよりも効率性を求めていないのかもしれません。

    いずれにせよ、チェックインした人が手に取った商品は買い物カゴに入ります。人と商品を結びつけるわけですね。気が変わって商品を棚に戻せば買い物カゴからもなくなります。

    買い物の不便なルール

    レジなし店舗は新しい技術なので、技術やUXがまだ成熟していない部分があります。そのため、レジなし店舗にはレジあり店舗にはないルールがあります。

    まず、店舗の中では買い物カゴの中身を見ることができません。どの商品が買い物カゴに入っているか確認することができないんです。これは不便というより不安ですよね。

    次に店舗内ではチェックインした人同士で商品の受け渡しができません。例えば、AさんがBさんに「あの商品を取ってきて」とお願いしたとします。商品を手に取ったのがBさんなので、この時点でその商品はBさんの買い物カゴに入っています。商品自体はAさんに渡すことはできますが、Bさんの買い物カゴに入っているので、Bさんに課金されます。

    家族や友達と一緒に行く場合はAmazon Goのアプリを持っている人が持ってない人をチェックインすることができます。例えばお父さんとお母さんと子供が買い物に行くとします。お父さんとお母さんはアプリを持っていますが、子供はアプリを持っていません。そこで、お父さんかお母さんのアプリで子供をチェックインして店舗に入れるのです。これはこれで面倒ですよね。

    2018年10月現在ではこんな感じなのですが、これは徐々に改善されるだろうと予想します。

    利用されている技術

    Amazon Goを含め、多くのレジなし店舗で使われている技術の詳細は公開されていません。センサーとカメラで情報収集をして、センサーフュージョンで統合されます。データ分析にはAIが利用され、裏では人間がAIを学習させています。

    現時点での注力は実際に店舗から持ち出された商品がチェックインした人に正しく紐付けされているかでしょう。それがある程度できるようになったら現時点では技術的に実現できていないUXの問題を解決していくと予想します。

    レジなし店舗のプレーヤー

    Amazon Goは間違いなく先頭を走っていますが、まだまだ新しい取り組みです。追いつけると考えるスタートアップも投資家もたくさん現れています。Amazon Goを含めて全てのレジなし店舗の取り組みに言えることですが、技術やUXはまだ成熟していないので、現時点でどれが有力だと言い切ることはできないと思います。

    BingoBox

    中国のBingoBox(缤果盒子|ビングオフーズ)はすでに300店舗を運営しています。Amazon Goとは若干違う技術構成でRFID(無線タグ)を利用しています。チェックアウトも自動ではなく、キオスクで行われます。技術的にはユニクロやGUと同じです。

    これはBingoBoxの起業が2016年で、Amazon Goの発表前だったことが起因しています。Amazon Goの登場以前はRFIDがバーコードに置き換わる商品トラッキングと見られていましたが、コストが高いことがネックとなっていました。

    クレジットカードではなくAlipayとWeChatをサポートしているところが中国ならではですね。AlipayとWeChatの特性を活かして、ミニプログラムになっています。

    現在ではRFIDよりもカメラによる画像解析が有望だと考えられていて、BingoBoxも画像解析を含めたセンサーフュージョンに力を入れ、Fan AI(小范|シャオファン)を開発しました。

    Standard Cognition

    日本でも事業展開を発表したStandard CognitionはAmazon Goの競合の中ではビジネス的に先行していると言えます。2017年に創業ですが、無人店舗の研究自体は2016年から行っていたそうです。1000万ドルの資金調達をしています。

    基本的な技術構成はAmazon Goと同じでカメラとセンサーで収集したセンサーフュージョンのデータをAIで分析します。違いはStandard Cognitionはセンサーの設置場所がAmazon Goより少ないことだそうです。Amazon Goでは棚に重量センサーなどが付いていますが、Standard Cognitionは天井だけなので複雑さを解消しているそうです。

    Standard Cognitionは独自店舗のStandard Marketをサンフランシスコでオープンしています。これはAmazon Goのシアトル店舗よりも若干大きい店舗のようです。下のイメージビデオでは店員が商品とり顧客に渡していますが、店舗内での人から人への商品引き渡しの問題をStandard Cognitionは解決しているのでしょうか?

    Zippin

    Zippinもサンフランシスコでレジなしの実店舗を運営しています。元々は商品と追跡システムを2014年から開発していたようですが、その経験を活かしてレジなし店舗のマーケットに2018年に参入しました。

    基本的な技術構成はAmazon Goと同じでカメラとセンサーで収集したセンサーフュージョンのデータをAIで分析します。棚の重量センサーにより重きを置いているようで、アパレルなど重量の軽い商品には向いていないようです。

    Inokyo

    Standard Cognitionと同様のY Combinator卒業生であるInokyoもサンフランシスコでレジなしの実店舗を運営しています。Inokyoの場合は画像解析により重きを置いているようで、棚にもカメラがついています。

    InokyoはUXに力を入れていて、技術的な問題ではなくUXの問題を解決するためにあえてチェックアウトゲートを設けて明示的にユーザーがチェックアウトできるようにしています。

     

    参考文献

    Examining the User Experience of Amazon Go Shopping — Just Walk Out

  • 蘇りつつあるシャオミー(小米)から学ぶ「モノづくり」から「コトづくり」への変革

    蘇りつつあるシャオミー(小米)から学ぶ「モノづくり」から「コトづくり」への変革

    日本は製造業が強く、「モノづくり」が得意でした。これが過去形になってしまうのはアメリカ(アップルなど)や台湾(シャープを買収したホンハイなど)、韓国(サムソンなど)が日本の製造業を追い越してしまったからです。おそらく作るモノの品質自体はまだまだ追い越されていないのかもしれません。しかし、消費者が求めるものは「品質」から「体験」に変化してしまいました。これが「モノづくり」から体験という「コトづくり」へ変革しなければいけない理由です。

    シャオミー(小米) *1 はスマホのメーカーとして有名ですが、今はその枠にとらわれません。中国で三番目に大きな流通小売ですし、スマートホームやモビリティーでも存在感を示しています。つい最近まで凋落した企業とされていたのにです。今回はシャオミーがどのように「モノづくり」から「コトづくり」に変革したのかを見ていきましょう。ちなみに、今回はスタートアップよりも既存の日本企業に参考になる話かと思います。シャオミーを一般的なスタートアップと捉えると見誤ります。

    スタートアップというには恵まれたスタート

    シャオミーをスタートアップとするのは少し躊躇してしまいます。シャオミーの創業者のレイ・ジュン(雷军)は元々はキングソフトの社長です。そして、キングソフトの経営を退いてからエンジェル投資家として二十以上の企業に投資しています。

    2010年に元Google、MicrosoftやMotorolaのディレクタークラスの人たちとシャオミーを立ち上げます。最初から5億円の資金。ね、スタートアップというには豊富すぎる資金力と経験値でしょ?PayPalで成功してすでに大金持ちだったイーロン・マスクが立ち上げたスペースXやテスラと同じクラスですね。日本だと堀江貴文さんのロケット事業が近いでしょうかね。お金持ちにしかできないスタートアップってやっぱりあるんです。それでも成功したらすごい。スタートアップに貴賎なし。

    資金力も経験もあまりない若いスタートアップは一つのプロダクトに集中しますが、シャオミーの場合は豊富な資金力と経験値によって三方面から事業展開を同時に行いました。ソフトウェア、ハードウェア、サービスです。

    ソフトウェア

    シャオミーを有名にしたのはスマホですが、最初に出したのはハードウェアではなくソフトウェア。最初のプロダクトはAndroidのカスタムUIであるMIUI(ミーユーアイ)でした。これはカスタムROMとして組み込むこともできましたし、自分のAndroidのスマホに入れることもできました。ターゲットは既存のAndroidに満足できていないギークなコアユーザー。

    このコアユーザーにアピールするために既存のオンラインフォーラムを使ってMIUIの宣伝を人海戦術で行います。ポール・ブックハイトのディープアピールの法則と同じで熱狂的な100人のユーザーを育てます。このほかにもウェイボ(微博) *2 やウェイシン(微信:英語名WeChat) *3 を使ってユーザーと積極的に直接コンタクトを取り、フィードバックを受けます。

    メーカーが直接ユーザーの意見を聞いて、その意見がプロダクトに反映される。この当たり前のことができるメーカーってあまりないんですね。それを愚直にやったのがシャオミーでした。のちにシャオミーは独自のオンラインフォーラムを立ち上げますが、そのメンバー数は急速に膨れ上がりました。

    ここで育った熱狂的なシャオミーのファンはミーファン(米粉:ビーフンの意味)と呼ばれ、シャオミー成長の原動力となります。

    サービス

    シャオミーが次に出したのがメッセンジャーアプリである米聊(ミーリャオ)でした。シャオミーに関する書籍を何冊か読んだのですが、シャオミーの成長はこのサービスが支えることになっていました。中国で最初に出たチャットアプリとして実際にミーリャオはそこそこ人気が出ましたが、後発のWeChat(微信)に追い越されてしまいます。結果的に2016年からアップデートされずに仮死状態です。

    また、レイ・ジュンがエンジェル投資家として投資してきたスタートアップを雷军派と呼ぶのだそうですが、これがサービスのエコシステムを形成するはずだというのがシャオミーの書籍で喧伝されていることでした。中国ではGoogleのアプリストアであるGoogle Playがありません。そのために百度手机(検索サイトのバイドゥが運営)や应用宝(チャットアプリの微信の腾讯が運営)など様々なアプリストアがあります。シャオミーも独自のアプリストア小米应用商店を運営しています。

    ハードウェア

    シャオミーが満を持して最後に出したのがハードウェアであるスマホの『小米1』でした。創業から1年目ですね。クドイようですが一般的な若いスタートアップなら一年でスマホは出せないですよ。テスラのように電気自動車も出せないですけどね!

    小米1(クレジット:百度百科)

    シャオミーはオンラインの直販モデルに注力しました。当時はシンガポールに住んでいたので、友人たちも話題にしていました。最新のスマホと遜色ないのに安い。もちろん、各社のフラッグシップモデルと比べれば若干スペックは落ちますよ。でも、値段を考えればお買い得。そして、フラッシュセールという限定発売の手法を取っていたので、レア感がありました。インドで人気があったので、インド人の友人からフラッシュセールのタイミングを教えてもらって実際に買おうとしましたが、すぐに売り切れてしまうので買えませんでした。

    そして、2013年には中国ではスマホのシェア1位、世界でもアップルとサムソンに次ぐ3位まで登り詰めます。海外進出も加速させ、スマートTVなど他のハードウェアにも手を広げます。

    事業不振:飽きられた「モノづくり」

    好調なスタートを切ったシャオミーですが、2015年からあまりビジネスがうまく回らなくなってきます。レイ・ジュンはサプライチェーンの問題とオンラインチャネルへの過度な依存としていました。多くのメディアの分析は上位機種ではアップルとサムソン、下位機種ではファーウェイやOPPOとの競争の激化と説明することが多かったように思います。実際にファーウェイとOPPOにシェアを抜かれてしまいます

    いろいろと原因は考えられますが、根本的な原因は当時のシャオミーのプロダクトに十分な魅力がなかった。これに尽きるのではないでしょうか。求められる価格帯にそれなりのクオリティーのプロダクト。それをフラッシュセールというグロースハックの手法で売っていた。単にそれが飽きられてしまった。シャオミーの考えていたソフトウェア、サービス、ハードウェアによる三位一体の「コトづくり」は実現できていませんでした。

    ソフトウェアに関してはAndroidがアップグレードする毎にMIUIとの差が縮まってきました。例えば、MIUI 9とAndroid Oneでは評価が逆転します。Android Oneは発展途上国向けにシンプルに設計されたAndroidスマホで、ハードウェア設計から部品の調達までGoogleが行います。日本だとワイモバイルから出ていますね。

    www.youtube.com

    サービスに関してもメッセージングアプリのミーリャオは思ったようには立ち上がりませんでしたし、「雷军派」のエコシステムも形になりませんでした。ソフトウェアとサービスによる「コトづくり」が目指すことのはずだったのですが、結局は安くてそこそこのスペックのスマホというモノづくりに終始してしまったというのが飽きられてしまった原因ではないでしょうか。

    復活の兆し:シャオミーにとっての「コトづくり」とは?

    シャオミーは業績が悪化してからあまりメディアに注目されることがなくなりました。テレビだけでなく、炊飯器などの白物家電にも手を出しました。このような様々な取り組みはメディアには迷走に映りました。ただ、「迷走」は半分は正解で半分は誤解です。試行錯誤をしながら方向性を探していたと言った方が正しいでしょう。

    いまシャオミーは復活を遂げつつありますが、レイ・ジュンはシャオミーの復活のカギとして二つ挙げています一つはシャオミーシーチャン(小米市场:販売網)、もう一つはシャオミーインイェ(小米影业:Netflixのような動画サービス)のようなサービス強化です。これにスタートアップへの投資を通じたIoTエコシステムの強化を合わせた三つがシャオミー復活の原動力と言えるでしょう。

    販売網の強化

    オンラインの販売にこだわっていたのに『小米之家(シャオミーのいえ)』という直販店の展開もはじめました。かなりアップルストアを意識しているのがわかりますが、シャオミーのラインアップは家電まで広がっているので、おしゃれなヨドバシカメラな感じがしますね。

    小米之家の店内(クレジット:小米)

    シャオミーは流通小売の側面があります。そして、その販売力はシャオミーの強さの一つです。オンライン、オフラインを合わせた販売能力では中国国内ではアリババ(阿里巴巴)、ジンドン(京东:JD.com)に続き、シャオミーは第3位につけています。ちなみにアップルは第4位。もともとオンラインは強かったのですが、実店舗を加えて販売力を更に増強しました。

    サービスのリブート

    その動画サービスであるシャオミーインイェの立ち上げの時にレイ・ジュンは中国人らしい熱い口調で「心の中で再出発を誓う、この流れる熱い涙のために!2016年を起業の道を歩むすべての仲間と祝おう、永遠に若く、永遠に熱い涙を。*4」と言っています。サービスでシャオミーを作り直す宣言ですね。

    実際にシャオミーのサービス事業は昨年は三倍に増えて2億ドル近く利益を出し、60%の粗利により営業利益を押し上げています。

    スタートアップのIoTエコシステム

    シャオミーは基本的にはスマホの会社です。しかし、炊飯器や空気清浄機までシャオミーブランドで出しています。これはどうしたコトでしょうか?

    シャオミーは2013年に5年で100のスタートアップに投資する宣言をしました。そして、それらのスタートアップはすでにユニコーンとして10億ドル以上の資産評価を受けている企業(ZMINinebot智米(ジーミー))もあれば、すでにIPOしてエグジットした企業(青米(チンミー)Huami)もあります。シャオミー本体がまだIPOしていないのに!この中で特に有名なのはMi Bandを作っているHuamiとセグウェイを買収したNinebotですかね。そう、セグウェイって今はシャオミーなんですよ!

    セグウェイの血を引き継ぐ電子スクーター(クレジット:Ninebot)

    この他にも電子ウクレレのPoputarとか電気歯ブラシのSoocareなどがあります。これらすべてシャオミーが投資をしている会社です。

    電子ウクレレのPopulele(クレジット:Poputar)

    シャオミーが戦略的に投資しているのは以下の5分野です。シャオミーの強みである「高品質な製品を低価格」で提供できるスタートアップに投資します。

    1. スマホ関連周辺機器(スピーカーやヘッドフォンなど:手机周边的智能设备)
    2. スマートホーム(スマートな炊飯器や空気清浄機など:智能白电)
    3. モビリティ(スクーターなど:个人短途交通产品)
    4. ギーク向けノクールなガジェット(ドローンやVRなど:极客酷玩产品)
    5. ライフスタイル(ウクレレなど:关系到人们生活方式类的产品)

    シャオミーはこれらのスタートアップに投資をして自らの強みである販売網を活かして成長させます。シャオミーが投資するのは株式の50%以下。スタートアップ側に議決権を残します。

    更に製造の分野に関してもシャオミーのエンジニアを派遣して品質面での指導をします。ハードウェアの分野であればシャオミーの投資を受けてエコシステムに参加することが成功の条件と言われるくらいです。

    今後の展開

    シャオミーは2018年7月9日に香港証券取引所でIPOしました。当初の調達額は最大6700億円を予定していましたが、それより2割低い約5200億円で落ち着きました。元々の設定額がAppleなどと比べても高すぎた気がします。これからIoTのエコシステムでどこまで市場の予測を裏切って成長するかが楽しみですね。

    参考文献

    シャオミ(Xiaomi) 世界最速1兆円IT企業の戦略

    小米手机_百度百科

    雷军真的会复活米聊吗?_搜狐科技_搜狐网

    小米影业_百度百科

    深度| 小米联合创始人刘德:小米生态链管理的七大逻辑

    销量大跌36%之后今年成功逆袭,在雷军看来,小米做对了什么?_凤凰科技

    A brief history of Xiaomi – China’s tech success story! – Gizchina.com

    Behind the Fall and Rise of China’s Xiaomi | WIRED

    Who Owns Xiaomi Technology, and What Does It Own? — The Motley Fool

    Tech in Asia – Connecting Asia’s startup ecosystem

    Inside Xiaomi’s plan to dominate the connected world

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    *1:小米に「シャオミ」とふりがなをふるケースを見受けますが、中国語の発音的には間違いです。ご飯は「米饭(ミーファン)」ですがミファンとは言いません。ミファンってなんやねん?また、青米(チンミー)というシャオミー関連企業がありますが、チンミと発音しません。そりゃ珍味。チンミーですね。

    *2:中国のTwitter

    *3:中国のLINE

    *4:中国語では「在我心中,重新出发,还是为了那些热泪盈眶!2016,祝福所有在创业路上的小伙伴们,永远年轻,永远热泪盈眶!」です。

  • Oculusから学ぶハードウェアスタートアップのはじめ方

    Oculusから学ぶハードウェアスタートアップのはじめ方

    20世紀のスタートアップ(AmazonやGoogle)と21世紀のスタートアップ(UberやAirbnb)にはいくつか違いがあります。

    1. ドットコムバブルやリーマンショック以降の成熟(リーンスタートアップやグロースハックなどの方法論の確立)
    2. サービスのスタートアップの誕生(Airbnb、UberやWeWorkなど)
    3. ハードウェアのスタートアップの本格化(ドローンのDJIやウェアラブルのFitbitなど)

    すでにソフトウェアとサービスの事例は見たので、今回はハードウェアのスタートアップです。Oculusはなんと最初の資金調達から一年未満でエグジット *1 しています。Instagramもかなり早いエグジットですが、Oculusはアメリカでは三番目に早いエグジットなので尋常ではありません。まあ、エグジットというのは企業としてはスタート地点でもあるのですけどね。今回はOculusの歴史を見ながら彼らがどのようにハードウェアスタートアップを立ち上げたか見ていきましょう。

    バーチャルリアリティーとOculusの歴史

    バーチャルリアリティーの商用ヘッドセットを最初に作ったのはジャロン・ラニアーとトーマス・ジマーマンが1985年に創業したVPL ResearchのPower GloveとNASAのヘッドセット(HMD:Head Mount Display)を組み合わせたものです。ちなみにジャロン・ラニアーは「VRの父」と言われています。

    この最初の商用VR製品が発売されてから30年もたって、多くのヘッドセットが世に出ていました。更に自作のヘッドセットを作るオンラインコミュニティー(stereo3d.comMTBS)もあり、Oculus共同創業者の一人のラッキー・パーマーもそのメンバーの一人でした。2009年頃、16歳には壊れたiPhoneを集め、それを直して売ってました。この売り上げで3Dのヘッドセットを買い集め、分解して研究しました。つまり、最初は自己資金でははじめました。また、学生としてUSCのMixed Reality Labに在籍していました。『遊戯王』が好きなコスプレオタクでもありました。

    自作文化とオンラインコミュニティー

    彼の自作のヘッドセットに関してもMTBSコミュニティーに投稿しています。そして、最初のプロトタイプが下の写真。同時にラッキー・パーマーは3D表示用のUnity3Dプラグインも開発していました。ハードウェアとソフトウェア両方の素養があったんですね。

    Oculus共同創業者ラッキー・パーマーのVRヘッドセット試作一号機(クレジット:Palmertech)

    偶然の出会いから爆発的な注目を浴びる

    そして、MTBSのコミュニティーで出会うのが大ヒットゲーム『DOOM』や『QUAKE』の作者でゲーム界のレジェンドとも言えるジョン・カーマックでした。ラッキー・パーマーが自主制作したヘッドセットに興味を持ち、一つ送ってもらうように頼みます。そして送られてきたのが六番目のプロトタイプであるPR6でした。そしてこれをOculus Riftと名付けました。

    送られてきたプロトタイプを元にジョン・カーマックは『DOOM3』の3D版を作成して国際的なゲームカンファレンスのE3でデモをします。これが2012年6月の出来事。そしてE3の会場でOculus Riftのデモを見ていたのがラッキー・パーマーとともにOculus VRを立ち上げるブレンダン・イリーベ、マイケル・アントノフとネイト・ミッシェルです。すごい偶然というか、運命ですよね。

    ちなみに、ジョン・カーマックは一年後にOculusにCTOとして参加しますが、この時はまだ会社自体が存在していません。当時のインタビューがYouTubeにも残っています。

    起業とクラウドファンディング

    E3の熱狂の冷めやらぬうち、ラッキー・パーマーはカレッジを中退して2012年7月にOculusを起業します。E3から数週間です。そしてKickstarterでクラウドファンディングの準備に取り掛かります。このクラウドファンディングの目的はゲームデベロッパーやゲームスタジオなどに実際に使ってもらうための開発車向けキット(DK1)の開発でした。

    数週間の準備期間を経て2012年8月にクラウドファンディングのキャンペーンを開始します。E3から二ヶ月ですね。すごいスピード感。キャンペーンのゴールは25万ドル(約2500万円)でした。そして、最終的には243万ドル(約2億4300万円)を9522人から調達します。このキャンペーンの終わりには従業員は10人に増えていました。

    DK1(クレジット:Oculus)

    この後、Oculusは開発者向けキットを二つ出荷(DK1とDK2)、ベンチャーキャピタルから資金調達を経て2014年に30億ドル(約3000億円!)でFacebookに買収され、めでたくエグジットとなりました。ただ、ラッキー・パーマーはFacebookから追い出されてしまうんですけどね。Facebookはこれから投資を回収しないといけないので大変です。

    ハードウェアスタートアップの三つの基盤

    以前はハードウェアはもっと成熟した企業がやるものとされ、スタートアップはインターネット関連のソフトウェアやサービスに限られていました。しかし、Oculusは最初はラッキー・パーマーの個人的なプロジェクトでした。個人的なプロジェクトをここまで大きくできた要因はな三つあります。

    1. 知識:個人で学べる情報サイトとコミュニティー
    2. 制作:個人でもプロトタイプが作れるようになった
    3. 資金:クラウドファンディング

    情報:個人で学べる情報サイトとコミュニティー

    ラッキー・パーマーはVRのオンラインコミュニティーに参加して、そこから様々なフィードバックやアドバイスを受けていました。専門家が集まるオンラインコミュニティーはラッキー・パーマーのようにすでに知識がある人にとってはとてもいい場所です。オンラインだけでなく、ハッカースペースと呼ばれるオフラインのコミュニティーもたくさんあります。東京だとTokyo Hackerspaceが有名ですね。

    これから知識を得たい人もインターネットに様々な情報があります。ハードウェアの場合だとAppropediaというハードウェアのWikipediaが有名です。また、動画や画像を使って説明してくれるInstructablesのようなものもあります。YouTubeでも「#作ってみた」動画は人気がありますよね。

    制作:個人でもプロトタイプが作れるようになった

    シンガポールやオランダのハードウェアスタートアップの友人のオフィスには必ず3Dプリンターがありました。当然ながら様々な部品とハンダゴテも。ハードウェアスタートアップにとってプロトタイプとは自分で作るものです。量産は工場でやってもらうにしても、自分で作れないものを他人が作れるはずがありません。深センに行っても無理です。Hotaxに作ってもらったGoProのような例外はありますが。日本の家電スタートアップのUPQCerevoみたいなしっかりした技術集団がついているからできる。

    昔だと秋葉原にたくさん部品やがありましたが、今だとオンラインで調達するのが簡単です。代表的なのがMouserDigikeyですね。両方とも日本語のサイトがあるってのが素晴らしい。Alibabaとかだとある程度の量を発注しないといけませんが、この二つのサイトなら一個から発注できます。ハードウェア側でのプログラミングもラズパイやArduinoのおかげで随分と楽になりました。

    筐体作成に関しても3DプリンターやCNC加工機などありますし、モデリングも熱溶融樹脂法や光造形法で比較的簡単に作れるようになっています。CADデータさえあれば個人でもデジタルモデリングができます。個人で3Dプリンターを所有する必要はありません。ハッカースペースに行けばありますし。

    資金:クラウドファンディング

    プロトタイプは自己資金で自作する必要がありますが、量産にはそれなりの資金が必要です。そして、最近ではOculusのように最初の開発者向けプレビューはクラウドファンディングで調達することができます。スマートウォッチのPebbleもクラウドファンディングでしたよね。

    ただし、ハードウェアスタートアップは立ち上げるのこそ昔より簡単になりましたが、続けることは相変わらず難しいものがあります。ソフトウェアと違い、在庫を持つ必要がありますし、アップデートも頻繁にできません。品質管理も重要です。それは失敗した数多のクラウドファンディングのハードウェアプロジェクトでもわかりますし、成功したPebbleやJawboneも企業としては生き残ることができませんでした。Oculusもまだ商業的には成功してないですしね。

    ハードウェアスタートアップの未来

    ソフトウェアスタートアップも最初から成功の方程式があったわけではありません。ドットコムバブルでたくさん潰れましたし、リーマンショックでもたくさん潰れました。多くの失敗と積み上がった残骸からリーンスタートアップやグロースハックのような手法が生まれたのです。

    ハードウェアスタートアップはまだ確立されていないこれからの分野だと言えます。少なくとも立ち上げやすくなはなった。これから継続して成長する手法を確立していくことになります。カタパルトスープレックスとしてはハードウェアスタートアップの未来には非常に楽観的です。

    参考文献

    Oculus Rift History – How it All Started – Rift Info

    A brief history of VR and the Oculus Rift | TALES FROM THE RIFT

    A Brief History of Oculus, from Day Zero to Day One

    #AltDevBlog » Latency Mitigation Strategies

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    *1:投資家と創業者が投資を回収すること

  • シリコンバレーから見たクルマの自動運転

    シリコンバレーから見たクルマの自動運転

    ソース:a16z Podcast: Self-Driving Cars — Where Are We, Really? by a16z

    ざっくり言うと

    • a16z Summitsの自動運転のセッションサマリー。モデレーター:Frank Chen(a16z)、パネル:Qasar Younis, CEO of Applied Intuition、James Wu, CEO and co-founder of DeepMap、Taggart Matthiesen, head of product at Lyft
    • 自動運転のクルマはいつ実現する?
    • 何が実現を遅らせる?
    • 利便性と安全以外にクルマの自動運転のメリットは?何が変わる?

    自動運転のクルマはいつ実現する?

    • 2、3年という近い将来ではない。メジャーなOEM(いわゆる自動車会社)がレベル4の自動運転のクルマを出荷すると発表しているタイムラインは2020年、2021年。ただ、13年もかからないとは思う。
    • 少しづつイノベーションが起きて徐々に自動運転に近づいていく。

    参考:

    • トヨタの例で言えばOEMがトヨタで完成品としてのクルマを作る会社。Tier 1サプライヤーがデンソーとかアイシン精機とか。その下にTier 2以降のサプライヤーが存在。
    • 自動運転の定義(Wikipedia)レベル4は高度自動運転でレベル5は完全自動運転

    何が実現を遅らせる?

    • レベル4やレベル5を大規模で実現するには経済的なメリットがまだない。例えば雪の日や雨の日の対応や地域的に制限がある地域などをどのようにカバーするか。
    • インフラの問題が大きい。ソフトウェアなどのインフラがまだ整備されていないのと、実際のプロダクトのリリースをするインフラも準備ができていない。
    • 人材不足が深刻になる。特にロボティック分野の人材。

    利便性と安全以外にクルマの自動運転のメリットは?何が変わる?

    • 犯罪発生率は下がる。クルマは移動センサーのようなものだから、犯罪の監視には最適。
    • 不動産の価格に影響する。これまで駐車場に必要だった土地が、住宅のために使うことができる。
    • Tier 1のサプライヤーよりもクルマに関連する既存のソフトウェア企業にとって壊滅的なダメージを与える可能性がある。既存のソフトウェアサプライヤーにとっては危機だし、新しいプレーヤーにとっては機会となる。
    • クルマの自動運転によって時間の無駄が削減される。浮いた時間をどのように使うのかが機会となる(Netflixのようなパーソナライゼーション)。
    • クルマのリモートコントロールのサービスが生まれる。そのようなスタートアップがすでにいくつか出てきている。クルマが状況を把握できずに立ち往生をしているときに、何をしていいのかクルマが理解できるようにリモートから助ける。
    • データセンターのDevOpsのようになる。クルマのDevOps。B2Bでは輸送管理のシステムにおける応用は大きい。

    自動運転のクルマを進めるために自分が州知事だとしたら何をする?

    • アリゾナ州、ネバダ州、ミシガン州、フロリダ州などすでに自動運転に積極的な州がある。例えばソフトウェアのアップデート一つをとったとしても1万台ではなく100万台の自動運転のクルマを管理するというのはどういうことなのか。これはクルマだけでなくインテリジェントなロボット全般に言えること。イノベーションを阻害することなく、市民の安全も確保するにはどうしたらいいのか。
    • フィンテックに関わる銀行取引や証券取引に規制があるように、シャトルや運送など人の命に関わることに関して政府が関わる意味は大きい。
    • 政府はデジタルインフラのためにコラボレーションを促進する役目を担える。もう一つは自動運転でできることとできないことの境界線を設定すること。例えば自動運転のクルマの専用レーンを設定するとか。

    クルマの愛好家の中には自動運転に反対する人もいます。どうやってその反対に反論する?

    • これは個人の趣味嗜好の問題ではなく、社会全体で考えないといけないこと。好むと好まざるに関わらず、クルマの自動運転化は進んでいく。
    • クルマの愛好家からクルマを取り上げるわけではなく、クルマをレーストラックのようなところで運転しようと思えばできる。
    • クラシックカーが好きだったり、スポーツカーが好きな人がある日突然にクルマに乗れなくなるなんてことは起きない。この変化は徐々にやってくる。あとは、自動運転のクルマが多くなった時、安全性を考えていつまで人間が運転できるようにするかとという問題。今の時代に馬で通勤している人があまりいないのと同じ。乗馬をしたい人は乗馬ができる場所が今でもある。
    • あまりクルマの出入りがなくデータがない土地では人間が運転する必要があると思う。

    安全性の問題について。監視できるようオープンソースにすべき?ハイジャックをどう防ぐ?

    • Webと同じで問題は起きる。インフラが整うまでに痛みを伴うし、一歩下がって二歩下がることもある。
    • ここにいる誰もその答えは持っていないと思う。これは大きなチャレンジ。
    • クルマにはたくさんのデータが集まる。個人情報やデータのセキュリティーは大きな課題であり、スタートアップにとっては機会だと思う。

    soundcloud.com

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  • ブロックチェーン全盛時代にデザインは終わったのか?

    ブロックチェーン全盛時代にデザインは終わったのか?

     シンガポールの友人と久しぶりにチャットをしていたのですが、シンガポールではクリプトが流行りでデザインが全く流行らなくなってしまったそうです。デザインは流行り廃りするようなものではないとは思いつつ、実際にはどうなのかを調べてみました。

    わかったこと

    • 2017年はブロックチェーンが飛躍した年でデザインは突き放された。
    • 日本とアメリカでは傾向が違う(アメリカではIoTよりブロックチェーンとか)
    • 普及はアメリカより日本が遅れる(ブロックチェーンの浸透速度やUXとデザイン思考のギャップ)

    デザイン思考 vs リーン・スタートアップ vs サービスデザイン

     まずは似た者同士ということで「デザイン思考」と「リーン・スタートアップ」と「サービスデザイン」の比較です。簡単に傾向を調べるにはGoogle Trendsが便利ですよね。

     デザイン思考とリーンスタートアップを比較した場合、リーンスタートアップは登場の時がピークでそのあとは徐々に減少しています。最近ではデザイン思考の方が検索ワードとして使われている。意外なのが「サービスデザイン」の検索が安定して多いこと。


    UXがデザイン関連キーワードでは圧勝

     ちなみに日本ではUXはさらに検索されています。ただUXも長期的にはダウントレンドなのが気になります。

     アメリカでも同様なんですが、UXと"Design Thinking"や"Lean Startup"の差は日本ほど大きくありません。意外なのは"Service Design"が"Design Thinking"より検索ワードとして使われていること。

    ブロックチェーンがUXを抜き去る

     日本ではブロックチェーンは2017年に入ってUXを検索キーワードで抜きました。

     ちなみにビットコインは2016年12月くらいから急上昇して、UXだけでなくブロックチェーンも突き放しています。

    JavaScript vs ブロックチェーン

     インターネットにおいて開発言語の王者はJavaScriptですね。ブロックチェーンは追い上げていますが日本ではまだまだJavaScriptの方がブロックチェーンより検索されています。

     ところがアメリカではブロックチェーンはJavaScriptを2018年には追い越しそうです。

    IoT vs ブロックチェーン

    日本においてIoTもブロックチェーンもともに上昇傾向にありますが、IoTの方がより関心がたかそうです。

    ところがアメリカだとIoTは大きな上昇トレンドではなく、IoTはブロックチェーン検索キーワードとしては抜かれています。

  • スマートマシン(IoTとAI)が顧客になる時 – マシンのためのデザイン

    スマートマシン(IoTとAI)が顧客になる時 – マシンのためのデザイン

    原文:”When a Machine is the Customer – Designing for Machines” by Dr. Carsten Stöcker and Kerstin Eichmann氏, August 27, 2017

    アメリカテキサス州にて:子供がAmazon Echoに「ドールハウスを買って私と遊んで」とお願いし、ドールハウスが送られてくる。

    イギリスにて:「OK Google、ワッパーバーガーってなに?」という言葉が、Google Homeスマートスピーカーのバーガーキングの広告トリガーとなって、かきたてるような商品の説明をはじめる。

     そしていつかすぐに、あなたの車はメンテナンスや充電のための最適な価格を選ぶだけでなく、スマートなクルマは自ら出かけて充電するでしょう *1

     ようこそ、人間ではなくスマートマシンが意思決定をする新しい世界へ。マシンが何をどの価格で買うかを決め、そのやりとりは仲介者なしにブロックチェーンの分散台帳で行われます。「スマートスピーカー」を介する市場は非常に巨大になります。Amazon Echoのようなスマートスピーカーから購入する家庭用品、スマート温度計から購入される電力、工業ロボットが購入する原材料や最適化のためのアルゴリズムの購入まで。

     このような発展を通じて「アルゴリズム利益」が誕生します。スマートマシンの売り手と買い手による取引やニーズをマッチングするサービスの手数料です。

     例えば再生可能な電力供給網では、「エネルギー供給のボラティリティー」が重要な課題です。グリッド制御システムは電力の供給と消費をリアルタイムでマッチさせる必要があります。余分なエネルギーを蓄えるためのバッテリーやエネルギーの柔軟な供給にはグリッド制御システムに「生理学的なマシンのニーズ」が求められています。柔軟性を集約するアルゴリズムはグリッド制御システムという「顧客」に対して集約され検証された柔軟性のポートフォリオへのアクセスと管理という「サービス」を販売できます。このアルゴリズムによる信頼性の高い柔軟性を最適化するサービスは自分自身のアルゴリズムや集約ボットを通じて自己収益をあげます。

    スマートマシン顧客のためのマシン中心デザイン

     先進的な企業はデザイン思考や人間中心デザインに注目しています *2。 これらのメソッドにリーンスタートアップやアジャイル開発を組む合わせてプロトタイプやユーザーテストを行います。これらの手法では人間の顧客を中心においてフォーカスします。

     企業はインサイトから人間のニーズを理解し、そのニーズを満たすためのアイデアを開発しようとします。新製品やサービスをすばやく市場投入するためにプロトタイピングMVP、ユーザーテストを活用します。

     スマートマシンのためのデザインには新しいアプローチが必要となります。スマートマシンのニーズの理解、ソフトウェアコードのライフサイクル、法的、規制上および倫理上の問題に至る全てにおいてです。

    「マシン中心デザイン」の取り組みに遅れを取ることは競合他社が2020年までに何十億ものインターネット上のデバイスのニーズと能力を活用していくことを意味します。

    Alexaを満足させる – マシンのニーズを満たすデザイン

     顧客としてのスマートマシンは無限に多様なニーズ、能力、成熟段階を形作ります。人間と同様に。アブラハム・マズローの人間の欲求段階に相当するマシンの欲求段階(図参照)はマシン顧客が何を必要とし、どのように自社の製品やサービスを売ることができるかを理解するのに役立ちます。

     人の欲求は下から空気、水、食糧などの生理的欲求から、安全の欲求、所属の欲求、承認欲求、そして自己実現の欲求に段階が上がっていきます。

     スマートマシンのニーズも人と同様に下から基本欲求(電力、コンピューティングパワー、ネットワーク接続性)、安全欲求(ファイアウォールや暗号化暗号など)、所属の欲求、そして承認欲求にまでおよびます。これらの欲求はソフトウェアによって満たされます。自律システムがお互いを見つけて識別し、信頼メカニズムによってサービスのレベルを把握することができます。

     人と同じように「自己実現」はスマートマシンによって異なるでしょう。バーチャルアシスタント(Virtual Personal Assistant:VPA)の場合、持ち主の微妙なストレス音感を検出し、落ち着くことのできる音楽を自動的にサジェスチョンすることかもしれません。自律型のナノ衛星の場合は最適な監視ターゲットを選択してコモディティトレードや農業「マシン」顧客に最高の利益をもたらすことかもしれません。

     一つの非常に本当の恐怖は意思を持ったシンギュラリティの「自己実現」スマートマシンが私たちとの共存を望むのか*3、あるいはマシンのニーズを人間より上に置いて奴隷化したり撲滅したいということです。 非営利の倫理グループから産業界の巨人まで、この問題に取り組んでいます*4*5。 今のところ問題の重要性を認識し、製品デザイン、ソフトウェアに組み込まれた倫理原則や人の顧客とのコミュニケーションにおいて意識すべきでしょう。

    innogyが考えるスマートマシンの欲求段階

    スマートマシンのライフサイクル

     物理的な製品と同様にマシン(物理的またはバーチャル)は、デザイン、利用からリサイクルまでのライフサイクルがあります。それらをデザインするときは、製品またはサービスがライフサイクルのどの段階なのかを考慮する必要があります。

     技術が急速に変化している状況で、完璧な答えを求めてはいけません。理解を深めながらマシンの要求に応え戦略を洗練させていくべきです。

    スマートマシンのライフサイクル

    スマートマシンのカスタマージャーニー

     人間のカスタマージャーニーは製品やサービスを意識することからはじまり、検討、購入、サービスの利用開始からサポートに至ります。さらに(願わくば)ロイヤリティーが高まり他の人にもオススメしてくれるように進んでいきます。

     スマートマシンの顧客もP2Pネットワーク上で同じようなカスタマージャーニーを辿ります。このジャーニーはアルゴリズムにより実行され、時間の経過とともに選択を学習して改善されていきます。このアルゴリズムはオンラインランキングなどの信用システムや評判システムによって補強されていきます。

     電気自動車が「意識すること」はバッテリーが少なくなることからはじまります。タイヤ交換や清掃が必要だと意識して、その必要性を訴えかけます。製品やサービスの提供者からの価格、在庫、納期を提示することで「検討」がはじまります。購買はブロックチェーンを介してP2Pのスマートコントラクトを介して実行されます。*6 

     デザイナーは「意識する」段階において適切なオンライン取引所にリストされ、マシンが読める適切なフォーマットで説明がされるようジャーニーをデザインすることができます。また購入段階で取引が正確で完全であることを確実にし、サービス段階では消費をするスマートマシンが適切な時期に適切な保守サービスや補充サービスが提供されるようにデザインできます。

    人とスマートマシーンのカスタマージャーニー比較

    スマートマシンのためのデザイン:何が違うのか

     人が中心の世界では市場調査、フォーカスグループ、顧客インタビュー、エスノグラフィーを通じて要件を明確にしてデザインされます。ターゲットとなるマーケットは「ペルソナ」というユーザー像として表現されます。ペルソナを通じて性別、年齢、教育、職業、役割、責任、さらには趣味など特徴を理解します。

    1. マシンのニーズと機会は主にマシン間のトランザクションのデータのマイニングと分析、場所やパフォーマンスなどの「状態」情報によって分かります。ターゲット市場は様々なクラスのマシンの異なる能力で分類されます。
    2. 人間中心デザインではインターフェースが重視され、観察によってその効果が評価されます。 マシン中心デザインではデバイスやソフトウェアの技術的ニーズに適応しているかで評価されます。コードの効率性、必要なAPIやプロトコルの遵守、トランザクションの速度や信頼性が重要になります。
    3. 人間中心デザインではSCRUM、ラピッドプロトタイピング、MVP、DevOpsなどアジャイル開発方法で製品とサービスの迅速なデリバリーを実現します。マシン中心デザインでも同じ方法が使用されていますが、データ分析、機械学習、ボットフォレンジックに大きくに依存ます。
    4. マシンのためのデザインには新しいインフラ、プロセスとスキルが必要です。マシンロジック、データマシンの種類と量に関する知識、アルゴリズムやディープラーニングから得られるインサイト。基盤となるAPI(アプリケーションプログラミングインターフェイス)や認証およびブロックチェーンテクノロジの理解も必要になります。そして、最大限の機会「スイートスポット」を見つけて集中するビジネスコンテキストも必要です。
    5. 法律とガバナンスの面では、マシンツーマシンの売買にはスマートコントラクトの共通標準が必要となります。双方が提供している製品やサービスを理解し、カウンターオファーを行う能力、その受領や拒否のシグナルなどです。また、やり取りを標準化して管理するための新しい法律や規制も必要となります。「マシンに対する課税」領域の設定や人同士と同様に紛争解決のための仲介も必要となるでしょう。

    未来のロードマップ

    Show Me the Money

     マシンのためのデザインは単に既存の製品マーケティング(シャンプーや電気など)を人間以外の「顧客」のために微調整することだけではないと認識することは非常に重要です。実際の革命的な利点の源泉は新しいビジネスモデルの創造と開発です。それはインテリジェントで自律的なスマートマシンのニーズを満たしながら実際の人間社会との整合性を合わせることです。

     たとえば、マシン間の取引でどのように収益を上げるのでしょうか。ブロックチェーンは取引のコストを限りなくゼロにします。これは買い手や売り手には良いですが、銀行、クレジットカードプロセッサーなどの仲介業者には悪いことです。顧客が人間である場合、サービスは価値を作り出し、その価値がお金になります。それは利便性、柔軟性や容易さです。基本的なサービス(例えば輸送)がコモディティとなり価格が下がったとしましょう。人はそれでも最短ルートにお金を払い、友達をピックアップしたりお使いのため遠回りをすることにお金を払うでしょう。

     マシンが他のマシンにサービスを提供する場合、価値の創造から収益を上げる機会はひとりの人間の顧客のための取引を最適化することでは無くなります。ネットワークを通じてマシンを集約することで生まれます。例えば電気自動車がグリッドに余剰電力を売る場合に価格が最も高いピーク需要期を待つことでプレミアムを請求することができます。また、グリッドの安定アルゴリズムでバッテリ容量を柔軟に集約して売却することによってグリッドの安定に貢献することもできます。

     マシンとマシンによる取引の新しい収益機会はデータです。例えば、道路に設置されたスマートセンサーが舗装の摩耗や裂傷に関する業界データを舗装業者に提供し、舗装修繕サービスのディスカウントを受けることができます。また、スマートセンサーから交通情報を小売業者や不動産業者提供することにより建設プロジェクトに貢献することができます。

     このようにスマートマシンの欲求段階、ライフサイクル、スマートマシンのカスタマージャーニーなどのツールは、これから到来するスマートマシンの経済を理解し、その恩恵を受けるために役立ちます*7。スマートマシンの経済に置き換えられるのではなく、製品、サービス、マーケティングを一から考え直すことを積極的に導いていきます。

    この記事は人間中心デザインからマシン中心デザインを予見させる「スマートマシンが顧客になる時 – マシンのためのデザイン」”When a Machine is the Customer – Designing for Machines“の翻訳です。これを書いたのはinnogyのthe Machine Economy Innovation Lighthouse Leadに所属する部長のCarsten Stöcker博士Kerstin Eichmann氏です。あまり関係ないですが、Kerstinさんは同じマイクロソフト出身者として個人的にすごく親近感を覚えます(笑)

    Innogyはドイツ第二位の電力会社RWE AGの子会社です。IoT、ブロックチェーン、AIなどの先端技術を使ったイノベーションプロジェクトを多く手がけています。以前に紹介したブロックチェーンによるIoTの事例もInnogyのプロジェクトでしたね。

    ボク自身は人間中心のサービスデザインを専門としているので、この記事を読んだ時すごくハッとしました。カスタマージャーニーなどのデザイン手法をAIやIoTの世界に当てはめるのはとても新鮮です。

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    About the Authors:

    Dr. Carsten Stöcker is Senior Manager in the Machine Economy Innovation Lighthouse Lead at innogy SE. He is a physicist by training with a Ph.D. from the University of Aachen. He also serves as a Council Member of Global Future Network for the World Economic Forum. Prior to joining innogy SE, Dr. Stöcker worked for the German Aerospace Center (DLR) and Accenture GmbH. Carsten.Stoecker@innogy.com | Twitter: @CarstenStoecker

    Kerstin Eichmann is leading the Machine Economy lighthouse. She also worked as Manager for Microsoft Deutschland GmbH. Prior to Innogy, she worked as a manager in the developer experience unit of Microsoft Deutschland GmbH, Fidor Bank and BBDO. Kerstin.Eichmann@innogy.com| Twitter: @OriginalKed

  • ドイツで開始されたブロックチェーンのIoT事例:Slock.itとShare&Charge

    ドイツで開始されたブロックチェーンのIoT事例:Slock.itとShare&Charge

    原文:”Share&Charge launches its mobile app, on-boards over 1,000 charging stations on the blockchain” by Stephan Tual, May 1, 2017

     以前にShare&Chargeについてはブログでも言及しましたが、5日間のソフトローンチの後、正式にShare&Chargeのアプリが公開されてました。数千の電気自動車用の充電ステーションをパブリックのEthereum ブロックチェーンで稼働されたことに誇りを持っています。

     これによりピアツーピア方式(P2P)での電気自動車充電がドイツで実現しました。Share&ChargeInnogy Innovation Hub*1のプロジェクトで、Slock.itは個人が自宅の充電ステーションをP2Pで貸し出し、以下のことを可能にしました:

    • オーナーが充電ステーション設置コストを回収できる
    • 電気自動車の運転手は身近なエリアで多くの充電ポイントにアクセスできる
    • 小規模な電力会社や中小企業が手頃で信頼性の高いペイメントソリューションにアクセスできる

     このアプリは2017年4月28日からiOS AppStoreGoogle Playの両方で利用可能になりました。

     現時点では充電スタンドはドイツ限定して展開されています。

    クリーンエネルギー市場へのインパクト

     現在、約1,070の充電ステーションがShare&Chargeに登録されています。二つの種類があり、一つは個人の充電ステーションのオーナーがShare&Chargeのバックエンドに接続して追加したもの。もう一つは小規模のまたはサードパーティのプロバイダによって運用されている充電ステーションです。アプリケーションが公開されたばかりなので個人所有の充電ステーションの数はまだ多くありませんが、今後注目して行きたいセグメントです。

    もし15%の充電ステーションの所有者がShare&Chargeに参加すれば、ドイツの充電ステーションのインフラは二倍になる。

     2017年1月現在、6,181台の公共充電ステーション(出典:statista)がありますが、45,150台のEV(電気自動車)所有者の92%が自宅に充電ステーションを持っています(出典:dlr.de)。

     つまり自宅に充電ステーションを設置している個人所有者の15%がShare&Chargeを通じてそれらを利用可能にした場合、ドイツの充電インフラストラクチャーは追加の設置なしで2倍になります。

    まだ道のりは長い

     しかし、これは最初のステップでしかありません。電気自動車を充電するために真に分散されたP2P経済を確立するには、多くの技術的および規制上の課題があります。

     Share&ChargeとSlock.itはより技術的なユーザーのためにアプリケーションのブロックチェーンの側面をもっと表面に出していこうとしています。例えば、最終的に別々に生成された秘密鍵をアプリケーション内にロードすることができるようになると期待しています。

     もうひとつは、充電ステーションに直接組み込まれたハードウェアブロックチェーンノードです。Kirchbergで同様な取り組みをしましたが、これを継続していきます。ハードウェアをブロックチェーンノードとして組み込むことにより充電ステーションレベルでブロックチェーン駆動のアクセス制御が可能になります。現在はアクセス制御はアプリ内で行われ、会計処理はオンチェーンで行われています。

    Kirchberg Electro-blitzの充電ステーションに組み込まれた物理的イーサリアムノード

    更新可能なスマートコントラクト

     Share&Chargeアプリは公開されていましたが、スマートコントラクトのコードはテクノロジーが進化するにつれて引き続き改善されていきます。これらのコントラクトは100%更新が可能で、Share&Chargeが新しい機能を追加できるだけでなく、緊急事態が発生した場合に素早く対応することができます。これはデータとロジックの明確な分離によって可能になっています。このプロジェクトの技術的側面についてさらに詳しく知りたい場合は、当社のCTOであるSimon Jentzschのブログ記事”Share&Charge Smart Contracts: the Technical Angle“を参照してください。

     スマートコントラクトのシステムが十分に検証され、バグがなくなれば、Share&Chargeは将来的にアップデート機能を削除したいと考えています。そして、将来的には電気自動車の充電のための真の分散型市場を作り出すことを願っています。その間、エキサイティングなバグハンティング(Bug Bounty)を開催し、私たちはスマートコントラクトの継続的な見直しを行なっていきます。このためクリプトコミュニティからのフィードバックは非常に貴重です。ぜひTwitterを通じてコンタクトしてください。

    隠れた秘宝:ユーロトークン

    取引は実際のユーロと1対1で対応している「暗号化ユーロ」

     様々なイノベーションをShare&Chargeで行いました。その中でも取引処理のために預託に1対1で対応した「暗号化ユーロ」を導入したことは特に誇りです。

     現時点では、このトークンは取引することはできません。Share&Chargeプロジェクトでのみ使用するために予約されています。しかし、電子マネーライセンス*2の取得をしようとしているプロジェクトの支払いプロバイダxtechのような企業は、この「暗号化ユーロ」の使い道に可能性を見出すでしょう。

    解説

    この記事はドイツのスタートアップSlock.itの創業者Stephan Tual氏によるブログ記事”Share&Charge launches its mobile app, on-boards over 1,000 charging stations on the blockchain“の翻訳です。ブロックチェーン、IoT、電気自動車にシェアリング経済とホットなキーワードがキラキラしているとても面白い事例です。ブロックチェーン上にIoTのハードウェアノードが乗っかるなんて超カッコいいですね!

    これまでイーサリアム(Ethereum)周辺の概要を取り上げてきましたが、こうやって具体的な実装を見るとかなりイメージがつかめますよね。

    関連記事

     

    *1:Innogyはドイツ第二位の電力会社RWE AGの子会社。

    *2:電子マネーはビットコインなどと違い、中央銀行などで集中的に管理されていて、それを扱うにはライセンスが必要。Facebookもアイルランドで電子マネーのライセンスを取得して話題になりました。

  • モノの貸し借りプラットフォームのピアビーにシェア経済やクラウドファンディングについて聞いてきた!

    モノの貸し借りプラットフォームのピアビーにシェア経済やクラウドファンディングについて聞いてきた!

     人と人とのもののやり取りをするサービスをマーケットプレイスと言います。インターネットで老舗はeBayですし、日本のメルカリも勢いがありますよね!オランダでもMarktplaatsというサイトがあり、オランダスタートアップのサクセスストーリーとしてよく知られています。フリーマーケットは昔からあって、インターネットがそれを加速。UberやAirbnbに代表されるように世の中も所有から共有へというのが大きな流れになっていると思います。

     今回紹介するのは共有の流れをさらに強く押し出したモノの貸し借りプラットフォームのピアビー(Peerby)です。他にもオランダでは最大の株式によるクラウドファンディングの成功事例だったり、IoTを使った実験をしていたりとなかなか面白いスタートアップなんですよ!

     インタビューを受けてくれたのはピアビーのHugo van der Spekさんです!

     −−ピアビーはどういうサービスですか?

    「買うまでじゃないんだけどちょっと使いたいものとかありますよね。BBQセットとかテントとか。ちょっと壁に穴をあけるドリルが欲しいとか。ピアビーはそういうニーズに応えるため近所でモノを無償や有償で貸し借りできるプラットフォームです。そういう意味ではピアビーはご近所さんプラットフォームとも言えます。

     また、ピアビー・ゴー(Peerby Go)とい新しいサービスをはじめました。こちらは有償サービスで必要なものを家までお届けします。

     ピアビーはシェア経済の新しい形でもあるんです。モノのUberやAirbnbですね。必要なものは買うのではなく近所で共有する。そうすることによって不必要なモノが少なくなり生産や消費の無駄が少なくなります」

    −−どのようにしてピアビーのアイデアは生まれたのですか?

    「創業者のDaan Weddepohl の家が火災で燃えてしまったんですよ。火事で全てが焼けてしまった後、所有していたモノがすべてなくなってしまった。そしてモノから住む場所まで全て近所の人たちの助けを借りなければいけなかった。この経験からモノの所有から人とのつながりへ価値観が大きく変わったことがきっかけだそうです。この近所のコミュニティーをつなげることができたらと」

    −−オランダ以外だとどこでサービス提供しているんですか?

    「アムステルダムからはじまり現在ではロンドンやベルリンなどヨーロッパ12の都市でに正式にサービス展開しています。また、ニューヨークやサンフランシスコなどアメリカ10都市でテスト展開しているところです。

     ピアビーはユーザーが登録されればその地域でのコミュニティー作りが始まるので、日本で登録があれば日本でもピアビーのコミュニティーは作れるんですよ」

    −−ピアビーはオランダで最も大きなクラウドファンディングの成功事例としても知られています

    「ピアビーは週末だけで220万ドル(約2億2千万円)をクラウドファンディングプラットフォームのワン・プラネット・クラウド(OnePlanetCrowd)で資金調達しました。大きさにおいても達成したスピードにおいてもオランダで最高の記録です。

     1051人のサポーターから資金調達したのですが、この70%はピアビーのユーザーだったんです。つまり私たちのコミュニティーから支援してもらっていたんですね。

     ワン・プラネット・クラウドは持続可能な社会を目指すことに役立てるためのクラウドファンディングプラットフォームなんです。そこがピアビーととてもマッチしました。

    −−ザ・シングス・ネットワークのIoTネットワークも利用しているんですよね?

    「はい。IoTネットワークで貸し借りされたモノの追跡ができるようになります。また、修理が必要になったモノを特定することにも役立てます。UberはGPSでタクシーと乗客をマッチングさせる。IoTを使えばモノのシェア経済でも同じことができます。

     私たちは現在 “Shared Drill” (みんなの電動ドリル?)というコンセプトを試験運用しています。Shared Drillは個人で共有するためでなく、多くの人で共有されるために作られたモノを指します。必要な人が使い、使うたびに料金を払うというモデルです。私たちは「モノのSpotify」と呼んでいます。

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