『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』は、ドナルド・トランプの若き日を描いた伝記映画です。監督はアリ・アッバシ、主演はセバスチャン・スタンが務め、トランプの台頭と彼の人格形成に大きな影響を与えた弁護士ロイ・コーンとの関係を中心に描かれています。
本作は第77回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品され、セバスチャン・スタンが主演男優賞、ジェレミー・ストロングが助演男優賞にノミネートされるなど、高い評価を得ています。

- あらすじ|トランプとロイ・コーンの出会いと変貌
- テーマ|権力と影響力の危うさ
- キャラクター造形|トランプとコーンの複雑な関係
- 映画技法|視覚表現で描くトランプの変貌と時代背景
- まとめ|トランプの原点を探る必見の作品
本作は、1970年代から1980年代のニューヨークを舞台に、若き日のドナルド・トランプがいかにして成功を収め、現在の彼の人格が形成されたのかを描いています。特に、彼の師であり、悪名高い弁護士ロイ・コーンとの関係に焦点を当て、その影響力を深く掘り下げています。
あらすじ|トランプとロイ・コーンの出会いと変貌
1980年代、気弱で繊細な若き実業家ドナルド・トランプ(セバスチャン・スタン)は、不動産業を営む父の会社が政府に訴えられ、破産寸前まで追い込まれていました。そんな中、トランプは政財界の実力者が集まる高級クラブで、冷酷な弁護士ロイ・コーン(ジェレミー・ストロング)と出会います。
コーンはトランプに「勝つための3つのルール」を伝授し、彼を洗練された実業家へと導きます。しかし、トランプは次第にコーンの想像を超える存在へと変貌していきます。
テーマ|権力と影響力の危うさ
本作の中心テーマは、権力と影響力の危うさです。若きドナルド・トランプが成功を追い求める中で、ロイ・コーンという悪名高い弁護士の指導を受け、道徳や倫理を超越した手段で権力を手に入れていく過程が描かれています。
映画では、コーンがトランプに「常に攻撃せよ、決して非を認めるな、敗北しても勝利を主張せよ」という3つの原則を教え、彼の戦略がどのように形成されたのかを明らかにしています。さらに、トランプがメディア操作を学び、公のイメージを自らの武器として活用していく姿も強調されます。
本作はトランプの道徳的な堕落と、その過程で繰り返される裏切りや非倫理的な行動を浮き彫りにします。成功への執着と家庭環境の影響が、彼の野心をどのように増幅させたのかも描かれています。
アリ・アッバシ監督は、こうした要素を通じて、トランプがどのようにして極めて対立的な公人へと変貌したのかを検証し、彼の原点を非党派的かつ率直に描き出しています。
キャラクター造形|トランプとコーンの複雑な関係
セバスチャン・スタンは、若き日のドナルド・トランプを見事に演じ、1970年代から1990年代にかけての彼の変貌を体現しています。映画の冒頭では、トランプは父の期待に応えようと奮闘する野心的な若手不動産業者として描かれますが、次第にロイ・コーンの教えを内面化し、冷酷なビジネスマンへと成長していきます。
一方、ジェレミー・ストロング演じるロイ・コーンは、反共主義者であり、数々の著名な裁判を手がけた実力派弁護士として登場します。彼はトランプにメディア操作や容赦のない戦術を教え、彼の人格形成に大きな影響を与えます。
二人の関係は単なる師弟関係を超え、互いに深く影響を与え合うものとして描かれます。特に映画の後半では、コーン自身が「自らが生み出した怪物」に恐怖を抱く様子が示され、二人の関係性の変化が際立ちます。アッバシ監督は、トランプの台頭が単なる財産の継承ではなく、コーンの指導によるものでもあったことを巧みに描き出しています。
映画技法|視覚表現で描くトランプの変貌と時代背景
監督のアリ・アッバシは、『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』において、様々な映画技法を用いてテーマを強調しています。特に、時代ごとの映像スタイルの変化、メディアの影響を表現するカメラワーク、そしてトランプの成長を象徴する空間の変化などが巧みに活用されています。
本作では、トランプの人生の各時代を異なる映像スタイルで表現しています。1970年代のシーンでは16mmフィルム風の質感を持たせ、1980年代に入るとアナログビデオ風のビジュアルへと変化させることで、トランプの変貌とメディア環境の変遷を視覚的に示しています。また、公の場面ではシネマ・ヴェリテ(ドキュメンタリー風)の撮影手法を採用し、ズームレンズや自然光を活かすことで、リアリティを高めています。これにより、メディアがトランプの公的イメージを形作る様子が強調されています。
一方で、トランプとロイ・コーンのプライベートな場面では、固定16mmレンズや伝統的なショット・リバースショット(対話のカット割り)を用いることで、より映画的な語り口を採用。これにより、トランプの公的イメージと私的な関係性のコントラストが際立ちます。さらに、撮影監督のキャスパー・タクセンは、1970年代・1980年代特有のフレーミング技術を再現し、構図の細部にまでこだわることで、当時の雰囲気を忠実に再現しています。
空間の使い方にも工夫が施されています。映画が進むにつれ、トランプの登場するシーンは小さく閉塞的な空間から、次第に広大で豪華なロケーションへと移行していきます。これは、彼の野心の拡大と権力の増大を視覚的に表現する手法として効果的に機能しています。
さらに、本作では実際のアーカイブ映像と再現シーンを巧みに組み合わせることで、史実とフィクションの境界を曖昧にし、より説得力のある物語を構築しています。例えば、テレビインタビューのシーンでは、当時の雰囲気をリアルに再現するために、ミネットライト(放送照明)を活用し、トランプのメディア操作の巧妙さを際立たせています。
これらの映画技法を駆使することで、アッバシ監督はトランプの道徳的変貌、ロイ・コーンの影響、そしてメディアが世論形成に果たす役割を巧みに描き出し、視覚的にも歴史的にも強く訴えかける作品を作り上げています。
まとめ|トランプの原点を探る必見の作品
『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』は、ドナルド・トランプという人物の原点を探るとともに、権力と影響力の危うさを描いた秀逸な伝記映画です。セバスチャン・スタンとジェレミー・ストロングの熱演、そしてアリ・アッバシ監督の巧みな演出により、観客はトランプの知られざる過去と彼を形作った要因を深く理解することができるでしょう。
政治や歴史に興味がある方はもちろん、人間ドラマとしても見応えのある作品です。