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  • 書評|ブロックチェーンと法律|”Blockchain and the Law” by Primavera De Filippi

    書評|ブロックチェーンと法律|”Blockchain and the Law” by Primavera De Filippi

    法律は国によって定められています。国によって法律は違います。そのため、国をまたがる場合は合法と非合法、正義と悪の境界線が非常に曖昧になります。その曖昧な世界が大きければ、大きいほど法による管理は難しくなります。海の世界がその代表例ですね。どの国にも属さない海の領域(公海)での犯罪はどうする?とか。インターネットの世界も同様で、国をまたがる法整備や合意形成が慎重に進められています。そして、最近そのリストに加わった一つがブロックチェーンの世界です。

    今回紹介する書籍”Blockchain and the Law”で著者である法学者プリマヴェラ・デ・フィリッピは現在進行形のブロックチェーンにおける法律の関わり方を解説しています。

    Blockchain and the Law: The Rule of Code

    Blockchain and the Law: The Rule of Code

    まず、プリマヴェラ・デ・フィリッピはインターネットとブロックチェーンの発展の歴史を振り返ることで、法律との関わりのポイントを整理していきます。ブロックチェーンは三つの大きな流れが交わった地点にあります。インターネット、P2Pとサイファーパンク。ランド研究所でのポール・バランによるパケット交換の開発国防高等研究計画局(DARPA)などインターネットの成り立ちからP2Pやサイファーパンクを経由してブロックチェーンの誕生とビットコインやイーサリアムへ発展した現在までをじっくりと解説します。

    P2Pはインターネット以降に生まれた最も破壊的なアプローチの一つです。その第一世代がナップスターでした。ナップスターのP2Pによる音楽共有はボクも使ってましたが本当に衝撃的でした。ナップスターは中央集権的なインデックスで管理されていたため、権利保有者から責任逃れをすることができずに破綻しました。第二世代のビットトレントやヌーテラはピュアP2Pと呼ばれ、中央にインデックスを持たずに分散化管理をします。ビットトレントの場合はtorrentファイルを分割してノードで共有します。

    サイファーパンクの「サイファー」の意味は「鍵」です。暗号化技術によるリバタリアン思想がその根底にあります。サイファーパンクたちによってブロックチェーンに先駆けて暗号化技術を使った電子マネーも開発されました。それがデイビット・ショーンのデジキャッシュでした。しかし、デジキャッシュのアーキテクチャーはクライアント・サーバーでした。サイファーパンクたちはブロックチェーンやスマートコントラクトなどコアな技術を生み出し続け、サトシ・ナカモトと自らを呼ぶ個人またはグループがビットコインを生み出しました。

    ローレンス・レッシグは『CODE インターネットの合法・違法・プライバシー』でコードが法律”Code is Law”だと宣言しました。もうちょっと具体的に言えば、管理の手段として法律、市場、規範とアーキテクチャの四つがあって、アーキテクチャがコードということです。法律と同様にコンピューターのコードによって行動が規定される。インターネットは実際の法律とプログラムの間で整合性を取ることが可能でした。それはインターネットの管理は完全には分散化されていないからで、管理ポイントがあるからです。例えばインターネット・サービス・プロバイダー(フレッツ光のようなISP)、決済プラットフォーム(StripeやPayPal)、グーグルやフェイスブックなど特定の国を拠点として法人として営業している企業です。

    CODE VERSION 2.0

    CODE VERSION 2.0

    多くのブロックチェーンの分散化システムの場合は特定の国の法律で縛ることが難しい場合が多いです。プリマヴェラ・デ・フィリッピは簡単に法律がどのように現代のような形になってきたのか簡単に解説してくれます。ミシェル・フーコーは『監獄の誕生―監視と処罰』で刑罰の近代化を描いています。法律は18世紀の前と後に一本の線を引くことができます。18世紀前の君主制の頃は体罰が中心。18世紀から19世紀にかけて現在の刑法が確立され、管理の手法として監獄ができました。ミシェル・フーコーはパノプティコンをその象徴としています。レッシグの法律、市場、規範とアーキテクチャの分類を使えば、「規範」がそれにあたるでしょう。それを発展させたのがジル・ドゥルーズで、見られているかもしれないという社会の管理(society of control)が行動を規定するようになるとしています。ブロックチェーンを支持している人たちはこの考え方を好みます。法律に縛られるのではなく、社会の管理に委ねるという考え方。

    フーコー・コレクション〈4〉権力・監禁 (ちくま学芸文庫)

    フーコー・コレクション〈4〉権力・監禁 (ちくま学芸文庫)

    • 作者: ミシェルフーコー,小林康夫,松浦寿輝,石田英敬,Michel Foucault
    • 出版社/メーカー: 筑摩書房
    • 発売日: 2006/08/01
    • メディア: 文庫
    • 購入: 3人 クリック: 19回
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    そうはいっても、インターネットやブロックチェーンの中だけで生きていけないし、自分が暮らしている国の法律から逃げることもできません。どこかしらで折り合いをつける必要があります。例えば、Rippleはすでに銀行間の外国為替取引で使われはじめています。個人間で同じことをする仕組みとしてAbraがあります。例えば、出稼ぎで海外に出ている人が、家族に送金する場合とかにいいですよね。必ずしも出稼ぎの人がその国で銀行口座を持てるとは限りませんし。犯罪に使われることも考えられます。マネーロンダリングや麻薬取引や人身売買などなど。

    犯罪を防ぐために、銀行は口座の持ち主の身元を確認する義務を法律で課せられています。これを本人確認義務(KYC:Know Your Customer)と言います。コインチェックやDMMビットコインのような日本に法人を置く中央管理の取引所であれば、日本の法律に従って本人義務確認をすることを義務付けることもできるでしょう。しかし、ブロックチェーンで完全に分散化されてしまってはそれもできません。だって、誰に確認すればいいのでしょう?ZcashMoneroのような匿名通貨や、技術的にはゼロ知識証明リング署名です。

    そして、スマートコントラクトです。スマートコントラクトは法的拘束力があるのか?法的拘束力があるのであれば、どのような場合にどの国の法律が適用されるのか?例えば、アメリカでは契約書や発注書も紙である必要はありません。実際に電子データ交換(EDI)ではそのように運用されています。Corda Japanの記事ブロックチェーンで受発注プロセスを”デジタル化”するでEDIがどのようにブロックチェーンに置き換わる可能性が開設されていますが、取引には現時点ではたくさんのプロセスが必要となっています。これをスマートコントラクトで効率化することができると考えられています。電子サインが有効な国も増えてきていますしね。物理的な商品取引だけでなく、株式やデリバティブなどの金融商品取引をトークン貸してスマートコントラクトで取引をすることにより効率化できる可能性があります。

    スマートコントラクトによる分散化取引の特徴には透明性があります。金融の場合、取引所を経由した中央集権的な取引と、取引所を経由しない分散化した取引であるOTC(Over the counter)があります。OTCの問題点は透明性の低さで、リスクを見えづらくします。スマートコントラクトを使うことにより、分散化したOTCによる取引のセトルメントの時間を削減して、リスクを減らすだけでなく、OTC取引にも透明性をもたらす可能性があります。

    そうはいっても、現実には現実の法律があり、制度があります。初期のウォールストリートの取引は分散化でした。幾度の金融危機を乗り越えて、徐々にルールづくりをしながら集権化していきました。クリアリングハウスやDTCCができました。集権化はリスクを低減して、透明性を高めました。そして、中央銀行が金融政策を実施する助けにもなりました。金融取引には多くの仲介者が存在しますが、それが安全弁にもなっています。ブロックチェーンの取引にはクリアリングハウスはないので、デフォルトが連鎖して金融危機を生み出す危険性もあります。

    この本はどんな人にオススメか

    現時点でのブロックチェーンの流れと法律との整合性を理解したい人にはオススメです。しかし、「答え」は提示されていません。インターネットですら国をまたがった法律は確立されていないのですから。この本では様々なユースケースでブロックチェーンと法律の整合性を考察しています。

    大きく分けて、プライバシー、透明性、現行の法律とのギャップですね。例えば、失敗したDAOのような分散化組織は法律上は株式会社にできません。ジェネラル・パートナーシップなので、分散化組織に参加する個人は無限の責任を負います。アメリカではシリーズLLCが代替案として考えられますが、日本の場合はどうなるのでしょうね。

    ボク自身もいろんなアプリを作る立場で、技術やビジネスモデルと法律の関係を考える機会が多いです。GDPRのようなヨーロッパの法律が全世界に影響する時代です。実際にモノやお金が関わるとなかなか単純にはいきません。デザイナーや開発者ももっと法律について知っておいたほうがいいと思うんですよね。

  • 暗号化通貨のロマンであるDeFi(ディファイ)を理解する「で、ディファイって何?」

    暗号化通貨のロマンであるDeFi(ディファイ)を理解する「で、ディファイって何?」

    前回の暗号化通貨のロマンであるDeFi(ディファイ)を理解する「なんでディファイ?」からちょっと時間が経ってしまいました。立て続けに本を読んでしまったのが原因です。読んですぐに書評を書かないと忘れちゃうので、先に書評を書いてしまいました。

    暗号化通貨やブロックチェーン界隈で話題の分散化された金融システム、通称DeFi(ディファイ)ですが、前回は「なんでディファイ?」というWhyの部分をボクなりの解釈で解説しました。今回は具体的にデファイってなんなの?というWhatの部分をボクなりの解釈で解説します。

    暗号化通貨の課題

    ブロックチェーンの特徴は以下になります(ボクの個人的な理解です)。簡単に言ってしまえば、現在の暗号化通貨の課題はブロックチェーンが備えるこれらの特徴を全て享受できていないことです。

    • 弾力性があり、しなやかなシステム(Resilient)
    • 透明性がある(Transparent)
    • 解析しにくい耐タンパー性がある(Tamper Resistant)
    • 改ざん不可能(Non-reputable)
    • 仮名性がある(Pseudonymity:匿名性とは違うので区別が必要)

    全てが分散化されておらず、中央集権的な部分が残ってしまっている。これら中央集権的な部分が不正の温床となり、脆弱性にも繋がっています。これらの中央集権的な部分を全て分散化する取り組みがディファイです。簡単に言ってしまえば。

    しかし、全ての課題をディファイで解決できるわけではありません。例えば、広く一般に普及するためにはスケーラビリティの課題を解決する必要がありますが、これは根本的な課題なのでディファイというアプリケーションレベルでは解決できません。根本的な課題はビットコインやイーサリアムなど基本的な部分で解決する必要があります。

    ディファイのビルディングブロック

    ブロックチェーンを活用した分散化した金融システムがディファイです。以下のアプリケーションが代表的です。

    • 分散化されたステーブルコイン
    • 分散化された取引所(DEX)
    • 分散化された貸し出し(レンディング)

    通貨、取引所、銀行。これくらいあれば金融業の基本的なことはできるでしょう。ディファイと定義されるアプリケーションは実際にはもっとたくさんありますが、まずはこれだけ覚えておけば十分でしょう。他に注目すべきはSet Protocolのようなトークンバスケット(金融商品であるトークンを複数組み合わせる)や本人証明であるKYC(例:uPortBloomWyre)ですかね。

    そして、ディファイも分散化アプリ(Dapps)の一つなので、大前提としてトークン(WETHBATZRXDAIREPなどERC20トークン)とウォレット(Coinbase WalletLedgerMetaMaskなど)の利用があります。まず、分散化アプリのプラットフォームがあり、そのアプリケーションの一つとしてディファイがあると理解してください。

    分散化されたステーブルコイン

    中央集権的なステーブルコイン(テザー)

    暗号化通貨を広く一般に使ってもらう上で課題の一つが価格の分かりづらさと不安定な相場です。ボクたちは普段は日本円を使ってますよね?買い物をするとき、いくらだったら安いのか、高いのか相場感って日本円で考えます。今月だったらいくらまで使えるのか、日本円で考えます。日本円で100円ってビットコインでいくらなのかわかります?普通わかんなんですよね。しかも、変動が激しいからその日によって価値が違う。これだとなかなか普段使いには厳しいです。普段に米ドルを使わないのと同じか、それ以上のハードルがあります。暗号化通貨への投資は米ドル建の貯蓄よりハードルが高い。

    この問題を解決するのが普段使っている通貨(法定通貨)と連動(ペグ)されたステーブルコインです。有名なのは2015年から運営しているテザーですね。米ドルと連動したUSDTや欧ユーロと連動したEURTや、中国元と連動したCHNTがあります。日本円にペグされた暗号化通貨だとLCNEMが発行済みで、GMOが独自の日本円とペグされた暗号化通貨の発行を検討しています。ただ、USDTと比べるとまだまだですね。

    分散化されたステーブルコイン(DAI)

    法定通貨とペグされたテザーのような暗号化通貨は、普段使いの一歩となりえます。しかし、課題もあります。テザーはテザー社が中央管理しています。銀行間取引で使われる暗号化通貨リップルと同様で、借用取引(IOU取引)になります。つまり、テザーの米ドルとの連動を担保するためにテザー社は1:1の割合で米ドルを保管します。これが米ドルとの連動を担保しています……とテザー社は言ってます。でも、本当に米ドルを保管してるの?

    さらに、テザー社の経営陣はビットフィネックスという暗号化通貨の取引所を経営しています。通貨の発行元であるテザー社と取引所のビットフィネックスが市場操作をしているのではないかという嫌疑がかけられています。ブロックチェーンの暗号化通貨のウリは透明性なのですが、テザーもビットフィネックスもブラックボックスになっているんですね。この問題を解決するのが分散化ステーブルコインです。

    NY司法当局、テザー社側の不正利用を見るけるために「財務書類の要求文書」を提出

    テザーは法定通貨担保型のステーブルコインです。法定通貨を担保しているのはテザー社。テザーのような中央集権的なステーブルコインに代わって、ディファイのステーブルコインで最も期待されているのがDAIです。DAIは仮想通貨担保型のステーブルコインです。EHTを担保に利用した担保付き責務(CDP:Collateralized Debt Position)というスマートコントラクトで実現しています。簡単に言えばEHTを担保にDAIを発行します。 150%以上の担保が必要なので、$150のETHで、$100のDAIまで発行できます。EHTは価格変動するので、ペナルティを避けるためには150%の担保率を維持する必要があります。なんか、面倒ですね。

    ドルペグといえば、アジア通貨危機を思い出してしまいます。投資家のおもちゃにならないような仕組みも必要ですね。

    分散化された取引所

    ビットコインが盗まれたマウントゴックス事件やNEMが盗まれたコインチェック事件。暗号化通貨を買ったり売ったりするのに取引所は非常に便利なのですが、ハッキングの対象となり盗難事件が後を絶ちません。ブロックチェーンって改ざん不可能で、ハッキングが難しいんじゃなかったっけ?ブロックチェーンはそうなんですが、取引所は中央集権的に管理されているのでブロックチェーン取引の脆弱性にもなっています。

    具体的には秘密鍵の管理を取引所に委任する必要があります。秘密鍵を持っているので、取引所の中の人が不正に資金を引き出してしまうリスクや、外部からハッキングされて資金が流出してしまうリスクがあります。

    そこで生まれたのが中央で管理しない分散化した取引所です。一般的には分散化取引所(DEX:Distributed Exchange)と呼ばれています。

    分散化取引所(DEX)には三つのアプローチがあります。

    • Bancorのように複数のコインと価格設定アルゴリズムを持つスマートトークンを発行する方法
    • KyberNetworkのようにプールした流動資産をスマートコントラクトで管理する方法
    • 0xのように分散化アプリケーションのためのオープンプロトコルとして流動資産の取引を可能にする方法

    それぞれ、一長一短で現時点ではまだ中央集権的な暗号化通貨の取引所に取って代わるまでには至っていません。

    分散化された貸し出し

    以前に中国フィンテックの解説をした時に説明したように、銀行の儲けは手数料と運用の二つがあります。手数料はお金を集めるためにやってますが、あまり儲かりません。儲かるのは運用です。お金を預かって、その預かったお金を運用して儲けます。その運用の一つが貸し出しで、金利によって儲けます。銀行にとってコアビジネスですね。

    この貸し出しもディファイのターゲットとなっています。簡単にいえば、暗号化通貨を貸して、その利益を得られることができるサービスです。

    ブロックチェーンを使った分散化貸し出しサービスで最も有名なのがCompoundです。ブロックチェーンといえばP2Pのイメージがあるので、個人対個人の貸し借りができるプラットフォームだと思いますよね?違うんです。Compoundは“liquidity pool”です。流動化した資産をプールしている場所です。既存の金融で近いのがマネー・マーケットです。暗号化通貨の貸し借りの取引ができる市場ですね。既存のマネー・マーケットでは金融機関同士や一般事業者が取引に使うもので、個人には縁がありません。しかし、Compoundの場合は個人でできてしまいます。

    Compoundで取引される暗号化通貨はERC20トークンです。ERC20はイーサリアムのプラットフォーム上でのみで使用されることを目的に設計されたトークンです。Compoundで現在取り扱いができるERC20トークンはWETHBATZRXDAIREPなどです。取引できるトークンの一覧はこちらで確認できます。非常に分かりづらいのですが、イーサリアム自体はCompoundでは取引できません。なぜなら、イーサリアム(ETH)はERC20ではないからです。イーサリアム(ETH)をトークン化したのがWEHTです。ラップ(Wrap)されたイーサリアム(EHT)だからWEHT。ラップされたビットコインはWBTC。ここまでが基礎知識。オーケー?ついてきている?

    CompoundでERC20トークンを取引をするために使うのはウォレットとスマート・コントラクトです。ERC20を扱えるウォレットにはCoinbase WalletLedgerMetaMaskがあります。このような対応ウォレットからトークンをCompound市場に預けます。Compoundの市場へ預けた残高はcTokenとしてトークン化されます。そして、預け入れや貸し出しなどはCompound Money Marketのスマート・コントラクト(White Paper – PDFへリンク)が使われます。

    Compoundについてもっと知りたい人はMediumにあるCompoundのオフィシャルブログのFAQを参考にするといいでしょう。

    で、あらためてディファイって必要?

    こうやって何がディファイかだけ解説してみると、いい感じがしません?これまで課題だったことが解決されて、進歩的な感じがする。とてもプログレッシブ。

    分散化アプリ(Dapps)はたくさんあるので、ディファイで扱うトークンも使い道はあります。ゲームだとマイクリプトヒーローズクリプトキティとか人気があるらしいです。イーサランス(Ethlance)のようなクラウドソーシングでイーサリアムを稼ぐこともできます。ディファイ(DeFi)自体も分散化アプリ(Dapps)のアプリケーションです。トークンで成立する分散化経済圏は法定通貨で成立する実体経済圏の小さなパラレルワールドといった感じです。

    そこでもう一度、「なんでディファイ?」を振り返ってみましょう。日本だったら日本円でそれほど困ってないですよね?アメリカに旅行したって米ドルでそれほど困りません。たくさんの技術的な課題を解決しても、暗号化通貨が法定通貨の利便性を日常の利用シーンで上回ることはまだまだできそうにありません。ディファイのユースケースはまだまだ限られています。出稼ぎの人たちがマイナーな自国の法定通貨の代わりに暗号化通貨を使って海外送金とか、余裕のある富裕層の資産運用のポートフォリオの一部に組み込むくらいかなあ。

    まあ、ジンバブエやベネズエラのように自国の法定通貨に不安がある国に住んでいたらハイパーインフレ対策にはなりそうです。米ドル、欧ユーロ、人民元、日本円、英ポンド以外のマイナー通貨はディファイになってしまえ!と思わなくもない。貧しい国に住む人たちがイーサランスで暗号化通貨を稼いで、暗号化通貨で暮らすなんてちょっと夢がありますよね。ハイパーインフレ来たって小島よしおのように「そんなの関係ねえ!」って、やっぱり、ロマンですよ。実際にベネズエラでは一部の人がハイパーインフレ対策でビットコインを使ってるようですし。

    Hyperinflation Produces Surge In Bitcoin Trading In Venezuela

    まあ、未来を選べるのであれば、スーパー中央集権っぽいフェイスブックのリブラ(Libra)よりは、分散化されたディファイに身をゆだねたくなる気持ちはわからなくもない。

  • 暗号化通貨のロマンであるDeFi(ディファイ)を理解する「なんでディファイ?」

    暗号化通貨のロマンであるDeFi(ディファイ)を理解する「なんでディファイ?」

    何がビットコインやブロックチェーンをここまで盛り上げてきたのか?それは、ロマンだと思うんですよね。暗号化通貨のロマンは二つあります。まず、お金持ちになりたいロマン。そして、自由になりたいロマン。そのロマンにみんな集まってきました。

    しかし、「お金持ちになりたいロマン」はすでに終わったようです。ビットコインは2017年12月に最高値をつけ、2018年に急落し、2019年に入ってようやく復調の兆しを見せていますが、それでも2017年のレベルにはまだまだ届きそうにありません。イーサリアムに至っては復調の兆しすら見えません。高いボラティリティは失われました。

    今回は暗号化通貨の「自由になりたいロマン」に焦点を当てて、最近話題になっているDeFi(ディファイ)を前編/後編に分けて解説します。今回は「なぜディファイ? (Why DeFi?)」です。その技術で得た自由でどうしたいの?

    なお、次回は「なにがディファイ? (What is DeFi?)」です。Daiステーブルコインの話とかを期待している人は、後編まで待ってください。そういう話は検索すればいっぱい出てきますし。

    ロマンのツールとしてのDeFi(ディファイ)

    「お金持ちになりたいロマン」は終わりつつありますが、「自由になりたいロマン」としての暗号化通貨とブロックチェーンは続いています。ビットコインもイーサアムもまだまだ改善を続けています。そして、リバタリアン(完全自由主義)のツールとしてのブロックチェーンを体現する動きがディファイで、政府と金融機関に集中管理された既存の金融システムから独立した分散化金融を目指しています。ディセントラライズド・ファイナンス(Decentralized Finance) の略称です。

    普通の人たちは今の金融システムで十分満足していますよね。日本円を使ってて困ったこととかほんとんどないでしょ?アメリカに住んでいる人も米ドルで困ったことはほとんどないと思います。今のシステムの中でもモバイルペイメントとか、やることだって山ほどある。なんでディファイ?そこにロマンを求める人たちがいるからです。

    ディファイの思想:リバタリアンのおさらい

    政府からどれくらい自由になるべきか。その立ち位置を表す言葉がたくさんあります。政府の役割が多い方がいいと思う人は「リベラル」、政府の役割が少ない方がいいと思う人は「コンサバティブ」に多い気がします。リベラルは政府の役割を強めて社会保障を厚くする方向に向かいがちですし、結果的に税金が高くなる。コンサバティブは政府の役割を弱めて民間企業にその役割を委ねる方向に向かいがちですし、結果的に税金が安くなる。政府の役割が強い極端な例が「コミュニズム(共産主義)」で、昔の中国やロシアがそれに当たります。政府の役割がない極端な例が「リバタリアン(完全自由主義)」です。

    長い歴史の中で、政府の役割は変わってきました。なるべく干渉しないレッセ・フェールの時代もありましたし、なるべく管理するニューディールの時代もありました。今は政府はなるべく干渉せずに自由市場に委ねる新自由主義の時代です。その方向性に影響を与えているのがリバタリアンです。

    リバタリアンの思想にはいい面と悪い面があります。映画『スターウォーズ』に例えれば、同じリバタリアンでもジェダイもいますし、シスもいます。フォースという力を操る意思によって、いい思想にもなれば、悪い思想にもなります。

    自由を守るジェダイとしてのリバタリアン

    ボクたちの暮らしは監視されています。え?何かの陰謀説?いえいえ、違います。例えばブラウザでWebサイトを開けばクッキーで自分たちの行動はトラッキングされます。アマゾンがオススメ商品を提案できるのも、グーグルが入力する検索キーワードを予測できるのも、行動データを蓄積して、それを人工知能を使って分析しているおかげです。ボクたちの行動データは商品として取引されています。ショシャナ・ズボフは”The Age of Surveillance Capitalism”で、これを「監視資本主義」と名付けました

    Gmailで送るメールも、Amazon Echoに語りかける声も、FacebookやTwitterの投稿や「いいね」も、すべて個人にひもづく行動データです。LINEだって同じですよ。だって、みなさんログインして使ってますよね?クッキーだけだと技術的に個人にまでひもづけることは難しいです。しかし、ログインさえしていれば簡単に個人を特定できます。

    自由を担保するにはプライバシーが大切だとリバタリアンは考えます。ブロックチェーンを生み出したサイファーパンクたちの最初の動きは追跡されない暗号化技術です。政府の監視から自らを守る武器が暗号化技術でした。

    政府による監視が単なるパラノイアや被害妄想ではなく、現実に起きていることだと教えてくれたのがエドワード・スノーデンでした。そして、それが民間企業にまで広がっていると分かったのがケンブリッジ・アナリティカのデータ流出事件でした。ボクはそれをきっかけに本当にフェイスブックとグーグルのChromeやめましたもの。フェイスブックの暗号化通貨のリブラ(Libra)なんてディストピアしか予見できません。

    このような監視資本主義の中で生活する上で、自分のプライバシーを守る手段は少ないのが現状です。安全なブラウザを安全な設定で使うとか、Signalのようなメッセンジャーを使うくらいでしょうか。なるべく使わないようにすると言っても限界があります。ブロックチェーンを使った分散型の仕組みであれば、プライバシーの流出を気にする必要がなくなります。それが現実的なのかどうかは別にして「ロマン」があります。

    悪の帝国としてのリバタリアン

    格差の元凶

    世の中は監視資本主義であり、同時に格差社会でもあります。この格差社会の原因は政府の管理を最小限にして市場原理にゆだねる新自由主義だと言われています。政府が干渉しないということはセーフティーネットもないということですからね。そして、新自由主義を強く推進してきたのがリバタリアンです。代表がノーベル賞を受賞した経済学者のミルトン・フリードマンですし、企業家として愚直に実践してきたのがコーン兄弟です。なんか、いきなりダークサイドが現れてきましたね。

    格差の拡大は先進国で広く見られる現象で、「ウォール街を占拠せよ」などの運動につながりました。新自由主義が台頭した1980年代から現在まで格差は広がり続け、アメリカの上位1パーセントの収入は平均275%増加しました。この辺のデータはトマ・ピケティの研究でも明らかになっています。

    南米のチリは新自由主義を実践して経済的に急成長しました。「チリの奇跡」と呼ばれています。軍事クーデターで政権を得たピノチェトの下で実際に高い成長率を記録したのですが、同時に経済格差も広がりました。一方で同じく南米で急速な経済成長を果たしたブラジルは労働党出身で思想的にはかなりリベラルなルーラ政権下で貧困層向けの家族手当であるボルサ・ファミリアを実施して、経済成長と格差縮小を同時に実現しました。実は貧困層に向けた現金支給は貧困層向けの減税よりも効果的だと主張したのもミルトン・フリードマンだったりします。リバタリアンのフリードマンがリベラルな政策を提言したりするのは面白いですよね。

    それはそうと、経済成長と格差。アナンド・ギリダラダスも”Winners Take All”で指摘していますが、富裕層は貧困を問題化することに積極的ですが、格差を問題化することには消極的です。貧困に目を向けさせて、格差からは目をそらそうとします。これがリバタリアンのダークサイドです。

    日本でもどこまでが自己責任で、どこまでが社会の責任なのか、が議論されますよね。自己責任論はどちらかといえばリバタリアン的なモノの見方です。セーフティーネットとかベーシックインカムみたいな社会的弱者保護はどちらかといえばリベラル的なモノの見方です。どっちが正しいということはなく、バランスなんですけどね。

    闇取引の元凶

    もう一つのリバタリアンのダークサイドが闇取引です。お金の流れを政府が把握したいのには訳があります。犯罪に利用されないためです。お金の移動は中央で記録されています。だから本人確認義務(KYC)は金融取引にはとても大事なのです。そこで、犯罪者はお金の出自がわからなくなるように資金洗浄(マネーロンダリング)をします。

    これまでに明るみに出た麻薬などの違法取引をするダークウェブで最大のものはシルクロードです。そして、このシルクロードの首謀者であるロス・ウルブリヒトもリバタリアンでした。このシルクロードで使われたのが暗号化技術のTorであり、ビットコインでした。

    で、なんでディファイ?

    ビットコインなど暗号化通貨は単なるツールであり、善も悪もありません。それはディファイにも言えることです。悪い奴らに悪用されるかもしれないのに、なんでわざわざそんなものを作るんだ?そう疑問に思うこともあるでしょう。そこ答えは簡単ではありません。そんなこと言ったらインターネットだって悪い奴らに悪用されますしね。ツールってそういうものです。

    技術は善悪関係なしに進歩していくものですし、いまは「それがロマンだから」としか言いようがないですね。それでも、これからディファイを世に広めようとするのであれば、リバタリアン的なこの技術のいい面と悪い面をちゃんと理解した上で、悪用されないようにするにはどうしたらいいのかを考える必要があると思います。

  • なぜブロックチェーンは自由なのか|第三回:自由からも自由になったイーサリアム

    なぜブロックチェーンは自由なのか|第三回:自由からも自由になったイーサリアム

    今回の特集はブロックチェーンです。第一回目はブロックチェーンが生まれる背景となるサイファーパンク第二回目はサイファーパンクとビットコインをつないだハル・フィニーの話でした。サイファーパンクもそこから生まれたビットコインもアメリカの完全自由主義が背景にあります。ある意味、完全自由主義に縛られていた面もあるかと思います。そして、アメリカの完全自由主義からも自由になったのがロシア生まれのカナダ人であるヴィタリック・ブテリンのイーサリアムなのかもしれません。

     

     

    なぜビットコイン/ブロックチェーンは自由なのか

    サイファーパンクから生まれたビットコインは必然的に自由を求めます。

    サイファーパンクはリバタリアン(完全自由主義者)の集まりでした。 完全自由主義は権威主義の反対ですね(下のノーラン・チャート参照)。アメリカでは選挙権を持つ10%から20%が完全自由主義者と言われています。さすが自由の国アメリカ。「権力は腐敗する、絶対権力は絶対に腐敗する (Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely.) 」が彼らの信念です。

    名前がリベラルに似てるので勘違いされがちですが、リバタリアンはリベラルと全く違います。リベラルは「大きな政府」で、保守は「小さな政府」をよしとします。リバタリアンはは全く政府のない状態を理想とします。日本は与党も野党もリベラル(大きな政府と社会保障)なので、なかなか理解しづらいコンセプトだと思います。

    サイファーパンクの人たちが政府の干渉を嫌い、暗号化技術で自由を勝ち取ろうとしたのはこのような背景があります。

    ロシアから来た少年

    ヴィタリック・ブテリンはモスクワで生まれ、6歳の時の両親とカナダに移住しました。ヴィタリックがビットコインと出会うのは2011年、17歳の時です。父親のデミトリーはエンジニアでスタートアップを立ち上げていました。その父親から教えてもらいました。まだビットコインが誕生して2年しか経っていませんでした。その頃はオンラインゲームのWorld of Warcraftにハマっていて、興味は持てなかったそうですが、徐々に他の人からもビットコインについて聞くようになり興味を持ちました。

    ヴィタリックはビットコインのブログで記事一つあたり5BTCで記事を書くことになります。これでビットコインのTシャツとか買ったそうです。しかし、このブログはすぐに破綻してしまいます。当時はそれほどビットコインに関心を持つ人がいなかったからです。

    それでもビットコインの情熱を失わなかったヴィタリックは2012年に最初のビットコインメディアであるBitcoin Magazineをミハイ・アリジエと共に立ち上げます。

    イーサリアムの立ち上げ

    2013年にサンノゼで開催された暗号化通貨のイベントがヴィタリックにとって大きな転換期となります。ここで多くの人と関わり、実際のプロジェクトを体験することで暗号化通貨の可能性を確信し、次の学期に大学を中退します。大学を辞めたヴィタリックはイスラエルやアムステルダムなど世界中にいる暗号化通貨の関係者を訪れます。そして、多くの人たちがやろうとしているビットコイン2.0は上手くいかないと考えるようになります。

    ビットコインはセキュリティーの関係上、その上にアプリケーションを作りにくくなっている。ビットコインの上に何かを作るのではなく、新しいものを作らなければいけない。ヴィタリックは早速トロントに戻り、ホワイトペーパーを作成。15人の友人に送りました。これがイーサリアムになります。

    イーサリアムとリバタリアン(完全自由主義)

    ピーター・ティール

    ピーター・ティールはPayPalの創業者として有名で、イーロン・マスクを含むPayPalギャングの親分格とされています。最近ではデータ分析企業でユニコーンのパランティアの共同創業者としても有名ですよね。彼が立ち上げたベンチャーキャピタルのFounders Fundは大量のビットコインを購入して資産を大きく増やしました。そして、ピーター・ティールは生粋のリバタリアンでもあります。

    暗号化は完全自由主義者、AIは共産主義者 by ピーター・ティール *1
    “Crypto is libertarian, AI is communist”by Peter Thiel

    そして、ヴィタリック・ブテリンは2014年にピーター・ティールの立ち上げたThiel Fellowshipのフェローの一人として10万ドルを受け取り、これを元にイーサリアムの開発を本格化します。ちなみに、これを受け取れるのは学校をドロップアウト(中退)した若者だけです。

    その後、ヴィタリックと創業チームはクラウドファンディングで1800万ドルを調達し、翌年の2015年7月にイーサリアムをローンチします。

    スマートコントラクト

    イーサリアムの特徴の一つがスマートコントラクトです。ビットコインがサイファーパンクによるイノベーションの集大成だったのと同様に、イーサリアムもサイファーパンクのイノベーションを活用しています。スマートコントラクトもその一つです。

    スマートコントラクトの名付け親はサイファーパンクのニック・サボです。1996年にネットワーク上のプロトコルとしてプログラムされる「スマートコントラクト」のアイデア”Smart Contracts: Building Blocks for Digital Markets“を発表し、1998年にはそれを使った暗号化通貨Bit Goldのアイデアを発表します。このアイデアはすぐに実現しませんでしたが、暗号化通貨はビットコイン、スマートコントラクトはイーサリアムで実装されます。

    ビットコインは人間が使う暗号化通貨で、イーサリアムはマシンが使う暗号化通貨です。暗号化の思想の根幹にあるのが人間の自由なので、暗号化は人のためにあり、契約も人のものなんですね。イーサリアムはそこから一歩踏み出した形になります。

    ヴィタリック・ブテリン

    イーサリアムはあらゆる意味でリバタリアンの血を引き継いでいますが、そこから適当な距離も取ってもいます。ヴィタリック自身もリバタリアンではありません。ウラジミール・プーチンを含む多くの政治家たちと会う機会があり、概ねよい印象を持ったそうです。むしろ、暗号化通貨のコミュニティーの諍いに辟易しているようでもあります。

    ビットコインはサイファーパンクの思想を強く引き継いでいます。これはこれで良いことなのですが、しなやかさを失う部分もあります。イーサリアムはそこから一歩引いた立場にいるため、思想に縛られないところがあります。例えばThe DAOのハッキングでハードフォークをすることに決めましたが、賛否両論あるものの、このような判断ができたのも理想より現実をとるしなやかさのためだと思います。

    イーサリアムでブロックチェーンもようやく「自由」から自由になれたんですね。

    参考文献

    Bitcorati Interview Series : Vitalik Buterin – Head Writer, Bitcoin Magazine – YouTube

    The Abelard School | Toronto Private School | Canada | – ALUMNI

    The Rise of Smart Contracts : Hodl the Moon

    Who is Nick Szabo, The Mysterious Blockchain Titan – unblock.net

    Cryptocurrency Might be a Path to Authoritarianism – The Atlantic

    Here’s Why Billionaire Peter Thiel Said ‘Crypto Is Libertarian, A.I. Is Communist’ | Inc.com

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    *1:ちなみにパランティアのデータ解析はAIではなくAIと人の解析を組み合わせたIntelligence Augmentationです

  • なぜブロックチェーンは自由なのか|第二回:ハル・フィニーとビットコイン

    なぜブロックチェーンは自由なのか|第二回:ハル・フィニーとビットコイン

    ブロックチェーンやビットコインについては技術面やビジネス面の解説がたくさんされています。しかし、その背景にある「自由」や関わる人たちの情熱はあまり理解されていません。

    多くの人はブロックチェーンやビットコインにビジネスの可能性を感じて惹きつけられているのだと思います。それ自体は悪いことではありません。でも、コインチェックやマウントゴックスのような事件がある毎にブロックチェーンやビットコインの背後にある理想主義も理解していてほしいと思うんです。なによりも自由が欲しかった。

    開発者として、アマチュアアスリートとして、夫として

    ハル・フィニーは1956年にカリフォルニア州コーリンガで生まれます。1979年にカリフォルニア工科大学を卒業して、フィル・ジマーマンが立ち上げたPGPに入社します。そして、同じ年にフランと結婚します。

    ハルは2011年に引退するまでPGPに在籍します。アメリカでこれほど長く同じ会社に勤めるのはすごく珍しいことです、特にIT業界では。ずっと同じ場所で、同じことを続けました。フィル・ジマーマンはPGPの成功にハル・フィニーの献身は不可欠だったと振り返っています。

    ハル・フィニーは良き夫であり、アマチュアのアスリートでした。妻のフランと多くのマラソン大会に参加しました。ハルはどちらかといえば長距離走が得意で、フランは中距離が得意でした。一緒に走ってもハルが少し長く走ることになりました。しかし、フランの方が長く走ることになります。

    サイファーパンクとの出会い

    サイファーパンクのムーブメントは90年代から活発化します。ハル・フィニーは1991年にサイファーパンクに出会います。そして、ハル・フィニーは1992年のサイファーパンクのニュースレターに以下のように書いています。

    これは明らかなことだが、私たちはプライバシーの喪失の問題に直面している。薄気味悪いコンピュータ化、巨大なデータベースに中央集権。(DigiCashを開発した)チャウムは全く別の方向性を見せてくれた。その道は政府や企業ではなく、個人が自分自身の手で力を持てる。コンピューターは人々を自由にし、その自由を守るために使うことができる。人々をコントロールするためでなく—ハル・フィニー

    エリック・ヒューズの『サイファーパンク宣言』では「サイファーパンクはコードを書く」と書かれています。そして、それを実行したのはハル・フィニーでした。エリック・ヒューズとハル・フィニーは共同でプライバシーを守るためのメールシステムであるremailerをPerlとCで開発します。例えばスノーデンのような人がNSAの秘密をremailerを使ってパブリックに流しても、追跡して個人を特定することができなくなります。

    サイファーパンクにはビットコインでも使われるプルーフ・オブ・ワーク(PoW)を開発したニック・サボもいましたが、ハル・フィニーはそれを発展させて再利用可能なプルーフ・オブ・ワーク(RPOW)のプロトタイプを開発しています。これがビットコインのPoWの先駆けとなります。

    サトシ・ナカモトから最初のビットコインを受け取る

    2008年にサトシ・ナカモトは暗号化のメーリングリストにビットコインのアイデアとホワイトペーパーを投稿します。多くの約束が実現されなかったことでサイファーパンクの熱気は過ぎ去った時期でした。そのため、多くの人はビットコインのアイデアに懐疑的でした。

    しかし、ハル・フィニーはRPOWを開発したばかりだったので、ビットコインに興味を持ちました。サトシ・ナカモトとハル・フィニーはメールでやり取りをしながらビットコインのバグフィックスをしていきます。サトシ・ナカモトからテストでビットコインが送られてきて、ハル・フィニー自体も自分でマイニングをしてみました。

    マラソンのゴール

    ハルとフランは2009年のアナハイムで開催されたディズニーランド・ハーフマラソンに出場します。二人のタイムは1:59.27でした。そして、ハルにとってはこれが最後のレースとなります。この前月、サトシ・ナカモトから最初のビットコインを受け取ってから9ヶ月後にALSと診断されました。アイスバケツチャレンジで有名になったこの病気に現在でも有効な治療法はありません。

    私たちは30年も結婚してたんだから一緒に50周年を祝えるはずだって思ってた。ハルはきっと私より長生きすると思ってた。彼は健康だから。私がおばあちゃんになったらハルが面倒をみてくれるって思ってた—フラン・フィニー

    今でこそビットコインの価値は上がりましたが、当時はまだそれほど価値がありません。貯えももらったビットコインも治療費で消えていきます。それを支えてくれたのはビットコインのコミュニティーでした。Wiredのアンディー・グリーンバーグが寄付を呼びかけます。

     ハル・フィニーはALSと診断され、体が動かなくなってもコードを書き続けました。ハルは走れなくなりましたが、フランを応援し続けました。フランにとってはハルがたとえ走れなくても一緒にマラソンにくてくれることが大事でした。フランにとってハルは良きコーチであり、それは技術的なことではなく、精神的なことだったのです。

    参考文献

    Bitcoin and me (Hal Finney)

    Dying Outside – Less Wrong

    The cypherpunk revolution

    Meet Hal Finney, the Man Who Received the First Ever Bitcoin Transaction

    In Finney home, Fran gives care, quality of life to husband Hal — Presidio Sports

    RPOW – Reusable Proofs of Work

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  • なぜブロックチェーンは自由なのか|第一回:ビットコイン前夜のサイファーパンク

    なぜブロックチェーンは自由なのか|第一回:ビットコイン前夜のサイファーパンク

    今回の特集はブロックチェーンです。サイファーパンクからイーサリアムまでカバーする予定です。ブロックチェーンやビットコインについては技術面やビジネス面の解説がたくさんされています。しかし、その背景にある「自由」や関わる人たちの情熱はあまり理解されていません。

    金盾やGFWの例をとって「中国のインターネットを管理されてる!」と言われることが多いですが、実を言えば私たちのインターネットも管理はされてないですが、監視はバッチリされてますからね。

    暗号化と監視

    暗号化はもともと主に軍事用に使われていました。初期の暗号化はカギがひとつしかありませんでした。閉めるカギと開けるカギが同じだからです *1。カギが見つかったら全ての情報が漏れてしまう。そうならないためにはカギの受け渡しには安全に受け渡しができる仕組みが必要でした。そういうことが出来るのはCIAのような諜報機関や軍隊だけでした。

    そして、閉めるカギと開けるカギを別にする方法*2がイギリスの政府通信本部の盗聴部門によって1973年に編み出されました 。これは長らく公表されることなく、政府機関のみで利用されていました。

    Street art by Banksy(クレジット:ロイター)

    暗号化と自由

    共通鍵に関する技術はMITとRSAが特許を持っていました。これを自由化するのがフィル・ジマーマンです。PGP(Pretty Good Privacy)というソフトウェアとして1991年に実装しました。これまでの暗号化技術と違い、諜報機関や軍隊のようなパワーのない普通の人たちも使えるものでした。しかし、政府はこれを危険視してPGPのアメリカの国外輸出を禁止しました。

    せっかく自由を手に入れたエンジニアたちは黙っていません。暗号化技術のエンジニア達はPGPのソースコードを紙に印刷して書籍の形にしてヨーロッパに輸出しました。ソフトウェアと書籍は違う法律で管理されていたからです。書籍には「表現の自由」が適用されました。フィル・ジマーマンは5年間FBIに追いかけられることになります。

    暗号学者たちの望みは非常にシンプルなものでした。郵便ですでに獲得しているプライバシーと正当性を電子メールでも実現したい。紙に書いた手紙を郵便で送っても中身は検閲されません。しかし、電子メールの場合は検閲できてしまう。実際にエドワード・スノーデンの告発でNSAによる個人情報収集のシステムPRISMがバレてしまいました。基本的に、インターネットで何をやってるか見られてますからね。ちなみにスノーデンは日本オタクで、日本のことをめっちゃ心配してくれています

    サイファーパンクと自由

    PGPが開発される前、デビッド・チャウムは1983年に匿名性の高い暗号化通貨のDigiCashを作り、1985年に論文「身分のないセキュリティー:権威を必要としない取引システム “Security without Identification: Transaction Systems to Make Big Brother Obsolete”」を発表します。ビットコインより随分と前の話です。そして、これがサイファーパンクの起源とされています。サイファーパンクは暗号化による匿名性が高い技術を元にした社会的、政治的な変革を目指すムーブメントでありグループでした。

    しかし、DigiCashの問題点は中央管理されることでした。そこで、サイファーパンクたちは非中央集権的な方法を模索しはじめます。また、ハッシュやPoWなど重要な技術を発明していきます。

    エリック・ヒュー、ティモシー・メイ、ジョン・ギルモア(トップ画像の三人。1993年にサイファーパンクとしてWiredの表紙を飾った写真を編集したものです)もサイファーパンクのムーブメントの中にいました。三人は毎月ジョン・ギルモアのオフィスで集まりました。そしてサイファーパンクに関するメーリングリストをはじめます。そして三人は「サイファーパンク・マニュフェスト」を発表します。これは暗号化と自由の関係を理解するのに非常に重要です。ちなみにWiredの記者の何人かもこのグループの一員だったらしいので、このような特集が組まれたんでしょうね。

    プライバシーは秘密主義とは違う。プライベートなことというのは世間に知られたくないことで、秘密というのは誰にも知られたくないことだ。プライバシーというのは選択的に自己開示する力のことをいう。(原典:A Cypherpunk’s Manifesto 日本語訳:ビットコインに実は40年の歴史【サイファーパンク宣言を読む】全文和訳掲載

    このサイファーパンクの集まりには後のブロックチェーンやそのアプリケーションであるビットコインの開発に重要な役割を果たす人たちが参加します。

    サイファーパンクの名付けの親はサイバーパンク系の雑誌として有名だった『Mondo 2000』の編集者だったジュード・ミルホンでした。

    参考文献

    From Cypherpunk to Blockchains – YouTube

    The cypherpunk revolution

    Bitcoin History: From the Cypherpunk Movement to JPMorgan Chase – YouTube

    フィル ジマーマンのホームページ

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    *1:技術的には対称鍵(Symmetric Key)と呼ばれるものです

    *2:技術的には非対称鍵(Asymmetric Key)や共通鍵(Public Key)と呼ばれるものです

  • ビットコインを使うUXプロセス(暗号化通貨の支払いシステムを開発から学ぶ)

    ビットコインを使うUXプロセス(暗号化通貨の支払いシステムを開発から学ぶ)

    原文:”Cryptocurrency payment UX process” by Samantha Shaibani

    暗号化通貨は技術コミュニティーの中でも外でもとてもアツいトピックです。興味と意識が高まる中で、暗号化通貨に多くの人が引き寄せられています。

    多くの人がウォレットをダウンロードして、ビットコインやイーサリアムなど暗号化通貨を購入しています。多くの人は投資と考えていますが、実際に暗号化通貨を使って何か買うことができるのでしょうか?結局のところ、暗号化通貨は通貨で、それを使って何か買うことをできるのでしょうか。

    この記事は以前に書いた記事”crypto wallet MVP“での私たち(Joseph Guerra, Brandon Fancher, Garren DiPasquale, Sam Shaibani) の活動の続きです。私たちはデジタル通貨のウォレットから支払いシステムにピボットして、開発することにしました。そこから学んでいきます。開発するシステムの名前はマルシェ(Marché)です。フランス語で商人という意味です。いいでしょ、ウィ(oui)?

    マルシェはWebサイトで簡単なものを買うことができます。ブロックチェーンのはじまり「ジェネシスブロック」のコーヒーマグとか。私たちの目的は使いやすくて満足のいくユーザーエクスペリエンスのデジタル通貨支払いシステムです。私たちは自分たちが経験した三つのプロセスを共有したいと思います。

    パート1:学ぶ

    私たちの仮説は「デジタル通貨をすでに持っている人はそれを使いたい」でした。すでに似たようなシステムはありますが、それがうまく活用されているのか、実際に利用しているのかがわかりませんでした。

    Earnで調査

    Joeは Earn.com を利用してデジタル通貨の利用と動機について調べました。Earnは回答者に現金またはビットコインで受け取ることができるので、私たちにとって素晴らしいツールでした。

    過半数以上の人 (93%) はデジタル通貨を投資目的で所有していました。そして、多くの人 (83%) はデジタル通貨で何か買うことに前向きでしたが、半分の人 (49%) が実際にデジタル通貨で何かを飼った経験があるだけでした。最後の質問は「どうしたらデジタル通貨を使いますか?」というオープンな質問で、詳細なフィードバックを得ました。 Joeは回答を以下のように分類しました:

    この調査では「利便性」(28%) が最も重要だとわかりました。次が割安感、価格の安定、売り手が受け付けること、暗号化通貨でしか買えないものと続きます。これらの結果からさらなる疑問が生まれました。

    どうすればモノを買いやすくなる(利便性が高まる)?スクリーンの数を少なくすればいい?QRコード?満足いくアニメーション?ステータスの可視化?

    利便性はユーザーエクスペリエンスにフォーカスすることで解決できそうな問題のようです

     手数料、税金、個人情報、最先端な感じと答える人はあまり多くなかったのには少し驚きました。おそらく、利便性に比べるとニーズとしては高くないのでしょう。暗号化通貨の特徴を強調することでデジタル通貨での買い物における使いやすさ、セキュリティー、利便性を改善することができるかもしれません。

     これらの調査の結果はマルシェの開発をするための調査を継続する正当性となりました。

     もし興味があれば、オリジナルのデータはこちらにあります。

    競合調査

     競合調査では暗号化通貨を支払い方法として採用しているeコマースサイトのチェックアウトのプロセスを研究しました。実際には Coinbase CommercePursePayBearそしてEtsyです。

     このチェックアウトプロセスのデザインの調査でEtsyのショップの一つがデジタル通貨を扱って支払いをシミュレートするのを見つけました。そこで、イーサリアムのパーカーをカートに入れ、いくつかのステップののちにチェックアウトすることができました。確認画面が表示され、メールが送られてきましたが、支払いの情報は全く入力していません。特にやることはなさそうだったので、そのまま普通に暮らしていました。

     数日後にイーサリアムのパーカーが出荷されたという出荷確認がメールで送られてきました。特に売り手から連絡はなく、私が実際に支払いしてないことを知らないのかもわかりません?わお。

     私たちは売り手はデジタル通貨を受け取るオプトインをしなければいけないことを知っていました。しかし、それは支払いを回収するのには十分な情報ではありませんでした。

     悪のデザイン反対運動の推進者として私たちは売り手にコンタクトをして状況の説明しました。予想通り、売り手は何も状況を理解していませんでした。売り手は支払いがされたかわかりませんし、無償で商品を送っているかもわかりません。ウォレットのアドレスをメッセージで送ってくれたので、BitPay を使って支払いを完了しました。

     私たちはこの得られた知識を善意と適切なデザインを議論する目的で共有しています。支払いシステムを悪用しないようお願いします。善良であってください。

    EtsyのショップオーナーにGoogle Formを使ってアンケート

     この経験をしてEtsyの他の売り手にもデジタル通貨を受け入れるエクスペリエンスのフィードバックをもらいたいと考えました。私たちは5つの質問で構成されるシンプルなアンケートをショップのオーナーに送りました。

     調査で分かったのはネイティブでデジタル通貨をサポートしていない貧弱な支払いシステムがチェックアウトで使われているということでしたが、それでも売り手は引き続きデジタル通貨を受け付けていく意向があるということでした。

     これによりマルシェの方向性を検証することができました。これこそまさに私たちが提供しようとしていたものですから。チェックアウトの間にスキャンして支払いを直接サイトに送ることです。

    売り手と会話する

     言葉を広めて支払いの受け入れについてフィードバックをもらう素早い方法として、近くのコーヒーショップやファーマーマーケットに行って売り手と直接話をしました。デジタル通貨は真のピアツーピアの支払い方法なので、ファーマーマーケットで試してみる価値はとても大きいです。人と人の取引で、中間業者がいません。

     私たちが話をしたほとんどの人は Square のPOSを使ってApple PayとGoogle Payを受け付けていました。そこで「ビットコインは扱ってないんですか?」と聞いたところ、回答は「いや」か「それってApple Payで扱ってるの?」か「ビットコインって何?」でした。そこで、デジタル通貨のことを説明して、売り手と買い手のメリットについても説明しました。

     Earnでの調査を振り返って考えると、売り手の受け入れについてどう考えればいいでしょうか?もっと見えるようにする必要があるし、市場での加速も必要そうです。改善の余地は大いにありそうです。でも、どうやってメリットについて伝えればいいでしょうか?

    パート2:開発してみる

     私たちは取引のプロセスがどのようになるのかを理解したいと考えました。そこで、機能するプロトタイプの開発をはじめました。これは自分たちで支払いシステムのプラットフォームが開発できるという技術的な仮説検証でもありました。

     これはブロックチェーンのユニコーンがチームにいることで初めて可能になることがわかりました。例えばBrandon Fancherのように。彼が機能するバージョンのマルシェを作り、ユーザーテストをすることが可能になりました。

     マルシェはReact *1ベースのWebアプリケーションでHeroku *2上のNode.js *3Express *4でホストされています。Bitcore-wallet-service *5、階層的決定性ウォレット(HD wallet:hierarchical deterministic wallet)とBIP39の暗号を解読するBIP39ニューモニック(BIP39 mnemonics)を使ってビットコインキャッシュ(BCH)での支払いを処理します。ビットコイン(BTC)は手数料が安いので選びました。そして技術スタックによってビットコインキャッシュ(BCH)に簡単に変換できるからです。

    フローチャート

     JoeとBrandonはユーザーとの接点の鍵となるユーザーとテクニカルのフローを作りました。この俯瞰的な視点はUXの改善点の発見に役立ちました。特にプロセスをもっと便利にできる部分です。これは時間が経つにつれて変わることを意識しています。

    パート3:実際の人(と猫)で試してみるニャー

     私たちはマルシェをデジタル通貨とビットコインの取引について知識がある人(と)で試してみました。

     私たちの究極的なゴールはパパやママが使えるくらい簡単なものをデザインすることだったので、(最初は)その複雑さを十分理解していてデジタル通貨のタッチポイントを理解している人からフィードバックをもらうことにしました。ハイテク好きのペルソナで私たちのMVPの最初のアーリーアダプター層です。

     これが意図的に「ジェネシスブロック」のマグカップを選んだ理由です。そうすることでクリプト信奉者を集めることができると考えました。

     この機能するプロトタイプでマルシェを試すために朝のコーヒーセッションを開催しました。完全に機能するわけではないですが、これは学びの実験で、多くの面白いことを学ぶつもりでした。

    The Workarounds

     デザイナーの観点で見るとデジタル通貨のユーザービリティテストは全く異なったものでした。理想的には単にユーザーにプロダクトを渡してそれを観察したいところでしたが、今回はもう少し手助けが必要でした。

     テストしてくれる人たちに実際のお金を使ってもらうわけにはいかないので、取引をするのに十分なビットコインキャッシュがあるBitPayウォレットが入った私のスマホを渡しました。BitPayのユーザービリティーをテストしていないので、これは完璧なシナリオとは言えませんでした。BitPayを使っていない人には、少し慣れが必要でした。

     少し歪曲された結果になることはわかっていましたが、私たちは完全な取引をするためにこのようなやり方をする必要がありました。それでも最初期にこれほど多くのことが学べたので、これはこれでいいのです。

    チェックアウトのフロー

     チェックアウトのプロセスをテストしている時、どの個人情報をマルシェが求めているのか、いないのかで混乱があることに気がつきました。

     現実の世界では送り先の住所を入力して、支払いの住所が同じか違うか確認をします。支払いの住所の確認のステップがないことに気がついたユーザーは私たちがこのステップを入れるのを忘れたのだと考えました。

     もちろん、忘れていません。暗号化通貨で支払い処理をする場合、支払い住所は必要ないのです。なぜなら、支払い住所などないのですから。ウォレットに住所はリンクされていません。

     これはユーザー教育とステップを通じての明確さがさらに必要だということです。情報がないこと、どうしてないのか。これらはユーザーのセキュリティーに関する見方を軽減します。ね、おもしろいでしょ?

    ビットコイン(BCH)からアメリカドル(USD)に

     そして、ユーザーがビットコインキャッシュの額とそれに対するアメリカドルの価値を見たときに混乱することが観察できました。マルシェはユーザーが考えるようにデザインされています。これはいい取引レートなのか?なんで二つのコストがあるのか?もっといい取引レートになるまで待ったほうがいい?Amazonのような伝統的な取引ではアメリカドルの額を見て特に考えることなく続けます。

     たとえデジタル通貨の考え方を理解した人であっても、テストセッションでは混乱しました。知らないわけではないのです。単にクレジットカードを使ういつもの慣れたやり方と違うからです。つまり、この分野に慣れた人でも使い勝手の問題に遭遇することを学ぶことができました。まだまだ改善の余地があります。

    次のステップ

     私たちはアンケートをたくさん送って、動くプロトタイプを作って、人とユーザビリティーテストをすることによって多くを学びました。これがMVPの目的であり、UXのプロセスです。

     私たちはマルシェを立ち上げ、プロモーションをして、実際のユーザーで試す計画です。そしてもちろん、オーダーしてくれた人にはマグカップを送ります!

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    *1:JavaScriptのフロントエンドライブラリー

    *2:PaaS(Platform as a Service)と呼ばれるサービスで、アプリケーションを実行するためのプラットフォーム

    *3:環境非同期型のイベント駆動のJavaScript環境

    *4:Node.js向けのMVCフレームワーク

    *5:BitPayのライブラリ

  • ブロックチェーンとエストニアの情報連携基盤『X-Road』の違い

    ブロックチェーンとエストニアの情報連携基盤『X-Road』の違い

    原文:”There is no blockchain technology in the X-Road” by Petteri Kivimäki (Nordic Institute for Interoperability Solutions)

    最近、X-Road(エストニアの情報連携基盤*1 )はブロックチェーンを基盤としたテクノロジーだと説明する記事を複数見かけました。または、内部的にブロックチェーンを使っていると。それが事実なのかどうか検証したいと思います。

    ブロックチェーンとは

    ブロックチェーンは今年の流行語の一つで、テクノロジー分野で最もアツいとされています。ブロックチェーンは2009年に最初の暗号化通貨として立ち上がったビットコインの基盤技術として知られるようになりました。それ以来、ブロックチェーンは暗号化通貨だけでなく、様々なビジネス分野やユースケースに適応されるようになりました。

    ブロックチェーンは分散化されたパブリックデータベースで、取引情報をチェーン上に保存して、改ざんから守り、データの整合性を保証します。ブロックチェーンはP2Pネットワークでそれぞれのノード(エンドポイント)は平等で全てのノードの完全なブロックチェーンのコピーが保存されます。ブロックチェーンに保存されたデータはネットワークに参加している続く全てのブロックを変更して複製されない限り、変更することはできません。この仕組みによりブロックチェーンのデータ改ざんは非常に難しいものになっています。

    取引データはブロックチェーンにおいてマークル木*2の形式で保存されます。連続するブロックはお互いにリンクされ、チェーンを形成します。それぞれのブロックは、その前のブロックの暗号学的ハッシュを含み、最初のブロックからチェーン上のブロックの順序と整合性を確認することができます。この仕組みにより、チェーン上の取引データの監査と確認をすることができます。

    ブロックチェーンは中央集権ではないため、新しいブロックが追加される前に参加するノードの合意が必要となります。これは合意プロトコルまたは合意機構によって行われます。最も一般的な合意機構はProof of Work (PoW) とProof of Stake (PoS)です。

    X-Roadとは

    X-Roadはオープンソースのデータ連携レイヤーで、組織がインターネット上でデータ連携することを可能にします。X-Roadは中央管理された情報システム間の分散統合レイヤーで安全に標準化されたサービスの提供と消費の方法を提供します。X-Roadはデータ連携をする双方の匿名性、整合性、互換性を保証します。 

    サービスプロバイダー(例:基本レジストリ)とそれを消費するコンシューマー(例:Webポータル)のアイデンティティはX-Roadのオペレーターにより集中的に管理され、全てのデータ連携はデータのコンシューマーとプロバイダーの間で直接行われます。データ連携の証拠はデータ連携した双方のローカルストレージに保存されます。第三者はアクセスできません。タイムスタンプと電子署名によってX-Roadからおくらえレウデータの否認不可を保証しています。

    X-Roadはバッチ処理による署名とタイムスタンプをサポートしています。バッチ処理による署名は添付を含むメッセージのために作られます。バッチによるタイムスタンプとは最後に作られたタイムスタンプから遡ってバッチ処理によって非同期に作られるタイムスタンプです。バッチ処理によるタイムスタンプはタイムスタンプサービスの負荷を削減するために利用されます。署名とタイムスタンプの両方の機能はマークル木とバッチ中にメッセージをハッシュチェーンを通じてリンクされるメッセージプロセスを元にしています。ハッシュチェーンを使うことで任意のメッセージが特定のバッチ処めいの一部だと確認することができます。しかし、異なるバッチと含まれるメッセージの間にリンクはなく、バッチ処理された全てのメッセージを全てリンクはされていません。

    セキュリティーサーバーは全ての署名とタイムスタンプがバッチ処理されたメッセージをメッセージログデータベースに保存します。ログの記録はディスクに定期的に保管され、データベースからは削除されます。メッセージログのアーカイブは以前にアーカイブさたメッセージに依存し、このチェーンは異なるアーカイブファイルに続きます。これによりメッセージログのアーカイブファイルは一つのセキュリティーサーバーにあるメッセージのチェーンを構成します。つまり、メッセージのアーカイブファイルはチェーンを破ることなく変更することができなくなります。

    X-Roadはブロックチェーンを基盤としているか?

    ブロックチェーンは非中央化された分散データベースで、合意プロトコルを通じて更新されます。ネットワーク上の全てのノードは平等で、データベースの完全なコピーを所持します。データベースに格納されたブロックは暗号学的ハッシュ機能でリンクされます。

    X-Roadのセキュリティーサーバーに格納されているメッセージログのアーカイブファイルは一つのセキュリティーサーバーで処理された全てのメッセージを含みます。メッセージは暗号学的ハッシュ機能でリンクされています。ファイルはローカルで保管され、ファイルをホスティングしているサーバーはファイルを作成する必要があります。それぞれのセキュリティーサーバーはそれぞれユニークなメッセージのチェーンを持ちます。それ以外のX-Roadのエコシステムメンバーはファイルにアクセスできません。

    ブロックチェーンとX-Roadの共通点はデータをリンクする暗号化ハッシュ機能です。それ以外はあまり共通点はありません。それは目的のユースケースが異なるからです。暗号化ハッシュ機能はブロックチェーンが生まれる前から存在しました。暗号化ハッシュタグをブロックチェーンでもX-Roadでも使っていることで、X-Roadがブロックチェーンを基盤としていることにはなりません。自転車も自動車も車輪があります。しかし自動車が自転車の前にあったからといって、自動車は自転車を元にしていると言いません。ブロックチェーンとX-Roadにも同じことが言えます。

    上記からX-Roadはブロックチェーンを基盤としていないと言えますし、内部的にも使っていないと言えます。

    解説

    この記事はThe Nordic Institute for Interoperability Solutions(略称:NIIS フィンランドとエストニアが共同で設立)がX-Roadとブロックチェーンの違いを解説したものです。

    X-Roadはもともとエストニア政府が開発した情報連携プラットフォームで、MITライセンスのもとにオープンソースとして公開されています。海外でも使われていて、2018年2月にはフィンランドのX-RoadとエストニアのX-Roadが接続されました。

    この記事にもありますが、X-Roadとブロックチェーンを混同する記事が日本でも見受けられます。確かにエストニアはブロックチェーンの公共サービスへの活用にも積極的ですが、その基幹システムとも言えるX-Roadは違うんですよ。

    カタパルトスープレックス なかむらかずや

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  • コインベースが作るオープンな金融システムは集約型か分散型か?

    コインベースが作るオープンな金融システムは集約型か分散型か?

    原文:”Is Coinbase creating a centralized or decentralized financial system?” by Brian Armstrong

     最近、ひとりの社員から私たちのような集約管理型の企業がどのようにオープンな金融システムを作るのか質問がありました。

     これはとてもいい質問で、私はこう答えました。

    人々は以下の二つ両方が必要となる:

    1. 暗号化通貨の入手(これは集約管理される傾向にある)
    2. 暗号化通貨の利用(これは分散管理される傾向にある)

     コインベースはこの両方をカバーする商品を提供していて、最初の段階(暗号化通貨の入手)は次の段階が起きることを可能にします。

     暗号化通貨はいくつかの段階を経て一般に浸透していきます。

     投資段階では暗号化通貨の価格情報を期待してそれでお金を儲けようとします。現在の活動の90%はこの分野で、中央集約化された取引所で行われています。

     利用段階では暗号化通貨はdapps(分散アプリ)などを通じて実際の商品やサービスの対価として支払うことに使われます。現在の活動の10%はこの分野で、主にウォレットなどで分散化(ユーザー管理)された方法で行われています。

     別の言い方をすれば、投資段階で十分な人を引き付けることによって利用段階が活性化することになります。ツールのために来て、ネットワークのために居続ける(Come for the tool, stay for the network)戦略*1です。

     法定通貨*2と暗号化通貨の交換は集約的になります。これは伝統的な金融システムと取引をする必要があるためです。例えばCoinbaseGDAXはあなたの銀行とつながることによって暗号化通貨を買いやすくしています。つまり銀行や監督省庁と緊密に連携して最も準拠したシステムを作っています。これを実現するにはそれぞれの国の「実世界」とやり取りをする必要があります。

     暗号化通貨同士のウォレットはそれと比較すればもっと分散化されています。ユーザーが自分の資産を管理します。例えば、ToshiCoinbase Commerceではユーザーがウォレットを管理することができます。

     上記のテーブルにそれをまとめましたが、例外もあります。例えば、分散化取引所や中央集約型のウォレットは(現時点では広く普及していないものの)それぞれ特有のメリットがあります。

     ポイントとしてはオープンな金融システムには中央集約型と分散型の商品があるということです。例えればインターネットサービスプロバイダー(中央集約)とブラウザー(分散)の関係にも似ています。インターネットのエコシステムには両方必要です。一方が他方より優れているという考え方は誤った二分法です。両方必要だからです。

     Coinbaseはオープンな金融システムを促進するために集約型と分散型の両方の商品を提供し続けます。

    訳者からの解説

     暗号化通貨(仮想通貨)が一部の投資愛好家のためのニッチな分野で終わるのか、それとも広く一般的に利用されていくのか。日本ではコインチェックの事件で市場は冷水を浴びた状態になっていますが、ここからどう立ち上がっていくのか注目していきたいと思います。

    なかむらかずや

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    *1:ネットワークを1から作り上げる戦略の一つ。シングルプレーヤーモードのツールで人を集めてネットワークを形成するやり方

    *2:日本円やアメリカドル – 暗号化通貨の用語ではFiatという

  • コインベースの創業者/CEOがAirbnbを辞めて起業した理由

    コインベースの創業者/CEOがAirbnbを辞めて起業した理由

    ソース:”20VC: MOST DOWNLOADED FOUNDER EPISODE OF 2017: BRIAN ARMSTRONG, FOUNDER & CEO @ COINBASE” by The Twenty Minute VC

    ざっくり言うと

    • なんでAirbnbを辞めて起業した?
    • ビットコインとイーサリアムの違いは?
    • ICOについてどう思う?VCをディスラプトする?

     The Twenty Minute VCのポッドキャストでコインベースの創業者でCEOのBrian Armstrongのインタビューをやっていました。コインベースは世界で最も成功している仮想通貨関連スタートアップで、仮想通貨関連で初めてユニコーンとなりました。コインベースを起業する前はAirbnbでソフトウェアエンジニアとして働いていました。

     

    なんでAirbnbを辞めて起業したんですか?

    • 2010年にAirbnbでソフトウェアエンジニアをやっている時。Hacker Newsを見ていた時にサトシ・ナカモトの論文が出てきた。クリスマスの夜にそれを読んだ。すごく興奮した。
    • 夜や週末を使ってミートアップをやったりコードを書いたりした。まだその時は起業しようなんて考えていなかった。周りの意見を聞いても自分に自信を持てなかった。
    • 実際に起業をしようと思ったのは2012年の夏にY Combinatorに参加してから。もらえるのは150K(1600万円くらい)だけど、このアイデアを信じてくれて投資してくれる人がいるという事実が自信につながった。お金をもらったことよりも自信をもらったことが重要だった。

    参考:コインベースの初期のピッチデッキ

    ビットコインとイーサリアムの違いは?

    • コインベース自体は特定の暗号化通貨に偏ることはない。これからも新しい暗号化通貨が出てくると思う。それを踏まえながらビットコインとイーサリアムの違いは三つ。
    1. スケーラビリティの違い(イーサリアムの方がスケールできる)。ビットコインは1秒で3から7の処理しかできないが、イーサリアムは1秒で17から25の処理ができるし、シャーディングなどでさらに処理速度を速める計画がある。ビットコインはコミュニティーが一枚岩でなく、スケーラビリティに関して意見が分かれている。
    2. 使われている言語の違い(イーサリアムの方が複雑なことができる)。ビットコインでは四則計算くらいしかできないが、イーサリアムは完全なプログラミング言語が備わっている。安全性の問題など色々と懸念されているが、開発者にとっては強力なのがイーサリアム。
    3. 関わっているチームの違い。ビットコインもイーサリアムもスマートな人たちの集まりだが、文化の違いがある。ビットコインは初期から参加している人たちが多い。理想的な動機を持っている。イーサリアムは技術集団で何ができるか可能性を探るのが好き。

    ICOについてどう思う?

    • ICOはイーサリアムブロックチェーンの上にトークンを発行してそれを売ることで資金調達をすること。ICOはIPOを想起させるからあまり好きな言葉じゃない。トークンセールとも言われるけど、そっちの方が個人的にはしっくりくる
    • 長期的には色々な可能性があるが、短期的には試行錯誤が続くと思う。ガートナーのハイプ・サイクルをたどる。

    ICOはベンチャーキャピタルをディスラプトする?

    • 現在のベンチャーキャピタルは資金調達と付加価値サービス(アドバイスやコネクション)がバンドルされている。両方価値があるものだけど、バンドルされる必要があるかは疑問はある。
    • 将来的に(クラウドファンディングやICOなどを使って)アーリーアダプターから資金調達をして、アドバイザーには株式を与えるなどすることは可能かもしれない。

    スケーラビリティの問題についてどう思う?

    • スケーラビリティは技術的な問題より政治的な問題が大きい。これは分散化の特徴でもあるのだけれど、いまのビットコインの状況は分散化のために生産性が損なわれているように見える。
    • 技術的に見ればTwitterやYouTubeをスケールさせる方がブロックチェーンをスケールさせるよりずっと難しい。技術的にはクレジットカードのトランザクションに追いつくのは十分可能だと思うし、摩擦を減らすことでユーザービリティに関してはクレジットカードをはるかに超えることができる。

    Airbnbで学んでコインベースで応用していることは?

    • Airbnbでは多くのことを学んだ。多くの経験をコインベースで活かしていて、その一つは人の採用。求める人材の基準を高く持つこと。企業が大切にしている価値を基準とすることなど。
    • ミッション・ドリブン(create an open financial system for the world)な企業というのもAirbnbとコインベースの共通点。それを全体会議や様々なコミュニケーションチャネルで伝えるようにしている。

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