イギリスの田舎を舞台としたサスペンスホラー作品『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』の映画評です。ブラムハウス作品。『サイコ』からつづく日常に潜む異常者の恐怖を描くサイコホラーの系譜のひとつ。
ベン(スクート・マクネイリー)と妻ルイーズ(マッケンジー・デイヴィス)、娘アグネスのダルトン家は休職中の成り行き上にロンドンに住むことになる。イタリア旅行中に出会ったイギリス人医師パティ(ジェームズ・マカボイ)と妻キアラ(アシュリン・フランシオーシ)の招待で週末をイギリスの田園風景が広がる田舎で過ごすことに。パティとキアラのもてなしに違和感を感じつつもベンとルイーズは親切心からくるものだと気にしないようにしていたのだが……という話です。

本作のテーマは「価値観の衝突」なのだと受け取りました。もっと言ってしまえば「イデオロギーの衝突」なのかも。ベジタリアンで環境問題にも強い意識を持つ。テスラに乗って都会的なルイーズたち。おそらく民主党員なんだろう。トランプには投票しなそう。享楽的で田舎を好むパティたち。車もピックアップトラック。イギリス人だけど、アメリカ人だったらトランプに投票しそう。
ダルトン家のキャラクター造形がとてもいいです。ベンは失職中でなかなか仕事が見つからないのだが、何となくその理由が垣間見える。ああ、ダメな奴なんだろうなと。ルイーズはそんなベンを支える良き妻。SDGsとか気にするタイプ。娘のアグネスもウサギのぬいぐるみが手放せず、緊張すると呼吸困難になってしまう。みんなどことなく神経質な感じで、イライラを溜めている。だからこそ違和感を抱きつつもパティとキアラの誘いに乗った。そこに説得力があります。
しかし、肝心のパティのキャラクター造形がうまくいっていない。キャラクターとしては分かっているのだけど、その動機が見えてこない。なんのためにこのようなことをしているのか?そこが見えてこないからストーリーに深みを感じない。まあ、ホラー映画なんだからと割り切ってしまえばいいのだけど。イタリア旅行中の陽気な好人物とイギリスの田舎での無神経で少し不快な人物を違和感なく演じ分けているジェームズ・マカボイはとてもいい仕事をしているとは思うけど。