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  • 書評|悲観主義者の逆襲 “Falter” by  Bill McKibben

    書評|悲観主義者の逆襲 “Falter” by Bill McKibben

    「世の中それほど悪くなってない」と考える楽観主義者と「世の中は悪くなっている」と考える悲観主義者に分けることができます。楽観主義者の代表はこのブログの書評でも紹介したハンス・ロスリングの『ファクトフルネス』スティーブン・ピンカーの”Enlightenment Now”です。そして、今回紹介するビル・マッキベンの”Falter”は悲観主義者の代表格となるでしょう。まあ、実際にはそのどちらでもない「興味があまりない」人たちが大多数なのでしょうが。

    Falter: Has the Human Game Begun to Play Itself Out?

    Falter: Has the Human Game Begun to Play Itself Out?

    地球温暖化が一般的に議論に上がったのは1988年のアメリカ上院の公聴会でのジェームス・ハンセンの発言からです。ビル・マッキベンは同じ頃から地球温暖化の分野でジャーナリストとして活躍しているので、この分野においては超ベテランです。また、環境保護団体の350.org(日本の”350 Japan“もある)の発起人の一人でもあります。だからこそ、「世の中は悪くなってない、むしろ良くなってる」なんて楽観的なベストセラーが生まれ「ざけじゃねー!」言いたくなったのでしょう。まあ、気持ちはわかります。

    この本は地球温暖化だけでなく、人工知能やDNA改造まで広範囲をカバーしています。それを一括りにして「ゲーム」としています。人類はその「ゲーム」に勝つことができるのか?が主題です。あまりにも広範囲なトピックをカバーしようとしているため、散漫な印象を読み手に与えてしまっています。ぶっちゃけ、後半は読んでいません。なので、半分だけ読んだレビューとなっています。

    なぜ地球温暖化は改善されないのか?

    ここでも最近はすっかり悪者が板についた新自由主義とリバタリアンが諸悪の根源として登場します。ビル・マッキベンが今回特に念入りに槍玉に挙げているのがアイン・ランドとチャールズ・コークの二人です。もちろん、個人攻撃ではなく、彼らが代表する地球温暖化の国際協力の足を引っ張る勢力ですね。

    日本の場合は世界の潮流から少し外れて、新自由主義になっていません。日本の政党は基本的に大きな政府志向ですよね、自民党を含め。だから、日本のほうがアメリカと比べて地球温暖化に取り組みやすいんですかね。この本を読んでると、地球温暖化に対するアメリカの一部の層の強い拒否反応がすごいことは理解できるのですが、その心理までは理解できません。

    まずは、アイン・ランド。彼女自身はリバタリアンと一線を画した「オブジェクティビズム」なのですが、ピーター・ティールをはじめ現代のリバタリアンに非常に人気の高い小説家です。しかし、何と言っても巨悪の根源は石油コングロマリットとその利益を代表するチャールズ・コーク

    自動車業界に悪影響があるからという理由で公共交通機関に反対するってすごいですね。おまけに税金をたくさん収めているんだから、投票権も納税額に比例して増えるべきだなんて主張したりするんですから。お金がある人ほど影響力が行使できるアメリカの議会制民主主義の構造的欠陥はローレンス・レッシグも近著”America, Compromised”で指摘していますね。

    この本はどんな人にオススメか

    内容的には悪くないといいますか、ボク自身はアメリカの影響力がある人たちについて色々知ることができてよかったです。ただ、あまり論理的な構造になっていなくて、冗長的な部分が多々あるのが欠点です。情報量は多いので、それさえ我慢できたらいいのかもしれないです。

    たぶん、リベラルを自称する人たちにもオススメなんでしょうね。地球温暖化って本当に人類が全力で取り組まなければいけないので、あまり政治っぽく語るネタにしたくはないのですが。

  • アップルから学ぶベンチャーキャピタルの役割

    アップルから学ぶベンチャーキャピタルの役割

    今回取り上げるのはアップルです。アップルは「資金を提供する人のメリットは何か」と「いつ外部から資金調達をするべきなのか」と「創業者が資金以外に必要なもの」を理解するのに最適な事例だからです。

    資金を提供する人のメリットは何か

    そもそもベンチャーキャピタル って何?

    スタートアップは人生でもありゲームでもあります。創業者にとっては人生ですし、投資家にとってはゲームです。創業者は自分のプロダクトを形にするためにお金が必要で、投資家は持っているお金を増やす必要があります。

    お金ってほっとくと価値が下がるんですよね。今の日本だと実感しづらいかもしれませんが、インフレで物価は上がるので、相対的に貨幣価値は下がるんです。だから投資家はお金を運用して動かさないといけない。そのために沢山の金融商品が開発されました。プライベートエクイティもその一種です。書評で紹介した”Principles”の著者のレイ・ダリオのヘッジファンドも同様です。

    プライベートエクイティは未公開株のことです。公開株はパブリックエクイティ。エクイティは株のことです。未公開株を使った投資戦略はいくつかあり、ベンチャーキャピタル はその一種です。他にもソフトバンクがボーダーフォンを買収するときに使ったレバレッジバイアウト(LBO)などがあります。

    ベンチャーキャピタルにとって顧客は機関投資家で、プロダクトはスタートアップの成長性。投資を回収して利益を機関投資家に還元します。慈善事業ではないのです。

    最初のベンチャーキャピタル

    ベンチャーキャピタルの父と言われているのはビジネススクールINSEADの設立者であるジョルジュ・ドリオです。第二次世界大戦後の帰還兵がビジネスを立ち上げるためのファンドを作るために機関投資家に働きかけたのが最初と言われています。

    彼が立ち上げたARDC (American Research and Development Corporation)が1957年に7万ドルを投資したDECが十年後の1968年に3億5500万ドルでIPOしました。ベンチャーキャピタルが機関投資家から資金を集めて、スタートアップに投資して回収するというこのモデルは基本的に今でも変わりません。

    簡単に言えば1) 大きな資金で、2) お金を大きく育てられる。この二つの条件が揃った時にベンチャーキャピタルによる資金調達は有効だし、お互いにメリットがあるということですね。そうじゃない場合、例えば、少ない資金でできる場合はブートストラップでやったほうがいいですし、大きな資金が必要だけど、事業としてはあまり育たないならやらないほうがいい。どうしてもやりたければ借金でやったほうがいい。

    いつ外部から資金調達をするべきなのか

    これまで見てきたスロースタートアップはベンチャーキャピタルから資金調達をしないで自己資金(ブートストラップ)で起業しました。

    アップルだってブートストラップではじめました。スティーブ・ジョブズはフォルクスワーゲントラックを750ドルで売って、スティーブ・ウォズニアックはHPの計算機を500ドルで売って資金を作り、それを元手にコンピューターの基盤を作りました。これがApple Iです。ガレージで作ったのは、オフィスを借りる資金なんてなかったからです。ファッションでそんなことやってたわけじゃない。

    アップルの最初の製品”Apple I”のレプリカ(クレジット:Cameron’s Closet)

    The Byte Shopを経営するポール・テレルがApple Iを50個オーダーしてくれました。しかし、ボードだけじゃなくて完成品じゃなければいけない。1個配送する毎に現金で500ドル払ってくれる。さすがに1250ドルではパソコンそのものは作れない。オーダーをうけるには1万5000ドル必要でした。銀行は貸してくれないので、手形で部品を購入します。まあ、つまり借金ですね。でも、全て売り切って利益が出た。

    アップルの場合、Apple IはMVPと言えます。これで利益が出たことでビジネスとして成立できるという仮説を立証できました。そこまではブートストラップだったんですね。

    アップルの最初の資金調達

    スティーブ・ジョブズはAtari、スティーブ・ウォズニアックはHPに勤めていました。まだ、アップルにフルタイムでコミットしていたわけではなかったんですね。そう、どんなスーパーマンでも衣食住は必要なんです。ハードウェアのスタートアップはお金がかかるので、ブートストラップでは限界があります。Apple IIを開発するには流石に外部から資金調達をする必要がありました。

    最初にアップルに投資をしたのはベンチャーキャピタルではなく、エンジェル投資家のマイク・マークラでした。最初の資金を投資してくれるのは家族、友達、エンジェルの三種類でしたよね。3F (Family, Friends, Fools) です。

    マイク・マークラが25万ドルの資金提供をしてくれ、アップルに参加することによって1977年にApple IIを作ることができ、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックもフルタイムでアップルにコミットできるようになりました。

    創業者が資金以外に必要なもの

    しかし、この出会いをお膳立てをしたのは有力ベンチャーキャピタルSequoia Capitalを立ち上げるドン・バレンタインでした。資金を提供するだけならドン・バレンタインだけでできたはずです。なぜマイク・マークラを紹介したのでしょうか?

    スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックは同じ学校に通っていましたが、仲良くなったのは卒業してからだそうです。お互いにエンジニアリングが趣味だということがわかり、仲良くなりました。ある日、ウォズニアックが小説を読んでいるとブルーボックスという、どこでも電話がかけられる機械が登場してきました。しかし、色々調べているとあながち作り話でもなさそうです。そこで、ウォズニアックとジョブズはThe Stanford Linear Accelerator Centerに夜に忍び込んで図書館で文献を漁りまくりました。そうしたらとある文献に小説に出てきた周波数が書いてある。あ、これ本物だ!ということで二人は実際にブルーボックスを使ってバチカンやホワイトハウスに無料で電話をしまくります。これが二人にとっての最初のプロダクトでした。まあ、そういう人たちだったんです。

    ジョブズ

    ドン・バレンタインは資金調達のために会いに来たスティーブ・ジョブズと話をした時に投資をするにはビジネスの経験がないとを感じました。スタートアップに必要な三つの役割はハッカー、ハスラー、ヒップスターの3H (Hacker, Hustler, Hipster)の三つでしたよね。スティーブ・ジョブズはソフトウェア開発者(ハッカー)とデザイナー(ヒップスター)の要素を持っていました。スティーブ・ウォズニアックはソフトウェアとハードウェアの開発者(ハッカー)の要素を持っていました。そう、ビジネスが分かるハスラーがいなかったのです。

    創業者に足りないのって資金だけじゃなくて経験も足りないんですよね。成長に足りないものを見抜いて補完するのもベンチャーキャピタル の仕事の一つです。マイク・マークラはエンジェルとして資金を提供するだけでなく、三人目の共同創業者としてアップルに参加することになります。Googleにおけるエリック・シュミットの役割ですね

    スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックに無かったのはビジネスの経験で、三人目の共同創業者としてマイク・マークラはハスラーとしてビジネスの経験を提供しました。そして、元々インテルでエンジニアだったため、ハッカーとしてもかなりのコードをアップルで書いたようです。

    ベンチャーキャピタルからの資金調達

    1977年に発売されたApple IIは大成功し、翌年の1978年にドン・バレンタインのSequoia Capitalもアップルに投資します。ベンチャーキャピタルは機関投資家の資金を預かり、それを投資しているのでスタートアップをエグジット *1 させて投資を回収しないといけません。アップルの場合は投資から約二年後の1980年12月に1億7900万でIPOします。

    参考文献

    17 things you didn’t know about the Apple 1 – one of the world’s most expensive computers – BT

    Apple chronology – Jan. 6, 1998

    An ‘Unknown’ Co-Founder Leaves After 20 Years of Glory and Turmoil – The New York Times

    Sequoia

    Wozniak Meets Steve Jobs: Blue Box Free Phone Calls Worldwide – YouTube

    Blue Box – Why Steve Jobs and Steve Wozniak hacked the phone network › Mac History

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    *1:IPOやM&Aなどにより投資した資金を回収すること

  • スロースタートアップ|第四回:GoPro|ハスラーのブートストラップ

    スロースタートアップ|第四回:GoPro|ハスラーのブートストラップ

    ニック・ウッドマンは他のスタートアップ創業者と少し違います。スタートアップにはハッカー(開発者)、ハスラー(ビジネス)、ヒップスター(デザイナー)の三種類の人が必要だと言われています。頭文字をとって3H (Hacker, Hustler, Hipster) 。多くのスタートアップはハッカー(開発者)かヒップスター(デザイナー)が創業者です。ハスラー(ビジネス)が創業者のケースは非常に少ないです。

    これは、プロダクトを作る人がまずは必要だからです。ハスラーはビジネスに関する知識があってもモノは作れないですからね。デザインと開発を外注しないといけない。GoProのようなハードウェアスタートアップであればハードウェアの開発者が創業者のことが多いです。例えば、Oculusのラッキー・パーカーのように。しかし、ニック・ウッドマンはモノを作った経験がないハスラーの創業者でした。どうやってGoProを作ったのでしょうか?

    GoPro創業前

    ニック・ウッドマンは40歳までにスタートアップで億万長者になる夢がありました。周りと違うことをしたい *1

    そこで、大学を卒業してすぐに二つのスタートアップ(ショッピングサイトのEmpowerAll.comとゲーム会社のFunbug)を立ち上げています。ベンチャーキャピタルから400万ドル調達しましたが、これらはうまくいきませんでした。何もやりたいことが見つからず、半年くらい落ち込んだそうです。

    GoProの創業

    ニックが大学時代に打ち込んでいたことはサーフィンでした。そこで、インドネシアとオーストラリアに5ヶ月間のサーフィンの旅に出ることにしました。この旅を写真に収めるために腕にカメラを取り付けてサーフィンをしている姿を撮りたいと考えました。そこで、市販の防水インスタントカメラを腕に取り付けることにします。しかし、市販のカメラを腕に取り付けるストラップがない……あれ?これビジネスとしてイケるんじゃない?

    最初のアイデアは市販のカメラを腕につけるストラップでした。GoProはいきなりカメラじゃないんです。こちらがその最初のプロトタイプ。このアイデアを元に再び起業。三度目の正直ですね。2002年のことでした。

    最初のGoPro(リストストラップ)のプロトタイプ(クレジット:Forbes/YouTube)

    ニックは作ったリストバンドを近所のサーフショップで15ドルで売ってみました。そこで気がついたのはリストバンドよりむしろ市販の防水インスタントカメラが問題だということです。サーフィンで使うには耐久性が弱い。そこで、このリストバンドの権利をKodakに売って、Kodakにリストバンドにあったもっといいカメラを作ってもらおうと考えましたが、これはうまく行きませんでした。まあ、そうですよね。

    最初のカメラ

    Kodakが作ってくれないので、自分で作ることにしました。自分で工具を使ってプラスチックを削り、型を作りました。これを中国のカメラ製造会社のHotaxに送ります。Hotaxから送り返されてきたのはCADファイルでした。なんとここのファイルを開けて確認したところ、うまくいきそうでした。

    ハードウェアのスタートアップの場合、製造コストが必要です。でも、そんなお金なかったら?

    他人から借りるのです。スタートアップには”3F”という言葉があります。最初にお金を貸してくれるのは家族、友達かエンジェル投資家。その頭文字をとって3F (Family, Friends, Fools) です。エンジェルがFoolというのもひどいですね!「アクションカメラ」というジャンルを築き上げたGoProの場合は家族が初期の投資をしてくれました。お父さんは投資銀行の役員ですからね。20万ドル(約2000万円)を「投資」してくれました。身内から借りるのもブートストラップのやり方の一つ。

    これを元手にHotaxで一個あたり3ドルの製造し、14ドルでサーフショップで売ることにします。これが最初のGoProになります。起業から2年目の2004年です。

    テレビショッピングで販売

    GoProといえばデジタルカメラを思い浮かべると思いますが、最初は35mmフィルムのカメラでした。だから3ドルで作れるんですね。

    最初はサーフショップだけで販売していましたが、テレビショッピングまでチャネルを広げました。いまだったらネットショップで売ったんでしょうが、当時はまだテレビショッピングの影響が大きかったのです(下が当時の番組を録画したYouTubeビデオ)。これを二年間売り続けました。

    テレビショッピングで売られる初代GoPro(クレジット:youtu.be

    デジタルカメラのGoPro

    しかし、友人たちから「デジタルカメラにしてほしい」と言われます。流石にそろそろフィルムはツライですよね。そこで、いよいよ2006年にデジタルカメラのGoPro Hero Digitalを発表します。初代のGoProの売り上げのおかげでデジタルカメラを製造できるくらいの原資もできました。ここでようやく私たちにも馴染みのあるGoPro Digital Heroが誕生します。音声は録音できませんでしたが、10秒のビデオが撮影できました。

    大人になるということ

    ここまでニック・ウッドマンはGoProで外部資金を調達していませんでした。しかし、Oculusの事例で見てきたように、ハードウェアのスタートアップは難しい。イノベーションを続けるためにR&Dが必要だし、在庫を持たなければいけないのでサプライチェーンの管理もしなければいけない。

    そこで、創業から9年後の2011年にRiverwood Capitalをリードとしてベンチャーキャピタルから資金調達をします。Riverwood Capitalは製造業のために受託生産サービス(EMS)を提供しているFlextronicsのマイケル・マークスのベンチャーキャピタルです。つまり、製造業のプロ。さらに、マイケル・マークスの仲介でFoxconn(鸿海)からも資金調達を受けます。

    この製造のプロからの支援によりGoProはブートストラップから卒業して大人の階段を登りはじめます。ニック・ウッドマンはこうしてスタートアップで億万長者になる夢を叶えていきます。ただニックがハスラー(ビジネス)ではなくハッカー(デベロッパー)やヒップスター(デザイナー)だったらもっと違った形になってたのかもしれないと思ったりもします。

    参考文献

    GoPro CEO Nick Woodman’s Formative Moment – YouTube

    How GoPro Made A Billionaire | Forbes – YouTube

    First ever GoPro camera – Hero 35 mm – Full story. | Pevly

    The Evolution of the GoPro – Poundit

    Can GoPro Rise Again?

    Foxconn CEO Terry Gou On His Company’s Growing Relationship With GoPro

    GoPro Reveals Why Foxconn CEO Terry Gou Didn’t Take Board Seat

    The Untold Story of How Massive Success Made GoPro’s CEO Lose His Way. Can He Recover? | Inc.com

    The Life And Awesomeness Of A GoPro Founder Nick Woodman – Business Insider

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    *1:ちなみに、ニックの父親は投資銀行の役員で、家庭はすごくリッチだったと思います。まわりの友人も弁護士とか投資銀行とかの家庭が多かったそうです。レーシングカーにも乗ってますからね、金持ちじゃないとできません。金持ちがスタートアップやっちゃいけないなんてことはないですからね。スタートアップに貴賎なし。

  • スロースタートアップ|第三回:MailChimp|選んだ道じゃないけれど

    スロースタートアップ|第三回:MailChimp|選んだ道じゃないけれど

    スタートアップといえば急速な成長のためにベンチャーキャピタルからガツンと資金調達をするイメージがあると思います。しかし、ベンチャーキャピタルから資金調達をせずにずっとブートストラップ *1 しながら成長するスタートアップも存在します。日本だとサイバーエージェントがそうですよね。そういうブートストラップなスタートアップをスロースタートアップと呼びたいと思います。

    「スロースタートアップ」の第三回目はスタートアップなら誰しも(おそらく)お世話になったことがあるMailChimpです。当然、ボクもお世話になっています!これまで見てきたGithubはやりたいことを求めてdribbbleはおじさんたちのサイドプロジェクトとして資金調達をしない自らスロースタートアップの道を進みましたね。MailChimpの場合は全く別の理由でスロースタートアップの道を歩まなくてはなりませんでした

    MailChimpってなに?

    簡単に言えばeメールによるマーケティングツールです。マーケティングオートメーション(MA)のメールだけに特化したサービスです。2000サブスクライバーまでは無料なのでスタートアップがよく使います。ほんと助かってます。

    勘違いによる出会いと解雇

    創業者のベン・チェスナットとダン・クルジアスはアトランタで出会います。ベンはデザイナーとしてCoxという会社に勤めていました。MP3のプロジェクトでデベロッパーが必要だったベンは友人からダンを紹介されます。ダンは元々はDJで不動産業をしていました。音楽の仕事でDJのプログラミングだと思ってたら、コンピューターのプログラミングだった。とんだ勘違いですが、速攻でコンピューターのプログラミングを覚えたそうです。マジか!

    勘違いからの出会いでしたが、二人は息があったようで一緒に働きます。しかし、CoxのMP3の事業は二人の仲ほどはうまくいかず、2000年にベンとダンは一緒に解雇されてしまいます。まあ、Spotifyまで音楽ビジネスはうまくいかないのですから、これは仕方がない。

    失意の起業と失敗の連続

    そして、失業者となった二人は2001年にRocket Science Groupを立ち上げます。最初はコンサルティング業、次に旅行業にピボット、更に不動産業にピボットします。つまり、うまくいかなかったわけです。ベンもダンも奥さんと子供がいましたが、この頃の生活費は奥さんが稼いでくれました。実はもうひとり創業者がいたのですが、その人とはコンタクトが取れないそうです。まあ、うまくいかない時期ってそんなもんですよね。

    うまくいかなかった理由は二人とも営業が苦手だったからです。アトランタにはデルタ航空、コカコーラ、CNNなどの大企業があるのですが、そういう大企業を相手にするのも苦手でした。自分たちでもできたのは中小企業で、中小企業はeメールマーケティングを求めていました。

    MailChimpの誕生

    そこで、普段は大企業相手につらい営業をしつつ、空いた時間で中小企業向けにeメールマーケティングの自動化の手伝いをしていました。この隙間時間のeメールマーケティングのプログラムはすごく楽しむことができたそうです。そして、それが1万ドル(約10万円)、2万ドル(約20万円)くらい入ってくるようになりました。そこで、使っていたプログラムをMailChimpと名付けて、それだけでやっていくことに決めました。これが2007年の話。創業から6年ですね。すっごく長かった!

    2007年と言えばMailChimpの競合会社でベンチャーキャピタルから資金調達をしていたConstant ContactがIPOをした年です。当然ながらベンチャーキャピタルはMailChimpにも来たそうです。でも、ぶっちゃけファイナンシングというのがよく分からなかったそうです。何か信念があって資金調達をしなかったわけではなく、よく分からなかった。少なくとも初期のインタビューではそう答えています。当時のベンチャーキャピタルのアドバイスは中小企業ではなく、大企業のエンタープライズビジネスにシフトすることでした。しかし、それは二人がやりたくないことでした。

    フリーミアムで飛躍

    MailChimpが急速に成長したのは2009年にフリーミアムモデルを導入してからです。当時は10万人くらいだったユーザーがその年で100万人になり、翌年に200万人になりました。

    ブートストラップし続けるということは、エグジットする必要がないということです。回収しなければいけないものがないですから。ベンチャーキャピタルから投資を受け入れるということは、投資を回収する(エグジットする)ためにIPOなりM&Aをしなければいけません。進んで起業したわけでもなく、選んでブートストラップしたわけでもありませんが、MailChimpの場合はそういう圧力がないので今日も元気にブートストラップ中です。

    参考文献

    Want Proof That Patience Pays Off? Ask the Founders of This 17-Year-Old $525 Million Email Empire | Inc.com

    MailChimp Story – Profile, CEO, Founder, History | Email Marketinng Companies | SuccessStory

    Monkey Business: The Story Behind MailChimp’s Wild Growth | Drift Blog

    MailChimp and the Un-Silicon Valley Way to Make It as a Start-Up – The New York Times

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    *1:自己資金で事業をするという意味。コンピューター用語としてコンピューターを起動することをブートと言います。ブートストラップは外部からの助けがなくプロセス実行できることを言います。それがスタートアップの世界でもそのまま使われるようになりました。ちなみに、本来的な意味はブーツの後ろにつく輪っかの部分です。ブーツをかける輪っか。

  • スロースタートアップ|第一回:Github|スポーツバーとラーメン利益

    スロースタートアップ|第一回:Github|スポーツバーとラーメン利益

    スタートアップといえば急速な成長のためにベンチャーキャピタルからガツンと資金調達をするイメージがあると思います。しかし、ベンチャーキャピタルから資金調達をせずにずっとブートストラップ *1 しながら成長するスタートアップも存在します。日本だとサイバーエージェントがそうですよね。そういうブートストラップなスタートアップをスロースタートアップと呼びたいと思います。

    これから何回かにわたってブートストラップで大きくなった「スロースタートアップ」をいくつか紹介していきます。まずは先日、マイクロソフトに買収されたGithubから。Githubは2008年に創業して、2012年までブートストラップでした。創業者たちはどのように生活費を稼ぎながらGithubをブートストラップしたのかみていきましょう。

    スポーツバーとサイドプロジェクト

    Githubはスポーツバーで生まれました。創業者のトム・プレストン・ワーナーとクリス・ワンストラスは夜遅くにバーで開催されるRuby開発者のミートアップに参加していました。何杯か飲んで休んでいるときにトムがクリスを見かけました。なぜかは覚えていないそうですが、その時にトムがやっていたプロジェクトだったGritをクリスに見せたそうです。GritはRubyで開発したGitレポジトリにアクセスするプログラムでした。トムはすでにWebでGitレポジトリを共有できるプラットフォームのアイデアを持っていました。そして、クリスが言います。「よし、一緒にやろう (I’m in. Let’s do it.)」このスピード感がいいですね。

    そして、翌日の2007年10月19日午後10時24分にクリスが最初のコードをGithubにコミットします。これがGithubのはじまりです。企業立ち上げの公式な手続きがあったわけではなく、二人のプログラマーがクールなことをやろうとした結果でした。

    次の三ヶ月、二人はGithubのプログラミングを行います。トムはGritを開発し続け、UIをデザインし、クリスはRailsのアプリケーションを作りました。毎週土曜日に会って、方向性を話し合いました。この頃、二人ともフルタイムで働いていてGithubはサイドプロジェクトでした。Githubはほぼ全てRubyで開発され、一部だけErlangのgit daemonを使いました。

    ローンチとマイクロソフトと「生かすか殺すか」の決断

    最初のプライベートベータは2008年1月。最初のコミットから三ヶ月後でした。そして、三人目の創業者となるPJハイアットが加わって4月に正式なローンチをします。この時のユーザー数は300人強。自分たちが素晴らしいことをしているという意識はあったそうですが、すごく大きくなるとは想像していませんでした。ローンチもメディアを招待して壮大にやったわけではありません。

    そして、その年の7月にトムは人生の岐路に立ちます。フルタイムで勤めていたPowersetがマイクロソフトに買収されたのです。29歳でした。トムはWordpressなどで使われるアバターのアドインとして有名なGravitorの開発者で前年にAutomatticに売却してからPowersetに勤めています。そのせいなのか、贅沢な暮らしが板についてしまっていて、この頃にはそれなりの額の借金があったそうです。しかも、マイクロソフトの条件はすごくいい。クリスとPJはトムより年下で、すでにフルタイムでGithubにコミットしていたそうです。フリーランスをしながら食いつないでいた。クリスなんてCNETで働いていたんですけどね。トムがマイクロソフトに移ったらGithubはお終い。そして、結局は期限ギリギリにPowersetを退職してGithubにフルタイムでコミットすることに決めたそうです。

    ブートストラップと「ラーメン利益」

    さて、三人は安定した収入を絶ってフルタイムでGithubにコミットします。そして、結果的に5年近く外部から資金調達をせずに自己資金だけで運営していくことになります。

    トムはGravitorで起業の経験があるので、無償で大きなサービスを提供するのは危険だと理解していました。Githubは大きなデータベースなのでサーバーコストの問題を解決する必要がありました。そうした理由でプライベートベータの段階では友人しか招待しませんでした。しかし、徐々にプライベートなレポジトリにお金を払っていいという人たちが出てきました。このプライベートリポジトリによるビジネスモデルが見えていたので三人はそれにかけてフルタイムでコミットできたんですね。

    サーバーコストはSlicehostのドメインとストックフォトくらいで、あまり大したことありませんでした。一番の問題は創業者たちの生活費。これが一番大きかったそうです。おそらくこれはどのスタートアップでも言えることだと思います。だからY Combinatorのポール・グレアムは「ラーメン利益 (Ramen Profitable)」が大事だと言ってるんですね。スタートアップの創業者がどれだけすごくても人間なんで、毎日カップラーメンが食べれるくらいの生活費は必要なんです。

    最初の頃は少額の給料をGithubから受け取り、設定したゴールを達成したら翌月からその額を少し上げていったそうです。足りない生活費はフリーランスの仕事などアルバイトで稼ぎました。ゴールを達成できなかった月もあったそうですが、最終的には三人とも生活費が稼げるくらいの収入になったそうです。約5年後の2012年に外部から資金調達をしますが、それまではこんな感じでブートストラップしてきたそうです。

    あとはご存知の通り、Githubはとても人気のあるサイトになり、マイクロソフトに買収されました。しかし、残念ながらトム・プレストン・ワーナーはマイクロソフトに買収される前にハラスメント問題でGithubを去ることになってしまいます。なんか、マイクロソフトと縁がない人なんですね……

    参考文献

    Bootstrapped, Profitable, & Proud: GitHub – Signal v. Noise

    Tom Preston-Werner on Powerset, GitHub, Ruby and Erlang

    How I Turned Down $300,000 from Microsoft to go Full-Time on GitHub

    GitHub co-founder Chris Wanstrath shares his story, University of Cincinnati

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    *1:自己資金で事業をするという意味。コンピューター用語としてコンピューターを起動することをブートと言います。ブートストラップは外部からの助けがなくプロセス実行できることを言います。それがスタートアップの世界でもそのまま使われるようになりました。ちなみに、本来的な意味はブーツの後ろにつく輪っかの部分です。ブーツをかける輪っか。

  • アメリカ政府機関「18F」から学ぶプロダクトオーナーの役割

    アメリカ政府機関「18F」から学ぶプロダクトオーナーの役割

    原文:”So, you’re a Product Owner…” by Hannah Kane

    18Fで官公庁のパートナーとのプロジェクトでデジタルプロダクトを開発するときの最大のゴールは最終的に官公庁パートナーがそのデジタルプロダクトとその結果のオーナーシップを完全に持つことです。これこそ私ちが政府の技術的プロジェクトにおけるトランスフォーメーションにおけるミッションの実現につながっています。

    このオーナーシップの意識を醸成する方法の一つがプロダクトオーナーを初期の段階で決めることです。プロダクトオーナーは官公庁のメンバーで、18Fと一緒に働きプロダクトを初期段階から最終的なデリバリー、さらにその先へと導いていきます。プロダクトオーナー(PO)は18Fとのエンゲージメントが終了した後にプロダクトの全責任を持ちます。

    18Fプロジェクトにおけるプロダクトオーナーの役割とは?

    私たちのパートナーシッププリンシプルに記述されているように、エンパワメントされたプロダクトオーナーは「所属する官公庁や部門の仕事や課題に関して理解していて、共に開発するプロダクトの普及支援ができる人物。ユーザーリサーチに基づきプロダクトの長期的ビジョンを確立し、戦略を実行に落とし込み、進捗をリードしていく」という役割を持っています。

    POがプロジェクトに使わなければいけない時間はそのプロダクトの性質に依存しますし、時間と共に変化します。POは初期の段階ではプロダクトとの責任を18Fのメンバーと共有します。しかし、18Fのメンバーはプロジェクトが進むに従ってその責任をPOに移管していきます。データを多く扱うWebサイトやインタラクティブなアプリケーションの場合は、最終的にPOはフルタイムの仕事となる可能性があります。

    私たちは官公庁のPOに戦略的なやり方と戦術的なやり方の両方を求めます。POはプロダクトのビジョンを持ち、これは解決する問題の深い理解に基づきます。18Fとの仕事では、ユーザーとプログラムが必要とする戦略を作るためにユーザー中心のアプローチをとります。また、プロダクトの成功を組織の内側と外側の両方に位置づけます。

    戦術的なレベルにおいてPOはソフトウェア開発におけるバックログの改善からスプリント計画といった会議やタッチポイントに参加し、場合においては主導的な役割を果たします。これらの専門用語がわからない場合(多くの官公庁POははじめての人が多い)、これらがソフトウェアプロジェクトの具体的で戦術的なタスクを定義して計画するため定期的に頻繁(多くは毎日)に訪れる機会だと覚えておいてください。

    プロダクトオーナーは技術的なバックグラウンドが必要?

    POはソフトウェア開発チームの重要な一員ですが、技術的なバックグラウンドは必要ありません。多くの場合、潜在的なユーザーやユーザーが持つ課題についての理解、そして課題に着実に近づいていく姿勢の方が技術的知識より決定的に重要になります。 複雑なステークホルダーとの関係を調整し、ビジネスとプログラムのゴールを理解し、難しい決断をし、時には妥協点を探ることもプロダクトオーナーの仕事です。

    プロダクトオーナーが顧客やユーザーの声を代表していると考えるのであれば、POは技術的なバックグラウンドがない方が望ましいことが多いです。もちろん、対象とするユーザー層が非常に技術的でなければ、技術に疎いPOはユーザーニーズを理解しやすいでしょう。

    大きなインパクト

    それではプロダクトオーナーはソフトウエア開発においてどのように大きなインパクトを与えるのでしょうか?以下はプロセスにおいてあなたのスキルや経験を活かすヒントです:

    • ユーザーのニーズを常に前面に打ち出し、ほかのメンバーにも同じ姿勢を求めましょう。よくあることですが、チームやステークホルダーは自らの仕事を機能で説明する習慣に戻ってしまいます。機能やバグなしのコードのためではなく、人々が持つ具体的な問題を解決するためにここにいるのだと思い起こさせましょう。プロジェクトの成功をユーザーニーズの解決と位置付けましょう。
    • プロダクトを使うユーザーとできる限り頻繁に繋がりましょう。構造化されたリサーチ活動(インタビューやコンテキストインタビュー)、ユーザーテスト(ユーザーがプロダクトを使う様子を観察)、スプリントレビュー(ステークホルダーに定期的にデモをしてレビューを受ける)や共創活動(デザインスタジオなど)多くの機会があります。全ての機会を利用してユーザーのニーズを理解する努力をしましょう。ユーザーが使う言葉や、苛立ち、混乱、驚き、喜びのポイントをノートに残しましょう。
    • ステークホルダーと繋がり情報をアップデートしましょう。定期的なアップデートのデモへ招待したり、プロダクトの様々な部分における専門家として話を聞いたり、プロダクトのビジョンや戦略について話をするために時間をとってもらいましょう。
    • 柔軟的でいましょう。最近、18FとのプロジェクトでPOの役割を果たしたAmber Sprinkleは「POのビジョンはチームを導くのに役立ちますが、そのビジョンにたどり着く道筋に関してはオープンマインドでいることが必要です。そして、ビジョンは変わることも理解しておかなければいけません」と語っています。
    • 簡潔な言葉を使いを意識し、ほかの人にも簡潔な言葉を使うことを求めましょう。簡潔な言葉は一般の人たちにとって読みやすく、理解しやすく、政府の公共サービスを理解しやすくなります。専門用語に注意をし、シンプルでストレートな言い方を推進しましょう。
    • 難しい決断をしましょう。POは相反する優先順位に関して戦略的に選択をすることでチームの成功に大きな貢献をすることができます。POはプロダクトバックログの完了に責任を持ちます。その優先順位は常に現在の優先順位に反映されなければいけません。
    • チームの推進力と士気を上げましょう。チームメートが問題解決にフォーカスして結果を出すことを助けましょう。成功を積極的に称えましょう。失敗やつまずきから学ぶことにリーダーシップを発揮しましょう。開発のプロセスの中でチームは見失いがちで、POの仕事はチームを前に進めることです。

    プロダクトオーナーの仕事に興味があるのであれば、米国森林局のオンライン許可プロジェクトにPOであるAaron Burk氏のインタビューを読んでみることをお勧めします。Aaron氏はPOについて大事なことを指摘しています。POは技術ではなく、課題を解決して価値を提供することが仕事だと述べています。 このような価値観を持っているのであれば、POの仕事はとても意味のあるものとなるでしょう。

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