『帰れない山』映画レビュー|友情と人生の選択を描く壮大な叙事詩

『帰れない山』は、イタリアの作家パオロ・コニェッティのベストセラー小説を原作とし、フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲンとシャルロッテ・ファンデルメールシュが共同監督を務めたドラマ映画です。第75回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、その映像美と深い物語が高く評価されています。

物語は、北イタリアのモンテ・ローザ山麓を舞台に、都会育ちのピエトロと山育ちのブルーノという対照的な環境で育った二人の少年の友情と人生の選択を描きます。

あらすじ|都会と山、異なる人生を歩む二人の少年

ピエトロはトリノで育った少年で、父ジョヴァンニとの関係に悩みながら成長します。一方、ブルーノはアルプスの小さな村で酪農を営む叔父夫婦のもとで育ち、山を愛する青年へと成長します。

二人は11歳の夏に出会い、山での探検を通じて深い友情を築きます。しかし、ピエトロが成長するにつれて父との関係が疎遠になり、ブルーノは逆にジョヴァンニと親密になっていきます。その後、二人は別々の人生を歩みますが、ジョヴァンニの死をきっかけに再会し、山小屋の建設を通じて再び友情を育んでいきます。

テーマ|人生の選択と友情、そして自然とのつながり

『帰れない山』は、友情、家族、そして人生の選択の意味を問いかけると同時に、人と自然の深い結びつきを描いた作品です。ピエトロとブルーノは、異なる環境と価値観を持ちながらも、アルプスの山々を愛し、そこを通じて自己を見つめ直していきます。

物語は、二人の友情の力を強調しながらも、父と子の関係や社会的な格差といったテーマも描きます。都会育ちのピエトロと、山で育ったブルーノ——彼らの人生の選択肢は異なりますが、それは特権や社会的背景によるものでもあります。ピエトロは世界を巡る自由を持ち、ブルーノは山にとどまることを選びます。しかし、どちらの道が正しいのかは明確には示されず、最終的には自分が選んだ道を受け入れるしかないというメッセージが込められています。

また、本作は自然の持つ癒しと再生の力を強く描いています。アルプスの山々は、二人の少年にとってただの舞台ではなく、アイデンティティを形作る重要な要素であり、人生の旅における心の拠り所でもあります。人はどこに属するのか、何を求めるのか——その答えを探す旅こそが、本作の核となるテーマなのです。

キャラクター造形|対照的な二人の少年が映す人生の選択

『帰れない山』の物語は、都会育ちのピエトロと山に生きるブルーノという対照的な二人のキャラクターを通じて、人生の選択と自己探求を描き出します。ピエトロは、山への憧れを抱きながらも、自分の居場所を見つけられずに世界を彷徨う「旅人」として描かれます。一方、ブルーノは、山を離れることなくそこで生き続ける「不動の山」としての存在を象徴しています。この二人の対比が、本作の核となるテーマを際立たせています。

ルカ・マリネッリが演じる成人したピエトロは、温かみと内省的な雰囲気を持ち合わせ、常に自分の生きる意味を探し続けるキャラクターとして表現されています。一方、アレッサンドロ・ボルギが演じるブルーノは、無骨ながらも神秘的なカリスマ性を持ち、山と一体化したような存在感を放っています。監督たちは、ピエトロの放浪とブルーノの定住というコントラストを映像で巧みに描き、彼らの異なる人生観を強調しています。

さらに、物語の中で重要な役割を果たすのがピエトロの父ジョヴァンニです。彼は、都会ではストレスを抱えたサラリーマンでありながら、山では自由で情熱的な「山の父」として描かれています。彼の二面性は、ピエトロとブルーノの人生にも影響を与え、それぞれが異なる道を選ぶ要因の一つとなっています。監督たちは、ピエトロのナレーションを多用し、彼の内面を丁寧に描くことで、登場人物たちの複雑な感情と関係性をより深く観客に伝えています。

映画技法|アルプスの映像美と映像表現のこだわり

『帰れない山』の映像美は、アルプスの壮大な自然を際立たせるための綿密な映画技法によって支えられています。本作は1.37:1のアスペクト比で撮影されており、この縦長の画角が山々のそびえ立つ威厳を強調し、登場人物との対比を際立たせています。また、ルーベン・インペンスによる撮影では、ドローンショットを用いた空撮や、ステディカムで登場人物を追いながら山を背景にぼかす手法が用いられ、観る者に圧倒的な没入感を与えています。

本作の映像は、時間の流れや自然の変化を細やかに捉えるために、約7か月にわたる四季の移り変わりの中で撮影されました。登場人物たちが季節ごとに異なる風景の中を歩むことで、彼らの人生の変遷と成長がよりリアルに感じられる構成となっています。また、キャラクターを画面の下部に配置し、山々を画面上部に大きく映し出す構図を繰り返し用いることで、人間と自然の関係性を象徴的に描いています。

音楽については、スウェーデンのミュージシャン、ダニエル・ノーグレンのフォーク調の楽曲が使用されており、登場人物たちの内面や土地へのつながりを表現する役割を果たしています。ただし、映像だけでも十分に感情を伝えることができる本作においては、音楽が語りすぎていると感じられる場面もあるかもしれません。全体的に、本作はストーリーよりも視覚的な語りを重視した映画であり、その映像表現が友情や人生の選択、自然とのつながりを深く印象づける作品となっています。

まとめ|人生の選択を映し出す叙事詩的なドラマ

『帰れない山』は、アルプスの美しい風景を背景に、友情と人生の選択を描いた感動的な物語です。異なる道を歩む二人の少年の姿を通して、観る者に「自分はどの道を選ぶのか」という問いを投げかけます。

作品の解釈は観る側に委ねられる部分が多く、評価は分かれるかもしれません。しかし、圧倒的な映像美と繊細な心理描写は、間違いなく観る者の心に深く刻まれる作品です。

帰れない山

帰れない山

  • ルカ・マリネッリ

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