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  • いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その3)

    いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その3)

    eコマースはスケールのビジネスなので寡占化しやすい業種ですが、生鮮、家電など独立しやすい分野もあります。アリババとJDが並存しているのもこの理由ですし、アマゾンがホールフーズを買収したのも同様です。個性が重要なファッションも独立して成立しやすい分野で小規模なプレーヤーがたくさん並存します。ちなみに最近だとThe Yeteeで『ガメラ対大悪獣ギロン』Tシャツ(あと、Mother 2のサウンドトラックLP2枚組)、Legion Mで映画『マンディ 地獄のロード・ウォリアー 』のオフィシャルTシャツを買いました、個人的な話ですが。日本だとハードコアチョコレートでよく買います。

    マカロニほうれん荘(ピーマン学園ホワイト) (M)

    このように、ファッションは群雄割拠しやすいeコマースの分野ですが、それでも「普段着はどこかでまとめて」というニーズがあります。それを吸収しているのが日本ではユニクロだし、ZOZOですよね。そんなボクもワードローブのほぼ7割はユニクロかZOZOで買った服です。中国で女性ファッションにおいて同様に役割を果たしているのがモグジェ(蘑菇街)なんだと思います。しかし、そのやり方はユニクロやZOZOとは違うし、アリババとも違います。

    デザイナー創業者

    そのモグジェを2010年に創業したのがチェン・チー(陈琪)です。チェン・チーは2004年にジェージアン大学(浙江大学)卒業後、アリババのC2Cコマースであるタオバオ(淘宝网)でUX/UIデザイナーとして働き、プロダクトマネージャーを務めます。

    アリババは顧客体験を重視していて、デザインセンター(阿里巴巴国际UED)を設立しました。アリペイ(支付宝)などの個別のUED (User Experience Design)のほか、以下のようなライバルのUXとも連携していました。過去形なのが残念なところですが、みんなでベーシックな部分は作って(完了)、後は個別で頑張ろう(現在)ということなんでしょうね。デザイナー的なユートピア思想は中国でも終わっちゃったのかなあ。

    テンセント:CDCISUX

    バイドゥー:MUX

    JD:JDC

    チェン・チーはタオバオのデザインセンター(淘宝UED:こちらも最近は活動停滞気味ですが、フロントエンド開発センターである淘宝FEDは元気です)の立ち上げメンバーの一人でした。そんなチェン・チーもやはり1980年代以降に生まれた「バーリンホウ(80后)」の世代です。実を言えば、2000年前に誕生した中国のeコマースはほぼアリババとJDに駆逐されていて、今再び現れているのは新世代による新世代のためのeコマースプラットフォームだったりします。

    最初の失敗

    チェン・チーと大学時代の友人で共同創業者のウェイ・イーボ(魏一搏)はお互いの家を売り、創業資金を作りました。二人で集めた資金は150万人民元(日本円で2350万円くらい)になりました。家族は家に売るのはまだしも、タオバオのストックオプションが1000万人民元以上(日本円で1億6000万円くらい)が行使されていなかったので、それを全て捨てることにすこし反対されたそうです。とはいえ、創業メンバーはタオバオから引き抜いた優秀チームだったので、それなりに自信があったのでしょう。

    まず、最初に作ったのはモグジェではなく、ジュアンドウワン(卷豆网)というeコマースと19楼Hers爱物网化龙巷といったコミュニティーを繋げて、コンバージョンを最適化するツールでした。しかし、これは失敗してしまいます。実際にコミュニティーからeコマースで買い物に来るコンバージョンがあまりにも低いので、想定していたよりも市場規模が小さいことがわかりました。

    中国のeコマースのコンバージョン率(訪問者が実際に買い物をする率)は0.01%以下なのだそうです。JDやタオバオでも3%前後。だったら、自分たちでeコマースを実践して、どうやったらうまくコンバージョンするのかを証明しようとしてはじめたのがモグジェでした。会社を辞める(2010年2月)、家を売って資金を集める、創業(2010年4月)、コンバージョンツールで最初の失敗、eコマースプラットフォームにピボット(2010年10月)というスピード感。わずか8ヶ月の出来事です。ちなみに、若干似てるなーと思えるZOZOのWEARは2013年5月スタートなので、モグジェの2年半後です。

    アリババの影とモグジェの逆襲

    チェン・チーが注目したのはデザイナー出身らしくユーザー行動です。ユーザーはファッションやショッピングについてオンラインで交流したい、共有したい。ピンタレストに近いですかね。タオバオ、ダンダン(当当)、JD、ファンク(凡客)のようなeコマースサイトで見つけてきたグッズを共有する。それぞれのユーザーがキュレーターになって、モグジェに投稿するという仕組みです。先に説明したように、ファッションのeコマースは寡占化しにくく、群雄割拠になりがちです。モグジェはこの群雄割拠の状態をうまく生かしてコミュニティーを作り上げました。その結果、モグジェでのコンバージョンは6%から8%と非常に高い数字です。

    モグジェの特徴は購買単価が高いことと、モバイルユーザーが多いことです。MobileQuestの調査によると、中国のミレニアル世代であるリンリンホウ(00后)とジウリンホウ(90后)が重要なのがわかります。モグジェの24歳以下のeコマースにおける浸透率は8.1%です。C2CコマースのタオバオとB2CコマースのTMallの両方を持つアリババの浸透率は98%です。モグジェは仲介モデルでタオバオにもトラフィックを送っているので、一概に比較できませんが、それでも浸透率の差は歴然です。タオバオ出身のチェン・チーもそこは熟知しているところです。

    当然ながらアリババはモグジェを取り込もうとしますが、モグジェはその申し出を断ります。アリババは全て自分でコントロールしたいのですが、モグジェはフェデレーションモデルですからね。世界観が全く合いません。その結果、モグジェからタオバオのトラフィックは遮断されました。仁義なき戦いですね。このようなトラフィックの遮断はメイリー(美丽)なども同様でした。モグジェはメイリーとタオシュージエ(淘世界)と経営統合して、新たにメイリーグループ(美丽联合集团)を設立して、モグジェのチェン・チーがグループCEOに就任しました。

    そして、このような状況に救いの手を差し伸べたのがアリババのライバルであり、メイリーへも投資していたテンセントです。テンセント自身は主要なeコマースはありませんが、アリババ帝国への楔となっているJDとピンドゥオドゥオ(拼多多)の株主です。これに加えて、WeChat(微信)がありますので、モグジェのミニプログラムへの展開が期待できます。昨年の実績で見ると、モグジェの売上の31.1%がWeChat経由になっています。

    モグジェは2018年にナスダックに上場しました。eコマースの巨人アリババはタオバオのライブストリーミングで攻勢をかけています。モグジェは同じライブコマースでも多様なエコシステムを取り込んで巨人アリババに挑みます。

    参考文献

    陈琪(蘑菇街创始人)_百度百科

    蘑菇街创始人陈琪:玩票性质的网站居然做大了 – 初创公司 – 创业邦

    QuestMobile泛娱乐用户行为新趋势 | QuestMobile-还原市场真相 助力企业增长

    Meet the man who wants to upend China’s fashion industry with an app called Mogujie | South China Morning Post

    Mogu’s long journey: From rejecting Alibaba’s advances to US IPO – TechCrunch

  • いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その2)

    いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その2)

    古今東西そうですが、ファッションのeコマースではインフルエンサーが重要な役割を果たします。KIMONOを商標登録しようとして物議を醸したキム・カーダシアンとか。タイでピンクが大流行して、オフィスの中でもピンクを身につけている人が多かった時期がありました。タイでは当時の国王だったラーマ9世がファッションリーダーで、一時期ピンクを身につけていたんですね。タイ王室の色は黄色で、普段は黄色い服を着てるからピンクが新鮮だったんでしょうね。eコマースの世界を引っ張っている中国でも同様で、ホンレン(红人)とかワンホン(网红)とかKOL(Key Opinion Leader)と呼ばれるインフルエンサーが重要な地位を占めています。

    MobileQuestの調査によると、中国のミレニアル世代であるリンリンホウ(00后)とジウリンホウ(90后)が重要なのがわかります。そして、その起点となっているのがインフルエンサーです。

    インフルエンサーとブランドの出会い

    中国ファッションのeコマースの世界でいち早くKOLの地位を確立した一人がジャン・ダーイー(张大奕)です。早くから事業化して、ルーハングループ(如涵控股)としていまでは女性服、下着、メイク、家庭用品の四つのジャンルで年商22億中国元(約350億円)のビジネスとなっています。ビジネスモデルは違いますが、日本だとインフルエンサーのビジネスという意味ではUUUMに近いんですかね(UUUMは広告売上が主体)。そんなルーハンの表看板がジャン・ダーイーだとしたら、裏で番頭としてビジネスを支えているのがフェン・ミン(冯敏)です。

    フェン・ミンは「バーリンホウ(80后)」という中国で勢いのある1980年代生まれの世代の一人です。2005年にインターネットのサービスプロバイダー事業をはじめたのが最初の起業でした。しかし、サービスプロバイダー事業はすぐに下火になり、事業を通販ビジネスにピボットします。当時は大流行してナスダックにまで上場した「マイコーリン(麦考林)」から着想した女性服通販でした。そして、ファッションブランド「リーベイリン(莉贝琳)」を2011年に立ち上げました。

    ジャン・ダーイーはフェン・ミンのブランドのモデルをしていました。ファッションモデルとファッションブランド。これが二人の接点でした。ジャン・ダーイーもすでにソーシャルメディアでファンがつきはじめていて、影響力が現れてきた頃です。ジャン・ダーイーのインフルエンサーとしての影響力と、フェン・ミンのファッションビジネスの経験を合わせれば、さらに成長できると二人は考えたようです。そこで2014年7月に舞台をC2Cコマースプラットフォームのタオバオ(淘宝网)に移して、タオバオのトップブランドの仲間入りをしました。

    インフルエンサーエコノミー

    リーベイリンがタオバオ開店初日には、他の店の一年分の売上を1日で達成したそうです。この成功をもとにフェン・ミンは他のインフルエンサーとも協業するようになります。これがルーハンの設立に繋がっていきます。

    当時はライブコマースはまだなかったので、ヨウク(优酷)などの別のビデオプラットフォームを使っていました。解像度も現在ほど良くはありませんでしたが、画像よりは説得力がありました。

    ジャン・ダーイーの率直な物言いがファンとの距離を縮めました。ファンはジャン・ダーイーを「ダーイーマ(大姨妈:おばさん)」と呼び、ジャン・ダーイーはファンを「イージャオベイ(E罩杯:Eカップ)」と呼びました。ファンはジャン・ダーイーの関係はとても親密で、ファンは彼女に離婚のためのドレスを選んでもらったりしました。

    中国のインフルエンサーエコノミーはワンホンジンジー(网红经济)と言います。これを事業化したのがジャン・ダーイーとフェン・ミンのルーハンです。ルーハンはアリババから資金調達した後に、ナスダックで上場を果たしました。

    ルーハンの売上はまだまだジャン・ダーイー頼りなため、第二、第三のインフルエンサーを育成していく必要があります。とはいえ、中国のインフルエンサーエコノミーを築いた功績は素晴らしいものがありますね。

    参考文献

    网红电商孵化第一人-冯敏

    网红背后的成功男人——冯敏,打造出113位网红

    谁在批量制造张大奕?|冯敏_新浪财经_新浪网

    网红张大奕的奋斗史:不当模特做网红,开淘宝店年销售额破3亿

    淘宝第一网红,张大奕背后的真实世界

  • いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その1)

    いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その1)

    アメリカで流行ったサービスがだいたい3年後に日本に来ると言われていました。これがヨーロッパなどだとあまり時差なく入ってくるのですが、日本の場合は言葉の壁もありますし、日本の起業家がアメリカのサービスをパクってはじめるので、時間がかかってしまいました。これはアメリカのシリコンバレーがイノベーションのほぼ唯一の供給地点だった頃の話です。今ではこのバランスがすっかり崩れた感があります。そう、中国の台頭です。

    シリコンバレーは相変わらず重要なイノベーションの発生地点ではありますが、これに加えて中国がイノベーションをリードする分野が生まれつつあります。一つは前回にも特集を組んだモバイルペイメントを含む金融分野ですし、もう一つは今回特集するeコマースです。

    アメリカと中国のeコマース市場の比較

    2018年の中国と米国それぞれのリテール市場は以下の通り。

    中国:売上5.6兆米ドル/伸び率7.5%

    米国:売上5.5兆米ドル/伸び率3.3%

    中国のリテール市場を牽引しているのがeコマースで35%以上の売上がオンラインで上がっています。これに対して米国では10.9%でした。eコマースという観点だけで見れば、中国市場は米国市場を2013年の時点で追い抜いていました。すでに中国市場は世界のオンラインショッピングの総額売上の過半数を超えていて(55.8%)、2022年には63%に達すると予想されています。(参考:Retail Ecommerce Sales in China Forecasts, Estimates and Historical Data | eMarketer

    英語圏のeコマースはアマゾン(B2C)とeBay(C2C)で寡占状態にあります。そして、米国のeコマースの世界的シェアは2022年までに15%まで後退するとみられています。それでも巨大市場ではありますが、広がりが限られたパイの中での競争なので寡占化してしまうんでしょうね。中国でもアリババとJDで過半数以上のシェアを占めているのですが、それ以外のサービスも十分に大きな市場を獲得しているのは注目に値します。例えば先日に米国ナスダックに上場したピンドゥオドゥオ(拼多多)やドウユー(斗鱼)です。単なる中国ローカルなニッチプレーヤーならアメリカの市場で上場できませんよね。メルカリだってスマートニュースだってZOZOだってアメリカでは上場してないんですから。

    規模だけではなく機能も先行する中国のeコマース

    中国のeコマースは市場規模だけでなく、そのあり方も他の市場と比較して先行しています。その代表例がライブコマースではないでしょうか。ライブコマースとはスマホで生放送をしながらショップジャパンやジャパネットタカタのような通販をするサービスです。インスタライブに販売機能がついたような感じです。

    ライブコマースにはいくつかのパターンがあります。

    1. 動画配信サービスからの発展形
    2. eコマースからの発展形
    3. ライブコマース専門サービス

    ライブコマースは元々はライブ配信を通販的に使う人たちが出てきて発展してきたサービスです。日本のニコ生とかツイキャスですね。米国ナスダックに上場したニコ動風の動画配信サービスであるビリビリ(哔哩哔哩)もライブコマースをやっています。

    一番多いのはeコマースからの発展形サービスです。タオバオ(淘宝网)がやってる淘宝直播や女性ファッションコマースのモグジェ(蘑菇街)による蘑菇街直播が代表例です。アリババのタオバオはC2Cコマースでファッション分野では最も影響力のあるインフルエンサーの一人であるジャン・ダーイー(张大奕)のファッションコマース活動のリーベイリン(莉贝琳)もタオバオからはじまりました。ジャン・ダーイーはもう一人の女性ファッションインフルエンサーであるテァン・ユーカーAmiu(滕雨佳Amiu)はモグジェに参入しました。

    蘑菇街直播

    中国でもファッションのコマースにおけるインフルエンサー(红人|KOL: Key Opinion Leader)の影響力は絶大で、それぞれのプラットフォームで人気のインフルエンサーがいます。先のジャン・ダーイーやテァン・ユーカーAmiuもそうですし、クアイショウ(快手)のシャオイーイー(小伊伊)などなど。ジャン・ダーイーは自身のインフルエンサーのマーケティングプラットフォームであるRUHNN(如涵)を立ち上げました。ロゴがアメリカのセレクトショップであるロン・ハーマンに似てるのはご愛嬌でしょう。

    快手

    アメリカをパクればいい時代は終わった

    インターネットとモバイルの時代になり国境よりも言語圏が市場の区分としては適切だと以前にも書きました。インターネットでどれだけ世界がフラットになっても、言葉の壁はまだまだ超えられません。中国は金盾(別名:グレートファイヤーウォール)で隔離されているから参入が難しいという議論も成り立ちますが、そもそもの言語の壁が大きな要素としてあります。言語が違えば、文化が違う。

    さらに経済大国としての中国(中国語圏市場の中心)の台頭がアメリカ(英語圏市場の中心)がイノベーションが伝播する単純なアメリカからの一方通行からより複雑な方向に変化させました。どこかの言語圏で流行ったサービスが他の言語圏でも流行るとは限らない。

    ライブコマースやモバイルペイメントなど中国発のイノベーションがいい例です。中国で起きたイノベーションが単純に他の言語圏に伝播しないのです。中国のサービス(例えばタオバオ)がアメリカで流行らないのはわかります。中国語圏に最適化されたサービスですから、他の言語圏に最適化するのは時間がかかる。そこで、これまでならオリジナルをパクったローカルなサービスができた。でも、今はそう単純にうまく行かない。例えば、英語圏ではAmazonがライブコマースのAmazon Liveを立ち上げましたが今ひとつ。日本語圏でもメルカリがライブコマースサービスの「メルカリチャンネル」撤退を決めました。

  • インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|UPI編

    インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|UPI編

    今回のインドのキャッシュレス特集では、第一回目はインドのeコマースを利用してカバンを買おうとしたらインド特有のクレジットカード事情のためにつまづいてしまったという話。第二回目はモバイルペイメントも使えなかったというお話をしました。

    では、インド特有のUPIとQRコードではどうでしょうか?インドのQRコードは統一されていて、Alipay(アリペイ|支付宝)とWeChat Pay(ウィチャットペイ|微信支付)ではQRコードがそれぞれ違う中国よりずっと便利なんですけどねえ……というのが今回の内容です。

    UPIとは

    ウォレットとUPIの違いですが、ウォレットはウォレットサービスの中にお金をチャージしておいて、それを切り崩して使います。足りなくなったら、チャージします。UPIは統一したインターフェースによって銀行口座と直接繋げることによって支払いができるようにします。簡単に言えばデジタル版のデビットカードサービスです。銀行口座があるんだから、モバイルペイメントだけの特別な口座なんていらないよね?というインド人らしい合理的な考え方から生まれたものです。

    ウォレットって実は意外と不便です。例えばPayPayからSuicaにお金は移せないですよね。ウォレットごとにお金を貯めておかないといけない。UPIだと銀行口座と直結だから銀行口座があればいい。中国のAlipayやWeChat Payのようにクレジットカード機能やキャッシング機能のような銀行口座ではない機能があると違うのですけど。

    UPIの仕組み

    UPI(Unified Payments Interface)は第一回『インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|クレジットカード編』でも登場したインド決済公社(National Payments Corporation of India)が開発したリアルタイム決済システムです。UPIを使うと具体的には以下の五つの方法(インターフェース)で自分の銀行口座とお金のやり取りをすることができます。

    UPIを使うには銀行のUPIアプリをインストールする必要があります。UPIアプリをインストールすると決済用アドレスが割り当てられます。UPIアドレスは “ユーザー名@銀行名” になっています。これに加えてモバイル通貨ID(MMID: Mobile Money IDentifier)が必要になります

    • 仮想決済アドレス(VPA: Virtual Payment Address):仮想決済アドレスと紐づけられた銀行口座とのお金の送金/受け取り。
    • 携帯番号:携帯電話の番号と紐づけられた銀行口座とのお金の送金/受け取り。
    • 口座番号とインド金融システムコード(IFSC: Indian Financial System Code):銀行口座またはインド金融システムコードを使ったお金の送金/受け取り。国際的に使われているのはアイバン(IBAN: International Bank Account Number)ですが、インドは特殊なコードを使います。
    • インドのマイナンバー「アダール」アダールと紐づけられた銀行口座とのお金の送金/受け取り。
    • QRコード:送金に必要な情報(VPA、口座番号、IFSCまたは携帯番号)QRコードで伝えることによりお金の送金。インドのモバイルペイメントのQRコードは各社バラバラではなくてBharatQRという規格で統一されています。これも元締めはインド決済公社(National Payments Corporation of India)です。

    UPIが生まれた背景

    UPIが発表されたのは2016年4月でした。そしてモディ首相が高額紙幣廃止をしたのが2016年11月。以下がUPIに関わる主な出来事のタイムラインとなります。このタイムラインを見ればわかるように、インドの金融自由化はモディ政権以前からゆっくりではありますが徐々に進んではいました。

    2008年12月:インド決済公社(National Payments Corporation of India)の設立

    2012年3月:インドのナショナルブランドのクレジットカードRuPayの誕生

    2014年5月:モディ政権誕生

    2016年4月:UPI(Unified Payments Interface)発表

    2016年9月:統一QRコードのBharatQR発表

    2016年11月:高額紙幣廃止

    2017年4月:銀行間の送金アプリBHIM(Bharat Interface for Money)発表

    しかし、不正や脱税の温床となっていた現金主義から決別するには高額紙幣廃止という荒治療が必要でした。そして、現金からキャッシュレスにシフトするための施策が必要でした。UPIやBharatQR、BHIMなど重要な施策が高額紙幣廃止前後に矢継ぎ早に発表されているのは偶然ではないでしょう。

    UPIをサポートするアプリ

    すでにGoogle PayやWhatsAppなど国際的なアプリがUPIをサポートしています。彼らにとっては非常に都合がいいサービスですよね。UPIをサポートすればモバイルペイメントができるようになってしまうのですから。

    特にWhatsAppはインドでのシェアが高いので、かなりの人はWhatsAppとUPIを使ってお金のやり取りをしていると考えられます。この辺の合理性は本当にインド人っぽいです。

    さらに、UPIをサポートすればQRコード決済もできるようになっちゃうんですから。LINEもインドでUPIサポートすればいいのに。

    で、日本人はUPIを使えるのか?

    念のために改めて書きますが、この連載はインドのeコマースで無事にカバンが買えるのか?という記事です(笑)

    どうやれば支払いができるのかを研究しているうちに、連載するくらいの情報が入手できてしまったので、それを整理して書いています。察しのいい方はお気づきだと思いますが、UPIを使って日本から支払いはできません。だって、インドの銀行口座持ってないですもの。

    (次回は解決編の予定です。え?解決するの?はい、解決しました!)

  • インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|モバイルペイメント編

    インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|モバイルペイメント編

    前回はファッションのeコマースを利用してカバンを買おうとしたらインド特有のクレジットカード事情のためにつまづいてしまった話でした。

    今回はクレジットカードが使えないならどうする?という話です。では、クレジットカード以外はどのような選択肢があるのでしょうか。スクリーンショットを見ると、ネットバンキング、ウォレット、UPIとQRコードという選択肢があります。

    インドのモバイルペイメント理解のための前提

    インドは中国とは違います。日本とも違います。まず、これを理解しないといけません。モバイルペイメントの普及には技術と市場の両方が必要です。インドの技術は高いです。日本のPayPayも中身はインドのPaytmです。インドは昔から開発のオフシュアとしてレベルの高い開発者がたくさん育ててきました。

    しかし、市場としてはまだまだ未成熟です。中国のモバイルペイメントの発展の歴史に関する記事でも書きましたが、モバイルペイメントは様々な要素が合わさってはじめて実現します。インドの人口は13億人で中国についで二番目に人口の多い国です。そして、スマホユーザーが3億人強(普及率約23%)です。これが中国や日本と大きく異なる点です。インドは技術は高くても、国内市場はまだまだ発展途上なのが特徴です。

    インドでのモバイルペイメントの普及率は7.6%です。7390万人だと言われています。中国のモバイルペイメントの普及率は98%(日本は6%)だそうなので、中国と比べると大きな開きがあります。日本と同様で、まだまだ小さな市場に群雄割拠で小さなプレーヤーも含めてしのぎを削っているのが現在のインド市場です。

    インドのウォレット

    ウォレットアプリとはお金をアプリにチャージしておいて、それをQRコードなどで使うアプリです。中国のAliapay(アリペイ|支付宝)やWeChat Pay(ウィチャットペイ|微信支付)みたいなものです。日本のSuicaもウォレットですね。インドで最も普及しているウォレットアプリといえばPaytmだと思います。しかし、今回のオンラインショップで採用されているペイメントゲートウェイのRazorpayではどうやらPaytmやOxigenはサポートされていないようで、PayZapp、Ola MoneyとFreechargeのみ利用できます。

    Paytm

    2016年の高額紙幣廃止からUberやインド鉄道がいち早く採用するなど、急速に伸びたサービスがPaytmです。ちなみに日本のPayPayの基礎技術はPaytmです。インドのAlipayやWeChat Payといったポジショニングです。Alibaba(アリババ|阿里巴巴)やソフトバンクが主要株主です。800万のオフライン加盟店を獲得していて、インドの街を歩いていればPaytmのサインを見かけることは多いかと思います。

    RBIからオンラインバンクとしては最初の認可を受けて決済銀行であるPaytm Payments Bank Limitedを設立しています。この辺り、中国と全く同じ流れですね。

     

    MobiKwik

    MobiKwikはPaytmの次にシェアを獲得しているモバイルペイメントですが、こちらもRazorpayではサポートされていません。MobiKwikもUberに採用されているモバイルペイメントです。

    MobiKwikの拡大チャネルはeコマースとのパートナーシップで、オフラインから拡大したPaytmとの差別化ポイントとなっていました。でも、今は同じですけどね。

    Oxigen Wallet

    Oxigen Walletもインドで人気のあるモバイルペイメントの一つだと思うのですが、Razorpayではこちらもサポートされていません。実はインドで最初にモバイルウォレットを発表したのはPaytmではなくてOxigenでした。

    PayZapp

    PayZappはHDFC銀行が提供しているウォレットです。インドの銀行は1969年にほとんど国有化されました。1990年代からインドでも銀行業が自由化されはじめ、新しい民間の銀行が生まれました。HDFC銀行(The Housing Development Finance Corporation Limited)もその一つで1994年に設立されました。

    それでも、国有銀行の方がまだまだ大きく、インドの4大銀行(インドステイト銀行/ICICI銀行/パンジャブ国立銀行 /バローダ銀行)もICICI銀行を除いて全て国有銀行です。HDFC銀行は挑戦者の立場なので、ウォレットのPayZappだけでなく、P2P決済のChillrなど新しいテクノロジーの採用に積極的です。

    とはいえ、状況はまだまだ厳しいといえます。4大銀行の一角であるインドステイト銀行(SBI)のウォレットアプリであるBuddyは2018年11月にサービス終了しました。まだまだ未成熟なインド市場でHDFC銀行がどこまで頑張れるか。

    Ola Money

    Olaはインドで最も有名なタクシーアプリで、Uberとしのぎを削っています。中国でいえばDidi( 滴滴出行)のような存在。そのOlaが提供するウォレットアプリがOla Moneyです。AlibabaがDidiに出資してAlipayとの連携を深めたように、タクシーや映画館のような日々オフラインで利用するサービスの決済とウォレットアプリの相性は非常にいいです。

    Freecharge

    SnapdealFlipkartに次ぐ第2位のインドのeコマースサイトで、中国のAlibaba(第2位だからJD.comか)のような存在です。実際にソフトバンクやAlibabaから投資を受けています。このSnapdealが2015年に買収して組み込んだモバイルペイメントがFreechargeです。Alibabaの例もありますが、eコマースも当然ながら決済サービスと相性がいいです。

    しかし、2017年には大手民間銀行のアクシス銀行がSnapdealからFreechargeを買い上げました。アクシス銀行は新興の民間銀行で、PayZappを提供しているHDFC銀行の直接的なライバルとなります。

    で、問題は解決した?

    察しのいい方はすでにお分かりでしょうが、インドの銀行に口座を持たない日本人はこれらのインドのモバイルペイメントは利用できません。つまり、まだカバンは買えないのです!ここまで書いておいてなんですが。

    第三回:インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|UPI編

  • インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|クレジットカード編

    インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|クレジットカード編

    ボクはファッションに関してはちょっとしたこだわりを持っています。音楽、映画、アート、ファッションはボクのアイデンティティの一部といってもいい。これに「食」を加えた五つにはオタク的なこだわりがあります。リアルに会って、これらを語らせたら迷惑なほどうるさいです。故に、今回は本題に入るまで前書きが長いです。

    ボクのファッションのこだわりの一つは「ワンポイント」です。色でもアイテムでもアクセントを重視します。そのためには個性的でセンスのいいものが欲しい。個性的でセンスのいいアイテムは海外のオンラインショップで買うことが多いです。すみません、持っている人が増えると困るので、ここでは具体的なブランド名は書かないです。それらを身に付けていると「いいね、それ。どこで買ったの?」とよく聞かれます。聞かれれば、ちゃんと答えます(笑)。アクセントだから目立つんですよね。ちなみに、靴だけは日本のブランドで、スピングルです。アクセントになるアイテム以外はユニクロやZOZOのお世話になっています。ARIGATO会員はマジありがたい。

    このブログではあまりボクのこだわりについて書かないのですが、ファッションという個人的なこだわりトピックからスタートしているのには理由があります。

    インドのeコマースでカバンを買うための戦い

    最近、ボクのインドの知り合いがカバンのブランドを立ち上げました。ここがスゴイ。センスのいい革の鞄とか一万円しません。コスパ最強です。インド人はもともと色彩センスが素晴らしいのですが*1、そのセンスが最大限に発揮されています。というわけで、すぐにオーダーしたのですが、これがなかなかうまくいかない。その理由はインド独自の決済システムにあります。やっと本題に入りました!

    インドのタンス貯金と現金主義からの決別

    インドは日本と同様に現金主義の国でした。それでも、日本では銀行に預けますが、インドではリアルタンス貯金でした。現金を家に溜め込むのです。その理由は節税です。あ、脱税か。これが一部の特殊な層だけやっていることではなく、一般的な家庭レベルのやり方でした。そのため、つい最近までインドでは決済の90%以上が現金です。日本も現金主義ですが、インドはそれ以上に現金主義です。

    最近はモディ首相も勢いが衰えていますが、彼は近年稀に見るリーダーシップを発揮した政治家です。本当に尊敬しています。そして、モディ首相がまだ勢いのあった時にガツンとやったのが高額紙幣廃止でした。

    2016年11月に突然、タンス貯金として溜め込んだ高額紙幣(1000ルピーと500ルピー:それぞれ1700円、850円くらい)は一定期間内に金融機関に預け入れるか、新紙幣と交換しなくては紙くずになってしまうと発表しました。本当に一部の関係者しか知らない極秘裏に進めたプロジェクトで、ほとんどの人にとって寝耳に水の発表でした。政治腐敗があればこういうことできないですよね。モディ首相はこういうことができるのが本当にすごい。自分たちの資産であるタンス貯金が紙くずになってはたまらないので、インド人たちは銀行に殺到し、結果的に15兆2800億ルピー(約26兆3000億円)が銀行に集まりました。

    この時のことをよく覚えていますが、シンガポールやアメリカに住んでいる友人たちも急いでインドに戻って家のタンス貯金を銀行に預けていました。全く価値がゼロになるよりは税金を払ったほうがマシ。それでも預けきれずに紙くずになってしまった資産もあったそうです。

    インドの急速なキャッシュレス化

    インド人はとても合理的な人たちです。気持ちの切り替わりが早い。これまで現金しか使えなかった店舗で小さな店舗も含めてクレジットカードが使えるようになりました。そもそも、現金を使ってたのは脱税のためですからね。その理由がなくなれば、キャッシュレスの方が便利だから使うよ。

    インドのクレジットカードを海外で使う場合

    しかし、インドのクレジットカードのシステムはインド国外のシステムと若干違います。クレジットカードやデビッドカードは海外への不正送金を妨げるためにRBI(インド準備銀行:インドの中央銀行)によって規制されているからです。

    この規制により、インドの銀行から発行されたクレジットカードは基本的にはインド国内でしか使えません。海外で使う場合は、発行してもらう時に海外で使えるようにしてもらわなければいけません。

    どうしてそのような事がおきるのか?これは中国も同じなのですが、既存の国際ブランドへの警戒感もあるのだと思います。中国では独自のブランドであるUnionPay(2004年から普及開始)があるように、インドにはRuPay(2012年)があり、36%のマーケットシェアを獲得しています。中国のUnionPayが2002年に設立され、実際の普及開始まで時間がかかったように、インドのRuPayもその母体であるインド決済公社(National Payments Corporation of India)が設立された2008年から普及までは時間がかかっています。

    海外のクレジットカードをインドで使う場合

    インド国内で発行されたクレジットカードだけでなく、日本を含むインド国外で発行されたクレジットカードのインド国内での利用もRBIによって規制されています。このため、せっかく店舗でクレジットカードを受け付けていても……”International Cards are not accepted”とバッチリ拒否られます。

    2018年4月にRBIは全ての決済サービス企業に対してインド国内における決済データ全てをインドで保管するよう求めました。つまり、国際ブランドであるVisaやMastercardもこの新しい規制に従わないといけなくなります。Bloombergの記事”Be Fully Compliant With RBI Rules By September“によると2019年9月までにはこの規制に対応して、海外のクレジットカードもインド国内で使えるようになりそうです。でも、それまでどうするの?

    友人のファッションブランドであるTribeではRazorpayという決済サービス(日本だとGMOペイメントゲイトウェイ、海外だとStripeのようなもの)を使っています。Razorpayはインドの決済サービスなので、デフォルト設定ではインドの規制に準拠した設定になっています。つまり、インド国外で発行されたクレジットカードは”International Cards are not accepted”というメッセージとともに拒否されてしまいます。

    でも、そんなことで挫けるボクではありません。欲しいと思ったら欲しいのです。

    第二回:インドのキャッシュレス化(ファッションeコマースの事例)|モバイルペイメント編

    *1:マドラス模様とかインド人のセンスじゃないと生まれないですよね。マドラスは現在のチェンナイです。