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  • 翻訳記事|アトラシアン成長の秘訣、ロータッチ営業モデル

    翻訳記事|アトラシアン成長の秘訣、ロータッチ営業モデル

    How Atlassian built a $20 billion company with a unique sales model | Inside Intercom by Geoffrey Keating via Inside Intercom

    マイクロソフト、オラクル、IBMのような伝統的な法人顧客にソフトウェアを販売する企業は同じようなやり方で営業します。交渉、長い営業サイクル、実際には使わない意思決定者から要求される機能のチェックリストなど。

    しかし、アトラシアンはこれとは全く違うソフトウェアビジネスの成長モデルを見つけました。アトラシアンはJiraやHipChatの開発やTrelloの買収で12.5万ユーザーを伝統的なセールスプロセスなしに獲得しました。

    このような成長はSaaS企業にとって珍しいことです、特異ですらあります。典型的な超成長の道筋は営業活動に多大な投資をし、長期的な顧客生涯価値がの顧客獲得の初期コストを上回って全体的に利益が出ることを期待します。

    アトラシアンは全く違う道筋を作りました。IPO当時、売り上げの19%しか営業マーケティングに使っていませんでした。同規模の企業と比べると全く少ない投資額です。

    もし、これが「真実にしては都合が良すぎる “Too good to be true”」と感じるのであれば、それは間違っていません。他者が営業マーケティングに巨額の投資をする中、アトラシアンは全く違うチャネルに投資をしました。 高速でボトムアップの拡散マシンを10年近くかけて磨きあげました。

    私たちはアトラシアンのプレジデントであるジェイ・シモンズに時間をもらい、アトラシアンでそれがどのように機能してきたのかを聞きました。

    すべては注目すべき”Remarkable”プロダクトからはじまる

    成長を推し進める役割としての「口コミ」はすでに確立されています。

    顧客は「口コミ」が製品購入の意思決定において最も重要だと答えています。創業者は最も重要な顧客獲得チャネルだと言います。それが初期段階でも拡大期でも。しかし、あまり理解されていないのは、セス・ゴーディンの言葉ですが、人々から注目”Remark”されるには、自分自身が注目に値する”Remarkable”にならなければいけません。

    製品が勝手に売れていくのは、アトラシアンの初期の成長の鍵となった発見でした。しかし、いくつかの条件が整った場合に限りです。それは、ユーザーが熱中して自らが伝道師として組織の内側にも外側にも伝えたくなるような素晴らしい製品であることです。製品とマーケティングとユーザーの密接なフィードバックループによって、アトラシアンはビジネスを前進させる非常に効率的なフライホイール(慣性を利用した推進装置:弾み車)を作り上げました。

    「フライホイールは素晴らしい製品作りから始まります。アトラシアンの初期において、私たちは注目に値する”Remarkable”な製品を作る議論をしました。”Remarkable”という言葉を意識的に使いました。私たちは人々が注目”Remark”せずにはいられない製品を作りたかったからです。ここから口コミがはじまります。そして、フリーホイールは顧客にとって意味のある問題を解決する素晴らしい製品でなければ成立しません。そのために顧客にとっての摩擦はなるべく排除するようにしました」ジェイ・シモンズ

    アトラシアンのフリーホイール

    なぜ、ロータッチは21世紀の法人営業モデルなのか

    現在の法人顧客は10年前とは全く違う方法でソフトウェアを調達しています。自分自身を考えてみましょう。Googleで検索して、知人に聞いて、会社の同僚と話をする。私たちは供給が限定的で需要をコントロールしていたサプライヤーの世界から無限の供給がある顧客が全ての力を持つ世界に移行しました。

    この新しい世界では、顧客は全ての知識、意見、を持って営業サイクルの中に入ってきます。すでに自分自身で学んでいます。すでに、フリーミアムのバージョンを使っているかもしれません。そして、獲得するための最良の方法は営業に電話をしてもらうことではありません。最良の方法は製品を利用してもらい、その価値をなるべく早く理解してもらうことです。

    「多くの評価者や顧客にとって、購入サイクルはインターネットによる情報の民主化によってここ10年で大きく変わっています。確かHBRの記事にあったとも思うのですが、65%の購入サイクルはすでに顧客によって完了しているとされています。

    そこで、私たちのフリーホイールは顧客にとっての摩擦を極力減らすことに注力しています。いくらくらいコストがかかるのか、よくある疑問はどういうもので、どのような答えなのか、そしてそれを支えるサービス。そうすることによって私たちの製品の価値が顧客自身で簡単に発見できるようにすると言えるのです。」ジェイ・シモンズ

    ロータッチはノータッチではない

    アトラシアンのアプローチは他のビジネスにとっても魅力的です。正式な営業組織をなくし、間接コストを削減、研究開発への投資を増やすせます。ほとんど魔法のようです。製品をWebサイトにおいて、トラフィックを集めて、奇跡的に全く努力せずに製品が売れていく。

    しかし、「使いやすくていい製品が勝手に売れていく」はSaaSにとっては神話の一つです。ジェイもそこを強調するのに苦慮しています。ロータッチはノータッチではありません。ロータッチモデルでは営業サイクルの初期において営業チームを完全に無くしたり、最小限にすることができます。しかし、アトラシアンでは依然として人の手でロータッチモデルを維持しています。

    「もし、あなたが大企業の顧客でより複雑な課題を持ち、私たちにとっても大きな価値があるのであれば、それを手助けするチームが存在します。エンタープライズ・アドヴォケートです。この組織は4年前くらいからはじめ、大企業の複雑な問題に特化しています。

    しかし、全ての顧客に対してこのモデルで対応すると、12万の既存顧客に5000の新規顧客を四半期に獲得するのは非常に困難になります。私たちはフリーホイールによる効率的なモデルを作り上げることに集中し、顧客が自分自身でサインアップしてプロダクトを使いはじめる仕組みを作らなければいけません。もし、私たちの関与が必要なけらば、それは素晴らしいことです。もし、私たちの助けが必要でしたら、最大限の支援をします。」ジェイ・シモンズ

    透明性の高い価格モデルの利点

    価格のオンラインでの公表に抵抗感を感じるB2Bソフトウェア企業は多いと思います。競合が価格を参考にして下回る値付けをしないか心配になります。大きな商談でもっと価格を上げることができるのではないかと考えます。大企業の顧客が価格交渉の材料にするのではないかと懸念します。

    B2Bソフトウェアの世界でアトラシアンは際立った存在です。彼らの価格ゴールは顧客の決断を助けること。余計な営業プロセスに惑わされず、なるべく簡単に素早くソフトウェアを動かすことができるようにする。クリック、購入、利用。

    「顧客にとって、よくあるつまずきポイントは価格です。価格をWebサイトに明示しないことで、営業にコンタクトさせる。心理的には“顧客を驚かせて逃したくない、なるべく高い価格設定で売りたい、ソフトウェアの機能を説明する前に、顧客の課題を理解して、その解決を提示することで価格の正当性を訴えたい”でしょう。

    私たちのモデルでは、価格が顧客にとってのつまずきポイントにならないように気を配っています。最上位プランにおいてもです。それで速度を上げることができます。大企業の顧客でもWebサイトから1万ドル(約100万円)で10から50人のチームのプランを営業の関与なしに購入することができます。」ジェイ・シモンズ

    ロータッチ営業モデルが全てではない

    ビジネスモデルは事業の成否を決める判断の一つです。間違ったモデルを選べば、始まる前から失敗してしまいます。正しいビジネスモデルを選ぶのは、単に価格のページを変えたり、機能を追加したり、具体的なマーケティング施策を実施したり、営業チームを雇ったりすることではありません。全てのビジネス要素を考慮に入れなければいけません。

    「あなたのビジネスモデルはあなたの市場と、その市場にどのようにアプローチするかに依存します。もし私がワークデイ(大企業向けの人事ソフトウェア)で、世界で最も大きな2000社を市場としてみるのであれば、アトラシアンのモデルは適していません。HRの管理システムは複数導入するものではないので、ワークデイのソリューションの購入はとても大きなトップダウンの決断になります。たった一つを選ばなければならず、人事のトップとCIOがスポンサーとしてつくことでしょう。つまり、コンサルティングが必要となり、非常に営業サイクルの長い商談になるでしょう。まずやってみようのようなモデルではありません。

    創業者として、あなたは全てを考慮しなければいけません。私のアドバイスは”アトラシアンを参考にしてアトラシアンのモデルを採用する”と安易に考えないことです。」ジェイ・シモンズ

    ジェイのアドバイスは明白です。SaaSでサービスを売ろうが、物理的なモノを売ろうが、まずは顧客を理解し、どのように魅力的に感じてもらうかです。そうすることで、ようやくロータッチ営業モデルの適用を判断することができます。

  • PayPalマフィアとユニコーンの系譜

    PayPalマフィアとユニコーンの系譜

    スタートアップの歴史を語る上で避けて通ることができないのがPayPalです。2002年のeBayによるPalPayの1億5000万ドルの買収は、創業者や社員に大きな富をもたらしました。それがPayPalマフィアと呼ばれる創業者たちになっていきます。PayPalがなければテスラはもちろんのこと、YelpもYouTubeもありませんでした。

     

    PayPalマフィア

    まず、PayPalマフィアについて。PayPalの初期メンバーはその後にさらにスタートアップで成功させています。イーロン・マスク やピーター・ティールといった創業者だけでなく、チャド・ハーリ/スティーブ・チェン/ジョード・カリム(YouTube)、ジェリミー・ストッペルマン(Yelp)、リード・ホフマン(LinkedIn)など錚々たる顔ぶれです。

    PayPalマフィアの系譜

    PayPalはインターネットが伸びるドットコムバブルの初期に設立され、ドットコムバブルが崩壊した後にeBayに買収され無事にエグジットしました。少なくとも、eBayに買収される前まではとても革新的な会社でした。グロースハックのパイオニアでしたし、アリババのビジネスモデルはPayPalのそのままパクリだったりもします(PayPalが失敗したモデルを成功させたアリババもすごい)。

    ピーター・ティール(CFO > Chairman)とマックス・レフチン(CTO)

    ピーター・ティールとマックス・レフチンはPalm Pilot向けのセキュリティーソフトを開発するConfinityを立ち上げます。しかし、これはあまりうまく行かず、Palm Pilot向けのウォレットを開発し、これがPayPalとなります。PayPalは最初はモバイルペイメントのサービスだったんですね。

    Palm Pilot

    しかし、Palm Pilotという特定のプラットフォームだけではマーケットも限られているため、Webのプラットフォームに移行しました。

    イーロン・マスク(Chairman > CEO)

    イーロン・マスクが最初に立ち上げたのは街のローカル情報を提供するZip2でした。Zip2はコンパックに買収されます。イーロン・マスクは2200万ドルを手に入れ、この資金を元手にX.comを立ち上げます。

    X.comはピーター・ティールとマックス・レフチンのConfinityが提供するPayPalに競合するサービスで、さらに銀行として営業をする認可を受けていました。少なくともアメリカでははじめてのオンライン専業銀行でした。最初は競合だったんですね。

    ConfinityとX.comのグロースハック

    eBayは当時伸び盛りのコマースサイトでした。B2CコマースのAmazonと違い、eBayはC2Cコマースなのでユーザー同士による金銭のやりとりが必要でした。そこでよく使われたペイメントプラットフォームがPayPalとX.comでした。

    当時のPayPalのグロースハックはマーケティング責任者だったリード・ホフマン(LinkedInの創業者)が詳しく解説してくれています。

    グロースハック1:インセンティブとリファーラル

    両社はeBay上で顧客獲得のために激しく競争をしました。新規顧客には10ドルを支払い、さらに他の人を紹介してくれた場合は紹介料として10ドルを支払いました。今だとCPA(新規顧客一人当たりの獲得コスト)が高すぎてなかなか取れない戦略ですが、ドットコムバブルがはじける前なのでこのようなバブリーな成長戦略が取れたんですね。

    グロースハック2:埋め込みHTML

    PayPalのようなサービスにとって最終的なコンバージョンはお金の支払いです。では、eBayでのお金の支払いのためにPayPalを使ってもらうにはどうしたらいいか?まずはeBayで目立つようにしないといけませんよね。そこで、出店者がConfinityやX.comのロゴをつけられるように埋め込み用のHTMLコードを用意しました。

    グロースハック3:クローラーと電子メールによるハック

    eBayのWebサイトで目立つだけではまだ足りません。最終的な落札の連絡は電子メールだからです。そこでConfinityはeBayのサイトをクロール(ロボットによる検索)してターゲットとなるオークションを特定し、eBayより早く落札者を特定してメールを送れるようにしました。これぞグロースハックですよね。

    ビジネスモデルの創出

    オンラインペイメントのスタートアップは同時期にたくさん生まれましたが、PayPalはビジネスを成功させることで新しいビジネスモデルを生み出しました。

    また、あまり知られていませんが、マネーリザーブファンド(余额宝)によるアリババのビジネスモデルはPayPalが最初にはじめました。PayPalはMoney Market Fundを立ち上げ、2000年には5.56%の金利を提供していました。ちなみに、アリババの余额宝の2018年の金利は3.6%です。

    しかし、PayPalのMoney Market Fundの金利は2009年には0.23%まで落ち、2011年にはサービス終了しました。リーマンショックは2008年だったので、そこでかなり損が出てしまったのでしょうか。アリババのすごいところはPayPalが失敗したこのモデルを成功させたことです。きっと、なぜPayPalが失敗したのか研究したんでしょうね。失敗を避けるのではなく、学べる組織は強い。

    eBayによる買収

    コマースサイトとオンラインペイメントは切ってもきれない関係です。eBayとしても他人に自分の庭を荒らされるより、自分でペイメントも仕切りたい。そこで、eBayはConfinityとX.comにとっての競合となるBillpointを買収します。そして、ConfinityやX.comの使っていたグロースハックの手法を無効にしたり、色々な対抗策を講じます。

    Confinityにとっての問題は顧客は多いが、キャッシュが少ないこと。X.comにとっての問題はキャッシュは多いが、顧客が少ないこと。お互いの持ってるものと持っていないものが補完関係で、Billpointという共通の敵が生まれたことでConfinityとX.comは合併することにします。これがPayPalとなります。

    お金を持っているイーロン・マスク が大株主で会長(Chairman)、ファイナンスのバックグラウンドを持つピーター・ティールがCFOとなります。ちなみに、ビル・ハリスがCEOになりますが、すぐにクビになります。

    しかし、BillpointというeBayネイティブのペイメントがあるにも関わらず、PayPalのeBayでのシェアは70%まで高まります。そして、eBayはPayPalの競合サービスを独自で展開することを諦め、PayPalを1億5000万ドルで買収することにします。

    PayPalマフィアたち

    2002年のeBayによるPayPal買収によりPayPalで活躍していた人材が自分たちでスタートアップをはじめます。また、エンジェル投資家になったり、ベンチャーキャピタルのパートナーになる人たちもいました。創業者と投資家が同時に生まれたのです。

    多くの元PayPal従業員がスタートアップで成功し、それを支援した元PayPal従業員の投資家とともに彼らはPayPalマフィアと呼ばれるようになりました。

    イーロン・マスクやピーター・ティールはすでに日本でも有名ですので、それ以外の人たちを見ていきましょう。

    リード・ホフマン(COO > LinkedIn創業者)

    PayPalに参加する前にリード・ホフマンはSocialNet.comというマッチングサイトを創業しました。PayPal当時にホフマンの上司だったピーター・ティールによると、SocialNet.comはソーシャルメディアの先駆けとなるようなサイトだったそうです。PayPalではCOOとして外部との関係すべてに責任を持ちました。

    eBayの買収後、リード・ホフマンはLinkedInを立ち上げます。そして、LinkedInは2016年にマイクロソフトに262億ドルで買収され、エグジットします。

    ジェリミー・ストッペルマン(エンジニアリング担当副社長 > Yelp創業者)

    イーロン・マスク の立ち上げたX.comに参加して、Confinityとの合併でPayPalにそのまま参加します。eBayの買収後はハーバード大学のビジネススクールに通いますが、PayPal当時にストッペルマンの上司だったマックス・レフチンに勧められMRL venturesに参加します。そこで再開したPayPalの元エンジニアだったラッセル・シモンズとYelpを立ち上げます。

    元PayPalのCTOでYelp創業者たちの上司だったマックス・レフチンはYelpに投資しました。

    チャド・ハーリー/スティーブ・チェン/ジョード・カリム(エンジニア > YouTube創業者)

    YouTubeの創業者たちもPayPalのエンジニアでした。YouTubeの創業の歴史はいろんな文献があるので各自でチェックお願いします。(そのうち書くかも)

    ルロフ・ボサはピーター・ティールの後にPayPalのCFOになり、eBay買収後はベンチャーキャピタルのSequoia Capitalに参加します。Sequoia CapitalからのYouTubeへの投資担当はルロフ・ボサでした。

    ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

    ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

     

    参考文献

    The History Of PayPal: Important Company Dates | PYMNTS.com

    The Story of PayPal – Bharath Kumar J – Medium

    Reid Hoffman on best strategies, valuable lessons, the PayPal mafia & creating early social networks – YouTube

    How Does a PayPal Money Market Fund Work? | Pocket Sense

    The YouTube Gurus – TIME

  • 書評|グロースハック本の決定版|”Hacking Growth” by Sean Ellis【2018年夏休み読書週間】

    書評|グロースハック本の決定版|”Hacking Growth” by Sean Ellis【2018年夏休み読書週間】

    エリック・リースはリーン・スタートアップを書籍の形で世に出しましたが、グロースハックという言葉を2010年に生み出したショーン・エリスこれまでグロースハックの本を書いてきませんでした。グロースハックはショーンがコンセプトを発表した後に、アンドリュー・チャン(a16zのパートナー)がブログで紹介してスタートアップ界隈で広がりはじめました。そして、ショーン・エリスはGrowthHackersというグロースハックのコミュニティーの運営を始め、そこでノウハウの共有をします。

    今回紹介する”Hacking Growth”はグロースハックの生みの親であるショーン・エリスがはじめて出すグロースハック本です。GrowthHackersのコミュニティーで集まった知見を体系立てて整理しています。ボクも国内外のグロースハック本を何冊か読みましたが、さすが本家本元。決定版と呼ぶに相応しい内容になっています。

    Hacking Growth グロースハック完全読本

    Hacking Growth グロースハック完全読本

    • 作者:ショーン・エリス,モーガン・ブラウン
    • 発売日: 2018/10/02
    • メディア: Kindle版
    Hacking Growth: How Today's Fastest-Growing Companies Drive Breakout Success

    Hacking Growth: How Today’s Fastest-Growing Companies Drive Breakout Success

    グロースハックのフレームワーク

    プロダクトには二つのステージがあります。プロダクトマーケットフィット(PMF)のステージと成長のステージです。

    プロダクトマーケットフィットのステージ

    プロダクトマーケットフィットは「顧客が愛してくれる製品」ということです。製品(プロダクト)と顧客(マーケット)がフィットする。Gmailを生み出したポール・ブックハイトの「ディープアピール」と同じ。この本では”Product Must-Have”と定義しています。これがなければ成長のステージにいけません。どんなグロースハックも意味がない。

    このステージはどちらかといえばリーン・スタートアップが得意とするステージです。多くのグロースハック本もJavelin Boardなどリーン・スタートアップの手法を紹介しているケースが多いです。この”Hacking Growth”でもいくつか紹介されていますが、特に印象深かったのが”Product Must Have Score”です。

    製品の価値を検証せずに開発してしまった製品ってたくさんあります。グロースチームとしてそのような製品を担当した場合どうしたらいいのか?ユーザーに「この製品がなくなったら?」と聞いてみるんです。「ガッカリ」するが40%を超えていたらかなりポテンシャルが高い。20%以下だとかなりヤバイ。フレームワークと合わせて具体的な手法をたくさん紹介しているのもこの本の魅力といえます。

    成長のステージ

    プロダクトマーケットフィットで製品がユーザーに愛されるものだと検証したとに成長ステージがはじまります。ここがグロースハックの真骨頂ですね。この本はパート1で全体的なフレームワークやそれを支える役割や組織を説明した後に、パート2でプレイブックとしてたっぷりと体系立てて考え方や手法を紹介しています。

    そして成長ステージには「言葉とマーケットのフィット(Language Market Fit)」の検証と「チャネルとプロダクトのフィット(Channel Product Fit)」の検証があります。「愛される製品」をちゃんとユーザーに説明できることが「言葉とマーケットのフィット」です。伝わらなければ意味がない。「チャネルとプロダクトのフィット」はそれを実際に届けるチャネルは機能するかということです。届かなければ意味がない。

    このように体系立てて何が大事なのか、どのような順番で進めればいいのか指針をクリアにしているのがこの本のいいところだと思います。

    グロースハックのプレイブック

    後半のパート2では以下の順序に沿って具体的な手法を紹介しています。

    1. 顧客獲得(Acquisition)
    2. 顧客活性化(Activation)
    3. 顧客維持(Retention)

    一番有名なグロースハックのフレームワークであるパイレーツメトリックスのAARRRの最初の三つですね。それぞれの段階でこのように整理整頓してくれているので、わかりやすいです。例えば顧客維持(Retention)でもイニシャル、ミディアム、ロングの三段階で説明しています。

    実技編と言えるこのパート2では実際に使える手法やツールだけでなく、Kファクターなどの測定方法も紹介しています。

    どのような人にオススメか?

    新規事業に関わる人、マーケティングに携わる人、グロースハックに携わる人には読んで欲しいです。ここで紹介されている手法をすでに実践している人も多いと思いますし、考え方も理解しているかもしれません。しかし、改めて整理された形で提示されると多くの気づきがあります。

    経営者にも読んで欲しいです。世の中には「愛される製品」だと検証される前に発売されているプロダクトやサービスがたくさんあります。むしろ大多数の製品は市場調査だけで「ニーズがある」と判断されます。「ニーズ」を仮説としてプロダクトマーケットフィットまで検証したケースなど少ないでしょう。必要とされないものを作るのは無駄です。検証する方法があるのだから、きちんと検証しましょう。

  • グローバルコミュニティーの作り方|第三回:Product Hunt|スタートアップの登竜門

    グローバルコミュニティーの作り方|第三回:Product Hunt|スタートアップの登竜門

    前回に引き続き今回もProduct Huntです。前回はProduct Hunt自身のコミュニティーづくりについてでしたが、今回はProduct Huntを実際に使ってどのようにコミュニティーを作るかを解説します。

    王道の流れはProduct Huntで上位にランクし、主要なメディアに取り上げられるというパターン。ここではProduct Huntの掲載方法と、それを主要メディアにフォローアップして掲載してもらうまでの流れを説明します。海外展開に海外のPR会社を雇う必要ありません。英語さえできれば個人で全部できます。ボク自身もService Dioramaでやりましたので、その経験に基づいて解説します。海外で自分のプロダクトについて知って欲しければ、この方法を試してみましょう。

     

    Product Huntとは

    アメリカ、ヨーロッパ、シンガポールといった英語圏のスタートアップがプロダクトをローンチする時にまず掲載を目指すサイトがいくつかあります。いきなりTechCrunchThe Next WebThe VergeといったメジャーなTechメディアでの掲載は無理です。もっと現実的に考えましょう。Redditの関連Sub RedditやHacker Newsは誰でも投稿できるのでやって損はありません。しかし、Redditはカルマが溜まってないとほぼ無視されますし、Hacker Newsも相当クールでないと無視されます。

    Product Huntは新しいプロダクトやサービスのランキングです。一般の人が掲載、投票します。ランキングは毎日変わって、その日にローンチした面白いプロダクトやサービスを知ることができます。新しモノ好きにはたまらないサイトです。プロダクトをローンチする側からしたらアーリーアダプターの集まりとも言えます。そういう意味ではオーディエンス的にはKickstarterにも似ていますね。

    Product Huntに自分のプロダクトを掲載する

    Product Huntに自分のプロダクトを掲載してもらう方法は二つあります。一つは掲載する権利を獲得して、自分で掲載する。もう一つは掲載する権利を持っている人に自分のプロダクトを掲載してもらう、です。

    自分で掲載する

    Product Huntに新しいプロダクトを掲載する(コントリビューターになる)には一定の条件があって、Product Huntのコミュニティーでの貢献が認められた人だけが掲載できます。明日プロダクトローンチだから今日Product Huntに登録しても、すぐには掲載できる権利はもらえません。

    ボクの場合は掲載できる権利がもらえるまで3カ月くらいかかりましたが、現在はこちらから確認することができます。ただ、最初はフォロワーが少ないので、掲載しても気づいてもらえない可能性があります。

    他人に掲載してもらう

    すでにProduct Huntのコントリビューターになっている人に人に掲載してもらう方法もあります。自分のサービスと似たようなサービスを掲載した人のプロフィールをチェックして、Twitterなどでコンタクトしてみるといいでしょう。その人自身が「あ、これは面白いな」と思ってくれればProduct Huntに登録してくれるでしょう。ボクも掲載できますが、やっぱり自分がいいサービスだと思わないと掲載はしませんね。自分のサービスはすげーからグローバルに知ってほしい!という日本のスタートアップはTwitterでご連絡ください。ただ、あとで説明する事前準備やフォローアップは自分でやってくださいね。

    掲載できる人のフォロワーが多ければ多いほど、たくさん票が入る可能性があります。

    掲載する事前準備

    成功はどれだけ準備できているかにかかっています。例えば、Product Huntに掲載しても上位に入らなければ意味がありません。上位に入っても主要メディアに取り上げられなければ効果は半減です。事前準備は非常に重要です。

    Product Huntで上位に入るための準備

    先ずは掲載された後にランキングで上位に入らなければいけません。できればトップになりたいところです。

    投票してくれそうな人と関係を作る

    Product HuntはRedditと少し似ていて、人によって一票の重みが違います(明示的にそうは説明されていませんが、経験上そう思います)。新しい人よりも常連の一票のほうが重い。自分のサービスに投票している友達を大量にProduct Huntに登録してもらうという行動はよくあります。そういう投票はあまり信用できませんよね。Product Huntを継続して利用している人の方が目利きの信頼性が高いと言えます。そこで、自分のサービスに興味がありそうな人を事前調査して、そのような人たちとコメントやメッセージでコンタクトをすることをお勧めします。

    友人や関係者に投票してもらうことは推奨されていません。注意しましょう。

    Product Huntだけの特別キャンペーンを準備する

    多くの成功しているキャンペーンはProduct Hunt用の特別なランディングページを準備しています。例えば、Product Huntのオーディエンスはほぼ英語圏の人たちなので、英語のランディングページでなければいけません。日本語のランディングページではダメですよ。

    他にもProduct Huntならではのイメージを出すためにGlasshole Kittyを使うこともオススメです。Glasshole KittyはGoogle Glassをつけた子猫のイメージで元々はProduct Huntのファンが作ったものを喜んだProduct Huntのスタッフがオフィシャルなイメージとして採用したものです。

     多くのプロジェクトはGlasshole Kittyを使った特別なランディングページを用意します。もし、プロダクトが有償なのであれば特別なキャンペーンコードを準備してProduct Hunt経由でランディングページに来てくれた場合は特別なディスカウントを提供する場合もあります。

    事前にメディアとコンタクトを取る

    もしProduct Huntで上位になった場合、主要メディアでの掲載を目指します。これもProduct Hunt掲載前に準備をしておくといいでしょう。

    メディアキットを作る

    どのようなメディアにどのようなストーリーで取り上げてもらうのか?何がユニークで何が強みなのか。これが簡単に説明されているメディアキットを作っておきます。スクリーンショットとかイメージ写真も用意してメディアキットに含めましょう。プロダクトを説明するビデオがあればベスト。これらはProduct Huntのプロダクト説明でも使えます。

    プレスリストを作る

    そして、各主要メディアで自分のプロダクトを取り上げてくれそうな記者をリストアップします。スタートアップ、ライフサイエンス、IoTなど記者によってカバー範囲が異なるので、適切な記者にコンタクトをすることが重要です。ハードウェアの記者にソフトウェアを紹介しても無視されるだけです。

    コンタクトする

    コンタクトはTwitterかメールで行います。どの記事を読んで記者を知ったのか(ちゃんとあなたの専門分野と興味がわかってコンタクトしているという意味)、その分野で新しいプロダクトを準備している、ローンチする日(Product Huntに掲載する日)はいつという情報をメディアキットを添えて記者に伝えます。もし興味も持ってくれれば事前に試してくれる可能性もあります。

    返信の可能性が高いのはメールではなくTwitterです、特にDM。対象の記者をフォローしてどのような発信をしているのか知りましょう。そして、返信したりリツイートしたりしましょう。ちゃんと関係性を事前に作っておくことが大事です。ボクの場合はTwitterでメディアリストを作りました。

    タイミングが合わずに掲載にはなりませんでしたが、Product HuntでService Dioramaのローンチ前にThe Vergeの記者と記事掲載に向けた話ができました。

    注意事項:タイムゾーンを意識する

    Product Huntはリアルタイムのランキングです。見て欲しいオーディエンスに見てもらうためにはタイムゾーンを意識する必要があります。英語圏なら先ずはアメリカですよね。そして、アメリカで最初に朝になるのは東海岸(ニューヨークなど)で、イギリスはまだお昼ですね。つまり、東海岸の朝に掲載することが重要です。Product Huntはアメリカの時間で前日のリストがリフレッシュされるので、東海岸でトップに入ればその日は上位を継続できる可能性が高まります。西海岸の朝に東海岸の昼。

    日本だけで働いているとタイムゾーンを意識したプロダクトローンチをしませんが、グローバルでプロダクトローンチをする場合はタイムゾーンを意識する必要があります。

     

  • グローバルコミュニティーの作り方|第二回:Product Hunt|プロダクトのコミュニティーづくり

    グローバルコミュニティーの作り方|第二回:Product Hunt|プロダクトのコミュニティーづくり

    スタートアップのグローバルコミュニティーはStartup Grindなどいくつかあります。その中でも特にオンラインでグローバルに存在感があるのはProduct Huntでしょう。Product Huntは英語のサイトなので日本ではあまり知られていませんが、英語圏ではスタートアップの登竜門とも言える重要なサイトです。

    今回はProduct Huntのそもそもの成り立ちについて解説します。Product Hunt自体はどうやってグローバルなコミュニティーを構築したのでしょうか。また、ZapierやBufferの創業者といったもっと有名な人たちとやっていたStartup Editionはうまくいかなかったのはなぜでしょうか。

     

     

    Product Huntを立ち上げる前、ライアン・フーヴァーは「ギグ経済」に生きていました。「ギグ」とはスポットの小さな仕事のことで、フリーランスがスポットの仕事をしながら生計を立てるスタイルを指します。以前の記事「書評|ソーシャルメディアの協同体|”Ours to Hack and to Own” by Trebor Scholz and etc」でも紹介したように、クラウドソーシングやシェアリング経済による搾取の仕組みは海外では徐々に批判の対象となりつつあります。

    ライアンも自分の価値が時間によってのみ測られる「ギグ経済」に不満を持っていました。そのアウトプットがどのような価値を産もうと1時間は1時間ですからね。ところが、Product HuntのMVPは20から30分、Product Hunt自体は8日間でローンチしています。そして、Angellistによって2000万ドル(約20億円)で買収されます。

    プロダクトのシグナル

    不満があっても具体的なアイデアがなければどうしようもありません。Product Huntのアイデアは「シグナル」という形でライアン・フーヴァーに訪れます。最初のシグナルはMessageMe(後にYahoo!が買収)でのチャットでした。ここに30人ほどの多くの起業家や投資家が集まり新しいアプリやサービスについてチャットしていました。

    そのほかにもオフラインでのシグナルがありました。映画が好きな人たちなら「この前あの映画見た?」のような会話をします。スタートアップが好きなら「あのアプリ試した?」のような会話をします。ある意味テンプレ化した会話ですね。しかし、このようなオフラインではテンプレ化した会話がオンラインではない。これもシグナルでした。

    最初のMVP

    ロンドンのMakeshiftが作ったLinkydinkというシステムで2013年11月に作ったメーリングリストがProduct Huntの最初のプロトタイプでした。ライアンが自分自身でRuby on Railsで作れば数週間かかるところ、Linkydinkを使えば20から30分でできました。

    ライアンはプログラミングもできましたが、どちらかといえばハッカー(デベロッパー)というよりはハスラー(ビジネス)の素養がありました。ライアンはProduct Huntを立ち上げる前にニール・イヤールのベストセラー”Hooked”(邦題:Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール)の執筆を手伝います。そのため、行動心理学に基づいたデザインややり方を採用しています。ゴールは仮説を検証することで、システムはそれを検証するためという割り切りができています。

    Linkydinkで作ったメーリングリストのMVPの目的は「流行りのプロダクトのリストが求められている」という仮説の検証でした。 スタートアップはリスクがたくさんあります。そのため、最初は細かにリスクを取り除いていきます。「早く、安く、多く失敗する(Fail fast, fail cheap, fail often)」のはこのためです。

    結果は素晴らしいものでした。Sequoia CapitalやUnion Square Venturesといった大手のヴェンチャーキャピタルのほか、有力なスタートアップから大きな反応がありました。二週間で170人が新たにメーリングリストに登録しました。この成功の裏にはProduct Huntのアイデアの素晴らしさもありますが、ライアン自身のネットワークもありました。ライアン自身はブログ記事を多く書き他の媒体にもゲストライターとして記事を書いていました。こうしたオンライン上の信頼(Credibility)は何かをはじめる上で非常に重要だと振り返っています。

    LinkydinkでのMVP成功(クレジット:Ryan Hoover)


    プロダクト開発

    MVPで仮説が検証されたため、プロダクトとしてのProduct Huntのローンチの準備を始めます。ライアン自身も開発はできるものの、それほど複雑なことはできないため開発ができる人を見つけるために心当たりのある友人何人かにメールをします。

    その中でいい返事をくれたのがネイサン・バショウでした。

    ライアン「シンプルで技術的な知識がなくてもサクッと立ち上げるにはどうしたらいい?」

    ネイサン「もうすご感謝祭(11月の後半)で実家に戻るから、一緒にやってみる?」

    ライアン「もちろん、スゲーうれしい!」

    そして、8日後にできたのがProduct Huntでした。

    最初のProduct Hunt(クレジット:Ryan Hoover)

     

    当時、ライアンはフリーランスとして他の仕事をしていて、ネイサンもGeneral Assembly(WeWorkの教育版みたいなもの)でフルタイムで働いていました。数ヶ月はお互いにサイドプロジェクトとしてProduct Huntに関わります。

    サイドプロジェクトからスタートアップに

    2014年はProduct Huntにとって転換期となりました。ネイサンが仕事の関係でニューヨークに移り住むことになったのです。ライアンとネイサンはフルタイムでProduct Huntにコミットするか話し合いました。そして、ライアンはProduct Huntにフルタイムでコミットし、ネイサンはサイドプロジェクトのままニューヨークに移り住むことになります。

    スタートアップにフルコミットするのは大変です。安定した職業についていれば特にです。MailChimpも初期メンバーが抜けていますし、Dribbleもフルタイムになるまで時間をかけましたよね。Product Huntでも同様でした。

    Product Huntの場合、2014年7月にAirbnbと同様にY Combinatorのプログラムに合格することでフルタイムでのコミットメントの道が拓けます。さらに2014年の後半には610万ドル(約6億1000万円)の資金調達に成功します。

    コミュニティーの育て方

    ライアン自身はブログやミートアップを通じてサンフランシスコのスタートアップコミュニティーとつながりを持っていました。これがProduct Huntのコミュニティーのタネになります。これにメーリングリストやProduct Huntへの登録によって徐々に増えていきます。ライアンはコミュニティーをはじめる場合、このコミュニティーのタネとなる人達が一定の人数まで集まる必要があると考えています。

    このコミュニティーのタネをライアンは慎重に育てました。例えば、登録したばかりのユーザーはコメントをすることができませんでした。ボク自身もある程度Product Huntでの活動(投票やTwitterでのシェア)を継続的にして、ようやくコメントをすることが認められました。いまではそうでもありませんが、スタート当初はコミュニティーの雰囲気をよくコントロールしていました。

    最初のタネとなる人達はすでになんらかの形で知り合いです。これらの人たちはすでにエンゲージされている状態なので、特別な何かは必要ありません。しかし、新しく参加する人達もいます。ライアンはProduct Huntに登録してくれた人たちに一人一人お礼のメールを書きました。テンプレートを使わず、コピペもせず、一件づつ丁寧に。そして、Product Huntで特にアクティブな人には「Product Huntが好きそうな友達がいたら是非紹介して!招待状を送るから!」とアプローチしました。このようにユーザーを徐々に増やしながらよい雰囲気のコミュニティーに育てていきました。

    コミュニティー管理の問題

    もちろん、登録したユーザーに自動でテンプレ化したメッセージを送ることもできました。しかし、初期のコミュニティーづくりにはこのような手作り感が重要だと考えました。

    また、コミュニティーのサイズが大きくならないようにも注意を払いました。これはライアンとネイサンの二人しかいないので管理が行き届かないという問題もありました。Dribbleでも同じ理由で招待制にしていましたが、Product Huntもやはり最初は招待制でした。初期の頃は大きなオープンなコミュニティーよりも小さな町の集会のようなコミュニティーであることに心がけました。

    少し前にやっていたStartup Editionがサイドプロジェクトでとどまっていたのは、このようなコミュニティーが無かったからとも言えます。有名人がコンテンツを書いてもそれはいつか尽きてしまいます。

    コミュニティーのスケールアップ

    手の届く範囲で徐々にコミュニティーを作ると言ってもライアンはサンフランシスコ、ネイサンはニューヨークです。アメリカはとても広いので、その間には大きな空白地帯があります。オンラインでカバーするにしても親密さはなかなか生まれません。

    Product Huntがオフラインをカバーした方法がハッピーアワーです。ハッピーアワーはProduct Huntのファンが集まるミートアップのことです。それぞれの国や地域にProduct Huntのコミュニティーがあって、その人たちが集まる支援をProduct Huntがしています。

    ただ、これにもなかなか難しくって、ボクの場合はシンガポールのハッピーアワーには参加しましたが、アムステルダムのハッピーアワーには参加しませんでした。それを取り仕切る人の人望って大事なんですよね。主催者が仕切り屋すぎると参加者は受動的になるし、「自分たちのコミュニティー」というより「主催者のためのコミュニティー」という感じになってしまう。アムステルダムがまさにそんな感じでした。その地域のコミュニティーのために献身的に働いてくれる人でないと難しい。

    参考記事

    The Product Hunt Story: How it all began according to its founder Ryan Hoover

    How To Build Active Online Communities: Q&A With Product Hunt Founder Ryan Hoover

    Product Hunt Began as an Email List | Ryan Hoover

    Hunting for Habits: Keying in on smart design to… | Ryan Hoover

    How We Got Our First 2,000 Users Doing Things That Don’t Scale

  • グローバルコミュニティーの作り方|第一回:Kickstarter|クリエーターのためのコミュニティー

    グローバルコミュニティーの作り方|第一回:Kickstarter|クリエーターのためのコミュニティー

    21世紀のビジネスの特徴にコミュニティーの重視があります。20世紀だとブランドロイヤリティーが重要視されていましたが(もちろん、今も重要視されていますが)、コミュニティーはその一歩進んだ考え方です。ハーレーダビッドソンとかいい例ですよね。ハーレーダビッドソンのバイクに乗る人にとってはライフスタイルの象徴なわけです。これがブランドロイヤリティーの源泉ですね。そして、それはハーレーダビットソンを愛する人たちのコミュニティーで維持されている。コミュニティーがなければロイヤリティーもありません。今回の特集ではビジネスにおけるコミュニティーの重要性についてみていきたいと思います。

    第一回目はクラウドファンディングのKickstarterです。物理的なプロダクトを作るときの資金集めでクラウドファンディングは非常にありがたい存在です。OculusもPebbleもグローバルなプロダクトですがKickstarterがなければ存在しませんでした。

     

     

    そもそもクラウドファンディングとは

    資金を一般から調達するパブリックファンディング自体は昔からあって、新しいアイデアではありません。ホメロスは『イーリアス』の翻訳のため750人の支援者をパブリックファンディングで獲得して出版しました。モーツァルトもコンチェルト作成のためにパブリックファンディングを行いましたし、自由の女神もパブリックファンディングです。あれ、税金で作ってないですからね(本体はフランスからの贈り物で、台座はアメリカ側で一般の募金で資金調達)。

    このパブリックファンディングをインターネットで行うのがクラウドファンディングです。

    クラウドファンディングで成功するために必要なコミュニティー

    クラウドファンディングで成功するにはコミュニティーが必要です。そして、クラウドファンディングのコミュニティーには二つのレイヤーがあります。一つはその商品独自のコミュニティー。もう一つはクラウドファンディングのプラットフォームがもつコミュニティーです。

    商品独自のコミュニティー

    以前にインタビューしたIoTプラットフォームのThe Things Networkの場合、クラウドファンディングをはじめる前にワークショップをたくさん開催しました。実際にツールに触れてもらい、簡単にIoTネットワークを構築できることを体験してもらいました。そして、ワークショップ参加者の中から「早くこの商品が欲しい!」という声が十分あがるまで待ちました。例えば、支援する人(バッカー)が100人必要だったら、最初の20人をこのコミュニティーの中から確保する必要があります。以前に「Kickstarterで資金調達するときに大事な三つのこと」という記事を書きましたが、数日で20%達成したプロジェクトの79%は成功するからです。

    この商品独自のコミュニティーはローカルなコミュニティーで構いません。The Things Networkの場合も最初はアムステルダムでワークショップをやってました。オンラインのプロダクトならいきなりWebでグローバルもありでしょうが、今回はクラウドファンディング(=物理的なプロダクト)ということで物理的なプロダクト前提です。オンラインは第二回:ProductHuntでカバーします。

    プラットフォームのコミュニティー

    クラウドファンディングのコミュニティーは言語で分断化されています。本当の意味でグローバルなプラットフォームはまだありません。日本(だけ)でクラウドファンディングをしたければやっぱりMakuakeCampfireの方がいいですし、中国(だけ)だったらJD.comのジョンチョウ(众筹)でしょうし、韓国(だけ)だったらWadizでしょう。しかし、できるだけ多くの国をカバーしてグローバルコミュニティーに広げるならば英語でKickstarterでということになります。*1

    前置きが長くなりましたが、クラウドファンディングのプラットフォームにはその中に独自のコミュニティーがあります。Kickstarterは独自のコミュニティー作りに成功していて、その特徴の一つがリピート率です。Kickstarterは統計を公開していますが、クラウドファンディングを支援する人(バッカー)の30%以上がリピーターです。単純に考えると商品独自のコミュニティー(20)にプラットフォームのコミュニティー(30)を足せば半分以上がコミュニティーからの資金調達になります。残りが新規ですね。新規を獲得するのは大変ですから、コミュニティーの割合が高いほど成功の確率は高まります。

    それほどクラウドファンディングにとって大切なコミュニティーなのですが、そもそもKickstarterはどうやってコミュニティーを作り上げたのでしょうか?先に答えを言ってしまうとほぼ何もしていないです。では、どうやってここまで大きくなったんでしょう?

    Kickstarterのはじまり

    ペリー・チェン(2001/2002)

    Kickstarterの創業者の一人であるペリー・チェンはニューヨークで生まれて、ニューオリンズに移り住んでいました。2001年か2002年の頃の話です。いろんな仕事を掛け持ちしながら音楽もやっていました。音楽が好きだったら考えますよね。自分で好きなアーティストを呼べたらなあって。ペリー・チェンも同じことを考えていて、そのためのWebサイトとかあればいいのにと思っていました。でも、彼自身はデベロッパーでもないし、デザイナーでもないのでアイデアだけでとどまっていました。

    ヤンセイ・ストリクラー(2005)

    しかし、人生で選択を迫られる時ってあるものです。ペリー・チェンはニューオリンズで仕事がなくなって、ニューヨークに帰ることになりました。だったらレストランで働きつづけるより、自分のやりたいことを追いかけてみたら?そう考えたそうです。そして、ニューヨークに戻ってからウェイターとして働いていたレストランで二人目の創業者のヤンセイ・ストリクラーと出会います。これが2005年。そのレストランの常連だったヤンセイは音楽雑誌の記者だったので話があったのでしょうね。ペリーの考えているアイデアを二人で具体的にイメージしていきました。

    ペリー・チェンが描いた初期のワイヤーフレーム

    チャールズ・アドラー(2007)

    三人目の共同創業者のチャールズ・アドラーはシカゴのWebのデザインエージェンシーのAgency.com(今は吸収合併されて別の名前)に長年勤めていました。ほぼ初期メンバーですね。最後の方は(あまりやりたくない)営業職でしたが、それもこなしていました。上司とクライアントに行く途中に飛行場で「キミが失敗してもクビにしないから安心したまえ」と言われました。(ざけんじゃねーよ、オレはこの会社の苦しい時からやってきてんだ。てめー何様だ)と内心思いました。ちなみにこの上司は前の会社をクビになって移ってきたそうです。そして、チャールズは会社を辞めてニューヨークへ行きます。

    チャールズはニューヨークで自分のデザインスタジオを設立しました。そして、友達からペリーを紹介されます。最初にペリーと電話で話をした時、ぶっちゃけクライアント候補と考えていたそうです。ペリーは電話でアイデアについてまくし立て、チャールズは大まかに理解しました。まだ存在しないアイデアだけを人に伝えるのは難しいことも含め理解しました。そして、面白そうだと思いました。

    まず、数週間だけ一緒にコラボレーションすることにしました。まあ、ビールを奢ってくれればいいよと。その間に何か意味のあるものが生まれなかったらやめればいいし、意味があるものが生まれたらその時に考えようと。そして、それが続くことになります。チャールズが参加してから紙のワイヤーフレームからデジタル版に進みはじめました。チャールズは開発とデザインの両方ができました。ちなみに、これは2007年の話で、三人とも別の仕事をしていました。アイデアで食べていけませんからね。

    チームの立ち上げとローンチ(2009)

    チャールズは開発を進めるためにチームを作りはじめます。最初は外部の開発会社やデザインエージェンシー。4回目でようやくこれはと思えるチーム(アンディー・バイオとランス・アイヴィー)に当たったそうです。スタートアップの場合はあまり大きな金額を払うことができないので、株で参加してもらうことが多いですよね。Kickstarterも同様でした。

    そしていよいよ2009年にローンチします。最初の着想から8年ですね。最初にペリーがグレース・ジョーンズのTシャツプロジェクトを立ち上げ、ヤンセイがその最初の支援者となりました。この時点で初めて正社員を雇います。

    Kickstarterがマーケティングらしいことをしたのは50人の友人にプロジェクトをスタートさせる招待状を渡したこと。そしてその50人がそれぞれ5人の友達を招待できるように招待状をプレゼントしたことでした。たったそれだけ。そしてローンチから三日目で最初の成功プロジェクトが生まれました。

    Kickstarterにとってのプロダクトとコミュニティーとは

    Kickstarterの創業者たちはKickstarterをクラウドファンディングと言ったことはないそうです。Kickstarterはクリエーターが自分たちのやりたいことを実現するためのプラットフォームなのだそうです。その仕組みがたまたまクラウドファンディングだったと。

    そして、クリエーターを支援したい人たちがプロジェクトを見つけることができる場所でもある。クリエーターは自分たちのプロジェクトとともに自分たちのコミュニティーをKickstarterに呼び込み、Kickstarterのコミュニティーは徐々に広がります。

    参考文献

    Startup Grind Chicago Hosts Charles Adler (Co-founder Kickstarter) – YouTube

    at first i remember standing in my kitchen talking…

    How Was The First Year Of Kickstarter?

    Happy 3rd Birthday, Kickstarter! — Kickstarter

    Kickstarter and the Economics of Creativity (Full Session) – YouTube

    Employee #1: Kickstarter

    On to the next 2,271 days… – Hacker Noon

    Eight Years of Kickstarter (1 of 2) – Lance Ivy – Medium

    関連記事

     

    *1:日本語でKickstarterはオススメしないです。日本語なら素直にMakuakeでやりましょう。Makuake(日本語)で成功してから、次のステップででKickstarter(英語)やジンチョウ(中国語)というのはアリです。

  • Airbnbの誕生と成長|借金から3兆円企業への道、そして現在

    Airbnbの誕生と成長|借金から3兆円企業への道、そして現在

    Airbnbは日本では「エアビー」という愛称までついて、それなりに知られる存在になってきました。そして、スタートアップを目指している人にとって、Airbnbがどのように生まれたのか、どのように成長したのかかなり研究されている分野かと思います。

    よくあるAirbnbの成長秘話は成功した部分だけを取り上げてあたかも順調に成長してきたかのように見えてしまいます。しかし、Airbnbはすぐに成功したわけではなく、数えきれない失敗を繰り返して、そこから学びながら成長してきました。

    例えば、資金調達がうまくいかず、クレジットカードで数百万単位の借金をして資金を作りました。プロの写真家にいい写真を撮ってもらうグロースハックも有名です。でも、そのプロの写真家って誰?どうやって写真が暗いと気がついたの?そもそも、Airbnbにとって「プロダクト」ってなんだったの?それを理解するにはもう少し掘り下げる必要があります。表面だけで学べることはあまり多くありません。

    そんなわけで「そんなのもう知ってるよ!」と思われる部分もあるかもしれませんが、英語でないと見落としてしまうような部分も細かく拾ってみようかと思います。ブライアン、ジョー、ネイサンという三人の共同創業者のインタビューから骨格だけでなく背景もわかるようにまとめました。

    ちなみに、この記事はかなり長いのではてなブックマークPocketに保存しておくことをお勧めします!

    有名なAirbnb誕生秘話とあまり知られてない前日譚

    後にAirbnbの創業者となるブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアの二人はアパートの家賃が払えなくなるために国際デザインカンファレンスの時に自宅アパートのロフトを貸出したのがAirbnbの発想となった……というのは有名な話でWikipediaにも書いてありますよね。

    あまり有名でないのは、ブライアン・チェスキーの両親はソーシャルワーカーで収入があまりなく、息子にはちゃんとお金がもらえる仕事について欲しかったという事。アートスクールに行くと決めた時「ソーシャルワーカーより収入が低い職業を見つけるなんて!」と驚かれたそうです。

    卒業後はロサンジェルスで仕事を見つけたのですが「決まった道を進むクルマに乗っている」という恐怖感に襲われたそうです。おそらくこれは誰でも持ったことのある感覚じゃないかと思います。ボクもありました。だからシンガポールやアムステルダムに行ったし、マイクロソフトをやめて起業しました。起業するきっかけっていくつかありますが「このままでいいのかという漠然とした不安感」はその一つですよね。

    閑話休題。そうした漠然とした不安感からブライアン・チェスキーはジョー・ゲビアの誘いで、起業をすることに決めたそうです。中古のホンダシビックのトランクと後部座席に家財道具を全部詰め込み、サンフランシスコに向かいました。その時に銀行にあったお金が1000ドル(日本円で10万円くらい)で、アパートの家賃が1150ドル。明らかに足りない。これが有名なAirbnbの発想につながる自宅アパートのロフト貸出しにつながるわけです。

    ちなみに、ベッドと朝食(Bed & Breakfast)は簡易な宿泊施設のこと。その当時にブライアンとジョーが貸し出せたのは空気ベッド(Air Bed)だったので、Air Bed and Breakfastという名前になり、それがAirbnbとなります。

    ちなみに、彼らが最初にやったのは民泊ではありませんでした。ルームメイトのマッチングサービスが最初のプロダクトでした。彼ら自身、国際デザインカンファレンスでやったAirbnbは無理っぽいと考えていたのです。しかし、ルームメイトのマッチングはあまりうまくいきませんでした。そこで、次に考えたのがAirbed for Conference。つまり、イベント向けの空気ベッドの提供です。このアイデアをSXSWで試しました。これもあまりうまくいきませんでした。

    何回かアイデアを試しながら……

    1. 民泊モデル(空気ベッドの貸し出しやカンファレンス専門の宿泊サイトではなく)
    2. PayPalのようなゲートウェイを使わない直接支払い方式 *1
    3. 簡単にブッキングができる(三クリックで物件を探して予約ができる。スティーブ・ジョブスのiPod開発の時のルールと同じ。)

    ……という基本のモデルを決めました。

    アイデアを実現する

    資金調達は失敗、借金ではじめる

    2008年の夏に(後にY CombinatorのCEOになる)マイケル・サイベルと出会ってエンジェル(投資家)というものを教えてもらいます。ブライアンは「この人ってエンジェル信じてるわけ?」と一瞬思ったほどスタートアップの資金調達について分かっていなかったそうです。そこで数十人のエンジェル投資家と数社のベンチャーキャピタルを紹介してもらいました。150万ドルの評価で15万ドルを調達しようとしていました。ほとんど会ってくれないか、会ってくれても全て断られたそうです。当時の投資家向けプレゼンテーションがこちら。

    断られた理由は二つ。一つ目はブライアンとジョーが開発者ではなく、デザイナーだったこと。ネイサンという開発者が三人目の共同創業者として参加していたのですが。当時のスタートアップは開発者がはじめるものという既成概念がありました。もう一つは(そして最大の理由は)人が見ず知らずの他人と部屋を喜んで共有するなんてバカげた考えだと思われたこと。そして2008年はリーマンショックで投資熱が完全に冷めていたことも要因の一つでしょう。

    結局、資金調達はうまくいかなかったため、借金ではじめることにしました。ブライアンとジョーの二人は作れる限りのクレジットカードを作ってトレーディングカードのバインダーに入れていました。そのおかげで、ブライアンの場合は3万ドル(約300万円)ほどのクレジットカードの借金があったそうです。

    借金まみれで成功が見えず、どん底が続く

    基本的なモデルは決まったものの、それを体験してもらわなければいけません。

    そしてデンバーの民主党全国会議で宿泊場所の提供をはじめます。この時に800室がWebサイトに登録され、80室がブッキングされました。共和党全国会議で同じことをやりましたが、その時は2室しかブッキングされなかったそうです。そして、次の会議ではなんとブッキングが一つもありませんでした。この頃に一人の共同創業者のネイサンが婚約者のいるボストンに引っ越してしまいます。借金まみれ、全く成功が見えない。どうしよう、どうしよう!と考えました。

    空気ベッドの貸し出しではお金が思ったように稼げないため、両党の全国会議では朝食のビジネスにピボットしました。その時に売り出したのが当時の民主党大統領候補者だったバラク・オバマと共和党の大統領候補だったジョン・マケインのスペシャルデザインのシリアルでした。

    で、借金まみれでどうやってそんな商品を作れたのか?大手のシリアル会社からは断られ、中小のシリアル会社から来た見積もりは20万ドル(約2000万円)で無理。アートスクールの先輩の会社が売り上げの分け前を渡すことを条件に無料で1000箱分を印刷してくれました。それをブライアンとジョーの二人で糊付けして組み立てます。そして、スーパーマーケットで買って来たシリアルを詰め込みます。1000箱ですよ!

    これまでのイベントで集めたプレスのリストにこのシリアルを送り、パブリシティーをしました。なんと、これがアタって(上記の理由でマケインの方は売れ残ったそうですが)30万ドル稼ぐことができたそうです。当時は民泊の会社というよりはシリアルの会社といった感じだったそうです。そしてその売り上げもその年の冬にはなくなってしまいます。

    ソース:Airbnb “Obamao”

    この時期はAirbnbにとって最も暗い時期だったそうですが、学びもありました。一つ目はアイデアを実現するのにそれほどお金はかからないということ。もう一つは、あきらめてはいけないということ。当時は週200ドル程度の売り上げしかなかったのに。

    なぜ、やめないのか?ビジネスをはじめたからにはその分野に関して誰も知らない知見があるはず。じゃなかったら、なんでそもそもはじめるのか?誰も知らない何かを知っているはず。Airbnbの場合は「自分たちが経験した国際デザインコンベンションの時の他人との共同生活の素晴らしさ」だった。これは不可能なことではなく、経験すれば誰でもすぐに理解できるはず。

    これもDropboxの共同創業者でCEOのドリュー・ヒューストンの言う所の「自分のテニスボールを見つけないといけない *2」ですね。Spotifyのダニエル・エクも同じでした。Airbnbの二人の創業者も同じで「自分のテニスボールを見つけた」ということです。

    成長段階

    とはいえ、この時、創業者の三人は自分たちの考える100%のことをしていないと感じていました。ネイサンはボストンに住んでいて、ブライアンとジョーはAir Bed & Breakfast以外のこともやっていました。スタートアップにとって一番の敵は集中できないことです。何かをしながらはできない。そこで、自分たちの100%を試すためにY Combinatorの2009年冬季バッチに応募して、合格。そこで成功のきっかけを見つけます。しかし、これもそれほど単純な話ではありません。

    当時のポール・グラハムの評価は「プロダクトはいいと思わないが(本当に全く知らない赤の他人を自分の家の泊まらせるバカがいるの?)、ゴキブリのようにしぶとい(当時は投資が冷え込んでスタートアップにとってゴキブリしか生き残れない「核の冬」と言われていました)創業者チーム」でした。プロダクトというよりもチームに期待して2万ドル(約200万円なので、クレジットカードの借金より少ないですね)の投資を受け取りました。ポール・グラハムから言われたのは最終日までに黒字にすること(経済環境があまりに悪いので、Demo Dayに投資家が全く来ない可能性もあったから)。この時に名前をAirbnbに変えています。

    この時にY CombinatorのフェローでありGmailの生みの親であるポール・ブックハイトからディープアピールについて学びます。つまり「100人のユーザーに深く愛されるプロダクトを作ること」です。ポール・グラハムからは「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit:PMF *3)」が見つかるまでスケールする必要はい」こと、そして「直接ユーザーに会いに行く大切さ」を学びます。

    最初のグロースハック:市場に受け入れられるプロダクト(PMF)を作る

    「直接ユーザーに会いに行く大切さ」と言うのは簡単ですが、当時、一番ユーザーがたくさんいたのはニューヨーク。創業者たちが住んでいたのはサンフランシスコ。そんなお金ありません。ポール・グラハムに「どうしたらいい?」と相談しても「なんとかしろ」としか言われない。

    実際になんとかして、ニューヨークに行きます。そして、全てのユーザーホスト(実はニューヨークでは二十人強のホストしかいなかった)と話をします。どうやって?Airbnbで予約をして、自分たち自身がホストの場所に住み込むのです!そこで行うのはまさにデザイン思考的なアプローチです。観察と対話。そして共感と共創。さすがデザイナー創業者!週末を使って4回に分けてニューヨークまで通いました。

    • これは有名ですが、まず気がついたのが写真の暗さ。せっかくいい物件でも明るく魅力的に撮れていない。そこでプロの写真家(と言っても創業者のブライアンとジョー本人!)が物件の撮影を無料で撮影することを提案します。そりゃ無料だよ……
    • 写真撮影の間にWebサイトのどこが使いにくいのかをテストしてもらいフィードバックを受けます。
    • 写真撮影とユーザーテストの後、一緒にビールを飲みにいきます。一回に十人程度。その飲み会の場でユーザーに自分たちのストーリーを語ります。どうしてアイデアが浮かんだのか。何を成し遂げたいのか。そうすることで共感を生みユーザーから熱狂的な支持者になっていきます。
    • ユーザーとの関係を作ることで、様々な改善の繰り返しをユーザーとともに実行できるようになりました。例えば、プロフィール文が短いのを長くするように提案したり、高すぎる家賃(一泊400ドル)を市場にあった価格まで安くすることを提案したり。

    これらの改善で売り上げが大幅に改善されました。ようやく「市場に受け入れられるプロダクト(PMF)」が見つかったのです。

    結局、Airbnbの「プロダクト」とはなんだったのか?

    では、創業者が作り上げたかった「プロダクト」はなんだったのでしょうか?それはルームメイトのマッチングでもなく、カンファレンス向けの宿泊サービスでもなく、コレクター向けのシリアルでもなく、民泊ですらありませんでした。

    Airbnbの「プロダクト」は「自分たちが経験した国際デザインコンベンションの時の他人との共同生活の素晴らしさ」ですよね。デザイナーであるブライアンとジョーはAirbnbの着想となった国際デザインコンベンションでゲストがいい体験ができる工夫をしていました。到着、イベント期間中、イベント後のカスタマージャーニーを通じて何をしたらいいのかを考えました。たった三人のゲストのためにです。

    例えば空港までの送り迎え、近所のいいカフェやバーの紹介とか。他にも「I Stayed at Air Bed & Breakfast 2007」のTシャツを作るとか、コンベンション会場に行く途中にホームレスがいて小銭をねだるから、気持ちよくホームレスを支援できるように小銭を渡しておくとか。

    しかし、Airbnbのユーザーホストたちはデザイナーではありません。「体験」を意識することはなかなかできないことです。創業者チームは単に安価な寝泊まりの場所ではなく、Airbnbのユーザーホストが自分たちのように「体験」を提供するように支援をしなければいけなかったのです。それがAirbnbのプロダクトなのだから。

    こうしてY Combinatorのプログラムを通じて自分たちにとっての「市場に受け入れられるプロダクト(PMF)」を見つけることができました。

    成長のグロースハック:急成長の原動力

    「市場に受け入れられるプロダクト(PMF)」を見つけた後は成長(グロース)の段階ですよね。せっかくですから最後はどのように最初のグロースをしたのか紹介して終わりましょう。

    Crunchbaseによると最初のY Combinatorからの(当時の借金より少ない)2万ドルのシード投資の後、プログラムを卒業してから有名なベンチャーキャピタルのSequoia Capitalなどから合計60万ドル(約6000万円)のシード投資を受け取っています。これでだいぶ一息ついてチームを作れたのではないかと想像します。

    ミートアップでのユーザーホストの教育と七つ星のエクスペリエンス

    Airbnbにとっての「プロダクト」は「自分たちが経験した国際デザインコンベンションの時の他人との共同生活の素晴らしさ」なので、ユーザーホストが同じような体験を生み出すようにしなければいけません。

    そこで、主要都市でミートアップを開催し、各地のユーザーホストと直接会ってどのようにAirbnbの体験を生み出すのかを教育しました。これはボストンやオースティンのようなアメリカの都市だけではなく、ロンドンやパリでも同様に直接創業者たちが出向きました。

    では、ユーザーホストが目指すべき「体験」とはなんでしょうか?Airbnbのレビューは最高で五つ星ですが、目指すところは七つ星です。五つ星は最低ライン。例えば、ユーザーゲストには事前に空港から宿泊場所までの地図を渡す。ユーザーゲストが到着する時には家にいてお出迎え。これが五つ星の「体験」です。六つ星は空港までユーザーホストがユーザーゲストを迎えに行く。では、七つ星の「体験」はなんでしょうか?

    例えばリムジンで空港まで出迎える?ゲストユーザーがサーファーだったらサーフィンの雑誌を車に用意しておく?八星「体験」は?九つ星「体験」は?いろいろなことが考えられます。「100人の人に心から愛されるサービスを作る」というのは五つ星では足りないということです。Airbnbが何を目指しているのかをユーザーホストと共有することが非常に大切なのです。

    また、ニューヨークで成功した写真の改善を他の地域でも行うために20人の写真家と契約をしたのも2010年からです。2012年までに約2000人の写真家と契約をしています。

    Craiglistのハック

    ただ、Dropboxの事例でもわかるように、「市場に受け入れられるプロダクト(PMF)」があるからと言って急激に成長するとは限りません。Airbnbの利用者が急増したのは2010年からで、競合サイトのCraiglistを活用したグロースハックを開始した時期と重なります。

    いい写真を見る以前に、Airbnbのサイトに来てくれないと仕方ないですからね。Craiglistは簡単に言えば三行広告プラットフォームで、非常に人気のあるサイトです。その地域の「売ります/買います」情報や民泊情報はCraiglistでチェックするのが一般的でした。そこで、Airbnbの物件を掲載したホストにCraiglistにAirbnbの物件をシェアするように促しました。

    海外進出のゲリラ作戦

    Airbnbは2010年11月に最初の大規模投資(シリーズA)で720万ドル(約7億2000万円)を調達しています。さらに翌年2011年7月に1億1200万ドルをシリーズBで調達します。二年前までクレジットカードで借金を作っていたのにすごいですね!これでかなり大規模なことができるようになります。

    「市場に受け入れられるプロダクト(PMF)」を見つけて、最初のトラクションが生まれたら、あとはかなり機械的になり、それぞれの分野の専門家がいます。もちろん全くクリエイティブでないという意味ではありません。

    1. SEO
    2. ペイドメディア
    3. ソーシャルメディア
    4. オウンドメディア

    ただし、Airbnbの場合は創業者たちがY Combinatorで学んだ手法を後から参加したチームにきちんと受け継いでいます。Airbnbの売り上げの半分はヨーロッパですが、ヨーロッパに本格的に進出する時にユーザーとの共創や大統領選のシリアルのようなクリエイティブなキャンペーンをその土地に合わせて展開しています、しかも低予算で。

    Airbnbの未来:課題と可能性

    Airbnbは、3兆円規模の企業としてホスピタリティ業界に大きな影響を与えています。しかし、その成長とともに、複雑な課題も表面化しています。これらの課題を解決することは、Airbnbが次のステージへ進むために避けて通れない道です。

    1. 規制問題と地域社会との摩擦

    Airbnbは、都市部や観光地を中心に、地元住民との摩擦が顕著になっています。特に、大都市では「短期賃貸が住宅価格の上昇や供給不足を引き起こしている」との批判が相次いでいます。一部の都市では、Airbnbホストに対して厳しいライセンス制度を導入したり、短期賃貸の上限日数を設定するなどの規制が強化されています。

    これらの規制が強化されると、Airbnbのビジネスモデルそのものに影響を及ぼす可能性があります。特に、地域の法律や文化に適応しつつ、ホストとゲスト双方のニーズを満たす仕組みを構築することが急務です。

    2. ホストとゲスト間のトラブル

    Airbnbの成長に伴い、ホストとゲスト間のトラブルも増加しています。物件の損壊や近隣住民への迷惑行為、ゲストの安全に関わる事件など、課題は多岐にわたります。

    Airbnbはこれまでに、ゲストとホスト双方に向けた保証プログラムやサポートサービスを提供してきましたが、それでも課題解決には至っていません。AIやデータ分析を活用し、問題を未然に防ぐシステムの導入が求められています。

    3. コミュニティの分断と観光公害(オーバーツーリズム)

    観光地での短期賃貸の急増により、地域コミュニティが分断されるケースも増えています。例えば、観光客向けの物件が増えることで、地元住民が住みづらくなる「観光公害(オーバーツーリズム)」が問題視されています。

    Airbnbは、観光地に対して持続可能なソリューションを提供する責任があります。これには、地元文化を尊重した観光促進や、観光客が地域社会と調和して暮らせる仕組みづくりが含まれます。

    4. ホストエコノミーの維持と支援

    Airbnbは多くのホストにとって重要な収入源ですが、競争の激化や規制の影響で、多くのホストが収益性を維持するのに苦労しています。一部のホストは、収益減少や顧客満足度の低下に直面しています。

    今後、Airbnbはホスト向けの教育プログラムを拡充し、収益を最大化する方法やホスピタリティの質を向上させる支援を行う必要があります。また、ホストの負担を軽減するための新しいツールやサービスの提供も求められています。

    5. ブランドイメージの維持

    Airbnbは、「見知らぬ人々との交流を通じた素晴らしい体験」という理念を掲げて成長してきました。しかし、急速な事業拡大の中で、一部のホストが「利益追求型」に偏ることで、ブランドイメージが揺らぎつつあります。

    創業時の「他人との共同生活の素晴らしさ」を軸に、体験の質を再確認し、それを維持・向上させるための取り組みが必要です。特に、ホストがゲストに対して提供する体験の標準を設け、それを実現するためのサポート体制を整えることが重要です。

    Airbnbの今後の挑戦

    Airbnbは、これらの課題を克服し、持続可能なビジネスモデルを構築する必要があります。そのためには、規制当局や地元コミュニティとの対話を深め、テクノロジーを活用して安全性と体験価値を高めることが鍵となるでしょう。創業時のビジョンを見失うことなく、地域社会と共存しながら成長を続けられるかどうかが、Airbnbの未来を決定づけるポイントです。

    参考文献

    Interview With AirBnB Founder – from $0 to $30 Billion Company – Brian Chesky, CEO talks – YouTube

    Blitzscaling 18: Brian Chesky on Launching Airbnb and the Challenges of Scale – YouTube

    The real story about how Airbnb was founded – Nathan Blecharczyk Co-founder Airbnb – Startup Success – YouTube

    How design thinking transformed Airbnb from failing startup to billion-dollar business – YouTube

    Travel Like A Human With Joe Gebbia, Co-founder of AirBnB!

    Airbnb leverages Craigslist in a really cool way | Hacker News

    [500DISTRO] Going for Global: 5 Guerrilla Tactics When the Slick Stuff Fails – YouTube

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    *1:実はこれすっごく難しいです。これで失敗しているスタートアップはたくさんあります。みなさん、真似しないように!いまはStripeやBraintreeとかあるので体験を重視するために独自のペイメントシステムを作る必要はないです。

    *2:犬はテニスボールを投げると夢中になって追いかけて遊ぶ。起業家も犬にとってのテニスボールのように夢中になれることを見つけないといけないという意味

    *3:マーク・アンドリーセンが提唱したコンセプト。プロダクトやサービスの生死を決めるもの。プロダクトがマーケットにフィットしている状態。つまり、プロダクトを求めるユーザーがいる状態

  • Spotifyの誕生と成長|二年半の赤字から音楽市場V字回復の立役者に

    Spotifyの誕生と成長|二年半の赤字から音楽市場V字回復の立役者に

    音楽市場は2014年まで15年続けて縮小を続けていましたが、2015年から回復して今も売上を伸ばし続けています。この音楽市場のV字回復に最大限の貢献をしているのが音楽ストリーミングで、Spotifyはその最大手です。日本の音楽市場だけ、未だに回復できていませんが、Spotifyが起爆剤になってくれることに期待ですね。

    日本語でSpotifyの歴史を詳しく解説している情報がなかったので、まとめてみました。

    Spotifyをはじめる前の成功と失敗:Spotifyをはじめるきっかけ

    ダニエル・エクはスウェーデンの生まれで、14歳の時にビジネスを(偶然)はじめました。当時すでにC++でプログラミングができました。1997年当時はWebが流行りだして、Webサイトを欲しがる人たちがいました。特にやりたくはなかったそうですが、その需要に応えるうちにいつの間にかビジネスになり、20歳くらいには人を雇い、自社のサーバー環境を運営する規模になっていたそうです。

    Googleに社員として応募したけれど、断られて自分で検索エンジンを作ることに決めたそうです。これがあまりうまくいかず、会社は破産寸前まで陥って社員を解雇しなければいけなくなりました。この頃に出会ったのがドイツ人で共同創業者のマーティン・ローレンソンでした。マーティンは自分の会社を売ってやることがなく、いろんなアイデアをダニエルと話し合いました。そこで生まれたのがSpotifyでした。2005年のことでした。ダニエル・エクが23歳、マーティン・ローレンソンが37歳でした。

    なぜ音楽ビジネス?

    音楽の聴き方にはもっといいやり方があると最初に示したのはNapsterでした。ボク自身もそれなりの音楽好きですので、Napsterが登場した時は本当に衝撃的でした。すげー!でも、え?こんなこと出来ていいの?という感覚。当時は著作権上「こんなこと出来ていいの?」という不安はまさに的中してNapsterはビジネスとして成り立つことなく消え去りました。

    思春期のダニエル・エクもNapsterの登場には衝撃を受けたそうです。ダニエル・エクにとって幸運だったのはスウェーデンに住んでいたことです。スウェーデンは当時からギガバイトのインターネットのアクセスが非常に安価(2000円/月程度)で、Napsterのような音楽ファイルの共有サービスもそれほどストレスなく使えたことです。

    失敗の後、心機一転、新しいビジネスを考える時、自分の本当にやりたいことをやろうと決めたそうです。金銭的な成功では幸せになれなかった、失敗はそれをさらに悲しいものにしました。次のステップに進むとき「次の五年間に集中できることは何か」を問いかけたそうです。そして、それは音楽とテクノロジーでした。ビジョンは「iTunesに全ての音楽が詰まっている状態」だったそうです。

    Dropboxの共同創業者でCEOのドリュー・ヒューストンも言っていますが「自分のテニスボールを見つけないといけない *1」ということですね。これは起業家だけでなく、働く人すべてにとって本当に大事なことだと思います。

    それでも、なんでよりによってみんなが失敗している音楽ビジネス?

    それにしても、音楽業界は数多のスタートアップが挑戦して失敗した企業の屍が積みあがった市場です。Napster、Rhapsody、Kazaaなど様々な企業が挑戦してノックアウトされて、退場していきました。若干成功していると言えるのはPandoraでしたが、それもユーザーが好きな音楽を好きな時に聴けるサービスではありません。Last.fmもまだ存在はしますが……ダニエルの想定は「音楽サービス自体はユーザーに受け入れられているが、ビジネスモデルが壊れている」でした。つまり、ビジネスモデルさえ確立すればいい。

    そして、ビジネスモデルに関してはダニエル・エクは楽観的だったそうです。何も知らなかったから。何か本当に革新的なことをやるにはその業界にいないほうがいい。「まあ、半年くらいでサービスインできるだろう」と予想していたそうです。そして、結局は二年半かかることになります。

    ローンチまでの二年間半の音楽業界との格闘

    プロダクト面ではプライベートベータからパブリックベータまで公開していきましたが、ライセンスの交渉は難航していました。

    当時「半年くらいでローンチできるだろう」と考えていたのは必要なロイヤリティーさえ支払えば著作権管理団体がうまいことやってくれるだろうと予想していたからです。そこで、投資家のフレッド・ウィルソンの友人のフレッド・デイビスに相談したところ「いやいや、レーベルと個別に交渉しないとダメだよ。なんだったらレーベルの人を紹介するけど」と言われたそうです。

    紹介してもらえたレーベル以外も、様々な方法でコネクションを作って交渉の場を持てるようにしたそうです。例えば、レーベルの担当者の子供が通う学校の間でSpotifyを流行らせたり。直接会えなくても、周りからせめてかなり地道な努力をしたようです。そして、メジャーレーベルや大手のインディーレーベルと交渉をはじめたダニエルでしたが、最初の反応はすごく良かったそうです。ところが、話を詰めていくとどんどんペースが落ちていったそうです。そして最後にはほとんどのレーベルで「交渉はおしまい。もう来ないでね」となってしまいました。

    ダニエル・エクはニューヨークからストックホルムへの飛行機のチケットをキャンセルして粘ることにしました。「もう来ないでね」と言われたので、アポイントは取れません。そこで、レーベルのオフィスの前で寝泊りをしたそうです。ホームレスのように。

    同じ交渉をしても断られるのはわかっているので、作戦を変えました。アメリカのレーベルにとってアメリカ市場は最大の市場であって、あまり実験的なことはやりたくない。そこで、アメリカではなく実験ができる国に最初は絞ったのです。いずれにせよ海賊版の問題があるのだから、テストマーケットとしてスウェーデンは悪くない。

    そうして創業から二年半たった2008年にSpotifyを正式にローンチできました。

    でも、二年半もどうやってお金のやりくりしたの?

    それにしても不思議なのは二年半もの間、どうやってお金のやりくりをして開発者を含む従業員に給料を支払っていたのか?ということです。

    起業家の資金調達は大きく分けて二種類、自分のお金か他人のお金です。自己資金の場合はブートストラップといい、他人のお金はエンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの資金調達です。銀行からの借金も他人のお金ですね。Spotifyの場合はブートストラップ。つまり、自己資金でした。

    ダニエルとマーティンという二人の創業者は今で言うところの連続起業家で、それなりに資金を持っていたいんですね。ダニエルの場合は会社が破産したということですが、自分の資金は別に持っていたのでしょう。二人合わせて十億円ほど使ったそうです。

    Spotifyが外部から資金調達をしたのはレーベルとの契約ができた2008年が最初です(Crunchbase参照)。それまではずっと自己資金でやってたってのはすごいですね。

    裏返して言えば、このレーベルとの交渉の結果によってはSpotifyは沈没する可能性もあったわけです。レーベルとの交渉は全てダニエル・エクが行なっていて、社員に詳しい状況は知らせていなかったそうです。振り返って考えると、社員に対してもっと透明性があっても良かったと反省しているそうです。

    Spotifyの成功要因

    プロダクトをローンチできたからといって、それがすぐに成功につながるわけではありません。「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit*2)」が必要です。先行する音楽サービスはこれがありませんでした。

    先行するプロダクト/サービスと何が違ったのか?Spotifyの成功要因はよく研究されているので、ここでは要点だけ絞ってご紹介します。

    • 「音楽全部入りのiTunes」というわかりやすいコンセプト
    • オンデマンドで好きな音楽を好きな時に聴ける利便性
    • それが全て無料で利用できるフリーミアムモデル
    • Facebookとの独占的音楽サービスインテグレーション契約(2011年)

    ソース:“Forget Taylor Swift: Spotify is facing a much bigger problem”

    Spotifyは音楽の何を変えたのか?

    Napsterが可能性としてみせたオンデマンドの音楽配信をメインストリームにしたのがSpotifyの功績で、それによって音楽業界はV字回復をすることができました。しかし、Spotifyが変えたのはそれだけではありません。

    音楽の多様化

    音楽はこれまで以上にユーザーの耳に届いています。そして、これまでにない多様な音楽を聞く機会があります。例えば、韓国でSpotifyをローンチした後にアメリカ西海岸でユーザー数が増えたそうです。そしてトルコでローンチした後にドイツでユーザー数が増えたそうです。ボク自身もオランダに住んでいた時に日本の音楽をSpotifyで聴いていました。

    聴き方の多様化

    また、アルバムという単位から解放されました。特にEDMのアーティストは毎週リリースしてるんじゃないかというくらい新曲を頻繁に発表しています。そして、アルバム単位で聴きたい人もSpotifyなら気兼ねなく全て聴く事ができます。iTunesの場合は曲単位での購入なのでアルバム全部よりも好きな曲だけ購入するというパターンが多かったそうです。

    アーティストが作品を作りやすい環境

    Spotifyのようなプラットフォームができてから、アーティストはレーベルを経由せずに直接Spotifyに作品をアップロードできるようになりました。例えば、Distrokidを使えばSpotifyだけではなく、iTunesやAmazonにも作品をアップロードできます。プロモーションも自分でできます。

    まとめ

    Spotifyの共同創業者でCEOのダニエル・エクはなかなかシャイな人であまりメディアに露出する機会がありません。メディアに出る時は色々と話をしてくれるので、隠しているわけではなく、単にシャイなんでしょうね。英語でもあまり多くないのですが、Spotifyに関して日本語でまとまった情報がなかったので、まとめてみました。

    参考文献

    World’s Largest Startup Company Platform | Startups.co

    When Spotify was young: the early years | VatorNews

    Fred Davis, Rainmaker Who Sheparded Spotify, Sticking Around as IPO Talk Ramps Up | Billboard

    E580: Spotify’s Daniel Ek on state of streaming, tenacity, transparency, competition by TWiStartups | TWi Startups | Free Listening on SoundCloud

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    *1:犬はテニスボールを投げると夢中になって追いかけて遊ぶ。起業家も犬にとってのテニスボールのように夢中になれることを見つけないといけないという意味

    *2:マーク・アンドリーセンが提唱したコンセプト。プロダクトやサービスの生死を決めるもの。プロダクトがマーケットにフィットしている状態。つまり、プロダクトを求めるユーザーがいる状態

  • Dropboxを成長に導いたショーン・エリスのグロースハック

    Dropboxを成長に導いたショーン・エリスのグロースハック

    「ソースにあたれ!」って大事ですよね。何かを本質的に理解したければソースを探す。グロースハックに関しては「ソース」は間違いなくショーン・エリスです。そしてショーン・エリスをここまで有名にしたのはDropboxでの成功です。では、ショーン・エリスは具体的にDropboxで何をして、それがどのような形で今のグロースハックとなっているのでしょうか。

    初期のDropboxの成長に関してはいろんなところに事例として取り上げられています。もっとも有名なのは共同創業者でCEOのドリュー・ヒューストンがまとめたこのスライドでしょう。

    Dropboxの場合は「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit*1)」をかなり早い時期に作り上げることができたものの、成長(グロース)させるのに苦労していたことがわかります。そこでDropboxに参加したのが「グロースハック」の生みの親であるショーン・エリスです。「何が必要だったか」は色々と資料があるのですが、「では、実際にそれを解決するためにどうしたのか?」に答えてくれる資料はあまりありませんでした。

    ショーン・エリスとDropboxの出会い

    ショーン・エリスが参加した時、Dropboxはまだ10人のエンジニアチームでした。ショーン・エリスはオンラインゲームのUproarやリモートデスクトップのLogmeInなどでマーケティングの担当役員を経験しながらスタートアップに必要な成長の手法を文書化してきました。それを本格的に活かしたのがDropboxで後にグロースハックと名付けられる手法でした。

    グロースハックとマーケティングの違い

    まず、スタートアップはグロース(成長)に集中するしかないという現実が出発点となります。最も大事なのは新規ユーザー獲得、ユーザーから顧客への転換、顧客の維持の三つです。大企業と違い、リソースも少ないから伝統的なマーケティングの「認知」や「ブランディング」にリソースを費やせません。

    つまり、グロースハックというのはスタートアップに必要な成長のコアとなる部分を数値に基づいたテストで徹底的に行うことです。そして、伝統的なマーケティングとは違いカスタマージャーニー全般に関わること。成長を軸とした組織をまたがるマトリックス戦略とも言えます。

    アンドリーセン・ホロヴィッツのアンドリュー・チャンは開発との融合を強調していて、それが定義として広まってたりもしますが、ショーン・エリスのオリジナルのコンセプトでは必ずしもエンジニアとの融合は不可欠ではないそうです。

    グロースハックの最終的な目標は企業全体にグロースの文化を植え付けること

    ショーン・エリスのDropboxとの契約は暫定CMOとして6ヵ月間。契約書でゴールとして設定したのは数値に基づくテストによるグロースの文化をDropboxに定着させること。最初の2週間はDropboxの成長の仕組みを質的に量的に理解することに徹したそうです。そこでわかったのは製品への入り口がたくさんあり、ホームページから入るユーザーは思ったより少ないということ。

    使いにくい摩擦になるような箇所を取り除き、よい体験ができるように、それぞれの入り口でテストしていきました。プロダクトのテストは10人のエンジニア集団なのでやってきましたが、グロースのテストをそれまではやったことはなかったそうです。

    最初の三、四のテストはCEOのドリュー・ヒューストンと一緒にやり、コツを掴んでいきました。そして徐々にエンジニアが参加してテストをコンセプト化して実装していきました。こうしてグロースの文化が全体に波及していきました。

    Dropboxを去ってすぐ後にショーン・エリスはスタートアップのピラミッドを発表します。これは「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit)」のステージ、以降のステージ、グロースのステージの三つに分けるシンプルなものでした。

    しかし、グロースハックの最終的な目標は初期のDropboxでもわかるように組織に数値テストを基にしたグロースの文化を定着させることです。ショーン・エリスはそれを加味した上で、上記のように「成長のピラミッド」として「スタートアップのピラミッド」をアップデートしました。

    成長の原動力となる数字となる道しるべの指標(Northstar Metrics)

    アップデートしたピラミッドでもまず大事なのは「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit)」があること。「市場に受け入れられるプロダクト」とは使っているユーザーに価値を提供できるプロダクトとも言えます。

    そして、「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit)」を探す道しるべとなるのが「道しるべの指標(Northstar Metrics)*2」です。つまり、ユーザーベースにどれくらいの価値を提供しているかを示す指標です。

    ショーン・エリスの経験から言えることは、どのようなプロダクトでも最大のグロース要因は口コミだそうです。だったら短絡的に口コミを増やせばいいというわけではありません。必要なのは二つ。1)価値を提供することに集中すること、2)それを定期的に計測して確認すること。大事なのはユーザーに提供する価値とその数値化です。

    ショーン・エリスがはAirbnbとFacebookを例として説明しています。Airbnbなら道しるべの指標は「宿泊予約数」です。Airbnbにとってアプリのインストール数やユーザー数は道しるべになりません。予約をして、体験をしなければ価値は生まれないから。その体験によって口コミも生まれるし、エコシスステム全体がビジネスとして活性化します。Facebookの場合なら道しるべの指標は1日の利用者数(Daily Active User:DAU)です。アクティブなユーザーが増えれば、コンテンツが増えて価値が生まれます。

    道しるべの指標(North Star Metrics)と最重要指標(One Metrics That Matters:OMTM)の違い

    この「道しるべの指標」と似ているのが『リーン・アナリティクス』で紹介されている「最重要指標(OMTM)」です。OMTMはその時のビジネスを成長するのに何に集中したらいいのかというコンセプトですが、「道しるべの指標」はもっと長期的な本質的な価値指標となります。

    ショーン・エリスは自身のLogmeInでの経験で違いを説明しています。リモートデスクトップソリューションのLogmeInの場合はリモートコントロールセッションがユーザーの価値を生む「道しるべ指標」でした。しかし、95%の新規ユーザーはリモートコントロールセッションを行なっていませんでした。そこでマーケティングとエンジニアチームは共同でサインアップから利用までのコンバージョンを改善するために実験とテストを繰り返しました。これはLogmeInが急成長した時期と重なります。この時に注力したコンバージョン率がOMTMですが、リモートコントロールセッションの数が「道しるべ指標」であることは変わりません。OMTMはグロースの段階で変わりますが、「道しるべ指標」は変わりません。

    企業がグロースハックを取り入れるのに必要なこと

    グロースハックの最終的な目標は組織全体に数値に基づいたテストによるグロースの文化を定着させることですが、それはいうほど簡単ではありません。スプリットテストなどの手法はグロースハックの一部でしかありません。

    例えば、LogmeInの事例ではマーケティングとエンジニアチームがそれまでのすべての活動を止めて新規ユーザーのサインアップから利用までのコンバージョンに集中しました。実際に成長の妨げとなっていることを解決するには製品自体のプロセスの場合もあります。

    多くの企業ではそれぞれの部署が得意とする分野に特化した役割を持ちます。そして、それは時として縦割り組織の弊害を生みます。例えば、製品開発は長期のロードマップに沿って開発されるし、マーケティングもリードの獲得などに集中して、製品に関わるランディングページのような部分には深く関われていません。

    グロースハックを組織に根付かせるには、「道しるべの指標」をどの部門でも改善する指標として持ち、数字に基づいたテストを継続的に行う必要があります。下のYouTubeのビデオでもあるようにDropboxでは現在でもグロースハックの文化が定着しているようです。

    参考文献

    The Startup Pyramid

    The Growth Pyramid Revisited – Growth Hackers

    Sean Ellis, CEO at Growth Hackers, an episode from Intercom on Spotify

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    *1:マーク・アンドリーセンが提唱したコンセプト。プロダクトやサービスの生死を決めるもの。プロダクトがマーケットにフィットしている状態。つまり、プロダクトを求めるユーザーがいる状態

    *2:Northstarは北極星で、探検家にとって道しるべとなります。また、北は上向き成長を表します。Go southと言えば売り上げが下がってるという意味です。